そんなことより本編本編(この世界の相模は体育祭の委員長をしていません)。時期はだいたい3年一学期と言ったところでしょうか。
では、相模南の生誕を祝って!!
三角関係
とあるラーメン屋、そこに昼飯を喰らいにきた俺だったが、人が多すぎて両サイドに女子がいるというカウンター席に案内されてしまった。
まあどちらも知らない人だろう、一応一声かけておこう。
「すみません、お隣失礼しますね」
その声に両側が振り返る。その目が大きく開く。
「〜〜〜?〜〜〜〜〜!」
「げっ、比企谷…」
両側の顔は見知ったもので、ラーメンを食べようとウキウキしていた気持ちにすっかり雲がかかった。
左が折本、右が相模だった。…折本さんや、口の中のもの飲み込んでから話していただけませんか?
しかし隣が知り合いという気まずい状況に負けたくないという謎の対抗心の元、俺は席につく。というかラーメン食わせろ!
チラ見して気づいた、折本の前にはラーメンがあるが逆側にはない。因みに醤油豚骨、鉄板メニューだ。美味そう。
ええ、これ俺と相模余るパターン?こんな時折本の存在大切よ?むしろ今みたいな状況以外折本必要ないまである。
とりあえず注文しようと思いカウンター越しにおっちゃんを呼ぶ。
「「あのー…おい(ねえ)」」
お互いがお互いにイライラをぶつけるタイミングまで一緒とは偶然通り越して必然じゃないかと思い始めてしまう。なんなら雨のちハレルヤだったりする。気づかない始まりって、もしかして:恋。じゃかーしいわ。
目線で先に言うよう促す。またかぶるのが嫌なだけだ、相模の為じゃない。
相模が注文した後ほかの店員を呼んで注文した。
ふと左肩が軽く叩かれる。そちらを向くとリスと化した折本がこちらをガン見してた。愛くるしいがそれ以上に馬鹿馬鹿しくて面白い。
「お、おい…それ飲み込んでから、話しかけろよ…っっ」
「比企谷笑いこらえてんの、マジうける」
既にある程度咀嚼していたのかあっさり飲み込んでバカにしてきた。こんにゃろ、やってくれたな。俺のクールキャラ台無しじゃんか。あ、もともとそんなキャラじゃない?お前はただのぼっちだって?反論できないからやめて。
「で?比企谷の右の人は知り合い?」
「ただの元クラスメイト」
「そんな訳ないじゃん。比企谷クラスの人覚えてないでしょ?結衣ちゃんに聞いたことあるよ〜」
おのれ、由比ヶ浜!この雪辱はいつか晴らす。
しかし由比ヶ浜や折本が指摘したことはあながち間違いじゃあない。というかもうビンゴ、大正解。
当の相模というとラーメンが来るまでスマホを触っていることにしたらしい、左手で頬杖しながら退屈そうにスマホを弄っていた。
「…なら由比ヶ浜に聞けよ。それで解決だろ?」
「それもそうなんだけど…今ここに比企谷いるんだし、教えてよ」
め、めんどくせぇ。教えたくないんだよ、こいつと喋りたくないんだよ察しろよ!
何となくいい感じのリズムで拒否ってたら右の方から声が上がる。
「えっと、折本さんだっけ?うちは相模、比企谷に汚された女の1人」
「ぶはっ!」
な、何いってんのこいつ!?折本めっちゃ呆けてるやん、口あんぐりやんね。俺の財布同様中になんもなくてよかったな。やかましいわ。
突然折本がさらに左隣に迷惑にならない程度に身を引く。見ると顔も強ばっている。
「何それ比企谷まじウケないこの子に何したん比企谷がそんなやつやとは思ってなかったんやけどいやほんと近づかんといて」
「おいそれ以上はやめろ。危うく自殺しちゃうぞ」
「しちゃえば?」
いやん、折本さんったら辛辣!今ならこいつ雪ノ下より冷たいんじゃね?
とふざけてる場合じゃない、それは何故かって?勿論そりゃあれしかない。
「へい、お待ち!」
「うっし…いただきます!」
「「私ら(うちたち)完全無視!?」」
だってめんどくせえし?誤解解く理由も無いし?何よりラーメンは伸びてしまうと本来の5割減の美味さしかない。美味いもんは美味いんだけどな。俺は豚骨。
今はもう俺に話す気がないのを察した2人は黙々とラーメンを食べ始めた。それでいいんです。おそらく相模は坦々麺。
相模、折本、俺の3人ともラーメンを食べ終わりさあ解散!と思っていた時期が俺にもありました。
「待ちなって、比企谷?」
そんな事ありません、どうせこうなるんだろうなと思ってました。
折本がニコニコしながら背後を親指で指す。何、俺今から絞められちゃうの?あんたどこのヤクザ?ニセコイしちゃう?
