仮面ライダー 虚栄のプラナリア   作:ホシボシ

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第6話 鋼鉄の深海魚

 

 

シグマが笑いながら走ってくる。そのとき、1号の脳裏にフラッシュバックが起きた。

それは殺意の塊だ。まさにあの時のカーリーの笑顔が迫ってくるような感覚だった。

だから1号は叫び、すぐに踵を返して走り出す。

 

 

「ちょ! ちょっとぉ! どこ行くの!?」

 

 

1号はエックスを置いて全速力で逃げ出した。

 

 

「んもー! なんでだよぉー!」

 

 

エックスは仕方なく、襲い掛かるシグマを受け止めようと試みる。

まず右手の爪が振るわれた。エックスはそれを左腕でガードするが、シグマはさらに早いスピードで左爪を振り下ろす。

エックスの右からから左わき腹まで刻まれる斬撃。火花が散って、うめき声が漏れる。

 

 

「ばかーっ! 傷ついたらどうしてくれるのさぁ! 真っ白な肌がボクの自慢なのにぃ!」

 

 

シグマは興奮しながらエックスの肩を掴み、首に噛み付こうとする。

エックスはそれを拒むためにシグマの頭を抑え、後退していった。

だが力が強い。どうすればいいかを考えていると、激しい光を背後に感じた。

 

 

「グアァアァア!」

 

 

エックスは背中だが、シグマは前だ。

光を見てしまったのか、目を押さえてエックスから離れる。

聞こえてくるのはエンジン音。エックスが反射的に砂浜を転がって左へはけると、そこを通り抜ける一台のバイク。

サイクロンだ。1号はアクセルグリップを捻って、猛スピードで砂浜を駆ける。

ライダーマシンは悪路なんてなんのその。サイクロンはそのまま目を覆っているシグマへ直撃した。

 

 

「グォオアァア!」

 

 

シグマは吹っ飛び、真っ暗な海へ着水する。

バイクにまたがっている1号は嫌な汗を感じ、ハンドルに持たれかかってうなだれる。

そこへエックスが駆け寄ってきた。

 

 

「ナイスアタック!」

 

「あ、あのッ、俺、俺ッ! 昔いろいろあって、戦うときああなるけどッ! その、悪いッ! ビクってなって最悪なこと思い出してギャーってなって、それから、それから……! あ、いやッ、違う。違う。とにかくコレ、コレッ!」

 

 

実は事前に耳打ちをしていた。

もし余裕があったらでいいので、落としたライドルを回収したいと。

1号は逃げたあと、我に返り、ライドルを拾って戻ってきたのだ。

 

 

「よく分かんないけど、ありがと!」

 

 

エックスはライドルをロープに変えると、それを投げた。

ライドルは意思をもったように動き、伸び、体を起こしたシグマの首に巻きつく。

 

 

「うッ ゲェエ!」

 

「こんのッッ!」

 

 

エックスがロープを引くと、シグマは強制的に立ち上がり、前に出る。

 

 

「おりゃあああ!」

 

 

エックスがロープを思い切り振るう。

すると縛られていたシグマも体勢を崩し、砂浜に顔面から突っ込んだ。

既に海水をたくさん飲んでいたのか、シグマは咳き込みながら立ち上がる。すると既にエックスが距離をつめていた。

まずは短鞭に変えたライドルを上から下に振り下ろす。怯んだところで、渾身の突きを打ち込んだ。

そして、よろけて後退していくところへ1号が突っ込んでいく。

 

 

「はッ、ハァアア!」

 

「グアァアア!」

 

 

がむしゃらなドロップキック。

不恰好な一撃だが、シグマは大きく吹き飛び、背中から砂浜に直撃した。

そこでエックスが前に出て、ライドルをスティック(ロッド)に変える。

そしてXの文字をなぞると、複眼が赤く光り輝いた。

 

 

「よっしゃー! 決めちゃうぞぉ!」

 

 

エックスはライドルを思い切り上に投げる。

ピースサインを一瞬だけ浮かべ、すぐにジャンプ。

空中に留まっているライドルを両手で掴んだ。そして後ろへ回転。まさにそれは鉄棒の大車輪だ。

勢いがつくとエックスは腕を放し、宙を舞う。

 

 

「えーっくすぅ!」

 

 

両手両足を思い切り広げると、一瞬だけXの文字が浮かび上がった。

そして右足を突き出すと、足裏にX型のエネルギーオーラがまとわりつき、回転を行う。

 

 

「きぃーっく!」

 

「ガアアアアアアア!」

 

 

気の抜けた声ではあったが、強化された飛び蹴りは確実にシグマを捉えた。

シグマのエネルギーが暴走し、爆発。

変身が解除され、トンボくんは砂浜を凄まじい勢いで転がっていく。

 

 

「クソ! ちくしょうがァ!」

 

 

トンボくんは素早く体を起こすと、全速力で走り出す。

確保しなければ。すぐに追いかけようとするが、お腹に穴が開いていることに気づいた。臓器がたくさんこぼれていく。

 

 

「うわぁあああああああああ! ワッ! ワァ! ヒィィィ!」

 

「え!?」

 

 

エックスは1号を見る。

変身が解除された岳葉は、ピタリと叫び声を止めていた。汗を浮かべてお腹を押さえている。

穴は開いていなかった。なんともなかった。ただ昔を思い出しただけだ。記憶がごっちゃになっていただけだ。

 

 

「大丈夫?」

 

 

エックスは変身を解除すると、岳葉に手を差し出した

 

 

(うッ! かわいい! こんな女の子が仮面ライダーになってたのか!)

 

 

岳葉は頬を染めて、敬喜の手を取る。すごく柔らかい手だった。

 

 

「ちょっと悪いけど、ボク先に行くから! 知り合いがいるし、じゃあね!」

 

 

敬喜はすぐに走る。

すぐに物陰に隠れていた涼霧を見つけ、合流した。

とにかく牛松が心配だ。敬喜たちはすぐに牛松が倒れていた場所を探すが、そこには血の痕と切り落とされた二つの腕があるだけで、牛松自身はどこにもいなかった。

 

 

「そんな……!」

 

 

一体なにが起こっているんだ?

敬喜は戸惑い、岳葉が来るまで動くことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

座薬くんは、自由時間をどうするかを考えていた。

しかしなんというか、気分はいい。2号をみんなで倒した。その結束と興奮は今もなお、彼を熱くさせる。

この興奮をもっと快楽に昇華させたい。そうだ、久しぶりに女性を犯そうと座薬くんは決めた。

 

夜の水野町を歩いていると、よさげな若い女性を見つけた。

女子高生、コンビニに夜食を買いにいった帰りだろう。座薬くんは彼女のア●ルを頂戴することを決めた。

大丈夫優しくするから。そう想い、足を進め――

 

 

「ムッ!?」

 

 

足を、止めた。

これは、ホラ貝の音? 何かが聞こえる。

 

 

『ソイヤ!』『メロンアームズ!』『天・下・御・免――!』

 

 

座薬くんの前に、白いスーツに緑の甲冑を着込んだ鎧武者が現れる。

 

 

「何者だ?」

 

「………」

 

 

答えない。

座薬くんは仮面ライダーのことを全く知らなかったが、彼の前に現れた鎧武者もまた仮面ライダーの一人であった。

斬月(ざんげつ)。左手にメロンディフェンダーを構え、右手で無双セイバーを抜く。

 

 

「美しい……!」

 

 

その煌びやかな姿に見とれるが、座薬くんはすぐに斬月から放たれる異様な殺意を感じ取った。

だが幸いにも2号を見たあとだ。座薬くんにそれほど混乱はなかった。

 

 

「私にはアナルが待っている。悪いが、キミに構っている時間はない!」

 

「………」

 

 

アマゾンズドライバーを装着し、変身。

オメガに変わる座薬くん。熱波を受けても斬月は不動であった。

オメガはまずは挨拶代わりに、高速で近づき、フックをお見舞いする。

しかしやはりというべきか。斬月はご自慢の盾でそれをしっかりと受け止めていた。

 

良い盾だ。オメガはそう思う。

殴ってみたが、破れる気がしない。むしろ殴りつけた拳が悲鳴をあげているのがよく分かる。

盾がすぐに迫ってきた。シールドバッシュでオメガを打つと、斬月はすぐに刀を上から下へ、もう一度上から下へ。

右から左、左から右と素早く刀を振るう。オメガの肉体から火花があがり、よろける。

 

