「お……お待たせしましたご主人様」
注文を受けた小南がトレーに乗せた品をそれぞれテーブルに置いた、心なしか小南の顔が赤い気がするのはオレが注文した「メイドちゃんのスキスキパウンドケーキ」のせいだと思った
「そ……それじゃメイドの私が…………ぁ……
そう言ってまず陽太郎のオムライスに「♪ようたろう♪」と書いた
「おおーこなみすきだぞ」
陽太郎は親指を立ててサムズアップをした、それに「はいはい」とメイドらしからぬ返しに烏丸が指摘するがそれを無視して今度はオレの隣に来た
「ご……ご主人様、何を書きましょうか?///」
陽太郎のオムライスに書くときよりさらに赤くなった顔に大丈夫なのかと思ってもそれを口に出来るほど余裕が無かった、それは――
「ほら言わないとダメッスよ護」
「ッ…………『スキ』と………『?』ッス////」
「…………一応聞くけどそれ罰ゲーム?///」
確認する小南にオレは顔を俯かせながらコクリと頷いた、いつ暴れてもおかしくない小南に烏丸は加減を知らないのか追い討ちをかける
「チャンスですよ小南先輩、護に――」
「とりまる!!あんたは黙ってて!!」
咄嗟に大声を上げたから教室にいるお客や控え室にいたクラスメイトまで気になって覗いてきた
「と……とりあえず書くから!!」
持っていたケチャップをチョコレートソースに持ち替えて1枚目に『スキ』、2枚目に『?』を書いた
「それではご主人様、ごゆっくりどうぞ」
可愛げも無い感じで言うとさっさと奥の控え室に帰ってしまった
「やりすぎだ京介」
「すんませんッス、でも小南先輩ももう少し素直になったほうがいいと思ったんですけど」
「ん?なんの事ッスかとりまる?」
烏丸の言ったことに何のことなのか、疑問を浮かべながらパウンドケーキを食べるオレは聞くがそれを見た木崎は「……確かにな」と溜息交じりで答えた。小南が赤くなる原因であることを知らないオレは蚊帳の外に居る気分だった
(このケーキおいしい)
4人は食べ終わると慣れない空間に長居はしたくないというのが本心で会計を済ませて次は展示コーナーに向かった。1-6組は写真展の様で文化祭の準備の様子を撮った写真を並べられている、1枚1枚に一言書かれていたりセリフのように吹き出しが書かれたり見てて面白そうだと思った
「来年にはオレも高校で文化祭ッスか~楽しみッス!!」
まだ楽しむ側のオレは来年から通うことになる高校での文化祭が今から楽しみになってきた
今度は写真部の展示写真を見ると同じ文化祭の様子を撮っているという意味では同じだが違うのは歴史だった。写真部は過去に撮られた文化祭の様子の写真を厳選して「清蘭祭20年の歩み」という題目で展示されていた
映っている写真には今と違う本当に歴史を感じさせる展示物や撮影の様子、校舎の増改築など様々だった
「さて、次はどこに行きますかね?」
「あ……桐絵ちゃん」
写真部の展示を見て次はどこに行こうかと迷っていると休憩中なのか友達らしき女子と楽しそうに歩いてきた、服装がメイドなので直ぐにわかった
「ぅ……護……」
「すぐに護の名前を出す辺りやはり――」
「とりまるアンタさっきから五月蝿いよ!!」
「いや、桐絵ちゃんのほうが声が大きいッスよ……」
さっきのメイド喫茶でも小南は声を上げて注目を浴びた、慌てたり怒ったりすると大声を上げてしまうのは昔からのクセだ
「……ん?立ち止まっているのは邪魔になるからここに入るか?」
木崎が行ったのは「ドキドキ恐怖のパニックロード!?」といういかにもアレを連想させるタイトルにオレは青ざめた
「え?………マジで?…………コレって……アレ……だよね?」
「もしかして護、コレが怖いのか?以外だな」
「ちっげぇよ!!」
「じゃあいいッスね、え~とあっ」
つい売り言葉に買い言葉で答えてしまったオレは直ぐに後悔してしまった、けど男である以上「お化けが怖い」なんてところは見せたくなくて意地になってしまった
入ろうと入り口を見た烏丸はプレートに書かれている文字を見るとコレはチャンスかと思った
「木崎さんここ『2人で1組』しか入れないみたいですよ?どうします?」
「そうか……ならオレは陽太郎と入ろう後は……」
