仮面ライダー 虚栄のプラナリア   作:ホシボシ

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続きはできれば明日か、明後日くらいには


第5話 くたばれフリーダム

ルミちゃんは誰もいないホームで泣いてしまいそうになりました。

青い空がとっても綺麗です。

ルミちゃんはいろいろ思い出しました。汚部屋、積みげー、漫画、ニート。いやニートじゃない。花嫁修業の毎日。

確かに堕落墜落の毎日でした。だからこんな愚かなミスをしてしまったのでしょう。

 

しかし落ち込んでいても仕方ありません。

ルミちゃんは気持ちを切り替えて王子様を待つことにしました。市原君ならばきっと来てくれると思っていたからです。

幸いにも携帯などはありませんが、食料はあります。丁度食べたいものでした。ルミちゃんはホームにあったベンチに座ると、さっそくレタスサンドを――

 

 

「おん?」

 

 

ルミちゃんはふと気配を感じて、隣を見ました。

自分以外には誰もいないと思っていたら、おじさんがいました。とっても悲しそうでした。

どれ、励ましてやろうか? ルミちゃんがそう思うと、おじさんが何かをブツブツ呟いていることに気づきました。

ルミちゃんは耳を澄ましました。

 

 

「けつあな……、けっ、けつあなッ! けつ、けつあな。けつあな。けつあなッ」

 

 

おじさんはルミちゃんの方を見ました。ルミちゃんはいませんでした。

ルミちゃんは逃げていました。駅員さんがいたので、変態さんがいましたと言おうと思いましたが、やめておきました。

幸いにも危害は加えられておりません。下手に刺激して逆恨みをされるのを避けたかったのです。

ルミちゃんはひとつ寛大な心でおじさんを許してあげることにしました。

そりゃあ男の子ですもの。下ネタに走りたい人もおりましょうて。

ルミちゃんは駅の外にあるベンチに座って、サンドイッチをモムモムといただきました。

 

 

(んまい)

 

 

背徳の味がします。

ずっと食べたかったレタスサンドをジンジャーエールで流し込むのは快感です。

 

 

(いい、いいぞぉこれ、まさにシャキシャキのドームツアーコンサートや)

 

 

ルミさんはそのまま、本来は隼世たちにあげるはずだったカツサンドを手早く腹のなかに収めると、ゴミをゴミ箱に捨てて駅の中に戻りました。

そこでふと気づきました。なんだか良い匂いがします。見れば、そこには立ち食い蕎麦のお店がありました。

まだまだいただけます。ルミちゃんは、そのお店に入ってお蕎麦をズルズルと頂きました。

ズゾゾゾゾと音がして、あっという間にお蕎麦はなくなりました。

 

食器を返そうとして気づきました。

小さな女の子が、二つぶんの食器を返そうとしていました。

まだ汁が入っているので重いのでしょう。ルミちゃんは任せてと女の子に声をかけ、食器をさっさと棚に戻しました。

 

 

「あの、どうも……! ありがとうっ」

 

「ん! いいよ! 気にしないで!」

 

 

女の子は珠菜ちゃんと言いました。

なんでもツレの人にずっと助けてもらっていたので、何かお手伝いがしたいと思って、食器を自分が片付けておくと言ったはいいのですが、想像以上に重かったみたいなのです。

店を出ると、そのツレの人がタピオカミルクティーを二つ持って歩いてきました。女の子のために買ってきたようです。

 

 

(わお! なんかクール系でかっこいい!)

 

 

ルミちゃんは隼世くん一筋ではありますが、それはそれとしてイケメンを見るのが好きでした。

風間志亞くんはクールな目をしていて、身長が高いので、かっこよかったのです。

志亞くんは珠菜ちゃんから事情を聞きました。そしてルミちゃんがずっとタピオカミルクティーを睨んでいるのに気づきました。

 

 

「……オレ、まだ口つけてないんで。これ飲みますか?」

 

「いいんですか!?」

 

 

三人はベンチに座りました。ルミちゃんは早速タピオカを摂取し始めました。

にゅぽにゅぽにゅぽと、ストローから転がってくるタピオカがたまりません。

もちゃりんこです。そうしていると珠菜ちゃんと志亞くんがコソコソ話をしているのに気づきました。

 

 

「なに話してんの?」

 

「あのっ、わたし、ルミさんがいいなって……!」

 

「???」

 

「も、もしよかったらわたしとお友達になってくれませんか!?」

 

 

聞けば珠菜ちゃんはひとりっこで、ずっとおねえちゃんがほしかったと言うのです。

こんな可愛らしいお願いを断るわけにはいきません。ルミちゃんはすぐにOKしました。

珠菜ちゃんはとっても嬉しそうに喜びました。

 

 

「ところで、ルミさんはどうしてこの駅に?」

 

 

珠菜ちゃんは、あのお蕎麦が食べたくてこの駅に来たようです。

ルミちゃんは己の愚かさを全て吐露しました。水野町に行くはずが、食欲に負けて皆とはぐれてしまったのだと。

すると珠菜ちゃんは自分たちも水野町にいく途中なのだと言いました。

 

 

「だったら一緒に――! あ、でも……」

 

 

珠菜ちゃんはしょんぼりしました。

ルミちゃんには言いませんでしたが、珠菜ちゃんたちはここまでバイクで来たのです。

流石に三人は乗れません。困っていると、志亞くんが頭を撫でました。

 

 

「タクシーで行こうか。オレが出すよ」

 

「えッ! でも……!」

 

 

ルミちゃんは流石に悪いと思いました。

でも珠菜ちゃんは一緒に行きたいと言ってくれました。志亞くんもぜひと言いました。

ルミちゃんはすぐにタクシーに乗り込みました。市原くんたちに早く合流しなければいろいろマズイと思ったのです。

こうして三人は駅を出発しました。ルミちゃんはお腹がいっぱいなのですぐに夢の中です。目が覚めたのは、珠菜ちゃんに肩をゆすられた時でした。

 

 

「つきましたよ」

 

「んぁ、あぁ、ありがと……」

 

 

ルミちゃんは珠菜ちゃんのお家を見て、ドッキリかと思いました。

そこには旅館がありました。しかし旅館ではありませんでした。ただの巨大なお屋敷でした。

巨大な門を抜けると、庭園があって、玄関らしきものがありました。

また歩くと、巨大な庭が見えました。鯉がいるそうです。

 

さらに歩くと、凄まじく広い畳の部屋が見えました。

さらにさらに案内され、階段を上り、しばらく歩いて、ようやっと珠菜ちゃんのお部屋につきました。

可愛らしいお部屋でした。普通の小学生のお部屋という感じでした。

 

 

「何かのみますか?」

 

「あぁ、いやッ、おかまいなく!」

 

「なんでもありますよ。隣に冷蔵庫があるんです。プリンとかもありますよ」

 

「じゃあプリンで!」

 

 

ルミちゃんは甘いものに目がありません。

珠菜ちゃんは微笑むと、部屋を出て行きました。

 

 

「うわー! 凄い! 海が見える!」

 

 

ルミちゃんは窓を開けて体を乗り出しました。

水野町の海は本当に綺麗です。ルミちゃんはうっとりしてしまいました。

 

 

(あーあ、イッチーと一緒に見たかったなぁ)

 

 

そこでルミちゃんはハッとしました。市原くんたちのことをすっかり忘れていました。

ここでのんびりしている場合ではありません。とりあえず電話を借りよう!

