仮面ライダー 虚栄のプラナリア   作:ホシボシ

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第7話 パネスはキミに死ねと言ったか

 

 

さて、協力するとは言ったが、いろいろ手続きまでは少し時間がかかる。

岳葉が滝黒と捜査を行っている間、敬喜は暇なので一旦アリスカフェに戻った。そもそも今日は休みだが、まあいいだろう。

 

 

「ねえチョコちゃーん、店長いるー?」

 

「ケーキちゃん! 店長さんはね、午後から来るって!」

 

 

休みだから会えないと思っていたが、会えた。

チョコちゃんは嬉しそうに微笑んだが、すぐにシュンとなる。

敬喜は唸った。最近チョコちゃんの元気がないことだし……。ここは一つ、元気付けてやろう。

 

 

「よし! ちょっと手を出して! 最近ネイルの勉強してるんだ! やってあげるね!」

 

「い、いいの!?」

 

「もちろん! あ、でも失敗したらゴメンネ?」

 

「ううん! 全然っ! どれだけ失敗してもいいよ!」

 

 

ネイルが好きなメンバーがいるので、事務所にはゴチャゴチャと道具が置いてある。

敬喜は手早くチョコちゃんに教えてもらったネイルを施した。

30分ほど経てば、それなりに見せられるレベルにはなった。

 

 

「凄いねケーキちゃん!」

 

「どうかな? チョコレートネイルってヤツなんだけど」

 

 

文字通り、高そうな箱に入っているようなチョコレート柄である。

チョコは嬉しそうに微笑み、キラキラした目で爪を見ていた。

 

 

「じゃーね、午後にまた来るねー」

 

 

敬喜はそのまま自宅に戻った。

部屋では涼霧が良神のパンフを読んでおり、敬喜を見つけると抱きついてくる。

それからなんやかんやあって、二人は全裸で絡み合っている。

 

 

(相変わらず押しに弱い……)

 

 

まあいいか、ケーキは仰向けになって天井を見つめていた。

 

 

「なあケーキ、どうだったんだ?」

 

「なにが?」

 

「いろいろ。ライダーの事とか」

 

「まあ、協力することにはなったヨ」

 

「オレにもなんかできる事ある?」

 

「ありがと。でも危ないからいいよ」

 

「力になりたいんだよ敬喜の!」

 

「ふーん、どして?」

 

「どうしてって……」

 

 

涼霧は無言だった。無言で敬喜の胸をなめている。

 

 

「バカ。真面目な話してるのに!」

 

「うッ! だ、だって何か凄いよ。また良神の?」

 

「うん。乳首に味つけられるの。いいでしょ? イチゴ味」

 

 

部屋の隅にはいろいろな薬や、クリームの空き箱が転がっている。

敬喜は涼霧を抱きしめると、目を細める。

 

 

「パンフレット、よく見てるよね。最近……」

 

「オレ、さ。あそこで手術しようと思うんだ。後払いでも良いって言ってくれたし」

 

 

牛松や黒田がいなくなった今、悪い評判も流れ始めている。

顧客の確保には必死になのだろう。そもそも良神とは元々そういう場所だ。

金はもちろん請求されるが、分割や後払いでもいい。全ては院長の矜持があってこそ。

人は惨めな毎日を送るべきではない。ありのままで生きてこそ、真の自分になれる。そこには本当の価値がある。価値が生まれると……。

 

 

「そこまでして男になりたいんだ」

 

「……ああ。そもそもオレは男だから」

 

 

ずっと嫌だった。ひな祭りも、かわいい格好も。

こいのぼりが良かった。プリキュアごっこじゃなくて、仮面ライダーごっこがしたかった。

何故かなんて考えたこともない。たまたま男性器がついてなかっただけだ。

涼霧は涼霧としていきたかった。そのためにはまず『女』が邪魔なんだ。

 

 

「ボクにはよく分からないな。なんかどっちでもいいし。男でも、女でも、楽しくて可愛くて気持ちよかったらオールオッケーだよ」

 

 

敬喜の悪戯な笑みは酷く妖艶で、涼霧は一気に引き込まれた。

割と、しているからか、割と、分かる。

五分もしないうちに事後になった。寝転ぶなかで、涼霧は敬喜の頬に触れる。

 

 

「そろそろキスしてもいい?」

 

「えー? ボク、キスはやだなぁ」

 

「どうして?」

 

「何か嫌。ちょっと潔癖気味なんだよね」

 

 

敬喜は立ち上がると、シャワーを浴びに行く。

さっさと終えて出てくると、涼霧はスヤスヤ眠っていた。

敬喜は呆れたように笑うと家を出た。

 

 

向かったのは病院だ。

フルーツを持っていくと、顔色の悪い父は嬉しそうに笑った。

 

 

「あら、おいしそうなイチゴね」

 

 

小太りだった父も、今はやせ細っている。

『プリコ』、それが父の名前だった。もちろん本名じゃない。水野町のゲイバーを営んでいた頃の源氏名だ。

おおらかな人だった。派手なメイクをしていて、いろいろな人に慕われていた。敬喜も幼い頃、お店の人たちに可愛がられていたのを覚えている。

お店にはいつも笑い声があふれていた。敬喜はあの場所が好きだった。

敬喜には母がいなかった。けれども父は、毎日ごはんを作ってくれたし、服がやぶけたらお裁縫で直してくれたし、学校行事にも欠かさずお店の人たちと一緒に来てくれた。

 

 

『あたしは凄いのよ敬喜ちゃん。お父さんとお母さんが合体した、スーパーマンなんだから! パパかあちゃんと呼びなさい!』

 

 

敬喜は頷いた。

父は性にもおおらかな人だった。よく分からないが、ぽっちゃりした父が好きだという人は一定数いるらしい。

お店で盛り上がるとお客とキスをしていた。舌を絡め、父はウットリとした顔をする。

 

敬喜は父が取られたような気がして、あの顔を見るのは嫌いだった。

父は敬喜が眠っている間、家をあけることが多かったが、何をしているのかはまだ分からなかった。

お客やスタッフが、『プリコは上手いらしい』、『プリコの喉テクは凄い』、『プリコは締りが――』などと言っていたが、意味は分からなかった。

父はよく女装をしていた。敬喜は父が大好きだったので、やってみたいと言うと、父はとても喜んでくれた。

 

 

『流石はあたしの息子ね! 世界で一番かわいいわ!』

 

 

敬喜はもっと可愛くなろうと思った。

良神クリニックができると知ると、父はとても喜んだ。もっと可愛くなれるし、もっとキレイになれる。

それに父は女性になりたいようだった。レベルの高い手術は海外でないと受けられないが、良神院長はその技術を遥かに超える腕を持っていると有名だった。

 

夢が叶う。父は喜んだ。敬喜も喜んだ。

もしも父が母になったのならば、お祝いに遊園地に行こうと約束した。焼肉とケーキをお腹いっぱい食べようと約束した。

しかし良神クリニックが建設されているなか、父は具合を悪くした。

お店の人が言っていた。父はゴムが嫌いで、必ずナマが良かったと。

 

 

『あれほどやめておけって言ったんだけどねぇ』

 

 

ヤバ交尾がどうとかこうとか。陽性がどうとかこうとか。

敬喜には良く分からなかったが、教えられたのは父がエイズという病気になってしまったということだ。

早めに見つかっていたら、まだ良かったのだが、父はそれなりに進行してからの発見だったため、深刻な状況ではあった。

 

とはいえ現代医療においてエイズは結核と同様、確実に死ぬ病気ではなくなった。

お金はかかるが、投薬を続けることで進行を限りなく抑えることができる。

しかし一方で父は相当多くの人間と関係を持っているようだった。他にもいろいろと性病を患ってしまい、症状は重い。

延命はできるが完治はできず、先もそれほど長くはないようだった。

 

後悔しているのか?

それを聞くことはあまりにも残酷なので、敬喜には触れることはできない。

エックスになったことも、心配させるからと言ってはいなかった。

私生活のことだって……。

 

 

「敬喜ちゃん。恋人でもできた?」

 

「ん? どうして?」

 

「ますますキレイになってるわ」

 

「それは当然だよ。お父さんの子供なんだから」

 

「あら嬉しい」

 

 

そこで敬喜は張り付くような笑みを浮かべる。

父の元気はない。あとどれくらいこうして話せるかも分からない。

だからこそ、いくつかは聞きたいことがある。

 

 

「ねえお父さん」

 

「なぁに?」

 

「お母さんって、どんな人だったの?」

 

 

沈黙があった。今までずっと聞かれなかったことだ。何かあったのだろうと察する。

しかし今まで、敬喜がいろいろ気を遣ってくれたことは知っている。

だからこそプリコは事情を聞かなかった。

 

 

「可哀想な人だったわ。あたしの従妹だったのよ」

 

「好きだった?」

 

「ええ。頭がおかしいところがあって、面白かったから」

 

「どうしてボクを捨てたの?」

 

「……はじめから拾ってもなかったのよ」

 

「でもセックスはしたんでしょ?」

 

「ええ。苦行だったわ。あたしは入れられる方だから、必死に好きなマッチョを想像してなんとかね」

 

「なんで?」

 

「抱いてほしいっていうから、同情で抱いたのよ」

 

 

プリコは窓の外を見る。

 

 

「あたしにとってケツハメ……、じゃなくってセックスはただの嗜好品。でもあの子は違った。愛されている証だったのよ。セックスをすればその人は絶対的な愛を注いでくれるって信じてた。でもそんなのは嘘っぱちよ。あの子も気づいたんでしょうね、あたしはあの子にとってただの……」

 

 

続きを口にすることはなかった。

敬喜の母も夢から覚めたのだ。そして前に進むために出て行った。

 