恐る恐る折本が指すほうを見るとそこには喫茶店、どうやら絞められず絞られるらしいです。
「はあ…めんどくさ」
「ざまあ見なさい」
相模は許さん。『絶対許さないノート』に書く価値もないと思ってたがここまで来たら書いちゃうわ。
だってこいつ未だに俺がやったことで自分が得たメリットの大きさに気づいてないもん。もんとかキモ!
この際別に知って欲しいとかそういう訳じゃないけど、何も知らずにでかい顔して大人になって気づく方が恥ずかしいんだろうな、だったら今教えてやろうかなという親切心で教えてやろう。
折本が先導しつつこちらをチラ見ながら喫茶店に入っていく。どうやら逃げようと思うだけ無駄らしい。
「…ふぅ、観念するか」
相模と俺も喫茶店のドアをくぐる。喫茶店特有の珈琲やデザートの甘い匂いが混ざった、しかし落ち着く空気の中席を探す。
一瞬知り合いが見えた気がするけど気のせいだよね?あんな金髪よりの茶髪を持ったイケメンなんて知りませんよ?その対面にいる黒髪ショートの大学生らしい人も知らない。
…また家の用事なのかね、あの2人は。相変わらず窮屈そうなことで。やだ、2人のこと察しついてるじゃん!まあ間違いないよね、オーラ感じるし。
各々欲しいものを注文した。相模も折本もなんで500オーバーの紅茶頼むわけ?考えて!俺に優しくして!
「さて、と。それじゃ洗いざらい吐いてもらうよ?」
「怖い怖い、言えばいいんだろ、言えば」
折本に気圧されつつ平静を装って返す。
因みに席は折本の隣に相模、俺の向かいには折本だ。相模が奥側だったりする。
まあそうなるよね…。なんだか尋問されてる気分、すごく好かん。
「はあ、相模はいいのか?」
「いいんじゃない?その件はうちの中ではもう過去のことだし」
はあ、さいで。思い出話をするようなもんなのか?まあ、本人の了承を得られたので俺としては気にすることも特にない。
渋々ながら俺は話しだす。物語が進むにつれて折本の顔が険しくなっていく。しかしその不穏な雰囲気の指向先は間違いなくずれていった。もちろん俺がやったことは普通に言った、例えばこんな感じ。
「…。で、スローガン集める時に俺が『人〜よく見たら片方楽してる文化祭』って案を出して、案の定というか当然却下されて、…」
とまあ、こんな感じ。
しかし折本とてそこまで馬鹿じゃない。合同クリスマス会の会議では見るとこ見てたし、きっとこの話に隠された相模の低能さや劣悪さは感じるだろうな。
「で、最後は俺が屋上で座り込んでかっこよく一言言って終わった」
「なるほどね…相模さん良かったね」
「…え?どういうこと?かおりちゃんはどっち側なの?」
「まあ、比企谷サイドだよね。私が比企谷擁護するとかウケる」
こっち見てハニカミながら言うな、照れる。
その後折本はおもむろに立って机の向こう、つまりは俺の横へ来て詰めろと目で訴えかけてくる。渋々俺が奥へ追いやられてあげる。べべ別に折本の目が怖いわけじゃなかったんだからね!
「なんで?…うち、悪いことしてなくない?」
「その意識がまず間違えてるんだよ。比企谷がやったこと全てに意味はあるよ、しかも原因は相模さんに非がある」
「え…え?」
すげえな折本。俺のこと買いかぶりすぎてるあたりが特にすごい。
事実俺がやったことに意図的に意味を込めたのはせいぜい真面目に仕事することとスローガンと雪ノ下の看病と屋上だけだ。まあ、雪ノ下の看病の件は違う意味で意味を込めた、与えたんだが。
「…これ私から言っていいわけ?」
「いいんじゃないか?俺が言うより身に染みるだろ」
俯いて困惑する相模に聞こえないように言葉を交わす。わかった、違うところがあったら訂正してね、と言って折本さんのお説教が始まった。
「まず、スローガンのことから。この後多分仕事に来る人増えたんじゃない?陽乃さんに言われて靡くのは分かるけど、自我が弱すぎ」
「で、でもそれは比企谷の態度にイラついたからで…」
「だから意味あんじゃん。それは比企谷が意図的に引き起こした必然だよ」
ここまで分かっているなら後のことも問題ないだろうな、傍観に徹することになりそうだ。
あれは少々リスキーだったよなぁ。片方楽してるってところにイラつかせて、俺は真面目だから楽してんのはそっちだろと行動のみで煽るだけだから、あとはドンだけ俺を下に見てるかに賭けてたんだが。
あれ、それってつまり俺超下に見られてる?なんならカースト外にいて視界に入らないまである。
