もしもZ戦士たちが、異世界の怪しげな組織に目をつけられたら。 作:レイチェル
~???~
その部屋に一人の人物が入ってきた。おかっぱの緑色の髪をした少年だった。ただその少年は美しく、時折女性に間違えられることもある。
「今日からあなた様のお世話をさせていただきます。『ザーボン』といいます。よろしくお願いしますね、フリーザ様。」
その声にフリーザは返事をする。
「・・・・・・・うー?」
|フリーザと呼ばれたまだ五歳にもなっていないであろう子供は《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》意味がよく分からなかったらしく、首をかしげている。
ザーボンはフリーザの遊び相手と教師の役目を
「フリーザ様、お勉強の時間までまだだいぶあります。それまで私と一緒に遊びましょうか。」
「・・・・・・あそぶって、なんだ?」
このころのフリーザはまだ遊んだことがない、いや、
けど、これはいけない。宇宙の支配者がこんな話し方ではいけない。なら、そのことを教えるのがザーボンの、自分の役目だ。
「フリーザ様、宇宙の支配者の一族であるあなたがそんな言葉を使いしてはいけません。『遊ぶとはどういう意味でしょうか』というのですよ。」
「うー?」
ザーボンは眉をひそめた。多少予想していたとはいえショックだった。
普通の子供ならば知っていることをあまりに知らなすぎる。
だが、それは当然といえば当然といえた。フリーザは宇宙を支配する最強の一族の一人。だから一族は物心つくまで自由に動くことが許されない。一族の立場上、会える者も限られている。
戦闘力に関していえば父親のコルド帝王や兄のクウラに劣るとはいえ、生まれた時から戦闘力は三千を超え、今では一万二千にもなっている。本人にその気がなくても、周りの人を傷つけてしまう。
「『遊ぶ』というのはですね、楽しいことをするという意味なのですよ。」
「たのしい、こと?」
「フリーザ様、そういう時には『楽しいこととはどういう意味でしょうか?』と聞くのですよ。」
「・・・・・・・うー?」
言っている意味が分からなかったらしく首をかしげている。
「さあ、私の後に続いて言ってみてください。『楽しいこととはどういう意味でしょうか』さあ、どうぞ。」
「・・・・・たのしいこと、とは、どういういみ、で、しょう・・・・・か?」
「それはですね・・・・・・・・」
ここでザーボンははたと気が付いた。言葉遣いを気にしすぎていて、自分も遊ぶ、楽しいことの意味を知らなかったからだ。
フリーザの一族が代々宇宙を支配する一族なら、ザーボンの一族はフリーザの一族に代々仕える一族。そのためザーボンは自身も子供の頃から毎日フリーザの一族に仕えるための訓練で、ほとんど『楽しく』『遊んだ』ことがなかった。
「・・・・・・・うー?」
黙ってしまったザーボンをフリーザは不思議そうに見上げた。
「・・・・・・・・・楽しいこと、というのは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
言葉が続かなかった。
そのときザーボンは思い出した。かつて自分も似たようなことを言って周りの大人を困らせたことを。だから自分がかつて言われたことをそのまま言った。
「フリーザ様、あなた様は何をしているときが一番わくわくしますか?」
「・・・・・・・う?・・・・・う~ん・・・・・・・・・・・・ごはんを、たべるとき!」
その時のフリーザは他の人と変わらない、ごく普通の子供の笑顔だった。
「フリーザ様、それが楽しいことです。」
「ごはんを、たべるとき、たのしい!」
ぴょこんと立ち上がってザーボンの周りをクルクル回りだした。
「たのしいこと、するなら、ごはん、たべる!」
ザーボンは思う。きっとこの子供は食事をする時ぐらいしか人と接する機会がなかったのだろうと。
「では、お食事にしましょうか。」
「うん!・・・・・えーっと・・・・・・・・・・・」
「私のことは『ザーボンさん』と呼べばいいんですよ。」
「ざーぼんさん!ごはん、たべる!」
「はい。今から用意しますね。」
思い出すのはそんなやり取り。その時に撮った写真を見ながらザーボンは「大きくなられた」とつぶやいた。
「・・・・・・間もなくナメック星。到着予定まであと十分。間もなくナメック星・・・・・・・・」
宇宙船に流れたアナウンスにもうそんな時間かと気付く。
これから自分はナメック星に行く。そしてそのままフリーザ様の望む世界、『異世界』へ行く。異世界など他の人が聞けば夢物語だったろう話も、付き合いの長い自分なら本当のことを言っていたのだとすぐに信じた。
そして手に持っているフリーザとザーボンが初めて一緒に食事をした時の写真を懐にしまった。
「さて、ナメック星へ行きましょうか。」
10話へ続く