「アタシこの人と入りたい!!えーと……」
「烏丸です、よろしくッス」
木崎も少しくらいはいいだろうと烏丸の考えに乗り陽太郎とペアを組む事にした、烏丸と組んでもよかったがそれだと陽太郎と小南の友達と組む事になってしまう、
烏丸が組むペアを小南かオレか迷っていると即座に友人が名乗りを上げた、これも予想通りで軽く自己紹介すると列に並んだ
最後に残ったオレは自然と小南と組む事になった
「どうしたスか桐絵ちゃん?早く並ぶッスよ?」
「わ……分かっているわよ!!///」
オレは小南も怖いのか再び赤くなった顔に風邪でもあるんじゃないかと不安になった
「お次のお客様どうぞ」
20分並んでようやく小南…オレペアの番になり100均で売っている小さいペンライトサイズのブラックライトを1本渡され暗幕をくぐって教室の中に入った。もうすでにオレは帰りたい気分だった
「……護、怖いなら怖いって言いなよ、そんなに震えてたんじゃこけるわよ?」
「べ……別に怖くなんか………ただ……寒いだけだよ!!そう、寒いだけッス!!」
「あのね………言うほど寒くないわよ?」
「ィイヤアアァアア!!?何!?何!?今!冷たいのが!!?」
小南の手を握りながら歩いているとベニヤ板で飾られた墓やブラックライトに反応するインクで描かれた絵が人魂に見えたり最初っから震えていた、そんな時に首にピタと「ナニか」が触れてそれがヌメっとして冷たいと感じると思わず叫んでしまった
「五月蝿い護!!ただのこんにゃくでしょ!ほら!!」
ブラックライトは道を照らすための道具じゃないからよくは見えないが、照らされたものを恐る恐る見ると小南の言うように確かにお化け屋敷の定番である「こんにゃく」が吊るされていた
「………ぅぇ………ぁ……ほんとだ」
こんにゃくなんかであんなみっともなく叫んでしまった自分を何度も切ってベイルアウトさせたかった
先に行く小南に手を引かれながら進むと今度は後ろから「何か」が聞こえた
「ねぇ………置いていかないで………………ねぇたすけて……………ねぇ」
「ッッッ!!?」
そんな言葉が小さく聞こえ咄嗟に手に力を入れてしまった、「痛い!今度は何!?」と半ば八つ当たりとも言葉をオレに言って振り返ると「何かいる!?」と言ってきた
ライトを後ろに向けるが何もいない
「?………何もいないじゃない?空耳じゃないの?」
「ねぇ…………置いていかないで…………ねぇ、たすけて…………ねぇ」
「いる!!?絶対いる!!いるって!!」
オレがそう言っても後ろには何もおらず上や左右にもいない、最後に下を照らすと顔の半分が焼け
しかも下半身は膝から下が無い
「「ッッ!!?ィイヤアアァアァ!!」」
流石の強気だった小南もここまでリアルに再現された死体は叫ばずにはいられずオレの手を持って先へ急いだ
「はぁ……はぁ…………なんでアソコまでリアルなのよ?本気で怖かったわ…………大丈夫護?」
「ッッ…………グス……」
ここまで本気で泣くなんて親が殺された時以来だった、しかもホラー系がここまでダメだったなんて思わずオレにもこんなに苦手なものがあるんだなって、そんなことを思った
「大丈夫だから、最後までアタシがちゃんといるからもう少し頑張りなよ」
「……ぅん………わかった……ッス」
もうオレには意地を張るなんて事は頭には無く早くここから出たいと一緒にいる小南に頼った
(女の子に頼るなんて……情けないッス)
2人がいた所は休憩地点なのか足元にライトが置かれていて周囲を淡く照らしていた、先を行くと今度は豆電球が中から照らしている提灯が置かれていて机には何かが書かれていた紙があった『お化け屋敷は怖ったですか?YESorNO』だった
「コレだけ?何か謎解きみたいなのがあるのかと思った」
謎解きなんてやめて欲しいとおもった、もし解けないと出れないとかだったらすごく困るからだ。子供が道端でお漏らしをしてしまうくらいに
アンケートに「YES」と書いてお化け提灯の口に入れると隣に置かれている箱にカンッカンッと音がして蓋らしきものを開けるとオレンジ色のピン球があった
何か意味があるだろうと持って出口に行った、当然襲ってくるお化け役の人達に度々驚き隣で何度も叫び声を聞いた小南は耳が痛くなった