すると斬月は走り出した。

特筆するべきはそのスピードだ。黄緑色の風を纏い、残像を残しながら一瞬でオメガの背後に移動する。

オメガが腕を後ろへ振ったが、既に斬月の姿はない。高速で移動しながら刀を振って、オメガに傷をつけていく。

 

 

「ナメるなよッッ!」

 

 

オメガは斬月の動きを予測し、攻撃を置いた。

しかしヒットの感触はない。オメガの裏拳を、斬月はバックステップで回避していた。

さらに空中にいるとき、斬月は盾から手を離し、無双セイバーのレバーを引いていた。

セットされる弾丸。引き金をひくと、銃口から光弾が発射されてオメガに命中する。

 

着地した斬月は、尚も弾丸を発射しながら前進。落とした盾を拾って投げた。

投擲されたメロンディフェンダーは回転しながらオメガに直撃。

その衝撃で再び斬月のもとまで戻ると、斬月はもう一度掴んだ盾を投げた。

盾が当たる。跳ね返って斬月が掴む。また投げる。

これが三回続いたあと、斬月は盾を投げ捨てた。

そして戦極ドライバーにセットされていたロックシードを抜くと、それを無双セイバーにセットする。

 

 

『ロック・オン!』『イチ! ジュウ! ヒャク!』

 

 

斬月は刀を構え、腰を落とす。

一方でオメガは怒りに体を震わせ、レバーを掴んで走り出した。

 

 

「ウォオオオ!」『VIOLENT・PUNISH!』

 

「………」『メロンチャージ!』

 

 

オメガは斬月を素通りした。

やがて肉体は倒れ、空中を舞っていたオメガの首が地面に落ちた。

変身が解除される。斬月は座薬くんの頭を蹴り飛ばし、落ちていたアマゾンズドライバーを毟り取ってどこかに消えていった。

 

 

 

 

 

 

(え……?)

 

 

黒田は目を覚ました。よく分からない場所にいた。

まず、暗い。暗いが真っ暗ではない。間接照明が照らすいろいろな機械。あれはなんだろう? よく分からない。

黒田は声が出ないことに気づいた。なぜか下半身だけ裸だということに気づいた。

体が動かないことに気づいた。横向きで寝転んでいることに気づいた。

視線の先に別の女性が寝転んでいることに気づいた。

知らない顔だ。女性は全裸で、口をパクパクさせて眼球はキョロキョロとしている。

 

 

「アゥ……ァ、ア――ッ」

 

 

女性はどうやら薬か何かで喋れないし、動けないのだろうと思った。

黒田は自分も彼女と同じ状況にあるのだと理解した。

どうしてこうなったのかは覚えていない。いつものように仕事が終わって、帰って、ご飯を食べて、お風呂に入って、そこで記憶が途切れている。

 

今までもそういう時は何度かはあった。

寝ているときに勝手に動いて冷蔵庫で何かを食べていたらしい。

夢遊病というヤツだ、医者はいじめられたショックから無意識に暴飲暴食をしているのだと言っていた。

 

しかし今回は違う。明らかに違う。

黒田は何とか状況を把握しようと、力を込める。なんとか顔が少しだけ動いた。

すると気づいた。女性は大の字になって寝転んでいるのだが、股の間から何かが伸びている。

ノコギリだ。そして女性のそばに、誰かが立っていた。女性だろうか? なんだかトカゲのような顔だった。

トカゲ面の女は、ベッドにあるスイッチを押す。すると女性の股の間にあるノコギリが回転を始めた。

まさか。そんな。嘘。真っ青になる黒田。しかし動けない。喋れない。

逃げてと叫んだつもりでも、音は何も出ていない。

 

 

「――ァ」

 

 

大の字で寝転んでいた女性も真っ青になった。

目からは涙がこぼれていた。力を込めているのだろう。少し震えていた。

 

 

「だ――……ず、げ……、で」

 

 

ノコギリが動き出した。女性の股間部分に回転する刃が触れ、肉が飛び散っていく。

 

 

(イヤァア゛アァアアァアアアアァアア!!)

 

 

黒田の目の前で、女性が両断されていく。

臓器や脳の断面を見たとき、黒田はショックから気絶した。

次は自分の番だと思ったからだ。脳が彼女を守るため、深い眠りへといざなった。耳の奥にはまだ起動し続けるチェーンソーの音が聞こえている。

 

 

 

 

朝。

 

 

「よっしゃあ! 俺はおまんこブラザーズのカイト! こっちは弟のマサヤ! よろしくな!」

 

「おいおい兄さん。テンション高すぎだっつうの! 見ちゃらんねーぜ」

 

「やれやれ素直じゃねーなぁ。まあいいや、でも、その方がお前らしい」

 

「兄さんこそ。ビビッて、ないよな?」

 

「ったりめぇだろ。よし、行くぞ!」

 

「「おまんこ! レディィィィィィ! サクセスッッ!!」」

 

「うるせェエエエエエ!」

 

 

立木のボディブローが二発。それでブラザーズは動かなくなった。

 

 

「何がマンコだゴラァ! やかましいわバカタレ共が!」

 

 

おまけに蹴りを入れると、ブラザーズはうめき声をあげるだけで大人しくなった。

すぐに警官たちがブラザーズを取り押さえ、手錠をかける。パトカーに押し込むなかで、やっと兄が口を開いた。

 

 

「アンタは何も分かってない! 俺はおまんこブラザーズであり、おまんこブラザーズにあらず。その名は、イモータルガイジ!」

 

「俺だってそうさ。スパークリングガイジこそ俺の真の名前なんだ!」

 

 

立木はもう一発ずつブラザーズを殴った。

ブラザーズはパトカーに乗って、運ばれていった。

兄弟でやっているラーメン屋で事件は起こった。兄がスープに、弟がお冷に除草剤を入れて、客に提供したのだ。

味がおかしいと逃げた客が警察に相談したので発覚されたという流れである。

現場検証が行われるなか、マリリンはつまらなそうに腕をくんでいた。

 

 

「ねえ知ってる? 人間は危機的な状況になると下ネタを口ずさむ回数が増えるそうよ。極度の疲労や、生命の危険が人間の生存本能――、つまり子を残そうとする本能を呼び起こすらしいのよ」

 

「あいつらがそうだってか? 冗談だろ。それにガイジたちは別に全員が下ネタ野郎ってわけじゃねーし」

 

 

ただ、ガイジたちには何か共通点がある。立木はそれを信じていた。

分かったこともある。まずは全員、20代以上であること。一部17歳や18歳がいたが、逆を言えば限りなく少ない。

あと男性のほうが多い印象を受けた。

 

 

「マリリン。報告は聞いたか?」

 

「えー? 私そういうの興味なくて」

 

「向こうでまた惨殺死体が見つかったらしい」

 

「え! 本当!? 教えて教えて!」

 

「犯人はアマゾンだ」

 

「通販サイト?」

 

「バカが。調べとけって言っただろ。仮面ライダーだよ」

 

 

立木はカウンターの椅子に座ると、イライラしたように貧乏ゆすりを行う。

 

 

「結局、また虚栄のプラナリアが繰り返されるってことだ。本間岳葉のほうは仮面ライダーXと接触したらしい。女だそうだ」

 

「わお! うらやましい!」

 

「ストロンガーはともかく、こうなってくるとライダーマンもいるだろな」

 

 

立木は大きなため息をついて、頭をかいた。

 

 

 

 

 

市原くん。お元気ですか? アタシは元気にやっています。

携帯がないので少し暇ですが、テレビは見れます。新聞も読めます。少し賢くなりました。

なんでも昨日は海外の王子様がプライベートジェットで極秘来日していた可能性があるとかないとか。

しかも水野町に来ていたかもしれないって。

かもなので、来てないかもしれないけど、来ていたら凄いですよね。王様が何をするんでしょうか?

