地元の弁当屋の店長はどうやら元死神の給仕長だそうです。 作:すくのすくお
「ふぁ〜あ、よく寝たぁっと」
少し散らかった六畳程の部屋。そこの片隅に置いてある布団からゴソゴソと這い出てきたのは見た目30代前半の男性だった。
彼はキッチン……と言うよりかは厨房にあるとても大きな冷蔵庫からペットボトルに入ったコーヒーをコップ2杯、まだぼんやりとする頭に活を入れるが如く流し込むと、弛んだ目尻は鋭く締まり、脳味噌もキビキビ動くようになった。
寝室兼自室のタンスからジーンズとお気に入りのアロハシャツを取り出し着替え、洗面所へと行く。
歯を磨き、顔を洗い、寝癖を直す。そしてお守り替わりの紫水晶のネックレスを着ける。
鏡には肩までの髪を後ろで結び、顎髭を生やした優男風の顔が映っていた。
――こうして、空座町一の弁当屋[千鶴苑]の店主「百川 万里」の朝は始まるのであった。
エプロンを着け、バンダナを巻き、厨房に立つ。
「今日の朝食はどうするかねぇ……思いの外時間があまり無いから軽めでいいかな。」
そう言って彼は巨大な冷蔵庫から玉子、コチュジャン、調味料の棚からはゴマ油と鶏ガラスープの粉末を取り出した。
小鉢に玉子、コチュジャン、鶏ガラスープ、ゴマ油の順に入れてかき混ぜる。
混ぜ終わったらこれまた巨大な炊飯器から軽めにご飯をよそい、その上に先ほどの卵液を掛けて完成。
本日の万里の朝食は中華風卵かけご飯であった。たかが卵かけご飯と侮るなかれ。コチュジャンと鶏ガラスープの旨み、そしてゴマ油の香りで時間が無い朝でもサックリと元気になれるメニューなのだ。
食べ終わると、次は万里の本業である弁当屋の仕事に取り掛かる。
玉子焼きを何個も作り、弁当にピッタリのサイズにカットした鮭と鯖を焼き、漬物を乗せ、キンピラを丁寧に乗せ、白米にゴマ塩を振り………
目にも止まらぬ速さ、驚く程無駄の無い動きで作られた山程の弁当は何回かに分けて店頭に並べ、それと同時に店頭のシャッターや電気を点け………全て並べ終わったところでやっと彼は一息つくことが出来る。
彼はそれをずっとこなしてきたのだ。何故なら訪れる客の笑顔が見たいから。自分の弁当を食べて喜んでもらえるから。それだけが目当てなのだから。
「さぁ〜て、今日の天気は……っと。どれどれ……よっしゃ!晴れなら昼は買出しに行けるな。どうせなら浦原くんの所にもよって行くとするかな」
しばらくすると、千鶴苑の近くにある[空座第一高校]の生徒達が昼食、はたまた朝食として弁当をこぞって買いに来た。少々口が悪いがその様子を例えるとするなら「タイムセール中のオバチャン」、人間以外で例えるなら「大量の鯉の餌やり」といった感じか。
面白い程よく売れるなぁ。と何の気なしに考えながらレジ打ちをしていると、学生の群集の中にいつもは見ない髪の色が見えた。彼は確か……黒崎一護くんだったかな?と思いつつ学生達に弁当を売りさばき続けていた。
「なんてこった……完売じゃないか。こりゃあ買出しがキツいぞ……」
少々テンションが低めな声を漏らしながら店の看板を[open]から[closed]に替え、店の裏へと回る。
店の裏には彼のスクーター(とは言っても安物を長年使っているからボロボロだが)に跨り隣町の卸売市場へと行く。
彼はまだ知らなかった。この平和な生活がひび割れるように変わっていく事を。
――――とまぁ大げさに言うが、彼が弁当を作り続けるのは誰にも変えられないだろう。例え[裏切りの隊長]や[虚無の十刃]、[天に立つ者]が邪魔をしようと。
次回より原作ストーリー開始です。
万里の食べた中華風卵かけご飯ですが、実は筆者がよく朝食で食べております()
(●´・ω・).。oO(時間が無い朝に丁度いいんだもの。因みにわかめスープがよく合いますよ)