タグにもある通り、アインズ様ハーレムルートです。
ハーレムが嫌という人は、ご注意下さい。
時系列としては、異世界に転移してから数年後。
ナザリックが大陸を侵略平定したくらいの時期だと思ってください。
タイトルから分かるように、最終的にアインズ様が結婚します。結婚します。
そういう恋愛要素が苦手な方は、ご注意ください。
第1話
そこに座する者は「死」そのもの。
生ある者はすべて、彼をそのように称することを
宝石のように輝かんばかりの白磁の
民草は、そこに座する「死」の名前を知っている。知っていなければならない。
アインズ・ウール・ゴウン魔導王、統一大陸至高帝、陛下。
この大陸世界に覇を唱える、偉大にして至高にして絶対にして超然なる不死者の王である。
執務室で政務に没頭するアインズは、一枚の書類――ビーストマン、ミノタウロス、
「“
「問題ありません。すでに各都市に分配維持できる程度の数を確保してあります」
「よろしい。未だ供給できていない各都市の衛生担当官のエルダーリッチに送っておくのだ」
「畏まりました。さっそく〈
「頼んだぞ、アルベド」
アインズはこのモンスターのとある二つの能力に着目し、各都市へと供給する体制を整えさせた。
それは、下水処理と汚物回収の能力。
都市というのは言うまでもなく、大量の命が生を営む場所。そして生命というものは、どうしても生活していく上で無視できない事情を抱え込むもので……言葉を濁さずにはっきり言えば、糞尿や生活排水、さらに残飯やゴミクズなどの世話をどうするのか、という問題である。
この世界では〈
だが、交易の盛んな都市の場合、そういった肥溜めを作るメリットがまるでない。自分の尿で洗濯するというのも貧乏人気質な考え方と忌避されている。〈清潔〉の魔法を提供してくれるクリーニング店(ただし値段はお察し)や、錬金術の一環で開発された“洗剤”などが流行しているのだから当然とも言える。
農作物は行商人が仕入れてくるものであって自分たちで作る苦労を負う必要はない。第一、そのための土地などもない。都市という人口密集地の土地相場を考えれば、公的な農耕地以外が存在すること自体ありえない。都市では様々な食糧――パンや肉、魚や果物など――が市場に並ぶ以上、麦粥や野菜だけの生活を送るものは少数だ。そんな生活を続けながら都市で生計を立てても意味がないと考えるのが普通だろう。
で、そんな都市で、この世界に住まう人々はどのように下水処理と汚物回収をこなしていたのかというと、答えは単純だ。
垂れ流しである。
家に備え付けられた穴――トイレに相当する――に糞尿を垂れ流して蓋をする。その家の格によっては個室形式に仕切られたりもするが、大抵は大きな布や衝立で間仕切られ隠されているものだ。中世ヨーロッパのように窓から外へ放り投げることだけはしないため、都市の外観は、傍目には割と清潔なように感じるだろう。
しかし、大量の水で洗い流すなどの処置がなされているわけでもないため不衛生なことこの上ないが、それが曲がりなりにも成立していた大きな理由というのが、先に述べた
彼らは意外かもしれないが、人間の都市の下水――地下水道に住み着くものが多い。その他の地域には、死体が溜まりやすい高レベルモンスターがとぐろを巻いている森や山、谷などに生息しているくらいか。彼らは時に人も襲うこともある凶悪なモンスターに違いはないのだが、彼らの領域に踏み込みさえしなければ、基本は人畜無害でいてくれる低級モンスターに過ぎない。何らかの理由で生活領域から溢れそうになったところを、冒険者などに依頼して討伐するということが稀にある程度の関係性である。率先して退治するようなことは全くしない。というより、完全にいなくなってしまっては逆に困るのだ。
その理由は、彼らは地上で人間が垂れ流した糞尿や残飯などを主たる食糧とするモンスターだからだ。新鮮な人間の死体が目の前にあったとしても、わざわざ腐敗するのを待ってから食すという習性があり、それ故に彼らは滅多なことでは人間を殺そうとはしない。そんな効率の悪いことに力を使うくらいなら、上から垂れ流される御馳走にありつこうという魂胆なのである。
しかしながら、地下水道という限られた領域内では、汚穢喰いは大した数には増えない。異形種としての寿命の長さのおかげで、子を大量に残す必然性が薄いからだ。しかし、それでは困る。
「ふふ――思い出すな。カルネ村を都市化する際には、本当に困ったものだ。いくら地表を整えたとしても、その下にあるものがなければ都市は十全に機能を発揮しないことが知れたのは、本当に良い経験だった」
アインズはありし日のカルネ村を思い返す。
5000人のゴブリン軍団は、食べる食事の量についてもそうだが、下から出てくる量もそれ相応のものになるのは想定して然るべき問題だった。たかだか100人程度の人口の村が用意した肥溜めは一日で機能不全を起こし、仕方なしに軍団は自分で自分たちの糞をブチ込む穴を掘る作業にかかりきりとなった。だが、それで作業は終わらない。5000人分の糞便が集積し乱立して何の処置もなされないというのは、衛生面において大変なマイナスだ。上位のモンスターなどであれば病気などを無効化することは出来るものだが、ただの村人たちにしてみれば病気の源が日々近場に集積され拡大され続けてはたまらない。軍団が保有する魔法詠唱者たちはユグドラシルの魔法には通暁していたが、この世界独自の生活魔法については素人同然。食糧問題と併せて、アインズはこの問題も解決しなければならなかった。
