英雄の境界   作:みゅう(蒼山みゆう)

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復活連載3話目。

今回は2章の裏側から。
心操くんハードモード編。

序盤R-15胸糞注意です。



第44話 渇望

 ここまで逃げればもう炎を操る脳無が追っては来ないと思った俺が馬鹿だったのだろう。

 

 逃げ込んだ廃工場で一息ついた直後、黒い霧の渦と共に現れた5人の男たち。鉄パイプや金属バットなどを構えた姿、シルエットから伺える筋肉量からして、このまちで噂になっていたステインのように手慣れた殺人犯などではない、ただの線の細いチンピラのような風貌だが、多勢に無勢だ。

 

『お前らは敵連合かっ!?』

 

 しかし奴らは何も答えない。それどころか口にチャックをするようなジェスチャーをするやつ。にやつきながら売れない芸人のように全身で丸を描くやつ。完全に俺の発動条件を把握してやがる。体育祭だけでは俺の声がキーになっていることまでしか、わからないはずなのに。

 

 どうして筒抜けなのかなんて考える暇はなかった。

 

「ぐっ!?」

「だっさ、トーシロのパンチ一発で膝をつくとかマジで雄英かよ?」

「糞よえージャンよこいつ。せっかく動画取ってんのに俺たちのカッコイイとこ見せらんねぇジャン」

 

 ダサいのは俺が一番、わかってるよ。

 

「痛い、痛かった? なんかちょっと涙にじんでね?」

「痛くねぇよ、くそっ!」

 

 ふらつく膝でなんとか立ち上がり、右拳を振りかざすも、相手の上腕部を掠めただけで、ダメージを与えたようには全く思えない。

 

「あー問いかけじゃないなら喋っていいんだっけな」

「あぁ、確かそのはずだ。にしても、大振りのテレフォンパンチとか流行んねぇってなぁ。腰も退けてるし、マジで何習ってんの?」

「じゃあちょっとお兄さんたちとサッカーでもして遊ぼうぜ。お前ボール役な。でも気絶したら、次はそいつらだから」

 

 指が向けられた先には足の不自由な女性とその子供。後ろに足手まといを抱えたまま逃げることも叶わず、ただもて遊ばれるように適度に加減されながら嬲られ続けた。

 

「それにしてもこんだけやってもさぁ、わかんないって雄英の癖にバカなの? ここにサインするだけでいいんだぜ? 手は痛めつけてないんだから簡単だろ?」

「おらっ、何とか言えよ」

 

 無茶を言うな。洗脳を使えないよう羽交い絞めにして猿轡を噛ませやがったくせに。

 

「顔だってわりと綺麗なままにしてやってんのによ。それとも本当にバカだから字が書けないの?『僕は敵連合に入ります』ってちゃんと言えるなら、口のやつひっぺがしても良いけど、どうするよ」

 

 ワープ持ちの個性の奴もこの街に来ている以上、無理やり連れ去ることだって簡単なはずなのに、こいつらは俺が屈服する画を撮ることに固執してやがる。わかりやすいぐらいに意図は見え透いている。敵連合は雄英の信頼を根本から覆すつもりだ。いかにも敵っぽい個性で多くの人から体育祭で反感を買った俺だから使い易いと。

 

「今なら噂の祝福(ハレルヤ)で怪我も治してやってもいいんだぜ?」

「俺たちは優しいからよ。きちょーなコイツをお恵みしてやんよ。ほらなっ」

 

 そう言って白い錠剤が一粒床に投げ捨てられた。

 

「誰が、んなもん……れはっ」

 

 意地でもう一度立ち上がり、痛みごときに屈するものかと足で踏みつぶす。すると────────

 

「あぁああああっ!!」

 

 廃工場に響き渡る甲高い悲鳴。それは俺の足元から発せられていた。

 おい、なんで。なんで俺、は助けようとしていたはずの子供の足を痛めつけているんだ。

 

「あぁあん……」

 

 就学前の子供には耐え難い痛みだったはずだ。泣きわめくばかりで言葉にならない音をずっと発し続けている。けれどもその子は拾った錠剤を胸に抱え、親の方に駆け寄っていく。