 

「最近、会ったことある?」

 

「いえ。もう随分……、あたしがエイズになってから一度だけ」

 

 

プリコの姿を見て、泣きながらお金を差し出してきた。

受け取れないと突っぱねた。プリコはたった一言聞ければ、それで良かった。

 

 

「幸せ? って、聞いたら幸せだって。新しい男と結婚したみたい」

 

「……ふーん」

 

「ムカついたから、やっぱりお金は頂くことにしたわ」

 

 

敬喜は母を見たことが無かった。写真もない。物心がついてからは一切の記憶がない。

 

 

「キレイな人?」

 

「ゴミブスよ。あたしの遺伝子が無かったら敬喜ちゃんゴリラみたいになってたわよ」

 

 

二人は笑った。

敬喜は病室を出ると、食堂でうどんを食べてアリスカフェに戻る。

店長にはしばらくお店をお休みしますと伝えなければ。流石にアイドルをやりながら、ライダーをやるのは疲れる。

 

 

「………」

 

 

敬喜は海沿いの道を歩く。潮風に髪が靡くなか、彼は考えごとをしていた。

なぜ母のことを聞いたのだろうか? 自分でもよく分かっていない。

会いたいのか、会ってどうするのか。これは怒りなのか、それとも悲しみなのか。

 

敬喜は父の医療費や、生活費、そして自分をきれいにする為にお金が欲しかった。

だからいつからかセックスをしてお金を貰うようになった。

キレイな女性はたくさんいるが、敬喜のようなタイプはなかなかいない。

たちまちアイドルになった。もっとも相手は慎重に選んだ。今はネットで簡単に秘密が暴露される。だからこそ信頼できる相手かは重要だ。

 

逆に言えば、条件はそれだけ。お金さえくれれば誰にだって抱かれた。

敬喜も気持ちいいのは好きだ。ゴムはしてもらうし、検査もしてる。

セックスをしてお金がもらえるなんて、便利でいい。

あと、しいていうなら……。

 

男性に抱かれると、父が許されるような気がした。

絶頂するたびに父の容態が良くなるような気がした。

もちろんそんなものは、まやかしだ。でもそれでも敬喜は求めるしかなかった。

あとは快楽が頭の中を真っ白に塗りつぶしてくるのが好きだった。そうすれば何も考えなくて良い。

ほんの数秒、敬喜は世界から離脱できる。父との楽しい思い出も全てがまっさらになる。それが好きだった。

 

 

「………」

 

 

心のどこかに冷めた自分がいる。

そんな自分がいる限り、自分は自分じゃない。

自分が嫌いな自分は自分じゃない。だから自分はまだ自分になれない。

敬喜のなかにいる冷めた自分が呟く――。異常者と。

 

男色が存在するからなんだという。

男は女を抱き、女を孕ませ、子孫を残す。それが普通だ。それでいい。お前だってそれを望んだだろうが。

そんな自分がいることは事実だった。だからそんな自分は、涼霧に抱かれると安心して眠る。

 

追憶の泉。冷たい水の中。

暗い底で自分たちが抱きしめあえば、水面は波紋ひとつ残さない。

敬喜は涼霧に抱かれたくなった。彼女が持っている間抜けな玩具で絶頂したくなった。

父はもうすぐ死ぬ。気づけば敬喜は店の前に立っていた。頬をパチンと叩くと、満面の笑みを浮かべてみせる。

 

 

「やっほー! みんな! おつか――」

 

 

可愛らしい店の壁や装飾品は血にまみれ、食器やテーブルには臓器が引っかかっている。

酷い悪臭も、呆気に取られちゃ気にならない。

床の色は赤色だったっけ? 違う。全て血で埋まっているだけだ。

 

 

「あ、あぐっ、あぐじゅ……!」

 

 

ドアノブと握手している腕だけがあった。

すぐ近くには体が転がっている。お客さんや、メンバー。

可愛い衣装が引き裂かれて小腸や大腸が零れている。

 

顔の上半分だけの女の子もいた。

目が合った。そうだ、ネイル教えてくれてありがとうって伝えないと。

敬喜は前に出て、つまずいた。

腕が落ちていた。一本、右腕が落ちていた。すぐ近くには左腕があった。

見覚えがあるので、よく見てみる。チョコレートネイルが可愛らしい。

 

 

「あぐじゅ! み゛んな゛ど、あぐじゅ!」

 

 

みんなすぐに赤くなった。

最後の一人はガクガクと震え、許してください、助けてくださいと叫んだ。

僕はただ握手がしたいだけなんです言うと、握手してくれると言った。握手をした。

指がなくなって、泣き叫んだけど、握手がしたくなって、握手をしてくれてありがとうって肩をたたいたらズブズブ入って気持ちいい。

ほっぺが柔らかそうに見えて、触っていいですかって聞くと、何かを叫んだけど聞き取れなくていいよと言われた気がしました。

柔らかかったなぁ。嬉しいなぁ。みんなと握手。

ファンじゃなかったけど、推しになります。ねえ、マッコリさん。

 

 

「あ、あで!? あ゛れ゛ッ!?」

 

 

豹柄のダサいジャケットを着た男が振りかえる。

前にいたマッコリ姉さんが血まみれで倒れた。

指がなくなっていて、髪――、というよりも頭皮の一部がめくれていて。

口が裂けていた。

 

 

「げ、げぇぎぢゃん! あい゛にぎだよ!」

 

 

敬喜は奥に倒れている女の子を見た。

はじめは誰か分からなかった。顔がジャギジャギだ。

まるで赤いペンでジグザグを描いたように塗りつぶされて――、斬り潰されていた。

両腕が無かったし、両足も……、かろうじて肉や皮で繋がっているだけで、骨は切断されていた。

敬喜はそれがチョコちゃんだと、ようやく気づいた。

 

 

「わー……、波佐見さん。会いに来てくれたの?」

 

「ヴン! 見で! ボギュ! がっごよぐなっだでじょ!?」

 

 

波佐見の両腕は鋭利な刃物になっていた。これは、(ハサミ)だ。

かつて両手がハサミになっている登場人物が出てきたシザーハンズという映画があったが、まさにそれにソックリだった。

 

 

「ゼ、ゼッグズざぜでぐれる!?」

 

 

目の焦点は合ってない。敬喜の心も定まっていない。

ただジッと、今は勃起している波佐見の下半身を見る。

 

 

「ねえ波佐見さん。いいけど、その前に貴方のオナニーが見たいかも」

 

 

波佐見は頷くと、自分のブツを握り締め――

 

 

「あ゛、あ゛れ゛!? お、おぢッ! おぢんぢんどれじゃっだ!? あで!?」

 

「………」

 

「い、いだだだだだッ! いだい゛ッ! いぎっ!」

 

 

そこで敬喜は全てを理解した。

エックスに変身すると、ライドルスティックで波佐見を殴りつける。

殴る。殴る。ライドル脳天割り。波佐見の頭が凹み、目が飛び出して、鼻からは大量の鼻水と血液が飛び出した。

 

 

「テンメエエエエエエエエエエッッ!」

 

 

エックスは怒りの吼え、思い切りライドルを振り下ろした。

頭が砕く音が聞こえ、すぐに波佐見は動かなくなった。

死んだのだ。変身を解除すると、気づく。

まだマッコリ姉さんの息がある。敬喜は青ざめ、上ずった声で叫びながらも、とにかく助けを求めた。

仮面ライダーに誰かを治療する力は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「生存者は二名です」

 

 

お客さんも、仲間も、店長も、波佐見さんも、みんな死んだ。

しかし生きてる人が二人だけ。マッコリ姉さんとチョコちゃんだ。

かなり危ない状況ではあったが、マッコリ姉さんは被害にあった順番が最後だったから、チョコちゃんは『なぜか』、既に止血されていた点から、なんとか一命を取り留めたと。

 

それを聞いたとき、敬喜は素直に喜んだ。

最も助かって欲しい人たちが助かったので、あとはすぐに割り切れた。

自分の心の中にある残酷で薄情な面は知りたくなかったが……。

 

 

『失態だぞ』

 

 

立木は、隼世と岳葉、滝黒にそういった。

 

 

『バルドの役目は異常なる存在を捕まえ、市民を守ることだ。なのに15人も死んだ』

 

 

岳葉の目が泳ぐ。隼世も真っ青になっていた。はじめはシグマの仕業かと思ったからだ。

もしも取り逃したことが原因で今回のようなことが起こったのだとしたら、隼世のミスは許されるものではない。

滝黒も目線を下に落として沈黙していた。いくら受動的になるとは言え、敵は完全に一般人では対処できないところまで来ている。

そんな存在がまだ蠢いているのかと思うと、頭は痛い。

 

 

『だがまあ、おかげで捜査員を増やしてもらえることになった。こりゃありがたい』

 

 

だいぶガイジたちの謎も掴めてきたらしい。

人が増えれば、それだけ解明も早くなる。

 

 

『人はいつか死ぬ。遅かれ早かれな。そして善人が良い死に方をするとも限らないのが厳しいルールだ。アリスカフェの連中だってそうさ、あれが運命だったんだよ』

 

「立木さん! そんな言い方はあんまりです……!」

 

『バカか隼世。だからこれは、お前らを庇ってやってんだぞ』

 

「え……?」

 

『お前はライダーの力がありながら、みすみす人を死なせたんだ。なんのために刑事でもないお前に手帳が与えられたと思ってる? いいか? 死んだ人間は全員助けて欲しいと思いながら、殺されていったんだぞ』

 

「ッッ」

 

 

隼世は目を見開き、ブルブルと震えはじめる。

立木も若人をいじめて楽しむ趣味はない。話題を変えることに。

内容は、波佐見の死体を解剖しているマリリンだ。

 