そうは思いましたが、同じくして今の時代、スマホはとても便利です。電話帳があります。

なのでルミちゃんは隼世くんたちの電話番号をぜんぜん覚えていないことに気づきました。

 

どうしようか。どうすればいいのか。

ルミちゃんは必死に考えましたが、そこで珠菜ちゃんがプリンをお皿に移して持ってきてくれました。

ルミちゃんは、また隼世くんたちのことをすっかり忘れました。

 

 

「んまんま! やっぱりプリンって神だよねぇ」

 

「よかった。わたしも好きなんです」

 

「気が合いますなぁ! それにお皿に移してくれる心遣いが嬉しいよぉ。このプルプルもプリンの魅力だよねぇ」

 

 

そこでふと、ルミちゃんは珠菜ちゃんと志亞くんを見つめました。

 

 

「そういえば、二人はどういう関係?」

 

 

ルミちゃんは二人の名前は聞きましたが、苗字は聞いていませんでした。

すると珠菜ちゃんは恥ずかしそうにしながら、志亞くんを見つめます。

 

 

「いい、かな?」

 

「ああ。オレは……、平気だけど」

 

「じゃあ、いうよ?」

 

 

ルミちゃんはニヤリと笑って、スプーンで珠菜ちゃんと志亞くんを指しました。

 

 

「ま、まさか! ラブ的なヤツです!?」

 

「あの、はい……。おつきあいしてるんですっ!」

 

「ふぅー! フゥーッッ!」

 

 

ルミちゃんは大変興奮しました。大変愉快な気持ちになりました。

 

 

「あのっ、ルミさんはどう思いますか?」

 

「え? なにが?」

 

「あの、わたし達のこと……」

 

「ああ、年齢的なヤツ? いいんじゃない? アタシの友達だってこの前12歳年上の人と結婚してたし」

 

「ほんとうですか!」

 

 

珠菜は嬉しそうに微笑み、志亞を見る。志亞も曖昧に笑った。

 

 

「どこで知り合ったの?」

 

「あの、わたしが志亞さんのバイクの前に出ちゃって」

 

「あ、いやッ、オレが悪いんだ。ボーっとしてて」

 

「そんな。わたしが注意してれば良かったんです。わたしもボーっとしてたから、志亞さんは悪くありません」

 

「いやいやッ、そんな、オレが悪いんだ。珠菜ちゃんは何も悪くなくて……!」

 

 

ルミちゃんはそのやりとりをニタニタしながら聞いていました。

 

 

「ところで珠菜ちゃんは、志亞くんのどーゆーところが好きなの?」

 

「どういう、ですか? やっぱり優しくて、かっこよくて、それに……」

 

 

珠菜はポケットから手帳を取り出す。

 

 

「わたしの、やりたいことを叶えてくれるように、協力してくれるところ、です」

 

「ふーん。やりたいこと?」

 

「はい。だからその、恋人がほしいとか、お姉ちゃんがほしいとか。いろいろです」

 

 

珠菜ちゃんはルミちゃんにちょっとだけ自分のことを話しました。

珠菜ちゃんのおうちは凄く厳しいというか、変わったところがあると思っていました。

お祖母ちゃんが強いこだわりがある人で、珠菜ちゃんはそういうところに息苦しさを感じてしまいました。

 

 

「志亞さんは、わたしを……、連れて行ってくれる気がしたんです」

 

「ふーん……」

 

「それよりっ、ルミさんは好きな人、いるんですか?」

 

「いるよぉ、いるいる! 自慢の彼氏がおりますねんて!」

 

「へえ! どんな人なんですか?」

 

「世界で――、いや宇宙で一番かっこいいよ。やさしいし、アタシのヒーロー」

 

「へえ!」

 

 

ルミちゃんはしばらく自慢話をしました。

そこで気づきました。志亞くんのプリンが全然減っていません。ルミちゃんなんてもうあと一口でなくなるのに。

 

 

「あれ? どしたの? 気分でも悪いの?」

 

「ああ……、いや、それは」

 

 

ルミさんが食べちゃろか?

そう言おうとする前に、珠菜ちゃんが志亞くんの肩にやさしく触れました。

 

 

「だいじょうぶ。我慢しなくてもいいよ」

 

「――ッ」

 

 

カチャカチャと、志亞くんのスプーンを持つ手が震えました。

 

 

「ぜんぶ、みせて」

 

 

それは随分と優しい声色でした。全てを包み込んでくれるような、そんな優しさがありました。

志亞くんの瞳から、ポロリと一粒の雫が見えました。

 

 

「だって――ッ、せっかく二人でドライブできたのに」

 

「ごめんね。じゃあわたしのワガママを聞いてくれたお礼に、なんでもしてあげる」

 

「なんでも?」

 

「うん。なんでも? 志亞くんは何がしたい?」

 

 

珠菜ちゃんは志亞くんのプリンを持って微笑みました。

志亞くんは嬉しくなりました。珠菜ちゃんは自分を理解してくれている。その優しさに甘えることにしました。

 

 

「たまなたんの、もちもちおあしでたべたい」

 

 

珠菜ちゃんは優しく微笑むと、正座をしてプリンを自分の太ももの間に落としました。

志亞くんは、そこに顔を埋めました。

 

 

「はぶっ! じゅる! はむっっ!」

 

 

カチャーンと音がしました。

ルミちゃんが真っ青になってスプーンを落としたのです。

 

 

「ちょ、ちょっと、トイレに、失礼。なはは……」

 

 

ルミちゃんはお部屋を出ました。

ルミちゃんは全速力で走りました。とんでもない変態さんがいたので逃げました。

階段を転げおち、玄関を抜けたところで、上から何かが降ってきました。

 

 

「ぎゃあああああああああああああああ!!」

 

 

仮面ライダーV3がルミちゃんの前に着地しました。

ギョッとしました。ルミちゃん的にはもう情報が洪水です。

 

 

「言うつもりだろう! 絶対ッ、絶対に警察かどこかに言うつもりだろうッ!」

 

「い、いいいいい言いません!」

 

「まんこは嘘ばっかりつく!」

 

「ま、まん――ッ!?」

 

 

そこで珠菜ちゃんがあわてた様子でやってきました。

 

 

「驚かせちゃって、本当にごめんなさいっ」

 

 

数分後、ルミちゃんは再び珠菜ちゃんのお部屋にいました。

V3につれてこられました。ルミちゃんが汗を浮かべていると、珠菜ちゃんはお水を持ってきてくれると言いました。

珠菜ちゃんが出て行くと、V3は言いました。

 

 

「オレはな。この世で三つ、大嫌いなものがある」

 

「は、はい……」

 

「一つは気を遣えない図々しいマンコ。もう一つはビッチに見えるマンコだ。お前はその二つに当てはまっている。だがどうやら珠菜ちゃんはお前のことが好きだから、オレはお前を許さざるをえない。それでもオレにはどうしても許せないことがある。それは珠菜ちゃんを悲しませるヤツだ。それはマンコであろうが、なかろうが、絶対に許すことはできない」

 

「あ、あの、あの失礼ですが、もしかして女性のことを、まんっ……て、言ってます? あの、そういうの言わないほうが――」

 

「まんさんッ!」

 

「!?」

 

「まんさんッ! まんさんッッ! まんさんッッッ! 黙れッェエエ! マンコがオレに指図をするなよッッ! お前らはいつもそうだ!!」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」

 

「珠菜ちゃんはどう考えてもお前になついている。ここにいてほしいって思ってる。だからもしもお前がココから逃げようって言うなら――」

 

 

V3の複眼が光りました。

 

 

「お前を殺す。姿も見られたし、関係も知られた」

 

「……はい」

 

「こっそり殺す。珠菜ちゃんを悲しませないように」

 

「ハイ、ワカリマシタ、モウスコシ、ココニ、イサセテモライマス」

 

「それでいい、上出来だ、クソマンコ野郎」

 

 

珠菜ちゃんが戻ってきました。ルミちゃんがもう少しココにいさせてほしいと言うと、珠菜ちゃんは嬉しそうに微笑みました。

ルミちゃんは海を見ました。海を見ながら、心の中で叫びました。

 

 

(市原くーん! 誰かー! ポリスマンを呼んでくださーいッッ! 今すぐ呼んでくださーいッッ!)

 

 

心の声は、波の音のなかに消えていく。

 

 

 

 

 

セックスは付き合ってからやるものではない。

むしろ、付き合う前からやるべきだと山路は考えていた。

そうすればもっとフランクにお互いのことを知れるし、体を許した安心感からいろいろ話してくれる。

山路も匂いが特別キツイ人には、乱交から入ることを許していた。

 

おもに虐待の匂い。あとは強姦、恐喝、いろいろな匂いが混じり、強く主張している。

もちろん軽く確認もした。頬を赤く晴らした少女が、半裸で家を飛び出したのを確認して、山路たちは嬉しそうに頷いた。

これで彼を抱ける。

 

やり方は簡単だ。アマゾンに変身して連れ去った。

場所は海岸近くの廃墟。どうやらかつては民宿として使っていたようだが、同じ店が多いため廃業に追い込まれたのか。

まあそれはどうでもいい。山路はおじさんを椅子に座らせると、腕を手すりに、足を椅子の脚に縛って拘束した。

座薬くんが持っていた猿轡をつかって口を封じると、山路はナイフを使っておじさんを刺した。

 

腕、太もも、お腹、背中。おじさんからエッチな叫び声が漏れた。

山路たちは興奮を抑えきれず、みなはちきれんばかりに股間を膨らませていた。

おじさんに赤い性器が生まれた。山路はそれを優しくなでて、指で広げてみせる。

赤い汁が垂れてきた。酷く濡れている。おじさんがはじめより青くなっている気がするので、みな手早くゴムをつけて、おじさんの女性器にペニスを挿入した。

 

