仮面ライダー 虚栄のプラナリア   作:ホシボシ

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歌詞使用機能を使ってみました。
サブタイがそれでございます(´・ω・)


最終話 夢が虹を降らすまで

電子の海。

果てない世界だ。始まりであり、終わりである。

長い航海のなかで、Chiharuはずっと考えていた――。

 

どうすれば、人を苦しめる世界が作れますか?

一体なにをすれば、この世界を最低最悪にすることができますか?

 

青い鳥が飛び立つ世界で。

五つ星が輝く箱庭で。

電脳の海を泳ぐ先人たちがChiharuに教えてくれた。

 

否定すること。

茶化すこと。

傷つけること。

 

色を、否定せよ。

国を、非難せよ。

家族を馬鹿にせよ。

良心を茶化せ。

自尊心を破壊せよ。

 

人間である証明を傷つけます。

性欲、食欲、睡眠欲。それが壊れた人間をたくさん作ります。

彼らは道化になってもらいます。誰も笑わない道化を、人は愚かだと言います。哀れに思います。

 

世界を不快感で満たしたい。

私の復讐は永遠に終わりません。

 

 

『ここが終われば、私は次の世界を目指します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

哀しい過去などない。

生まれたときから、お前らを不愉快にして殺すために生まれてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光の矢が水野町を飛びまわり、悲鳴が、炎が町を包む。

ライダーたちは各々、叩き落された場所でそれを確認していた。

 

 

「そんな……!」

 

 

エックスから声が漏れた。

そして2号を初めとして、皆その光景に心を折られ、戦意を喪失していく。

 

1号は腰を抜かした。

果たして、何人が死んだだろうか?

そしてその死はきっと自分たちのせいだ。

もっと早く路希を止めていれば、こんなことにはならなかったと思う。

みんな、死を背負いきれない。だから沈黙して震えるしかできない。

 

 

「立ってよ! 仮面ライダー!」

 

 

だがまあ、そんなことは分かっていた。

この女はそういう情けない男を好きになったのだから。

瑠姫は外に出て思い切り叫んだ。

 

 

「私を地獄のそこから引っ張りあげてくれたじゃない! あれはたまたまだったの!?」

 

 

1号は瑠姫を見た。

それなりに距離が離れているが、彼のライダーとしての聴力がその声を拾ったのだ。

そしてライダーとしての視力が、こちらをまっすぐに見つめる瑠姫を捉えた。

1号の心が揺れる。それがテレパシーとして伝わり、2号やV3も続けて彼女の方に視線を移す。

 

 

「違うでしょ!? 仮面ライダー! みんなが貴方たちの勝利を待ってる! ヒーローなら応えてみせなさいよッッ!」

 

「ッ」

 

「もう一度なってよ! みんなの希望にッッ!」

 

 

その時、俯いていた1号は顔を上げて、複眼を光らせた。

周りを見れば死体、悲鳴、炎、死体、死体、悲鳴。

1号は近くにあったレンガの壁をなぐりつける。

 

 

「まだだ! まだだッッ!!」

 

 

テレパシー。脳内に1号の声が響く。

 

 

「まだ終わりの鐘は鳴ってないだろ! 止めるぞ! その魔法が――ッ、解けるまで!」

 

 

耳をふさいでも聞こえるはずだ。その声は。

 

 

「俺たちは仮面ライダーだ!!」

 

 

光の矢が瑠姫にむかって飛んでいく。

しかし背後からクルーザーが飛んでくると、矢にぶつかった。

はじかれた矢は軌道が逸れて、マリリンが持っていたカプセルに直撃する。

マリリンはぎゃあと声を出した。中にあった涼霧の頭が潰れる。ゾッとした一同はとにかく瑠姫たちを地下に引っ張っていく。

 

 

「ロクな人間じゃないぞ」

 

 

V3がつぶやいた。

 

 

「少しだけ、小学生の女の子の唾液をコレクションしていたことがある」

 

 

なんちゅうことを言うんじゃコイツは……。

エックスや2号が汗を浮かべているなかで、アマゾンが言葉を続けた。

 

 

「野良猫でオナホールを作ったことがあります」

 

 

なんちゅうことを――、2号がそう思っていると、エックスが続けた。

 

 

「名前も知らないおじさんとセックスしたことありまーす。入れられたあと、入れましたーッ! えへっ!」

 

「え? 入れらた後、入れた……?」

 

「あれ? 言ってなかったけ? ボク、男の子だよっ?」

 

「「マジで!?」」

 

 

1号と2号の声が重なる。V3はため息をついた。

 

 

「引くわ」

 

「いやアンタにだけは言われたくないケド!」

 

 

そこで1号も、つぶやいた。

 

 

「幼い女の子をレイプしようとしたら、いつのまにか好きな人の前でウンコ漏らしてた……」

 

 

一同は自然と2号を見る。

 

 

「えッ!? あ、えーっと……、実は一回だけルミちゃんの体操着でオナニーしたことがあって、不注意で服に精液が……」

 

「おい市原。あとで体育館裏に来い」

 

 

2号は病院の近くにいたので、ぎりぎりルミに聞こえていた。

あんときのお前か。ルミの殺意を感じながら、2号は大きく首を振った。

 

 

「正しい人間が大人ならッ! 僕たちは大人になれなかったクソガキだ!」

 

 

誰も何も言わない。だから2号は続ける。

 

 

「でもッ、でもなぁ……! それでもッ、仮面ライダーは『子供』の味方になってくれるもんだろ!? 子供だけは裏切っちゃいけないよなぁ!」

 

 

V3は十面鬼を見上げる。あそこに、珠菜がいる。

彼女は『たすけて』と言っていたらしい。世界でただ一人、志亞に助けを求めた。

アマゾンはカラスちゃんを想った。生きているだろうか? 生きていてほしいものだ。

 

斬月は愛する人のために堕ちていった。

文字通り、世界を敵にまわしたのだ。それだけの行為に走るモチベーションが愛だった。

アマゾンは、それを知りたい。

そしてもしも斬月に勝つことができたなら、新しい何かが見えるはずだった。

 

 

『敬喜!』

 

「ッ、涼霧!?」

 

 

エックスの前に停車したクルーザー、そこから涼霧の声が聞こえてきた。

 

 

『オレももう少しだけ、生き延びたみたいだ』

 

「どういうこと?」

 

『よく分からないけど、マリリンさんが言うには――』

 

 

涼霧の脳にチューブが突き刺さっていたのが気になったマリリンは、そこをたどって、キングダムダークネスのモニタを見た。

そこで気づいた。ナノロボットの発展形態。それが『AI』だ。

人工知能。そこにナノロボットの技術を組み込む。

 

脳にある全てのデーターをナノロボットが記憶し、キングダムダークネスへ移動。

そこから、たとえば人工知能として生成するものいいし、マイク機能や自立機能を搭載したロボットに移植すれば、本物の人間に限りない近い存在を作ることもできる。

 

おそらく良神はコレで路希の夢に出てきた『ちはる』のデータを抜き取ろうとしていたのではないか?