 

そうそう、ここでの暮らしは悪くはありません。お風呂はとても広かったです。

珠菜ちゃんはアタシのお友達で、妹みたいな存在です。

アタシはお姉ちゃんしかいないので、珠菜ちゃんはとっても可愛いです。

それに凄く優しいです。ベッドは譲ってくれました。

今日も、朝ごはんにイチゴをくれました。

とっても甘いです。

 

 

「だすよっ!? 珠菜たんのふにふにほっぺと同じくらい柔らかくて甘いイチゴにたっぷり出すよ!?」

 

「うんっ、いいよ? いっぱい出して?」

 

「出る――ッ! 出るゥ! 出るゥウウ! ウグゥウウァあッ!」

 

 

練乳が、いちごにかかる。

 

 

「はぁはぁはぁ!」

 

 

呼吸の荒い志亞を、珠菜は優しくなでた。

 

 

「ありがとう。いっぱい出たね」

 

「うんっ! うん!」

 

(普通に絞れよ……)

 

 

ルミは引きつった表情でいちごを食べていた。

 

 

「ん? なんだ? まんさん。何かオレに文句があるのか?」

 

「い、いや! ぜんぜんっ! めっそうもござぁせん!」

 

 

いちごを食べ終わると、志亞は食器を運びにいった。

ふたりきりだ。ルミは汗を浮かべて、珠菜を見る。

 

 

「ねえ、ヤバくない? ヤバヤバじゃない?」

 

「うーん、ちょっと驚いたけど、まあいいかなって」

 

 

猫や犬、赤ちゃんに接するとき、人は声色や口調を変える。

優しく、穏やかに。時には周りから見て間抜けに見えることもある。

志亞も、そういうものだと珠菜は思っていた。

 

 

「そ、そうかなぁ?」

 

 

そこでルミはハッと何かを思い出す。

 

 

「ねえ、そういえばさ。昨日お屋敷で知らない人とすれ違ったんだけど、あの人だれ?」

 

 

向こうが会釈をしてきたので、ルミも会釈を返したが……。

 

 

「分かりません。よくあることなんです」

 

「え?」

 

「お祖母ちゃんに会いに来た人です。もう一回来るかもしれないし、もう二度と来ないかもしれない」

 

「どゆこと?」

 

 

今で言う、宗教というヤツなのだろうか?

かつて水野町には怨霊が集まる岩があるらしく、そこで生まれたのがクイガミ様というものだった。

そのクイガミ様を本気で信じたのが珠菜の祖母だった。

 

財力のあった祖父が亡くなってからというもの、そのお金を元手にいろいろ始めていたようだ。

クイガミ様の絵を描いて奉ったり、怒りを抑えるためのお供えをしたり。

定期的にクイガミ様について話をしに行ったりもしているらしい。だからこの家にも信者らしき人たちがチラホラ来るのだとか。

 

 

「離れのお堂に、像があって。いつも祖母はそこに」

 

「へえ」

 

「わたしにはよく分かりません。お父さんとお母さんが事故で亡くなってから、お祖母ちゃんはもっとクイガミ様を信じるようになりました」

 

「そう、なんだ」

 

 

確かにルミも珠菜の祖母は見たことがなかった。

なにやら複雑な家庭環境のようだ。何を言っていいか分からず、ルミは黙ることしかできなかった。

そうしていると、志亞が戻ってくる。

 

 

「珠菜ちゃん。お皿、洗っておいたよ」

 

「ありがとうございます。何か、お礼させてください」

 

「え? な、なんでもいいのかな?」

 

「はい」

 

「じゃ、オレの――ッ、顔の上に座ってほしいんだけど……」

 

「うん。いいよ!」

 

「……キメェ」

 

「まんさん!? ねえ、まんさん!? なんて言ったの!!」

 

「ひぃぃぃい! ごめんなさいぃぃい!」

 

 

市原くん。

アタシは元気です。たぶん、元気です……。

 

 

「だいたいお前な、女のくせに気が利かないんだよ。普通はお前が食器を洗いにいくだろ。女のくせに偉そうに座るな。女のくせに――、お? なんだまんさん、その反抗的な目は。え? あっ、ごめんね珠菜ちゃん! いいの? ふわふわお尻の触感感じてもいいの? あっ! ふぁぁぁあ! はうぁぁ! やらかい! やらかいよぉ! 珠菜たんのおしりの下にいれるなんてっっ! あぁぁぁうううぁぁ!」

 

 

市原くん。早く助けに来てください。

 

 

「ねえ珠菜たん次はお腹にお顔つけていい? いいの!? やったぁ! はうぁ! 柔らかし! 珠菜たんの小学生ポンポンすごくふわふわで柔らかぅぁぁあ! ほわっ! ほあーっっ! ぽんぽんしゃいこぉぉぉぉお!!」

 

 

アタシはもう、限界です。

 

 

一方でその離れのお堂、珠菜の祖母・オババが深く頭を下げる。

 

 

「クイガミ様、本日のお供えでございます」

 

「ありがとう。下がっていいよ」

 

「ハッ!」

 

 

山路は食事を受け取ると、お堂の奥に戻る。

オババが頭の悪い人でよかったとおもう。たまたま変身後の姿を見られ、困ったなぁと思っていたらクイガミ様と敬ってくれた。

住むところも用意してくれて、山路たちは凄く助かっているのだ。

もらったフルーツや魚を食べながら、三人はいなくなった座薬くんについて話す。

 

 

「どこに行っちゃったのか」

 

「エックスや1号にやられたのかもな……!」

 

「し、心配ですね。にゅふふふ……」

 

「俺が探す」

 

 

山路は立ち上がり、一度トンボくんを睨む。

 

 

「キミと俺は他人だ。食の好みや、性癖が違うのは当然だ」

 

「ッ」

 

「でも、友達だから、なるべく好みが近いほうがいい」

 

「……ああ」

 

 

遠まわしな警告とトンボくんは受け取った。

その後、山路はお堂を出ると、座薬くんを探すことにした。

水野町を適当に歩いていると、ふと足を止める。

 

 

(あれ?)

 

 

すれ違った人を見た。

その人からは、今まで嗅いだことのない匂いがした。

良い匂いともいえるし、臭いともいえる。はじめての経験だった。山路は不思議に思って、その人の後をつけていくことにした。

そして橋の上にやってきた時だ。その人はゆっくりと振り返る。帽子を深く被っているため、顔はよく分からなかった。

 

 

「なにか?」

 

「人を捜していて。座薬くんって言うんですけど、知りませんか?」

 

「……さあ」

 

「もう一つ聞いてもいいですか? あなた、人を殺したこと、あります?」

 

「さあ。でも――」

 

 

女性の服が変わった。一瞬だった。

お姫様のようなドレスだ。ただし、シースルー。スケスケで、前がパックリと開いている。

その向こうには蛇柄のレーザースーツ。ボディラインがハッキリしていて、とてもセクシーだ。

美しい、なんてエロティックなんだ。山路はとても興奮していた。

気づいたらアマゾンに変身していた。

最後にその人はマスクを付けた。蛇のようなマスクだった。

 

 

「救ったことなら、あります」

 

 

その人の左腕がガトリングになっていた。

回転し、たっぷりと銃弾が発射される。痛い、痛い、苦しい。アマゾンは叫んだ。一瞬だけ死が見えた。

アマゾンは橋から落ちていた。その人も、特に追いかけることはしなかった。

 

 

 

 

 

「はーい、じゃあ今日も瑠姫先生とリセの言うことを聞いてねー!」

 

 

高岡(たかおか)という女性の言葉に、子供たちは一勢に返事をする。

少し緊張はしたが、瑠姫はすぐに慕われるようになった。

高岡託児所・『ひまわりの里』は、6歳までの子供のほかに、訳あって小学校に通えなくなった子供達の勉強や交流の場所として受け入れていた。

 

 

「みんなぁ、今日は海に行こうねぇ」

 

 

タレ目で、おっとりとしたメガネの少女が笑う。

高岡リセは園長の子供である。17歳で、このひまわりの里を手伝っている。

現在、小学生は三人いるが、彼らもお兄ちゃんとして子供達の面倒を見てくれていた。

 

 

「海に行くなら日焼け止めをもっていくべきです! 今日、日焼けをする確立は、間違いなく100%です!」

 

 

メガネをかけた男の子、ミッちゃんは担任の先生と合わず、不登校になってしまったらしい。

マンガが好きで、今は確立を口にするキャラクターの真似をして、頻繁にパーセンテージを持ち出してくる。

 

