英雄の境界   作:みゅう(蒼山みゆう)

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第3話 社会からの洗礼◆

「あ、君も来たんだ。飯田くん、で良かったよね。昨日はありがとう」

「当然のことをしたまでだ、緑谷くん。それにしても凄い人だかりだったな」

「そうだね。でも、あんなニュースになっちゃんたんだし、仕方ないかも。裏口から入れてもらえて良かったよ」

 

 試験終了後、痛みで失神していたらしい俺と縮れ毛の男子こと緑谷くんの二人は、リカバリーガールの治癒を受けた後に保健室に搬送され、点滴と小言を受けた後に夕方には解放された。

 

 そして猪地くんと人工呼吸の女子生徒こと麗日くんの二人が総合病院へと搬送されたことを聞いた。生命活動は機能しているものの、衰弱による昏睡。リカバリーガールの治癒では対処不能と判断されたため、特例でそういう扱いになった。

 

 ほぼ同じ時刻に眼を覚ました俺たち二人は迷うことなく病院へと向かうことにした。緑谷くんも麗日くんに試験前に恩を受けていたため、このまま帰るということはできなかったようだ。

 

 幸い、朝の妊婦の件があった病院のため、すぐに駆け付けることができた。

 彼女たちは二人とも人工呼吸器と点滴を受けており、それぞれ隣の特別個室に収容されていた。

 昏睡の原因は不明。猪地くんの個性のデメリットが発動し、なんらかの形で麗日くんにも作用したのではないかというのが病院の見解だった。ただ、個性届には該当しそうな文面は記載されていなかったらしい。

 

 猪地くんの方が衰弱が激しく、予断を許さない状況だったらしいが今は落ち着いているらしい。麗日くんの方は昨日の深夜には意識を取り戻したとのことだ。

 消灯時間を超えそうな頃合いになるまで居座った俺たち二人も耐えかねた家族に無理やり連れ返されたが、今日は既に自由登校の身であるためこうして見舞いに来たというわけだ。窓口で必要事項を記入し、彼女たちの特別個室へと向かう。

 

「君も会見を見たか?」

「うん。朝から雄英、大変なことになってたね。僕たちはすぐに治ったけれど、眼を覚まさないかもってなったらね……クレームが殺到しているらしいよ」

 

 朝のニュースは「雄英の受験生意識不明の重体二名」などという特集と、それに対する雄英の会見でもちきりだった。入学後のプロヒーローを目指す身内ならともかく、入学前の外部の人間が倒れたのだ。騒ぎにならない訳がない。

 当然この病院前にもマスコミが殺到しているが今は入り口で押し留めてくれている。

 俺たち二人も警備員に事情を話して職員用の裏口から来なければ取材の嵐に巻き込まれていただろう。昨日そこから家に帰された時に覚えていて良かったと思う。

 

「行政処分はないと思うが、勧告ぐらいはあるかもしれんな」

「あと、血まみれのゾンビみたいな二人組って証言、多分僕たちのことだと思う。あのインタビューの金髪の人に僕一度助けられたし」

「そうなのか。傍から見れば俺たちの姿も恐怖を与えたのだろうな。助長する一旦を担うことになるとは、悔しいものだな」

 

 彼の言うインタビューも朝から三度ほど見た。単純な出血や、骨折などの怪我という意味でならば、全ての会場を含めても俺たち二人が最も酷かったらしいとリカバリーガールも言っていた。

 そう考えると痛みを感じるなく普通に振る舞えるほどに回復していることに対して、改めて驚嘆を覚えた。

 

「でもすごいよね。インタビューに出てただけでも10人以上でしょう、あの人が助けてたのって」

 

 猪地くんへの感謝の言葉の数々は暗い話題の中において、一際異彩を放っていた。彼女が懸念したとおり、戦闘そのものが初めてであったり不慣れな者のカバー、泣き出した女子生徒たちの出口への誘導や敵の牽制なと縦横無尽の活躍だったらしい。あれだけ凄まじい独り言を漏らしておきながらも、何だかんだで数体の仮想敵も撃破していたとのことだ。

 

 そして極めつき人々の印象に残ったであろうインタビューは、朝の妊婦さんの旦那さんからの感謝の言葉だった。不慣れな土地で入試に遅刻するリスクよりも、救助に当たった彼女の英断は美談として人々から賞賛された。

 

 だが一方で公共の場での個性の無断使用の疑いが浮上してきてしまった。緊急事態ではあるが、不適切な医療行為は対象の生命を更に危ういものとする可能性があるため、原則許されていない。

