、や。に関してのご指摘を頂いたので今回から注意してみます。
追記
評価投票者数が40人…だと!?
お、おかしいな…最後に見たときは10人くらいだったのに。嬉しすぎてやばい
「ふぁぁ……」
隣から欠伸を噛み殺そうとしているような音がレジスの耳に伝わってくる。
欠伸をした杖を持っている少年……ニニャは杖を持っていない方の右手の手のひらで口元を隠している。
「……大丈夫か?」
レジスは優しい声色で問いかける。
「あ、大丈夫です。……と言うのはきついですね。正直眠くて仕方ないです」
軽く笑いながらニニャはそう答える。
下級とはいえ吸血鬼との戦いは気を抜いてはいけない戦いだった。そんな戦いをしたあとに一睡もせずにいるのだ。こうして歩いているだけでも結構辛いはずである。
「ならどこかで休むか? ちょうどこの先に川が……」
「いえ、それこそ大丈夫です。こうなった原因も私達が話に夢中になり過ぎただけですし、それにあと少しもすればエ・ランテルに着きますから」
「そうか、無理だけはするなよ?」
「えぇもちろんです」
ちなみにレジスは、疲労などのバッドステータスの部類に入る状態を無効化する指輪……マジックアイテムを付けているので問題はない。
他にも左右の手の人差し指と中指に指輪型のマジックアイテムを計4つ装備している。
1つは右手の人差し指にある先程言ったバッドステータス無効の指輪。中指には異常状態の耐性を上げる指輪。
逆の左手の人差し指には自分に効果を及ぼす探知系の魔法やスキルを無効化する指輪。そして中指には1日一回ペナルティなしに自身を蘇生させることができる指輪を装備している。
「そういえばレジスさん。その剣はどこで手に入れられたのですか?」
ふと急に少し前を歩いていたペテルにそう聞かれる。
「あ、単に気になっただけです。吸血鬼の爪を受け止められるなんて相当な業物でないといけないですし」
吸血鬼の爪は固く鋭い。それこそ結構な強度を持つ剣でなければそれを受け止めるなんてことは到底不可能だ。
知られて特に困ることはないので正直に話すレジス。
「この2本の剣は鍛冶士のマスター・マウロに作ってもらったものだ」
マスター・マウロ。その人物の名前に心当たりがあるのか、ペテルは驚愕の表情を浮かべる。
「鍛冶士のマスター・マウロって……あの、リ・エスティーゼ王国で1番の鍛冶士と言われている人ですか!?」
「あ、あぁ……」
やけに興奮した状態のペテルに若干引き気味なレジス。
「リ・エスティーゼ王国の最高の鍛冶職人と言われながら、本人は気まぐれでしか剣などを作らないため、マウロ製の作品は全部で100個ほどしかこの世に存在せず、それでもマウロが作った武器はどれも素晴らしい出来でそれ故に、オークションなどで出回った時は何百金貨の値段になると言われてるあのマウロ製の剣……それも2本も!?」
気がつけば前を歩いてたはずなのペテルがレジスの目の前にいて、背負っている2本の剣をまるで好きなオモチャをお店で見つけたような子供のような目をしていた。とてもキラキラしている気がする。
「どうやって手に入れたのですか!?」
「え……いや普通に作ってくれと頼んだら……その代わり頼み事を聞いたり結構な金を取られはしたが……」
「どうして2本も!?」
「か、怪物用の銀製の素材でできたやつと、人間用の鋼系の素材でできたやつを作ってと頼んだからだ……」
「重さは?切れ味は? 振った感触は? 手入れはどんな感じに? お値段は?」
おかしい。ペテルという男はまだ未熟な所はあるといえ、まさしくリーダーという役割に相応しい性格と技能を持っているはずだ。短い付き合いとはいえ少なくともレジスはそう思っていたのだが、今目の前にいるペテルはとてもそうには見えない。思いっきりレジスの両肩に手を置いて揺さぶりながら聞いてくる。
次々と出される質問の嵐を収めようとペテルを落ち着かせようとするが、レジスがする前にペテルと一緒に前を歩いていたルクルットが握り拳を作り、軽くペテルの後頭部を叩いた。
「いてっ……」
「落ち着けって。興奮するのもわからなくはないが女性を困らせるのは男としてどうかと思うぜ?」
ルクルットの一撃でようやく冷静になれたようだ。レジスの肩を掴んでいた手を離し少し離れたあと頭を下げた。
「も、申し訳ありません……つい興奮してしまって」
「いや、気にしてないさ」
ペテルが言った通りこの2本の剣はこの世界の有名な鍛冶職人に作ってもらったものだ。
しかし、その性能はレジスが持っているユグドラシルで作った剣に比べれば大分劣ってしまう。では何故わざわざこの世界の武器を使っているのかというときちんとした理由はあった。
まず、この世界には自分の他にユグドラシルのプレイヤーがいる可能性はこの15年間過ごしている中で充分にあり得ると確信した。そしてレジスは可能な限りほかのプレイヤーとの接触は避けたいとも思った。確かに他のプレイヤーとも接触する事でさらに他のプレイヤー……例えばかつてのギルメン達の情報などが手に入るかもしれないというメリットもあるだろう。しかし接触したプレイヤーが必ずしも友好的とは限らない。
