IS×ケンイチ(仮題)   作:凡人さん

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第七撃

試合開始前の更衣室でのことだった。

 

「すまないが、私と織斑一夏を一対一で戦わせてほしい」

 

唐突にラウラは箒の前まで来ると頭を下げる。いきなりのことに動揺を隠せない箒にラウラは続けた。

 

「確かめたいのだ。織斑一夏がどのような人間であるのかを。だから、ほんの一時でもいい一対一で戦わせてほしい」

「わ、わかった。わかったから頭を上げてくれ」

 

再び頭を下げたラウラに、箒は慌てて回答をする。このままいけば土下座までしかねない勢いに気圧されたのだ。当然それだけではない。それにどういうわけかは分からないが、以前の力だけを求める姿はそこにはなく、ただひた向きに強くなろうとしているのが分かったのだ。過去の自分のように道を外れそうだった少女はそこにはおらず、純粋なほどに己の成長を望む少女がいた。

 

「ありがとう。お互い最善を尽くそう」

 

花が咲いたような声でそう言って出撃準備に入る。

転入後数日とはまるで別人のような振る舞いをされ、面食らった箒は少し遅れて準備を終えると更衣室を後にしてピットに向かう。

先に出ていたラウラと合流すると、軽い打ち合わせをするのだった。

 

 

 

試合を管制室から見守る千冬は、驚きを隠せないでいた。なぜならラウラがパートナーである箒のことをきちんと認識しているからだ。

基本的には箒がシャルルを抑え、ラウラが一夏と戦うという形ではあるが、ピンチだと思えば助け、助けられたら感謝をしている。多少強引な部分もあるがそれでも相手を気に掛け、試合をしている。

兼一との会話で少しずつ変わっていったということは知っていた。けれど、まさかここまで変化するなど思ってもいなかったのだ。

 

「本当に敵わないな」

「織斑先生、何か言いましたか」

 

少し離れた位置で腕組みをしながら試合の動向を見つめる兼一を、横目で見ながらつぶやいた。どうやら近くにいる真耶には、何か言ったのが聞こえたらしい。何でもないと適当に誤魔化し、画面に視線を戻した。

 

「専用機相手に篠ノ之はよく頑張っているな」

 

画面には丁度シャルルと箒が映し出されている。元が量産機であるとはいえ、シャルル個人に最適化した機体を相手にただの量産機で奮戦する姿から、箒の腕の良さが十分に見て取れる。

 

だからこそ余計に残念でもある。

 

「そうですね。篠ノ之さんにも専用機があれば、もっと良い試合になったでしょうから」

 

真耶がそう漏らしたのは、箒の乗るISのシールドエネルギーが尽きた時であった。

およそ十分もの間、専用機と渡り合った量産機はついに地に伏すのだった。けれど会場には歓声が沸いた。

だが、それは当然である。代表候補生が操る専用機を相手に一般生徒が量産機で互角の試合をしたのだ、これで会場に騒ぎが起きない道理はない。

 

 

 

「すまない。無理をさせたみたいだ」

「構わないさ。それで確認はできたのだろうな」

「お前の頑張りのお陰でな。本当にありがとう」

 

動けなくなった箒の元に駆けると、ラウラは手短にその労をねぎらい感謝を述べる。

箒の働きは十分すぎるものだった。量産機で専用機を相手にしてこれだけの時間持ち堪えたのだから、感謝の念に惜しみはなかった。

 

「ごめん一夏。篠ノ乃さんが予想以上に手強くて結構時間かかっちゃった」

 

申し訳なさそうに告げるシャルルの額には大粒の汗がにじんでいた。

 

「本当にな。箒のやついつの間にあんなに上手くなったんだよ。それにしてもあいつ変わったな」

 

そんな様子を見た一夏が漏らした言葉にシャルルは頷き返す。転校当初の他の生徒を下に見ていた棘のある雰囲気はなくなっていた。

 

「そういえば、二人に謝罪しに行ったみたいだよ」

「本当か、それ」

 

本当の強さが欲しいと語ったあの日、兼一の一存によって謹慎が解かれたたラウラ。その後、兼一に頼みセシリアと鈴音に会う場を設けてもらった。そして、あの日のことを謝罪した。

 

セシリアと鈴音は元々兼一に説得され、また記憶もいまいち定かではなかったため、そこまで怒りはなかった。とは言え、あの場での数々の暴言についてはいまだ水に流せていなかった。だが、誠意ある謝罪を受けて許せないほど器の小さい二人ではない。

 

その後、謝罪が遅れたのは謹慎が今日までだったからと兼一がフォローしたが、それをラウラは否定した。このことで一悶着あったのは語るまでもない。変な所で不器用であるというか馬鹿正直であるというか……

 

試合の局面は息を吐く暇もなく進んで行く。

 

二対一という劣勢を、身に着けてきた技術で物ともせずに戦うラウラ。

それに向かう一夏とシャルのコンビネーション。

空と大地を縦横無尽に駆けながら、斬り合い、そして撃ち合う三人。

三人の誰に、いや、箒を含めた四人全員に惜しみない賞賛が送られてもおかしくはない試合展開であった。

 

五分ほど経った頃、ラウラの動きに乱れが生じ始めた。それでもなお奮戦するのだが、わずかにできた隙をき接敵したシャルルのシールドピアスが、その身を捉える。

そして、それが勝負の決め手となった。

 

(中々上手くはいかないか。私もまだまだなのだな)

 

勢いよく減り続けるシールドエネルギーを眺め自身の負けを悟った。だというのにその表情は非常に満足げであった。

 

(私の負けか。悔しいな。できればもう少し戦いたかった)

 

 

 

異変にいち早く気付いたのは試合をしていた一夏でも、決定的な一撃を加えたシャルルでもない。画面越しに観戦していた兼一だった。

異変に気付いたというよりも、虫の知らせを感じたと言った方がより正確なのかもしれない。

 

映し出されたラウラの瞳、その奥に秘められた思いを目にした兼一は、この後に起きる事態を予想する。

 

「織斑先生、注意して、それと覚悟していてください」

「どういうこ――」

 

そう千冬に一言そう告げると、返事も聞かずにその場を後にして舞台袖へと向かう。

兼一自身が予想した起こりうる状況を打破するためには、今のままでは役者が足りない。その不足を補うために動いたのだ。

 

「うぁあああああああああああ」

 

兼一がピットに辿り着いた時、絶叫とともにラウラのISは泥のように崩れ、その姿を変化させていた。

 

得体の知れない状況に会場は戸惑い、動けないでいる。傍観とも静観ともいえるようにしてことの成り行きを見守っている。

 

『非常事態発生。トーナメントの全試合は中止。状況をレベルDと認定。来賓、生徒はすぐに避難してください。繰り返します――』

 

騒ぎが生じてから十数秒後、警報とともに場内アナウンスが流れる。そうしてようやく事態の深刻さに気付いた観戦者たちは悲鳴を上げる。

 

遮断シールドが下りると、会場の様子を知ることができるのは管制室でモニタリングしている教師たちだけになった。

 

泥は徐々に形を整え影をなしていく。その影は、かつて世界を制し、今なおISの世界で最強と謳われる者と酷似していた。

 




所要により明日からしばらく更新できないと思います
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