 

「海かぁ! 先生! 海に行けばトロくえますかぁ!」

 

 

ナオタは小学生にしては少々おデブな男の子だった。

食欲旺盛だが、学校では酷いいじめにあって不登校になってしまったらしい。

 

 

「姉ちゃん! 早く行こうぜー!」

 

 

正和(まさかず)はリセの弟である。

どうにもやる気が出ずに学校を休みがちで、不登校になってしまった。

とはいえ皆ひまわりの里では楽しそうだ。リセを中心に、子供たちは並んで海へ出発する。

 

 

「瑠姫せんせーは、好きな人いるのぉ?」

 

「いるよー。彼氏がねー」

 

「どんなひとー?」

 

「うーん、かっこ悪い人かなー」

 

「えー!?」

 

「でもねぇ、かっこ悪くて情けないけど……、私を助けてくれたんだ。だから私にとっては世界で一番かっこいい人なの」

 

 

子供たちははしゃぎ、瑠姫は少し照れたように笑う。

しかしすぐに表情が沈んだ。リセも気になっているのか、信号で止まっている間、声をかける。

 

 

「妹さんとはまだ?」

 

「ええ。連絡がつかなくて」

 

「心配ですねぇ」

 

「馬鹿な子だから心配なの。漫画喫茶にでも泊まっていればいいんだけど……」

 

 

信号が青になった。一同は歩き、川沿いの道を行く。

 

 

「ん!?」

 

 

先頭にいた正和が何かを発見し、走り出す。

 

 

「こらぁ、正和ぅ。ダメだよぉ、皆で行くのぉ!」

 

「ねえちゃーん! 人が溺れてる!」

 

「えぇー!?」

 

 

瑠姫たちが駆け寄ると、確かに川の中に人が倒れていた。

上半身は陸地に出ているため窒息はしていないようだが、みんなはパニックである。

 

 

「大丈夫!? とにかく引き上げましょう!」

 

 

瑠姫とリセが男性を引っ張りあげる。

すると、その男性はゆっくりと目を開けた。

 

 

「た、たたいへんです! とにかく溺れている可能性は――ッ! いや! そうじゃなくて救急車を呼ばないといけない確立は100%です!」

 

「確かに! ちょっと待っててね」

 

 

瑠姫が携帯を手に取ったときだ。少年が掌を前に出して、ストップのジェスチャーを取る。

 

 

「結構です」

 

「え!?」

 

「なんともないので」

 

「でもッ!」

 

 

確かに意識はハッキリとしているし、辛そうにも見えない。

しかし男性の服にはなぜか小さな穴がいくつも開いており、血のシミも見えた。

そもそも何ともなければ川のなかで気絶なんてしていない。

 

 

「病院が嫌いなんです」

 

「そんなこと言ってる場合じゃ――」

 

 

するとリセが瑠姫を止める。そして、笑顔で男性の前に出た。

 

 

「それじゃあ、私のお家で手当てをしますねぇ」

 

「それも結構です」

 

「いえいえぇ、遠慮しないでぇ、ほら行きましょぉ」

 

 

そう言ってリセは男性の腕をつかむと、グイグイ引っ張っていく。

 

 

「ちょっと……!」

 

「このまま貴方を行かせたら、私の気分が悪くなりますぅ。なのでぇ、ほらほらぁ」

 

「……ッ」

 

「私は高岡リセと言いますぅ。貴方ぁ、お名前はぁ?」

 

「山路です。よろしく」

 

「はいー。よろしくねぇ」

 

 

山路はそこで気づいた。

リセからは全く良い匂いがしない。エッチな気分にはならなかったが、なんだか酷く落ち着いた。

そうか、そうだ。違う。無臭じゃない。落ち着く匂いがするのだ。

山路はそこからは拒絶することなく、リセに連れられるがままになった。

こうして一同はひまわりの里に戻り、山路はそこで手当てを受けることに。

しかし服を脱がせて見て分かった。本当になんともない。傷の痕こそあれど、もう完全に塞がっている。

 

 

(どういうこと……?)

 

 

瑠姫は壁にもたれかかり、腕を組んで目を細めた。

一方で椅子に座っている山路を、正和はジッと見つめている。

 

 

「なんであんな所で寝てたの?」

 

「水浴びしてただけさ。それより、キミが俺を見つけてくれたんだよね? どうもありがとう」

 

「別にいいよー。困ったらどんな人間でも手を差し伸べろ。姉ちゃんがいつも言ってんだ」

 

「へえ……。よくできたお姉さんだね」

 

「真面目すぎんだよ。休みとかよくボランティアに行ってるんだぜ? ありえねぇだろ、お小遣いもなしで頑張るなんて、おれはムリ!」

 

 

そこでリセがお茶を持ってきた。

 

 

「どうぞぉ」

 

「リセさん。あなた、落ち着く香りがしますね」

 

「本当ですかぁ? 私ハーブ作るのが趣味で。そのおかげかもぉ。あ、これそのハーブを使ってるんですぅ」

 

 

山路はハーブティを受け取ると、ゴクゴクと。

 

 

「兄ちゃん。もっと味わって飲めよ」

 

 

呆れたような正和を見て、山路はごめんなさいと頭を下げた。

 

 

「ごちそうさまです。とてもいい香りでした。さてと」

 

 

立ち上がる。

 

 

「………」

 

「なにかぁ?」

 

「いや、俺は何をするべきだったのかなと」

 

 

瑠姫がハッとする。もしかして記憶障害? それを言うと、山路は首を振る。

 

 

「いえ、覚えてはいます。覚えてはいるんですが……。なんといえばいいのか、それをするべきなのか。それをする価値はあるのか。そう思ったんです」

 

「???」

 

 

座薬くんを探すことは、山路にとってどれだけ大切なのだろうか?

なんだかいきなりそう思った。それよりももっと今は、この空間にいたい……。かもしれない。

リセの傍にいて、彼女から香る安心する匂いをずっと嗅いでいたい。そう思った。

 

面白い経験だ。山路は自分でもそう思う。

だが考えてみればそれは当然のことなのかもしれない。今までは我武者羅に快楽を追いかけ、ずっとセックスをしてきた。

けれどもオナニーにせよセックスにせよ、射精には凄いエネルギーを使う。

なんだか最近疲れていたし、ここいらで『オナ禁』を挟んでもいいのかもしれない。

 

 

「もし良かったらぁ、この後、みんなでカレーを作るんですけどぉ、山路さんもどうですかぁ?」

 

「いいんですか? 嬉しいなぁ」

 

 

こうして山路は皆と一緒にキッチンに向かうことに。一方で、ふと瑠姫の傍に立つ。

 

 

「え? な、なんですか?」

 

「失礼ですが、貴女の匂いが合わないので、少し距離を取ると思います。不快に思ったらごめんなさい」

 

「はぁ……」

 

 

もしかして臭い? 瑠姫はショックに顔を歪め、それとなく自分の匂いを確認する。

 

 

「いえ、貴女の体臭や服の匂いではありません。心の匂いです」

 

「???」

 

「安心してください。人間誰だって、人を殺したくなる時はあります」

 

 

山路はそれだけを行って出て行った。

瑠姫は青ざめた顔で、しばらくその場に立ち尽くした。

 

 

それから、カレー作りが始まった。

とてもおだやかな時間だった。子供たちはまさに無垢。エッチな匂いなんてこれっぽっちもしない。

山路の股間はピクリともしなかった。

 

 

「たまねぎを切ると涙が出る確率は、100%です……! うぅ、ぐっす!」

 

 

山路はかわりに、たまねぎを切ってあげた。

 

 

「先生ー! 隠し味につかうりんご、食べちゃった!」

 

 

みんなと一緒に笑った。

 

 

「私ぃ、喋り方がおかしいでしょぉ?」

 

 

山路とリセが肩を並べて鍋を煮込んだとき、リセはそんなことを口にした。

 

 

「なんだかぁ、他の人とは少し違ってるみたいでぇ。ゆっくりじゃないとぉ、なんだか上手くいかないのぉ」

 

「へぇ」

 

「だからねぇ、もしもイライラしちゃったらぁ、ごめんなさいねぇ」

 

「別に。違っているからと言って否定するほうがおかしいんですよ」

 

「ありがとぉ、気を遣ってくれてねぇ」

 