ユグドラシルではPK行為ができる。つまりPKを好むプレイヤーもいたという事だ。そんなプレイヤーがこの世界にも来ていて接触した瞬間襲いかかってきたりすることも充分にあり得るだろう……だからレジスが考えた作戦はこうだ。
「できるだけ、ユグドラシルプレイヤーと悟られずにこっそりとモモンガ、もしくは他にも来てるかもしれないギルメンを探そう」
そんな探し方では間違いなく大変だろう。確かにそうだが今のレジスはその手が一番安全という結論を出したのだ。そしてその一環として考え付いたのが装備の取り換えだ。
ユグドラシルで使っていた装備をしていてはプレイヤーと悟られてしまうかもしれない。だからこの世界に馴染むようにこの世界の武器などを使う事にしたのだ。なので今レジスは、4つの指輪とネックレス型のマジックアイテムを除いて、他の身につけているものは全てこの世界で手に入れたものだ。もし自分がプレイヤーだと他のプレイヤーにバレて襲われた時のための用意もしてある。このネックレス型のマジックアイテムは登録した装備に一瞬で装備できるというマジックアイテムだ。登録してあるのはこの世界に来た時に着ていた鎧だ。かつての最強装備は全て引退する時にモモンガに渡してしまって手元にはないが、少なくとも今着ている多少装飾などされてるチェニック、スカート、革のブーツという貧弱装備に比べれば大分ましである。
指輪の方も襲われた時のために装備しているものだ。これでいきなり襲われても少しは対処できるであろう。
(まぁぶっちゃけエ・ランテルの英雄レジスとか銀狼のレジスとか言われ始めた時からこの作戦あまり意味をなしてない気がするけどね……)
そうなったのも自業自得ではあるのだが、完全に失敗してしまった。せめてレジスと名乗らずに偽名とか考えとおけば良かったと今さら後悔するが時すでに遅し。
レジスはかつて、ユグドラシルではかなり有名なギルドアインズ・ウール・ゴウンに所属していたのだ。つまりレジスの名を聞いただけでプレイヤーだとバレてしまうのではないかと。
だが予想とは裏腹に今のところプレイヤーらしき存在との接触はない。単にまだ気づかれてないのか、それともわかっていた上で無視をされているのかはわからないがともかく警戒はしといた方がいいだろう。可能ならば、モモンガがレジスの名を聞いて会いに来てくれたりしてくれれば嬉しいのだがモモンガからも接触は今のところなかった。
「皆、そろそろ到着するである」
ダインが前方を指差しながら伝える。その先には街に入るための門が見えていた。特にモンスターなどに襲われることなくスムーズに進めていたこともあってまだお昼前ほどだった。
「あー。さっさと休憩したいぜ」
「まずは組合に行かないといけないぞルクルット」
めんどくせーとボヤを飛ばすルクルットの後ろでレジスは街に入る準備をしていた。このまま街に入ると色々と目立ってしまうので、その対策の準備だ。
「少し持っててくれ」
そう言って近くにいたペテルに背負っていた剣を渡す。そしてそのまま、ポニーテールにしていた髪紐を解き素早く髪をまとめ上げてまた髪紐で結わえた。次にポーチ……実はこれもマジックアイテムだったりするポーチからフード付きの灰色のマントを取り出して着る。そしてフードを深く被る。
「ん。さんきゅ」
ペテルから剣を受け取りそれをまた背中に背負って準備完了だ。見た目怪しいかもしれないがこうでもしないと色々と面倒なのだ。
「なるほど。顔を隠しとかないと軽い騒ぎになっちゃいますもんね」
ニニャが察したのか納得した口調で言う。
「まぁそういうことだ。さて行こうか……」
「うーん……」
ナザリック内にある自分の自室でアインズは骨しかない首を傾げながらこれまた骨しかない頭を回転させて悩んでいた。その手と床にはナザリック内のNPCの情報が書かれている書類が散らばっていた。とある計画をこれから実行するためにアインズは何人もいるNPCの中から1人を選ぶ必要があった。そのために誰にするかを書類片手に小一時間ほど悩んでいた。
「…できれば人間の見た目を持っているNPCが良いんだけど…だとすると戦闘メイドのプレアデスの内の誰かかなぁ」
ここナザリックのNPCは異形の姿をしているものが多い。人間の姿に近いNPCなんて多いとはいえない数しかいなく、戦闘メイドのプレアデスも実際はみんな異形種ではあるが見た目は人間に限りなく近いのでありかもしれない。
「できれば魔法が使える者が好ましいな……だとするとナーベラルかルプスレギナか」
そう言い床に落ちてる書類から2人分を拾い交互に見比べる。
「うーむ……やっぱり攻撃魔法が使えた方がいいよなぁ。俺アンデッドだから回復魔法効かないし。だとするとナーベラル……か」
