IS×ケンイチ(仮題)   作:凡人さん

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第四撃

「白浜先生、あんまり無茶なことをしないでください」

 

放課後、職員室で何かの整理をしている兼一に、無駄と分かっていながらも千冬は口を出す。危険のことと言わないのは、あれ以上に危険なことを日常的に行ってきているのを知っているからだろう。

 

「大丈夫ですよ」

「いや、それは分かっていますけど……はぁ、もういいです」

 

根拠はないが、兼一がIS、それもいまだ未熟な生徒たちが使うものと敵対して負けるところを想像できない千冬は説得を諦める。もっと言えば、自分がISを使ったとしても勝てる気がしないのだった。高速機動、空中移動、遠距離攻撃、これらさえも鼻で笑って涼しい顔でどうにかしてしまう気がしてならないでいる。

 

兼一の無茶な行動とは別のことで、千冬は再び溜息を吐いた。

 

「お疲れですね、織斑先生。お茶飲みますか」

「すいません、お願いします」

 

そんな様子を見た兼一は、水筒に入れているお茶をカップに注いで渡す。疲れた顔の千冬だったが、お茶を一口含んだ途端、表情が変わった。

 

「おいしい」

「それは良かった。あんまり根を詰め過ぎないようにしてくださいね」

 

味を褒められて嬉しそうに微笑む兼一は、再び机に向かうと何かの作業を始める。

 

「こんな所かな」

 

兼一が作業を終えた時にはすっかり夜の様子になっていた。慣れない事務作業で凝った体を伸ばしているそんな時、

 

『しーんぱく しーんぱく しーんぱく しーんぱく』

 

兼一の携帯に着信がなる。それも、最大音量で。兼一は苦虫を噛み潰したような表情で携帯を手に取ると親の仇を見るよりも険しい表情で見つめる。

 

「白浜先生、出なくていいんですか?」

 

幸い、今の職員室には千冬と兼一の二人しかいないため、特に咎める者はない。それでも、うるさいものはうるさいのだ。

 

「新島のヤツ、また勝手に変なウイルスでも仕込んだな。はぁ、この分じゃパソコンの方も何かされてるよな」

 

呆れたような声でそう言いながら電話を受けると、罵詈雑言を浴びせ即座に切り、設定を元に戻す。そして今更遅いかもしれないと思いながらも慣れた手つきでパソコンのネット接続を切る。そこまですると再び携帯を見る。

すると一通のメールが届いていた。兼一は用心深く携帯のデータ通信を切ってからそのメールを開いた。

 

「えっ、あ、やっぱりか」

「どうされたんですか」

「織斑先生に伝えてもいいのかな、これ。うん、ま、いいや」

「あの、白浜先生? 何を一人で納得してるんですか?」

「シャルル・デュノアは女性です。世界で一番信用したくないやつからの情報だから間違いないです」

 

相手の都合など遥か彼方に投げ飛ばした兼一から、矛盾した言い方で突然告げられた事実に千冬は固まる。だが、その硬直もすぐに解ける。

 

「目的は……ま、一夏のデータといった所ですか」

「そうみたい。なんかデュノア社って大変みたいだからね」

 

兼一自身、昨日の段階で、もしかしたらという思いはあった。けれど、それを裏付ける証拠がないため、不本意ながら宇宙人の皮を被った悪魔に頼ったのだった。また、その情報元について知っている千冬は問答無用で信じざるを得ないのだった。

 

「ま、しばらく放っておいても大丈夫かな。一応困ったことがあったら相談するように言ってますし」

「すみません、お願いします」

「はい、お願いされました。あと、このことは他言無用で」

 

分かっていますと言わんばかりに、千冬は大きく頷く。言ったところで聞く耳を持つ者は少ない。

それから、いくばくか考え千冬は口を開いた。

 

「白浜先生、ラウラのことどう思いますか」

「難しいね。ボクは彼女のことをまだ知らないからね。ま、言動ともに問題ありだけど、それは他の生徒達も大概だからなあ。あ、これ、昨日今日とこれまでのことを聞いて、まとめてみたけど、読む?」

 

先程まで行っていた作業の集大成である一枚の紙を渡す。そこには織斑一夏を起点として起きた騒動について軽くまとめられていた。

 

「頭が痛くなります」

 

一通り目を通した千冬は眉根をつまむ。例年とは異なるIS学園であるから多少のことは覚悟していたし、報告も受けていた。けれど改めて文字に起こされてみると結構なものであった。

 

「ボーデヴィッヒさんは軍人だから、ISの性質をよく理解しているみたい。だから他の生徒達に思うところがあるんだろうね。それはボクも似たようなものだけど、彼女はそれだけじゃないと思う」

 

軽く言ってのける兼一だが、その内心には複雑な思いがあった。ISの危険性を理解しているが認識しきれていない者が多すぎる。あれでは子供に核ミサイルの発射ボタンを玩具として与えているようなものだ。

 

「スポーツだから仕方ないんだろうけど……一歩間違えればどうなるかを考えてないんだろうね。ううん、違う。普段は意識が向いてないんだろうね。だってボクが出て行った時はちゃんと分かってたみたいだし」

 

かつて兼一の父、元次が梁山泊に来て兼一を連れ出そうと猟銃を使ったことがある。

その時元次は自分が引き金を引くことによって、相手を殺すかもしれないことを理解し、また、そういう結果に繋がることも認識していた。それでもなお大切な息子を守るために引き金を引いたのだ。結局は一発たりとも当たらなかったが。

決してほめられた行為ではないが、その覚悟だけは大したものであった。

 

けれど、この学園の生徒にそんな大それた覚悟を持っているものなどどれだけいるのだろうか?