おじさんは激痛に叫んだが、それは山路たちを興奮させる嬌声でしかない。山路たちはそれはもう夢中で腰を振った。

たまんねぇ! トンボくんが叫んだ後に射精した。続いてモグラくんと座薬くんも果てた。

山路はみんな一緒に射精ができなかったことを残念に思いながら、射精した。

 

しかしお楽しみはまだ終わらない。

おじさんも相当具合が悪いようなので、あとはおじさんの女性器たちにモグラくんの作った筒状の爆弾を入れて、爆発させる。

みんなでキャンプファイアーを囲む幸せ。山路は楽しみだった。

しかし一つ問題が起こった。おじさんを襲える楽しみが強すぎて、アキレス腱を切るのを忘れていたのだ。

激しいセックスのせいでロープも緩んでいたのだろう。おじさんが走り出した。

みんなでキャンプファイアーはできないなぁと、山路は悲しんだ。

 

でもそれはそれ、これはこれだ。

山路が行きたいというと、みんな、いいよと言ってくれた。

逃げるおじさんを、アマゾンが追いかける。隣には青くて綺麗な海。

 

 

「待ってよぉ、おじさぁん! あはっ、あははは!」

 

 

おじさんは目を見開き、全裸で逃げた。

山路は胸がキュンとした。

そうか、これが――

アオハルなんだ。

 

 

「ン゛ーッッ! ム゛ゥン゛ンンンーッッ!」

 

 

おじさんは血まみれで叫び、砂浜を走った。

海水浴場ではないので、石が多くて、ゴミも多くて、ゴツゴツしていた。

おじさんはそれでも走った。足裏はズタズタだろうが、死に物狂いで走っていた。

山路はそれを見て、なんだか嬉しくなってしまった。おじさんは今まで見下す者だったはず、それがあんなにも生存本能をむき出しにして獣のようになってくれている。

きっと今、おじさんは生きたいと願っているはずだ。自分がやってきた罪を後悔してくれているはずだ。

エッチだなぁ。と、思った。

 

 

「海で正常位にしようぜ、おじさん。アンタの上半身がドップリ海に浸かる状態でセックスさ」

 

 

おじさんは何分で溺れ死ぬのだろう?

アマゾンはそれを想像して興奮――

 

 

「やめろ! 何をしている!」

 

「え?」

 

 

バッタが飛んできた。赤い拳でアマゾンは殴り飛ばされた。

 

 

「逃げましょう!」

 

 

仮面ライダー2号はおじさんを抱えると、ジャンプで飛び上がる。2号がいる場所は丘になっており、上のほうにバイクを停めてあるのだ。

 

 

「ジャングラー!」

 

 

しかし2号は突如現れたバイクに轢き弾かれ、再び砂浜に落ちた。

アマゾンの隣には、専用バイクのジャングラーが到着し、そして消え去った。どうやらクロスオブファイアの使い方も熟知しているようだ。

 

 

「驚いたなぁ。俺以外にもいるとは思っていたけれど……」

 

「ぐっ! 頼む! この人を病院に運ばせてくれ!」

 

「無駄だと思いますよ。もうどう見ても助からないでしょ」

 

 

おじさんは血まみれで、真っ青だった。

墜落の衝撃もあったのか、既に意識を失っている。

 

 

「だが! それでもッ! だったら手当てを手伝ってくれ」

 

「いいけど……。乗り気じゃないなぁ。相手を逝かせてこそのセックスでしょ?」

 

「は……!?」

 

 

そこで2号はおじさんの傷口から精液らしきものが垂れているのに気づいた。

そこで脳内を駆け巡る情報の数々。

 

 

「まさか、お前達が一連の――ッ!」

 

 

そこで2号の顔に何かが当たった。

黒いボールのようなものだった。石ころ? そう思うと、ボールは破裂して衝撃が襲い掛かった。

手作りの爆弾だ。

気づけば、2号の周囲にアマゾンズが立ちはだかる。

 

 

「山路! おいおい! コイツまさか!」

 

「そうだよトンボくん。俺たちと同じ、仮面ライダーだ」

 

「ヤッホウ! やっぱりいたのかぁ!」

 

「あ、そうだ。座薬くん。おじさんを殺してあげて。逝けないなんてかわいそうだ」

 

「ハッ! かしこまりました!」

 

 

2号が体を起こすと、オメガがおじさんの頭を掴んでいた。

頭部と体が分離していた。

 

 

「貴様らァアア……ッ!」

 

 

2号は怒りに震え、アマゾン達を睨む。

 

 

「仮面ライダーだろ! なんでこんな事をするんだ!」

 

「性欲発散」

 

「ふざけるな! なんなんだよその理由は、理解ができない! ライダーの力は正義のために使うべきだろう!?」

 

「あー……、まあそういう意味じゃ、おじさんは悪人だったし、大丈夫ですよ」

 

 

アマゾンの答えに、2号は全く納得いっていないようだった。

 

 

「悪人だからと言って殺していい理由にはならない! それにこんな残酷なやり方――ッ!」

 

 

2号は思わず地面を殴りつける。

砂が舞い、アマゾン達を激しく睨みつけた。

 

 

「全員、今すぐ大人しくしろ。お前らは僕が逮捕するッ!」

 

「刑事さんなんだ。へぇ、かっこいいなぁ」

 

 

とはいえ、アマゾンたちは呆れたような素振りを見せた。

 

 

「どうする山路。面倒そうなヤツだし、バラしちまうか」

 

「いやぁ、まあでも、戦おうか。刑事さんはやる気みたいだし」

 

 

アマゾンたちは構えを取る。

2号もまた、拳を握り締める。先に動いたのはアマゾン側だった。

突進していくアルファ。しかしそのとき、2号は体を捻りながら飛び上がる。

まるでそれはスケートのトリプルアクセル。アルファとシグマの攻撃が受け流され、二人はそのまま砂浜へ突っ込んでいく。

一方で2号は後ろからきていたオメガの肩を掴むと、着地と同時に膝を入れた。

 

 

「うっふ!」

 

 

よろけ、交代していくオメガ。

一方で2号はアマゾンの振った腕を、上体だけを後ろへ反らすことで回避していた。

ボクシングのスウェーバックだ。さらにすぐに腕を絡めとり、背負いなげで吹き飛ばしてみせた。

2号は状況を確認、そして走る。

狙うのは周囲に仲間がいないオメガだ。砂を巻き上げ走ること二秒ほど、2号は懐に入り、左ストレートを叩き込む。

だがオメガは腕をクロスさせて拳を受け止めた。だが2号は右のアッパーでそのクロスを崩し、がら空きになった胴体にハイキックで足裏を叩き込んだ。

 

 

「ムォオオ!」

 

 

オメガはその衝撃から体が浮き上がり、後方へ飛ばされ、土壁に激突する。

2号はすぐに追撃を加えようと走り出したが、そこで体が止まる。

振り返ると、シグマがマフラーを掴んでいたのだ。

 

 

「オラアア!」

 

 

シグマはマフラーを掴み、思い切り投げ飛ばす。

2号は砂浜を転がると、すぐに体を起こそうとするが、膝立ちの状態でシグマが爪を振るってきた。

2号はその腕を掴み、爪を停止させる。二人はそのまま競り合うが、シグマは強引に前に出て2号を押し倒した。

そこでチャンスだと思ったのか、アルファが走り、仰向けになった2号の脚を掴む。

 

 

「い、いまだよ!」

 

「サンキュー!!」

 

 

シグマは拘束された2号に馬乗りになると思い切り殴りつけていく。

 

 

「ぐゥウ!」

 

 

2号もガードが崩れ、頬や頭に衝撃が響いた。

このままではマズイ。考え、グッと拳を握りしめる。そしてそのまま左右に腕を伸ばし、思い切り地面を叩いた。

地面が少し揺れた気がした。砂があがる。アルファはビクッと肩を震わせ、なんだなんだと混乱する。

 

2号の行動はただのハッタリだ。だが何かがくると思ったアルファの力が緩んだ。

その隙に足を思い切り引いてすっぽ抜けると、すぐに前に出してアルファを蹴りつけた。さらに蹴り上げでシグマの背を打つ。

尻餅をついたアルファと、勢いから前宙で背中から地面に激突するシグマ。

2号は素早く立ち上がると、周囲を確認する。

だが少し遅かった。焼けるような激痛が肩に走る。見れば左肩に大きな槍が刺さっていた。

 

 

「お見事」

 

「高校時代は槍投げで全国に行ったものです」

 

 

オメガが引き抜いたバトラーグリップ、アマゾンスピアが2号を貫いたのだ。

2号は血を撒き散らしながら地面に倒れる。

だがすぐに立ち上がると、雄たけびをあげながら槍を引き抜いた。血と共に落ちる槍を見て、アマゾンたちは唸る。

 

