英雄の境界   作:みゅう

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今回は猪地さん視点です。



第16話 チーム決め

「9位かぁ」

 

 電光掲示板を見つめ、何とも言えないやるせなさと共にため息を一つ。思っていたよりも全然成績が振るわなかった。緑谷くんによる連鎖爆発から、それに乗じたB組の骨抜くんと塩崎さんの爆破地獄。緩んだ地面のせいで足元を滑らせて思いっきり地雷踏んじゃったし、周りの地雷をどんどん茨で起動させられるし、あれは酷かった。

 

 茶子ちゃんを置いてきぼりにしてこの結果だもんなぁ。下ろす前にゴメンとは言っておいたけど、イメージ悪くする決断を下してまで得たのがこの結果とは。しかも当の茶子ちゃんが1位になってるし、罰が当たっちゃったかな。我ながら頭が痛い。

 

「御子様ー頑張って下さい!」

「流石御子さまぁああ! かっこよかったです」

 

 もっと頭が痛くなりそうな単語が聞こえた。声のする方を見ると、明らかに浮いた空気の老若男女入り混じった集団が30名ほど。指輪やシンボルマークは見えずとも聖輪会(メビウス)の人たちに間違いはなかった。私の名前の書いてある横断幕とか、団扇とか思いっきり掲げちゃってるんだもん。なんてこった。3年生ならともかく、ファンがまだ居ない1年生ステージで特定の個人名を出されているのはどう見ても私だけだ。

 

 普段表に出ると因縁をふっかけられたりするからあんまりこういう場に出てこないはずなんだけど、この感じだと羽目外してるのが来ちゃってるのかな。協会の審査はどうなっているんだろう。引越し費用が奨学金じゃ足りなくて入学前に泣く泣くお金をもらいに行ったっきりだしなぁ。月例会の報告書を受け取っているくらいで最近の内情はあまりわかっていない。

 

 でも揉め事のリスクが高い中枢に近い人や狂信者たちより、比較的ライトな層に対して私へ近づく許可を協会が許可を下ろしたってところか。雄英の入場審査も今回厳し目だったしね。あ、入試のときのあのご夫婦だ。赤ちゃんを抱えて手を振ってくれている。

 

「ありがとう」

 

 流石に無視するわけにはいかないかと手を軽く振り返す。なんだかなぁ。元気で居てくれたらそれだけで良かったのに。何もウチに入信しなくても。でも第2種目が終わったらレクリエーションと昼休憩だし、天哉を誘ってあのご夫婦だけは挨拶に行っておこうかな。よし、この羞恥プレイ染みた状況はちょっと忘れておこう。

 

 さて次の種目が始まるより先にやらなければならないことがある。まずは――――

 

「瀬呂くん、百ちゃん!」

「あいよ」

「もう、できてますわ」

 

 渡されたのは小さな割り箸の半分サイズのプラスチック棒と、それに貼られた短めのテープ。対応はやっ、というかいつから2人はそこに居たの?

 

「ねぇ、何もまだ私言ってないけど準備良すぎじゃない?」

「なんかもう慣れたしな。緑谷があれ使ったの見た時点でまたかってな」

「ですわね」

 

 呆れ顔で2人に言われる。でも呆れられたのは私じゃないからね。

 

「私もだよ」

「俺たち随分応急処置の手際が良くなった気がするよな」

「緑谷さんのおかげと言うか、せいと言いますか……」

「サンキューね。2人とも。次の競技もそのままある感じっぽいし、サッサと治療してくる!」

「おう、行って来い」

 

 2人に礼を言い、大急ぎで緑谷くんのところへ向かう。1位を取ったこともあり、茶子ちゃんと緑谷くんを中心として人だかりができ始めていた。

 

「よっ、2人共おめでとう!」

「猪地さん!」

「めぐりちゃん!」

 

 手を繋いだままの2人が満面の笑みを見せる。もう早くくっついちゃえば良いんだ。

 

「次の説明始まりそうだからちゃっと治療するね。ほら、指出して」

「こんなときまでゴメンね。猪地さん、いつもありがとう」

 

