仮面ライダー 虚栄のプラナリア   作:ホシボシ

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すいやせん。
やっぱ本編と繋がってるエピローグだけは先、更新しときます。
へへ(´・ω・)




エピローグ

 

男はシャンパンのボトルを開けると、酒をグラスに注いでいく。

椅子に深く座ると、一度大きく息を吐いてから、軽く口をつけた。

目を閉じて、余韻を楽しむ。悪くない時間だった。

むしろとても有意義な時間であった。男は心の中でレクイエムを歌う。

 

 

「よぉ」

 

 

どれだけ時間が経ったろうか? 男の声が聞こえた。

目を開けると、立木が銃を構えていた。

 

 

「驚いた。まさか私にたどり着く人間が存在していたとは」

 

「日本の警察は優秀なんでな」

 

「まさか、そんな……!」

 

「なんつって。まあほら、やっぱなんだかんだクロスオブファイアは惹かれあうんだよ。分かるだろ? いろいろやってんだこっちは。移植とか、分析とか」

 

「なるほど」

 

 

男はグラスを置くと、椅子に座りなおす。

 

 

「名前は?」

 

「本当の名は――……、なんだったかな? 今はとりあえずスルガと名乗っています。夢で聞いた名前なので」

 

 

立木にも泡を入れようとすると拒否された。

スルガは残念そうに笑い、自分の話を始める。

 

 

「アマダムは始祖とされ、神と思う者もいるようですが、私はそうは思わない。彼はひとつのシステムだ」

 

「ヤツの仲間か?」

 

「いや。先住民といえばいいでしょうか。ヤツは私に気づかなかった。まあ私の中にあるクロスオブファイアが限りなく消えかかっているというのもありますが、奴も全知万能ではない。確かに世界により、ルールはいくつかに分かれていますが、仮面ライダーという概念があるにもかかわらず、クロスオブファイアという存在が無い世界は存在しません。それは神なる世界だけです」

 

「何の話だ?」

 

「世界のお話です。もちろんクロスオブファイアの火種があるだけで、炎が生まれていない場合はありますが。今回の場合においてもアマダムが世界に到着する前に、既にChiharuが存在していた。奴はこの世界の『仮面ライダー』になりうる可能性がある男、タカトラを殺害し、炎を奪った。しかしその後、電脳世界に巣食い、一つの仮死状態であったためにアマダムも炎に気づかなかった。私を見落としたのもそうですが、奴は一定まで燃えていなければ、気づかないようだ」

 

「……テメェも、異世界人ってわけだ」

 

「世界は気づき始めている。アレは、ライトノベルだけの話ではない。まあもちろん天文学的な数値の上の話ですが、奇跡が三回起きることは珍しくはない」

 

「それは違うだろ。奇跡は一回だけ、あとはテメェが仕組んだ」

 

「フム」

 

 

スルガはナッツを齧る。

 

 

「私はかつて――、遠い昔、グロンギと呼ばれていました。灰色のオーロラに巻き込まれた私はこの世界で目を覚ました。ただいろいろとショックで障害が残ったのか、記憶も曖昧で、存在もあやふやで……。この世界でしばらく普通に生活していました」

 

「グロンギ、確か……、アギトだったか?」

 

「クウガです。まあアギトも間違いではないが。そう――、でも私も思い出した。記憶が戻るのはいつも突然だ。どうやら私の世界ではグロンギはゲゲルというものを行っていたらしいのです。殺人ゲーム、ルールは……、少し曖昧で。ただやはりグロンギとしての本能がある。やってみたくなったんですよ」

 

 

スルガはシャンパンを飲みほすと、椅子から立ち上がり、立木のほうを向いた。

 

 

「十年で一万人! 私のルールは直接手を下さないこと」

 

「――ッ!」

 

「私に世界を移動するオーロラは生み出せないが、唯一、コールを送ることができる。それを無意識に察知してくれたのがアマダムであり、Chiharuなのです」

 

 

