魔導王陛下、御嫡子誕生物語 ~『術師』の復活~   作:空想病

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第4話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック内の執務室で、アインズは数日前よりアルベドとデミウルゴスに策定させていた新体制に関わる報告書を吟味していた。

 内容は一般人でしかないアインズには難解な文章が羅列されているのだが、必要最低限、自分の理解できる範囲で問題がないことを認め、書類の一番下に国璽を押し込む。ここ数年で、アインズもそれなりの政治的知識や法整備のノウハウは学んでいたが、それでも、この二人のそれと比べては子供の手習いも同然でしかない。

 

「ご苦労。ただちに法整備と関連部署の創設に取り掛からせるように」

 

 威厳に溢れる声で自分の不安感を押し隠す骸骨に対し、承知の声を挙げ副官に〈伝言(メッセージ)〉を飛ばす二人に書類を渡し終えると、アインズはそこに居並ぶ者たちを見渡した。

 第一、第二、第三階層守護者、「元帥」シャルティア・ブラッドフォールン。第五階層守護者、「将軍」コキュートス。第六階層守護者、「総監」アウラ・ベラ・フィオーラと「導師」マーレ・ベロ・フィオーレ。第七階層守護者、「参謀」デミウルゴス。元守護者統括、「宰相」アルベド。

 魔導国の最高戦力にして、最高支配者の直下に位置する階層守護者もとい「六大君主」たちがこうして一堂に会する光景というのは、今となっては見る機会は非常に少なくなっている。それこそ国事行為や、何らかのイベント(エンリの結婚式やニニャの復活)の時ぐらいなものである。ちなみに、セバスはマルコの夜泣き番のため、早々に帰室させていた。

 

「待たせてすまなかった、守護者たちよ」

 

 六人分の声が唱和され、全員が改めて至高の御身への忠義を(あらわ)(ひざまず)く。

 

「まずは、全員が各々の政務の合間を縫って集合してくれたことに感謝しておく」

 

「感謝など勿体ない!」と声を張り上げる宰相に頷きをもって返したアインズは、言葉を飾ることなく、率直な言葉で守護者たちに語り掛けた。

 

「先日、ニニャの復活の際にはごたついてしまっていた為、聞くことが遅れてしまったことなのだが、率直な意見を聞かせてほしい。“あれ”を復活させたことを、おまえたちはどう思っている?」

 

 アインズのやることなすことには必ず何らかの意義があることを信仰している守護者たちにとって、その質問は少々奇怪に思えた。御身のやることには絶対服従。たとえその内容が己を自死させるものであろうとも、ここに集ったものは、ナザリックのシモベたちは、喜んでそれを実行するだろう。無論、御身を害したり、至高の四十一人の創造したナザリック地下大墳墓に瑕疵(かし)を与えない範囲においてだが。

 あれとよばれた人間の復活にしても、シモベたちにとっては特に思うところなどない……そう答えるべきだろう。

 しかし、そういった盲目的な従属の姿勢は、この数年でかなり是正されつつあった。

 守護者たちはそれぞれ考えることを覚えさせられた。ただ盲従して命令を遂行するのではなく、その命令や行動にはどのような意味があるのか。もっとほかの手段はないのか。より効率の良い方法は存在しないのか。叡智においてアインズという智謀の王に追随できることは不可能なことであると認めても、それに追いつこうとする努力を惜しまず、果敢にも茨の道を進むことを、彼らは決して躊躇いなどしない。

 ――もっとも、聞いた本人であるアインズにしてみれば、自分の行った行為が何か重大な欠陥があるのではないかという不安を(ぬぐ)いたいというだけの、ただの確認作業の延長に過ぎないのだが。

 アインズの意志は、守護者たちの率直な意見を知ること。

 故にこそ、その白蝋じみた肌に漆黒のドレスを纏った可憐な少女は、その口火を切った。

 

「恐れながら、アインズ様。ご質問をしても構いんせんかぇ?」

「許そう。どうした、シャルティア?」

 

 シャルティアは率直に、自分の内に湧き起こっていた疑義を御身に投げかけてみた。

 

「あの復活させた人間の小娘――如何様(いかよう)な理由があって、御身自らがナザリックの全階層をご案内したんでありんしょうかぇ?」

 

 全階層ではなく、第八階層は除外していたのだが、守護者たちの三人ほどが真祖の疑問に共感を抱いた。

 