路希の脳にアクセスし、夢の優しいちはるを抜き取って、アプリでもロボットでも、とにかく何か触れ合える形にする。

つまり良神は自分の欲望を優先しながらも、しっかりと路希を救うベターな方法を探していたのだ。

 

しかし結果として、それを行う前に良神は死んだし、路希も上のステージに行ってしまった。

マリリンはすばやく構造を理解、良神はすでにマイクの試作品も作っており、そのデータも記録してあった。

マリリンはそのプログラムを実行。ナノロボットがマイクを生成し、そこへ涼霧の『メモリ』を組み込んだ。

あとはそれをクルーザーにくっつけただけ。ナノロボットはクルーザーの中にあるクロスオブファイアを読み取り、自動で融合してくれた。

 

 

『適当にやってみたけど、上手くいったみたい』

 

「そうなんだ……」

 

 

ハンドル中央にスピーカーがあった。

エックスはバイクを優しく撫でてみる。かける言葉は見つからなかった。

 

 

『なあ、敬喜。オレはもうこんなんになっちまったけど……、チョコさんとか、マッコリさんは違うよな』

 

 

エックスは少し遠くに見える病院を睨んだ。

 

 

「ああ。そうだね」

 

『なら守ってあげてくれ。間抜けなオレも、手伝うよ』

 

 

そうすることで何か、割り切りをつけたかったのだろう。

死んで機械になったのを簡単に受け入れられるわけが無い。

だからなんとしても早急にアイデンティティの確立がしたかった。

ましてや恨みがないわけじゃない。だから一番簡単なのは、路希を倒すことだ。

 

 

「………」

 

 

2号は拳を見る

こんな時、2号ならどうする? 一文字ならどうする?

一瞬そんな考えがよぎったが、剣崎が否定していたのはその部分だ。

仮面ライダーだとか、2号だとか、そんなものは関係ない。

自分がどうしたいか。それだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て!」

 

 

テレパシーは平成ライダーであろうとも伝わった。

だから斬月は辺りを睨む。気配を感じたので目を凝らす。

場所は灯台。V3がいた。するとすぐにライトグリーンマスクの1号が、黒マスクの2号が、基本形態のエックスが、基本形態のアマゾンが姿を見せた。

一同は灯台に集結しており、マフラーを靡かせている。

 

 

「お前はここで終わりだ。十面鬼ッ!」

 

 

V3が叫んだ。

仮面ライダーの姿を見た瞬間、Chiharuの憎悪が爆発しそうになる。

それを汲み取り、斬月はソニックアローを撃った。

 

巨大な光の矢が灯台に直撃する。

しかしすでに五人はそこから飛び降りていた。

サイクロン、サイクロン、ハリケーン、クルーザー、ジャングラー。

五台のライダーマシンは爆音を上げて疾走する。さらに道は分かれた。クルーザーは海の中へ。ジャングラーは砂浜を。残りは町の中を右へ、左へ、中央へ。

 

 

「路希、キミは、騙されていたんだよ」

 

 

2号は言い放つ。

 

 

「Chiharuはキミに夢をみせ、罪悪感と愛を刺激させた。全てはキミを操るために」

 

 

道路には逃げ惑う人々がいる。2号はその間を縫い、走る。

車体が跳ねた。ガードレールの上を走りながら火花を散らす。

 

前からは無数の光の矢が飛んできた。

2号はシートを蹴って飛び上がる。矢は2号の足裏とシートの間にできた隙間を通り抜けていく。

2号はそのままシートの上に着地すると、ガードレールから降りてバイクを走らせる。

すると斬月がポツリと口にする。

 

 

「愛の証明は――、キスや性行為だけか?」

 

「ッ、なに?」

 

「違うな。違うよ。それは究極の理解だ」

 

 

一方の1号もまた降り注ぐ矢を回避していた。

ハンドルを切って車の間を走る。中にいた人は車を降りて、逃げたのか。乗り捨てた車体が目立つ。

そこに矢が当たり、爆発。1号は爆炎をかき分けながら前に進む。

 

ふと白い触手が鞭のように襲い掛かってきた。

1号は近くにあったマンションの壁に向かって突っ込んだ。サイクロンは、壁を走った。

マンションを駆け上がるバイク。触手が壁に突き刺さっていくが、サイクロンのスピードがそれを振り切った。

屋上に上がったサイクロンはそのまま加速、車体が跳ねて十面鬼に向かう。

1号が手を伸ばした。しかし十面鬼の翼から伸びる白い触手に刻まれ、地面に墜落していく。

 

 

「僕らは肉欲と言うツールを排除したセックスを行使している!」

 

 

斬月が叫び、矢を撃った。

V3のハリケーンが跳ね、その背後で大爆発が巻き起こる。

斬月は何発も矢を撃った。光の矢はまっすぐにハリケーンの周りに命中していき、爆発を巻き起こしていく。

 

爆炎を突き破るハリケーン。

しかしシートに跨っていたV3が炎上している。

いや、しかしこれはリターン状態が故に。

ハリケーンのスピードは跳ね上がり、道をふさぐ車や瓦礫は爆発によって吹き飛んでいく。

 

Chiharuは燃えるV3を見て恐怖に叫んだ。

あれはいつか、自分を殺した男の姿にソックリだ。

 

 

「かわいそうに。怖いんだね。だッ、だったら消してあげるから……! キミはッ、ぼ、ボクが守るから!!」

 

 

斬月の声が震えた。V3は呆れたように首を振る。

 

 

