ワールドトリガー「Re:自戒の絆」   作:悠士

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30話 長い旅路の果て

 

 真っ二つにされてもまだ機能しているらしいが、浮遊はしていない。だけどそんな状態で入り口を開けることなんてできない。失敗する可能性が高い

 じゃあなんで投げたんだと、レプリカが飛んでいく先を見ると敵の遠征艇の中が見えた

 

 もしかして修は、レプリカを敵の船に投げてシステムにハッキングして強制的に撤退させようとしているのか!?

 

「っ!!……頼んだぞ! レプリカ!!」

 

 時間を稼いでとだけしか聞いていなかったから、こんな大胆な方法を思いつくなんてすぐには分からなかった。修は役目を終えた。あとは投げ飛ばされたレプリカがハッキングできるかどうかだ

 

 足を止めない敵に誰か援護してほしいと願った。それが叶ったのかは分からないが遠くからの援護射撃が行われた

 

「邪魔な壁をどきなさい!」

 

「っぐ…悪いが意地でも嫌だね」

 

 壁の維持とキューブ化のトリガーにさえ注意を払っていればいい。一番邪魔なオレを消したいはずで、その予想は当然のように当たって棘が伸びた。棒だけ掴んだまま体を横に移動させて回避しようとするが、数本が肩付近に突き刺さった

 

「っく……ならこれで」

 

「しまっ…!」

 

 棘でだめなら強制的な移動と、足元に大きな黒い空間が出現した。気付いたときには地面の感覚がなくなり落下をした。棒を掴んで耐えようとするが、空間が閉じて切断されてしまった

 

「っ………くっそーー!!」

 

 本部西方面に飛ばされたオレはもう何もできない。防御モードにしたから狼は全て消えた。膝が折れ地面を殴る

 

「いつも……いつもそうだ!…オレは間違って……失ってばかりだ……どうすれば正解だったんだ!?」

 

 サイドエフェクトが発現して強くなったと勘違いし、数時間しかいなかった友を、母と父を失った。素性を隠して生活していた所為でクラスメイトからも敵視される。一体どうすればこんな辛く苦しい思いをしなくて済むのか分からなかった

 

『護くん……敵は撤退したわ。修君のおかげよ』

 

「うさみ……さん……」

 

 泣き言を言うオレに支部にいる宇佐美から連絡が来た。レプリカは無事ハッキングで来て敵を強制的に撤退させたらしい

 

『だがまだトリオン兵はいる。護、まだ戦えるなら最後まで、何もできないオレたちの代わりに頼む』

 

『修は幸いまだ生きている。重傷だが本部の医務室に運ばれてた』

 

「っっ……生きて……千佳、千佳は!?」

 

『無事よ。修君が替え玉をしたおかげで千佳ちゃんは攫われなかったわ』

 

 修は怪我を負ってしまった。助かるかどうかもオレにはわからない。医者じゃないしそんな知識なんて持ち合わせていない。そしたらとりまるがすぐに教えてくれた

 修は生きている。しかも千佳も連れ去られずに済んだ。どうやら替え玉を持ってずっと敵を欺いていたらしい。本物の千佳を家の植木に隠して、キューブ化の性能を使って偽物を作ったっていう事なんだろう。追い詰められた状態でよくなそんな細い橋を渡るような作戦を思いついたものだ

 

「っ……分かった。オレも、最後まで戦うよ」

 

 修は自分の役目を最後まで貫いた。なら、まだ戦えるオレはボーダー隊員として、玄界(ミデン)を守りたい願いのために戦わないといけない

 

 そのまま西へ向かい警戒区域を突破したトリオン兵の排除を始めた。市街地へ襲うように命令を出されてから放置されているため、倒しても倒しても遠くまで行ってしまっている

 

「うわぁぁー……た、助けてくれー!」

 

「頭を守って!!」

 

 20分かけて西方面のトリオン兵の大半を片付けた。中には新型も混ざっていた

 周囲には目の前のバムスター1体だけみたいで、捕まえようとしているところを攻撃モードにしたガルディアンで目を縦に斬り下ろす

 

「たすか……っひ、お…おまえはネイバーの!」

 

「っっ……早く避難所に向かってください。この辺は粗方倒しましたがまだ」

 

「そんなこと言って、ワシらを纏めて殺すつもりなんだろ!」

 

 オレが誰なのかおじさんは気付くとまた怯えだした。警戒区域を出れば分かりきっていたことだけどやっぱり辛い。それでも説得を続けようとしたとき、少し離れた先で瓦礫に埋もれた人を助けようとしているのを見つけた

 

「どうしました?」

 

「お、おまえ………」

 

「…どこが痛いですか? 手足の感覚は?」

 

 ネイバーが来たと死を覚悟されたけどオレにそんな意思なんてない。とはいえ言葉で伝えて信じてもらう以外にできることなんてない。そんなことより60代に見えるおじさんが片腕だけ伸ばした状態で瓦礫に埋もれていた。意識はハッキリしているようで足が痛いという

 瓦礫を見ると下手に動かせば潰れる可能性がありそうだった。どうするか少し考えた結果防御モードにしておじさんの体の周りに棒を斜めに伸ばす。昔の時代で木の棒で作った骨格にわらを被せて家にする、イメージとしてはそんな感じだ

 

「合図したらこの人の手を掴んで引っ張ってください! お願いです、協力してください!」

 

「……」

 