 歪んだ人差し指を無理やり真っ直ぐに伸ばして、添え木とテープでサッと固定してしまう。そして気持ち程度に指周りに体力を付与して調子を整えておく。後でリカバリーガールの治療を見越した上での最低限の処置だ。

 

「いえいえ。私も治療の実践経験積ませてもらってるしね。よし、これでオッケー。そんで茶子ちゃんさっきはゴメン!」

「うん、おかげで1番獲れたしね。勝負ごとだもん、いいよ」

 

 感応全開(フルレンジオープン)っと。うん、本当に怒ってはないみたい。心拍、発汗、体温変化から察するに嘘の兆候はない。やっぱり1位と緑谷くん効果は絶大だ。中途半端だと私もやりにくいし、この体育祭をきっかけに切実に早くくっついて欲しい。 

 

 この後ミッドナイト先生からの発表があり予選通過は42名、A組の皆は全員無事に通過していた。でも青山くんはちょっとお腹を下しかけていたので説明中に調子を整えておいてあげる。

 

『さーていよいよ次の第二種目の発表よ! 何かしら、もう知ってるけどね』

 

 第一関門で私と組んでいたため調子が良かったせいか、第二関門のところで個性を使いすぎたらしく、顔面蒼白どころか血の気が全くない表情だったのは流石に私も焦った。緑谷くんより先にこっちを治してあげるべきだったなと反省していているところだ。でも彼はそんな状態でも31位か、随分と意地を見せたのは意外だった。

 

『コレ、騎馬戦よ! 参加者は2人から4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってね。基本は普通の騎馬戦と同じだけど、先程の結果に従い各自に(ポイント)が振り分けられるわ』

「成る程。つまり組み合わせによって騎馬の(ポイント)が異なってくるのですね」

『私が喋ってるでしょう。お黙りっ!』

 

 最前列に居た天哉が怒られた。ということはもう洗脳は解けてるのか。緑谷くんと青山くんのフォローであっちに行く暇なかったから心配だったけど、心操くんと喧嘩してなかったかな。いや、天哉のことだ警戒が甘かったと勝手に落ち込んでいたのかもしれない。ちょっと後で声かけなきゃ。

 

『ええ、そうよ。そして与えられるPは下から5ずつ。42位が5(ポイント)から上がっていくわ』

 

 成る程。私が170(ポイント)がで1番上の茶子ちゃんが210(ポイント)。1人あたり平均107.5(ポイント)あるから騎馬を組む際の――――

 

『そして1位に与えられる(ポイント)は1000万!!』

 

 え。1000(ポイント)じゃないよね。周りが明らかに1000万と言っている。何この極端なの。いや、1000でも極端なのにさ、期待値とかもうどうでも良くないこれ?

 

『上を行く者には更なる受難を。雄英に在籍する以上何度でも言ってあげるわよ。これがPLUS ULTRA(プルス ウルトラ)! 予選1位通過の麗日お茶子さん、持ち(ポイント)が1000万!』

 

 ご愁傷さま。みんなの視線が茶子ちゃんに集中する。そりゃあ誰だってガン見しちゃうよ。でもそこを狙うより確実に通過を狙うとしたらどうするか。今の説明タイムの間にしっかり考えるか。ゴール時の通過した人の顔を全員覚えておいて正解だった。さっき掲示板に表示された全員の順位と一致させ、自分の個性との相性を考える。

 

 やっぱり最有力は茶子ちゃんだけどPの関係上できれば避けたい。次点で青山くんだけど、後ろ向きで騎馬を組むわけにも行かず、精々真下に放つぐらいなので上空への回避にしか使えなさそうで難しい。爆豪と峰田も……アイツらはない。絶対ヤダ。

 

 天哉は強力な機動力だし悪くない選択肢だけど、私と組むメリットそのものが薄い。ちょっとタフにしてあげられるけれど、他のチームに取られるよりマシな場合の選択肢ってところか。

 