凄い度胸だ。まあとはいえ、ダメージは入った。

事実、ここから2号の動きが悪くなる。

アマゾンが飛び込んでくると、最初こそ防御に成功していたが、すぐに攻撃が通った。

腕のヒレ(ブレードで)で怯み、右斜め下に振るった爪が胴に入って火花が散った。さらに左斜め下に振るった爪も受けてしまう。

 

2号はすぐに回し蹴りで反撃を行う。

しかし既にアマゾンは跳躍で2号の上、体をひねり背中を切りつけながら着地する

のけぞる2号。するとオメガに殴られ、移動した先に待っていたシグマに殴られ、さらによろけた先にいたアルファに腕を噛まれる。

 

 

「うぐぎぎぎぎ!」

 

「クソ! 痛いな! 離せ!」

 

 

2号はアルファを殴って退かせるが――

 

 

「痛い゛ッッ!」

 

 

倒れたアルファ。するとアマゾンたちはザワつき始める。

 

 

「フム、殴るのは酷いな」

 

「正義の味方が聞いてあきれるぜ」

 

 

2号は怒りに震え、拳を握り締める。

 

 

「お前らどの口が――ッ!」

 

 

そこで気づいた。アマゾンがいない。

 

 

「!」

 

 

空を見ると、アマゾンが腕を天にまっすぐ伸ばしていた。

 

 

「ダァイ! 切断ンンッッ!!」

 

「グアァアアアアアアア!!」

 

 

まっすぐに振り下ろす。

強化された斬撃が直撃し、2号の脳天からまっすぐに火花が散る。

変身が解除された。よろけた隼世、アマゾンの裏拳で殴り飛ばされ、砂浜を転がり、気絶する。

 

 

「ハハッ! ヒャハハハ!」

 

 

笑い、走り出したシグマだが、アマゾンが腕を掴む。

 

 

「ダメだよ、殺しちゃ」

 

「え? な、なんで……?」

 

「彼はセックスをするべき人じゃない」

 

「そりゃねーぜ山路! せっかくもっとッ、バラしがいのあるヤツに出会ったのに……! ダメなのか!?」

 

「うん」

 

 

シグマは納得していないようだったが、オメガも止めに入る。

 

 

「山路さまの考えを優先するべきだ。我々はあくまで与えられた側だということを忘れるなよ」

 

「ッ、くそ!」

 

 

シグマは変身を解除し、納得いかないと頭をかいた。

一方でアマゾンはただジッと、倒れている隼世を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

隼世が目を覚ますと、そこは見知らぬ天井であった。

声が聞こえる。急いで体を起こすと、そこはファミリーレストランであった。

シートの上に寝ていたようだ。隼世はしばし固まり、何があったのかを思い出す。

 

 

「いっつ!」

 

 

肩の痛み。

 

 

「凄いですよね。痛みはまだあるみたいだけど、傷はふさがってますよ」

 

「!」

 

 

隼世が顔を動かすと、向かい側に山路が座っているのが見えた。

彼は今、ハンバーグステーキを食べている。

 

 

「はじめまして市原さん。僕は山路大栖です」

 

 

テーブルの上には隼世の警察手帳や携帯があった。それで名前を知ったのだろう。

隼世はすぐにそれをしまうと、すぐにまた携帯を取り出して画面を確認する。いろいろな人から連絡があった。

 

 

「死体は一応隠しました。ただ明日には見つかるでしょうね。人間はすぐに臭くなる」

 

「お前ぇえ……ッ!」

 

 

隼世は身を乗り出し、山路を睨む。

 

 

「なぜだ? なぜその力に目覚めて人を殺す? 仮面ライダーで人を殺せる!?」

 

「先ほども言ってましたね」

 

「ライダーは正義の力だ! なのに、なのにキミはどうしてッッ!」

 

「……まあ、考え方が違うとしか」

 

「ッ?」

 

「僕も見てましたよ。仮面ライダー。かっこよくて、素敵だ。というより子供はだいたい見てる」

 

 

みんな知ってる。仮面ライダーがヒーローなことくらい。

 

 

「でもそれはフィクションだ。テレビの中のお話なんですよ」

 

 

別に、山路は隼世のスタンスを否定するつもりはない。

だがあくまでもそれは隼世や多数派の意見というだけだ。山路はそう思わなかった。ただそれだけの話なのである。

 

 

「僕にとってライダーというのは……、うーん、媚薬のようなものかな」

 

「ッ???」

 

「お恥ずかしい話ですが、性欲が強くて。それも普通のセックスじゃダメなんです」

 

「キミは何を言っているんだ? さっぱり意味が分からない」

 

「欲求がね、どうにも他の人とは違っていて。今もハンバーグを頂いているんですが、これは生きるための食事であって、楽しむためのものじゃないんです」

 

 

山路にとって生きる喜びはただ一つ、性だ。

彼は今までのことをそれとなく隼世に説明した。よく眠れない、食べ物は何をたべても満足できないし、特別おいしいとも感じない。

ただセックスだけは、いつも身が震える。極上の快楽を求めたいといつも思う。

 

そしてそれは、暴力の果てにある快楽だ。

話を聞き終えた隼世は真っ青になり、化け物をみるかのような目で山路を睨んだ。

山路は最後にこう締めくくる。

 

 

「僕らの考えは間違っているし、正しいとも言える。もしも一つだけ真実や答えがあるとするなら、それはこのリアルです」

 

「お前は――ッ!」

 

 

冷静さもあった。隼世は山路大栖という名前を覚えている。

以前、立木から少年院から三人の少年が脱走したという話を聞いていた。

ただの脱走にしては不可解なことが多いので、覚えておいてくれと。

監視カメラに変身状態は一度も映っていなかったが、今にして考えてみれば謎が解けるというもの。

 

 

「今すぐッ、ベルトを置くんだ。でなければ――ッ!」

 

「それは、やめておいた方がいい」

 

 

隼世は周りを見て、汗を浮かべる。

ファミレスにはまだたくさんのお客さんがいる。変身をするところを見られるのも、ここが戦場になるのも困る。

すると山路は周りを伺う隼世を見て、小さく笑う。

 

 

「やめておいた方がいいと言ったのは、今の傷を負っている貴方では、僕には勝てないということですよ」

 

「何……?」

 

「市原さん。貴方は僕のことをおかしな精神異常者だと思っていらっしゃるが、それは違う。これはよくLGBTの方も言っていることですが、たとえばゲイをカミングアウトしたら、男の人はみんな警戒をしてしまうが、それはおかしな話なんですよ」

 

 

好みがあるのに。全部一緒だと思われる。

 

 

「なぜ自分が狙われると? それは傲慢ですよ。誰にだって興味や矜持はあるでしょ?」

 

 

ファミリーレストランで楽しく食事をするような人々を殺す意味はないし、殺したいとも思わないし、殺したところで何も興奮しない。

 

 

「僕が狙うのは主に傲慢な犯罪者、或いはこれから人を殺そうと思っている人間です。昔から匂いで分かるんですよ。強盗の匂い、強姦の匂い、殺人鬼の匂い」

 

「……ッ」

 

「彼等は獣だ。理性というものが機能しておらず、人間になれなかった存在なんです。それをより強い獣が狩る。それはただの自然の摂理。アマゾンの掟のような物です」

 

 

山路はナイフで肉を切り、フォークで刺して口に入れる。

 

 

「肉を食うことは栄養を補給することです。だから我々は食物に感謝し、生きていく理由を手にする。それを怠る人間も上手くやれればいいのですが、攻撃的になってしまう。なぜかというと、僕は命を上手くいただけていないからだと思っています」

 

 

それは別にピンポイントな話ではない。

最近の人は、どうにも命の上に生きている責任から目を背けたがっているように思えてならない。

命の頂き方が分からない。責任の重さが理解できない。

 

 

「人間の攻撃性を抑えることなど不可能ですよ。誰もが日々、そのことについて模索している。僕も、貴方も。違いますか?」

 

 

一般人がSNSで何かを叩いている行為と、山路のやっていることはそこまで違いはないと思っている。

コンドラーか、スマホか。ただそれだけだ。

 

 

「でも僕らはもっとリアルに近づけることができる。間違いなく、仮面ライダーに選ばれた僕こそが人類の進化形態なんですよ。それを否定することは最大の差別行為だ。むしろ貴方は仮面ライダーになったのに、何をそんなに怯えているんですか? 市原さん」

 

「怯えている? 僕が?」

 

「そう見えますが」

 

 

山路は口を拭くと、わざとらしく鼻を鳴らした。

 

 

「貴方からも、匂いがしますよ」

 

「……は?」

 

「だから、僕らが殺してきたヤツらと同じ匂いがします」

 