「いえ、別に気を遣ってるわけじゃ――」

 

「私はねぇ、世界中の人たちが幸せに、笑顔で暮らせる世の中にするのが夢なのぉ。変かなぁ?」

 

「いや、とても素敵な夢です」

 

「ありがとぉ、だからねぇ、山路くんが笑顔だと、私も嬉しいなぁ」

 

 

なんて素晴らしい人なんだ。山路は感動した。

カレーもできた。味はよく分からなかったが、不味くはなかった。

皿を洗っていると、正和が隣にやってきた。

 

 

「なあお前、姉ちゃんが好きなのか?」

 

 

山路は正和を見た。

 

 

「どうして?」

 

「姉ちゃんと話してるときニヤニヤしてたぞ」

 

「気づかなかったなぁ」

 

「まあ、いいぜ。姉ちゃん今まで彼氏いたことなかったし、あんたでいいや。悪い人じゃなさそうだしな」

 

「嬉しいなぁ」

 

 

ニタリと山路は笑う。ここにいる人たちはみんなクリアで、透き通った匂いだ。

それに皆、助け合って、笑い合って、周りをよく見ている。

山路は居心地のよさを感じた。そういえば昔誰かが言っていた。『好きな人じゃ抜けない』と。

ははあ、なるほど。こういうことなのかぁと、山路は思った。

 

 

最近は理解のある世の中になってきた。

テレビではゲイのタレントがご意見番として活躍し、特殊な体質を特殊と思うことこそが間違いであると誰かが言っていた。

しかしLGBTは認められて、なぜロリコンが認められないのか?

それは最大の差別だ。志亞はずっとそんなことを考えてきた。

 

最近12歳差の芸能人夫婦が紹介されていた。

前田利家だって12歳の奥さんを貰っている。なのにどうして、なんで……。

志亞はなぜ毎日がつまらなかったのか、ようやく分かった。

どれだけ頑張っても、どれだけ努力しても、報われないからだ。

自分の苦しみは誰にも理解されない。それを嘆いていたのだ。

でも今は――……。

 

 

「名前は?」

 

「うん。ベイリーにしよかなって」

 

 

珠菜のやりたいことに、『ペット』を飼いたいというのがあった。

だから志亞はルミと共に町中を探して、なんとか野良猫を見つけてきたのだ。

まだ小さいから、珠菜にはすぐになついた。

 

 

「ゼェゼェ……!」

 

 

志亞はハリケーンがあったからいい。

しかし、ルミは足一つ。しかもご丁寧に出発前に――

 

 

『逃げたら殺す。真面目に探さなくても殺す』

 

 

そう言われていたので、必死に探した。

手に持っていたのは、ザリガニだった。

 

 

「まんさん……」

 

 

志亞の侮蔑に満ちたまなざしを、ルミは一生忘れないだろう。

ザリガニさんには悪いが、握りつぶさんとしたとき、珠菜が笑顔でザリガニを受け取った。

 

 

「ありがとうルミお姉ちゃん! ごめんね、わたしのために」

 

「はう! かわいい!」

 

 

珠菜は水槽を用意して、そこにザリガニさんを入れた。

一方でソワソワとしている志亞。お礼をしてもらえると思っているのだ。

だがそのお礼をなかなか言い出せない。なにがいい? 珠菜が聞いても、しどろもどろ。

 

 

「がまん、しないでね」

 

 

珠菜は慈愛に満ちた表情でそう言った。

その言葉は志亞の脳にまっすぐ届いた。だからお願いした。

 

 

「珠菜たんのお肌と、俺のお肌をくっつけたいの……」

 

 

数分後、志亞は全裸で珠菜のベッドに寝転んでいた。

珠菜のベッドに寝転んでいる。それだけで志亞は果てそうだった。

するとコンコンとノックの音、志亞はそれを合図に目を閉じる。すぐにガチャリと扉が開いて、珠菜が入ってきた。

 

 

「まだ目を開けないでね。はずかしいから……」

 

「う、うん」

 

 

モゾモゾと感触。

 

 

「じゃあ、いくね」

 

「うん……」

 

 

全裸の珠菜は、仰向けに寝ている志亞の上にうつ伏せになった。

要するに二人のお腹とお腹がピトリとくっつく形になる。

肌と肌が、触れ合った。

 

 

「あぐぁあ!」

 

 

射精。

 

 

「え!?」

 

「ご、ごめんっ! 珠菜たん――ッ!」

 

「あぁ、いいの。ちょっとビックリしただけ」

 

 

なんだか濡れた気がする。珠菜はふいに動いた。

動いたら、肌と肌がこすれあう。

 

 

「あぐぁあ!!」

 

 

射精。

 

 

「ご、ごめッッ!」

 

「えーっと、これは確か……」

 

 

珠菜は志亞の部屋で、小さな女の子がセックスするマンガを見せてもらった。

 

 

「気にしないで。だいじょうぶ、だいじょうぶだから」

 

 

そう言って、珠菜は志亞をギュッと抱きしめた。

志亞は目を開ける。かけ布団で隠しているため、肌は見えないが、抱きしめあうことでより強く密着する。

そうしていると耳に珠菜の吐息を感じた。

 

 

「あたたかい、ね」

 

「………」

 

 

あぐぁあ!!!

 

 

「ねえ、志亞さん。他にやりたいこととかある? わたし、なんでもするよ」

 

「――ぃ」

 

「え?」

 

 

志亞は泣いていた。気持ちいいのが、なんだか辛かった。

 

 

「たまなたんと――ッ、うぐっ! ぐす! たまなたんと、おまんこしたいよぉ……! うぅぅぅ!」

 

「っ? そっか?」

 

「うん。したいの。おまんこしたいのぉぉ……。うぅぅぅ!」

 

「いつか、しようね」

 

 

してはいけない。志亞はそう思っていた。

そう思っていたから、岳葉を殴ったのに。

 

 

「おまんこしたいよぉぉぉぅ……!」

 

 

志亞は泣いた。悲しいから泣いた。

 

 

「――ッ」

 

 

部屋の外にいたルミは天井を見つめた。

最悪の時間だった。ルミはちゃんはよく分からないが、ブルブル震えていた。

謎の震えがとまらねぇ――!

 

 

(そもそもアタシって結構人間できてたんだなぁ)

 

 

志亞の泣きじゃくる声が聞こえてきた。そして――、あぐぁあ!!!!

 

 

「地獄じゃあ!!」

 

 

十分後、ルミは珠菜とお風呂に入っていた。

珠菜のお腹辺りを念入りに洗っていると、ふと思い出す。

そういえばお風呂場にいくまでに、お経が聞こえてきたような。

 

 

「あれなに?」

 

「お祖母ちゃんです。自分で作った、クイガミ様に捧げるお経だったと思います」

 

 

珠菜は凄く悲しそうな顔をした。

 

 

「クイガミ様を信じてれば、お祖母ちゃんは幸せになれるって信じてるんです。この世界の全ての悪いことはクイガミ様が原因で、クイガミ様に優しくすれば、悪いことは起きないって思ってる」

 

 

今まではたまたま上手くいっていただけだ。

それを全て神の仕業と信じて、少しでも疑うことを恐れている。

こうして次の偶然を心待ちにしている。次の奇跡を望んでいる。

 

 

「そんなの……、ニセモノなのにね」

 

 

ルミは口を尖らせたまま珠菜を洗った。

とても難しいことを言っている気がしたので、ルミは何と答えていいか分からなかったのだ。

すんません。高卒なもんで。

 

お風呂から出て部屋着に着替えると、二人は珠菜の部屋に戻ろうと歩く。

大きな和室を通りかかったときだ。見知らぬ男性がふたり、近くにやってきた。

 

 

「ね、ねえ、やっぱり黙ってやるなんて、マズイんじゃないかな……、ぬ、ぬふぇ……」

 

「うるせぇ! いいんだよ! だってもうッ、限界なんだ俺は!」

 

 

ルミは揉めている男性に見覚えがあった。そういえば以前、屋敷で見た。

トンボくんはモグラくんを突き飛ばすと、アマゾンズドライバーを装着する。その目はずっと珠菜を見ていた。

トンボくんは半ばパニックになっていた。ただひとつ分かることは、彼は勃起していたということだ。焦りと興奮が体を包む。思い出す。少年院に入った理由を。

 