 彼女の個性も治癒そのものに関わるものとして申請されていないらしく、今回の件にあたってはグレーゾーンな部分が多々あるらしい。俺が黙秘を続ける限り、確たる証拠も存在していないことが救いだった。

 当然その真偽を知っている俺を追って、我が家の前にも早朝からマスコミが来ていたが、兄とその部下たちが相手をしてもらっている間に抜けだすことができた。予めこの展開を予見していた兄さんはやはり凄い。

 

 雄英の対応、倒れた少女の類稀なる自己犠牲精神、個性の公共の場での在り方。視点によって様々な報道が可能な話題にマスコミが喰いつかない訳がない。しばらくの間ワイドショーはこの話題で占められることになるだろうと兄さんも言っていた。

 

「実際には2~30人は居るかもしれないな。レスキューヒ-ローが志望だという話も、理想像を雄英に見せつけてやるんだという意気込みも聞いていた」

 

 あぁ。とても常人には真似できない尊い精神だろう。

 

「しかしだ。猪地くんといい君といい、自己犠牲の精神にも限度というものがある。どれだけの人間が心配をしたと思っているんだ!」

「……えーっと、余計なお世話かもしれないけれど、あんまり飯田くんはそれを人に言えない気がする。だって僕たちゾンビ扱いだし」

「ゾンビか。俺たちが無事試験に合格していたら碌でもない渾名を付けられそうな気がしてならないな」

「どうせ僕はデクだから何も変わらないんだけど……それより気になっていたんだけれど、飯田くん大荷物だね。重くないの?」

 

 緑谷くんの視線の先には俺の持つフルーツバスケットが二つ。リンゴやパイナップル、バナナなどそれなりの重さはあるが、昨日の彼を片腕で運ばなければならなかったときほどではない。だがそれを口にするのは嫌味というものだろう。

 

「普段から上半身も鍛えているからな。それに怪我の後遺症もないようだ。何の問題もない。しかし君の方も随分と豪勢な花束だな」

 

 二つ抱えた花束は小さな彼では落とさないように支えるのがやっとな程のボリュームだ。果たして収まりきれるほどの花瓶があるだろうか甚だ疑問ではある。

 

「お母さんが女の子には花束だから、これを持って行けって押しつけられて。あ、この番号の部屋だったよね」

「では俺がノックしよう。ゴホン、朝早くから失礼。俺は昨日の入試のときの者だが」

 

 籠を左肘と左手首にかけ、空いた右手でノックする。

 

「あ、この声は確か眼鏡の人? どーぞ、どーぞ。入っていいよ」

「失礼します」

「失礼する」

 

 壁越しに元気そうな声が返って来る。ドアを開けると点滴を受けていない方の手で、手を振る茶髪の女子生徒、麗日くんが居た。

 

「二人とも今日もお見舞いに来てくれてありがとう。昨日も遅くまで心配かけたみたいですまんね」

「いや、僕は全然……でも起きてくれて良かった。もう具合悪くないの?」

「おかげさまで! 意外と大丈夫!」

 

 白い歯を見せながら笑う麗日くん。昨日倒れたときと比べればその顔色は歴然の差だ。

 

「その様子なら一安心だな。食事が取れるようになったらご両親と食べると良い」

「おおっ! お高そう。ウチじゃ絶対こんなの買えんから父ちゃんたち喜ぶわ。ありがとう。えーっと、眼鏡の方は確かどっちって言っとったっけ……みど」

 

 昨晩お会いしたご両親から俺たちのことを聞いていたのだろう。だがどちらがというのは判断できないようだ。ここは改めて────

 

「俺の方が飯田天哉だ。それでこっちの彼が」

「緑谷出久です」

「飯田天哉くんと緑谷出久くんね。よし、覚えた! ここに書いてあるけれど、私、麗日お茶子です。よろしく!」

「あぁ」

「うん」

「それで看護士さんから聞いたんだけど、雄英がすごい騒ぎなんでしょ? あ、飯田くんこれ早速頂くね。お粥じゃ足りんくって」

 

 俺の渡した果物籠からデコポンを取り出し「これがデコかぁ」と剥きはじめる彼女。

 

「うん。外もマスコミだらけだったよ。出るときは職員用の裏口使わせてもらった方がいいかも。僕たちもそっちから来たし」

「あーもしかしたら、父ちゃん、母ちゃん下で捕まってて遅いんかなぁ」

 

 窓の外を眺めながら心配そうに言った彼女。綺麗に剥いた身を一口頬張り「何これ、うまっ!?」と呟くと更に食べる速度を早める。気に入ってもらえたようで何よりだ。

 そして隣でもじもじとしていた緑谷くんがようやく彼女に花束を差し出す。

 