 

『キャッホォオオオオ! 最高ォォォォ! 滾りまくりまくりよぉぉぉ! ヒャーハハハハハ!』

 

 

そう言って彼女は血まみれで遺体を刻んでいた。まあそれはいい、黙っておこう。

立木は咳払いを一つ。今注目するべきは、やはり『手』だ。指先が刃物になっており、触れたものを傷つける作りになっている。

でもそれは『はじめ』だけだった。徐々に『刃物化』が解け、今では普通の人間の指と変わらない状態になっている。

 

また、鋭利なハサミになっている段階でマリリンはその刃にある成分を調べた。

結果は鉄分等の目立った反応はなし。つまりアリスカフェの皆を切り刻んだのは、ただの指、皮膚だったということだ。

もちろんそんなことはありえない。敬喜たちが幻を見ていたなんてこともありえない。だからこそマリリンのテンションが上がってるのだ。

 

 

『サイの角も毛が固まったものなんだけど、そんなレベルじゃないわよねーッ?』

 

 

未知の脅威がこの世界に蔓延ろうとしている。

無秩序の暴力が始まっている。考えただけでも濡れてきたと言っていた。これも伝えなくていい情報だ。

 

 

『気をつけろ。敵は確実にクロスオブファイアを所持している。あるいは、それよりももっと恐ろしい何かをだ』

 

 

以前、エックスが倒した刃物女は、その体に実際の刃物が埋め込まれていた。

しかし今回の波佐見は刃物を使っておきながら、死体からは一切の刃物が見つからなかった。

その背後に同じ組織などが関わっているなら、技術のグレードアップがなされた可能性が高い。

そこで立木はモニターを切った。

 

 

「一刻も早く、原因を叩かないと……!」

 

 

水野町・警察署、会議室を出た一同。はじめに口を開いたのは隼世であった。

青ざめ、壁を殴りつける。岳葉はその行動が隼世らしくないなと思った。どうやら相当焦っているようだ。

 

 

「なんとかしないとダメだ! 次の犠牲者が出る前にッ、なんとか……!」

 

 

そこで滝黒は手帳を取り出すと近況を説明する。

正直、進展はほとんどなかった。行方不明になった黒田や牛松は未だに見つかっておらず、逃げたトンボの目撃情報もなし。

 

 

「良神クリニックも調べましたが、特に目立った手がかりは見つかりませんでした」

 

 

受付係の黒田は優しい性格で、少なくとも恨みを買う人物では無かったと。

アパートも調べたが、特に何も見つからなかった。

 

 

「パソコンもロックさえかけておらず、中身も特に事件性のある内容ではなかったです」

 

 

次に波佐見だが、水野町のアパートで一人暮らし。

パソコンの中には大量のアダルト動画や画像があり、特に男色に興味があるようで、そういった内容が多かったようだ。

 

 

「とはいえ勤務態度は真面目で、恨まれる人物ではなかったと。犯行時にきていたジャケットですが、あれは駅前で無理やり買わされたものらしいです。結構悪質な客引きを行うことで有名らしくて。そちらは現在、別の部署が対応しています」

 

 

普通に恨みを持っていたのなら、どう考えてもアリスカフェではなくそちらを狙うはずだ。

敬喜の話ではまともに会話もできなかったみたいだし――

 

 

「何者かに、洗脳された可能性もあるかと」

 

「――ッ!」

 

 

隼世はフラフラと出て行った。岳葉もすぐに追いかけた。

立ち入り禁止になっているアリスカフェに行くと、中には敬喜が立っていた。

現在表向きには通り魔事件となっているが、裏側を知っている敬喜には思うところがあるのだろう。

波佐見は許せない。しかし波佐見をああいう風にした何者かも存在しているはずだ。もはやそれは普通の存在ではない。

 

 

「みんな死んでれば、ボクも心も折れていたのかもしれないけど……」

 

 

ケーキは髪をかきあげ、舌打ちをこぼす。

 

 

「早く黒幕を見つけようヨ。怒りでどうにかなりそうなんだ」

 

 

こうして三人は店を出る。

まず隼世が訴えたのは、ライダー同士の協力だ。もはや争っている場合ではない。敵がもっと力をつける前に、連携を取り合うのだ。

そこで岳葉が手をあげた。瑠姫が少し気になることを言っていたらしい。

 

 

「川で人を拾って、その人が少し変わってるって」

 

「川で……?」

 

 

百聞は一見に。三人がひまわりの里を訪れると、その男は子供たちと楽しそうに遊んでいた。

それを見て隼世はゾッとしたものを感じる。

おうまさん。小さな子供を背中に乗せて、よつばいで這い回っていたのは、間違いなく山路であった。

 

 

「みんなッ! 今すぐソイツから離れろ!」

 

 

隼世が思わず叫んだ。

いきなり現れた男の言葉に、子供たちは驚き、小さな子は泣き始める。

 

 

「あ……」

 

 

みんながジロリと隼世を見つめる。

現れたリセは、訝しげな表情でお辞儀をした。

 

 

「隼世さん。あんな大きな声を出すのは感心しないな。子供が泣いてしまった」

 

「分かってる! でも元はといえばお前のせいだろ!」

 

 

隼世はテーブルを殴りつける。

岳葉はビクッと肩を震わせ、敬喜は興味なさげにコーヒーに大量のミルクを投入していた。

瑠姫やリセには席を外してもらっている。ライダー四人の空気は重い。

 

 

「人のせいにするのは良くないなァ」

 

「なんだと……!」

 

「はいもうストップストップぅ。あのさぁ、ボクらは喧嘩するために来たんじゃないでしょー?」

 

 

隼世はそうだったと咳払いを行う。

 

 

「……鮫肌の男を殺したのは覚えてるか? 水野町から少し離れた山のなかにあった小屋の地下で見つかった死体だ」

 

「覚えてますよ。彼もまたエッチだった」

 

「なぜ殺した?」

 

「悪い人だったから。女の子をね、監禁してました。ピッケルでレイプするつもりだったんでしょう」

 

「ピッケ……? その子は!?」

 

「さあ。どこに行ったのやら」

 

「ぐっ! それよりッ、なんであんなに死体を壊す必要があった! あそこまでする理由がどこに――ッ!」

 

 

隼世は勢いよく立ち上がる。

しかし敬喜が咳払いをすると、悔しげに座りなおす。

 

 

「とにかく、お前が殺したのは……、普通の人間じゃない」

 

「普通じゃないとは――、どういうことですか?」

 

「なに?」

 

「肌が違うからですか? 考え方がおかしいから? それとも傷つける力を持っていたからですか? だったら、僕らはどうなるんです?」

 

 

隼世は黙る。山路はまっすぐに隼世を睨んでいた。

 

 

「普通じゃないとは、誰が決めますか?」

 

 

岳葉はブルブルと震えていた。一方で敬喜は大きなため息をつく。

 

 

「お話が進まないよぉ。あのね、とにかく今、水野町では特殊な力を持った人たちが暴れまわってるの。無関係な人たちが殺されてる。それは止めないとダメでしょ? 分かるかな? アマゾンくん!」

 

「それは……、ええ」

 

「ボク達が力を合わせれば簡単でしょ? だからまずキミのお友達に話してよ。牛松さ……、ムキムキの人ね。彼を狙ったのはどいつ? ソイツは逮捕。あとは止めさせる。以上! おわり! 何か質問は!?」

 

「トンボくんとは連絡がつきません。座薬くんもそうです。お友達だと思っていたんですが、悲しいなぁ」

 

「残りは?」

 

「モグラくんがいます。彼には僕から」

 

「あれ? ってことはさぁ。協力してくれるの?」

 

「ええ。もちろん」

 

「は!?」

 

 

隼世は信じられないという表情で山路を見る。

しかし山路はニコニコと笑っていた。じっとりとした目は欠片も笑っていなかったが。

 

 

「ここの子供たちは素晴らしい。高岡さんも素敵な方だし、正和くんとは友人になりました。彼らが悲しむのは見たくない」

 

 

あまりにも真っ当なことを言うものだから、隼世は何も反論ができなかった。

 

 

「よろしくー、ボク神条敬喜ぃ。仮面ライダーXだよっ!」

 

「お、お、俺はっ! その、だからッ、本間岳葉。か――ッ、ライダーは1号」

 

「よろしくお願いします神条さん。本間さん。僕は山路大栖、アマゾンです。ライダーとして一緒に頑張りましょう」

 

 

これで山路と協力することになった。

だが部屋出たとき、隼世の心に山路がやったことが思い出される。

納得がいかない。気づけば山路の襟首を掴み、壁に押し付ける。

 

 

「お前……! どういうつもりだ!」

 

「痛いなぁ。いきなり何を」

 

 

岳葉と敬喜も急いで止めに入ろうとするが、隼世は二人の腕を振り払う。

 

 

「ふざけるな! いきなり掌を返してッ! それで――ッ!」

 

 

そこで隼世がピタリと泊まる。

 

 

「そ、それで……」

 

 

そこで隼世の頬に何かがぶつかる。

痛い。見れば、それは木製の『つみき』だった。廊下では子供たちが並びたち、隼世を睨みつけている。

 

 

「テメェ! 山路をいじめるなよ!」

 

 

正和が叫んだ。そうだそうだと子供たちが続ける。

 

 

「待ってくれ! コイツは危険なヤツなんだよ!」

 

「ぼくの調べでは、山路さんは100%優しい人です!」

 

 

ミッちゃんがメガネをくいっとあげる。子供たちはそうだそうだと続いた。

 

 

「みんな! 山路を助けよう!」

 

 