カーテンを開いた。三階から見える景色はいたって普通だ。

でも普通じゃない。普通じゃなかった。人はそれに気づいていなかった。

 

 

「人間は世界が狂い始めていることに気づいていない。少しずつ、徐々に、変わっていけば。いつか誰かが言っていました。ライダー無き世界にクロスオブファイアが持ち込まれたとき、いかなる場合であってもライダーは生まれる。たとえ私がなにもしなくても」

 

「なるほどな。クロスオブファイア、まさにバイオテロだ」

 

「怪人が生まれればライダーが生まれる。ライダーが生まれれば怪人が生まれる。誰かの手で終わらせることはできますが、はじまりを選ぶことはできない。いつも突然だ」

 

 

良神は面白い素材だった。

かつてショッカーが『手術』という方法を用いて怪人を増やしていったように、良神もまた多くの人間を手術で異形に変えた。

さらにクロスオブファイアではなく、そこから齎された派生物質であるナノロボットを使って戦士を増やしていく。

 

興味深い試みだ。

超人生成の新形態・『the Next』と名づけることにしようではないか。

上手くいけば文字通り、人類を次のステップに進めることができた。

 

 

「ただまあChiharuは何を学習したのか。狂い始めた怪人たちは少々品が無い。愛に直結する肉欲を狂わせたとはいえ、悪ふざけが過ぎる」

 

 

美しくないのはあまり好きじゃないと、肩を竦めた。

 

 

「……どうだっていい。お前のゲームはもう終わりだ」

 

「よしたほうがいい。いくら炎が消えかかっている私でも、まだ怪人としての姿は思い出せる」

 

「直接手を下せないんだろ? お前」

 

「ルールを破ることはできます。不本意ですが、死ぬよりはいい」

 

「……チッ!」

 

 

立木は銃をしまった。

 

 

「賢い人間は好きですよ」

 

「俺もだよ。俺が嫌いなのは――」

 

 

立木は銃を抜いた。

 

 

「クソみたいなヤツさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立木は部屋を出た。

コートに血がついているが、立木の血ではない。

神経断裂弾。マリリンは優秀だ。見事にクソ野郎をブチ殺すことができた。

 

 

「バルドも今日で終わりだな」

 

 

死体を処理してもらおう。

応援到着するまで暇だ。立木は通路でタバコを咥えた。

火、火、火――……。コートを探る。

 

しかしこれで平和になる。

スルガみたいな存在が他にもいるかもしれないが、そんなことはいちいち考えちゃいられない。

今日は焼肉でビールでもやろうか。そう考えていると、気配を感じた。

 

 

「おん?」

 

 

少女だった。マンションの住人だろうか?

立木はそこで固まった。わき腹に深く、深く、ナイフが沈んでいた。

 

 

「あ――、かッ」

 

 

立木は少女を突き飛ばした。

少女は走り去っていった。

 

 

(化け物の仲間か――ッ? いや、でもあれはッ)

 

 

いつか、取調べ中に殺しちまった男がいて、その家族のブスな娘に似ていたような。

いや待て、それか『ヤク』を拝借したのが見つかって、それで口を封じた部下の妹に似たようなヤツがいたような。

待て、確か八年前に――

 

 

「フハッ!」

 

 

立木は倒れた。恨まれる覚えがありすぎて、心当たりしかない。

 

 

「隼世――……、響也、お前らは……、俺みたいになるんじゃねぇぞ――っ」

 

 

ライター、あった。火、あぁ、くそ、火、血で、クソ。あぁ、ラッキー、ついた。

タバコ、酒は――? クソ、飲んどきゃ良かった。

 

 

「頼んだぞ……、真面目に生きるってのは、怪人殺すより難しいが――ッ、ごっ! がフっ! ま、まあ……、テメェらなら大丈夫――、だろ」

 

 

立木はタバコを落とした。そのまま目を閉じ、動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつかの日。

その男は息を切らし、全速力で走っていた。

病院内は走っちゃダメですよと年下の看護師さんに怒られた。恥ずかしい。

競歩選手顔負けのシャカシャカ歩きに切り替えて、すぐに青年は病室を目指す。

 