「あ、麗日さん。これ、お見舞いに持って来たんだけど、花瓶とかってあるかな……」

「緑谷くん、綺麗なお花ありがとうね! 花瓶はわからんけど、今日退院らしいから、このまま持って帰ろうかな?」

「あ、そうなんだ。じゃぁこの辺に置いとくね」

「それで私、聞いたんだけど、隣の猪地さんってまだ眠ったままなんだよね……?」

「そうみたいだな。俺は一度隣の様子を見て来る。もしかしたら好物の果物の匂いで起きるかもしれないからな。これだけでも置いて来る。花は後で花瓶を購入して来て生けよう。麗日くんも暇だろうし、緑谷くんは残っていると良い」

 

 そう言い残して部屋を立ち去る。もしかして冗談に聞こえただろうか。

 ただ彼女のために俺ができることは、救急車の件を必ず黙秘することと、もし起きた時のために新鮮な果物を用意することだけだった。

 

 

 

           ×              ×

 

 

 

「貴方、毎日来ているんでしょう。偉いわね」

 

 顔なじみになった担当の看護士さんと眼が合う。毎日、か。まだたったの5日程度だ。

 

「いえ、褒められるようなことではないですから」

 

 短い時間とは言え、共に過ごした仲だ。彼女に対しての心配も大きい。しかし、拭いきれない罪悪感が俺をここまで連れてきているのも事実。

 

 猪地くんの急な気絶がもし個性の反動という仮設があたっているとすれば、俺が妊婦と胎児への彼女の個性行使を控えさせておけば、こんな事態にはならなかったのではないか。

 

 勿論、命に関わっていたのだ。全部を止めるべきだったとは言わないが救急車に彼女が付きそうのは、今思い返してみると過剰な対応だったように思える。

 

 いや、そもそも俺が妊婦の転倒に駆けつけるのが間に合っていたら。そんなもしも話を考える夜がしばらく続いている。受験の結果発表より何よりも、彼女の回復の知らせが早く来ないかと待ち続ける悶々とした日々を、俺はこの5日間過ごしていた。

 

「もう知っているとは思うけれど、これを貴方に渡そうと思っていたの」

 

 看護師さんから手渡されたのは男性週刊誌。俺みたいな中高生や、この人のような若い女性が普通読むようなものではない。一体、何があった?

 

 水着の女性のグラビアの周囲に張り付けられた低俗な見出しの数々に眼を凝らす。ひときわ目を惹く「雄英」と「少女I」の文字。間違いなく猪地くんのことを差しているイニシャル。目次を探し、該当ページを探す。

 

「きつい内容だとは思うけれど、貴方は読むべきだと思うわ。病院の中でも噂になってる。この子が起きた後、何も知らないままでは守れないわよ」 

 

 低いトーンで投げかけられる意味深な言葉。そしてすぐにその意味を知る。

 

「少女I、その両親は(ヴィラン)。問われる雄英の情報管理能力……」

 

 猪地くんの両親が、(ヴィラン)。確かにそう書いてある。

 並ぶ言葉を必死に眼で追う。そして怒りを忘れぬよう、声にして脳内に刻みこむ。

 

「父親は人気ヒーローを1名殺害した強盗犯。母親は(ヴィラン)専属の闇医者エンドレス。少女Iは(ヴィラン)のエリート教育を受けていた」

 

 そんな馬鹿な。あれほど誰よりも英雄らしく。自分自身を顧みない彼女の両親が(ヴィラン)だなんて、そんな馬鹿な事があり得るはずがない。

 

 しかし雄英関係者や助けられた受験生、そして例の旦那さんが猪地くんを訪ねていたことは知っていたが、両親らしき人が来たという話は聞かなかった。来れない事情が何かしら存在するのは間違いない。

 

 この記事が嘘であって欲しいと願いながら次へ読み進める。

 

「エンドレス。ビックネームの(ヴィラン)の殆どが頼りにするという闇医者。死なせた患者は存在しないと噂されるほどの腕を持つ伝説の存在。元々は個人病院を経営していた通常の医者だったが、(ヴィラン)への医療行為が発覚した後に指名手配。そして行方を眩ましたという」

 

 医者の娘。個性が在る程度遺伝に関わるものだということを考えれば、猪地くんの母親も同じような個性を持っていたに違いない。そしてその実力が抜きんでていたことも容易に想像できる。

 

 しかし壮絶な猪地くんの人生が綴られていたのはここからだった。眼を背けたくなる感情を抑え、脳内に文字をインプットしていく。

 

