「失敗か……、しかたない破棄だ。コンセプトを変え再度実験を行う。他の場所はもう量産に成功していると言うのに、糞‼︎ 時間の無駄だったか。…ん? 何かようか?」
「・・・・」
「名前? そんなのフェイリュァーで十分だ。ニュータイプ能力を得なかったこれは<出来損ない>で十分だ」
「・・・・」
「何? 欲しいだ? 貴様は異常性癖か?」
「・・・!!!」
「何だ、売るのか。別に良いだろう。それにはもう利用価値なんて無い。だがただでは渡さん。半分はもらうぞ。なに当然の権利じゃないか、それの作成者は私なのだからな」
ーーー
「15歳の未使用ねぇ、※※※位かしらね」
「・・・・!!」
「何言ってんだい。未使用だろうとあんた等の実験体、失敗作だろう? 足がついたら危険だよ。それにほら、こんな死んだような目。誰が好き好んで抱くんだい? まぁ、体つきは良いんだ、いい稼ぎにはなるだろうね」
「・・・・」
「まいどあり。何なら最初の客はあんたにするかい?安くしとくよ」
♦︎
昔の記憶、嫌な記憶だ。私が売られ、買わされた時の記憶。
「・・・ぇ、」
あの頃はただただ、言われるがままだった。殴られ、蹴られ、命令に従い様々な客と交わった、苦痛の毎日。
「・・・ねぇ、・・・ですか?」
私の苦しむ顔が愉しいのか、執拗に私を壊しに来る。壊れにくく頑丈な私の体はさぞ奴らを愉しませたのだろう。
「・・・ねぇ、大丈夫ですか?」
誰かに呼びかけられてる。また新しい客か…。
起きなければ、私を壊しに来る奴らの相手をしないと…。
♦︎
目が覚めると、暖かい日の光を感じた。
「そっか、私は…」
顔を上げ、私はあの場所から逃げ出した事を思い出した。もう客を取る事がない無価値な私に、誰が私に声を掛けたのか? 人の気配を感じた方向を見ると、膝を抱える様に寝ていた私の隣に座り、心配げに見つめている女の子と目があった。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
白い肌に、紫がかった黒髪、その髪を留める大きな白いリボンと、首もとに可愛らしい赤いリボンのついた自分より年下だろうその女の子は私を心配そうに見つめていた。
「あ? ああ、問題ない。ノープログレムだ、お嬢さん。起こしてくれてありがとう」
関係のない人間を巻き込まない様、私は立ち上がりながら、適当に返事をし足早にその場を立ち去ろうとしたが、異変に気づく。
日の光だと…‼︎
辺りを見回しその光景を目にした私は絶句した。輝く太陽、面前に広がるは、輝く青い運河、赤い屋根と漆喰の壁からなる建物、振り向くとそこには聳え立つ山々、私がいた所は暗い世界に人工的な光が照らし出す、宇宙コロニー内の筈だ。地球に降りた覚えはないし、そもそもこんな美しいところを知らない。私が知らないだけかも知れないが、地球はコロニー落下の影響により異常気象に見舞われているはずだ。
呆然と立ち尽くす私を心配してか、女の子が話しかけてきた。
「本当に大丈夫ですか? なんか驚いていますけど、それにその服・・・」
女の子の指摘にあらためて自分を見ると、血が酸化したであろう赤黒い模様がついた軍服、ボサボサなオレンジ色の髪。裸足の上、手は婆の血でコーティングされている。
・・・完全に社会的問題を起こした危険人物だ。関わりを持ちたくは無いであろう風貌な私を気にかけるこの女の子は、どれだけお人よしなのだろう……。少なくても悪い奴ではないだろうが、心配になるぞ?無垢っぽくて……。
「色々あったんだ。色々と、ね。それと、変な事を聞くけど教えて欲しい。ここはどこ?」
「?ここはネオ・ランディアですよ?」
女の子は困り顔で答えてくれだが、やはり聞いた事の無い名前だった。美しい風景に聞いた事のない都市。
いったい自分はどうかしてしまったのか? 混乱の中、話し掛けときながら考え込む私に女の子は声をかけてきた。
「とりあえず、移動しませんか? その…、目立ちますし、私が取っているホテルも近くにありますので、その格好着替えましょう」
確かに私と女の子の図は周りからかなり浮いていた。方や清楚なお嬢さん、方や血塗れ軍服女。関係性が全く想像出来ない。
「正直ありがたいけど、なぜそこまでする? 私たちは初対面のはずだ。言うのもおかしいけど私は完全に厄介事だぞ?」
自分で自分を危険人物と認めるのは悲しいものがあるが、このお人よし過ぎる女の子に尋ねてみた。私を買った奴らは別に男だけではない。女の客も相手にしたことがある。この女の子も、見た目とは違い心の奥底ではとんだ性癖を持ってるかもしれない。如何しても疑心暗鬼になってしまう自分に苦笑しつつ聞いてみた。
「確かに最初は怖かったし、躊躇もしました。でもあなたに話しかけて、あなたの目を見て思ったんです。あ、優しい目をする人なんだなって。そしたらほっておけなくて・・・」
はぁ、 死んだ魚の目の様な私が?
