あくまで冒険者やってます   作:よっしゅん

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もっと色々なシーンをやりたかったけど、訳が分からなくなりそうだったので簡潔にまとめました。
最終話がそんなんでいいのか……って感じはしますけどまぁ許してください……


エピローグ
第19話


 

 

 

 

 アインズは今、ぼんやりとしながら目の前の光景を眺めていた。

 

「お前は自分が今まで置かれていた状況を分かっていて言っているの!?」

 

 アルベドの怒号が響く。

 

「な、なんでありんすか急に……」

 

 シャルティアが肩をビクリと震わせながら答える。

 

「ほぉ、覚えていないのですか? あの守護者にあるまじき失態を!」

 

「シャルティア、あんたアインズ様にとんでもないことしたのよ!?」

 

「アインズ様ガドレダケ心ヲ痛メタカ……」

 

「ぼ、僕もそう思います」

 

「え、えぇ……?」

 

 あの激戦の後、シャルティアを殺すことに成功した。

 そして玉座の間でシャルティア復活を行い、これも見事に成功したのだが、精神支配から解放され蘇生されたシャルティアは何も覚えていないようだ。

 これでは肝心の犯人が分からずじまいだが、まぁ今は素直にシャルティア復活を喜ぼう。

 そのシャルティアは今他の守護者達に説教という名の罵倒を受け、涙目になっているが。

 

「…………」

 

 まるでかつての仲間達を見ているようで妙な寂寥感を覚えていると、気がついたら目の前にアルベドがいた。

 

「どうした」

 

 何やら表情が優れないアルベド……だけでなく、アルベドの背後を見たら他の守護者も似たような表情だった。

 シャルティアを除いてだが……

 

「……アインズ様、お聞きしたいことが御座います」

 

 なんだ? と言いかけそうになってアインズは言葉を押しとどめた。

 聞くまでもない、守護者達が自分にどんな疑問を持っているかは理解できる。

 

「……そうだな、お前達の疑問は分かっている。だが今この場で話すことはできない。今から一時間後に玉座の間にナザリックの僕を全員召集せよ。セバス達も一度喚び戻せ、もちろんセバス達を狙ってくるかもしれない愚か者がその間に接触してくる可能性もあるので監視の目は緩めるな」

 

「承知……致しました」

 

 え、なんでありんすかこの空気。

 なんてシャルティアの声を聞きながら玉座の間を去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、お帰りなさいモモンガさん」

 

「……ただいまです、レジスさん」

 

 モモンガが途中寄り道をしながらも目指したのは、円卓の間。

 この世界にやってくる前に、ヘロヘロと雑談していた場所だ。

 四十一人分の豪華な席のうちの一つにはレジスが座って待っていた。

 

「それで、シャルティアは……?」

 

「えぇ、ちゃんと蘇生できました。精神支配も解除されてます」

 

「そうですか……」

 

 モモンガの報告に安堵の息を吐くレジス。

 

 ちなみに超位魔法でシャルティアを倒した後、それはもう大変だった。

 約束破ってごめんなさい、と土下座をいきなりかますので面を食らったものだ。

 なんとかレジスを落ち着かせた後、しばらくお互いの事情やこれまでのことを話し合ったのだが、一先ずはナザリックに帰ることにした。

 しかしいきなりレジスを連れて帰ったら、ナザリック中は大騒ぎになる。

 なのでナザリックに入るときには隠密系の魔法を何重にもかけて、シャルティアが復活するまで円卓の間で待機してもらっていた。

 

「あ、そうだ。これと……これもお返ししときます」

 

 モモンガが次々とアイテムや武器防具を渡す。

 これらはレジスが引退する前に使っていたものだ。

 

「おぉ……懐かしいなぁこの姿。目線が凄い高く感じる」

 

 受け取ったアバターを元に戻すアイテムを使い、愛用していた防具やアイテムを装着、無銘の剣を背中に携える。

 そこにはユグドラシル時代の、デイドラロードとしての自分が復活していた。

 

「ふふ、やっぱりその姿の方がしっくりきますね」

 

「モモンガさんもそっちのローブ姿の方がしっくりきてますよ」

 

