俺の名前は山下 圭一、24歳。自分で言うのも何だが今の日本で一番人気のあるバンド”グリーン・グリード”のギター担当だ。
そんな俺には前世の記憶がある。いわゆる転生ってやつだ。
前世の俺はバンドマンだった。友人と高校時代に組んだのが全ての始まり、夢見て上京しボロクソに言われたこともあった。メンバー内での衝突も何度もあった。
それでも少なからず着いてくれたファンと共に小さなライブをやり続け、音楽プロデューサーを名乗る人が現れた時には、思わずメンバー同士殴りあって夢か確かめたものだ。
いよいよメジャーデビューを迎えた日に俺達を待っていたのは猛スピードで突っ込んでくるトラックだった。
もっと音楽をやりたかった…そう思いながら俺の意識は薄れていった。
で、目を覚ましたら今の人生が始まっていたって訳だ。
前世での最期の辺りは2010年代に入っていたはずだが今は1970年代。何で転生なのに過去に戻っているのかが疑問である。
2度目の人生で幸運だったのは両親が音楽に携わっていたことだ。
小さい頃から音楽漬けの毎日、死ぬ時は神様を恨んだもんだが生まれた環境を考えると少しは感謝してやっても良い気になってくる。
ただ両親にバンドを組みたいって伝えたときは辛そうな顔をしてたっけ。
本当はクラシックの道に進んで欲しかったのだろう。
それでも「やりたいようにやりなさい」そう言って送り出してくれた両親には感謝しかない。
今回の人生では驚く程簡単にデビューしてしまった。
いや、してしまった何てのは言い方が悪いがそんな事を思うのも仕方がないと思う。
何せ高校2年の春、ボーカルが勝手に応募していたオーディションの1次審査を通過したといきなり言われたのだ。
1次審査は履歴書とデモテープによる審査。そのままあれよあれよという間にデビューが決まって気が付いたらテレビカメラの前で演奏しているのだ。
何て言うか前世で散々苦労した分本当に実感がない。
俺達のバンドは自分で言うのも何だが、かなり有名になった。良い意味でも悪い意味でも。
良い意味では非常に売れたということ。デビューから4作連続ミリオンは快挙だとマネージャーが興奮しながら語ってくれた。
悪い意味と言うか俺達の格好である。いわゆるV系のメイクを施し、その上からお面を被っているのである。
「インパクトが大事!!」
そう力説するボーカルに圧されての格好であったが、デビュー当時色物扱いされたのは致し方無いだろう。
ちゃんと今では実力を認めてもらえた今ではやめても良いと思うのだが、これが俺達の代名詞という事でメイクもお面も止めることがきないでいる。
ただパパラッチを誤魔化せるという点では有能であるが。
それでも最高に充実していた、それだけははっきり言える。
そもそも何でこんな回想をしているのかというと、今俺達の乗っていたバスが燃えているのだ。
今日は恒例となった全国ツアーの移動中。仲間と談笑していた俺を襲ったのは激しい衝撃と浮遊感。
気が付いたら燃え盛る車内と動かない仲間達。動こうにも何処が痛いのか解らないくらい身体が痛く身動きがとれない。
何でこうなっちゃうんだろうなぁ…俺はただ皆と音楽をしていたかっただけなのに…
まだまだ発表してない曲が一杯あるんだ、最近出てきたアイドルの今後も見ていたかったし。凄いんだぜ?13でデビューしていろんな記録塗り替えてやがる。そしてなにより、こいつらともっと音楽がしたかった…
一回転生してるってのに未練ばっかだな俺は。
ああ…ちくしょう…もうい…しk…
…意識が浮上するような感覚。ゆっくり目を開けると徐々に焦点が合ってくる。
うん、知らない天井だな。手を動かそうとするが上手く動かない。
あの状況からどうやって助かったのかは解らないがまだ生きているらしい。
何とか視線を動かすとどうやら病室にいるらしい。
いるのは俺一人、仲間達がどうなったn ガラッ
ドアを開けて入って来た人物-マネージャーと視線が合う。
「良かった、気が付いたんだね?今先生を呼ぶからね」
それからは医者が来たり、警察が来たり、両親が来たりと様々な人が病室を訪れた。
あの事故から既に一月近く経っているとのこと。
マネージャーの話では助かったのは俺一人らしい。偶然にも窓際に飛ばされており比較的早く救助されたのが要因らしい。
「君一人でも助かって良かったよ」
そう言いながら目尻を光らせるマネージャーに俺は
「そうですか…」
そう返すので精一杯だった。
それからの事は良く覚えていない。退院するまで空いた時間はボンヤリ過ごした。
