地元の弁当屋の店長はどうやら元死神の給仕長だそうです。 作:すくのすくお
夜闇の中、昔から親しくしていた少女'雨宮汀華'を救ってから暫くの時が過ぎた。
あの日の晩、年頃の少女の荷物としては少なすぎるそれを千鶴苑の屋根裏部屋へと運び込み、ある程度の簡単な家具は汀華が学校へ行っている間に大理石で作り、一般的な女子高生としては素朴な部屋を作っておいた。
ある日、普段は万里と汀華の2人で食事をしているが万里の
「偶には俺の友達……いや、親友を呼んで鍋パーティーでもしようと思うんだ。てーかちゃんってあの浦原商店って知ってたっけ?そこの皆だよ」
と言った提案に汀華は
「えっ……浦原商店ってあの駄菓子屋さんですよね?昔行ってた………と思いますけど……そこの方々が来るんですか」
「うん。浦原くん達が来たら鍋を三つ程使ってそれぞれ'寄せ鍋'、'鶏ガラ味噌鍋'、'キムチ鍋'で鍋祭りをしようと思ってね」
「凄い豪華じゃないですか!楽しみです!」
「そういえばてーかちゃんって猫アレルギーとかって持ってたっけ?」
「アレルギーは……季節の変わり目に花粉が辛い位しかもってませんよ?」
「そりゃあ良かった。じゃあ俺は食材とか部屋の用意をしておくから、てーかちゃんは厨房の掃除と火にかけといた寸胴鍋の様子を見ておいてね」
「了解です!」
とまあ、そんな感じのユルい流れで鍋パーティーをする事になった。
偶然にも汀華は手先が器用かつよく働くので、万里からは雑用を任されていた。
万里が厨房の奥の大部屋を片付けている間、汀華は慣れた様子で厨房を掃除し、コンロでずっと煮込んでいた名古屋コーチンの鶏ガラとネギの入った寸胴鍋の灰汁を取り、お玉から小皿に少量のスープを注いで味を見た。
深く、深く、そして広い鶏の旨味が口の中に広がる。鶏だけの旨味では無く、縁の下の力持ちと言うべきニンニクや唐辛子、生姜や昆布の味が引き立て役となり味に奥行きが出来ている。
「おーい、てーかちゃーん!片付け終わったー?」
「終わりましたー!」
「よし!じゃあ冷蔵庫の中から白菜を4個……いや、5個出して切っておいて。今日は人数が多いから山ほど必要になるよ!」
「任せてください!プロの料理人の下で伊達に雑用してませんから!」
「よし!その意気だよ!」
「(汀華ちゃん……よくここまで快復してくれたよ。本当に良かった。)」
所変わって浦原商店。
浦原と万里は現世の携帯電話を使って今日の鍋パーティーの事を事前に連絡し合っていた。先程
『夜一さんも連れてきて欲しい。汀華ちゃんは恐らく茶道くんや織姫くんと同じ分類の人間だと思う。こちら側の説明もするべきだ。という訳で宜しく!(≧∇≦)』
『了解っス。あと万里サン、'茶道'じゃなくて'茶渡'っスよ。』
『そうだったそうだった。そうだ、折角なら一護くんと愉快な仲間たちも招待しようかな?どうせ詳しく説明するなら仲間も一緒の方がいいし、何より汀華ちゃんの為にもなる』
『それじゃあこちらの方で声をかけときますね。朽木サンもお呼びしましょうか?』
『うん。そうして欲しいな。一人のところを狙われたら流石に辛いし、何よりも華になるからね( ´ω`)』
『それじゃあ、また後ほど会いましょう。行く時になったらまたメール送りますね』
携帯電話を閉じ、浦原が独り言を呟く。
「万里サン……メールに顔文字使うの流行ってるんスかねぇ……」
千鶴苑で特性鍋パーティーの準備が行われている間、浦原は一護達に声をかけに出歩いていた。
「一護サンと朽木サン、今日の晩に千鶴苑で鍋パーティーがあるんですけどお呼ばれされませんか?」
「あぁ、千鶴苑で……って、浦原さんってあそこに何かツテでもあるのか!?俺は時々しか行かないけどあそこの弁当ってうちの生徒の3分の1位が買ってるんだろ?そんな名店で鍋パーティーだなんて…最高じゃないか!」
「ふむ……鍋か。昔兄様と時々食べていたな。懐かしいから行ってみるぞ!一護!」
「待て待て、親父と妹たちに言っとかなきゃ。今日は千鶴苑で食べてくるって」
「それじゃ、7時半位に千鶴苑で待ってますね」
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7時半になった。
一護、朽木、茶渡、石田、織姫の5人は揃って仲良く千鶴苑に到着した。
普段は入ることの無い店の奥の座敷に招かれた5人はワクワクとしながらそこへと歩いていった。
とても広い和室。そこは例えるとするなら'旅館の宴会場'の様な雰囲気となっており、長テーブルには浦原商店の面々+黒猫状態の夜一がそれぞれ座っていた。
「おお〜!凄いな!まさかこんなに広い宴会場があったなんてな!」
「興奮し過ぎだぞ一護。ほら、はしゃいでないで席に座れって」
「ム……(凄い豪華だ……)」
「わぁ!凄い!これ全部万里さんが用意してくれたのかな?」
「そうであろうな。(万里……どこかで聞いた名だな)」