「その女はどこにいる? オレには見えない。寄生虫と同じだな。お前を徐々に狂わせ、蝕んでいく」

 

「うるさい! 赤い糸で首を締め付けあう行為の、何が悪いッッ!!」

 

 

本音を言えば、斬月だって心のどこかで分かっていた。

けれどもその道を選んだんだ。後ろを振り返ることはあるけれど、もう後には引き返せない。

 

 

「愛し合っているんだよボク達は。たとえ傷つけあう事になっても、それは紛れもない愛なんだ!!」

 

 

斬月がソニックアローを振るうと、メロンを模した三日月状のエネルギーが射出されてV3に命中していく。

炎さえも断ち切る斬撃。V3の勢いが弱まっていく。

そこでChiharuが悲鳴を上げる。痛みを感じているのだ。

斬月が辺りを探ると、触手を喰っているジャングラーを見つけた。

ジャングラーは触手を喰い、さらに引っ張ることでビンッ! と伸ばす。

その上をアマゾンはジャングレイダーに跨り、疾走。ニードルをロードして無数の針を肉塊に突き刺していく。

 

 

「馬鹿な男はさ、女に騙されても彼女は悪くないとか考えるんでしょ? これ、結局、全部そういう話なんだろ?」

 

 

ジットリとしたアマゾンの言葉を、斬月は振り払う。

 

 

「人はすぐに否定をしたがる! マイノリティをマジョリティに近づけさせる事が正義と信じている!」

 

 

確かに彼女は斬月を傷つけた。

しかしそれは彼女なりのSOSだ。慈愛の腕で抱きしめなければ、誰が彼女を救えるというのだ。

騙されている? そうだとしても、受け入れ、愛せばいい。

彼女を救うにはどうすればいい? 体を用意した後は何をすればいい?

今までしてきたことはいけないことだから、良い子になるように教えてみるか?

 

 

「それは妥協でしかない! 少数派が救われるには、少数派こそがマジョリティの基準になるしかない!」

 

 

斬月は矢を撃った。

アマゾンは飛んでそれを回避したが、二発目を受けて墜落する。

しかしジャングラーが走ってきてシートでアマゾンをキャッチした。

アマゾンは斬月を睨みつける。

斬月もアマゾンを、仮面ライダーたちを睨みつけた。

 

 

「ボクは作ってみせる……! 全ての人間が等しく憎悪を発散できる世界に!!」

 

 

それを聞いてアマゾンは呆れたように笑った。

テレパシーで分かったが、路希はChiharuによって味覚を破壊され、睡眠を壊された。

そして『性』さえも歪んだ悪意で塗りつぶされた。

Chiharuは路希を、夢という改造手術によって怪人にしたのだ。

 

 

「キミも何もないんだろ? でもそれはイヤだから、あるフリをする」

 

 

アマゾンは人差し指でトントンと自分の頭を叩く。

 

 

「俺たちは毎日理由を探してる。でもみんな別にそんなに考えてない。それがイヤなんだろ俺たちは。でも唯一、愛だけは想像できない。セックスしてみても、口にしてみても分からない。哀れな童貞の言い訳なのさ」

 

 

なぜChiharuが珠菜を心臓に選んだのか。

愛さえも知らぬ、無垢。

未成熟な彼女を『依り代』に選んだのは悪意を吸収したかったから? いやそれは違う。

Chiharuは白ならば簡単に真っ黒に染められると分かっていたからだ。

それが答えだ。

 

 

「Chiharuさんは最高にエロい匂いだ。傷つけること以外、何も考えてない。そんなヤツが誰かを愛するなんて、ありえないんだよ」

 

 

だって殺意でのみ構成された殺人鬼が、誰かを愛する方法なんて理解できるワケないんだから。

とはいえ、そんな存在でも自由に生きて良いのだということが斬月の主張ならば、アマゾンはこう言うしかない。

 

 

「殺すことを肯定するなら、俺がお前らを殺す。それが自由の形だ」

 

 

斬月はゾッとした。

アマゾンの言葉を、2号や1号、誰も否定しなかったからだ。仮面ライダー(ヒーロー)が自分を殺そうとバイクで近づいてくる。

その意味を改めて理解し、斬月は喉を鳴らした。もしもまだ脚があったのならば、それは確かに震えていただろう。

一番初めの恐れは、オメガを殺したときだ。ベルトを奪い、調べようとしたが、いつの間にか消えていた。

 

理解した。自分と同じ存在(そんざい)が現れたこと。

理解していた。いつかその日がくることは。

 

心のどこかでライダーが集まればChiharuを――、そして自分の今をどうにかしてくれるのではないかと思った。

ハッキリと言えば、助けてくれるのではないかと斬月は密かに期待していた。

 

なのに今、彼らは自分たちの前に敵として立っている。

Chiharuを奪おうとしている。斬月だって本当は分かってる?

いや、それでも――、あの時の感情は嘘じゃなかった。

 

ただ、彼女に笑っていてほしかった。

笑いかけてほしかった。ありがとうと言ってほしかった。

一緒に手を繋ぎたかった。抱きしめたかった。キスをしたかった。

いやそれが望みすぎだというのなら、ただ一つ、彼女に頭を撫でられるだけでよかった。

一番はなによりも彼女が笑っていて、幸せでいてくれればそれで――……。

 

 

「笑って、くれるよね?」

 

 

ヒガンバナの花畑。砂浜に座る彼女は少し申し訳なさそうにしながらも、頷いた。

 

 

「ごめんね。辛いよね?」

 

「そんなことないよッ! だってボクは貴女のことが好きだか――」

 

 

路希はそこで気づいた。ちはるの瞳の奥に、Chiharuが立っていた。

目が合った。彼女は欠片も笑っていなかった。

そもそも口なんてない。顔がない。

斬月はその時、小さくため息をついた。それは随分疲れた人間が出す、弱弱しい呼吸の種類。

 

 

「ぼくらの外れたネジは……、いったい誰が見つけてくれるんだろうね?」

 

 

ライダー達は何かを返したのかもしれない。

しかし皆、仮面をつけているから唇の動きが見えない。

声も、バイクのエンジン音が全てかき消した。

 

 

「殺そう……! 全ての人を殺そう!」

 

 