ナオタがつみきを投げると、他の子供たちも続いてレゴブロックやクレヨンやらを投げて隼世を攻撃していく。

隼世はどうしていいか分からず、ただ情けなく防御するしかできなかった。

 

 

「ちょっと! みんなやめて! その人は私の大切なお友達だから!」

 

 

すぐに瑠姫が助けに入る。

 

 

「その人が瑠姫先生の好きな人?」

 

「え? ううん違う。こっちこっち」

 

 

すぐに子供たちは岳葉を囲んで盛り上がっている。

汗だくになり、引きつった表情の岳葉を、隼世はずっと納得がいかないような目で見ていた。

 

だがまあ、ここで無駄に敵対して時間を浪費するのは好ましくないのは事実だ。

隼世はグッと堪えて山路を一旦許すことにする。四人のライダーは託児所を出ると、そのまま珠菜の屋敷を目指した

 

 

「凄いバイクだね」

 

「ジャングラーです。かっこいいでしょ?」

 

 

アマゾンのバイクには意思が宿っているらしい。

大きな目がギョロリと隼世たちを見ていた。しかし人目にはつきたくない。一同はなるべく飛ばして屋敷に到着する。

山路はココを拠点にしていることを明らかにする。おそらくお堂にはモグラくんがいる筈だ。なので山路はお堂に、隼世たちは志亞を訪ねる。

 

 

「消えろ。オレに協力する義理はない」

 

 

志亞は岳葉を見るなりそう言った。

岳葉の心にズッシリとした痛みが走る。

 

 

「そんなこと言わないでよっ! ね? ケーキちゃんとお話しよっ?」

 

 

敬喜は、ケーキポーズを浮かべてニッコリと微笑む。

 

 

「死ねビッチまんこ。耳と目が腐る。そもそも黒髪じゃない女は見るに耐えない」

 

 

敬喜は志亞をしばこうと歩き出すが、それを隼世が止めた。

 

 

「志亞。話だけでも聞いてくれ」

 

「断る。お前も消えろ。また無様に負けたいのか?」

 

 

隼世は志亞をしばこうと歩き出すが、それを敬喜が止めた。

ダメだ。耐えなければ。隼世はイライラしながらも食い下がろうとするが、志亞はさっさと引っ込んで、以後は一切顔を見せなかった。

 

 

「どうする? 粘る? ボク的にはもうあの人はごちそうさまなんだけど」

 

「………」

 

 

隼世は悩む。悔しいが志亞の――、V3の力は凄まじい。

ましてやここで変に拗れて敵になるなんて展開は絶対に避けたかった。

そうしていると山路が戻ってきた。事情を説明したらしい。モグラくんも分かってくれたとか。

隼世が志亞のことを山路に告げると、彼はしばし顎を押さえて、やがて頷いた。

 

 

「僕に一計があります。彼の携帯の連絡先は分かりますか?」

 

「ルミちゃんが交換したらしいけど……」

 

「ではそれを使います」

 

 

隼世はルミ経由で志亞の通話アプリの連絡先を手に入れ、あとは山路がメッセージを打ち込んで送信する。

一同は近くの喫茶店『ポワレ』で返信を待つことに。

 

 

「ねえ、なんて送ったの?」

 

 

敬喜がミルクティーを飲みながら聞いてきたので、隼世は送ったメッセージを見せる。

気のせいだろうか? 凄く嫌そうだ。凄く変な汗をかいている。

 

 

『清楚おまんまんランド開園! 小学生の女の子とたくさんエッチで楽しいことをしましょう! 真摯なジェントルマンの皆様、ぜひ喫茶ポワレお待ちしております。つるぺた幼女パーティを心行くまでお楽しみください』

 

「……ナニコレ? 怪文書?」

 

「僕はねぇ、少しだけ彼を屋敷で見かけたことがあるんですが……、匂いもあってすぐに分かりました。彼は凄まじいロリコンです」

 

「見て皆ッ、こ、これッ、これ凄い鳥肌。分かる? 凄い勢いでボクは引いてるよ?」

 

 

隼世も頭を抱えていた。なぜか岳葉の目が凄い泳いでいるが……?

一方で山路は水を飲みながら笑みを浮かべる。

 

 

「そうですか? 僕は彼、好きだなぁ。セックスしたいというのを『おまんこしたい』って言っているのが最高に気持ち悪くてイカしてますよ。いつの世もクリエイティブな人や、異才人はどこか何かが壊れてる」

 

「だが流石にこんな内容で釣れるとは思えない!」

 

 

するとカランカラーンとドアが開く音。

志亞が入ってきた。そわそわしており、お店の人を見かけると頭を下げる。

 

 

「あのっ、すいません。ここでパーティが開かれると聞いたのですが……。はい、はい? え? ここは開園してますよね? おまんまんランド開園中ですよね? 幼女パーティに是非参加したいと思って伺ったのですが……。え? え?」

 

「あの人、先に逮捕したほうが世界のためになると思いますよ」

 

 

山路の言葉に誰も何も言えなかった。そうしていると志亞が四人に気づく。

 

 

「貴様ら……ッ! 騙したな!」

 

「黙ってろよ」

 

「やめろ! 地獄のような目でオレを見るな!」

 

 

帰ろうとする志亞だが、隼世が腕を掴む。

 

 

「大事な話だ。キミにとっても、珠菜さんにとってもな」

 

「………」

 

 

志亞はしぶしぶ席につくと、説明を受ける。しかし結果は同じだった。

 

 

「関係ないな。アリスカフェ? そんな糞ビッチまんこ軍団が惨殺されたところでオレに何の関係がある?」

 

「あ? 殺すぞ」

 

 

敬喜の表情が変わった。隼世がすぐに抑える。

 

 

「志亞、本気で言ってるのか?」

 

「コチラの台詞だ。そもそも貴様の仲間が珠菜ちゃんを襲った。絶対に許さん」

 

 

志亞に睨まれた。山路は肩を竦める。

 

 

「彼は彼、僕は僕ですが?」

 

「……フン。それに、危険人物もいる」

 

 

志亞は岳葉を睨む。岳葉はただ黙り、目を逸らすことしかできなかった。

 

 

「落ち着いてくれ。アリスカフェの件は、それだけの敵が出てきたということになる。奴等を放置すれば、珠菜ちゃんだって危ない目にあう可能性が高くなるんだぞ」

 

「それは――ッ」

 

「志亞、僕たちは敵は誰だ? 取り返しのつかないことになる前に、頼むッ」

 

「……まあ、いいだろう。だが馴れ合いはゴメンだ。何かがあれば一応は協力してやるがそれだけだ。オレはまだお前らを欠片も信用していないし、したいとも思わない」

 

 

志亞は立ち上がり、注文したコーヒーをキャンセルする。

しかしふと立ち止まった。顎を動かし、少しだけ顔を隼世のほうに向ける。

 

 

「一つだけ聞いてもいいか?」

 

「ッ、なんだい? 志亞」

 

「清楚おまんまんランドは、本当はどこにあるんだ……?」

 

 

隼世は全身に嫌な汗が浮かぶのを感じた。

 

 

「……そんなものはない」

 

 

志亞は少しシュンと表情を落とし、店を出て行った。

 

 

「いや逮捕でしょアレ。絶対に逮捕だよアレ」

 

 

敬喜は汗を浮かべている。皆、同じ思いだった。

とてもじゃないが同じ人間とは思えない。とてもファンタジーな男である。

 

 

「でもそれを虚栄のプラナリアは肯定した」

 

「――ッ、なに?」

 

「アレは、そういうイベントだったんでしょう? 現実や常識の舞台に幕は下りたんですよ」

 

 

隼世は無視した。少しでも脳を休めたかった。

そうしていると再びカランカラン。志亞が入ってくる。

 

 

「今度はなに!? もうボク、ヤダ!!」

 

 

そこで敬喜は気づいた。志亞の後を女の子がついてきた。

 

 

「あ! キミが珠菜ちゃん! 本当だ、すっごいかわいい!」

 

「あのっ! みなさん! たいへんなんです!」

 

 

珠菜は屋敷からアルファが飛び出していくのを見たらしい。

 

 

「アルファということは……?」

 

 

一同は山路を見る。彼はため息をついていた。

 

 

「やめてほしいて言ったのになぁ。やっぱり匂いは隠せないか」

 

 

ジットリと虚空を見つめていた。その目には、間違いなく殺意が秘められていた。

 

 

 

 

 

 

悲鳴や泣き声が聞こえた。

子供たちはすぐに部屋の隅へと移動し、リセと瑠姫は庇うように前へ出る。

その前には、体と声を震わせるアルファが立っていた。

 

 

「せぼっ、ぼ、ぼ! せ、せせせ。ばッ!」

 

 

せっかく、ぼくに友達ができたのに、貴女は奪うのか。

アルファは声にならない怒りに体を震わせ、ただただリセと正和を指差した。

お堂で言われたことは、簡単であっさりとしたものだった。

 

 

『モグラくん。俺はね、ようやく自分の居場所を見つけられそうな気がしたよ』

 

 

あの人の匂いは落ち着くんだ。正和くんとは親友になったんだ。

だからそろそろ僕らも僕らの道を歩き出そう。というわけで、じゃあね。

あ、そうそう、あの二人は絶対に殺しちゃだめだよ。そしたら俺はキミを許せない。

え? 一緒にいたい? うーん、俺は別にいいけどリセさんには近づかないでね、キミは臭いから。

 

 

「ぼくからあの人をとらないで!!」

 

 

アルファは決めた。高岡姉弟を殺そうと。

モグラくんの脳裏に今までの人生がフラッシュバックしていく。幼馴染のあの子が大好きだった。結婚しようといった。

彼女はどこぞの誰かと付き合った。

 