 この競技で特に対策が必要な相手は轟くん、爆豪、上鳴くん、常闇くん、B組の塩崎さん、そしてできれば天哉と瀬呂くん。百ちゃんがいると結構対策できるけれど、この中から勧誘した方が脅威を取り除けるかもしれない。轟くんはプライド高そうだから自分でメンバー決めそうだし厳しいかも。体温調整はちょっとしてあげられるけれど、私と組むメリットが薄い。

 

 上鳴くんは声かけたら来てくれるだろうけれど、百ちゃんとセットじゃないと扱えないし、そうなるともう一人の枠がキツい。いっその事この2人に天哉を加えて無難なチームに仕上げるべきだろうか。

 

 制限時間は15分、鉢巻を取られても騎馬が崩れてもアウトにはならない、上位4チームが次に進めるといった説明を受けた後、チーム決めの交渉タイムがスタートした。結局どうしようか。上位組の動向を観察してみてからでもいいかもしれない。

 

「なんて、のんびりしている暇なかったよね。轟くんに百ちゃんと上鳴くんセットで取られちゃった」

「轟のやつなんの迷いもなく選びに行ったな。猪地、俺と組もうぜ。お前と組めばあんまり眠くならずに済むから筋肉を最大限に活かせる!」

「ここは僕でしょ☆」

「うーん、悪くない。悪くない選択肢なんだけど決め手が今一つ…………ちょっと考えさせて」 

 

 とりあえず天哉に声をかけに行こうとしたところ、B組の人や砂藤くんと青山くんたち数人から囲まれていて、身動きがとれずにいた。本当に相性は2人共良いんだけど、チームの方向性を定めないとなんとも言えない。

 

「俺じゃ駄目かな?」

「ゴメン、尾白くん。騎馬戦じゃ尻尾使いにくそうだし、個性の相性が良いわけでもないし他を当たってくれる?」

「うん、わかってた。俺の個性、普通だし」

 

 トボトボと去って行く尾白くん。ゴメンね全く悪気はないんだよ。でもお互いメリットがないと思うんだ。どうしようかなと考えていた矢先、聞き慣れた声が私を呼んだ。

 

「めぐりちゃん!」

「茶子ちゃん」

 

 ちょっとこっちに来てと誘われて、茶子ちゃんに同行してみる。まだ5分も経過していないし、他の組もまだ決め兼ねている今なら話を聞くのはありだろう。なにせガン逃げさえできたら通過間違いないわけだし。

 

「やっぱり超避けられてて、チーム組めないって感じ?」

「うん、そうなんだ。でもデクくんが良い作戦があるって!」

 

 茶子ちゃんが緑谷くんと組むのは確定なんだね。茶子ちゃん単独でなら組みやすいんだけど、緑谷くんは実質個性を封印状態だし、組むメリットが1番ない。普段の交友関係を別にしてしまうとどうしてもそこが引っかかった。連れてこられた先には天哉と緑谷くんがいた。ヒソヒソ声で緑谷くんが作戦を話す。

 

「飯田くんを先頭に僕と麗日さんで馬を作る。麗日さんの個性を全員に使って靴とか以外を浮かせておいて、猪地さんがフォロー。これで機動性はどこにも負けない。猪地さんを騎手にすれば対人相手の読み合いとかフィジカルではそう負けないはず。逃げ切り策はこのくらいしか思いつかないんだけどどうかな?」

「悪くはないね。連携も私たちならバッチリだし。最悪鉢巻獲られてもこの機動力なら速攻できるし挽回も可能だと思うよ。こうなったら1番注目される所で頑張るのもありかな。私は乗ってもいいよ。天哉はどう?」

 

 最悪と言ってみたけど、実際私の中では半分以上獲られる前提でも構わないと思っている。ほぼ無重力状態でのレシプロなら最後の10秒くらいに一発逆転狙いも十分ありだから。この4人じゃないと絶対に駄目という理由はないけれど、偶には算段抜きで普段からの仲を優先しても良いよね。さっきは罰が当たったし。

 

「流石だ緑谷くん。良い作戦だと思う。だがすまない、今回ばかりは俺は断る」 

「え、天哉?」

「緑谷くん、俺は入試の時から君の背中を追いかけてばかりいた。俺が動こうと躊躇っているときに、君はいつも一歩先を踏み出していた。素晴らしい友人だとは思うが、君についていくだけではなく、俺は俺の意思で一歩を踏み出したい。それから猪地くん」