 

「泣ける。チョー泣けるわ。親の足が治るようにってか」

「いいんじゃね。こっちの方が面白れぇ。いい画が撮れるぜ」

「オーダーと違う動画じゃんよ。でもこっちの方が小遣いにはなるかもな」

 

 どこかで聞いたようなセリフ。どこかで見たはずの光景。でもどこかさっきから何か違和感がある。

 

「おい、口を開けな。これすっげー高けぇんだからよ。その費用は回収してもらわなくちゃな」

「い、嫌です」

 

 子供から薬を奪い取って飲ませようとした男の言葉を拒否した女性の頬が赤く腫れあがり、口元が避けて赤い雫が垂れ堕ちる。

 

 やめろ。お前ら“また”何しようとしてんだよっ。

 

祝福(ハレルヤ)ってのは嘘だけどよ、こっちのヤクの方がずっと気持ちいいからよ」

「娘がどうなってもいいのか? 俺たちラリっちゃってるからさぁ、あんたのかわりに娘の方を使ってもいいんだぜ?」

 

 糞っ、糞っ、糞っ。

 

 見せるな。その先を俺に見せるな。

 早く来てくれ、あのときのように早く……

 

「アンタたち、そこまでよっ!」

 

 ここで予定調和というようにピクシーボブがやってきて、そこで俺の意識は仄暗い廃工場の冷たい床から、見慣れた天井へと移り変わった。

 

 

 

 

「朝からこれかよ。最悪だ」

 

 そうだこれは違う。ただの夢だ。あの子は別の場所に隠してきたから居るわけなかった。

 これは記憶の焼き直しなんかじゃない。俺が願望通りに事実を捻じ曲げた都合のいい夢だ。

 

「そうだ。これは全然最悪じゃない」

 

 現実の方がもっと最悪だ。

 

 麗日は、飯田たちは、ずっとこんなのを味わって来たのかよ。でも、ここで立ち止まるわけにはいかない。もう二度とあんなことが起きない様にする義務が俺にはある。

 だから学校にいかなくちゃいけない、強くなる手段はあそこにある。強くならなきゃいけないんだ。

 

 無理やり詰め込んだ焦げかけのトーストを、生ぬるいのコーヒーで一気に胃に流し込んだ俺は、いつもより15分遅めの時間に出発し1週間ぶりの学校へと向かった。

 

 

 

 

              ×          × 

 

 

 

「めぐりーん、ニュース見たけど無事で良かったよー! リストバンドぶるってるし、ニュースで街が燃えてたしさぁ」

「三奈ちゃん、ありがとう。私は元気だよ」

「つ、強い、ハグ強すぎっ。折れるってば!」

「ごめんごめん、嬉しくてついつい加減が」

 

 このクラスはいつも騒がしい。でも一週間ぶりの再会なのだからいつも以上になるのは当然と言えば当然予想できたことだった。

 

「心操、ニュース見たよ。お前らほんと大変だったってな」

「まぁな」

 

 何気ない感じで上鳴が声をかけてくる。いつも気楽そうで良いよなこいつは。あの街で起こった本当のことなんて何も知らない癖に。俺が無様を晒したこと、猪地と飯田が死にかけて、猪地は自力で、飯田は押収した祝福(ハレルヤ)を使用して、死の淵から戻ってきたこと。他の諸々もだ。

 

「なぁ、もうちょっとさ、人が心配して声かけてんだから言うことあんだろ。一応心配してたんだぜ。脳無に加えてあのヒーロー殺しにも会ったんだってんだからよ。脳無だけでもマジやべーのにさ」

「それに飯田たちから聞いたけどお前直にヒーローの死体とか見たんだろ、大丈夫か? 肉食えるか? オイラだったらきっとしばらく食えないだろうけどよう」

 

 心の中の前言を撤回しよう。上鳴も峰田も普段下ネタとかのバカ話しかしない奴らとしか思ってなかったけど、心根が良い奴らなのは確かなようだ。

 