ナーベラルはドッペルゲンガーであるが、普段は人間の女性の姿をしている……というか魔法職にレベルをつぎ込んでるのでその姿しかなれないのだが。ともかくアインズはナーベラルにしようと決心し、《メッセージ/伝言》の魔法を使う。
『ナーベラル、私だ』
『モモn……アインズ様。どうかなさいましたか?』
『実は……』
アインズはそのまま用件を伝えようとしたが、こういった大事なことは直接話すべきではないか?と思い躊躇う。
『……今すぐ私の書斎まで来てくれ、お前に伝えたいことがある』
やっぱり直接話すべきだろうと判断し、ナーベラルに来るように伝えた。
『……はい。わかりました。すぐに向かいます』
そして伝言を切る。
「……はい。わかりました。すぐに向かいます」
伝言が終了したと同時にナーベラルは深い息を吐いた。我が主人からの突然の連絡にも上手く動揺を隠しつつ対応できたことへの安堵の息である。名前を変えた主人の名前を間違いそうになりはしたが多分大丈夫であろう。
「ナーちゃんナーちゃん。アインズ様からっすか?」
隣にいたルプスレギナが聞いてくる。
「えぇ。すぐに来るようにとのことよ」
「プレアデスの全員じゃなくてナーちゃんだけっすか? くー! 羨ましいっす! 私もアインズ様に呼ばれてみたいっす!」
ルプスレギナの言う通り、アインズはナーベラルだけを呼んだ。その理由は到底ナーベラルにはわかるはずもなかった。
もしかして自分は何か失敗をしてしまったのだろうか。アインズ様はそれにお怒りになって自分を呼びつけたのではないか……そんな考えがナーベラルの頭の中を回り始めた。
(私が何かミスをした……? そんなまさか……ここ数日間でそのような失態を演じたことなんて……)
……いや、1つあったかもしれない。
あれは数日間、ナーベラルがアインズの側に仕えていた時だ。アインズが「私はこれから少し出る」と言い、ナーベラルは近衛と共にアインズについて行こうとした。だが主人から返ってきた答えは「1人で見回る」だ。もちろんナーベラルもそれには反対したが、アインズは「極秘に行いたいことがある。共は許さぬ」そう言ったのだ。主人の命令は絶対。ならばナーベラルはそれに従うしかない。そしてナーベラルは指輪の力で何処かへ転移していく主人を見届けることしかできなかった。
普通ならばアインズの命令に従っただけで、ナーベラルを責めることはできないだろう。自分の姉妹達にもその事を話したのだが、命令なら仕方ないということで許してもらえた。
だがそれが間違いだったのかもしれない。もしかしたらあの時アインズはナーベラルを試していたのではないだろうか。
主人の命令を取るか、主人の命令を無視してでも主人の身を考え主人を探し守る意思があるのかを……そしてナーベラルは命令の方を取った。アインズはその事に不満を抱き、自分に失望してしまったのではないか。
(そ、そんな……)
アインズに死ねと命じられればそれに従うだろう。だが、失望されたまま死ねと言われるのとは全く違う。
なんとか名誉挽回のチャンスを貰えないかと考え始めたがすぐにやめた。
(いや……こんな不甲斐ない私なんかにチャンスなんて貰えるはずがない。ここは潔く死を選ぼう……)
確か自分の創造主……弐式炎雷様がいつの日か言っていた、セップクという死に方があったはずだ。せめてその死に方で死ねるようアインズ様に懇願をしようと決意したナーベラル。だがその死に方をするには、誰かにカイシャクというものをしてもらわなければならないらしい。誰かいないだろうか……
「どうしたっすか? 顔色が青くなったと思いきや、全てを諦めたような顔をして?」
いた。隣にいた。
「……ルプー」
「? なんすか」
「カイシャクをお願いするわ」
「……? カイシャク? 美味しいんすかそれ?」
「今まで楽しかったわ。みんなにも伝えておいて」
「え?」
「それじゃあ先にあっちで待ってるわ……」
フラフラと歩き出すナーベラルをルプスレギナは疑問の表情を浮かべながら見送った。
「……なんのこっちゃっす」
「忙しいところすまないな。ナーベラル」
「いえ。アインズ様のためならなんの苦労もありません」
「そうか。それでお前に話したいことが……」
アインズが続きを言う前にナーベラルがそれを遮った。
「はい。カイシャクはルプスレギナに頼みました。どうかセップクで自害をさせて下さいアインズ様」
「……は? 介錯? 切腹?」
「もちろん私に死に方を選ぶなんて権利はないのはわかっています……しかし! どうかセップクで死なせて下さい!」
「いや待て……一体なんのことを」
「この場でやれとおっしゃるのなら即座に行います!」
持っていた短剣で自分の腹を切ろうとするナーベラルをアインズは慌てて止める。
「い、いやいや待て待て! 何をしているんだお前は!」
「お離しください! 私はダメな子なんです!」
「お、落ち着け……!」
この後、ナーベラルが勘違いだと気づいて落ち着くまで30分の時間を要した。
ナーベラルの頭ナデナデしたあげたい。
追記
10月/11
誤字修正しました