一護達が賑やかに会話していると、厨房の方からペットボトルに入ったお茶を大量に持った万里と汀華がやってきた。
「やぁやぁ、一護くん達、こうやって会話する機会は中々無いから是非とも楽しんでいってくれ。……おっと、自己紹介が遅れた。俺の名前は'百川万里'だ。覚えてくれたら嬉しいな」
「そして私が訳あって万里さんの手伝いをしている'雨宮汀華'です。………って!黒崎くんに織姫さん!?それに石田くんに茶渡くんに朽木さんまで!?!?」
「誰かと思えば雨宮さんじゃないか、どうして此処に……まあ、'訳あって'と事前に言っているのであればそれ以上は聞かないさ」
石田と織姫と汀華が会話している間に、浦原と夜一、そして万里が宴会場の隣の部屋で話をしていた。
「どうしても言うつもりなんじゃな?尸魂界の事や儂らの事を」
「ええ。汀華ちゃんは俺に気づかれないように頑張っているつもりだろうけど、虚や魂魄が完全に見えているようだ。それに、汀華ちゃんの足元……靴が時々形を一瞬だけ変える時があるんだ。アレは織姫くんや茶渡くんのと同じ分類の能力である筈だ。少しでも戦力になるのなら鍛え上げた方が良いと思うんだ。」
「そこまで言われちゃあ反対意見は何も無いっスね。ある程度鍋を食べて心に余裕が出来た辺りで言いましょう」
―――
大きな長テーブルの上には三つの大きな鍋が置かれ、それぞれから空腹を刺激する香りが流れ出している。
ちゃんと万里を除く11人が座ったことを確認すると、万里は前に出て
「長らくお待たせ致しました。それでは鍋パーティー開始です!皆さん、たっぷり頂いてくださいな!」
魚介類のたっぷり入った寄せ鍋。
例のあの鶏ガラスープの入った味噌鍋。
万里がこっそり漬けていた自家製キムチと牛骨スープで作った本格キムチ鍋。
一護達のような食べ盛りの高校生は勿論、浦原商店の子供や大人まで揃いも揃って橋を止めることが無く、ホクホクと食べ続けていた。
万里も間を縫って食べ始める。自惚れては居ない。ナルシストでも無いが自分の料理はかなり美味しいと思っている。
百十年前に零番隊に昇格した'曳舟桐生'に料理を習っていた過去を持つ彼にとって、現世の料理は本気を出すと料理番組を軽く優勝出来る実力があると自負している。
それはともかく、だ。どの鍋も半分以上食べられ、箸を動かす手も穏やかになってきた。
万里と浦原は目配せをし合い、2人で先程万里が音頭をとった位置へと行った。
「鍋パーティーを楽しんでいる皆様、特に一護くん達と汀華ちゃんに知って欲しいことがあります」
「今まで黙っていて申しわけないのですが、私'百川万里'は普通の人間ではありません」
「普段は弁当屋の店長として皆さんに接して居ましたが、私は弁当屋をする前は……」
「護廷十三隊の給仕係のリーダー、給仕長をしていました」
突然のカミングアウトに、一護達+汀華はお茶を吹き出しながら驚いた。
真っ先に口を開いたのはルキアだった。
「どうりでどこかで見た覚えがあったのだ!万里殿は昔から時々朽木家へと弁当を届けに来ていただろう!」
「おお、覚えててくれたんだね?あの時はまだルキアくんもちーーっちゃかったからねぇ、時々遊んであげてたんだ」
「ばっ…馬鹿者!それ以上言うな!恥ずかしいわっ!」
次に一護、石田が驚いた感想を口々に叫んだ。
肝心なのは汀華の反応だ。
万里は汀華の為に死神の事や尸魂界の事、虚の事等をわかりやすく説明した。
「万里さん………」
「(さあ、どう返事がくるか……?)」
「凄い恰好いいです!てかなんで今まで黙ってたんですか!?」
「(おっと予想外の食いつき……)まぁまぁ。細かい事は良いんだよってね」
意外とすんなり打ち解けた汀華は、一護達と楽しく会話を始めた。
虚の事や能力の事、そして斬魄刀の話になった時に思い出した様に万里へとフォーカスが当たった。
「そういや万里さん、万里さんの斬魄刀ってどうなってるんですか?普段は持ち歩いて無いように見えますけど……」
寄せ鍋の具材である赤エビの殻を外している途中だった万里は、その質問に対して
「いずれ見せる機会が出来たらその時に見せよう。流石に食事中に刃物を見せびらかすのはマナー違反も甚だしいからね」
「も、申しわけないです……」
千鶴苑での鍋パーティーが行われている中、空座町に大きな霊圧が2つ観測された。
そう。ルキアを捕縛する為に尸魂界からやってきた'朽木白哉'と'阿散井恋次'である。
「ルキアの霊圧は……!?あの建物の中か。複数の大きな霊圧も感じられるな」
「霊圧もそうっすけど……すっげぇ美味しい匂いも流れ出てますね、朽木隊長」
千鶴苑からは海鮮寄せ鍋と鶏ガラ味噌鍋と牛骨キムチ鍋の匂いが溢れ出ている。
勿論、死神にもその匂いは伝わり……
「腹、減りましたね隊長……」
「そうだな…」
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