「確カニ、真ニ不可思議ナ措置デゴザイマス」

「やっぱり、あの娘にアインズ様の偉大さを知らしめ畏服させるためだったんでしょうか?」

「お、お姉ちゃん。優しいアインズ様がそんなことするのかな? それに死者の井戸とかも一時的に閉鎖してたし、それだとナザリックの威を示すには不十分だったんじゃ?」

 

 今月、ナザリックの運用と防衛を務めていたマーレは、この場にいる誰よりも、今日のアインズが施したナザリックの拠点機構の一時的な封印処理などを知悉していた。氷河世界や溶岩地帯はダメージを与えるエフェクトを運営経費の都合上常々カットしていたが、アンデッドを恒常的に生み出す井戸の閉鎖については疑問だった。それこそ、アインズから命令された時には軽く異論を唱えたりもしたが、御身の強権には勝てるわけもない。

 守護者たち四人とは対照的に、脇に立つ宰相と参謀は黙しているのが怖いが、アインズはとりあえず四人の疑問に答えることにする。

 

「ナザリックの威を示すこと、アインズ・ウール・ゴウンが保有する戦力を知らしめること……これらは確かに肝要なことだが、それ以上に私が重要視していることが他にある」

「ナザリックやアインズ様以上に重要なことがあるというのでありんすか!?」

 

 シャルティアは血のように紅い瞳を見開いた。

 他の三人も驚きに満ちた表情を浮かべ互いを見やる。

 

「彼女には、我がナザリックの経験値大量確保作戦(パワーレベリング)に参加させるつもりでいる」

「パワーレベリング……ですか?」

「そ、それって、あの、ダンジョンを攻略させる、ということでしょうか?」

 

 アウラとマーレが思わず呟いた。

 アインズが語ったパワーレベリングとは、かつてエ・ランテル近郊に、マーレに命じて作らせたダンジョンで行われた、現地勢力の強化計画として実行されたものであり、今では主要な各都市でも似たような教育機関や訓練施設が創設されるようになっている。

 このシステムのおかげで、魔導国が抱え込む冒険者組合は、大陸世界の歴史上でも類を見ないほどの強者の集団――わかりやすく言うと、ほとんどの構成員が英雄クラスに匹敵する実力者たち――になれたわけである。無論、ナザリックの基準で言えば、Lv.30に届くか否かな集団など、大した戦力とは見做されないのだが、外の世界においては十分以上に脅威的にして驚異的と言える。

 ダークエルフの脳裏にニニャが単身でダンジョンを徘徊する様子が浮かび上がる前に、アインズはそれを否定する。

 

「いや。レベリングといっても、冒険者たちの育成ダンジョンを使うのではなく、この世界の方針に根差した、しかしナザリックなりの魔法詠唱者(マジックキャスター)の教練を与えるつもりだ。今回のナザリック巡りも、実はその一環に過ぎない」

「ソレハマタ、何故(ナニユエ)?」

 

 コキュートスの疑問に、アインズは頷いてみせる。

 

「ニニャは生まれながらの異能として“魔法適性”なる才能を持っている。これはおそらく、魔力系魔法の習熟において経験値が倍になるというものだ。習得に八年かかる魔法を四年で済むという言説を信じれば、これを利用しない手はないと思わないか?」

 

 アインズの意図を掴み損ねているように、四人は首を傾げてみせる。彼らにしてみれば、ニニャなど取るに足りない存在でしかないが、御方が言うのであればそれ以上の何かがあるのだろうという確信がある。だが、その正体が見えてこない。

 

「言うなれば彼女は、この世界でも指折りの魔法詠唱者(マジックキャスター)として大成し得る器を持っているということ。そして、彼女がこれより取得する魔法というものは、これよりナザリックの戦力と成り得るものになるだろうということを意味している」

 

 すでにニニャがアインズに対して、ツアレ同様に心服していることは、復活した初日の段階で守護者たちは理解していた。それを思えば、確かに彼女が戦力となることはあり得る未来なのだろう。

 あの帝国が属国と化し、バハルス領域と成り果てた現在、魔法学院を参考にした、新たな魔法詠唱者の教育体系の敷設と浸透により、魔法詠唱者にしてもより上質かつハイレベルな存在が量産されつつある。もっとも、あのフールーダのような第六位階以上の段階へ至れた例は皆無なため、ニニャの復活は、あるいはそれ以上の魔法詠唱者の登場に繋がるのかも知れない。そうなれば、彼女は人類史に名を遺す偉業を達成することになるだろう。

 人間も亜人も異形も、すべて平等に繁栄をもたらさんとする主人の慈悲深さを思い知り、四人は深々と頭を下げるしかなかった。

 ……なのだが、

 

