「尾白くん、伏せてくれっ!」
そう叫ぶと共に左足を大きく一歩踏み込む。
尾白くんの背後にナイフを突き立てようとしていた犬頭の
背面を晒したままの尾白くんも、屈むタイミングをうまく合わせてくれた。
彼は尻尾でのなぎ払いで
「ナイス飯田! 常闇っ、こっちは俺たちに任せてくれ。あっちの耳郎さんが1人じゃキツい。応援に行ってくれ!」
「わかった。あのテレポート使いを自由にさせるわけには行くまい。尾白、飯田頼むぞっ!」
緑谷くんの抜けた穴を埋めるべく、常闇くんが応援へと向かった。
「俺たちも早くこちらを片付けて、緑谷くんたちの応援に行かなければな」
「…………だね。緑谷がどうにかするって言ってたけど、もうボロボロじゃないか」
背中合わせで尾白くんと敵を打ち払いながら、一番苛烈な戦場に視線を向ける。
阿修羅の如く。個性を用いるたびに傷つきながらも、なお溢れんばかりの戦意を放つ緑谷くん。その様を形容する言葉はそれ以外に浮かんで来なかった。
そして満身創痍な彼は残った左腕を握り締め、咆哮と共に一撃を振りかざす。しかしその拳が向けられたのは脳無ではない。
「SMASH!!」
俺は、いや誰もがドームの天井を見た。無機質な天井に映える青。
「アイツ馬鹿じゃネェノカ? これで両腕トモ使えネェ」
彼をそうあざ笑う
「そうか。天井さえなければ、麗日さんの個性で!」
尾白くんは彼の意図に気づいたようだ。当然同じ答えに俺も行き着く。
「逃げられないのなら、追い払ってしまえってことか」
天井さえなければ麗日さんの個性で遠くに吹き飛ばせる。普通の攻撃が効かない相手だとしても、戻って来れないならば当面の危機は去る。
おそらく発想は模擬戦から得たものだろう。あのときの彼は核までの道として、個性で天井を破り道をこじ開けていた。
「麗日さん。僕の背中にしっかり掴まってて。個性で一気に距離を詰めるから、アイツを浮かせつつ投げ飛ばして。チャンスは一回だけだ」
「う、うん、わかったデクくん。実はさっき瀬呂くんのテープ。ちょっともらっててん」
麗日さんが緑谷くんの腰元にテープを巻きつけて固定させる。峰田くんが何かよくわからない単語を叫びながらも、呆然としている上鳴くんを戦闘のない空白地帯へと誘導していた。
「飯田、左から倒れたフリしてるのがっ!」
「了解!」
尾白くんの指摘を受け振り向いた先、拳銃を構えた男の頭の後頭部に踵を振り下ろす。
顎も地面に強打したはずだ。しばらくは起き上がれまい。こちらも常闇くんが抜けた分、一人あたりの持ち分がまた増えてしまっていた。
先生が引き付けている死柄木を除けば手練れの敵はあまりおらず、チンピラ崩れが多いのでまだ致命的ではないが、俺たち二人も全く油断はできない状況だ。援軍はまだだろうか。
「脳無、何をやっているんだ! ソイツらは無視して黒霧を解放しろっ! このままだと本当にゲームオーバーだ!!」
手を身に纏った男、死柄木が叫ぶ。本来ならば八百万くんたちが脱出に成功した時点で彼らは撤退するしかなかったのだろう。しかし爆豪くんが黒霧と呼ばれた転移系個性の持ち主を抑えているため、現状のままでは脱出も敵わない。故に敵のリーダーの指示は的確だった。
それは、あまりにも一瞬のことだった。動きが緩慢だった脳無が本来のスペックを解放し、爆豪くんへと飛びかかる。常闇くんと耳郎くんの警戒網を抜け、距離を詰めたそれは爆豪くんを殴り飛ばした。