 

「はじめて見たときから殺したいって思ってた! この手で引き裂きたいってよォ!」

 

 

トンボくんは幼い少女を殺した。殺して、バラバラにした。

 

 

「でもダメだ! それは山路の意向に反する! だから我慢してきたが……! それも、もう終わりだ。終わりなんだ……!」

 

 

こんなに可愛い女の子が近くにいる。それが分かっただけで、もう限界だった。

しばらく抑えていたから尚更だ。ずっとオナニーを禁止していたところに、最高級のおかずがある。

こんなのもう我慢できるわけがない。

殺したい。刻みたい。アマゾンになって、はじめてだ。だからもう興奮する。

おかしい? だってそれが自分だから。それが気持ちいいんだから。

 

 

「俺が俺なのを止めることなんて、できやしねぇんだよ! ゥアマゾンッッ!!」

 

 

衝撃波と熱波が発生し、ルミ達は吹き飛ばされる。

 

 

「うぐっ!」

 

 

ルミは庭に放り出される。

訳が分からないままに体を起こすと、へたり込む珠菜の前にシグマが立っているのが見えた。

 

 

「珠菜ちゃ――ッ!」

 

 

シグマが珠菜に触れようとしたとき、シグマの顔面に拳が叩き込まれた。

苦痛の声をあげながら畳を転がるシグマ。一方で珠菜は後ろを振り返る。

そこには、志亞が立っていた。腰には既にベルトがあり、二つの風車が激しく回転する。

 

 

「安心しろ珠菜! いつだって、どんなときだってッ、オレはお前の王子様になる!」

 

「ッ、はいっ!」

 

「変身!」

 

 

風が吹きすさぶ。

戦闘が始まった。ルミはすぐに珠菜を連れて逃げる。モグラくんも追いかけてくる様子はなかった。

そこでハッとする。もしかして、今は凄いチャンス?

 

 

「珠菜ちゃん! ちょっち電話かして!」

 

「え? あッ、はい!」

 

 

そうだ。一つだけ覚えている番号があった。

 

 

 

ファミリーレストラン。

そこに岳葉と隼世、そして敬喜が座っていた。

敬喜はジットリとした目でミルクティーを啜っている。

 

 

「なんかさぁ、大丈夫? この世の終わりみたいな顔してるヨ?」

 

 

向かいに座っている隼世は疲労が顔に出ている。

ほとんど眠れなかったが無理もない。あれから急いで駅に戻ったが、ルミの姿はどこにもあらず。

必死に周囲を探してみたが、結果は同じであった。

 

 

(もしかして何かに巻き込まれたのかも……。いや、でもルミちゃんのことだし……。いやいや、だって普通だったら連絡するだろ。携帯は持ってなかったけどお金はあるから公衆電話とか……。え? もしかしてアマゾンに――ッ、いや、いやいや! 変なことを考えるな……!)

 

 

吐き気が酷い。考えれば考えるほどネガティブな考えが湧き上がってくる。

 

 

「大丈夫? 涙目だけど?」

 

 

敬喜が岳葉を見た。

 

 

「い、いやッ! そ、それは! 仕方なくて! でもあのそのッ、今はもう一つの話も進めないといけなくて! だからつまりッッ!」

 

 

岳葉の時間が止まった。脳が保身のためにフリーズをかけたのだろう。

敬喜は大きくため息をつく。大きく手を叩いてパチンと音を鳴らすと、二人の意識を覚醒させる。

 

 

「ハッ!」

 

「だからさ、ボクの力が必要なんだよねっ!」

 

「そ、そう! そうだ! えーっと……」

 

 

隼世視点、敬喜は信頼できる。というよりも信頼できなければ困る。

今まで起こったこと、虚栄のプラナリアを中心に事情を説明する。

 

 

「つまりボクの体に、クロスオブファイアってものが?」

 

「ああ。心当たりは? たとえばおかしな老人――、アマダムが接触してきたとか?」

 

「ううん、全然。ある日……」

 

 

そこで敬喜の言葉が止まる。

 

 

「どうしたんだい?」

 

「あー、まあ、しいて言うならね。エッチしててイッちゃったの」

 

「は!?」

 

 

赤くなる隼世。敬喜はばつが悪そうに笑う。

 

 

「そしたらさ、変身できるなって思ったの。そしたら本当に変身できちゃった」

 

 

つまり絶頂の瞬間にクロスオブファイアが着火したと。

 

 

「か、仮面ライダーを今まで見たことは?」

 

「んー? まあ、知ってる程度には。でも放送を見たことはほぼ無いよ」

 

「そう、か。まあいいや。とにかくキミと協力したい」

 

 

今はアマダムとは別の何かが動いている。

既に犠牲者も多く、アマゾンに至っては敵対すらある。

 

 

「いいよ。ボクも水野町が物騒になるのは困るからネ」

 

 

敬喜は微笑む。が、しかしすぐに笑顔を消した。

 

 

「知り合いも何人か巻き込まれてる。牛松さん、黒田さんも。何か手がかりは?」

 

「……申し訳ない」

 

「しっかりしてよ。それがキミたちの役目でしょ」

 

 

言い返せない。隼世は頭を下げるしかできなかった。

 

 

「だから敬喜さん。この事態を終わらせるためにも、改めてお願いする。あなたもバルドに来てくれないかい?」

 

「了解了解。あ、婦警さんの制服が着たいから、よろしくネ!」

 

 

そこで敬喜はアマゾンの情報を求めた。隼世は山路について知ってることをいくつか教える。

 

 

「ヤツは特殊な嗅覚を持ってるようだった。まるで、その――……」

 

「?」

 

「いや、アイツは異常者だ。何を言われても無視してくれ」

 

 

そこで敬喜は寂しそうな表情を浮かべた。

 

 

「……普通じゃない人が言うことは、全部間違ってるのかな?」

 

「え?」

 

「あ、いや! なんでもないよっ!」

 

 

隼世は何かを間違った気がした。だから説明することにした。

山路は犯罪者を見分けることができる。そして隼世に向かって言った。

中途半端なアンタじゃ勃起しないと。それを聞いた敬喜は呆れた表情で、笑みを浮かべた。

 

 

「ああ、それは無視していいかも……」

 

 

敬喜はジュコーッと音をたててミルクティーを飲み干した。

 

 

「あと、敬喜さんに一つ、覚えておいてほしいことがあるんだ」

 

「ん? なぁに?」

 

「仮面ライダーは正義のための力だ。自己満足のために使ってはいけないし、人のために使うべきなんだ」

 

「んー、ボクはそうは思わないケドなぁ」

 

「え?」

 

「一応調べたよ。ライダー、変身できるようになったからね?」

 

 

敬喜は立ち上がる。

 

 

「仮面ライダーが正義の味方だったときなんて、一回も無いでしょ」

 

「それはキミがちゃんと放送を見たことがないから――」

 

「恋は盲目ってね! じゃ、おかわり取ってくるね!」

 

 

敬喜はウインクを行うと、ドリンクバーへ向かう。

隼世は何を言われたか分からず、しばらく固まっていたが、やがて携帯が震えていることに気づいた。

ディスプレイには翠山家の表示があった。通話をタップすると、ルミの母が出た。

一瞬ゾッとする。まさかルミの身に何かあって、それで連絡してきたのではないか。隼世は頭の中が真っ白になり、涙が滲んできた。

 

しかし内容は全く違うものであった。

まず翠山ルミは、一つだけ電話番号というものを覚えていた。

自宅? いやそれは市外局番が分からない。警察? 逆に3ケタって難しいよね。

そんなわけで忘れてしまっていたが、ピンと来る。

 

それは翠山家から徒歩十分ほどのところにある松原寿司の番号である。

昔からお世話になっているお寿司屋さんで、出前を他の店より安くしてくれるのだ。

ルミはお寿司が大好きなので、そこのヘビーユーザーであった。

 

インターネット予約をしていないので、ルミは毎回電話をかけていた。

なぜ登録していないのか? それは番号を一つ一つ押すなかで、何を食べようかを真剣に吟味しているのだ。

ポンと押してプルルルとかかってしまっては、覚悟が決まらないうちに注文へ入ってしまう。

こうしてルミは大将に連絡を入れると、自宅に連絡を繋いでもらったのだ。

そして自分がいる場所を、隼世に伝えて欲しいと。

 

