「軽巡洋艦、川内、入ります」
ノックの音が室内に響いて、そのすぐ後、扉を開いてこの執務室に入室してきたのは、外見はこれまで何度も目にしてきた川内そのものの、少女であった。
「呼びつけて悪いな。体のほうは?」
彼女がつい今朝方に目を覚ましたのは、この狭い鎮守府ではすでに誰もが知るところだ。提督たる俺も、もちろんその例に漏れず。
ゆえ、まず、彼女の容態について言及した。
三日前に彼女が倒れたのもこの部屋だしな……。
同じ轍は踏まんぞ。
「とりあえずは大丈夫みたい」
心情が顔に出ていたのか、どこか優しい笑みを湛えた川内が、三日前と同じ声で、そのように答える。
「結構。じゃあ、さっそく本題に入ろうか、川内……いや、お前は何者だ?」
すでに話は神通と那珂から報告が入っていた。
寝たきりだった川内が意識を回復させたことに加え、その川内が、自ずから自身のことを川内ではないと言い始めたことも。
「その出で立ちで自分は川内じゃねぇってんだから、なにか明確な根拠の下に言ってるんだろ?」
思わず、詰問調で迫るが、当の本人は涼しげな顔で未だにあの優しげな笑みを浮かべている。
それになんとなく気勢を削がれるが、構うものか。
「だとするなら、今すぐにその根拠を示し、その上で如何なる理由からそんなことになってんのか。お前にはそれに答える義務がある」
なぜなら、彼女をここに呼びつけたのは俺だが、俺に話があると伝えてきたのは彼女だからだ。
鋭い視線を意識して、それを持ってして眼前の彼女を睥睨する。
もし彼女の答えに俺が納得しないなら、彼女が艦娘で、俺が提督である以上、如何様にも処断は選べるのだ。
だから、さぁ、早く俺を納得させろよ。
そんな俺の心情とは裏腹に、彼女は、笑みのまま、言葉を紡ぎ始めた。
「私は。……ああ、こりゃいい。うん。私は、川内。川内型軽巡洋艦ネームシップ、川内。そして、人間の意識を宿した特殊な素性の艦娘」
「…………」
初っ端から、俺はたまらず、閉口した。
「人間だった頃の名前は、――――。たぶん、調べても戸籍もなんも出ないと思うよ。だって、ここ、私が暮らしてた世界とはだいぶ違うみたいだから」
たぶん、別世界ってやつなんじゃないかな。
なんてことのないように呟いた彼女の言葉に、俺は提督になって以来感じたことのないような頭痛に見舞われていた。
――――あなたは、
――――知った上で、私たちの姉でいてくれるのなら、私からは特に申し上げることはありません。
――――強いて言うなら、そうね……よろしく、川内姉さん。
――――那珂もね、特段思うところはないかな。
――――だって、川内ちゃん、あんまりいつもと変わんないよ?
――――だってほら、那珂たちのこと、一番に考えてくれたでしょ?
彼女たちが受け入れてくれるのなら、俺……いや、私も、真っ向から立ち向かえる。
怖いものなんてない。
だが、今は違う。あいつらの
――――
俺は自身でしたその決意に、なんともこそばゆいような、あるいは浮き足立つような、そんな気持ちになった。
だから、とりあえず、こんなことを言ってみたのだ。
「なぁ、提督。とりあえず、夜戦しようよ」
中の人の名前、登場予定はこの先もありません。
名前考えるの面倒だったとか、そんなことはないですよ。。?