「あの、アインズ様?」

「どうした、シャルティア?」

「はい。あの、ニニャという小娘が、アインズ様の期待されるほどの位階に到達できたとしんして……彼奴(きゃつ)が本当に、ナザリックの戦力に加わるものなんでありんしょうかぇ?」

「どういうことなの、シャルティア?」

「どうもこうも。あれは結局のところ外の人間でありんす。人間の低能な脳髄(おみそ)じゃあ、アインズ様への恩義を忘れ、忠節を果たさなくなる可能性は十分にありんすぇ?」

「…………」

 

 言われてみれば――確かに。

 いざとなったら人間など魅了なり支配なりできてしまうナザリックの陣営であるが、当然ながら高いレベルに位置する存在というのはそういった魔法への耐性や対抗策を準備できる。今はアインズに対して恩義を感じ、姉のツアレとの再会に感動しっぱなしの少女であるが、それも将来的にどう転ぶのか分かったものではない。恩義で縛り上げるというのはンフィーレアという前例もあるにはあるが、彼はそこまで高いレベルを保持しているわけでもないし……あれ、なんかミスった?

 

「もう、シャルティア。だからアインズ様は、御自分でナザリックを案内して、ナザリックに敵対しても無意味なんだよーって、今日のナザリック巡りで教え込んでたんじゃないの?」

「あら、アウラ。それだったら“死者の井戸”や“黒棺”を閉鎖していたら、ナザリックの本当の戦力を間違って教えることになるじゃないでありんすが?」

「あれ? そっか?」

「フム。シャルティアノ言ウコトモ、一理アルナ」

「えっと、どういうことなんでしょうか、アインズ様?」

「…………」

 

 どうしよう。

 そこまで考えていませんでした。

 なんて、言える、わけも、ない。

 

「……問題、ない。おまえたちの懸念は、すべて私の想定通りだ」

 

 アインズは練習していた通りの台詞を吐き出して、時間を稼ぐ。

 全員が納得という風に首を頷かせるが、疑問符が取り除かれたわけではない。

 ここを切り抜けるには、

 

「……デミウルゴス」

「はっ。申し訳ありません、アインズ様。彼らは未だに、御身の叡智には及ぶべくもないところ。どうか、お許しくださいっ」

「うむ。言われるまでもなく、私はおまえたちのすべてを許すとも」

「ありがとうございます!」

 

 そうじゃなくて、解答を示してほしかったのだが。

 ていうか、最近は守護者の皆の方が頭良くなってる気がするぐらいなんだけど。

 

「……アルベド」

「慈悲深きアインズ様の御心に触れられ、私どもは感謝の念に堪えません!」

 

 感涙して指先を目の端にあてがう宰相の姿は、どうしようもない既視感を覚える。

 何か、前にもあったぞ、この流れ。

 ええい、二人に頼ってばかりの俺ではないぞ。

 がんばれ、俺。がんばれ、アインズ・ウール・ゴウン!

 

「シャルティアよ」

「は、はっ!」

「お、おまえの指摘した通り、ニニャがこの世界でも類を見ない魔法詠唱者(マジックキャスター)になることで、我がナザリックの傘下に下らないという可能性を憂慮したのは、称賛に値する」

 

 目一杯の時間稼ぎを費やし、居並ぶ守護者たちに告げる。

 

「だが、シャルティア。忘れていることがあるのではないか?」

 

 アインズは自分自身に言い聞かせるような気持ちで、割と大きくなった声を室内に響かせてみせた。

 

「私という存在を、アインズ・ウール・ゴウンという力を、ただの人間の魔法詠唱者ごときで覆せるものなのか?」

 

 その宣告を受けた吸血鬼は、白い肌色をさらに青白くする恐怖に襲われる。

 

「も、申し訳ありません、アインズ様! 決して、御身を卑下して言ったつもりでは!」

「あ、ああ……わかっているとも、シャルティア。おまえは私の身を案じてくれたのだろう? ならば、優しいおまえに私が怒る理由がどこにある?」

 

 そう言い聞かせてやると、とろんとした熱っぽい視線が深紅に色づく瞳から放たれる。唇の端が紅をさしているかのように艶を帯びていくが……あれ、よだれとかじゃあないよね?