「嘘だッ!」

 

 

隼世は周りに気を遣わずに叫び、立ち上がる。

注目を集めたことに気づいたのか、軽く謝罪を行うと、席に座る。

 

 

「もちろん絶対的なものじゃないかもしれません。でも匂いますよ。犯罪者と同じ匂いがね」

 

「~~ッッ」

 

「ただ、臭いなぁ。ははは」

 

 

溜め込んだ匂いだ。重く、どんよりとした。

それに中途半端な熟成具合だ。全く浸かっていないでダメになった漬物のような。

 

 

「貴方じゃ僕は勃たないな」

 

 

山路は伝票を手にして立ち上がる。

 

 

「そういえば天気の子は見ましたか? 良い映画ですよね。僕はあの作品で好きな台詞があるんですよ」

 

 

それは純粋な笑顔だった。

 

 

「狂っているのは世界の方だ。貴方も、そう思いませんか? 市原さん」

 

 

最後に山路は隼世に向かって囁いた。

 

 

「正しいのは現実です。そして正義をかざす貴方は僕らに負けた。もしも僕が皆を止めなければ貴方は死んでいたでしょう。それを忘れないでくれよ? 仮面ライダー」

 

 

一人、取り残された隼世はグラスを掴んでいた。

グッと、掴み、割る。納得はいっていない。

 

 

「大丈夫ですかお客様!」

 

 

すぐにウエイトレスさんが来てくれた。

 

 

「失礼ですが……、一つお聞きしても?」

 

「え?」

 

「僕、変な臭いがしますか?」

 

 

ウエイトレスさんは首をかしげる。特にそんな臭いはしないと答えた。

彼女が割れたグラスを片付けてくれているとき、隼世は電話をかける。

 

 

「もしもし岳葉? ああ、うん。大丈夫だけどちょっと――……、そう、だからまだルミちゃんを迎えにいけてなくて。うん、あの約束の時間もあるから、とりあえず響也もいるし、うん。お願い」

 

 

 

岳葉は青ざめながら電話を切った。

アマゾンが出た。隼世が負けた。それはずいぶんと頭の痛い話だった。

ルミのこともあるし、話を聞きたいと言った手前、遅れることはできない。岳葉は隼世に言われたとおり、良神クリニックを目指すことに。

丁度ホテルにつくと、滝黒もいたので、まだ安心感はある。

 

 

「私もついていってあげようか?」

 

「いやッ! る、瑠姫は一般人だし……」

 

「分かってるって。頑張ってね。何かあったらすぐに来てね。約束ね」

 

 

瑠姫は少し不安そうに岳葉を見送った。

 

 

「素敵な彼女さんですね。羨ましいです」

 

 

褒められ方が分からず、岳葉はえへえへと挙動不審ぎみに笑う。

 

 

「た、滝黒さんも、ビディさんと、そういう風になれると――」

 

 

岳葉はそこで言葉を止めた。そういえば複雑な事情があるのだった。

人は、傷つけたくない。岳葉は曖昧に笑った。滝黒も意味をなんとなく理解したのか、少し悲しげに笑った。

そうしているうちに二人は良神クリニックに到着する。

岳葉は一応警察手帳を支給されたが、それは本当に飾りのようなものだ。事情を聞くのは滝黒が行うことになった。

 

 

「昏碁慶太郎さんのことでお話を伺いたいのですが」

 

 

滝黒は聴取ならば割り切れるのか、割とスムーズに会話を行う。

良神院長からはやたら栗まんじゅうを勧められたが、同じくして情報も与えられた。

慶太郎――、つまりアポロキチガイストは昔は真面目な男であったが、ある日を境におかしな思想に取り付かれるようになったとか。

 

 

「生命は長い年月をかけて進化してきたが、ヤツは人間もまだ進化の途中であると信じておったようじゃ。そしてその進化のスピードを医学によって速め、新人類とやらを作りたいと言っておった」

 

「新人類、ですか」

 

「たわごとじゃよ。ワシもよく分からんかった」

 

 

良神は栗まんじゅうを齧りながら、昔を思い出す。

良神は『美』で全ての人間を救いたかった。ありとあらゆる人間がコンプレックスを打破し、心に自由を手に入れたとき、人は本当の幸福を知る。

一方で慶太郎は優劣をハッキリとするべきだと言っていた。特化された人は、人を超えて、生態系の頂点に立てる。

それは新しい王の姿。人はもっと高みを目指せる生き物なのだとか云々。

 

 

「いずれにせよ、ヤツの中で何かが変わったんじゃろう。パンツを被りはじめたのも、その頃じゃったかな。ワシはやめろと言ったんだが、どうにもこうにも聞く耳持たぬって感じで……」

 

 

栗まんじゅう、おかわり。

 

 

「結局、その姿を写真に撮られてからは、連絡もつかず。今になって名前を聞いたと思ったら警察の人が探しておると」

 

「では、居場所に心当たりは?」

 

「さあ。どこじゃろうな。昔から変わった男だったので、パチンコやら競馬場にいるときもあれば、図書館で本を読んだり、公園で絵を描いているときもあった」

 

 

滝黒が話を聞いている間、岳葉はズラリと並ぶ美容グッズを見ていた。

良神のグッズは凄く良質なのだと聞いたことがある。値段は高いが、他ではみない代物が沢山あった。

 

 

「あら、何かおさがし?」

 

「あ、いや……!」

 

 

巳里に話しかけられ、岳葉は固まる。

 

 

「彼女さんや、お母様にどうです? もちろん貴方が使ってもいいのよ」

 

「あー、あー……」

 

 

岳葉は断れない性格であった。ましてや巳里はとても綺麗だ。なんだか恥ずかしくなって、岳葉はつい頷いてしまった。

ざっと商品を見ると、リーズナブルなものが目に入る。同じくして思い出す言葉もあった。

 

 

「そ、そういえば、あの最近ッ、は、母が白髪が増えてきたと! と!」

 

「でしたらコチラの白髪染めはどうかしら? 一度染めると色素が髪に定着して、3年は染めなくても大丈夫なのよ」

 

「へ、へえ! それが6800円なんて、お、お、お得ッ、ですね!」

 

 

母のためだ。たまには良いだろう。

少しカモにされている気もするが、お買いあげである。

 

 

「ありがとう。どうかしら? 宅配もできますけれど」

 

「あ、じゃあ、それで」

 

「はい。ではコチラに住所をお願いしても?」

 

 

岳葉が住所を書き終え、良神のところに戻ると聴取は終わろうとしていた。

 

 

「お後によろしい栗まんじゅうゥッッ!!」

 

 

良神が無理やり栗まんじゅうをお口に突っ込んできた。

断りきれない二人はもぐもぐと美味しく頂いた。

 

 

「ところで刑事さん。ちょっと、相談があるんじゃが」

 

「はい?」

 

「ウチの受付係の姿が見えんのじゃわ。無断欠勤ってヤツだわな。ちょっと真面目な子だったもんで……」

 

「そうなんですか。その方のお名前は?」

 

「黒田くんは、黒田……」

 

 

良神は詰まる。

 

 

「いやですわ先生。黒田優子さんですよ」

 

「あぁ、そうじゃったな」

 

 

家に電話したが繋がらず。牛松を迎えに行かせたら不在のようで。

 

 

「捜索願は?」

 

「いやぁ! もしかしたらただちょっと疲れただけで、休みたくなったのかもしれん。刑事さんだって、そういう日もあるじゃろ?」

 

 

結果、様子を見ることに。何かあればすぐに連絡をしてくれということになった。

良神クリニックを出た二人は、すぐに隼世がアマゾンと戦った場所に向かう。

死体が隠されているというので、あからさまに怪しい海岸沿いの廃墟を調べた。

アマゾンたちがいる可能性もあったので、岳葉が前に出る。

息が止まりそうだった。頼むから出ないでくれと祈ること数分。臭いと血の痕で分かった。扉を開けると、雑に死体が放置されていた。

 

 

「立木さん、俺です。響也です」

 

 

岳葉が部屋の隅っこで栗まんじゅうをぶちまけている時、滝黒はバルドに連絡を入れていた。

 

 

「仮面ライダーによる殺人が発生しました。犠牲者だけではなく、ガイジたちや他の異常者も明らかに増えていますし、いよいよマリリンさんが作ったアレを使うときが来るかもしれません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

架奈(かな)ちゃんは可愛いね。

架奈ちゃんは綺麗だね。

架奈ちゃんはお姫様だね。

一人っ子だった彼女は、それはもう親にたっぷりと愛情を与えられた。

 

もともと優しい性格だったということもあって怒られたことはなかったし、わがままと言えば大好きなチョコレートをねだるくらいなもの。

それも両親は可愛いと思ったのか、高級なチョコレートをたっぷりと食べさせた。

 