久しぶりに帰った我が家でギターに触れる。デビュー曲から順番に演奏していくが、指が震えて上手く弾くことが出来ない。指だけでなく全身を震わせて俺は声が枯れるまで泣き続けた。
あの事故から一年…一応蓄えはあったのであの日から働いてはいない。
人とも殆ど会っていない。たまに訪れる両親と未だに気にかけてくれる元マネージャーぐらいだ。
ただ音楽は続けている、と言うか自分にはこれしかないと改めて思い知った。
気が付けばいつもギターを片手に思い出の曲を奏でたり、新曲を作ったりしている。この部屋の防音がしっかりしていなければ今頃は部屋を追い出されていたんじゃないだろうか。
ピンポーン
何時もの様に演奏をしているとインターホンが鳴った。モニターに写し出されるのは元マネージャーの姿。二つ返事でロックを解除し、彼が来るまでの間にコーヒーを用意する。
「久し振りだね、元気だったかい?」
そう話す彼の雰囲気はいつもと違って少し固い気がした。
「今日も一日ギターを弾いていたのかい?」
「まぁ…自分はこれしか知りませんので」
「やっぱりもう一度デビューする気はないかい?君なら一人でも「すみません」いや、良いんだ」
彼の言葉に被せるように拒絶する。確かに音楽が好きだ。
出きることなら今すぐにでも再デビューしたいと思う自分がいる。
その反面、あいつらが居なくなったのに自分一人がステージに立つのを許せない自分がいる。以前この話をしたとき彼は「やりたくなったら何時でも言いなさい」そう微笑みながら言ってくれた。
「話ってそれだけですかね?それでしたら・・・」
「いや今回はもう一つあってね、表舞台が駄目なら裏側に回ってみないかい?」
「裏方ですか?」
「そうだ。今度独立して事務所を構えようと思うんだが、今スタッフを探していてね出来れば協力してほしい」
「・・・」
「以前言っていたよね?表には出たくないと。なら裏方として君達の後輩を世に送り出してみないかい?」
「俺は・・・俺は・・・」
「返事は焦らなくて良い。ゆっくり考えてくれ」
そう言うとすっかり冷めたコーヒーを流し込み席を立つ彼を俺は黙って見送った。
結局俺はどうしたいんだろう。自分の分の冷めたコーヒーを眺めながらも考えはまとまらない。
どれくらいそうしていただろうか。何時の間にやら俺は寝てしまったようだ。
何故寝ているのが解るのか、それは懐かしい光景を見ているから。
これは確かオーディションを通過した時だ。皆で泣き笑いみたいな顔して大喜びして、それからマネージャーを紹介されたときはガチガチでひでー顔してる。でもここから全部始まったんだよな。
目が覚めた俺は部屋の電話を手に取り、電話帳から番号を探す。かける先は-
元マネージャ-いや、これからは社長か。
彼が事務所を立ち上げるのは早くて来年らしい。その間に俺に課せられたのは海外での一年間の研修。これはまだ日本の芸能界は辛いだろうという社長の思い遣りもあるらしい。
と言うか右も左も解らないぺーぺーの俺を海外の企業が受け入れてくれるとか、社長何者だよあんた。だからこそ社長の顔に泥を塗るわけにはいかない。
寝る間も惜しんで、それこそ死ぬ気で研修に取り組んだ。
様々な交渉から演出に至るまでとことん叩き込んでいく。アホみたいに密度の高い一年はあっという間だった。
日本に帰国した俺は取り敢えず荷物だけ置き事務所へ向かう。
事務所に行く道すがら社長から聞いていた経営方針を思い出す。
メインにプロデュースしていくのはアイドルらしい。
と言うのも一人のアイドル-日高舞のせいで日本は空前のアイドルブームらしい。
俺達のバンドがいた頃は2強という形で音楽業界を引っ張っていたのだが、あの事故で俺達のバンドが消滅。すると残った彼女の独壇場になったらしい。
ただ彼女の凄いのは俺達が居なくなったことで「張り合える相手がいなくなった」とあっさり引退してしまった事だ。
2強が同じ年に居なくなったが、業界は第二第三の日高舞を狙って一気にアイドルブームとなっていったらしい。
バンドブームとならなかったのは、俺達が消えた理由が理由だからだろう。
しっかしあの生意気なお嬢ちゃんは引退してたのか、先が楽しみだったんだけどな。
そんな事を考えながら進んで行くと目的地が見えてくる。
少し古めのビル、1階は居酒屋らしい。その3階に貼られた”24”の文字。これは社長-今西さんの名前から文字って着けたらしい。
いよいよこれから俺が働く事になる24プロダクションである。今は小さいがいつか以前いた事務所より大きくしてみせる。そんな思いを抱きながら、事務所のドアくぐった。
アイドルはどこ・・・?どこ・・・?