 

「ニニャが高レベルの存在になったところで、根本的な彼我の実力差は埋められないだろう。しかし、そういった可能性も考慮に入れて、レベリングは慎重に行うべきだとは思っていた」

 

 などと、今になって思いついた程度の対策を述べ立ててみる。

 あの人狼のような“アンデッドを封じることに特化した職”という例外もあり得るが、そこは適時的確に対処を施しておけばいいだろう。何より、ニニャは魔力系魔法詠唱者に限定した天才だ。信仰系魔法については素人も同然。アインズと完全敵対したところで、勝敗は覆らない――はずだ。

 

「さて。シャルティアのように、他に気付いたことがあるものは?」

 

 この流れも何だか経験があるぞと嫌な予感を覚えつつ、守護者たちを見渡す。

 案の定、全員がこれ以上の質疑など(はばか)る姿勢を保ったことで、こらえきれなくなったかのように、スーツ姿の悪魔は快活そうに笑声をもらし始める。

 

「くくくく……君たちは本当に、アインズ様がただそれだけのために、あの魔法詠唱者(マジックキャスター)を保護していると思っているのかね? しかも、ナザリック全階層巡礼という、破格の待遇をお与えにまでなったと?」

「くふふ」

「え?」

「え?」

「はあ?」

「ドウイウコトダ?」

「……ぇぇ?」

 

 アインズは自分の声が存外に長く漏れてしまいそうになったのを自覚したが、とりあえず全員の注意は参謀と宰相の笑みに向けられている。泰然と指を組んだ支配者の姿勢の影で、アインズは誰にも気づかれないよう、胸の中でため息をひとつ吐く。

 二人とも、ニニャの蘇生には賛同していたし、今日のナザリック巡りにだって賛成していた。

 ナザリック巡りは、魔法詠唱者の教練――世界への接続だの、契約した媒体だの、そういった小難しい理論展開や魔法の公式で行われるものとは違う“感覚の先鋭化”――に必須なものとして実行したものに過ぎない。

 哀願するような守護者たちの視線が痛い。

 御身の真意を理解したいと願う彼らの真摯さに、アインズは罪悪感に押しつぶされそうな面持ちを、まったく動かない骨の顔に浮かべてしまいそうになる。

 

「……デミウルゴス、皆に説明してあげなさい」

 

 いつものごとく、智謀の王は委細を把握しているだろう参謀と宰相に、答え合わせとしての説明を命じた。

 

「畏まりました」

 

 頷く悪魔は仲間たちへと語り始める。

 

「君たちの指摘したことは表面上に浮揚しているものに過ぎない。確かに、アインズ様の威を示すこと、ナザリックの偉大さを知悉させることも重要なことだが、それよりも、復活されたニニャの方にこそ注目する必要がある……何故だかわかるかね?」

「人間に、注目、でありんすか?」

「シャルティアの言う通り、人間の忠誠心というものは信頼がおけない。どれほどの恩義を感じていても、人間は自分かわいさに恩人を処刑台に連行するような愚物たちだ。あのガゼフ・ストロノーフのように、身命を賭すような輩というのは極少数派(マイノリティ)に過ぎない。だからこそ、アインズ様はあの魔法詠唱者を飼い馴らすための布石を、ナザリック巡りという特別なレベリングの中に組み込んでいるのだよ」

 

 いまいち理解していない守護者たち――とアインズ――に、デミウルゴスはわかりやすくニニャの現状について説明を加えた。こここそが、御方の智謀の肝であるという注釈を添えて。

 

「いいかね? ニニャは蘇生され、姉と再会し、アインズ様に保護されるという破格な待遇を受けることで、こう思っているだろう。『自分がこんなにも幸せでいていいのだろうか?』『自分のこの幸せが、突然に消失するようなことが起こり得ないだろうか?』――とね」

 

 アインズは参謀の語る内容に、それまで以上に聴覚を研ぎ澄ませてしまう。

 今日、見た感じの印象だと、全然そんな風には見えなかったんだけど、裏ではそう思ってたの? 全然気づかなかったんだけど?