 それにこいつらは1-Aの中でも脳無と正面から対峙したメンバーだと聞いている。特に上鳴はほぼ特攻のような形でだ。違うタイプの脳無相手とは言え、そんなこと俺にできただろうかなんてこと、アイツら二人と、チンピラ風情にいいようにされた俺を比較することすらおこがましい。

 

 やっぱこのクラスは眩しいな。ようやく同じステージに手が届いたなんてのは俺の傲慢な思い過ごしで、現実はその何倍も惨めだ。惨めなままでいるわけにはいかないけれど。

 

「ごめん。心配してくれてありがとう。守秘義務があって言えないことも多いけど、俺は大丈夫だから。しばらくは果物とかさっぱりしたのばっかりだったけど、ハンバーグもちゃんと昨日食べたし」

「でも、なんかいつもよりやつれてる感あるし、隈多くね? 最近轟や緑谷たちとばかり飯行ってただろ。よし、今日は俺たちと行くぞ。追加のから揚げぐらいおごってやるからよ。なぁ峰田?」

「なんでオイラが。でも半分なら出してやってもいいぞ……誰か女子連れてくるならな」

「ありがとう」

 

 笑え、笑うんだ。緑谷みたいに例えぎこちなくったって、作り物の笑顔だって。

 

「よっしゃ、それじゃ決まりだ」

「絶対連れて来いよ。絶対だからな。それでオイラの両隣に座らせるんだぞ」

「一応、努力はしてみるよ」

 

 マニュアルさんだってそう言ってたじゃないか。いつか本物になるように。そう全力で走り続ければいいんだから。

 

 

               ×       ×

 

 

 

 

「それで、わざわざ地味な俺なんかに頼みってのはどうしたんだ?」

 

 午後のヒーロー基礎学の時間、いかに早くオールマイトの下に辿り着けるかの救助レース訓練が行われたが、それぞれの組が入れ替わるの準備時間に俺は尾白にある頼みごとをしようと声をかけた。

 

「サポート課で有名な奴と組んでただろ? そいつとつなぎを作って欲しい」

「発目さんか、あれから偶に実験に巻き込まれるから、ラボとかは把握しているけど。なんで急に?」

「今作成依頼中のコスチュームが特にサポートアイテムについては作成依頼していなかったから、やっぱり欲しいなって思って。この前の職場体験で色々足りてないものがあるのに気づかされたから」

「そういうことなら分かった。今日の放課後は時間ある? 特に連絡しなくても多分彼女毎日ラボに居るからさ」

「うん、空いてるから今日頼みたい」 

「オッケー。それから頼むならある程度、欲しいもののイメージは固めておいた方がいいよ。じゃないと彼女とんでもなくぶっ飛んだアイテムを作ってくるから」

 

 TVに取り上げられた雄英体育祭の珍プレーランキング上位者である尾白は、拳を握りしめながら切実そうな声色でそう言った。そう言えばあの子も尾白フラッシュって言ってたな。

 

「それで実際何か構想はすでに持ってたりする?」

 

 そう問われたので、俺の個性の急所である喉回りを保護できるネックガード類、それからスピーカー類について、どこまで機械を通して俺の個性が発現するのか、小技が使える機能を追加できるか、細かい検証を積み重ねながらとなれば学内でサポートアイテムを調整しながら作成するのが良いと思ったことなどを尾白に伝えていたところに急に人影が現れる。

 

「すごいね、心操くん。もうそんなに考えていたんだ。実はちょっと僕も頼みたいんだけど、混ぜてもらってもいいかな?」

「俺は連れて行くだけだから別にいいけど」

「俺も問題ないけどさ、緑谷はどんなのを頼むんだ?」

 

 尾白がそう尋ねると緑谷は怒涛の勢いで喋り出した。こいつの悪い癖だ。

 

「うん、基本的に僕は小回りを利かせてヒットアンドアウェイの立ち回りになるんだけど、どうしても回避できない場面があるから、猪地さんほどの盾じゃなくていいけど、手甲とかで刃物をちょっとでも弾いて受け流せたらなって思ったんだ。回避以外の選択肢が一つでもあるなら全然立ち回りの余裕が違うし。この前は回避先を潰しにかかってこられてやりずらかったから余計にそう思ったんだ。他にも補助の……」