「ほら護、もう出口だよ」
「……ホントだ…………」
小南の言うとおり前を見れば光が漏れて出口まで来たんだとやっと安心した、暗幕を潜ると先に行った木崎たちが待っていた。陽太郎は木崎に抱っこされて泣いていた
(やっぱり陽太郎も怖かったんだ……)
5歳児に仲間だと思ったオレは酷く小さい人間だと自分で思ってしまった
入り口の様子でオレがホラーが苦手なのは分かっていたが泣くほど怖いなんて思わず木崎と烏丸も驚いてしまった
「大丈夫か護?」
心配する木崎が聞くと首を横に振って大丈夫じゃないと、
「小南先輩そこで球とコレが交換できるッスよ」
烏丸が示した方を見ると勉強机に1人の生徒が立っていて、垂れている紙には『オレンジのピン球と飲食類お1人様1品タダ券交換です』と書かれていた
そこまでするなんて手が込んでいると思ってたら小南のクラスがやっているメイド喫茶でもタダ券を持ってきた客は何人か見た。何故全員じゃないかというと最初に入り口で「2人1組」と書かれていた。つまり1人では入れずタダ券が手に入らない
お化け屋敷→メイド喫茶→お化け屋敷→メイド喫茶のタダ券を得る為の無限ループをさせないためだ、もちろんお化け屋敷もお金は取る、500円ほど。メイド喫茶はもっと掛かるけど
そのあと中庭の飲食スペースで一行は移動した、オレと陽太郎を落ち着かせるためだ
「………昔………父さんがホラー映画を見てて…………子供だったオレは丁度タイミング悪く捕食しているところを見てしまって…………それ以来……ホラー系が苦手で…………今でも………」
泣きながら言うオレにそんなことがあったら確かに苦手になると木崎と烏丸と小南の3人は納得した
「でもそれはフィクションでしょ、現実に起こるわないから少しは平気になるでしょ?」
「それは……分かっているんスけど………でも……でも」
「あ~もう分かったわよ、ほらもう泣くなって男なんでしょ!」
地雷を踏んでしまった小南は何とかしてオレを宥めようと必死になった
オレが見たホラー映画とはゾンビ映画として有名なもので、その頃は1作目の人間を食べているところだった、音も肉の表現もあまりにリアルに作られていてその時は泣きながら母親に抱かれて寝た
大丈夫だと思ってもやはり恐怖心が勝り今でも見ることを極端に避ける、もちろんゾンビ系以外にも幽霊なども苦手だ。TVから出てきたり、知らない番号から鳴る携帯とか………
大分落ち着いたオレと陽太郎はもらったタダ券で何かおいしいものを食べようと立ち上がった、そのとき丁度小南とその友達も休憩時間が終わるからと自分達のクラスに戻って行った
「護……ホ――」
「とりまる、帰ったら『ちょっと』付き合え」
「………拒否権は?」
「あると思うッスか?」
「……分かりました、けど容赦はしないぞ?」
「安心するッス、春風の錆びにしてやるッスから」
オレの専用のトリガーなら勝機はあると思っていた烏丸だがまさかここまで怒るなんて少し後悔しているだろう。それにまた黒星が増えると思った、烏丸とオレの対戦戦績は29勝4敗3引き分けとオレがかなり勝ち越している、引き分けも苦し紛れの反撃で得たものだ
その後陽太郎は近くにあったたこ焼きが食べたいと言いタダ券を使って買った、オレはとりあえず甘いもので落ち着きたいから(主に烏丸との
(ほど良い甘さッス)
次に一行が向かったのは道場、ここでは剣道部、空手部、柔道部がそれぞれゲーム形式の出し物をしている
剣道部は参加者が竹刀を持ち部員から竹刀を落として3点取るか面…胴…篭手のいずれかに1発当てて1点取る、5分の制限時間内にいかに多くの点を取れるかというゲームだ。獲得した点数に応じて景品が貰える
空手部と柔道部は参加者の攻撃に部員が避けるもので当てた回数だけ点数になる
点数票を見たら剣道部が5点で空手部が2点、柔道部が3点だ。得点は20点が最大で景品は某リンゴマークが有名なタブレット端末(64GB搭載型)だ。因みに各クラス…部に5万円の予算が与えられている、武道系の部活がそれぞれ出し合って景品を買ったのだ
「おお~アレ欲しかったんスよね!!」