「指名手配により母親が蒸発後、困窮したI家。食事もままならない生活に耐えかね、10年前に父親は強盗を決行。そこへ偶々通りがかったレスキューワンが確保しようとするも、ナイフで胸を一突きにされ返り討ちに遭い殉職。少女Iもその現場に居合わせたという。応援に駆け付けたヒーローに囲まれ父親は投降、そして服役中に牢内で首を吊り自殺した」

 

 僅か数行。だがその数行がどれだけ悲惨なものなのか。これっぽっちも想像がつかない。

 「蒸発」「困窮」「強盗」「殉職」「服役」「自殺」と日常生活からあまりにもかけ離れた言葉の数々がそこには記載されていた。まだ文章は続く。

 

「親戚の元を転々とした少女Iだったが、学校では大人しく成績も常に一番を維持。惜しくも合格を逃したが雄英に並ぶ超名門、士傑高校への推薦を受けるほどだったという」

 

  西の士傑。確かに九州に住んでいれば雄英よりも近い士傑を志向するのも当然だろう。だが続く文章には「母親譲りの頭脳」「不合格は両親が原因か」などと記載されていた。

 

「校則で禁止されていたアルバイトを某八百屋で行っており、高額な書籍や、親族の方針に逆らい雄英を受験するための費用に充てていたという証言がある」

 

 これはおそらく真実、またはそれに近い情報だろう。彼女の個性は燃費が悪い。預かり先の親族が厄介者扱いの彼女に、食費がかさむ果物を大量に与えていたとは考えにくい。そう考えれば辻褄は合う。

 

 本もきっと医療関係のものだ。脱落した医学生などから中古品を買い集め、将来のために勉強していたとあの昼休み彼女は言っていた。決して娯楽のための金銭ではないはずだ。

 

「──────規律破りの少女Iに雄英生としての資格があるのか否か。本誌はそれを知りながら合否をどう決めるべきなのか、読者諸君と雄英の経営陣に是非問いたい」

 

 そんな言葉で特集は締められていた。できれば、彼女自身の口から聞きたかった。

 

 それから更に10日。合格通知も配られた。当然俺は合格していたが、実技試験においては敵ポイントが52、そして猪地くんが睨んだとおり救助ポイントなるものが存在し、それも破格の59。総合でなんとトップを取ったらしい。

 

 緑谷くんとも隠された評点の可能性の話をすることで、彼を宥めていたが的外れでなくて良かった。この評価制度なら間違いなく彼も合格圏内だろう。俺の救助ポイントに関しては正直なところ最後のスカイダイビング以外は評価されるべき部分は殆どなかったと考えているからだ。緑谷くんの救助に関して言えば、僕と同等かギミック破壊した功績による追加の点数は少なからず付いてくると考えていいだろう。

 

 麗日くんも時間こそオーバーしていたが、ギリギリの人工呼吸も評価されてしかるべきだと俺は思っている。

 

 そして当然それならば、狙って救助ポイントを稼いでいた猪地くんが「実技試験」が理由で落とされる可能性はまずありえない。学科も休み時間に口頭で答え合わせした限り、俺よりもわかっていたはずだ。

 

 なのに、まだ目を覚まさない。目を覚まさないままかもしれない。そう思い始めていた日のことだった。

 

 

 

 

           ×              ×

 

 

 

 

 全力で階段を駆け上がる。

 

 咎められるべき行為だということはわかってはいる。

 

 だが、理屈じゃないのだ。どうしてその脚を止めることができようか。

 

 着いた! ノックをすることさえ忘れ、その扉を勢い良く開ける。

 

「うわっ!?」

「猪地くん!!!」

「ちょっと、いきなり心臓に悪いから……飯田くん、私はもう大丈夫だよ」

 

 ようやく。ようやくだ。

 

 眠り姫は目を覚ましてくれた。

 透き通るような白い肌と長い黒髪が朝の光に照らされて、暖かな色に染められる。

 体温が、まるで生気そのものが戻って来たような印象を何となく俺は受けた。

 

「果物、ありがとうね。もうちょっと元気になったら頂くから」

 

 手にしたリンゴに口づけしながら、上半身を起こした元眠り姫はそう言う。

 

「良かった。もしかしたら目を覚まさないかと……」

「聞いたよ。私が倒れた後、ロボットから守ってくれたり……その、じ、人工呼吸、とか、してくれたりしたんだって? 本当にありがとうね」

「いや正確には俺は何もしていない。ロボットをやっつけたのは緑谷くん、人工呼吸は麗日くんだからな。俺がしたのは緑谷くんのフォローと、人工呼吸の指示ぐらいだけだ。礼なら二人にしてやってくれたまえ」