架奈ちゃんは、二人組みの魔法少女が活躍するアニメが好きだった。

赤色の魔法少女はカッコよさを、紫色の少女は可愛らしさを強調した作風だった。

架奈は、紫色の魔法少女になりたかった。なりきり衣装を買って、口調を真似し、好きな食べ物をまねた。

架奈は、赤色の魔法少女が好きだったからだ。

 

小学生のとき、架奈は初めてのイジメを体験する。

同じクラスの男子生徒に悪口を言われたり、靴を隠されたれた。

今まで人の悪意に触れたことがなかった架奈にとって、それは心に大きな傷を作った。

後に分かったが、その男子は架奈のことが好きだったらしい。だからつい照れで、同時に振り向いて欲しくてちょっかいをかけたのだと。

 

男の子は本当に架奈のことが好きだった。

考えると胸が苦しくて、架奈に会えるからと熱が出た日も学校に行った。

だが架奈は違う。架奈は本当の本当に男の子が嫌いだった。

架奈は、『男の子』が嫌いだった。

 

 

架奈が中学生のとき、星火歌劇団という存在を知った。

女性が男装し、煌びやかなステージで歌って踊るというものだ。

架奈はそのミュージカルに熱中し、友人と一緒に何度も見に行った。

架奈はカオルという名前のスターが大好きだった。彼女のことを考えると胸がドキドキして、全身がカッと熱くなる。

架奈はたくさんカオルのグッズを買って、カオルと会える機会があると、両親に頼んで会場まで連れて行ってもらった。

ある日、カオルが男性歌手と結婚するというニュースが流れた。

架奈は目の前が真っ白になった。

 

 

中学三年生のとき、架奈はヒトミという少女と知り合った。

ヒトミは少し不良に見えたが、サバサバした性格で、架奈が男子からからかわれていると、ぶん殴ってまで助けてくれた。

架奈の人生で、初めてカオルを超える存在が現れた瞬間だった。

架奈はヒトミとすぐに仲良くなった。ヒトミはいい人だった。

半年ほど経ったある日、架奈はヒトミのお家に泊まった。架奈はヒトミと一緒にお風呂に入った。

その夜、架奈はヒトミに言った。

 

 

「わたし、ヒトミちゃんが好き」

 

「あたしもだよ」

 

 

翌日、架奈はヒトミに告白した。

 

 

「ありがとう架奈。でもごめん、あたしはノーマルだから、架奈のことをそういう目では見れない。でもこれからも友達なのは変わらないから。なんだったら、あたしの知り合いの男の子を紹介してあげよっか?」

 

 

架奈は学校に行かなくなった。高校生にはなれなかった。

 

 

ある日、架奈はアリスカフェのホームページを見つけた。

オープンまでにメンバーを募集しているらしい。架奈はとにかく今をどうにかしたかった。

男の人と触れ合うのは怖いけど、辛いけど、この町を出たかった。両親に心配をかけさせたくなかった。

勇気を振り絞り、電車で水野町に行ってお店のドアを叩いた。

架奈は可愛かった。すぐに採用になった。

チョコレートが大好きと言うと、名前はチョコちゃんになった。

 

アリスカフェはぼちぼちお客さんが来た。チョコは頑張って踊り、頑張って歌った。

見た目が地味なチョコではあったが、素材が良いのと、派手な女の子が嫌いな人たちも多かったので人気は出た。

とはいえチョコ側がNGだったので、よく怒られた。それでもチョコは頑張った。

わざわざ水野町に引っ越してくれた両親のためにも、頑張らねばと思ったのだ。

ご当地アイドルだからなのか、二ヶ月の間にいろいろな子が辞めて、いろいろな子が入ってきた。

ある日、新しい子がやってきた。

 

 

「どーもー、ケーキです! よろしくねっ!」

 

 

心に落雷が落ちた。

ひとめぼれだった。この人は伝説になる。本気でそう思った。

ある日チョコちゃんは、ミントちゃんに怒られた。

 

 

「いくらなんでも、握手のときにお客さんの顔を見ないなんてありえないよ!」

 

 

チョコちゃんは謝った。

周りは誰も助けてくれなかった。今までは。

 

 

「まあいいんじゃなーい? それがチョコちゃんの魅力ってもんじゃん」

 

 

ミントちゃんはチョコちゃんに謝った。

ケーキは皆の人気者だった。チョコちゃんはケーキにかばわれたことが嬉しくて、嬉しくて、その日はケーキの夢を見た。

ただチョコはケーキとは上手く喋れなかった。なんどか話しかけてくれたが、恥ずかしさと過去のトラウマからしどろもどろになってしまう。

そんな自分が嫌いだった。

 

でもある日、マッコリ姉さんがやってきた。

マッコリ姉さんはみんなよりもだいぶ年上で、スナックで働いてたところをオーナーに拾われたらしい。

 

 

「本当は寝たんだよ。なーんてウッソー! 私は年下派なんでーす! かわいいなーチョコは! 真っ赤になっちゃってぇ!」

 

 

マッコリ姉さんは豪快で、大人しいチョコを気遣ってよく喋りかけてくれた。

チョコはマッコリ姉さんに全てを話した。するとマッコリ姉さんはタバコをふかしながらチョコの背中をバシバシ叩いた。

 

 

「うっしゃ! 任せろ、応援してあげる!」

 

 

次の日、マッコリ姉さんはケーキを連れて、食事に連れてってくれた。

 

 

「あー! 良かったぁ!」

 

「え? え?」

 

 

そこでケーキは満面の笑顔でチョコを見た。

 

 

「ボク、チョコちゃんに嫌われてると思ってたからさぁ! 一緒にごはん行きたいって言ってくれて、安心だよぉ」

 

「そ、そんなっ! そんなことないよ! むしろッ、わたし、ケーキちゃんに憧れてて! だから変なこと言ったら軽蔑されるんじゃないかって……!」

 

「あははッ! しないしない。ボクはどんな子でも来るもの拒まないの!」

 

 

ケーキはパスタをむしゃむしゃ食べながら言ってくれた。

 

 

「ボクはチョコちゃん大好きだよ。だってどう考えてもALICEの女の子の中で一番可愛いもん」

 

「ざけんなケーキ、アタシがいるだろうが」

 

「マッコリ姉さんは女の子じゃないでしょ~」

 

「奢るのやーめた!」

 

「嘘だよぉー! マッコリ姉さんは一番キレイ!」

 

「なんでも食えよ二人ともー、お姉さんが全部払ってやるからなぁ!」

 

「やったー! って、あれ? どうしたのチョコちゃん」

 

「う、ううん! なんでもないの! ただちょっと目にゴミが入って……」

 

 

チョコは俯いていた。真っ赤になった顔を見られたくなかったらからだ。

それから三人は一緒に遊びに行った。映画やカラオケ、チョコは幸せだった。

ぽけーっとしながら、いつもケーキを見つめていた。

 

ケーキのしなやかな指が好きだった。

ケーキの美しい髪に見惚れた。ケーキの素敵な匂いを嗅いでドキドキした。

なによりもケーキのかっこいい姿にいつも憧れていた。誰とでもすぐに仲良くなって、遊園地に行ったときは絶叫マシンに乗っても笑っていた。

自分は怖くて震えていたら、無理して乗らなくていいよと言ってくれた。

 

 

『空気読めてなくてゴメンね』

 

 

そういうと、ケーキはチョコの頭を撫でて笑った。

 

 

『じゃあボクの前では一生空気なんて読まなくていいよ。ありのままで楽しめるようにしよーね?』

 

 

チョコちゃんは本当に嬉しかった。

その言葉のおかげで、気を遣わずに楽しめるようにもなってきた。

でもありのままを晒すことだけはできなかった。本当のわたしを知ったら、きっとあなたはわたしを嫌いになる。

だから夜、眠るときはいつも神様にお願いをした。

 

いい子にしますから。

どうか、どうか、ケーキちゃんの夢を視させてください。

ケーキちゃんと付き合える夢をわたしにください。

ある日、願いが叶った。

 

 

「貴女が好きです」

 

 

夕方の教室だった。

紅に照らされたそこは、二人だけの空間だ。そこでケーキが恥ずかしそうに告白してきた。

 

 

「わたしも、ずっと好きでした」

 

「でも、ボク……、女の子だよ」

 

「そんな関係ないよ! だってわたしは――」

 

 

鍵をかける。服を脱ぐ。

 

 

「ケーキちゃん、凄くきれい……」

 

「チョコちゃんだって。えへへ、やめてよ、ボク胸小さいから。そんなに見られると恥ずかしいヨ」

 