「ごはっぅ?!!」
「かっちゃん!!?」
殴られたときに小さな爆発が起こっていた。彼は爆発で受け身を取ったのだろうか。無事なら良いのだが切島くんたちを圧倒した相手だ。小さな怪我では済むまい。
「受け止めろっ、
常闇くんがとっさに
畜生、こんな状況だというのに横目で見ることしかできないなんて。だが無力感を感じている暇はない。
「くっ、しつこいぞ!」
「今だっ!」
正面から俺へと襲い来る
俺たち二人の連携は悪くない。大きな怪我を負うこともなく善戦できている。
しかし数に任せた途絶える気配のない
「このままじゃ仮に緑谷くんが脳無を排除してもジリ貧だ。援軍が来るまでに持たせるためには何か手を打たなければ」
「でも、どうやって?! 俺たちもみんなも手一杯だ。でもせめてどっちかが緑谷のところに行かないと……くそっキリがない」
そうやって、それが問題なのだ。俺たちは最前線の敵を引き付けているように、相手からすれば機動力が高く遊撃に向いた俺たちを足止めしているのだ。ままならない現実に俺たち二人は歯噛みするしかなかった。
「死柄木、申し訳ありません。私がもっとしっかりしていればこんな事には……」
爆豪くんを脳無に攻撃させたことで、自由になった黒霧が死柄木の傍らに現れる。
「この醜態……言いたいことは山ほどあるが、厄介な奴らが来る前に撤収だ」
そうだ。今回だけはそうしてくれ。みんなを傷つけた敵連合は許せないが、彼らを捉えることよりも重傷のみんなを一刻も早くリカバリーガールのもとへ連れて行かなければならないのだ。内心悔しくはあるが、早く退いてくれと心底願わざるを得なかった。
「だけどここまで虚仮にされたんだ。オールマイトへの趣向返しに、一人でも殺して平和の象徴の矜持をへし折ってから帰ろうか。そうだな────あの白いのでも良いけれど、俺の脳無を倒すと息巻いていたアイツでいい」
死柄木の殺意が緑谷くんに向けられる。
「殺れ。脳無」
その一言で────地面がクレーターのように弾け飛ぶ。ただ拳で殴っただけでなんて威力だ。本気の緑谷くん以上の威力かもしれない。あれを喰らえばさっきの爆豪くんどころではない。跡形もなく消し飛ばされてしまう。
麗日くんを担いだ緑谷くんは後方に大きく跳躍してなんとか避けたようだ。
だが右足が折れている。もう彼らは避けられない。
間に合うのは俺だけだ。俺しかいない。
一人置いて行かざるを得ない尾白くんのこと。
黒霧が参戦した状態の死柄木たち敵連合と戦っている相澤先生のこと。
気がかりはあるがそれよりも彼らだ。
尾白くんと共闘するために、敢えて落としていたギアとトルクを再び最大まで上昇させる。
温存など、その先のことなど、余計なことを考えている余裕はない。
ここで使わずしていつ使う。動かなかったら俺は一生後悔する。
「レシプロバースト!!」
速く、速く。
兄さんのように速く!
頬を水平になぞる汗がやけに冷たい。
さんざん
自らを危機へ晒すことへの恐怖か、友を喪うことへの恐怖か。もしくはその両方か。
弾け飛びそうな胸の鼓動が、つんざくような風切り音が、俺の鼓膜を破ってしまいそうだ。
だがそんなものは気にするな。目の前だけを見ろ。
緑谷くんが着地するその無防備な瞬間を目掛けて、よだれを撒き散らしながら脳無が左拳を振りかぶる。
速く、速く、速く。
手を伸ばす。
速く、速く、速く、速く。
誰よりも速く!!!