両親が離婚した。母についていった。別の人と結婚した。子供が生まれた。

お兄ちゃんは本当の家族じゃないでしょと言われた。

友達ができた。キミと友達になると皆からいじめられると、友達がいなくなっていった。

世界で一番の宝物があった。パパから買ってもらったトレーディングカード。

いじめっこのよしくんに盗られた。

 

 

「うぁああああああああ!!」

 

 

アルファは腕を振り上げた。皆が恐怖に震える。

その中で、正和が叫んだ。

 

 

「山路ィィイ!」

 

 

託児所の窓が割れ、ジャングラーが飛び込んでくる。

車体がアルファに突き当たり、吹き飛ばされて壁に激突する。

 

 

「うあ゛ぁあッッ!」

 

 

アルファが倒れる中、ジャングラーから降りた山路はコンドラーを装着する。

 

 

「アマゾンッッ!!」

 

 

小さな子供たちは体を丸めて震えているため、それが見えたのはミッちゃん、ナオタ、正和、リセ、そして瑠姫だった。

改めて瑠姫は思う。そうか、やはり、また始まったのかと。

仮面ライダーアマゾンはアルファを掴み起こすと、窓の外に飛び出し、子供たちから引き剥がしていく。

 

 

「……すごぉい」

 

 

リセはメガネがズレたまま、呟いた。

 

 

 

 

 

分かっていたつもりだった。

分かっていたつもりだが、クリスマスのプレゼントを嬉しそうに抱える子供と、その子を温かい目で見る両親。

そんな幸せいっぱいの家庭とすれ違ったとき、割と本気で絶望した。

 

あの幸せは一生手に入らないものだ。アレに近いものを皆は得られるかもしれないが、少なくとも自分は一生手に入らない。

別に胸を張れることはできる。僕は病気だから、僕は異常者だから、他の人とは違うのでありふれた幸せは手に入りませんが何か?

でもどれだけ違う道を歩いても、ふとしたときに隣の道が目に入る。

あの葡萄は、きっと酸っぱい。

 

 

「でも少なくとも俺は、甘いだろうなって思ってた。別に食えなくても良かったけど、食えるなら食えたほうがいいよな?」

 

 

諦めや妥協は、残酷な言い方をすれば『言い訳』ともとれる。少なくとも山路はそうだった。

ぜんぶが悪いことではないが、俺は頭がおかしいから、おかしいなりの生き方をしていくねと吼えることが正解だとは思ってない。

 

 

「三大欲求に抵抗できうるのは、三大欲求に他ならない」

 

 

葡萄を求める食欲があるのなら、性欲は抑えられるかもしれない。ほっぺが落ちる葡萄が毎日食べられたのなら、一生オナニーでもいい。

 

 

「俺は、ようやく人としての人生を歩めるかもしれないんだ。ダメならダメで仕方ないけれど、まずは一回ちゃんと本気でやってみないと」

 

「うぅぅぅぅうう゛ッ!」

 

 

少し遅れてサイクロンが、クルーザーが到着する。

隼世は息を呑んだ。アルファが泣いていた。声が掠れるほどに泣いていた。

アルファの両腕は地面に落ちていた。

 

 

「覚えてる? 皆で遊園地にいったよね」

 

 

トンボくん。座薬くん。モグラくん。山路で遊園地に行った。

本当の意味で楽しんでいたのは、楽しそうにしていたのは、モグラくんだけだった。

 

 

「どうしてあの笑顔を捨てたの?」

 

 

そこが好きだったのに。

 

 

「よせ! やめろアマゾンッ!」

 

 

隼世はバイクから転げ落ちると全速力で走る。思い切り腕を伸ばした。

 

 

「殺すな!!」

 

 

そう叫んだ隼世の前で、アマゾンが飛び上がった。

 

 

「俺はそろそろ、ヒーローになる」

 

 

振り下ろした腕。

 

 

「ダアアアアアアアアイッッ!」

 

 

アルファが二つに裂けた。

 

 

「切断ッッ!!」

 

 

アマゾンが腕を真横に振るった。アルファが四つになった。

 

 

「………」

 

 

変身を解除した山路は、淡々とした表情で転がっている死体を見た。

振り返ると、鬼気迫る表情の隼世が見える。

 

 

「お前はどうしてそんな簡単に人が殺せるんだ……!」

 

「市原さん。あなた仮面ライダーでしょ? 必殺技は敵を倒すものだ。いい加減、現実を見ましょうよ」

 

「僕らは……、それじゃあ、ダメなんだよッッ!!」

 

 

隼世は拳を握り締めた。

だが目をギュッと瞑り、歯を食いしばると、ゆっくりと膝をつく。

そして両手を地面につくと、頭を下げる。

 

 

「頼むから……ッ、もう誰も殺さないでくれ」

 

 

屈辱であり、それは恐怖でもあった。隼世にとって仮面ライダーはかけがえの無いヒーローの形であった。

しかし虚栄のプラナリアで何かが変になった。何か、大切なものが剥離していく感覚。

隼世はまだそれを何物にも昇華できないでいる。

 

隼世は昭和ライダーをしっかりと見てはいないが、それでもその存在や、重さは理解していた。

しかし仮面ライダーが終わり、概念ともいえる昭和ライダーが侵食されてしまえば、修正はできそうにもない。

だから隼世は土下座をする。何に対して? 誰に対して?

どこにこの心を持っていけばいいのか。隼世には見つからなかった。

 

 

「命を奪わないでくれ。たのむ――、頼むッッ!」

 

 

その姿で殺さないでくれ。

 

 

「……分かりました。どうせ最後のつもりだったんだ」

 

 

山路は、ひまわりの里に向かって歩いていく。

 

 

「今、過去の全てを切り裂きました」

 

 

しばらくして建物からはしゃぎ声が聞こえてきた。

 

 

「山路すっげー! なんだよアレーッ!」

 

「山路くぅん。たすけてくれてぇ、ありがとうねぇ」

 

 

周りは既に薄暗く、ひまわりの里は鈍く明るい光を放っている。それを岳葉、隼世、敬喜は外からボンヤリと見つめていた。言いようのない疎外感があった。

一方でひまわりの里にいる山路はまだ子供たちに囲まれていた。とくに正和は興奮している。

 

 

「変身できるなんて聞いてないぜ!」

 

「言ってなかったし」

 

「や、やっぱり悪い人を見つけて倒すんですか?」

 

「そう」

 

「すごいなぁ、かっこいいなぁ!」

 

 

ミッちゃんや、ナオタも興奮している。

 

 

「よっし! じゃあ今日から山路がおれたちのリーダーだ!」

 

「???」

 

「決まってんだろ! あんなスゲーもんになれるんだから! 困ってる人たちを助けようぜ!」

 

 

副リーダーは正和。司令塔はミッちゃん。サポーターはナオタ。

彼らも最近水野町が物騒になっているのは知っている。だから悪い奴等をやっつけて、困ってる人を助けて、水野町をもっと平和にするんだ。

 

 

「それができるのは、おれ達だけだぜ。なあ山路!」

 

 

それは随分、魅力的な響きであった。

正和は山路に先ほどの姿の名前を問う。仮面ライダーアマゾン、それを聞くと、正和はすぐに自分達の名前を口にした。

 

 

「よし! さっそく今日から! 『少年ライダー隊』は平和を守るヒーローとして活動していくぞ!」

 

「うん! 上手くいく確立は95%ってところかな」

 

「水野町が平和になれば、うな重ごちそうしてくれるかなぁ!?」

 

「ついでに姉ちゃんも入れてやるからな」

 

「え? う、うん。ありがとぉ」

 

 

山路は非常に心地いい香りを感じていた。

この人を好きになっていこう。この人を信頼していこう。

ここで生きていこう。山路は強く決意した。

 

 

 

水野町駅近くにあるビジネスホテル。

隼世が部屋に戻ってくると、ルミがベッドに寝転んでテレビを見ていた。

 

 

「あ、おかえりイッチー」

 

「ただいま。お酒飲んでたの?」

 

「うん。お外は物騒だから」

 

 

隼世は上着を脱ぎ捨てると、ネクタイを緩めて、大きなため息をつく。

 

 

「イッチーも飲む?」

 

「いや、僕はいいかな」

 

 

隼世はベッドに腰掛けると目を細めた。部屋は小さめだ。ベッドは一つだし。

けれどもルミを部屋に入れてもいいかと聞けば、一人分の値段で都合をつけてくれた。

ホテル代はもちろん警察側が出してくれる。ということは、おそらく税金が関わっているのだろう。

それだけ期待されているということだ。バルドは怪人と戦うから、普通の人じゃダメなのだから。

なのに、何も結果は出せていない。

 

 

「ね、ねえイッチー。お昼のこと覚えてる? アタシほら、お風呂に入って良い匂いでしょ?」

 

「………」

 

「なんならもう一回入ってもいいよ? なんなら一緒に……、入る?」

 

「ゴメンねルミちゃん。今日はそういう気分じゃないんだ。疲れてて。お風呂も……、明日朝シャワーを浴びるよ」

 

 

そういうと隼世はベッドに寝転んだ。

髪に何もつけてないし、特に化粧もしていない。このまま目を閉じようと思った。

 

 

「仕方ないなぁ。よし! 今日は眠りなさい!」

 

 

ルミは素早くシャコシャコと歯磨きを行うと、すぐに隼世の隣にもぐりこんだ。

狭いベッドだ。ピットリとくっつく。

 

 

「ごめんね、お風呂入ったのに。僕、臭う?」

 

「全然。良き香りじゃ」

 

 

お酒が入っていたからか、ルミはすぐにスヤスヤと寝息を立て始めた。

しがみついて眠るさまは、まるでペットだ。隼世は少し安心したように微笑む。

だが、しかし、その感情を塗りつぶすだけのことがこの町には多すぎる。隼世は天井を見つめ、舌打ちを行った。

 

 

 

 

 

動物が好きだった。それも他人のペットが大好きだった。

一番いいのは猫だ。勝手に出歩いてくれる。そういう意味では犬は『レア』だから興奮する。

飼い主が目を離している隙にサッと奪っていくのがベストだ。

まあよほどの時は家に忍び込む。鳥やハムスター、ハリネズミなんかもいい。

奪ったあとは、自宅に持ち帰って狭い狭いケースに入れる。

狭ければ狭いほどいい。一切の身動きができない場所に動物を入れて眺めるのが大好きだった。

 

吼える。鳴く。

出たいのか、苛立っているのか。その哀れな姿を見るのがたまらなかった。

もちろん水やエサは一切与えない。そうしているとだいたい三日くらいで動かなくなって、気づけば死んでいる。

何を思っているのか。吼えるのは何を訴えているのか。辛いのか、苦しいのか、怖いのか、怒っているのか。

だが何をしても無駄なのだ。一切の自由を奪われた空間で死んでいく。飼い主が探しているのを知れば快楽は最高潮に達する。

お前らの大切なペットは、今、身動きが取れない状態で死に逝くを待っている。

 

最高だった。この優越感を超える快楽はあるのだろうか?