「でも、キレイなんだもん」

 

 

二人は肌を重ねた。

心臓の鼓動が交じり合う。もっと、もっと近くに感じたい。チョコはケーキを強く抱きしめた。

もっと、もっと欲しい。

ケーキの唇に自分の唇を――、重ねる前に目が覚めた。

 

チョコはその日、はじめて店を休んだ。ただひたすらベッドの中で丸まり、泣いた。

チョコは初めて神を恨んだ。自分が悪いことは分かっている。やさしい神様を恨むのは間違っている。

でもそれでも、彼女は恨むしかなかったのだ。

 

なぜならばそれは絶対に叶えてほしくなかった願いだったから。

夢は夢のまま。あの光景は絶対に叶わないものだったからだ。

ケーキとは一生、友達のまま。キスをすることは絶対にできない。

それを教えられた気がして、チョコちゃんはずっと泣き続けた。

 

 

「大丈夫? 辛くない?」

 

 

夜、ケーキが来てくれた。

チョコちゃんは泣きはらした顔で言った。なんでもない。

 

 

「何かあったら言ってね。ボクは絶対にチョコちゃんの味方だからね」

 

「ありがとう。でも本当に大丈夫だから。明日はちゃんと行くね」

 

 

夜は一緒にご飯を食べた。

 

 

「ケーキちゃんはさ、好きな男の人とかいるの?」

 

 

チョコは自分を呪った。

答えを知りたくないくせに、自分のアホ。

 

 

「うーん。なんかさぁ、そういうの面倒じゃない。ボクはいいかなー」

 

「え?」

 

「恋人とか結婚さぁ。そんなのよりマッコリ姉さんとチョコちゃんと遊んでるほうが7億倍たのしいし? っていうかさぁ将来一緒にルームシェアしようよぉ。一生一緒にいようぜーっ!」

 

 

チョコちゃんは次の日、仕事が終わったら神社に行って沢山お礼を言った。

神様ありがとう。ありがとう。ありがとう……。

 

 

なのに。なのに。

なのになのになのになのになのに――ッッ!

 

 

「おーい! ケーキぃ!」

 

 

涼霧が客席で手を振ると、敬喜はウインクを返した。

 

 

(どうしてまだいるのよ……! それにあんなに気安く名前を――)

 

 

チョコちゃんは自分でも少し驚いていた。

嫉妬とは、こんなに醜い感情なのか。こんなに重たい感情なのか。

 

 

「ねえマッコリ姉さん。ケーキちゃんと涼霧くんって、付き合ってるのかな?」

 

「え゛!? あ、あー、いやッ、付き合ってるっていうか、突きあってるっていうか、まあうーん! ど、どうだろう?」

 

「良かったね。ケーキちゃん。ふふ、とっても……、お似合いだし!」

 

「ちょ、チョコ……」

 

 

チョコはトイレの個室に入る。

トイレに入る前にチラリと涼霧を見た。ケーキの髪を触っていた。

気に入らなかった。でもそれは普通のことだ。でもそれは当然のことだ。

ケーキには幸せになる権利がある。ケーキは可愛いから、かっこいい人と付き合う資格がある。

涼霧には、チョコが一度も見たことがないケーキの裸を見る資格がある。

 

 

「うぅう゛うッゥ! けぇぎぢゃぁぁん……! ひっく! ぐっす! うぇええんっ!」

 

 

チョコは体を丸め、必死に声を抑えて泣いた。

 

一方ですぐ近くのスタッフ用、男子トイレ、

オーナーくらいしか使わないので休憩場所にはぴったりだ。

敬喜とマッコリ姉さんはタバコをふかしながら窓を開けて空を見ていた。

 

 

「アンタまだ涼霧くんと一緒に住んでるんだっけ」

 

「まーね」

 

「いやいや、でもアタシ的にはハッピーよ。あの子、本当に可愛くてドチャクソタイプ」

 

「ボクも女の子みたいで可愛いヨ?」

 

「男らしい可愛さがいいんだよ。それにアンタみたいなビッチじゃなくて、ウブさが良いの。あ、でも童貞じゃねーのか。クソ!」

 

「でもさぁ、さっき涼霧くん。マッコリ姉さんのこと見て赤くなってたよ。ソワソワしてたし、変なことしてないよね?」

 

「別に。ただちょっとどさくさに紛れてキスしただけよ」

 

「それは、変なことダヨ」

 

「あー、マジ涼霧くんかわいいわー。次はもっと舌入れてー」

 

「やめたげなよ。姉さんお口臭いじゃん」

 

「ブチ殺すぞクソガキ。ちゃんと良神んトコのタブレット飲んどるわ」

 

「確かに。タバコの香り全然しなーい。いーにおーい!」

 

「ってかさぁ。最近いまひとつチョコの元気がねぇよなぁ……?」

 

「姉さんパワハラしてないでしょーね? ボクはチョコちゃんの味方するよ!」

 

「してるわけねーだろ。アンタが涼霧くんと仲良いのに妬いてんのよ。お前が悪いんだ。ってなわけで涼霧くんよこせ。寝取らせろ」

 

「……えへっ! 彼がボクの魅力から離れられるとは思えないけどなぁ!」

 

「チョコはさぁ、涼霧くんがアンタの初彼氏だと思ってんじゃない? ってか前聞いたけど、いつの間にかアンタ休日はピアノ演奏や美術館巡りを楽しんでるって設定になってたわよ」

 

「それはチョコちゃんが悪い! 美化しすぎだよ!」

 

「ホントよねー。セックスか注射打ってるかの二択でしょ?」

 

「言いかた悪いなぁ! 誤解だよっ! まあ否定はしないケド」

 

「えー? っていうか、ちょっと待って。涼霧くんとまだヤってんの? それはアタシも嫉妬するわ」

 

「えーっと、ちょっと待ってね。そうそう昨日はボク三回もイッちゃった」

 

「あ? なんじゃそれ」

 

「カレンダーのアプリだよ。ボクがヤッた人と、イッた回数を記録してるの。通称メス●キカレンダー!」

 

「お前それぜってーチョコに見せんなよ! おいちょっと待て! 八百屋のオヤジとヤッてんじゃん!」

 

「うん。だから安くしてもらってるの! ア●ル割りって呼んでるんだけど……!」

 

「あー! だからあそこの奥さん、最近薬局で痔の薬、山ほど買ってんだ!」

 

「ボクの魅力が、一組の夫婦生活のあり方を大きく変えてしまったようだね。てへっ!」

 

 

グダグダやって、シャキッと歌って踊ったら仕事が終わった。

 

 

「大丈夫だよ。拒絶反応は起こってない」

 

「ん! ありがとっ!」

 

 

良神クリニック。

仕事終わりにケーキは立ち寄り、メンテナンスを行っていた。

真白はお皿に乗っている大量の栗まんじゅうを一瞬だけ見て、すぐにコーヒーに手を伸ばした。

 

 

「栗ハラでしょ。訴えれば?」

 

「嫌いじゃないけど、五個も食べれば十分だよ」

 

「ねえー真白先生ぇ、ボク最近さぁ、体を鍛えててさぁ、なんか薬の効きが悪いような気がするんだよぉ」

 

「えー? ダメだよ。ちゃんと用量は守らないと」

 

「ぶー! あ、ところでさ、今日黒田さんは? いないよね?」

 

「あぁ、無断欠勤で。珍しいよね。家にもいないみたいなんだ」

 

「え? 大丈夫なの?」

 

「ちょっと様子をみようかなって。明日また無断欠勤するようなら警察に相談しにいくよ」

 

 

ロビーに戻ると、牛松が上半身裸でポーズをとっていた。それを涼霧が汗を浮かべて見ている。

 

 

「マッソッッッ! ンンンンン! マッスルゥウウウウ!」

 

「こういうのが嫌になったんでしょ、黒田さん」

 

「そう言わないで。今日は牛松さんが二人を送っていくから」

 

「どうしたのさ急に」

 

「いや、ほら、今日のニュースで海岸沿いの廃墟で死体が見つかったってニュースがあったでしょ? 最近水野町も物騒になってきたし」

 

 

こうして敬喜と涼霧は、牛松と一緒に夜の水野町を歩く。

 

 

「牛松さん。最近さぁ、前よりも仕上がってきたよね」

 

「まあね! 僕の夢は鋼の肉体を手に入れることなんだ。涼霧くんはどうなんだい? こういうのに興味は?」

 

「い、いやぁ! オレはもっと、なんていうか中性的なやつが好きで」

 

「それは残念! ハッハッハ!」

 

 

牛松は大きく手をふって歩いていた。

 

 

「そういえば敬喜ちゃんと涼霧くんは付き合ってるのかな?」

 

「え? えーっと」

 