 お互いがお互いを観察しあい、かつての思い出を蘇らせていく。

 

「……それにしても、本当にナザリックがあるとは思いませんでした。しかもメイドまで動いてるし……」

 

「えぇ、まぁ私も最初は驚きましたよ……」

 

 未だにこの異世界に来られた理由や仕組みなどはまったくわかっていない。

 しかもお互いの話を聞く限り、モモンガはユグドラシルのサービス終了した直後、レジスは終了した後寝たら……さらにレジスの方が十五年前に飛ばされて、モモンガは最近だ。

 全くもって理解不能である。

 

「まぁ考えてもわからないことを悩んでいても仕方ないですね……今は再会を喜びましょうか」

 

「そうですね……といっても、アンデッドの特性でさっきから喜んだら、その都度平穏になって逆に落ち着かないんですけど私……」

 

「賢者タイムってやつですか?」

 

「ぶふぉっ! い、言い方なんとかしてくださいよ……」

 

「ははははは! ナニも無くなっているのに常に賢者タイムって辛いですねモモンガさん!」

 

 円卓の間に二人の笑い声が響く。

 今この瞬間、思い描いていたユグドラシルでの日常が帰ってきた……そう思うほど、二人は充実していた。

 

「ははは……それでこの後私はどうすれば?」

 

 気がすむまで笑った後、レジスはモモンガに訊ねた。

 

「えっと、一時間後に玉座の間でNPC全員集めるので、レジスさんにはタイミングを見計らって登場してもらいたいなーって……」

 

「……それ大丈夫なんです? 主に私が」

 

 モモンガの話を聞く限り、自我を持ったNPC達はモモンガ以外のギルメンに見捨てられたと思われているらしい……まぁ実際にはその通りなのかもしれないので、耳が痛い話だが。

 ともかく、そんなNPC達の前に突然レジスが現れたらどんな反応されるのだろうか。

 下手すれば、「よくもヌケヌケと戻ってこれたな! 死に晒せ!」みたいな感じ襲いかかってくるのではないか……?

 

「だ、大丈夫ですよ。みんな良い子ですし、わかってくれますって。仮に何かあったとしたら私が守りますよ」

 

「……まぁそこまで仰るのなら」

 

 レジスだって可能であるならナザリックに……アインズ・ウール・ゴウンの座に戻りたいと思っている。

 しかし心を入れ替えたなんて都合の良い言い訳は許されるはずもない。

 実際に引退を選んだのはレジス自身なのだから。

 

「それじゃあ段取りを決めましょうか、まずは私が先に話し始めるのでレジスさんは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後、モモンガとレジスは玉座の間の階段上の玉座に鎮座していた。

 モモンガは玉座に、レジスはその横に黙って立っている。

 

『うわぁ……本当にNPC達が勝手に動いてるよ。というかナザリックってこんなにNPCいたんですね』

 

『まぁゲームでこれを再現するとなると、何時間も掛かりますからね。NPCが何人いるかなんて数えたことも……あ、一人でナザリックを維持していたとき、暇すぎて数えたことありましたねそういえば』

 

『あ……その、なんかごめんなさい』

 

 階段下には一部を除いてだが、ナザリック中のNPC達が身動ぎ一つもせずに静かに跪いていた。

 そこにはシャルティアの姿もあり、思わず笑みがこぼれる。

 

『それじゃあ打ち合わせ通り行きますよ』

 

『おっけーです』

 

 伝言の魔法で、モモンガとレジスは声を出さずに会話をしている。

 その理由は、レジスがNPC達にバレないようにだ。

 

 いきなりレジスが現れては、NPC達も混乱してしまう可能性があるので、まずレジスの姿を見えなくするため、透明化や気配遮断などを数々の課金アイテムや魔法により行う。

 これによりたとえ探査に優れている者でも、レジスを察知することは不可能になり、姿も見えないはずだ。

 こうして姿を隠している間に、モモンガがNPC達に何気なく去っていたギルメンのことをどう感じているのかを聞き出す。

 これで問題がなさそうならそのまま姿を現す、駄目そうなら……まぁそのときはそのときだ。

 

「さて、皆も既に知っての通り、シャルティアを救出することに成功した」

 