そう思っていたが、やがて直接殺す快楽に目覚めた。沢山愛情を注がれてるかどうかは毛並みにでる。

その毛を毟り取るのが、焼き焦がすのは最高だった。

歯をペンチで毟り取り、目をスプーンで抉り、尻尾をハサミで切り落とす。

顔をハンマーで潰したこともあった。服を着せていたり、首輪がおしゃれな場合は、死体をその家の玄関においておく。

 

朝、汚い死体を抱いておうおうと泣いている姿を撮影し、オナニーをするのが大好きだった。

愛が注がれた器を壊せば、その愛がこぼれていく。それが見たいし、その液体に触れられる気がして、彼はペットを殺し続けた。

 

しかし彼は魔法使いではない。

足の都合や、復讐に燃える飼い主の捜査によって、彼に疑いがかかるようになった。

このままではバレる。かと言って犯行を抑えれば、自分が犯人だと言っているようなものだ。

しかし注目されている。どうしよう? どうすれば?

 

悩んだ。殴られた。悩んだ。殴られた。このままではダメだ。壊れる。

そうか。そうだ。どうせ見つかって咎められるくらいならば、もっと大きなことをしてから捕まろう。

少年は家の包丁を持って、幼稚園児を捕まえた。

最高の時間だった。脳内絶頂射精という文字が頭の中に降りてきた。

こんなに気持ちいなら、もっと早くやっておけばよかった。

少年は逮捕された。未成年だったので、少年院に送られた。

そこで山路と知り合った。

 

 

(オレは、特別な存在なんだ……!)

 

 

トンボくんは我に返った。

記憶は曖昧だ。V3に負けて逃げているときに、白いメロン野郎に捕まった。

そこからはあまり覚えていない。気づいたらこうなっていた。

 

 

(オレは強いんだ! アイツらにはもう負けない……!)

 

 

赤と青のコントラスト。全身、いたるところに開けられた穴。

そして青あざだらけの肉体。肋骨折れ、鎖骨は折れ、膝蓋骨は砕け、肺、すい臓、肝臓には穴が。

 

 

(オレはもうッ、バカにされることはないんだ……!)

 

 

トンボは手を伸ばした。

そういえば、手がなかった。

トンボくんは動かなくなった。まだ少し息はあったかもしれないが、しばらくしたら死んでいたので、どちらでもかまわない。

 

 

 

翌日、隼世とルミはホテルの隣にあるファミレスで朝食を取っていた。

ルミはフレンチトーストを二枚、中華スープを5杯、メロンソーダーとオレンジジュースをお腹に収めたあたりで、前にいる隼世を見る。

なんだか食が進んでいない。ベーコンをつつきながら、外を見ているだけ。

 

 

(元気ないっぽい?)

 

 

そういえば昔も似たようなことがあったか。まあアレは、立場が逆だったが。

あの時は隼世がビッフェにつれて来てくれた。

 

 

『ど、どうしたの? ルミちゃん』

 

『なにが?』

 

『ご飯、一杯しかおかわりしてないよ! いつもならもっと――』

 

『イッチーさぁ。アタシに何か食べさせれば機嫌よくなると思ってるでしょ。浅いんだよね、考え方が』

 

『うッ! ご、ごめん。最近元気がなかったから。どうしたのかなって』

 

『なんでもない』

 

『何かあったら言ってよ。相談聞くよ?』

 

『なんでもないってば!』

 

『どうしても言えないの?』

 

『うむ!』

 

 

言えなかった。数学のテストが6点だったなんて。

そうしていると隼世はカバンから何かを取り出し、テーブルに置いた。

それはルミがずっとほしいほしいと言っていたゲームソフトであった。

 

 

『上手くいかない時ってあるよね。僕も何度もあるよ。そういう時はだいたい何をやってもダメで……。だから塞ぎこんだときは、全部忘れて遊んだほうがいいよ。そしたらリフレッシュして再出発できるから』

 

『でも――ッ』

 

『遊べばいいんだよ。今はダメでも、気持ちが楽になれば新しい何かが見えてくるよ』

 

『う、うんっ! そうだよねぇ! ずっといじけてても仕方ないよね!』

 

 

ルミは素早くゲームソフトを取る。

 

 

『あ、でも……、お金』

 

『これは僕の。貸してあげるから、クリアしたら返してね。ああでもじっくり楽しんでくれればいいよ。僕、今、他にやってることあるから』

 

 

ルミは額面どおりに受け取って、たっぷり遊んでから隼世に返した。

まあ結果的に、それもひとつ原因で、ルミは留年して学校を辞めるのだが……。

でも今になって思う。やっぱりあの時のことが、今の自分を作ったのは確かだ。

ルミは今の自分が好きだった。ニートだけど、お部屋は汚いけど、お腹がポヨポヨしてきたけれど。

 

 

「ねえ、イッチー?」

 

「うん?」

 

「悩んでる?」

 

「いやッ、別に」

 

「嘘だよ。教えて?」

 

「本当ッ、なんでもないから」

 

 

だから昔、隼世がしてくれたように、ルミは笑顔を浮かべた。

 

 

「じゃあ今日、海へ遊びに行こっか?」

 

「え……?」

 

「パーッと遊んだらさ、また頑張れるよ。だから今は辛いこと一回忘れちゃおうよ」

 

 

隼世はしばらくポカンとしていたが、やがてニコリと笑う。

 

 

「本当に何でもないから。それに今日、僕やらなきゃいけないことがあって。ごめんね」

 

「ぶぅ。そうっすか」

 

「ほら食べよ食べよ。ここのファミレス、パンがおいしいよね」

 

「うん! そうだ、アタシスープおかわりしてくるね!」

 

 

ルミは笑顔で席を立った。額面どおり受け取るのは、まだ変わっていないみたいだ。

隼世はすぐに笑顔を消して、俯いた。その表情には、確かな不快感があった。

 

 

(皆や僕が頑張っているのに。人も死んでるのに。こんなときに遊ぶだなんて、ありえないだろ……ッ)

 

 

こんなに空気の読めない女だったか?

いや待て。まさか――ッ、ガイジ化しているなんて事はないだろうか?

ありえない話ではない。隼世はゾッとしてルミを見る。張り付くような悪寒があった。そうしていると彼女が戻ってきた。

 

 

「どしたの?」

 

「え――ッ、あぁいや! ごめん」

 

「え? えへへ、どうしてあやまるの?」

 

「いやッ、いや……! ごめん」

 

 

ルミは不思議そうに首をかしげた。

しかしすぐにスープを美味しそうに飲み始め、デザートのアイスも注文した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー!」

 

 

海を見ていた岳葉の隣に、ロングスカートを靡かせた敬喜がやってくる。

 

 

「ど、どうッ、も」

 

「お兄さん町の人じゃないよね? 水野町の海はキレイでしょー」

 

「う、うん!」

 

 

人と話すのは苦手だが、異性(本当は同性だが)ともなると変に緊張してしまう。

岳葉は真っ赤になりながら肩を竦める。

 

 

「ねえ、一つ聞いてもいーい?」

 

「ッ?」

 

「V3の人、あのロリコンのね。貴方が危険人物って言ってたけど、どういうことなの?」

 

「そ、それは……」

 

「ボクには貴方が危なそうな人には見えないケド?」

 

 

岳葉はギュッと目を閉じる。

言いたくない。言いたくないが、全て自分がやったことだ。

岳葉は虚栄のプラナリアで自分がやってきたことを、要するになぜ志亞が敵意を剥き出しにしたのかを説明する。

 

 

「なるほどね。じゃあお兄さんもロリコンさんなんだ」

 

「いやッ、そ、それは――……! そのッ」

 

「ボクが治してあげよっか?」

 

 

そういうと敬喜は舌を出して悪戯っぽく笑い、襟に指をひっかけるとずり下げて胸元を強調させる。

白い肌が見え、岳葉はすぐに目を逸らした。

それを見て、敬喜はケラケラと笑う。

 

 

「冗談だよっ! お兄さん可愛いね!」

 

「ええ。本当に」

 

「ん?」

 

 

振り返ると、そこにはギラリと敬喜を睨みつける瑠姫が立っていた。

 

 

「うひゃあ!」

 

 

仰け反る敬喜。

 

 

「岳葉くん。私、手が出るわ。止めないと危ないわよ」

 

「お、おお落ち着いてお姉さん! ボクはお兄さんの仲間なんだよ!」

 