そこで思いついたのが、ナザリックで飼われていた下水施設の元締め、
女王は他の汚穢喰いの雄と番うことで、新たな汚穢喰いを大量に生み出せる特徴を持った存在である。アインズが手に入れた城塞都市エ・ランテルの下水道にいた雄を数匹捕縛して女王と番わせ、その雄たちを村の地下に置くことで、何とかカルネ村の当面のトイレ事情は解決の目を見ることができた。
汚穢喰いは成長の早いモンスターではない。普通に番い、30日ほどで見た目は蛭のような子を儲けると、子は母親の血液を吸って成長し、一年たってようやく親離れをする。それでも、完全な成体になるにはまた数年が必要となるのだ。その点、女王は一度に何匹もの雄と番え、何匹もの子を産むことができ、さらに生まれてきた子は成長が著しく早熟で、通常よりも五倍早く成体になりうる。
この教訓のおかげで、アインズは他の都市や国々を統治し整備する際に、かなり上質な汚穢喰いを各都市に供給することを可能にさせたのだ。そう思えば、この苦労は被るべくして被ったものであったと言えるかもしれない。
エンリたちのことを思い浮かべて、アインズは個人的な懸念事項を思い出す。
「そういえば……エンリの出産祝いについては、どうなっている?」
「こちらも準備は進めております」
「うむ。彼女たちの功績は絶大だ。婚儀の時と同様に、いや、あの時以上に、派手に祝ってやらないとな」
アインズは童心に返ったかのように心を浮き立たせる。アンデッド故、強力な感情は抑制されるので、今のような機嫌のいい小康状態を保っていられることは、彼にとっては最高潮の喜びを顕わにしているようなものである。これは
人間と亜人、さらには異形種が手を取り合い生きていくことができるというモデルケースとして、カルネ村――今は城塞都市エモットと呼ばれ、さらにはナザリック地下大墳墓・外地領域のひとつになっている――は、一種の解答を提示してくれたのだ。
彼女たちのおかげで、アインズの目指す理想郷は、完全に形作られていったといっても過言ではないだろう。
「しかし、何を贈ろうか未だに迷うな。宝石や飾り物は委縮させてしまうし、武器や防具は論外。結婚の時は婚礼調度一式でもびっくりさせてしまったから、今回こそ自重しておかないと……何か良い案はあるか、アルベド?」
「恐れながら。やはりここは、生まれてきた子供の服などがよろしいかと」
「服か……だが、ただの衣服を渡すというのは、褒美としては相応しくないだろう。華美にしたところであの二人が好むとも思えない。ならば華美にするのではなく、魔法的な加護もつけてやるか?〈
急に話をふられたアインズ当番は、大いに取り乱しながらも自分の意見を述べていく。
「え! えと、わ、私はその……僭越ながら〈
「ふむ。確かにそうだな。〈
「アア、アイ、アインズ様御自身の手でございますか!?」
「何か問題でもあるのか、シクスス?」
「いいえ、そんな滅相もない! とても素晴らしい御配慮であると言わざるを得ません!」
「ありがとう、シクスス。そしてアルベド。おまえたちの提案のおかげで、私の心の憂いがひとつ払われたぞ。大儀である」
「感謝などもったいない!」
昂揚し叫ぶシクスス、微笑みを深めるアルベドを見つめながら、アインズは心の内で拳を握る。
支配者としての振る舞いも、だいぶ板についてきた。さすがに転移してから数年もの時間が経過すれば、演技もこなれてきたような気がするもの。
書類整理と国璽の捺印を一通り済ませたアインズは、厳かで気品あふれる椅子から立ち上がった。
「そろそろ時間だな。少し外に出よう。シクスス、窓を開けてくれ」
テラスに通じる大窓へ、メイドはそそくさと移動した。
開け放たれた巨大な硝子窓の向こうには、庭園とも見紛う空間が広がっている。
アンデッドの
その庭園は、都市の最上層――アインズ・ウール・ゴウン魔導王が政務に取り組む王城にある執務室と、彼が簡易住居として用意させた居住スペースのある隔離塔とを繋ぐ「天の橋」だ。アインズは橋の中間地点に設けられた展望台とも呼ばれる場所に赴き、眼下に広がる都市の偉容に思いを馳せる。
そこから一望できるのは、魔導王の治める新たな魔法都市で、庭園の花々のように種々様々な存在が幸福な生を謳歌する光景。彼らが行き交う通りのすべてに掲げられているのは、アインズ・ウール・ゴウンのギルドサインを施された幕旗だ。人間種が、亜人種が、そして異形種たちが市街を往来し、市場や興業などがそこここで営まれている。警邏する
アインズは傍らに控える二人にも聞こえる声で、万感の思いを胸にしながら呟いていた。
「――素晴らしいな」
此処から見える遥かな大地、大陸のすべては、アインズ・ウール・ゴウンのものとなったのだ。