 今まで物音一つしなかった空間に、モモンガの声と微かなざわめきが鳴り響く。

 

「だが残念なことに、シャルティアを精神支配した者の正体は分からずじまいだ。しかし案ずることはない、たとえどれほど時が経とうと時効などにはさせない。地の果てに逃げようが必ず追い詰めて、後悔と恐怖に支配されながら苦しめて殺すことを誓おう。アインズ・ウール・ゴウンの名にかけて!」

 

 途端に、喝采が起き始めた。

 アインズ・ウール・ゴウン様万歳! なんて轟が唱和されて玉座の間に広がる。

 

『し、シャルティアだけでなく、NPC全員にアインズ様呼ばわりさせるとは……もしかして本当にそっちの趣味があったんですか? それにその喋り方……』

 

 モモンガさんもリアルでは下っ端の方らしかったので、人の上にたつということに憧れていたのだろうきっと。

 

『え、あいや……これは違くて……いや違くないんですけど! 確かにアインズって呼べって言ったのは俺ですけど、違うんですよ!』

 

 モモンガの言い分は、NPC達は何故か最初っから絶対服従の姿勢を取っていたらしい。

 

『はいはい、そういうことにしておけば良いんですよね。アインズ様』

 

『だ、だから誤解ですって!』

 

 別に恥ずかしがることはない、男なら一度は支配者というのに憧れてしまうというもの。

 

『と、とにかくそろそろ本題に入りますから準備しといてくださいね』

 

 そう言うとモモンガは静かに、それでいて玉座の間の隅から隅まで響くような声で言った。

 

「さて、実は今回お前達に集まってもらった理由がもう一つある」

 

 さっきまで騒めいていたというのに、モモンガが喋った途端ピタリと止んだ。

 

「今から私がお前達に質問をする。お前達はそれに正直に答えるだけでよい」

 

 NPC達から緊張の念が感じ取れ始めた。

 

「いいか? 正直にだ、その質問に対して己の心を偽ることは絶対に許さん。もし偽ったのなら、それは私からの失望を受け取ることと同じということを知れ」

 

 これ以上上がらないと思われていた緊張の念がさらに強まる。

 モモンガは間を数秒置いてから、声を発した。

 

「……お前達はかつての友たち……私を除いた至高の四十一人のことをどう思っている?」

 

 モモンガはつい最近、ナーベラルに問いかけた質問と同じような質問を問いかけた。

 

「寂しいか? 悲しいか? 失望したか? 怒りを感じるか? それとも何とも思わないか? ここナザリックを去っていた友たちに対して、お前達はどう思っているのかを私は知っておきたい……」

 

 モモンガは息継ぎもせずに続ける。

 

「私は彼らには帰ってきてほしいと心から願っている。もし私と同じような考えを抱いているのなら、その場で立ちあがって自らの意見を主張してみせよ」

 

 モモンガは正直、立ち上がらない者がいたとしても特に咎めたりするつもりはなかった。

 何故ならそれは、正当な感情なのだから。

 だから何人か立ち上がらない者もいるかもしれないと思った……しかしそれは杞憂に終わったのだ。

 

「…………!」

 

 まるで打ち合わせをしていたかのように、一斉に全てのNPC達が立ち上がった。

 背が高い者は天井にジャンプでもするくらいの勢いで、背が低い者は一生懸命自己主張をしようと手を突き上げ、翼の生えている者はその場を飛び回りそうな勢いで、ともかく全員が立ち上がった。

 

「僭越ながらアインズ様」

 

 するとデミウルゴスが突然口を開いた。

 

「この場に至高の方々のご帰還を願わない者などいるはずがございません……確かに至高の方々がどのような理由でこの地を去られたのかは、我々にはわかりません。しかしどんな理由であろうと、我々もご帰還を心から願っております」

 

「…………」

 

『……嘘はついてないみたいですよ、モモンガさん』

 

 レジスは長年鍛えてきた観察眼で、なんとなくだが彼らが嘘をついているような感じはしなかった。

 モモンガもレジスのような観察眼は持ち得ていないが、デミウルゴスの言葉は本心であり、その後ろに続く他の者も同じ本心であることが感じ取れた。

 