「間に合えっ!!」
届いた。
「また、助けられちゃったね」
腕の中の緑谷くんが呟く。入試のときのことを彼は言っているのだろう。あのときは緑谷くん一人だったが、今回は麗日くんのおまけ付きで重みが二倍だ。
「緑谷くんの分、重さ消しといた。私の分も消したいけれど反動がキツいからごめんね」
麗日くんが俺の考えを察してくれたのだろうか。少し楽になった。非常に助かる。
「二人共聞いてくれ。俺は急加速の反動でもうすぐエンジンが停まってしまう。だがあの脳無だけはなんとかするぞ。あれさえ飛ばしてしまえば流石に敵も引き下がるはずだ」
「うん、かっちゃんの仇を取らないと」
「麗日くんが触れた瞬間だ。緑谷くん残った足で俺に合わせてくれっ!」
「ラジャ」
「わかった」
脳無から一度距離をとる。そして一気に距離を詰めようと試みるが──
「殺せっ、脳無!!!」
その声に反応した脳無にこちらが距離を詰められた。
想像以上に速いどころか全開の俺以上に速い。
「なっ?!」
なんとかタックルを左に避けることはできたが、これでは麗日くんに触れてもらうどころか防戦一方にならざるを得ない。何しろ抱えている二人分だけいつもより被弾面積が多いのだ。相手が足を止めてくれない限り、麗日くんの個性を発動させた直後に蹴り飛ばすのは難易度が高過ぎる。
「このままではエンストまでの残り時間がっ……!」
再び追撃が来た。脳無は両腕を振り被っている。今度は左右どちらにも逃さないつもりか。
誰か、一瞬でも足を止めてくれたならっ。
「どこへ逃げればっ」
脳無の両拳が眼前に迫った瞬間だった。
天使が願いを聞き入れてくれたのか、助けが空から舞い降りた。
突如として降り注ぐのは羽音を纏う灰色の弾幕。
「鳥?! 何だよこりゃ。くそっ、うざい!」
脳無だけでなくあらゆる敵の視界を塞ぐようにして飛翔する鳩の群れ。
それが可能な個性の持ち主は────
「口田くんか!」
姿を探すことは叶わないが、芦戸くんと彼がこの戦場に戻ってきてくれたのか。
みんなで策を練り、時間を稼ぎ、体を張って繋いできて、ようやく巡ってきた起死回生への一手。
この貴重な一瞬は決して無駄にはしない。
ありったけをエンジンへ注ぎ込み、足を止めた脳無の正面へと回り込む。
「天哉、屈んで!!」
声を受け、とっさにスウェーの体制を取る。
そのまま地面に倒れ込みそうになるぐらいにだ。
脳無の拳が空を切り────麗日くんの指先が脳無に触れた。
今だ! 決めろっ!!
「うぉおおおおおおおおっ!」
「SMASH!!」
オーバーヘッドの要領で、そのまま下腹部へと蹴りを入れる。
緑谷くんのラスト一撃もタイミングが合った。
筋肉に足首がめり込む。まるでジェル状の緩衝材を蹴ったかのように衝撃が感じられない。この渾身の一撃が効いていないのか────ならば脚で押し出せ!
限界のその先へ。
これ以上ギアは存在しないのは俺自身が誰よりも理解している。
だがここからさらにエンジンを更にふかす。このままこの脚が焼け付いてもいい。
脚が触れているこの一瞬が全てだ。
燃やせ。燃やせ。排気量を増やせ。
それで少しでも多く、強く、ただ空へ打ち上げろ!