 ネイバーに言われることに抵抗はあるらしいが渋々協力してくれた

 救出するために棒を伸ばす。いきなりだとどこかが崩れて被害を増やす可能性もある。だから慎重にゆっくりと。瓦礫が持ち上がり顔が見えてきた、胴体も見えてある程度隙間もできたところでもう大丈夫だろうと合図を出して引っ張ってもらった

 

「っぃ……ありがとう、君のおかげで助かったよ」

 

「いえ、ボーダーとして当然のことをしただけです」

 

「それはどうかな?」

 

「え?」

 

「私は教育関係の仕事をしていてね。だから嫌なことをしてきた相手に平等に手を差し伸べ助けるなんてことはごく稀なんだ。君は、いい親御さんの下で育ったね」

 

「っ………はい」

 

 初めて、正体が知られてから褒められた。奇跡でも起こったのかもしれない

 おじさんは怪我をしているから簡易的な治療をして病院へ向かうらしい。オレはまだ残っているトリオン兵の排除のために立ち上がるが、トリオンが残り2%くらいだった。そして1%へと減った

 

 後ろを振り向いて他の人たちに肩を貸してもらい歩き始めた。最後の最後でオレは、誰かを助けて感謝された

 

『護』

 

「迅さん?」

 

 最寄の病院へオレも行く必要があるなと思ったとき、迅さんから通信が着た

 

『おまえはよく頑張った。おかげで今回の侵攻を防げた。だから………おまえはもう自由だ』

 

 神妙な声で「自由だ」と言われた。その言葉を聞いてオレは意味を理解した

 

「自由………そっか。うん、わかった。オレもありがとう迅さん」

 

『…………こんな結末しか選べなくて済まないな。護』

 

「十分だよ。最期に感謝されたんだ、報われたよ」

 

 こんな結末しか選べなくてというけど、これが最善の未来だったってことなんだから仕方ない。未来が見えるからといって犠牲なしの綺麗な物語なんてないんだ

 迅さんと通信を終えて今度は本部と繋げた

 

「叔父さん」

 

『護か。そっちの状況は?』

 

「西方面は粗方倒した。でもまだ残っているから少し応援がほしいところ」

 

『そうか、すぐに向かわせる』

 

 これでもう大丈夫だろう。残ったトリオン兵は来てくれる部隊に任せよう

 

「叔父さん。いままでありがとうね」

 

『何を言っている。礼を言うならこちらのほうだ』

 

「…ミデンに来て不安なことがいっぱいあったけど、叔父さんたちと会えてよかった。何もかも知らないオレとロイは安心できた」

 

『…護? 急にどうしたんだ?』

 

「オレ……いっぱい罪を犯したから罰を受けなくちゃ、いけないから……ボーダーの人たちにもいっぱい迷惑、かけてしまったし』

 

『悪い冗談はよせ。いまは―』

 

『こちらこそ、ボーダーとしてもこれまでの尽力に感謝する』

 

 叔父さん言葉を遮って城戸指令がねぎらいの言葉をくれた。迷惑だったかもしれないのに。泣いてしまいそうだ

 

『護! すぐに病院に行くんだ! 罰を受けないといけないとしても諦めないでほしい!』

 

「ごめん………それは、無理……みたいだから。だから……ありがとう、さようなら」

 

『まも――』

 

 他にも色々言いたいことはあった。感謝したいこともいっぱいあった。だけどそれを全部言っていると時間が足りなくなる。だから5文字の言葉に全部込めて別れを告げた

 

 その瞬間トリオン切れになりトリオン体が消失し、生身の体へを戻った

 

「っっ!!……ごほっ」

 

 痛い。腹に受けた傷を感じるようになって苦しい

 夕日が赤くなってて血みたいだなって思ったときには顔が痛かった。どうやら倒れたらしい。もう手も足も力が入らない。痛みもなんだかなくなってきて眠たくなった

 

「――――!!」

 

「――! ―――!」

 

 なに言っているんだろう? 全然聞こえない。というか疲れたんだから眠らせてほしい

 

「護」

 

「起きなさい、護」

 

「……父さん? 母さん?」

 

 気が付けばオレの家にいた。目の前には父さんと母さんがいた。死んだはずなのにと思い出したときには気付いた。オレも死んだんだと

 

「おまえはよく頑張った」

 

「そうよ。護は父さんと母さんの自慢の息子よ」

 

「っっ………ご、めんなさい……ごめんなさいぃ…」

 

 頭を硬い手で撫でられ、柔らかい手で頬を挟まれる。感触も声もオレの知っている父さん達だった。自慢の息子と母さんは言うが、オレはいっぱい人を殺したことで自慢じゃないと泣いてしまう。胸を張って頑張ったなんて言えない

 

「謝らなくていいのよ? もう護は頑張らなくていいのよ」

 

「そうだぞ。もう辛いことから逃げたって誰も怒らない。だから、笑え」

 

 いっぱい頑張った。いっぱい辛いことに耐えた。だから楽になりたい、楽にしてもいいと母さん達は言ってくれる。ボロボロのオレは疲れたから、そうすることにした

 

「うん! そうする!」

 

 迅さんも言っていた「自由だ」と。だからもうココで父さん達といることにした

 

 この死後の世界で父さん達といつまでも。だってこれがオレの望んでいた父さんと母さんと過ごすのが、オレの幸せなんだ




護くんが……護くんがぁぁぁーーー
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