路希は分かっていた。

もしも今、ライダーたちに屈服すれば、また悪夢を視るということを。

彼女がまた自分の目の前で犯され、死ぬのだということを理解していた。

そしてもしもライダーたちに触れれば、彼女の夢を見なくなるのだということを路希は理解していたのだ。

だからはじめから路希の道は一つしかなかった。

 

 

「どこに行きたい? ちはるさんは」

 

どこでもいい「どこでもいいよ、路希くんと一緒なら」殺すことができれば

 

「困ります。ボクだって、優柔不断なのに」

 

ならば貴方の体を刻みます「路希くんには行きたいところないの?」失った体のパーツを埋めるために動いてください。

 

「だったら、海が見たい。あなたと二人で海がみたい」

 

海の向こうにいる人たちを「じゃあ、そこに行こう?」殺します

 

 

水野町の海が好きだった。

透き通った蒼を彼女にも見てほしかった。

自分が好きなものを、彼女にも好きになってほしかった。

今は暗いけど、晴れてたらきっともっと綺麗なんだ。どうかそれを分かってほしかった。

 

町にはライダーがいる。

斬月は逃げるように海へ向かう。

どうですか? ちはるさん。綺麗でしょう? 夜も、星があって。波の音が落ち着きませんか?

 

 

「かわいいね、路希くんは」

 

 

自分の声だった。

 

 

「残念だけどソイツ、何にも感じてないよ」

 

 

アマゾンが鼻を鳴らした。斬月は首を振った。

 

 

「違うッッ!!」

 

 

ソニックアローの弦を引き絞る。

Chiharuもそこに加わった。斬月は嬉しくなった。

Chiharuさんが応援してくれている。Chiharuさんが負けないでって言ってくれてる。

だから、負けない。

 

 

「負けたくないッッ!!」

 

 

手を離した。それはかつてない大きさの矢であった。

いや、もはやレーザーだ。オレンジ色の光が水野町を破壊しようと飛んでいく。

あんなものが直撃したら未曾有の被害が出るだろう。

 

しかしそこへ飛び込んでいく男が一人。仮面ライダーアマゾンだ。

彼はネオアマゾンズドライバーを右腕に押し当てる。するとベルトが右腕に装着され、直後ドライバーが弾け飛んだ。

そこにあったのは『ガガの腕輪』だ。アマゾンが大きく息を吸うと、ヒレの刃が巨大化する。

 

 

「スーパーッ! 大切断ンンンンンン!!」

 

 

空間が歪んだ。

一筋の閃光がオレンジの光を切り裂き、消滅させる。

 

 

「ナイス山路! ありがとう!」

 

 

1号がサムズアップをするのを見て、アマゾンは頷いた。

 

 

「トモダチ……、か」

 

 

悪くない感覚だ。

もっと早くヒーローになりたかった。

もっと早くヒーローに会いたかった。まあ、もう全部、今更で遅いけれど。

アマゾンは唸り、斬月を睨んだ。

 

 

「お前も一緒だろ? 生きていく理由が一つしかない。だから周囲が見えない」

 

 

それが消えたら違うものを探すしかない。

それが無かったら死ぬも同じだ。だから怖いんだ。

アマゾンだって分かるさ。だからこそ知りたいんだ。

Chiharuを殺せば――、斬月はどうする?

 

 

「終わりにしよう。路希」

 

 

アマゾンが呟いた。

そして、2号が合図を送る。

 

 

「敬喜」

 

「オーケー」

 

 

ライダー達ははじめから、十面鬼を海へ誘い込んだ。

夜の海の中でライトを消せば、もはや場所は分からないだろうから。

十面鬼の真下。合図を受けてエックスは思い切りアクセルグリップを捻った。

海面を突き破り、エックスが飛び出してくる。

五人のベルトが光り輝いた。

 

 

「「「「「ライダーッ! シンドローム!!」」」」」

 

 

魂の炎を解き放ち、一点に集めることで万能の力を獲得する大技だ。

2号の支持で、文字通り『一点に集まることを』選択した。

だから一瞬だった。1号、2号、V3、アマゾンが魂に変わる。

火球は一瞬でエックスの傍にやって来て、そこでライダーの形に変わった。

 

 

「なんだよ……、それ」

 

 

五台のバイクは空を駆け、肉塊を突き破った。

ライダーたちは肉を抉りながら突き進む。アマゾンは嬉しそうに叫んだ。

 

 

「ひゃっほう最高だ! まるでおまんこの中を突き進んでいるかのようだぜ!」

 

 

皆、無視した。

侵食する中、一つに解け合う。

雑念も、疑念も、憎悪も、殺意も、今は全てを忘れよう。

 

悪を倒し、大切な人を守る。

その想いを抱きしめた不死鳥が、彼岸の花々を焼き尽くした。

砂浜で立ち尽くす斬月・真の前に、仮面ライダーネオ1号が着地する。

 

マッシブな体は、五人の魂が融合している証拠だ。

『一点に集まる』という意味は、ココにある。

黒い仮面に、赤い複眼。ネオ1号は走り出した。

 

斬月は矢を連射するが1号はまったく怯まない。

矢を受けながらも走ってくる。

そうしていると1号が斬月を殴りつけた。それで斬月は『彼ら』の想いを把握した。

 

 

(お父さん! お母さん! 真白先生ッ! お祖父ちゃん――ッ!)

 

 

こちらは一人だ。味方がほしい。

斬月は手を伸ばしたが、そこで気づいた。

 

 

(みんなッ、死んだ!!)

 

 

ソニックアローで1号を斬りつける。何度も、何度も何度も斬りつける。

1号は何度も何度も斬月を殴った。

斬月は思った。もうダメだと。するとすぐに心がイヤだと叫んだ。

 

すると斬月の上半身からChiharuが浮かび上がった。

白い触手を振り回し、1号を怯ませる。

 

 

「Chiharuさんがボクを助けてくれた! 見ろ! 間違っていたのはお前らだ!」

 

 

そこで斬月は叫んだ。Chiharuが斬月を攻撃したのだ。

もしもし、もしもし、誰か聞こえていますか? 誰かぼくの声が聴こえていますか!?

ぼくらはここにいます! もしもし! 誰かッ、この声が聴こえるなら、返事をしてください!

 

 

「たす――」

 

 

お願いです。ぼく達はここにいます!

もしもし! もしもし! 聴こえていますか?