「……そうか、そうだったな。お前達がそう思っているのはわかっていたのに、何を改まって聞いたんだかな俺は! ハハハハハハハ!」

 

 モモンガの笑い声が反響して響く。

 その笑い声は楽しげで、いつまでも続くかと思われたが、突然糸の切れたように笑うのをやめたモモンガは再び声を発した。

 

「……お前達の意見はよく分かった、つまらん質問をして悪かったな。詫びとしてお前達にサプライズがある」

 

 再び騒つく玉座の間。

 

『さぁ、出番ですよレジスさん』

 

『えぇ、この空気で出るの結構恥ずかしいというか……まぁいいか』

 

 これでいきなり襲い掛かられる心配はなくなった。

 透明化を解除し、姿を現す……

 

 驚きで声も出ない、とはまさに今の状況を指すのだろう。

 誰もが驚きの表情で固まっている。

 そこでレジスは、先ほどのモモンガよりも大きな声で言った。

 

「まぁ、俺がみんなに伝えたいことがあるように、みんなも俺に言いたいことは山程あるだろう……けど、まずは俺に一言、いや二言言わせてくれ」

 

 大きく息を吸い込む。

 

「すまなかった……そして」

 

 

 

 た だ い ま

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうそろそろ日が暮れるのか、太陽が沈みかけている。

 レジスは足を急がせると、ようやく坂道を登りきった。

 登りきったそこには、みずぼらしい柵に囲まれた場所で、地面に半分ほど埋められた丸石がポツポツ並んでいた。

 丸石には誰かしらの名前が刻んであり、それが墓石であることは容易に理解できる。

 レジスは墓石に刻まれた名前を一つ一つ確認していき、ようやく目的の名前が刻まれた墓石を見つけると、そこにしゃがみ込んで呟いた。

 

「お久しぶりです……」

 

 その墓石には、エモット夫妻と刻まれていた。

 

 モモンガに色々と事情を聞いて、ここカルネ村の悲劇を聞いた途端、レジスは自然とここに足を向かわせていた。

 この世界にきて間もないころ、この村とエモット夫妻には大変お世話になった。

 ある人の教えで、恩は決して忘れてはならないと教わったことがある。

 故にレジスはこの二人に対しての敬意は忘れてはならないのだ。

 

 急遽用意した花束を墓石の近くに添えると、目を閉じて瞑想をする。

 死んでしまった二人に対してレジスかできることは、こうして祈りを捧げることだけだ。

 もちろんユグドラシルのアイテムや魔法を使えば、死者を蘇らせることもできるかもしれない……しかしそれは死者に対する冒涜だ。

 故に少し悲しい気持ちはあるが、ここは潔く二人の死を受け入れるべきだ。

 

「…………」

 

 そして死んでしまったとはいえ、エモット夫妻に対しての恩は消えない。

 その恩に報いるには、これからは二人の大事なものを守っていけば良いのではないだろうか。

 

「こちらの勝手な約束を押し付ける形になるけど……」

 

 二人は死んだが、二人の子供はまだ生きている。

 モモンガさんの話だと、姉と妹が……姉はあのとき産まれた子供で、妹はその後に産まれたのだろう。

 名前はエンリとネム……

 

「まったく、ちゃんと良い名前付けられるじゃないですか……」

 

 立ち上がって、村の方を見ながらレジスは言った。

 

「大丈夫です、これからは何があろうとあの村……娘さん達は私が守りますよ」

 

 そして飛行の魔法を発動させて、その場を飛び去る。

 

 ——ありがとうございます——

 

 ふとそんな男女の声が、風に乗って聞こえてきた気がした。

 

 

 

 

 

 




これにて、あくまで冒険者やってます。は完結になります。

正直ちゃんと完結させられるか不安ではありましたが、一年ほど掛かってしまいましたが無事完結させることができました。
これも皆様のおかげです。

読んでくださった方、誤字脱字を報告してくれた方、評価をしてくれた方、感想をつけてくれた方、色々な人に感謝です……

これからは不定期にですが、番外編として投稿したいと思っています。
それではまたどこかでお会いしましょう。
本当にありがとうございました。

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