「いけぇええええええええっ」
声が重なった。緑谷くんか、麗日くんか、それとも他の誰かのものか。
そして脳無の体が宙を浮き、ロケットのような勢いでドームの外へと飛んでいく。
「やっ――痛っ?!」
そして反動で思いっきり背中を地面に打ち付けた。今日一番に痛烈な一撃だ。
「……たぁ!」
「ってて」
抱えていた二人も俺と同じく無事ではなさそうだった。
アーマー越しでも腰と肩甲骨が割れそうだと思えるほどに凄まじい衝撃だったのだ。緑谷くんのコスチュームだとかなりのダメージを受けたかもしれない。
大丈夫かと声をかけようとしたときだった。
「僕たち、やったんだよね」
ドームの穴から空へと飛ばされていく脳無を見上げながら、四肢全てに重傷を負った緑谷くんが言った。
「あぁ、やりきった。これでも退かないほど敵連合も考えなしじゃないだろう」
レシプロの反動でエンジンが停まってしまった。通常の歩行や走行はできても個性は使えない。後は待つだけだ────そう思っていたときのことだ。
「ふっざ、けるなぁああああっ!!」
天井しか見えていなかった俺たちの眼前に現れたのは黒い霧のワープゲート。
そして、そこから生えてくる二つの手。それが喉元を掠めるところまで既に伸びてきていた。
あれは死柄木のっ、あれに触れたものは粉々になって────────死ぬ。
確かに触れたはずだった。現に今も五指全てが俺の喉に触れている。
だが何も変わらない。ただ、喉を潰されそうなくらいに圧迫されているだけだ。
「全く、黒霧の全方位射撃を食らっておきながら、まだ生徒の心配をするなんてなぁ。本当にかっこいいぜ。イレイザーヘッド。黒霧は死角に配置するようにしていたってのに、俺の方が消されちゃ世話ないな」
忌々しそうに吐き捨てる死柄木。俺の首を締め上げていた手がようやく離れた。
肺に空気が急に戻ってくる。思わずむせこんでしまった。
「あーあ。黒霧、脳無の回収は?」
「座標がわからないことにはどうしようも……。それよりも撤退を死柄木弔。いつ教師たちが来てもおかしくありません」
首を掻きむしりながら、瞳をより一層血走らせる死柄木と、それを諌め撤退を促す黒霧。
「そうするか。オールマイトに宣戦布告すらできなかったのは癪だったけれど、そもそも情報自体が違ったんだ。今回はコンティニューし──────このタイミングでか」
上体を起こし、死柄木の憎悪の矛先に目を向ける。
「みんな遅くなってすまない。だが、もう大丈夫。私が来た!」
その声、その姿、間違えるはずもない。
「オールマイト!!」
誰もがそう叫んだ。歓喜した。ようやくこれで助かるのだと。
その場に居るだけで安心できる存在────
「これが本当のヒーローか」
場の空気が一変した。俺たちが抱いていた恐怖は吹き飛び、それが今度は敵の側へと伝播する。
傷を負ったみんなを見たオールマイトの怒りが、視線一つで
「虫の予感で嫌な予感がしてたんだがね……校長室から青山少年の光が見えた。校長が信号を受け取り、来る途中で轟少年たちとすれ違って、ここで何が起こっているのかあらましを聞いた。だから敢えてもう一度言おう」
スーツ姿のオールマイトが上着を脱ぎ捨て、ネクタイを引き千切り、こう断言する。
「もう大丈夫。私が来た!」
緑谷くんの言った通りだ。みんなに笑顔が戻った。もう大丈夫だと、俺自身心からそう思える。
「テメェらビビってんなよ! 元々オールマイトを殺しに来たんだぞ!」
「ガキ共も満身創痍、殺るなら今しかねぇぜ!」
「くたばれぇえええ!」
ほとんどが足を震わせ、戦意を失っている中、無謀にもオールマイトに向かう
「オールマイトに挑戦すらできないと来たか。話が違うぞ先生。だがここで捕まる訳にはいかない。馬鹿どもが時間稼いでいるうちだ。行くぞ黒霧。コンティニューだ」
「えぇ、どうせ奴らは末端。私たちは帰りましょう」
「覚えていろよ。次こそはオールマイト、お前に挑み地獄まで引きずり下ろしてやる。そこの生意気な子供たちと一緒にな」
黒い霧上のワープゲートに吸い込まれていく死柄木。捕り逃してしまったな。