 

 自分で言葉にしてみれば、本当に彼女に対しては何もしていない。せいぜい毎日の見舞い程度だ。

 

「う、うららかくん? ってそれ誰の事?」

「君が最後に助けようと駆け寄った茶髪の女子だ」

「あぁ茶髪のあの子────って女子じゃん! 女子じゃん! 婦長さん嘘つきじゃん! だぁああああああっ、もうほんなこつ!!」 

 

 突然頭を掻き毟る猪地くん。点滴を嵌めた腕まで動かしているのでそれを制する。

 

「落ち着きたまえ! 急に具合が悪くなったのか!?」

「せからしかね! このバカチン!」

 

 リンゴを顔面に投げられた。受け止めた手の平が思いの他痛い。腰の力が入っていないとはいえ、中々に良い投球だ。リンゴを元の籠に戻す。

 

「かなり元気になったようだな」

「飯田くんが果物持って来てくれたからね。これがあれば私はすぐ元気になるよ。ありがとう」

「見舞いすることの多い兄さんが勧めてくれた果物屋だからな。味は保障する」

「うん、とっても美味しそう。見ただけでわかるよ。あと、もしよかったら飯田くんにお願いがあるんだけれどさ」

 

 そう言って彼女はサイドボードの引き出しから一つの封筒を取り出した。

 

「一緒に、見てくれないかな?」

「いいのか?」

「うん、ちょっと怖いから。誰かと一緒がいい」

 

 雄英高校からの受験結果の通知。封筒を開けると投影器が作動を始めた。

 

『私が投影された!』

「オールマイトだ。アップだと更に濃ゆいね」

「それにしても何でオールマイト?」

「今年から雄英の教師になるらしい」

「おぉ、そりゃすごいね」 

『今これを君が見ているということは、無事目が覚めたということだね。まずは快復おめでとう!!』

 

 某クイズ番組のようにピカピカに輝くライトが飾られたセットを背景にあのオールマイトがスーツ姿で司会をしていた。俺のときと同じだ。

 

『まずは筆記、これはパーフェクトとまでは行かなかったが、それでも断トツの全受験生トップ。他の受験生と違うスケジュールになって大変だっただろうに、この結果はアメイジングな結果だ!』

 

 画面越しでも迫力のあるやたらと大きな拍手と賞賛の笑い声。そしてオールマイトは言葉を続ける。

 

『そして実技、敵ポイントは6点という結果。平均値よりも低く、当然不合格になる値だが……救助ポイントという隠された採点基準があった。このポイントの詳細な報告は君にはおそらく不要だろう。この採点基準だけならば筆記と同じく君はこれまた断トツの1位、過去最高の点数更新という栄誉付きだ。実は君に関してはこの試験の構造に気付いていたのか、それともその類まれなる自己犠牲の精神性からか、というのが教師陣の中でも少し揉めてね。私としては両方であると踏んでいるがどうだったかな? いずれにせよ。君は非常に高い水準で合格基準に達している』

 

 ということはつまり────

 

『猪地巡理くん、合格おめでとう!! 周りがなんと言おうとも、ここが君のヒーローアカデミアだ』

「合格おめでとう」

「うん。ありがと」

 

 簡単に一言だけ祝福を送る。まだオールマイトの言葉は続きそうだったからだ。

 

『君の復帰がいつになるかわからないことや、世論の影響、最下位合格者の点数が被っていたこともあり、君は定員枠外の補欠合格者扱いということになっている。これならば例え君の復帰が今年中でなくても入学可能だ。いつでも我々は君を待っている。だから安心して万全の体調で入学して来ることだ。それから、もう知っていると思うが、君が置かれた立場は非常に苦しいものになるだろう。だから最後に私から一つ言葉を送ろう』

 

 拳を掲げたバストアップの画像が俺たちの方へとぐいぐい迫る。すごい圧力だ。

 

Plus Ultra(さらに むこうへ)!!』

 

 その言葉で通知の言葉は締めくくられていた。

 

「飯田くんも合格だよね?」

「あぁ、俺も、君も合格だ。しかも読み通りだったじゃないか。見事だ」

 

 右手を彼女に向かって差し出す。握り返される手は入院中とは思えない程しっかりしたものだった。

 

「これから同じ雄英生だ。改めて3年間宜しく頼む。猪地くん」

「うん、よろしくね。飯田くん」

 




何となくこれからの方向性を感じていただけたでしょうか。

原作とは違った方向に少しずつ飯田くんは動き出します。
しっかりした作品にしていきますのでこれからも宜しくお願いします。

2020/4/1追記
主人公紹介

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