 

「人間というものはそういう生き物だ。与えられる甘露(かんろ)に身を浸し続けるだけでは、堕落の(そし)りは免れない。特に、才能あふれる存在というのは、何らかの責任や義務を負うもの。ニニャは拝見した日記から察するに、修練と克己に燃える人格者――実にいじらしいものだが、それ故に、与えられた厚遇というものにはまったくといっていいほど免疫を持っていない。自分に降りかかる逆境や困難を、逆に力と勇気に変えていくことこそが、彼女の半生が紡いだ処世術だったのだよ。まぁ、それも圧倒的強者の前では風前の灯でしか――っと、話を戻しましょう。

 以上のことから、ニニャという魔法詠唱者(マジックキャスター)は、現状の幸福に満足を覚えれば覚えるほど、自分という存在に、今あるこの幸福に、不安を(いだ)いてしまう存在(もの)なのだよ」

 

 実に愉快気に話す悪魔であったが、聞いている守護者たちにはチンプンカンプンな印象しか与えられない。幸福をもたらされておきながら、その幸福によって不安をかきたてられるなど、馬鹿な人間の中でも馬鹿の極みのようにしか感じられない。

 

「そこでだ。

 アインズ様は、彼女が無事に安心を得られ、幸福を謳歌できるように、わざと、レベリングという務めをお与えになるのだよ。務めを与えられ、役目をこなしている限りにおいて、彼女はそういった不安から脱することができる。……君たちだって、わかるだろう? 与えられた務めを果たし、アインズ様にお仕えできることこそが、我ら全員の幸福なのだから」

 

 初めて守護者一同は「なるほど」と納得の笑みを浮かべた。

 勤めに励む時以上の幸福などあり得ない。休息など取らずに、四六時中御身に仕えることができれば至宝の喜び。ただ漫然と余暇を過ごすことよりも、至高の御方にお仕えできることの方が、万倍にも勝る多幸感を与えてくれるのだ。無論、余暇は余暇で素晴らしいアインズからの賜り物なので、無碍(むげ)にすることはありえないのだが。

 

「そういうことでありんしたか!」

「サスガハ、至高ノ御方!」

「すごいですね、アインズ様!」

「あの、ほ、本当に……す、すごいです、憧れちゃいます!」

 

 これまで訳知り顔のまま沈黙の笑みを浮かべていた純白の悪魔も語りだす。

 

「デミウルゴスの言う通り。アインズ様はあの娘、ニニャに対してまで御心を砕いておられるの。将来の戦力を懐柔するという以上に、今このナザリックで生きる存在が、心に沈鬱なものを抱えてしまっている事実をこそ、アインズ様は(うれ)えて下さっている……なんて慈悲深いことなんでしょう!」

 

 クネクネする宰相の(シメ)の言葉にすべてを持っていかれた参謀であったが、彼女の言はまさに彼の語りたい事実だったため苦笑するだけに留める。

 全員から憧憬と尊崇の視線を浴びるアインズは、鷹揚に頷いて肯定の意を示す。

 

「さ……さすがは我が参謀、そして我が宰相だ。私の真意をそこまで見抜くとは」

 

 相も変わらぬ深読みっぷりに、アインズは動揺を禁じ得なかったが、ここはこらえるしかない。

 

「いえ。アインズ様があのような御対応を取らねば、そこまで考えが及びませんでした」

「さすがは、至高の御方のまとめ役。ただの人間にすら、これほどの慈悲をおかけになるなんて」

「う……む」

 

 声が震えそうで何とも言えない。

 何度体験しても慣れないなぁ、この遣り取り。

 微妙ながら精神を安定化されそうになりながらも、アインズはとにかく、今後の方針――予定を口にしていく。

 

「明日はそのニニャと共に、魔法都市を散策するつもりだ。供回りは、アルベドと一般メイドに任せよう」

「畏まりました」

 

 魔導王の宰相にして、ナザリック最高の盾は、従容と頷いた。

 

「そういえば、今週の他の予定については?」

 

 ツアレの懐妊発覚から始まり、ニニャの復活に至るまで、アインズは本来の予定に大幅な修正が必要な事実を思い出した。

 アルベドは暗記している魔導王の今週の予定を(そら)んじていく。

 

「本来、明日予定しておりました二等冒険者チーム“重爆”からの献上品の査察は、デミウルゴスに委託させます。明後日は交易都市アーウィンタールにて外交官ヴァミリネンと都市長エル=ニクスを交えての都市運用の協議。それが済み次第、都市の散策もとい視察を予定しております」

「他には?」

「週末は、城塞都市エモットにて、領域守護者エンリ・バレアレの出産祝いの儀を予定しております」

「うむ。先延ばしにしていた贈り物の製作に取り掛からねば……皆、守護者たちは出席するのだろう?」

 

 勿論と頷く守護者たちの笑みにつられるように、アインズも微かに笑みをこぼした。

 

「セバスとツアレの出産祝いもかねて、あの二人の婚儀は盛大にやりたいな……いや、いっそのこと……」

 

 ナザリックの未来は明るい。

 それは確かな事実なのだと、アインズはそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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