マルヒト:姉妹
そういえば、俺は今、裸であった。
美少女になってしまったというあまりの出来事に気づいてしまい、それどころではなかったが、見事なまでのおっぱい――自前であるというのがどうにも残念でならない――に冷静さを取り戻した俺は、とりあえず、この部屋で意識を覚ましたときに寝かされていた寝台から、シーツを引ったくり、それで裸体を隠した。もう少し鏡の前にいてもよかったが、さすがにこれが自分の体であると気づいた瞬間から、どうにも興奮は形を潜め、落ち着きがそれを上回っていた。
「さて、どうしたものやら」
眉尻を下げて、困ったアピール。いつもならこうしていれば気のいい友人がなにかと相談に乗ってくれていたりしたが、今は彼もいないので、もちろん問題は片付かない。
ということで、とりあえず、部屋を一通り漁ってみることにした。
そして発見したのは、なにやら一部ごとに写真まで貼られたカルテらしきものと薬品、器具を含めた医療道具全般、そして俺が今腰掛けている寝台。
その事情から察するに、差し詰め医務室といった体だろう。病院の一室というには、あまりに多くの道具が揃いすぎているし、寝台も一緒に備え付けられている意味がわからん。それも一つだけというならわかるが、三つもだ。あまりに部屋の使用目的が、病院の一室にしてはまとまりきっていない。
まぁ、そんなことはさておき。
問題は、この医務室がいったいどういった組織のものであるか、という点だ。
どこぞの学校のものであればいい。学校の保健室で俺が寝ているというのも意味のわからない話ではあるが、納得はできるだろう。
どこか企業のものであっても、同様だ。
しかし、これがどこぞの世界征服を目論む謎の某国際的秘密企業のものであったりしたら……はて、その場合、俺は正義の心に目覚めればいいのか、それとも悪について仮面ラ○ダーと世界を半分ずつ分かち合えばいいのか、いったいどっちだろうか。
…………うぅむ。
「――――ハッ!?」
いや、いや。うん、こんなことを考えている場合ではない。
ではないが、やはり、どうしたものか。困ったものである。
と、そんなときだった。
この部屋と外界とをつなぐ扉が、唐突に開かれた。
木製のそれは、先ほど俺もシャバの空気を吸ってやろうと手をかけたが外側から施錠されていたのかびくともしなかったので、気にはなっていたのだが、放置せざるを得なかったのである。
施錠されていたそれが一人でに開くはずもなく、当然、扉を開けた誰かは、俺以外には誰もいなかったこの部屋の中へと入ってくる。
煤竹色の長髪を揺らしながら入室してきたその誰かには、なんというか、非常に見覚えがあった。
頼りなさげに下がった眉尻、相手の心を見通すような澄んだ瞳、その下には若干ながら隈が見て取れて、よくよく見てみれば、普段は血色のいいはずの顔も少しばかりやつれているような気がする。
見るからに不安を滲ませた彼女は、顔を伏せていて、寝台に俺が座っているのにまだ気づいていない。
だから。なにがだからなのか、というかそもなにが彼女を不安にさせているかもわからないが、とにかく安心させてやりたくて、気づけば俺は、彼女の名を呼んでいた。
「神通」
「っ……!?」
その声に、弾かれたように顔を上げた彼女は、瞬間、華のような笑顔を浮かべて、俺に飛びついてきた。
「――――姉さん! 川内姉さんっ……!」
ああ、そっか。
鏡を見たとき、妙に胸をくすぐった既視感。あれの正体がわかった。
そうか。
俺は、
書きたいことだけ書いてるので、たった千文字の中に矛盾が生じることがあるやもしれませんが、そのときは優しくご指摘ください。苦しい言い訳を考えますゆえ。