 

どうなんだろう? 涼霧が少し赤くなって敬喜を見る。

敬喜は曖昧に目を逸らしていた。

 

 

「恋愛はいいぞぉ! 僕なんて今、彼女が妊娠中でね」

 

「へえ! どうやって知り合ったの?」

 

「僕がSNSで筋肉の写真をアップしたらDMでね」

 

 

上腕が太ければ太いほど良いらしい。まさにピッタリな女性だと。

 

 

「だから最近はもっと重点的に上腕二頭筋を鍛えてるのさ! ホラ! 見てくれよ、この仕上がった僕のマッス――」

 

 

牛松は敬喜たちに自慢の腕を見せようと思った。

そこで牛松は、自分の右腕がなくなっていることに気づいた。

 

 

「えぇ……」

 

 

断面から血があふれる。

青ざめ、目を見開く涼霧と敬喜。

牛松の太い腕を掴んでいる化け物がいた。

 

 

「たまんねぇぜ! 鋼の肉体? 笑わせるよな!」

 

 

アマゾン・シグマはご機嫌であった。

山路の意向には背くことになるが、それは射精の直前で邪魔をされたからだ。これは仕方ないことなのだ。

今までも適当な一般人を狙ったのは数回あった。今回もその一つでしかない。アマゾンサイズという斧は、簡単に牛松の腕を切断できた。

いいおもちゃだ。もっと、もっともっと使いたくなる。

 

 

「に、逃げろ! 逃げるんだ!!」

 

 

牛松は勇敢な男であった。

激痛を無視し、若い命を守ろうと、たった一本の腕で化け物に立ち向かった。

結果、すぐにもう一本の腕が地面に落ちる。

 

 

「NOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

 

牛松は叫び、倒れ、すぐに動かなくなった。

 

 

(牛松さん――ッ!)

 

 

あまりにも一瞬のことで、敬喜はそこでようやく自分がしくじったのだと理解した。

 

 

「涼霧くん。逃げて」

 

「で、でもッ!」

 

「早く!」

 

 

涼霧は頷くと、がむしゃらに走り出す。

それを見たシグマは呆れたように首を振った。分からないのか? 逃げても無駄だということが。

 

 

「まあでもいいか。バラすんなら、美人の方が良い」

 

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。まあでも――……」

 

 

敬喜はベルトを出現させる。

 

 

「お前は許さないよ」

 

 

光のベールが背後に出現し、顔が半分、また半分、変わっていく。

そして最後にパーフェクターを装着し、仮面ライダーXへと変身する。

シグマはエックスライダーを見たとたん指を鳴らし、飛び跳ね、喜んだ。あのとき刻めなかった仮面ライダーを刻める。

寸止めじゃなくて、射精ができる。

 

 

「ライドルホイップ!」

 

 

エックスはライドルを引き抜くと、走りだす。

シグマも鎌を構えて走り出した。すぐに二人の武器がぶつかり合う音が響く。

レイピア状とは言えど『斬る』ことも可能なのか、銀の閃が幾重も走った。二人はもみ合い、位置を変え、斬り合いながら移動していく。

 

そのなかでシグマは力任せに鎌を振るった。

姿勢を低くして走るエックス、鎌は頭上を通り過ぎ、どこぞの塀を削った。

尚も力を込めるシグマ。強引にエックスを叩き割ろうとしたのだが、流石に岩の壁の途中で鎌が止まった。

 

 

「うぐッ!」

 

 

シグマの装甲から火花が上がり、鎌から腕が離れた。

エックスは体を翻しながら起こし、突きを行いながら前に出ていた。

だがシグマに突きが入ったのは最初だけだった。軌道は読まれ、体を反らして回避する。

しかしエックスもまた読まれることを想定し、蹴りを用意していた。

 

 

「チッ!」

 

 

シグマはエックスのキックを避けきれず、胸に受ける。

エックスはチャンスと察したのか、踏み込んだ渾身の突きを繰り出した。しかしシグマはよろけた勢いで、思い切り後ろへバックステップ。

剣先はシグマには届かない。しかしそこで風が吹いた。エックスのマフラーを揺らす。

 

 

「ライドル・ロングポール」

 

 

シグマは胸のど真ん中、心臓に衝撃を感じていた。

ライドルが太くなり、伸びたのだ。まるで如意棒や物干し竿だ。その棒先がしっかりとシグマを捉えていたわけだ。

さらにエックスはライドルでシグマを怯ませた後、『X』の文字を描いた。

空中に留まったローマ字は、そのままエネルギー弾となって発射。シグマに直撃すると、爆発して吹き飛ばす。

 

 

「いいねぇ! こうじゃないとッ! 刻み甲斐がないもんなァア!」

 

 

痛みが、焦りが、幾ばくの恐怖がシグマを興奮させた。

走る。それも驚異的なスピードで。エックスはすぐにライドルを短鞭に戻すが、もう遅い。

シグマは加速に拳を乗せていた。まさに弾丸を打ち込むようにしてエックスを殴りつける。

エックスの体が思わず反転して浮き上がるほどの衝撃だ。

武器を落とし、バク宙で飛んでいくエックスをシグマはすぐに追いかけた。

 

 

「ツッ! ハッウ!」

 

 

地面に足裏が擦れる。エックスが地面に立ったとき、そこは砂浜だった。

足場が悪い、そもそも既に腹部にシグマの拳があった。

呼吸が止まる。すぐに振り払おうとして、エックスは腕が空を切るのを感じた。

シグマは体を捻り、跳躍していたのだ。そのまま飛び回し蹴りでエックスを狙う。

 

 

「キャア!」

 

 

エックスは両腕を盾にして足を防御したが、衝撃が強すぎて上体が後ろに反る。

そのまま後ろのめりで強制後退。一方のシグマはアクセラーグリップを捻り、必殺技を発動させた。

 

 

『VIOLENT――』

 

「よせ!」

 

「あー?」

 

 

声がした。そちらを見ると、シグマは大きなため息をつく。

 

 

「クソ! またお前かよ!」

 

 

そこにいたのは、仮面ライダー。

 

 

「ま、また? またって? いやッ、い――ッ! と、とにかくッ、お前! やめろ!」

 

「ん? 誰だ……、おまえ」

 

 

同じだと思ったら違った。

それもそのはず。そこにいたのは仮面ライダー1号なのだ。

 

 

(あ、あれが、アマゾン……! 確か、あれはッ、アマゾンズだった。アマゾンズ、シグマ? アルファだっけ?)

 

 

岳葉の具合は最悪だった。

始まりはまさに偶然だった。偶然町を歩いていたら、涼霧を見つけた。

酷く怯えているようだったので、はじめは無視をしようと思ったが、岳葉はそこで自分の役割を思い出した。

 

最悪だった。コミュ障が怯えているイケメンに声をかける。

何かがおきないワケがない。そして危惧していた通り、彼は化け物に襲われていた。だから助けを呼んでくれと。

無視したかった。無視したかったが――、岳葉は来てしまった。

足がガクガク震える。とりあえず、止めろと叫んでみた。

 

 

「最高だぜ。獲物が増えた……! 金玉がカラになっちまうよ」

 

 

帰りたくなった。止めろと言われて止めるヤツではないと分かったからだ。

それでも危険人物が分かっただけ、まだマシなのか。

 

 

「えッ、エックス……! だよな? アンタは悪い人なのか!?」

 

 

砂浜に倒れていたエックスは、ムクリと起き上がる。

 

 

「小悪魔系とはよく言われるけど、そこまで道徳の成績は悪い方じゃないとおもうヨ」

 

「だったら協力してくれ――ッ! 俺じゃ、俺一人じゃ! ぜ、絶対アイツに勝てない!」

 

「もー、頼りない王子さまだなぁ」

 

 

とはいえ、エックスは1号の隣に並び立つ。

 

 

「よろしくね、1号さん」

 

「あ、ああ。よろしく頼むぜッ、ダブルライダー……!!」

 

 

 

 

 




tips 『ルミちの三行日記』


9日(金)

・わんわんとふれあった。かわいかった
・ひるねした
・肉じゃがをつくった。天才かもしれない。ごはんをおかわりした。

10日(土)

・にゃんにゃんとふれあった。いやされた
・イッチーとスケベがしたい
・昨日あまった肉じゃがを食べた。まだなお美味い

11日(日)

・肉じゃがを作った。アタシはやはり天才だった。
・肉じゃがをイッチーに食わせた。うまいうまいとほめてくれた。とってもうれしい
・肉じゃがを食べた。めしがすすむ

12日(月)

・肉じゃがに飽きた。もう二度と食べたくない
・ひるねした
・4キロ太っていた。たぶん体重計が壊れてる


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