 

IS対ISならばいい。絶対防御やバリアがあるのだ。

しかし、IS用の武器を人に向けるというのはよろしくない。もっと言えば、木刀だろうと竹刀だろうと猟銃だろうと、無防備な人間にふるっていいわけがない。差別的発言も声高にするべきではない。

取り返しがつかないことになったとき、傷付くのは生徒たちなのだ。

 

「耳が痛い限りですよ」

 

千冬には兼一へと返す言葉を持ち合わせていない。

 

「だからしっかり『心』を育ててあげなきゃいけないんだよね」

 

そう言って兼一は席を立つと職員室を後にした。残された千冬は兼一の遺した言葉を噛み締め、今後のことについて考えを巡らせていた。

 

 

 

「隙あり」

 

職員室を出て少し歩いたところで、兼一の背中に向けて物陰から何かが投げられる。

 

「ないよ、そんなの」

 

けれど、それを裏拳で向かってきた時と寸分変わらぬ場所へ弾き返す。ただし、速度はそれなりに上がっている。

 

「あいた」

「更識さん。不意打ちするのはいいけどさ、もっとばれないようにやらないと」

 

投げてきた本人の額に当たり再び弾かれ、廊下に転がった扇子を拾いながら兼一はそう苦言を呈する。明らかに間違った注意であるがそれはほんのご愛敬。

 

「白浜先生は女性を殴らないんじゃないんですか」

 

楯無は赤くなった額を押さえ、頬を膨らませながら言葉を返すが、

「殴ってないよ。投げられた物を返しただけだから、受け取れない方が悪いさ」

と返される始末であった。

 

「それで、何か用なの?」

「用がないと来ちゃダメなんですか?」

「うん、そうだよ」

「わたしとの関係は遊びだったんですか!」

「うん、そうだよ」

 

すぐ隣までやって来た楯無の質問に対して、貼り付けた笑顔で答え続ける兼一。それを好機と見た楯無は

「手合せ、してくれるんですよね?」

「寝言は寝てから言おうか」

「痛いです、痛いです、極まってますって」

関節技を掛けられたのだった。

 

これもまた殴っていないので兼一の主義には反しないことを明記する。

 

「それで、本当に何もないの」

「ありますよ。夕食まだですよね。一緒に食べませんか」

「そっか……いいよ」

「え? 本当ですか」

「あれ、ダメだったの」

「いえいえ、良いですって」

楯無は、まさかOKが出るなどとは微塵も思っていなかったので呆けた言葉を返すが、すぐに普段のではなく、年相応の少女の様子を見せる。楯無にとって兼一は心と体を休めることの出来る止まり木のような存在なのだった。

 

兼一は、そんな風に年相応にはしゃぐ楯無の後ろを静かに付いて行くのだった。

 

「それで何か相談があるんでしょ? ボクでよければ聞くよ」

向かい合って座る楯無に兼一は言葉を投げる。

 

「えっと、ですね。私の妹は知ってますよね」

「簪ちゃんだっけ。何回か顔を合わせたことはあるけど……まさかケンカしちゃってるの?」

無遠慮な一撃が楯無の心に深く突き刺さる。しかし、この一撃で終わることはない。

 

「それでちゃんと謝った……わけがないか。楯無ちゃんって不器用だもんね。それで気が付いたら距離ができちゃったのかな。そしたら余計に謝れなくなって……ていう感じかな。変な意地を張るからそんなことになるんだよ。それでどうやって仲直りするつもりなの?」

 

「うぅ、それが分かっていればわざわざ相談なんてしませんよ」

うな垂れながらぼそぼそと言う楯無。兼一の言葉があまりにも的を射すぎているため反論ができない。いや、それよりも心の地雷原でタップダンスを踊られてしまい反論する気力すらわかないと言った方が正しいだろう。

 

「ま、知らない仲でもないしその内、少しくらいは話を聞いてみてあげるよ」

 

 

 

食事が終わると、楯無を速攻で振り切り自室へと向かう。その道すがら、アリーナのピットに立つラウラの姿を見つけた。彼女の口から出たであろう言葉を目にした兼一は、既に多くのことが手遅れ一歩手前であることを悟った。

 

「教官。あなたの完全無比な強さこそ私の目標であり、存在理由」

 

「千冬ちゃん、ちょっと本気で不味いかもしれないよ」

 

誰に届くわけでもないその言葉は、夜の闇に消えていくのだった。

 




なんというか……あれですね。
アンチヘイトととられかねないかな?

一応作者にはそんな気はないですよ!
ないですからね!
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