考えていた事とまったく違う答えを口にされ、驚いている私に彼女は話し続ける。
「それに、困っていそうな人がいたら手を差し伸べるべきでしょ?」
満面の笑顔で言われ、私は呆然とするしかなかった。
余りにもその無垢な笑顔が眩しく、如何に私が汚れているかを認識せざるを得なかった。
♦︎
女の子、いやミコノに連れられ、ホテルに向かう最中にお互いのことを話した。名前を尋ねられた際、咄嗟に『フェイリュァー』と名乗りかけ、『フェイ』で止めた。もう私はあの場所から逃げ出したんだ。わざわざ自分の事を『失敗作』とは、言いたくはなかった。
彼女も彼女で、抱えているものがあり、家を出て旅行の最中らしい。詳しくは聞かなかったが、時折見せる自信のなさげな表情は、それに関する事なのだろう。そして、驚いたことに彼女の髪を留めるリボンはネコらしい。ネコは独自の進化を遂げたのか…。
話している内に、私と彼女の体格の違いから着れる洋服がない事に気がつき、適当な服屋に入り申し訳ないがお金を借りて、服を購入した。
ホテルに着き、先程購入したスキニーパンツと黒のワイシャツを借りて着替える。
「それにしても、その軍服?はここら辺のものなんですか? カイエン…、あ、私の兄なんですが、兄の軍服とは、違うなぁ〜と思って」
「あぁ、ジオンの軍服だよ。結構有名なんだけど聞いた事ない?」
「すみません…、聞いといてなんですが、私、そんなに軍隊とか詳しくなくて…、兄とも最近は会ってないし……」
申し訳なさげに下を向き、声が小さくなるミコノを眺めながら考える。
ジオン
誰もが知る言葉、それを知らない者などいない。いくら戦争とはかけ離れた者でも耳にするだろう言葉を、彼女は知らなかった。知らない風景、知らないといけない言葉。
いよいよもって頭の中は、混乱というバットステータスにかかり、ぐるぐるとヒヨコが周り、自分が違う世界に来たのではないか、とすら考えてしまう。
「地球だよなぁ、ここは……」
漏れた言葉に現実が返って来た。
「あ、一番有名なネオ・ディーバなら知ってます‼︎ 襲い来るアブダクターから、エレメント能力者が乗るアクエリアを使い私達を守ってくれるんです‼︎」
「………何処のファンタジーだよ」
何だよ、ネオ・ディーバ? 私が知ってるネオはジオンだよ。アクエリア? 水の精霊がどうしたんだよ。
知らない単語が彼女から発せられ、混乱が加速する。
取り敢えず、一息ついて考えたい。
「ミコノ、この後の事何だけど、周りを見てきたいから、暫く一人にしてくれないかな? ミコトも行きたい所があると思うしね」
「えっと、私は大丈夫だよ。フェイこそ、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だよ。心配なら夜にまたこのホテルで会おう」
♦︎
心配気な彼女を強引に引き離し、このネオ・ランディアという街を改めて歩きまわる。和かにお客と会話する店員、綺麗な街並み、戦争とは無縁な私の知らない世界なのだと、実感させられる。
「はぁ〜、本当に何なんだよ」
公園のベンチに腰掛け黄昏る。公園には遊具で楽しそうに遊ぶ女の子と、それを暖かく見守る母親。微笑ましいその光景に視線で追っていると、小さな女の子が私の方によって来た。
「おねぇちゃん、おかおがさびしそうだよ?甘いの、アイがあげるから元気だして。」
「…あぁ、ありがとう。アイちゃん?は優しい子だね」
「うん‼︎」
笑顔で返事をするアイを撫でつつ、アイの母親だろう女性に会釈すると、手を振り返された。
幼児にまで心配される私…。
内心で苦笑しながら、貰った飴玉を口に入れ転がす。その瞬間雷に打たれた様に硬直する。
なんて美味なんだ‼︎‼︎‼︎
今まで食べた事のない味に心が躍る‼︎口に広がるイチゴの風味、それはまるで私の心に舞い降りた天使‼︎噛みたいけど躊躇われる飴玉。あぁ、なんと背徳感に苛まれるのか。甘味とは素晴らしい!幸せとはこの事を言うのか‼︎
今まで経験した事の無い深い衝撃に感動し、飴玉を心の底から味わっていると急に何かを感じた。そう、頭に走り抜けるような、直感が訴える。
急いで立ち上がり周りを見渡す。急に立ち上がった私にアイちゃんが不思議そうに眺めているが、それどころじゃ無い。
来る‼︎‼︎
上空を見上げると同時に黒い粒の様な物が現れた。段々と大きくなるそれは、まるで異次元から来た怪物に相応しい異形であった。
『アブダクター襲来。至急、シェルターに避難して下さい。繰り返します。アブダクター襲来。至急ーー、』
アブダクターと言われる異形は、その巨体からチューブの様な物を伸ばし此方に向かって来た。
直感が告げる、狙われているのはアイの母親だ。考えると同時に走り出す。まさに、チューブが母親を捉えようとした瞬間、私の持てる力全てを込めチューブを殴った。
私の拳は爆発の如く音を上げ、チューブを四散させた。相変わらずの力に苦笑いするも、今は有難い。チューブを尻目にアイちゃんと、その母親に近づき声をかける。
「大丈夫か⁈ 説明は後だ‼︎ 早く逃げるぞ‼︎」
しかし、襲われた事に腰を抜かしたのか、座り込み動こうとしない母親と、泣きながら母親に縋り付くアイ。シェルターが何処にあるかは分からないがこの場にとどまる方が不味い。だが、二人を見捨てることはできない。そう考え、次々に来るチューブを拳で退けながら二人を守っていると、轟音と共にアブダクターの一体が爆散した。
何事かと、音がした方に顔を向けると、彼方から飛来した巨人がアブダクターとの戦闘を開始したのだった。
アイちゃんは、名前の最初がアルファベットの『I』だから、アイちゃんなんだよ。