「あ、ボスっぽい奴ら逃げちまったぞ。でも後は雑魚ばっかだし安心だな」
「うぇ~い」
峰田くんが安堵のため息を突く。疲れ果てたのかその場に腰掛けようとしたときだった。
「そこっ、休んでる暇があったら重傷のみんなを私のところへ! 私も右足が折れて自分じゃ動けない。爆豪と切島くん最優先でお願い、死にかけだ超ヤバイ! あともうちょっとの間、リカバリーガールが来るまで繋ぎ止めるから!」
「死にかけって……お、おう、すぐ行く! 障子、オールマイト来たし、そっちはもう良いだろ。オイラたちを手伝え!」
「あぁ!」
猪地くんの叱責が飛び、血相を変えた峰田くんが耳郎くんと共に切島くんを、障子くんが砂藤くんの元へ駆け寄る。常闇くんは
「緑谷くんはこのまま俺が」
エンジンは使えないが既に無重力状態の彼一人を運ぶのには何の支障もない。彼女の近くに四肢を痛めた緑谷くんを横たわらせる。先生たちの方には蛙吹くんたちが向かった。
オールマイトのほうは完全に無双状態だ。ワープのことを知らなかったのか死柄木たちを取り逃しはしたが、他の敵全てを今は相手取っている。
「ちょっと遠いけど口田くん、聞こえてる?! そのへんの木のやつでいいから、ありったけの葉っぱを鳥に運んでもらえる? とりあえず植物を補給しないとみんなに分ける分の生命力が足りないんだ! 他のみんなも周りに敵がいなくなったらお願い!」
残るメンバーに声をかけながら、猪地くんは砂藤くんに渡していた自身の盾の裏側に収納していた治療セットと腰元のポーチから薬品類を取り出し、応急手当の準備を始める。
「まずは止血だ。消毒してから瀬呂くん、テープでここを圧迫して! 私は手を爆豪から離せない」
「おうよ! 飯田、コスチューム脱がせっから両脇支えてくれ」
「わかった」
ぬるりと生暖かい感触が手袋の破れた箇所から伝わってくる。爆豪くんの出血は決して少なくはない。呼吸音もおかしいことは俺でさえわかる。あまりにも酷い怪我だ。
彼の腹部を見た。肋骨が何本も折れている。外へ突き出ているものもあるがこれだけの状態だと、肺に刺さっているものも少なからずあるだろう。誰よりも死にかけだという猪地くんの言葉を疑う余地はなかった。
「茶子ちゃん、口元に酸素スプレーを当て続けて! 私は今から切島くんの方にも個性使うから両手がつかえなくなる」
「わかった!」
脱がせるのは終わった。瀬呂くんと二人でコスチュームの切れ端や砂など取り除き、清潔な水と消毒液で傷口を洗浄する。
「うしっ、消毒はこんなもんか?」
「うん、それでいいよ」
「なら早いとこ巻いて血を止めるぞ」
「やってくれ」
俺が爆豪くんの体を支えている間に瀬呂くんがテープで出血している腹部を指示通りに圧迫する。圧迫してはいけない部分も指示されながら慎重に、しかしできるだけ迅速にとテープを巻きつける。
「よし、大きい箇所の出血が防げたなら上等。とりあえず脳と臓器の状態を保つのに私は専念するね。二人共、腕とか他の部位も同じようにお願い」
口田くんの個性によって多くの鳩たちが施設内の木々の葉っぱを一枚ずつ咥えては猪地くんの側へと落としていった。麗日くんがそれを片っ端から両手が塞がっている猪地くんの口元に運んでいく。
食用ではない葉っぱをどうするのかと見ていると、どうやらいつものように食事としてではなく唇で軽く一度喰むだけで補給になるらしい。
「ウチらも隣で切島たちのことやってみるから。めぐり、どうすればいいか教えて!」
「めぐりん、ただいまっ。遅くなってゴメンね! 私もやるよっ」
耳郎さんと芦戸さん協力を申し出て、新たに即席の医療チームが結成されていく。
「助かる。切島くんの方は────」
新たに指示出しを始めたときだった。数発の銃声の後に聞き慣れた声が高らかに響いた。
「みなさん、大変お待たせ致しました。1-Aクラス委員長八百万百!! ただいま戻りましたわ!」
「僕も来たよ☆」
八百万くんたちが教師陣の援軍を連れてきた。もう既にあらかたはオールマイトが制圧してしまっているが、重傷者を多数抱えている現状、いくらでも戦場に慣れた人手が欲しいところだ。