それはルミのあくなき食欲がもたらした活路であった。住所は珠菜が教えてくれたので、それを言う。

隼世はすぐにレストランを飛び出した。サイクロンをスピード全開にして走ること数分、大きな屋敷が見えてきた。

 

すると丁度そのときだ。門からシグマが手足をバタつかせて吹き飛んでくる。

地面に叩きつけられると、変身が解除され、トンボくんは上ずった声をあげながら逃げだした。

確保するなら今だ。隼世はバイクから降りると、トンボくんに向かって走り出そうと――して、やめた。

横を見ると、V3が見えた。

V3の向こうにルミが見えた。

 

 

「ルミちゃん!」

 

「イ゛ッヂィイイイイ!」

 

 

ルミはラグビー選手顔負けのタックルで隼世にブチ当たっていく。

 

 

「あいだがっだよ! いぢはらぐぅうぅぅんッッ!!」

 

「よ、よしよし! 怖かったね。あぁぁ本当に良かった」

 

 

隼世はルミを抱きしめると、全身の力が抜けるのを感じていた。

本当に良かった。心のどこかでもう会えない気がして、昨日の夜はわりと本気の調子で泣いた。

 

 

「ん?」

 

 

気づく。ルミの大きく露出した腕に青あざがあった。

先ほどシグマの変身時に発生する衝撃波で吹き飛ばされ、柱にぶつけたのだが、隼世には分からない。

そうしているとV3が鼻を鳴らす。

 

 

「おいまんこ、まさか逃げる気か?」

 

「は!? まッ、ま――!?」

 

「ひぃぃ!」

 

 

ルミは隼世の後ろに隠れると、ガクガク震え始める。

そこで隼世の表情が変わった。

 

 

「V3ッ? お前、志亞か! まさかルミちゃんに何かしたんじゃないだろうな!」

 

「オレが? そのまんこに? 冗談だろ?」

 

「……おい、なんだそれは。女性器の名前を口にするのは止めろ!」

 

「……まんさん」

 

「さんづけしてもダメだ!」

 

「……まんのもの」

 

「言い方を変えてもダメだ!」

 

「……ま~ん(笑)」

 

 

隼世は思わず地面を殴りつける。

話にならない。どいつもこいつも――! もはや隼世は限界だった。

 

 

「どこまでもライダーをバカにしやがってぇえ……!」

 

 

ライダーベルトが装着される。風車が回り、烈風が隼世に纏わりついた。

腕を真横に伸ばし、大きく旋回させて変身ポーズを取る。

するとベルトから光が発生し、一瞬で隼世の姿が2号に変わる。

 

 

「V3! 貴様を拘束する!」

 

「やってみろ。前のオレとは違う!」

 

 

走る二人。拳がすぐに交差した。

お互いの胸に直撃した一撃、互いは地面を滑りながら後退する。

しかしすぐに地面を踏むと、またお互いにぶつかっていく。蹴りを弾き、手刀をいなし、二人は屋敷のまえにある空き地に場所を移す。

 

 

「シークレット26」

 

 

殴りあう中、V3が口にした。

文字通り26の特殊能力が備わっているのだ。変身したばかりは分からなかったが、クロスオブファイアが体に馴染んでいくなかでその全貌が明らかになってきた。

V3は2号の足裏を受けて大きく後ろに吹き飛んでいった。いや、これはただのバックステップだ。着地すると、腕をクロスさせて走り出す。

するとどうだ。クロスさせた腕に赤いVのエネルギーが浮かび上がる。

ナンバー15・細胞強化装置・クロスハンド。

 

 

「いいだろう! 僕が全部受け止めてみせるッ!」

 

 

2号は一旦地面を土や石をつかみ、V3に向かって投げる。

すると石がVのエネルギーに触れた瞬間、蒸発して消えうせた。

あれを受けるのはマズイか。2号は大きく跳躍し、V3の頭上を取った。

しかしV3も既に攻撃をキャンセルして次のナンバーに移行していた。

25・レッドボーンリング。V3が巨大な赤い車輪に変わると、上空へ発射。高速で空に打ちあがって2号へ直撃する。

 

 

「ぐあぁあッ!」

 

 

隼世は仮面ライダーが好きだが、昭和ライダーの知識は薄い。

だからこそ判断が鈍る。立ち上がった彼に、次なる秘密が襲い掛かった。

ナンバー22・フリーザーショット。V3の触覚から冷却光線が発射され、2号に命中。体が凍り付いて動きが止まる。

そこへ襲い掛かるナンバー14・レッドボーンパワー。エネルギーを一転に集中させ、そのまま発光する右腕のパンチを叩き込んだ。

 

 

「ぐあぁあああ!」

 

 

氷が粉砕され、2号は大きく吹き飛んで地面に墜落する。

 

 

「どうだ? オレの力はお前を超えているんだよ」

 

「そんなことが――ッ!」

 

 

2号は力を込めて立ち上がろうとする。

 

 

「さあ、まだまだ秘密はある。お前に耐え切れるかな?」

 

「ぐ――ッ! ぐあぁ!」

 

 

肘が折れ、再び2号は地面に倒れる。

気合を入れて立ち上がろうとするが、ガクンと体が崩れて、また倒れた。

 

 

「……ん?」

 

 

風が吹く。2号は隼世に戻っていた。

 

 

「あれ?」

 

「お?」

 

 

V3が止まる。 戦いを見ていたルミも固まる。

 

 

「え? いや、あの、まだ秘密……。全部受け止めてみせるって、今――ッ」

 

 

V3はしばし沈黙。一同、しばし沈黙。

分かっていることは、隼世は変身が解除され、地面に転がっていることだけ……。

 

 

「イッチーよわっ!」

 

「弱すぎワロタ!」

 

 

凄まじい残酷な言葉であった。思わずのけぞるルミと、嘲笑のV3。

まだ少ししか力を出していないのに、完全に2号はグロッキー。もはや勝負がついてしまった。

そりゃあ思わずV3からネット用語も出てしまうというもの。

とはいえ、一番納得できないのは隼世であった。

 

まさか負ける? あんなふざけたヤツに?

そんなのはプライドが許さなかった。隼世はかつて本物の仮面ライダーになれたと自負している。

それがあんな女性軽視のロリコン野郎に負けるなんて絶対にあってはならないのだ。

隼世は雄たけびをあげ、体の痛みを全て無視する。

そして再び己の中にあるクロスオブファイアに薪をくべ、激しく燃え上がらせた。

 

 

「変身――ッッ!」

 

 

2号に変わると同時に、前に出る。

そして両足をそろえて地面を蹴った。

 

 

「ライダーッッ!」

 

 

前宙を行いながら左足を前に突き出す。そこへ纏わりつく紅のエネルギー。

一方で両手を広げるV3。緑の複眼が発光し、彼もまた飛び上がって右足を突き出す。

 

 

「キック!!」

 

 

ぶつかり合う足と足。

凄まじい衝撃を感じ、2号は吹き飛ばされる。

 

 

「うぐッ!」

 

 

着地ミス。しかし相殺はした。V3だって今頃――……。

そこで2号は見た。反動を利用して空中を大きく舞ってバク宙。反転して戻ってくる『足』を。

V3反転キック。足裏が2号へ叩き込まれ、再び吹き飛びながら変身が解除される。

地面に叩きつけられた隼世はもはや立ち上がることさえできなかった。一方で華麗に着地を決めたV3は、呆れたように首を振る。

 

 

「あんなクソビッチまんこと付き合ってるから弱いんだよ……」

 

「うる――ッ、さい! 黙れッ! これ以上の暴言は許さないぞ……ッ!」

 

「そんなことより、珠菜ちゃんを襲った化け物はどうなった?」

 

「ッ!」

 

 

隼世はそうだったと激しい後悔を。

ルミに気を取られ、志亞に気を取られ、もっとも重要なシグマの確保に失敗した。

 

 

「アンタ、最低だな」

 

 

V3は変身を解除すると、冷たい目で隼世を睨む。

 

 

「もしもアイツが逃げた先でまた誰かを狙ったら、それはアンタのせいだぞ」

 

「ぐ……!」

 