 

敬喜はエックスに変身してみせる。さらに耳打ちで瑠姫だけに自分が男性だということも告げた。

瑠姫は少しだけ驚いたが、また睨みをきかせる。

暗めのアイシャドーも相まって魔女のようだ。

 

 

「関係ないわ。今のこの人、押せば崩れそうだもん」

 

「そもそも押さないよ。ちょっとだけからかっただけ!」

 

 

ギャーギャー言い合っていたが、やがて落ち着いたのか、三人は並んで海を見る。

 

 

「瑠姫、今日、ひまわりの里は?」

 

「お休み。ほら、昨日アマゾンが暴れたから窓ガラスとか交換しないとって。怖がってる子もいて、一応何とも無かったってごまかしてるんだけど……」

 

 

まあ、せっかく海がきれいな町に来たんだし、一緒に岳葉と観光でもと。

 

 

「あー、じゃあボク邪魔だ」

 

「いいの、別に。観光って言っても今はいろいろとアレだし」

 

 

それに瑠姫は肌を出したくなかった。

水着なんてもってのほかだ。そもそも今は泳ぐには少し寒い。

 

 

「私はただ……、岳葉くんと一緒にいられればそれでいいの」

 

 

今でも、ふとした時に岳葉が消えてしまうんじゃないかと思ってしまう。

それに瑠姫もいろいろある。なんだか、どういうテンションでいればいいのか分からないし、どういう心持ちでいればいいのかも。

 

 

「岳葉くん。私この前ね、病院に行ったの」

 

「え? どこか、悪いの?」

 

「そういうわけじゃ、ないんだけれど……。私もほら、怪人になったでしょ? あれと元々の状態もあって……、ほら、中絶手術が安いところにしたのがマズかったのかも。だからもう子宮がダメなんだって。癒着がどうとか、あんまり覚えてないけど」

 

 

岳葉は一点を見つめた。みんな、海を見つめていた。

 

 

「私はもう、子供はダメみたい」

 

 

波の音だけが聞こえていた。

瑠姫はそれで良かった。三人は無言だったけれど、それでも良かった。

敬喜もココにいていいのか分からなかったが、瑠姫だってバカじゃない。敬喜に教えたのだ。

どういう意図があったのかは分からない。というよりも本人が分かってない。

一つだけなんとなく。おそらく、敬喜が仮面ライダーだと知ったからだ。

敬喜もそういう瑠姫の複雑な心を何となく理解して、海岸に残ることにした。

そもそもどうせ行く所もない。

 

 

「ねえお姉さん」

 

「なにかしら?」

 

「どうしてお兄さんを好きになったの?」

 

「優しくて。頼りなさそうに見えるけど、カッコよくて……」

 

 

瑠姫は嘘をついた。フッと笑い、首を振る。

 

 

「好きになるのに理由なんていらないわ。しいて言うなら運命の赤い糸で繋がっていたのよ」

 

 

敬喜は微妙そうな顔をする。すると瑠姫は微笑んだ。

 

 

「私達だけにしか、舐め合えない傷があったのよ」

 

「………」

 

 

敬喜はそれが本当の理由なのだと理解する。あと一つだけ気になることがあった。

 

 

「どうして、お兄さんは生き返ったの?」

 

 

岳葉は首を振る。分からない。覚えていない。

 

 

「隼世はクロスオブファイアが肉体を形成させたのかもしれないって言ってたけど、俺には違うような気がするんだ」

 

 

もちろん、それもあるだろう。

一度はなくなったクロスオブファイアがなんらかの形で再燃し、それが原因で復活した。

しかし一番の理由はもっと別のところにある。岳葉はもっと――、あれは確か……。

仮面ライダー?

 

 

「何かに、試されてる、のッ、かも?」

 

「ふーん。オッケー、じゃあボクは帰るね。ごゆっくり~」

 

 

敬喜は手をヒラヒラ振って、その場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし! 少年ライダー隊ッ、出動だ!」

 

「「「「おー!」」」」」

 

 

正和を先頭に、ミッちゃん、ナオタ、山路、リセが外に出る。

少年ライダー隊は水野町の平和を守るため、いろいろな人におかしなことがないか、困っていることがないかを聞いてまわった。

まずは近所のお蕎麦屋さん。駄菓子やさん。ユミちゃんの家。まろやんのやっている居酒屋。シゲばあのお家。コンビニ、海に来ている人たち、釣りおじさん、サーファーボーイ。橋の下で9%のチューハイを飲んでる人。路地裏で赤いパンツを被ってるおじさん。本屋さん。公園で読書中のお姉さん。スポーツジム……。

 

みんな何かに困っていた。

たとえば猫がいなくなった。

 

 

「変身!」

 

 

アマゾンになればなんとなく普通の嗅覚も強化され、動物の気持ちも分かるようになった。

ジャングラーにも協力してもらえば、いなくなった猫ちゃんはすぐに見つかった。

 

たとえば荷物を運んでほしい。

お祖母ちゃんの一人暮らしでは重い荷物を持つのは大変だろう。

 

 

「任せてくださいお祖母ちゃん」

 

 

仮面ライダーになれば、変身せずとも重い荷物もなんのその。

たとえば、美味しい魚が食べたい。

アマゾンは海にもぐって魚を取ってきた。お爺ちゃんはとても喜んでいた。

 

 

「骨には気をつけてくださいね」

 

 

たとえば庭の草むしり。山路たちは無心で毟った。

 

 

「え? お礼におやつを? うれしいなぁ。どうもありがとう」

 

 

など、など、など。

いろいろな所に行って、いろいろなことをした。

みんな、ありがとうと言ってくれた。みんな嬉しそうだった。

山路の心が満たされていく。懐かしい感覚だった。気持ちがいい。性的興奮とは違う、穏やかな幸福だった。

行くところがないと言うと、リセは自分の家に招きいれてくれた。山路がお風呂を借りて寝支度を整えると、丁度廊下で瑠姫と鉢合わせる。

 

 

「……どうも」

 

「どうも。ところで翠山さん。貴女、リセさんのことはどれくらい知っているんですか?」

 

「どれくらいって……。ココに来てから知り合ったから、あまり知らないわ。仲良くはさせてもらっているけれどね」

 

「素晴らしい人だとは思いませんか? なんの疑いもなく俺を招き入れてくれた」

 

 

アルファを殺したところは見ていないし、わざわざ言うことでもない。

とはいえ、アマゾンに変身したところは見ている。

仮面ライダーとはいえ所詮それはフィクション、目の前にいるアマゾンは紛れもなく化け物だ。

にもかかわらず、リセや正和は山路と接する際に気を遣っている素振りはない。

匂いも同じだ。

 

 

「犯罪者だけではなく、ある程度感情の匂いも分かるんです。大丈夫ですよ翠山さん。僕は貴女を殺しません」

 

「……ッ、ごめんなさい。でも誰だって警戒するわ」

 

「当然です。どちらかと言えば、高岡姉弟が異常なんです。わずかな恐怖はミッちゃんくんも持っている。ナオタくんは……、食欲が脳内のほぼ全てを占めているから」

 

 

山路は少し嘲笑を。

 

 

「虚栄のプラナリアで何があったのかは詳しくは知らない。けれども、貴女だって分かったはずだ。おかしいのは世界のほうであると」

 

 

山路はずっと正常になる道を模索していた。

快楽を求める一方で、その実、誰よりもノーマルを渇望していた。

だって胸を張り続けるのは疲弊する。別にソレでもいいとはいえ、山路はうんざりだった。いくら気持ちよくてもセックスばかりの毎日は、ふとバカらしくなる。

 

 

「貴女の中にある匂いが抑えられているのは、貴女にとって抑制するだけの価値あるものを見つけたからだ。それは僕も同じ――」

 

 

山路は口だけ、ニッコリと笑う。

 

 

「僕はココで生きていきますよ。少年ライダー隊のみんなと、リセさんと一緒に」

 

「ライダーは辛いわよ」

 

 

瑠姫なりに、そう思った。だからこれは瑠姫なりの警告だ。

 

 

「耐えられる? 貴方に」

 

「耐えて見せますよ。明日は手作りのピザ釜で、みんなとマルゲリータを焼くんです。楽しみだなぁ。味はよく分からないけど、感情が美味しいんです」

 

 

山路はそこで瑠姫と別れた。夜は正和と一緒に寝た。

 

 

「姉ちゃんお前のことカッコいいって言ってたぞ。よかったな!」

 

「うれしいなぁ」

 

「おれもお前のこと好きだぜ! 相棒にしてやるよ!」

 

「やさしいなぁ」

 

「明日は楽しみだな! おれ、五枚は食うぜ」

 

「まんぷくだなぁ」

 

 

山路は寝た。ムラムラしない夜は心地がいい。

 

 

 

翌日、子供達が戻ってきた。

山路は絵本を読んであげた。おりがみを折ってあげた。

一緒に絵を描いた。鬼ごっこをして遊んだ。かくれんぼをして遊んだ。

お昼になった。ピザを作って食べた。

チーズが伸びた。リセが笑った。山路も笑った。

 

 

「リセさん。どうして貴方はそんなに優しいんですか?」

 

 

ふと、聞いてみる。リセは口いっぱいにピザをほおばっていたので、少し恥ずかしそうに急いで飲み込んだ。

 

 

「べつにぃ? 普通だよぉ?」

 

「いえ、貴女は――、まさに天使だ」

 

 

リセは照れているようで、ニヘニヘと笑った。

山路は本気で言っていた。リセは学校には馴染めなかったが、それはそうだ。あのような腐った場所では彼女は耐え切れない。

山路はちゃんと理解している。この狂った世界では彼女は生きられない。

もっと綺麗なところで生きるべきだ。それくらい彼女は純粋で、優しく、自己犠牲にあふれていた。

 