「なんだい?」

 

 一歩先か。十分過ぎるほど天哉は凄いと思うけれど、真面目な彼らしい理由だ。その真っ直ぐな瞳からは緑谷くんと敵として戦ってみたいという意思がひしひしと伝わってくる。天哉はちょっと下にズレた眼鏡を直しながら言葉を続けた。 

 

「俺は君に強くなった姿を見てもらいたい。後ろからでもなく、隣でもなく、真正面からだ」

 

 真正面からか。なら引き留める理由はないよね。

 

「そう。わかったよ。正々堂々やり合おう天哉」

「うん、負けないよ飯田くん」

「あぁ、俺は全力で君たちに挑戦する!」

 

 私たちの言葉を背中で受け止めた天哉は、振り向いてこう告げた。そして再び背中を向けて歩き出す。

 

「行くぞ飯田」

「ケロ、作戦会議をしましょう」

「クラスを超えてまでのお誘いありがとうございます。しっかり学ぶだけでなく、役立てるよう頑張ります」

 

 天哉に声をかけるチームメイトたち。常闇くんに梅雨ちゃん、そして塩崎さんか。

 

「凄いね。あのメンバー。中距離の鬼だ」

 

 緑谷くんの意見に思いっきり頷く。なんというか、天哉にしてはとてつもなくえげつないメンバーをかき集めたもんだと感心せざるを得ない。B組の塩崎さんまで居るし。もしかしたら人選的に天哉じゃなくて梅雨ちゃんがブレーンかな。5位、7位、10位、16位だから――

 

「670Pか。見渡す限り私たち除けば1番得点高そうだね。防御し続けて逃げても良し、攻撃しても良し。中々に凶悪だね」

「対して僕らは肝心の機動力を失った訳だ。どうする? 最悪この三人で組むしか……」

「フフフ、どうですか。私と組みませんか? 1位の人?」

「わぁあっ、誰なん?!」

 

 他がだんだんと決め始めた中、どこからか引き抜くしかないなと考えていると唯一サポート科で予選通過したピンク髪にゴーグルをつけた子が茶子ちゃんに話しかけてきた。確か発目さんって名前のはずで、42位の5P。機械をジャラジャラ付けているから、とれる手段は増えるんだろうけれど、

 

「私は発目明! あなたの事は知りませんが立場利用させて下さい!」 

「茶子ちゃん、緑谷くん、話だけ聞いといて。1人助っ人引き抜いてくるから、それまで返事は保留でよろしく!」

 

 多分彼女の目論見は1番目立つ立ち位置から自作の機械をアピールしたいってことかなぁ。機械は面白そうだけど、どうせ誰かと組むならもっとピーキーな感じにしないと天哉のチームには敵わない。そして上鳴くんが他のチームに居る以上機械は故障するものと考えた方が良さそうだ。よって私の中では彼女という選択肢はない。

 

 完全に博打になるし、本当ならもっと普通の日に試したかったことだけど、これしかないという確信があった。あらゆる相手に対して決定的な隙を作れ、あの手段の成功確率を上げれる彼の力が。

 

「私と組もう心操くん!」

「猪地巡理か。もう俺はチーム決めたんだけど」

 

 そう言った彼の周りには尾白くん、青山くん、そしてB組の庄田くんが並んでいた。

 

「そのメンバーで勝てると本当に思う? 庄田くんの個性は知らないけれど、他2人は使い所間違ってると思うよ」

「ならお前が入るか? 俺の個性の条件わかってるよな?」

 

 問いかけに応えることで発動する心操くんの洗脳の個性。でもここで警戒してたんじゃ話にならないので即答してみせる。

 

「わかってるからこそ答えるよ。私の頭空っぽにしたら利用価値ほとんどないでしょ」

「やりにくいな。お前、本当に。勝算なしに声をかけるとは思えないけど、それで俺を誰と組ませるつもりなんだ」

「あの2人だよ。最高に目立てると思わない?」

 