「一時の感情に支配され自分勝手な怒りを振りかざす。責任から目を背けて、仮面ライダーが聞いて呆れる」

 

「ふざけ――」

 

「言い訳している時間があったらもっと全うな大人になれよ。ちゃんとしてくれよ」

 

「ふざるな!! お前がそれを言うのか!」

 

「ああ。じゃあなんだ? アンタの大切なライダー論とやらを聞かせてくれよ。どうせ幼稚な内容なんだろ? そんなもの大切にするより、もっと現実を見ろ」

 

「もういい! もうたくさんだ! そもそもキミは僕よりも年下だろ! 敬語を使え!」

 

「ハァ。あのまんさんにて、このちんさんありだなぁ」

 

「普通に喋れないのかお前は!!」

 

 

そこで珠菜がフラフラとやって来た。

 

 

「あ、あのっ! どういう状況か分からないんですけど……! 喧嘩だったらやめてほしいです……! みんな、仲良くしてほしいですっ」

 

 

珠菜が訴えると、志亞は笑みを浮かべる。

 

 

「喧嘩じゃないよ珠菜ちゃん。ちょっと……、意見がぶつかっただけさ」

 

 

志亞は歩き、うつぶせになっている隼世に手を差し伸べた。

 

 

「どうぞ」

 

「触るな!」

 

 

隼世は志亞の手を弾くと、必死に体を起こそうと試みる。

だがダメだった。再び崩れ落ち、あごを地面に打ち付ける。

 

 

「最低だなアンタ。なんて格好悪いんだ」

 

 

志亞は軽蔑のまなざしを向けると、隼世を無視して立ち上がる。

一方でルミは隼世に駆けよると、肩を貸して立ち上がる。

 

 

「ごめんね珠菜ちゃん。今まで楽しかったよ。アタシは彼と一緒に帰るね」

 

「あ……」

 

 

珠菜は残念そうな表情を浮かべたが、やがて頷いて手を振った。

ルミも手を振って、隼世と一緒に屋敷から離れていった。

 

 

「行こう珠菜ちゃん。どうせ――、いつかは別れる人だった」

 

「そう、だね。うん、うん……」

 

「他にもやりたいことはあるんだろ。それをしよう」

 

「うん。わたし、違う味のタピオカ飲みたい……」

 

 

珠菜たちも、ルミたちを追いかけることは無かった。

 

 

 

 

 

 

「うん! うん! そう、お姉ちゃんのところにも変な人いるんだ。本当に変な人ばっかりだよね。え? アタシも変? うん、うん、分かってる。やめてよ褒めても何もでませんって! たははは――! なんてな! おら! アタシだってそこまでバカじゃねぇ! なんだ変って! いいか、本当にヤバイ奴だったんだからな! じゃあねお姉ちゃん。後でね!」

 

 

ルミは携帯を切った。

二人はあれから公園に寄っていた。ルミは姉や岳葉に無事を連絡しており、隼世は先ほどコンビニで購入した栄養ゼリーを飲んでいた。

先ほどの戦いは……、何かの間違いだ。ルミのことが心配で眠れていなかったのが悪かったか。

とにかくあんなヤツに負けただなんて、隼世のプライドが許せなかった。

 

 

「ありがとイッチー、じゃあそろそろ行こっか」

 

「うん。ホテルに案内するよ。携帯とかもそこにあるから」

 

「わーい! あーあー、しばらく貴重なログインボーナスが……」

 

 

立ち上がる二人。

公園を出ようとすると、ルミはゴミが落ちているのを見つける。

コンビニの袋の中に弁当や空き缶が入っている。二人はそれを見ながら、公園を出た。

出た。出た……。でた?

 

 

「見逃すなんてらしくないね」

 

「ん? どうしたんだい、ルミちゃん」

 

「イッチー、拾わないの? ゴミ」

 

「え?」

 

「いや、ほら、いつもはバカみたいに拾うじゃん。いつものイッチーらしくないなぁって」

 

「………」

 

 

隼世はしばし沈黙すると、にこりと笑った。

 

 

「そうだね。ゴミは捨てないとね」

 

 

隼世はゴミを拾うと、コンビニに戻ろうと歩き出した。

ルミはそこでハッと表情を変えて立ち止まる。

 

 

(あっちゃあ……、アタシが拾えばいいだけじゃん)

 

 

一方の隼世はコンビニに戻る間に、またゴミを拾った。空き缶だ。

しばし歩く。次はペットボトルを拾った。ずいぶん行儀の悪い町だ。

なんでこんなにゴミが落ちている? なぜ捨てない? おかしいだろう。捨てる理由がない。ゴミ箱なんて家にある。店にもある。外に出るんだったら目的地がある。そこで捨てればいいだけだ。車? いやいや、ゴミ箱くらいあるだろう。なかったとしても、おいておけばいいだけだ。

 

でもこうして、確かにゴミが落ちてる。

わざとか。もちろんわざとだ。面白がってる? それは分からない。けれども一つだけ分かるならば育ちの悪いクズだということだ。

ゴミを捨ててはいけない。そんなの子供のときに教わる話だ。

簡単で、分かりやすくて、そんなものを守れないようなヤツはよっぽとだ。

 

待て、まさかガイジか?

可能性はある。むしろ高いほうだ。ゴミを捨てるようなヤツは、どこか脳みそに異常があるとしか思えない。

あ、またゴミだ。どんだけ捨てるんだよガイジか? ガイジだろ。ガイジだよな。

いずれにせよこれくらいのマナー一つ守れないようなヤツは、生きていても周りに迷惑をかけるだけだ。周りを不快にしてはいけない。そんな常識さえ覚えられないようなヤツは――

死ねばいい。

 

 

「………」

 

 

隼世はゴミ箱にゴミを捨てる。

当然のことをしただけなのに、なんだか無性に腹が立った。

なんで見ず知らずのクズのせいで、手が汚れなきゃいけないんだ。気づけば隼世は思い切りゴミ箱を蹴っていた。

周りがビクッとして隼世を見る。

隼世は申し訳なさそうに頭を下げ、そそくさと場を離れた。

それを見ていたルミは、複雑そうな表情で隼世の背中を撫でた。

 

 

「大丈夫イッチー? おっぱい揉む?」

 

「うん。ん……? んッ!?」

 

 

隼世は真っ赤になってルミを見る。彼女はニヘラと笑った。

 

 

「前にネットで流行ったヤツ。どうですかお兄さん、ちょいとひともみ」

 

「い、いや! 結構です」

 

 

ルミは隼世に飛びつくと、背中におぶさる。

 

 

「ね、あの、市原くん。今日の夜はそっちに泊まってもいいんだよね?」

 

「う、うん」

 

「その、ね、エッチする?」

 

「え!?」

 

「だ、だって! 久しぶりに会えたことですし……!」

 

「一日くらいだけど……」

 

「アタシにとっては久しぶりなの!」

 

 

ルミはギュウっと隼世を抱きしめる。

隼世は真っ赤になって笑みを浮かべていた。

 

 

「あんまり頑張りすぎないでね。辛かったらアタシに言えよ。ルミ様が手伝ってあげるから」

 

「うん、ありがとう」

 

「なんか食べにいきますか? アタシ、ドリア風ミラノ食べたい!」

 

「うん……、うん。ミラノ風ドリア」

 

 

二人は照れながら、少しずつ前に進んでいった。

 

 

 

 

一方、歩みを進めるレジェンドライダー。

映司はアンクを求めていた。マンコも映司を求めていた。

これはある意味友情を超えた――

 

 

………。

 

 

「ん?」

 

 

マンコ?

 

アンク?

 

餡子?

 

餡子!?

 

餡……。

 

 

 

 

おもちか? いや、おもち……? おち――ッ? おちち?

おちち! おち? おちんこ? おちんこ!

 

 

「マンコおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

海に向かって叫んだ。

 

 

「変身ッッ!」「タカ! トラ! バッタ!」「タ・ト・バ! タトバタ・ト・バ!」

 

 

ライダーは助け合いでし!

 

 

「でしッッ!!」

 

 

 

おわり







『言い訳している時間があったらもっと全うな大人になれよ。ちゃんとしてくれよ』

『最低だなアンタ。なんて格好悪いんだ』


おめぇにだけは言われたくねぇよ(´・ω・)
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