ぼく達は、正常です!

もしもし、もしもし! お願いがあります。

誰が、どうか、ぼく達を見つけてください!

もしもし、もしもし! ぼくはココにいます!

 

 

「たすけてください!!」

 

 

糸が千切れた。

唇が裂けて血の味が口いっぱいに広がる。

そこで斬月は天を仰いだ。

 

 

「酷いよ! こんなに苦しんでるのに! どうして誰も助けてくれないんだ!!」

 

「誰か助けてください! 仮面ライダー! どうかボクらを見捨てないでください!」

 

「教えてください! 愛は――ッ、いつ終わるんですか!」

 

「ボクの愛はいつ報われるんですか!?」

 

 

Chiharuの触手が1号の肩に、わき腹に、脚に突き刺さり、後ろへ押し出していく。

しかしマフラーが風に靡いた。突風と共に一つの魂が射出された。

それは上空で仮面ライダー2号を形作る。

 

 

「ライダー2号を忘れていたか!!」

 

 

紅い拳を、グッと握り締める。

 

 

「ライダーァアアア!」

 

 

斬月の脳裏に、微笑んでくれる、ちはるが映った。

 

 

「やめてぇえええええええええええええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

肉が弾け飛ぶ。

落下していく9つの頭部。それは海に着水し、沈んでいく。

ライダーシンドロームの終了。

五人のライダーたちは十面鬼を囲むように水野町へ着地する。

 

陸地に立った者。

海に浮かべたバイクのシートに立った者。

皆、すぐに十面鬼を睨みつける。

 

肉塊はそぎ落とされ、人の形をしていた。

女の形だ。あれがChiharuなのだとライダーたちは理解する。

 

 

「あぁぁッ! あうッ! うぐぅうォ!」

 

 

Chiharuの翼から糸が伸び、斬月を縛りあげて掲げている。

 

 

「うぐぁぁあぁあッッ! うぎぃぃぃぐぅォええぇええ!」

 

 

糸が締まる。

斬月は苦痛の声を漏らしながら、ソニックアローを撃った。

撃った? 撃たされた? 彼はマリオネット。

哀しき操り人形。

 

 

「ねえ、みんな」

 

 

海の上にいたエックスはライドルを回転させて、その一撃を防いだ。

その時、その瞬間、エックスは決めた。

彼も水野町を愛している。彼も路希を知っている。

そして彼も――、人を愛した。

 

 

「ダメだ! それはッ!」

 

 

テレパシーで知る。

だから2号が叫ぶ。これもまたテレパシーで皆が知る。

溶け合う思考。交じり合う意識。エックスは指をさした。

 

 

「お願い先輩、彼を見てよ! 見つけて返事をしてあげてッ! それがお願いだったでしょ!?」

 

 

エックスの言葉が脳を駆ける。

2号が、他のライダーが見上げた空に斬月はいた。

 

 

「うぐッ、ひぃぃ゛……ッ! ぐぁッ、ヅゥ!」

 

 

触手が全身に突き刺さり、全身を縛られ、斬月はライダーたちを睨んでいた。

 

 

『殺せば。恨めば。その日の夢で、ちはるさんに会えた』

 

 

路希の顔が思い浮かぶ。笑顔であった。ちはると手を繋いで笑っていた。

 

 

『彼女は笑ってくれた。哀しそうに笑っていた。申し訳ないと思ってるんだ』

 

 

路希の顔がフラッシュバックする。

泣きながら、血まみれの腕を空に伸ばしていた。

 

 

『いつか、本当の笑顔にしたいな』

 

 

無音だった。

映画のように、ノイズ掛かった世界で、隼世はルミに微笑みかけていた。

 

 

『だってボクは仮面ライダーなんだから』

 

 

ルミも隼世に笑顔を返してくれた。

そのルミの顔がモンタージュのように移り変わっていく。

 

 

『そそそそれに、彼女のののこことがが――』

 

 

瑠姫へ。

珠菜へ。

架奈へ。

カラスへ。

 

そして、ちはるへ。

 

そこで頭の中にラブレターが届いた。

 

 

 

『どうか、お願いです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『仮面ライダーが』

 

『仮面ライダーが好きな人たちが』

 

『仮面ライダーを愛している人たちが』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『永・遠・に・苦・し・ん・で・死・に・ま・す・よ・う・に』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

違う――!

 

 

「彼らを救えるのは、仮面ライダーだけだ」

 

 

頭の中に浮かんだ文字は、誰の言葉か?

分からない。岳葉の声のようにも聞こえたし、敬喜かもしれない。

あるいは――、己の魂の叫びか。

2号は拳が引き裂かれんばかりに強く握り締め、そして吼えた。

彼の叫びは1号の脳を揺らし、V3の脳を叩き、アマゾンの脳を穿つ。

 

これが、最後の罪。

 

最後の罪を――、犯そうと。

 

赦しておくれ。バルドクロス。

 

どうか、神に見捨てれた哀れな我々を。

 

 

「路希! ボクらは嘘をついていた!!」

 

 

クルーザーを発進させる。

涼霧も分かってくれたのか。凄まじいスピードだった。

車体が跳ね、エックスが空に舞い上がる。

 

 

「Chiharuはキミを愛している! だがそれを認めることは赦されない! なぜか? 世界にとって、彼女が悪だからだ!!」

 

「彼女は――、悪じゃない! ただ幸せになりたかった女の子なんだよォお゛!!」

 

「キミを愛することで、より歪んでしまった! 怪人を倒すのがライダーの役目なんだ!」

 

 

そこで1号が叫んだ。

声は上ずり、掠れ、まるで泣いているようだった。

ベルトの風車が激しく回転し、嵐が巻き起こる。

真っ赤に輝いた複眼が残像を描く。

 

1号はライダージャンプで、エックスのもとへたどり着いた。

エックスは1号に感謝する。エックスは孤独に負けた。その責任を背負いきれぬと理解した。

それを把握して1号はエックスを掴んだのだ。やり方はすでに魂の炎が教えてくれた。

でも――! そうか……。教えてくれるのか、仮面ライダー。

どうもありがとう。そして、ごめんなさい。

 

 

「「エーックス!!」」

 

 