 発目さんの勧誘を必死に躱している緑谷くんと茶子ちゃんの方を私は指差す。それを聞いた心操くんは頭を軽く掻きむしって、さっきよりも調子の低い声で答えた。

 

「目立てるって正気か? お前ならもっと組めるやついるだろ?」

「居るけどね。どうせなら勝っても負けてもドーンと目立っておきたくない? 勝ち負けだけがスカウトや編入の条件じゃないし、次からは個人戦ってのは例年からして確定の流れでしょ。1回戦以外君は多分勝ち目ないからさ、私が君の立場だったらこの試合で出し尽くしてアピールするけどな」

「おい、言ってくれるじゃねぇか」

「この前も言ったけど、君の個性は初見殺しだし、今のフィジカルじゃヒーロー科の誰にも勝てないよ。2回戦以降は絶対に勝てないって断言してあげる」

 

 煽るだけ煽った。そして明確な道筋も示した。怒ってはいるみたいだけれども、体育祭は年に1回だけのチャンス。心操くんは今、チーム入りを真剣に考えてくれているはずだ。もうひと押ししなくちゃ。

 

「でもね、私たちには切り札が必要なんだ。君の個性はすごく強力だ。誰に対してもジョーカーに成り得る。個性を知っている天哉のところと私たちのチーム3人以外にはね。そしてウチのチームのもう1枚のジョーカーを、君と私なら取り扱えると思うんだ」

 

 もう1枚のジョーカーを使いこなせる可能性があるとするなら、私の個性だけじゃ無理だ。彼の力が必要になる。頼むウチに来てくれないかな。なんか遠目で見るに発目さんと緑谷くんが急接近しているようだ。インターセプトしなければという義務感に駆られてしまう。傍目から見ても緑谷くんのあの目の輝き方はオールマイト談義のときのソレだ。明らかに茶子ちゃん引いてるし手早く勧誘終わらせてなんとかしないと。

 

「俺とお前で扱う? 麗日お茶子じゃねぇな、緑谷出久のことか。面白い言うだけ言ってみろよ。それから判断してやる」

 

 よし、最強の切り札ゲット。意気揚々と茶子ちゃんのところに帰る。

 

「心操くん連れてきたよ! 彼の個性の凄さ知ってるでしょ? これなら万が一のときは土壇場で逆転できるよね」

「心操くん、久しぶり。クラス違ったから完全に頭から抜けてたよ。マークがキツいとは思うけれど僕たちと一緒に組んでくれないかな?」

「緑谷くんはオーケーかな。茶子ちゃんもいいでしょ?」

「うん、勿論! お世話になっとるしね。心操くん、よろしくね。信頼しとるよ!」

「あ、あぁ。ってその前に猪地、作戦ってのは――――」

 

 よし、押しきれるか? いや時間もないし押し切ろう。お邪魔虫さんを追い払って外堀を埋めてかなきゃ。

 

「はいはい、そういうことだから発目さんゴメンね。他当たって!」

「そ、そんな?! せっかくのベイビーたちが目立てる機会が」

 

 思いっきり私の腕を掴んで離さない発目さん。これは利益で誘導しないとテコでも動かないやつだ。

 

「あそこの目立たない尻尾の彼とか、君の可愛いベイビーたちで飾ってあげたらどうかな? 普通の人が使うほど性能アピールには良いと思うけれど」

「成る程! 地味めな彼を私のベイビーたちでバッチリコーディネートしてあげましょう!」

 

 今日2度もゴメン尾白くん。茶子ちゃんの恋路のためなんだ。飛び去って行った発目さんを手を振って見送る。

 

 あ、透ちゃんと組んだ。これって余計なことしちゃったかな。うん、茶子ちゃん優先だ。既に3度目だけどゴメンよ尾白くん。勧誘の結果的に洗脳解いて上げたからチャラにして欲しいな。

 

「さてここから本題だ緑谷くん。ぶっつけ本番だから博打にはなるんだけど心操くんが仲間入りしたから、この機会にあることを試したいと思うんだ。君の個性の制御、ちょっと前に進めてみたいと思わない?」