「お前が出たら部員が可哀想だぞ?剣の腕で勝てるやつなんて本部長か太刀川くらいだろ?」
現在本部のソロランク戦で1位の太刀川は忍田の弟子でその実力は折り紙付きだ
「まぁいいじゃないッスか、今日は文化祭なんですし誰でも参加可能なんですよ?たとえそれが中学生で剣が強くても良いんですから」
「……確かに京介の言う事も一理あるが………やるからには全力でいけよ」
「了解ッス!!」
「まもる、まけたらゆるさないからな!」
烏丸の後押しで木崎からの許可も下りて意気揚々と参加申し込みをしに受付に向かった
「それではこの竹刀を持って前へどうぞ」
オレの順番になると竹刀を受け取ると前へ出る、学校でも一応剣道部に入っているから靴下は脱ぐと防具を身に付けた剣道部員が出てきた
なんで防具を付けているかというと部員は攻撃を一切しない、その代わり点を取られないようにしないといけないし怪我もしないために着けている
旗を片手に持った審判が「スタート」と言うと反対の手に持っていたストップウォッチのボタンを押した、制限時間は5分
オレの初手は竹刀に当てて体制を整える間に篭手と胴を1回ずつ当てて2点ゲット
「まずは2点ッス」
開始して5秒も経たずに竹刀を弾いて篭手と胴で点を取りに来るオレに中学生だからと手加減は出来ないと、相手になっている剣道部員はいつも試合に出るときみたいに集中したようだ、麺の奥の目が鋭くなった
「行くッスよ?」
そう言うと今度はオレは1歩踏み込むと相手の竹刀を1回転して上に飛ばした、剣道の技で「巻き技」という。
技をかけるタイミングが難しい巻き技をオレは簡単に繰り出して驚いている部員にすかさず面…胴…面…篭手…胴と連続で当てていき5点、それと竹刀を落としたから3点足して8点取った事になる、さっきの点と合わせれば10点。1分経つか経たないくらいでこれまでの最高得点の5点が軽く超えた
「竹刀拾ってもいいッスよ、そうじゃないと一方的で不公平じゃないッスか?まぁこっちしか攻撃が出来ない時点で公平じゃないッスけど……」
剣道部員が竹刀を再び持って構えるとまたオレが前へ出て面…胴…胴…篭手…胴…面…篭手…篭手…胴…面と、本当に中学生なのか怪しいくらい怒涛に攻めてあっという間に10点取られて合計20点を取った
「そ……そこまで!!え~……と得点が20点に達しましたのでゲームは終了とします」
残り2分30秒という所で審判が終了を宣言すると見ていた観客達は一斉にオレに拍手を送った、そんな中オレは審判に言った
「あの~残りの時間でこの人と試合してもいいッスか?」
「あ……えっとそれは………」
「いいわよ、残りの時間で今度は1本でも取ってみせるわ」
どうすればいいのか分からず困惑する審判に代わってオレの提案に剣道部の人が乗ると言った、サイズを聞いて近くに部員に予備の防具を貸してもらい今度はちゃんとした試合を始めることにした
「試合は1本先取でいい?」
「いいッスよ、本気できてほしいッス」
「当然よ」
それを最後に2秒ほど睨み合うと審判が「始め!」の合図と共にお互い上段からの振り下ろしで竹刀同士がぶつかり合った、すぐに離れるとオレは左下からの切り上げで篭手を狙ったがそれを竹刀で防がれた
オレの竹刀を上へ打ち上げて胴を狙ってきたがバックステップでギリギリ避ける
(っぶない!!………この人結構強いッスね……)
お互い距離が開くと構えなおした
「もしかして護が負けたりなんてしないですよね?」
「それはないだろ、トリオン体でないだけでなく防具の重さがあっても護は強い、油断でもしなければ」
「なにをいう!まもるはつよいんだぞ!ぜったいにまけないんだぞ!」
離れたい位置にいる木崎たちの会話が聞こえた、陽太郎の言うとおりオレは強いから負けないと思っているとそろそろ決着がつきそうだった
相手の突きを竹刀の横を打って払うと返す要領で胴へ打つ
「1本!!」
審判が旗を上げて終わりを告げると再び拍手が沸き上がった
「ありがとう……君強いわね、名前はなんて言うの?」
「どうもッス、忍田護ッス。え~と………」
試合が終わるとそれぞれ手を差し出して握手をした
そのあと景品を受け取り最後に勝負も出来てオレは気分上場だった
これで帰った後の