目を開けるとそこは薄暗い部屋だった。困惑の中感じる、鼻につく生々しい匂い、綿の少ないベッド、隣にいる知らない裸の男。
ここは何処だ……
状況が分からず、体を起こし周りを見渡す。そこで私は自分が裸であることに気がづいた。近くにあったタオルで胸元を隠しつつ、現場把握に努めようとするが、目に付くもの全てがわからない。分からないはずが、なぜだか覚えている。
「何だ、起きたのか」
隣にいた男が話しかけてきた。ニヤニヤしながらこちらに手を伸ばしてくる男はやはり見覚えがない男だった。
「すぐに気を失いやがって、まだまだやりたんね~んだ、料金分しっかりあいてしろよ~」
いやらしい顔を見て、伸びてくる手を無意識にはじく。男はそれが気にくはなかったのか、顔を歪めたと思ったら、腕を上げいきなり、殴りかかってきた。訳も分からないまま殴られた私は、はじかれるように横たわり相手を見上げるような形になる。
「人形風情が抵抗してんじゃねーよ!!! テメーはただ黙ってやられていろや!!!」
怒声をあびせられ、また殴られる。意味が分からなかった。知らない男に暴行を与えられる理由も、自分が何故、此処にいるかも。しかし、心の底でこう思ってしまう。『初めてではない。理不尽な暴力はいつものこと』と。それと、『この人達には、従わなければならない』と言った脅迫めいた思考が生まれる事を。
思ってしまう? なぜだ? なぜだ⁈ なぜだ‼︎‼︎‼︎
困惑に苛まれる中、ふと、音が聞こえた。
ズキッ!!!
いきなりの頭痛に頭を抱える。
頭が痛い、痛い! 痛い!! 痛い!!! 痛いッ!!!!
激しくなる頭痛の中、その音は次第に大きく、ハッキリと聞こえくる。私の中では何時間も続いたであろう、頭痛と音の演奏は、現実では数秒であった。
終演に残心はなく、同時に立ち上がり面前の男の顔を鷲頭む。
「何しやがっ‼︎」
「ーー五月蝿い」
力を入れそのまま持ち上げた。掴んだ男の顔からは、ミシミシと軋み出す音が聞こえる。成人男性を片手で軽々持ち上げる自体おかしい、しかしこの体はそれを可能とする力がある。持ち上げた男が叫び続けるが、構わず力を入れ続ける。
「思い出した….、思い出した!!! このクソ野朗ッ!!!」
万力の力をもって勢いよく壁に叩きつけられた男は、口から泡を吹き、白目を剥きながら、崩れる様に倒れ込んだ。元から二人しかいなかった部屋が静まり返る中、私は今まで此処でやらされていた理不尽な命令や行為に対し怒りに震えていた。
近くにあった緑色に近い茶色の軍服に手を通す。たぶん男の服だろうが関係ない。幸いにも大きさに変わりは無く、すんなり着られた。
私は部屋を出て、ある部屋を目指した。目指す部屋は分かっている。そう私を買い、こんな目に合わせたババアのところへ。
道中、すれ違う男や女が驚いた表情で此方を見てくるが無視し、目的の部屋に辿りつき私は勢いよく扉を蹴り開けた。
弾ける様に開いた扉に、室内にいたババアは驚いていたが、私だと分かると顔を歪め怒鳴りつけてきた。
「フェイ!!! あなたなにをしtッッッ‼︎!』
ババアが話し掛けてくるが私はかまわず、その顔に拳を叩き込んだ。殴り飛ばされ横たわるババアに馬乗りになり迷い無く、鼻血を出した顔に追撃の拳を叩きこんだ。
「今までッ!! よくも!! ヨクモォォォ!!!!」
血で糸を引きながら、ただただ怒りをこめて殴りつける。人間離れした私の腕力はすぐにババアの顔を真っ赤に染めあげた。目を潰し、耳を引きちぎり、鼻を砕く。蚊がなくような声で謝罪を繰り返してくるが、無視し殴り続けた。
私の拳とババアの顔面で奏でる演奏の中、数人の足音が近づいてくる音が聞こえてきた。
異変を感じたこの店の奴らだろう。自分達の雇い主の部屋から大声が聞こえているのだ。そりゃ異変に気付くだろう。時間を置かずに武装した男達がこの部屋に駆けつけてきた。
「なっ⁉︎ フェイだと⁉︎ 何故洗脳が解けている⁉︎」
私の顔を見て、驚愕の表情を浮かべる男達を無視し、最後にババアを蹴り飛ばし、窓ガラスを飛び破り外に逃げ出した。そう、逃げ出したのだ、この糞垂れな場所から!!!!
♦︎
暗い夜道をあるきながら、血で染まった手を、着ている軍服の裾で拭きつつ私は考える。
これからどうしよか……
勢いと激情のもと、何も考えずに行動に移してしまったため、今持っているのは血に染まった軍服だけ。まさに無一文だった。頼る宛もコネもなく、ただ呆然とする。だが後悔はしていない。またあの生活には戻りたくないからだ。 素足に無慈悲に地面の冷たさが伝わりなお、考えを暗くさせる。
逃げ出した安心感とこれからの不安感、矛盾した感情が入り乱れる体は、疲れからか休息を求め睡魔を呼び起こす。ツラリツラリと船をこぎだした私は、道端に座り込みそこで意識をおとした。
私の頭上から輝く羽が落ちてきた事も知らずに……
目だ。耳だ。鼻!
それは粛正