「馬鹿、しゃべり過ぎだっ!」

「し、しまった。つい……」

 

 緑谷が口を押えるがもう遅い。俺たちは保須では一切交戦せずにヒーローに助けてもらったという話になっている。尾白に聞かせていい話ではなかった。

 

「良いよ。心操。なんとなく察しはついてた。俺口固いし黙ってるよ。でも多分なんとなく他のみんなも察してるんじゃないかな」

「え、そうなの? そんなに僕わかりやすかった?」

「いや緑谷たちはともかく、心操はUSJ直後の俺たちみたいな顔を時々してたし。でも大丈夫。心操、お前は一人じゃないから」

 

 尾白は手の甲を上に向けて俺に差し出して来る。まるで円陣を組むかのように。

 

「一緒に強くなろう。俺たちクラスは運命共同体なんだ。勉強が遅れてるなら委員長たちが助けてくれるし、筋肉のことなら猪地や砂藤が良く知ってる。拳法とか習うっていうんなら俺も伝手があるから。だからなんだ、まぁその……」

「尾ー白くん何やってんの?」

 

 言葉をまとめるのに一瞬途切れたところで、間延びした声が割り込んでくる。

 

「葉隠さん? これはちょっと心操から相談を受けてて……」

「流石尾白くん。地味で目立ちにくいから、こっそり相談する相手にはピッタリだもんね」

「そうだね。尾白くんなら目立たないからこういうとき話しやすいね」

「なんだこの胸の痛みは。二人の悪意のない棘が痛いよ」

「その手は円陣やろうとしてたんでしょ! 私もやるやるー! さぁ緑谷くんと心操くんも早く!」

 

 そんなやり取りがあった後、発目のところに向かった俺たち男三人はサポート課のラボで爆発騒ぎを起こしたり、自称ドッカワベイビーとかいうサポートマシンと強制合体して共に中庭へ射出されてしまったり、追加でアイディアをどんどん出し合ったりして、あっという間に日が暮れてしまっていた。

 

 そして二人を先に返した後、自主トレの走り込みを終えて下駄箱に向かっていた時のことだった。

 

「随分と遅くまでやっているようだな。心操」

「人よりスタートが遅い分、もっと頑張らないといけないですから。それより先生はなんでここに?」

「お前がここを通りがかっているのを見かけたからな。丁度渡すものがあったから人目のない今が良いと思った」

 

 俺は先生からアイテムを受け取る。似たような着想は今日ラボでもいくらか話してきた。でもそのアイディアの原点そのものが俺の手の中にある。

 

「生半可な道ではないが、お前にやる気があるなら、捕縛布の使い方を教えてやる。どうする、心操?」

 

 そんなことわざわざ考えるまでもない。

 

「弱いことは罪だって。俺は保須で痛いほど思い知らされました。────それは自分じゃ助けられないってことだから。他の4人と違って俺は誰も助けられていない。あの子も、あの人も結局は泣かせてしまった」

 

 心が求めるがままに俺は口を開いた。

 

「今度は誰も泣かせない。そう決めたんです。だから俺は弱いままじゃいられない。だからコレの使い方、教えてください。相澤先生!」

 

 何をやってでも俺は強くなる。ならなきゃいけないんだ。

 




これで心操くんもようやく本当の意味で1-Aの仲間入りです。彼の場合はさらに敵の悪意が増しておりますが…

前半の話は本来2章終盤でする予定でしたが轟くん、飯田くん、巡理の視点がころころ変わるの中、話の流れの勢いの問題、および敵連合の意図ネタばらし回の後の方がよいとの判断上、今回のタイミングになりました。

ステインの仁王立ち動画が出回っていないのが原作との大きな相違点になります。
上鳴くんの今話での立ち回りだけでなく、敵連合周辺の動きも変わってきます。

飯田くん、巡理、轟くんのパワーアップイベントもまだ残っておりますので宜しくお願い致します。



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