「大分やられてるな。猪地が治療してるのか? 八百万、大至急でリカバリーガールを乗せて向かうぞ!」
「……楽観できる状況ではなさそうですわね。轟さん、青山さん。私たちは戦闘よりもみなさんの救助に尽力しましょう」
リカバリーガールが青山くんの膝に乗り、八百万くんたちのバイクがこちらに向けて発進する。
「良かった。これでみんな助かるぞ」
「ウチ、こいつらが本当に死んじゃうかと思ったから、本当に良かった」
「うん、良かったよ。めぐりん、助けてくれてありがとう」
「いや、三奈ちゃんたち、みんなのおかげだよ。手当てのことだけじゃない、誰か一人が欠けていてもこの状況を切り抜けられなかったと思う。私も実際脳無の実力見誤って返り討ちにあっちゃったしさ、まだまだだよ」
みんなが涙し、抱擁し、励まし合い、生き残った喜びを分かち合う。俺も自然と声にならない声と涙が溢れていた。悲しい涙じゃない、これは嬉し涙というやつだ。
「さて、君たち。この雄英に乗り込んだこと、生徒たちに手を出したこと。きっちり落とし前はつけさせてもらうよ。さぁ、制圧開始だ!」
そして校長の一声によって教師陣による蹂躙劇が始まった。主犯格を失ったチンピラ崩れの
こうして
その後、警察による事情聴取と敵の引き渡しが行われ、同時に猪地くんとリカバリーガールによる重傷者の共同治療が行われた。
特に酷かった爆豪くん、切島くん、砂藤くんは初期対応が遅ければ死んでいた可能性も高かったらしく、二人が揃っていなければ、俺たちが一丸となって手当をしなければ助からなかっただろうとのことだった。山場は超えて問題はないらしいが三人共未だに目を覚まさない。
次点で緑谷くん、相澤先生、13号先生も大怪我だったが生命に別状はないとのことだ。彼らは保健室に居る。俺や尾白くんなど前線に出たメンバーも少なくない怪我を負ったが、とりあえずは通常治療を受けている。
そして猪地くん、爆豪くん、切島くん、砂藤くん、緑谷くんを除いたメンバーがあとで事情聴取があるということで、病院組の回復具合の連絡を先生たちに聞きながら空き教室で待機していた。
「嘘だろ、おい……」
スマホを眺めていた上鳴くんが顔を歪めながら言う。
「上鳴くん、携帯やスマホの類は、情報管理のためしばらくは使用禁止と言われていたはずだぞ。しまいたまえ!」
「いや、暇だったし……そりゃ使った俺が悪かったけどさ。って、それどころじゃねぇんだって! 思った以上にやばいことになってんぞこれ!」
また入試のときのように雄英叩きが起こっているのだろうか。それとも
「どうしたん…………えっ?」
近くにいた麗日くんもそれを覗き込み、声を詰まらせた。
禁止ではあるが二人の反応が気になって俺も見せてもらうことにしよう。皆もぞろぞろと上鳴くんのもとに集まる。
「みんな、覚悟して見てくれよ」
そう言った彼は画面をみんなのほうに向けた。
動画ニュースによるとどうやら近くの商店街で
しかも右上のテロップによればかなりの数の死傷者、少なく見積もっても10名以上の死者が出ているらしい。人数は現在確認中とのこと。
そしてその
俺たちがここに拘束されている本当の理由も。
脳味噌を剥き出しにした筋骨隆々とした巨漢の
そのあまりにも特徴的すぎる外見は、つい先程まで俺たち戦っていた脳無に他ならなかった。
「これは俺の……、僕たちのせいなのか?」
そして自然と発してしまった俺の不用意な言葉がみんなの感情の堰を決壊させてしまう。
「ぐすっ、どうしてっ、どうしてこんなことにっ!?」
「私が、もっと早く判断できていれば。オールマイトを呼ぶ術を考えていれば……」
「俺たちの代わりに他の誰かが死ぬって、ちっとも喜べねぇよ。それはあんまり、あんまりだろうがっ。くそったれっ!!」
普段は使われていない閑静な空き教室に、みんなの涙が、嘆きが、怒りが溢れ出す。
騒ぎを聞きつけた警察と先生が何事かと駆けつけてきた。
駄目だ。僕も、涙で、前が…………見えない。