 

「おー、よちよちぃ、かわいいでちゅねぇ、ママでちゅよぉ」

 

「ちょっと敬喜ちゃんっ。ウソは教えちゃダメだよっ?」

 

「ごめんごめん。だって架奈ちゃん、見てよ、可愛いよねぇ。今なら母乳出そう」

 

「あ、この前、紅茶ありがとう。あれとっても美味しかった。ねえ岳葉くん」

 

「本当にさ。なに入ってんの? ヤバイ草とかじゃないよな?」

 

「訴えるよお兄さん。ボクと架奈ちゃんが選んだ最高級の葉っぱを使ったブレンドティーなんだから、美味しいのは当然だよね」

 

「今日お店は?」

 

「ああ。マッコリ姉さんに全部丸投げしてる。まあ彼女には紅茶という高尚な代物を扱えるとは思えないけど、店番くらいはできるでしょー」

 

「失礼だよ敬喜ちゃん! あのこと、まだ怒ってるの?」

 

「え、架奈ちゃん、あのことって?」

 

「はい。実はですね瑠姫さん! マッコリ姉さんってば何飲んでも全部ウマイっていうんです。すっごいアホなんですっ」

 

 

そこで、隼世が入ってきた。

 

 

「主役の登場ね」

 

 

瑠姫の言葉に皆はニヤリと笑った。岳葉だけ号泣していた。

 

 

「早いんだよなお兄さんは。まず先輩が泣くシーンだからねココ」

 

「す、ずま゛ん! 隼世ごめん!」

 

「い、いやぁ大丈夫。それよりごめんねルミちゃん。遅れちゃって」

 

「大丈夫。お姉ちゃんたちもいてくれたし。でも遅刻はしましたよね? これは罰ですよね? 今度ポケモンの新作が出るので、バージョン違いをそれぞれ一つずつ――」

 

 

皆が笑いあうなか、隼世は赤ちゃんを見て、ボロボロ涙を零した。

愛しい愛しいわが子よ。安心してくれ。僕らはキミを愛しぬく。

だから、たくさん笑って、たくさん泣いて、たくさん怒って、幸せになるんだよ。

友達ができたら大切にするんだ。困っている人がいたら助けてあげてね。

そしていつか、まあ凄い早い話だけど……、違う誰かを愛してほしい。その人と幸せになってほしい。

 

 

「ふふっ」

 

 

隼世は小さな命に触れた。

 

 

「パパの顔になってる」

 

 

ルミは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「あー、でも今からいろいろ心配だよぉ」

 

 

ルミが困ったように笑うと、敬喜がニヤリと笑った。

 

 

「大丈夫大丈夫」

 

 

だって、ボクらは――

 

 

「仲良しだからね。困ったらいつでも助けに来るよ」

 

 

みんな、赤ちゃんを見て微笑んだ。

いつまででも笑っていられる気がした。

 

 

 

 





たまにネクストにホラー描写(主にラスト)はいらなかったって言ってる人を見かけるんですが、個人的には最後のアレがあったからネクスト好きなんですよね。
アレもそうだし。全体的なホラー描写が無かったら、そんなに印象に残っては無かったと思うんですよ。
まあもしかしたら商業的には微妙だったのかもしれないけど、個人的には好きな作品でございます。

でもまさに今コレかいてて思ったけど、もし自分の好きなヒーローが商業的に失敗とかだったら、それはそれでショックですよね。
大人の世界の裏側で戦うこともまた一つの正義なのか……。


話は戻りますが、あの『ラストシーン』で思ったのはパチンコとして仮面ライダーがあるなら流石に本編とは別世界だろうと。
当時はただの演出として終わることも、仮面ライダーディケイドの登場によって『とんでもないことが起こった』のではないかと妄想できるようになった。
その結果が、今回の話でございました。

ただ、あとまだ一話だけ。おまけがあります。
そちらも明日か明後日くらいには更新できるかも(´・ω・)b



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