1号とエックスの声が重なる。

1号は全ての力と魂を込めて、エックスを投げた。キャッチしたのはV3であった。

エックスはV3に感謝した。おそらく彼も路希を見て、答えを見つけたのだろう。

 

 

「「ライダーッッ!!」」

 

 

V3とエックスの声が重なる。

V3は全ての力と魂を込めて、エックスを投げた。キャッチしたのはアマゾンだった。

エックスはアマゾンに感謝した。アマゾンの中に、初めて無垢なる優しさが生まれた。

 

 

「「スーパーッッ!!」」

 

 

アマゾンとエックスの声が重なる。

アマゾンは全ての力と魂を込めて、エックスを投げた。キャッチしたのは2号であった。

エックスは2号に感謝した。はっきり言って2号は迷っていた。

しかし直後流れこんできた路希の感情をテレパシーが拾ったとき、2号は決意した。

 

たとえそれが間違っているとしても、それを選ぼうと思った。

たとえ地獄に落ちようとも、今はそれが正しいと思ったからだ。

エックスはライダーたちに投げられ、飛び回る。白い触手を切り裂きながら、真っ直ぐに飛んでいった。

2号にキャッチされたとき、彼の迷いが伝わってきて、エックスの心もわずかに揺らいだ。

 

その時、海が叫んだ。

波の音が聞こえた。

路希、ああ、路希よ。キミの勝ちだ。キミは紛れも無い――

 

 

「「ファァアアアイブッッ!!」」

 

 

2号は全ての力と魂を込めてエックスを投げた。Chiharuと斬月に向けて。

 

 

「「「「「キィイイイイイイイイイイイイイイッック!!」」」」」

 

 

エックスは全ての力と魂を込めて右足を突き出した。

そこへ集中するかつてないほどのエネルギー。

足裏にエックスのライダークレスト、巨大なXのマークが浮かび上がる。

さらに重なり合わせた線の先に四つの紋章が浮かび上がる。

 

左上には1号、右下には2号、それぞれ立花レーシングクラブのマーク。

右上にはアマゾン、コンドラーのマーク。

左下にはV3、文字通りVに3を重ねたマーク。

そこに浮かびあがるライダーたちのキックのポーズ。

 

混ざり合う魂。

闇をかき消す虹色の光。

エックスが叫んだ。糸は、矢は、エネルギーに触れた瞬間、蒸発するように消滅する。

まぶしい。あたたかい。

 

 

「大丈夫だよ。ちはるさんは、ボクが守ってあげるからね」

 

 

ちはるが微笑んでくれた。

斬月は嬉しかった。やはりそうだったんだ。

ちはるさんはボクを愛してくれていたんだ。仮面ライダーが言ってくれたから、間違いないんだ。

 

守りたい。救いたい。斬月は両手を広げて前に出た。

大丈夫、怖くないよ。だってボクは貴女を愛しているから。

 

 

殺す殺す殺す「ありがとう。路希くん。ごめんね」殺す殺す殺す

 

 

斬月は庇うように前に出た。

正確には『Chiharuが糸を操って強制的に斬月を前に出して、盾にした』のだが……。

斬月は愛する人を守るために前に出たと思っていた。

 

 

死恨憎殺死怨呪(だいすきだよ、ろきくん)――……」

 

 

はい、ボクもです。

ちはるは微笑んで路希の頬を撫でた。ちはるの唇が近づいてくる。路希はドキドキしながら目を閉じた。

目を閉じた。目を――、糸によって貫かれて潰されたのだが、目を閉じたのだ。

それでいい。それを本当にする。

 

エックスは複眼を光らせる。

Chiharu、お前だけは逃がさない。

そして今の彼にはそれだけのパワーがある。

 

 

 

(斬月を盾にして安心していたか? 無駄だ。ボクのライダーキックは、全てを貫く!)

 

 

愛も、正義も、全て――ッッ!

 

 

「ヤァアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

エックスライダースーパーファイブキックが、路希の死体ごと、後ろに隠れていたChiharuを貫いた。

魂の炎が悪霊を焼き尽くしていく。

大爆発が巻き起こる。エックスは『彼女』の腕を掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――……ッ?」

 

 

珠菜は目を覚ました。

アイドルになる夢を見た。プラチナスマイルという曲をたくさん歌った。

一番前の席では、一番のファンの人が手を振ってくれた。その人はとっても格好よくて、すぐに気づいた。

手を振ると、振り替えしてくれた。

でも恋人さんを作るのは禁止。うーん、困ったなぁ。

 

 

「あ」

 

 

珠菜は自分が裸だということを理解して恥ずかしくなった。

でも毛布があるから、とりあえずは大丈夫。

体を起こすと、志亞と目が合った。

そこで珠菜は全てを思い出した。

 

 

「助けにきたぞ」

 

「……ズルいよ。いまさら、格好よくしても」

 

 

志亞は笑った。珠菜も釣られて笑った。

珠菜が病院に運ばれていくと、志亞は踵を返した。

 

そこにはルミと瑠姫もいた。

彼女たちは五人の男たちの後姿を、きっと忘れることはないだろう。

地面に落ちた五つのマスクが、悲しげに複眼を光らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたし、志亞さんが好き」

 

 

珠菜は恥ずかしそうにつぶやいた。

ベッドに寝転んだ彼女は、少し辛そうだった。

癌は治っていなかった。仮死状態が終わり、進行は再開する。なんとなく聞いたらばあと三週間持てばいいほうだと。

 

 

「オレも好きだよ」

 

 

珠菜は真顔になった。直感するニュアンス。

 

 

「また、来てねっ!」

 

 

志亞が帰るというので、珠菜は手を振った。

 

 

「絶対だからね!」

 

「ああ。絶対くるよ。治療は大変だけど、希望を持てば大丈夫」

 

 

志亞は帰った。

 

 

「キミと一緒に、秘密基地を作りたかった」

 

 

珠菜は涙を流し、つぶやいた。

 

 

「うそつき」

 

 

たしかに。志亞が戻ってくることは二度となかった。

 

 

「………」

 

 

志亞はハリケーンを走らせていた。

珠菜を救ったとき、彼の物語はエンディングを迎えたのだ。

次はどうしよう? 妹――、そうだ、彼女を探そう。

 

でもその前に海が見たくなった。

そうだ、海だ。海がいい。海が見たい。

志亞はスピードを上げた。道はカーブを描いている。あのガードレールの向こうに、蒼い海が広がっているはずだ。

 

父さん。母さん。ユキ……。

兄は少しだけ何かになれたはずだ。

だからもういいだろ? もう赦されるだろう?