「や、でも。あのやり方はないって…」
「あはは!だよねー、でもこいつこんなことしか出来ないから。むしろこんなことすら出来ない相模さんは一体どこが『成長』したのか聞きたいくらい」
俺が思索に耽っている間にも会話は進んでいたらしい。というか全部終わってた。
相模がこちらをキッと見つめる。いや、睨んでるのか?普段以上だろう潤いに包まれた目からは表情が読みづらいものだ。
「…ごめんね。比企谷、ヒール役なんてやらせちゃって」
「いい、元々俺は嫌われ者だからそんなことしか出来なかっただけだ。ほんと、気にしなくていい」
それにもう遠い過去、終わったことだからな。
俺としてもあれは『思い出』なんて言うつもりは無いけれど、けれど確かに記憶に残る日々だったのは否定しない。それはつまり過去の事として、歴史的遠近法の中で記録や記憶に残るだけの過去の事象となるのだ。新しい短編集も面白かったなぁ。
「そんで、ありがとう。やらなきゃいけないことだったって言って嫌々何でもしてくれたのは、実行委員の時から見てた。そんな比企谷を暖かく見守ってる雪ノ下さんもだけど」
「あいつはいつから俺の保護者になったんだ?」
「なになにー?雪乃ちゃんの話かな?」
…めんどくさっ。さらに話ややこしくなっていくの?そろそろほんとに帰りたい。そう思った時電話が鳴った、よし来た。画面には♥結衣♥とある。
三年次になんとか名前を変えられないかと頼み込んだ結果ここまで落ち着いた。自分ですればいいと後々気づいたのだが、彼女が自ら変えてくれたのをさらに直すつもりは毛頭ない。
とりあえず助かった、電話に出て適当に話を合わせてもらい脱出することに成功。
代わりに雪ノ下さんと葉山がその席に座ったのを視認しながらその喫茶店を出た。
もちろん俺の財布から野口さんが単身赴任しました。ちなみに行先は机の上…汚されないかな。
八幡が去っていったテーブル席はなかなかどうして滅多に見られないほどに謎なメンツであった。
南の位置は固定、その隣にかおりが座り向かいには隼人。そして南の向かいに陽乃が座った。
アイスコーヒーをずずずっと啜った陽乃がストローから口を外してかおりに問うた。
「で?何の話してたの?」
「あ、比企谷の文化祭での一件についてです。陽乃さんは知ってるんですよね?きっと」
「んー、まあね?雪乃ちゃんホウレンソウは月一必ずしてくれるんだもん」
ほーんと、可愛いと本来続くはずの陽乃の口が動きを止める。それ以上に可愛い存在が今までいたのに、ほかを可愛いと評するのは何か違うなと思ったらしいが、きっと彼からすればいい迷惑だろう。
「あの、陽乃さん?」
「なに、南ちゃん?」
「どうしてうちにあの時あんなことを?」
首を傾げた陽乃はそのまま隼人に話しかけた。
「何か言ったっけ?私」
南にとってこの言葉はほかでもない致命傷となる。
それはそうだ、自分は取るに足りない存在だと言外に言われたようなものだ。
しかしその致命傷は筋組織以上の超回復を成す。
「大丈夫です、良くわかりました。これから頑張っていこうと思います」
陽乃が嗜虐的な笑みを浮かべる。その顔はさながら魔王で八幡が見ればうわあほんとに魔王だなぁとか思ってただろう顔。
隣に座るふたりは恐怖を超えて優美すら感じた。が、南はそうはならなかった。その目はたしかに陽乃を見ていたが、視てはいなかった。その先の虚像を見ているかのような虚ろな、しかし芯の通った目をしていた。
陽乃の口から息が漏れる。
「ちぇっ、やーっぱり比企谷くんは何でもわかっちゃうんだ。行こっ、隼人」
「…はいはい」
嵐のように2人は去った。
八幡ももう戻ってくることはないだろう。つまりここにはかおりと南しかいなかった。もちろん他にも客はいる、けどまあそういう意味じゃなくてね?
「折本さん…うち、これから頑張る」
「…そっか」
「頑張って、ほんとに『成長』する」
「…うん」
「そしていつか比企谷の行いを正当化する。今からじゃ遅いかも知んない。けど、自己満足で終わるかもだけど、それでもやりたいと思った!」
彼女は決意する。その決意は彼女史上最も堅く、大切な決意だった。
そんな南を微笑を携えたかおりが暖かく見つめる。ああ、この子はこれから成長して、進化をするだろう。柄にもなくかおりはそんなことを思っていた。
「いつか比企谷に笑顔で『ありがとう』って言わせてやる!」
やはり彼女の間違えていた青春ラブコメはリスタートしていく。