 

 私がそれだけ言うと、いつものブツブツ芸を5秒ほど披露した緑谷くんは、私が言わんとすることを的確に当ててくる。

 

「それって麗日さんのときみたいに心操くんが僕に洗脳をかけた状態で、猪地さんが身体を弄るってこと?」

「そうだよ」

「でもそれってできるん? デクくんの個性を使いすぎないようにブレーキかけたりとかって、流石にめぐりちゃんの個性でもキツいんじゃないかな。そこまで万能じゃないよね?」

 

 茶子ちゃんが言うようにそこまで私の個性は万能じゃない。茶子ちゃんや青山くんみたいに体調面が大きく個性に左右される場合はともかく、単なる発動型に対してできることは基本的にない。

 

「うん、緑谷くんの個性が普通の増強系なら無理だったけどね。あくまで私の個性でできる範囲はちょっと広げても体調を弄るまでだから。でもね、このオールマイトの戦いをこの目で見て私気づいたんだ。私の個性と似てるって」

「えっ、どういうこと?! 僕がオールマイトと似てるっては言われたことあるけれど、猪地さんは全然違うと思うけれど」

「私の個性で観る限りね“力の引き出し方”この1点において他の発動型とはオールマイトは他の人と全然違う。でも同じ使い方をしている人間が居たんだよ。それが私と緑谷くん。君だよ。そして私以上にオールマイトに近いのは勿論君だ」

 

 私にはほとんど確信に近いものがあった。オールマイトから発せられる彼自身の波長とその奥に眠る別の7人の極々薄い波長。それが個性の使用量を増やすときに少しだけ反応が上がっているのをこの目で見た。そして普段はわからないけれど緑谷くんが個性を発動するたびに奥の中に眠る8つの薄い波長が重なって見えていた。

 

 私以外にこんな歪な波長を出せる人間がいるはずがない。どう考えても緑谷くんとオールマイトは血縁関係だ。そしてストックしているものの種類は多少異なるかもしれないが、発動のプロセスがその2人に近い人を世界中探したらきっと私が上位に来るだろう。

 

「緑谷くん、私の個性の秘密を少しだけ教えて上げる。だから私をちょっとだけ信じてみてくれる?」

 

 多分私は偶然とは言えオールマイトのとんでもない秘密をいくつも握ってしまっている。怪我のこと然り、個性のこと、緑谷くんとの関係然りだ。だからこそ何かあったときのためにオールマイトに近い緑谷くんには信頼を得ておく必要があった。ウチの幹部の一部くらいしかしらない私自身の情報を少しだけ緑谷くんの耳元に呟く。そして彼は目を丸くして答えた。

 

「うん、信じるよ。だから体育祭の後にお願いしてもいいかな」

「もちろん」

 

 私はそう答えた。打算と保身、そのために。

 

 

 

                ×              ×

 

 

 

 

 私が騎手、緑谷くんが前騎馬、右が心操くんで左が茶子ちゃんだ。コーナーの隅っこギリギリに位置取ると、殆どの組が私たちの組を取り囲むかのように配置してきた。まぁ当然だよね。でも私たちはそれでいい。

 

「まずは下半身だ」

 

 心操くんが私の声に合わせてすぐに復唱してくれる。洗脳状態の緑谷くんが個性を発動するために予め念入りに設定しておいたキーワードを私たちふたりが告げる。

 

“限定発動”(リミテッド・アクティベーション)1%」

 

 蛇口を1°だけ捻るイメージだ。心操くんの言葉によって起動する緑谷くんの中から溢れ出す力を、私の個性で彼の中へと押し留め、高速で循環させ続ける。

 

「うん、いけてるよ。成功だ。暴発はしないはず。まずは1%で維持できるか試してから少しずつ上げていこう」

 

 私の言葉に心操くんと茶子ちゃんが頷く。

 

『よーし組み終わったな!? 準備はいいかなんて聞かねぇぞ』

 

 プレゼントマイクが始まりの合図を告げようとする。私も両手を構え――――

 