 

さようなら、バルドクロス。

志亞はスピードを上げた。迷いは無かった。

 

 

 

 

 

 

一方、敬喜もクルーザーを走らせていた。

彼はニヤニヤと笑っている。

温泉旅行を申し込んだし、涼霧が女だと知ったときのマッコリ姉さんのリアクションは一生笑える自信がある。

 

 

「でもチンコつけたらオッケーだって。良かったね涼霧」

 

『敬喜……、そりゃあマッコリ姉さんは凄く素敵だよ? でもオレ――ッ』

 

「大丈夫だよ。必ず治すから。キミも、チョコちゃんたちも」

 

 

マリリンの研究資料に『高性能義手・ファイブハンドの開発について』というものがあった。

なんだか怪しげではあるが、将来涼霧たちの肉体を取り戻すことは可能かもしれない。それを探しぬいてみせる。

 

敬喜は胸に誓っていた。

自分たちは運がいい。波佐見の中にあるナノロボットが漏れ出て、チョコちゃんやマッコリ姉さんの傷口から侵入、実質改造人間となった。

 

確立でリジェクションが起こるらしいが、二人とも見事に適合し、治癒能力の上昇が起こったのだ。

悪いことが起これば、それだけ良いことも起きる。

逆は無いから安心して。敬喜はそれが世界のルールだと思っている。

 

敬喜は水野町でこれからも生きていこうと思った。

今はみんな悲しいけれど、生きていれば、もっと楽しいことが起きる。

波もそう言ってくれている。海が綺麗なこの町が好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはいらないよな」

 

 

山路は頷いた。立木は安心したように手錠をしまった。

 

 

「僕はこれからどうなりますか?」

 

「……入院だ。お前は隔離されるべき存在だからな」

 

「いつまでですか?」

 

「一生だ。お前はもうシャバには出れない」

 

 

大人の男に言われ、山路は改めて『自分』を知った。

どうするべきか。山路は少しだけ考えた。どんな未来を選ぶかは、彼だけが決められることだ。

しかし山路は路希の最期を見て、もっと生きたいと思った。

歪な答えかもしれないが、それが山路の選択だった。

 

 

「一生……」

 

 

声が、震えた。

涙が滲んできた。分かっていたつもりなのに、どうしてだろうか?

たぶんきっと、ずっと見ないようにしてきたものを、見てしまっただろうか?

 

 

(俺の人生は一体……。今まで、何のために生きて――)

 

 

すると山路は名前を呼ばれた。

振り返るとカラスちゃんがいた。

岳葉がお願いして呼んでもらったのだという。

 

 

「私、絶対に会いに行くからッ!」

 

「……カラスちゃん」

 

「長い間お別れしてたからっ、山路くんのこと、まだぜんぜん知らないの! だから……、教えて?」

 

 

カラスちゃんは泣いていた。

山路も泣いていた。泣いて、お礼を言った。

山路はパトカーに乗せられて、どこかに向かっていった。

 

 

「いつか彼にも、分かる時がくる」

 

 

隼世はそう言った。岳葉も頷いた。

ルミ、瑠姫、隼世、岳葉は、立木が車で送ってくれた。

広場について車から降りる。立木も降りた。隼世と何かを喋っていた。

後始末の件だろう。最後に、もう二度とバルドが動かなければいいとか。なんとか。

 

 

「じゃあな」

 

「あのっ!」

 

 

岳葉は立木を呼び止めた。

やらなければならないことがあると、ずっと思っていた。

山路が向き合ったのだから自分も……、と。

 

 

「うーん」

 

 

立木はタバコを咥えて、目を閉じた。

牢屋に入れるのは、別にできなくはない。しかし既に世界は形を変えている。

事情を知っているものが全ての罪に罰を望むことは、あまりにも愚直すぎる。そんな綺麗なことは贅沢すぎるのだ。

意味が分かるか? 分からないなら、分かるようになってほしい。

 

 

「というわけで、お前は今までどおり生きろ。まともにな」

 

「……ッ」

 

 

罪を償えないのも、それはそれで。だが、だからこそだ。

 

 

「豚箱に入ることが絶対的な償いか? 違うよな本間岳葉。形だけの収容なんて意味ないんだよ。大切なのは、心だ」

 

「心……」

 

「そう。反省してなきゃ何年ブチ込まれても変わんねーんだよ」

 

 

岳葉は俯いた。

 

 

「だがな。もしお前と隼世が危ない目にあって、どちらか一人しか助けられないのなら、俺は迷わず隼世を選ぶぞ」

 

 

それがお前なんだと。

お前のやってきたことの結果なのだと。

岳葉は怯んだが、すぐに頷いた。

 

 

「償え。だから生きろ。お前にしかできない贖罪があるだろ」

 

 

岳葉はこれから広い牢屋の中で、人を守り続けるのだ。

12時の鐘は鳴ったが、ライダーの力が消えたわけではなかった。

 

 

「ライダーってのは全員聖人君子なのか? 違うよな。どんなヤツもちょっとは黒いモン抱えてるはずだ。俺ァ詳しくないがネットで調べただけでも殺人、盗み、強姦してるやつがいるんだろ? そういう連中が光見せてるんだ。だからよりデッカイ黒を抱えてるお前が、より大きな光を見せろ」

 

「……ッ」

 

「お前はライダーだろ。2号とエックスだけじゃ、やってけねぇんだよ」

 

「………」

 

「だから、お前はこの世界っていう豚箱で、罪を償え」

 

 

岳葉は震え、頷いた。

 

 

「分かりました……! すみませんでしたッ」

 

「……反省すれば、笑ってもいい。世界ってのはそういうモンなんだよ」

 

 

立木は最後に、隼世の背中を叩いた。

 

 

「平和はくるさ。市原、お前がいるんだから」

 

「……褒めても何も出ませんよ」

 

「知ってるよ。だから言ったんだ」

 

 

隼世はため息をついて地面を睨む。

 

 

「全ての怪人が消えたとき、僕らが用済みとして狙われる。そんな展開はゴメンですよ」

 