 

「うーん。本当に普通でぇ」

 

 

リセは満面の笑みで山路を見た。

 

 

「みんなが幸せなら、それが一番いいでしょぉ?」

 

「すばらしいなぁ」

 

 

そこでひまわりの里に手紙が届いた。みんなで中を見た。

 

 

『仮面ライダーのみなさんに伝えてください。もう私達の邪魔をしないでください。話し合いをしましょう。場所はひまわりの里のそばにある空き地にしましょう。今日の15時にしましょう。来てくれないなら子供達を殺します。私のノコギリで生きたまま刻みます。逃げても、お家に帰っても追いかけて殺します。子供達だけじゃなくてその家族も友達もみんな殺すので、よろしくお願いします』

 

 

みんながゾッとする中、山路はニヤリと笑っていた。

 

 

「大丈夫だみんな。仮面ライダーは正義の味方、悪党なんかに負けるわけないだろ」

 

 

 

 

 

 

 

約束の十分前に全員が集まっていた。

隼世、岳葉、敬喜、四人は顔を合わせて頷く。

 

 

「って、あれ? 風間さんは?」

 

 

隼世が汗を浮かべて携帯を見せる。

ディスプレイには、隼世が志亞に協力を依頼した長文と、志亞から帰ってきた一文しかない返答があった。

 

 

『無理。珠菜ちゃんと15時5分から映画を見る。天気の子見てきます』

 

 

山路は嫌な顔をした。とってもとっても嫌な顔をした。

 

 

「あの人、マジで――」

 

「ま、まあ待て山路。彼を擁護する気にはなれないが、罠という可能性もある。一人が別の場所にいるのは悪い話じゃないさ」

 

「でもあの人、映画ですよね? 携帯は無理でしょう」

 

「昭和ライダーには互いにメッセージを送れるテレパシー能力がある。僕は練習して使えるようになったから、万が一のときは志亞に発信するよ」

 

「すごいなぁ」

 

 

四人は空き地に向かう。

ひまわりの里の屋上からは空き地が見えるので、正和たちもそこから様子を伺う。

 

 

「だいじょうぶかなぁ? 山路くぅん。とっても心配ぃ」

 

「大丈夫だよ姉ちゃん。それより、むしろ燃えてきた。少年ライダー隊はじめてバトルだ! いくぜミッちゃん、ナオタ。いつでも加勢できるようにしとけよ!」

 

 

ミッちゃんは鍋をかぶり、おたまを持っていた。

ナオタは家にあった勇者の剣(300円の玩具)を。そして正和はピコハンを持って空き地を睨んでいた。

すぐにシルエットには気づいた。正和も、隼世たちも。

 

三人いた。見た目は普通の人間だ。

左にいるのはメガネのかけた長身で細身の男性だった。

 

 

「ちがっ! あのね! 私は子供はいいんですよ! 子供が外で遊ぶのはこれ当然のことだとは思いますよ!? でもね、騒ぐのは違うでしょうがぁあ! 僕そんなおかしいこと言ってますか? 近隣に気を遣うのは当然のことであってね! 常識を教えることもできないところが、教育を施せるのかっていう話をしているんですよね! 僕だったらそんな恥ずかしいことはできない! それともアレですか? 昼だから騒いでもいいと!? ハッ! ナッ! ホッッ! それッ、それはおかしいよぉ! 確かに僕は働いてません。ニートですよ? じゃあ人権もないんですか! 子供だから遠慮しないといけないんですか! そんなのおかしいよ! でもね、子供が騒ぐのは当然なんですよ! だから周りの大人がね! 大人が! 大人……ッ、は!?」

 

「彼はハーモニーガイジ。この園に何かが言いたいらしくて、連れて来ました」

 

 

真ん中にいるのは、トカゲのような顔をした女だった。

トカゲ面は次に右にいる女性を指差す。マダムのような出で立ち、さらにトイプードルを散歩している女性だ。

 

 

「オタクらのね、チビちゃんたちの声が、ミルクちゃんが嫌いみたいでね。だからね、死んでいただけると助かりますのよ?」

 

「彼女はラブミートガイジです。子供達が嫌いみたいで、連れて来ました」

 

 

犬、ミルクちゃんがキャンキャンギャンギャン鳴いている。

そして思い切り飼い主であるラブミートの足を噛んでいた。血が流れているが、ラブミートは可愛いでしょうと笑う。

明らかに普通ではない。そうしていると、敬喜が前に出る。

 

 

「あんた等が、波佐見さんをおかしくしたの?」

 

「……あなた、可愛いですね。私なんてトカゲ面でずっといじめられたのに、どうしてこんなにも差があるんだろう?」

 

「整形すれば? いいとこ知ってるよ? ボクもちょっと弄ってるし」

 

「良神ですか? あそこはダメ。全然ダメ。本当にセンスがない」

 

 

トカゲ面はカバンをあさる。

 

 

「そもそも整形がナンセンス。せっかくパパとママからもらった体なのに傷をつけるなんて許せない」

 

 

ブツブツと呟きながら、電気丸ノコと、片手で持てるチェーンソーを取り出す。

 

 

「矜持や信念がない人はダメ。私もずっとコレを使い続けてます。これで何人も殺しました。斬りました。だから私はアポロンに愛される資格があるのです。ああ、ああ、偉大な太陽」

 

 

ミルクちゃんが吼える。吼え叫ぶ。すると全身から血が出てきた。

まもなくミルクちゃんの全身から棘が飛び出し、絶命する。

一方でラブミートは首輪に繋がっているチェーンを手繰り、構えた。

ミルクちゃんはフレイル。武器なのだ。

 

 

「死んでください、仮面ライダー。太陽に見放された愚か者ども」

 

 

もはや会話はできそうにもない。隼世たちは一勢にベルトを生み出す。

 

 

「確保するぞ。山路、絶対に殺すな」

 

「分かってますよ。捕まえないと情報が引き出せない」

 

 

変身。風車が回る。風が吹いた。四人は既に仮面ライダーに変わっていた。

 

 

「アマゾンはハーモニー、1号はラブミート、僕とエックスはノコギリ女を抑える!」

 

 

了解の声が重なる。アマゾンは四速歩行で走り出すと、一気にハーモニーの前に位置を取る。

ハーモニーは何かをブツブツと口にしていたが、よく分からない。

アマゾンはまず手刀で肩を打つと、よろけたところを狙って、腹に拳を打ち込む。

相手の呼吸が止まると、飛び回し蹴り。二度蹴りがハーモニーを吹き飛ばす。

 

 

「モガアァア!」

 

 

ただ、人間の姿だから手加減しすぎた。

ハーモニーはすぐにナイフを取り出すと、立ち上がって刃をチラつかせる。

 

 

「それをやっちゃぁおしまいでしょぉうがぁあああああ!」

 

 

ハーモニーが襲い掛かってきた。

振るったナイフ。しかしアマゾンの腕には(ヒレ)がついている。

距離感と勢いを見誤ったハーモニー、悲鳴はすぐに聞こえてきた。ナイフを持った右手がボトリと落ちる。

ハーモニーは手首から上を失い、泣き叫びながら地面を転がる。

 

 

「山路ッ!」

 

「大丈夫です。殺してません。ただ刃物を持っていたので多少の攻撃はお許しを」

 

 

そういうと、さっそくアマゾンは蹴りを繰り出す。

なんだか想像していたよりもずっと弱い。ハーモニーは蹴りを二発打ち込んだところで完全に動かなくなった。

アマゾンは倒れているハーモニーの右腕を掴んで、強制的に引き起こす。

念のため、顔を二発ほど殴るが、反応はない。目はすぐに腫れ、歯がボロボロと抜けてきた。

 

ふと、アマゾンはひまわりの里を見る。子供達がコチラを見ていた。

アマゾンはまるで釣った魚を見せるようにボロボロになったハーモニーガイジを見せ付ける。

 

 

「アマゾンが勝ったんだ! やったぜ!」

 

 

子供達の歓声や拍手が巻き起こる。

アマゾンはそのままハーモニーを投げた。既に隼世を通じて警官や、水野町の刑事が待機している。すぐにハーモニーガイジは取り押さえられ、そのまま連れて行かれた。

 

一方でラブミートは武器であるミルクちゃんの亡骸を振り回していた。

血が飛び散る。そのまま、どうしていいか分からずに躊躇している1号へ思い切りミルクちゃんを放り投げた。

どうやらミルクちゃんの中には以前見つかった刃物が埋め込まれた死体と同じことが施されていたらしい。全身を突き破った針が1号に刺さり、火花が散る。

 

 

「う――ッ!」

 

 

1号は再び飛んできたミルクちゃんを掴んでみた。

針が痛い。いやそれよりも血まみれで絶命しているミルクちゃんが可哀想で仕方ない。

なによりもマスクを通して鼻いっぱいに広がる血と糞の臭い。

血と、糞のにおい。

死がそこにあった。

 

 

「あああああああああうぁぁあぁああぁ!」

 

 

1号はミルクちゃんを放り投げると、一目散に逃げ出した。

変身が解除され、岳葉は周りで待機している警官たちを突き飛ばしながら走る。

躓いて思い切り転んでも、岳葉はハイハイで逃げ続けた。

 

そしてこみ上げる吐き気に耐えられず、胃の中のものをブチまけた。

随分と無様で情けない姿だ。瑠姫も確認できたのか、心配そうな表情を浮かべている。

そしてもう一人。離れたところにある木の上に立っている男がいた。

 

 

「………」

 

 

仮面ライダー斬月は岳葉をジッと見ていた。

 

 

 

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