『行くぜ残虐バトルロイヤルカウントダウン――』

「個性はそのままの発動状態を維持。開始の号令と共に仰角30°、そのまま前方へ――――」

『3、2、1、――――スタート!!』

「翔べ!!!」

 

 その言葉とともに風を切り舞い上がる。

 風圧で目を思わず閉じそうになる。

 だが瞳を気合でこじ開けた。

 天哉ほどじゃないけれど軽量化しているせいもあってか思った以上に早い。

 

「緑谷のやつ、なんだあの早さ?!」

 

 狙うは直線上のB組の拳藤さんチーム。

 相手からしても私たちはまだ目で追えない速度じゃない。

 拳藤さんは左拳を個性で肥大化させ私の鉢巻を狙ってくる。

 

 リーチの差がデカイ。

 けれど腕で小指の先、第5末節骨を思いっきり上に跳ね上げる。

 わかってたけど質量差が凄い。真っ向から打ち合わなくて良かった。

 ここで更に左肘に掌底で一撃あてて怯ませる。

 

「っ痛!?」

 

 彼女たちの右を通過する際、右手の隙間を掻い潜って左手を伸ばし――――掴んだ。

 獲った鉢巻を裏返して首元に巻く。もとの鉢巻は頭に付けたまま入れ替えたふりをしつつサッと裏返した。

 

「よしっ、まずは190(ポイント)!! 着地と共に方向転換、背中を見せてる組を狙うよ」

「了解だ」

「着地したらその場で右へ160°旋回!」

 

 私の指示をすぐさま復唱した緑谷くんが後方の空白地帯へと着地すると共にすぐ方向転換をした。指示の先行入力さえうまくできていたらかなり有用だね。これは。

 

“限定発動”(リミテッド・アクティベーション)2%! 1番近い組のところへ!!」

 

 復唱の早さも増してきた。いい感じ。蛇口をもう1°だけ回すイメージで緑谷くんの力を2%引き出す。うん、まだ制御は行けそうだ。緑谷くんの身体も着いてきている。

 

「めぐりちゃん、心操くん、1番獲っちゃおうぜ!」 

「そのつもりだ」

「獲っちゃおう!」

 

 私たちの狙いはガン逃げじゃない。緑谷くんの試走をしつつ、徹底的に奪い尽くす。

 0(ポイント)のチームが増えれば、矛先は次第に狙いやすい他のチームへ向かい出すはず。

 天哉(ライバル)との決戦があるんだ。まずは場を整えることから始めようか。

 

 




洗脳状態によるフルカウルの部位限定版の実装です。
早期取得の代わりに下位互換実装になります。


チーム編成は以下です。
クラス混成が少し多くなった感じです。

次回は速攻奇襲特化のチーム猪地vs中距離防御特化のチーム飯田(とその他)の戦いです。
飯田くん視点に戻ります。

チーム猪地
9位 猪地 170
1位 麗日 10000000
2位 緑谷 205
8位 心操 175
10000550P

チーム爆豪
3位 爆豪 200
11位 瀬呂 160
12位 切島 155
21位 芦戸 110
625P

チーム轟
4位 轟 195
17位 障子 130
19位 八百万 120
26位 上鳴 85
530P

チーム蛙吹
16位 蛙吹 135
5位 塩崎 190
7位 飯田 180
10位 常闇 165
670P

チーム鱗
34位 鱗 45
20位 峰田 115
30位 宍田 65
225P


チーム葉隠
40位 葉隠 15
14位 尾白 145
23位 耳郎 100
42位 発目 5
265P

チーム庄田
    35位 庄田 40
22位 口田 105
37位 鎌切 30
18位 砂藤 125
300P


チーム物間
    38位 物間 25
24位 回原 95
25位 円場 90
32位 黒色 55
265P

チーム拳藤
29位 拳藤 70
28位 柳 75
36位 小森 35
41位 取蔭 10
190P


チーム小大
33位 小大 50
27位 凡戸 80
31位 青山 60
190P


チーム鉄哲
6位 骨抜 185
13位 鉄哲 150
15位 泡瀬 140
39位 角取 20
495P



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