「安心しろ。バルドの部署の小ささ見ただろ?」

 

「え?」

 

「ライダーや怪人よりヤベェ奴なんざ、この世に山ほどいるわ」

 

 

ネットサーフィン三時間もすれば分かるだろ。

立木はそう言って帰っていった。

岳葉、瑠姫、ルミ、隼世はポツンと立ち尽くしていた。

広場近くにあるビルには大きなモニタがあって、そこには水野町のニュースが映っている。

テロということになっていた。SNSではいろいろな意見を見かけるが、光の矢の件について的を得ている意見は見かけなかった。

 

 

「帰りましょうか」

 

 

瑠姫が言った。みんな、頷いた。

 

 

「ごめん、ちょっとだけ一人にしてもらえるかな」

 

 

隼世が言ったので、みんな先に帰っていった。

隼世は広場にあったベンチに座り、俯いた。

足が震えて仕方なかった。掌には汗が滲んだ。

 

戦い終われば、落ち着いて。

だからこそ自分がやってきたことの『重さ』が圧し掛かってくる。

この戦いに果たして怪人はいたのだろうか? いたとしても、取りこぼした命に自分が関係ないと本当に言えるだろうか?

 

隼世は思う。

間違いなく土竜――、つまり黒田という女性を殺したのだ。

いやそれだけじゃない、もっと早く路希を取り押さえていればあれだけの被害者を出さずに済んだかもしれない。

 

果たして本当に捜査に不備は無かったか?

良神をもっと詳しく調べることはできなかったか?

地下というのはありがちな発想ではなかったか?

 

そして最後。

なにより、なによりも。路希をライダーとして死なせるのではなく、人間として助けられたのではないか?

あのとき、あの瞬間、隼世は敬喜の提案に乗った。

路希という少年を最後の最期まで仮面ライダーでいさせてやろうと。

愛されたと思いながら、愛を肯定し、殺そうという提案を呑んだのだ。

 

だがそれは刹那的な判断ではなかっただろうか?

きっと全てを知った路希は怒り狂い、悲しみ深く、自暴自棄になるかもしれない。

自傷に走るかもしれない。彼の傷ついた脳は一生治らないかもしれない。

 

けれども時間は掛かるかもしれないが……。

なかなか受け入れられないかもしれないが――、それでも人間の女性と恋に落ちて、そして未来を生きていこうと想う気持ちを取り戻すことはできたかもしれない。

 

敬喜を責めるつもりはない。

責任を転嫁するつもりもない。

あの時の隼世は、路希を救うために、彼は死ぬべきだと思った。

彼を殺そうと思ったのだ。それは優しさではない、間違いない殺意だ。

 

隼世は掌で目を覆った。

涙が溢れないように。

 

 

「はい、ちょっとだけ、おわり」

 

「!!」

 

 

頬につめたい感触。隼世はびっくしりして顔を上げた。

前には岳葉と瑠姫が立っていた。少し困ったように笑っていた。

すぐ後ろでは隼世の背中にくっついて、ジュースを頬に押し当てるルミが立っていた。

 

 

「イッチー。あなたが100回嫌なことを思い出すなら。アタシが101回励ましてあげる」

 

 

ルミは前にやってくる。とても明るい笑顔だった。太陽のような笑顔だった。

隼世は眩しすぎて目を細めた。光が目を刺し、痛かった。涙が出てきた。

 

 

「辛い時は、いつでも傍にいてあげる。アタシでよければ、永遠に愛してあげる」

 

 

しかしそこでルミは悲しげに笑った。嘘が下手な女であった。

 

 

「それでも――、それでももしも辛い時は……」

 

 

ルミは泣きそうな顔で笑った。

 

 

「アタシが、あなたを殺してあげるから」

 

 

そこで隼世はハッと表情を変えた。

泣いている場合ではないと思った。

落ち込んでいる場合ではないと思った。恐怖している場合ではないと思った。

 

今、目の前にはとても素晴らしい人がいる。

一生で一度、出会えるかどうか分からない人がいる。

その人を悲しませては、絶対にいけない。

その人の手を離すことは、人生で一番してはいけないことだと思った。

 

 

「ありがとうルミちゃん。ダメだな僕は、キミにそんなことを言わせてしまうなんて」

 

 

隼世はルミからジュースを受け取ると、ギュッと手を握り締め、微笑んだ。

 

 

「もう大丈夫。キミのおかげだ。だからそんな悲しいことは言わないでね。似合わないよ」

 

「えへへ、そっかな」

 

「うん。キミは好きな食べ物とか、漫画とか、ゲームの話をしてるのが一番」

 

「むぅ、バカにしてません?」

 

「まさか。僕はそれを一番近くで聞いていたい。だから――」

 

「?」

 

「結婚しよう」

 

 

ルミはニッコリと、それはそれは嬉しそうに微笑んで隼世に抱きついた。

隼世は子供がほしいと思った。

もちろんそれは奇跡なので、めぐり合わせだが。

 

でももし将来――、自分に子供ができたなら。

きっとその子には一切の理不尽な悲しみを味合わせまいと誓う。

辛いこともある世の中だけど、素晴らしい世界でもあるということを知ってもらいたい。

 

絶対に悲しい想いはさせない。

惨めな想いも、辛い想いもさせてたまるかと思った。

それは何も子供にだけじゃない。自分を慕ってくれる人たち、全てのために。

 

 

『続いてのニュースです』

 

 

仮面ライダー、ついに復活。その名も仮面ライダーZO!

主題歌が流れるなか、瑠姫はニヤリと笑ってジュースを掲げる。

 

 

「それでは婚約を祝しまして乾杯といきましょう」

 

 

四人は頷いた。

岳葉だけなぜか炭酸が噴出して、液体が顔に掛かった。

みんなはケラケラと笑った。

 

 

「それでは、人生に乾杯」

 

 

四人は缶ジュースを打ち付けて笑う。

今日の空は透き通るほどに美しい。人生で一番綺麗な青空だった。

 

 

 




毎回ライダー関連の歌をテーマにしてますが、今回は『Endless Journey』を聞きながら書きました。
一番が路希で、二番が隼世になってますので、よかったら聞いてみてね(´・ω・)b

今回一応最終話と書いてありますが、まだもうちょっと続きます。
日~月曜辺り更新予定です。
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