英雄の境界   作:みゅう

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某資格試験も終わったので、ぼちぼち通常投稿再開します。
今回ヒロインパワー増量中です。


第47話 二人の将来

「めぐ……」

 

 俺が口を開こうとする前に巡理くんは掌を差し出して、俺の言葉を制止した。

 

「天哉、私ここで喚き散らしたりするつもりはないからね。ただ、さっきの説明はぶっ飛び過ぎだし、説明を詰め込み過ぎ。言おうとしていることはわからなくもないけれど、ちょっと周りの理解度に合わせて欲しいかな」

 

 いつもよりワンテンポ遅いペースでそう告げる彼女はおそらく、冷静を保つため意識して行っているのだろう。

 

「そうだね、飯田少年。正直なところ私にも今の話だけではよく理解できていなかった。だからもう一度説明をお願いしてもいいだろうか?」

 

 巡理くんの事情と祝福(ハレルヤ)の背景を元々知っていた兄さんと俺との間で見出したのが先の推論だ。おおまかな情報しか知らないオールマイトでは巡理くん以上に混乱していることだろう。

 

 もう一度俺と兄さんの2人で互いに補足を加えながら話を進めていく。要点をまとめると、まず前提となるほぼ確定情報としては、祝福(ハレルヤ)には猪地恵を始めとした多数の治癒系個性能力者の肉体を原料としていることと、彼らが複数の研究施設に監禁されていること。

 

 また祝福(ハレルヤ)の副作用として精神の憑依と思しき症状が発現することは、原料となった治癒系能力者の中に精神系の個性持ちが混ざっている可能性があること。そしてその精神系個性能力者として最も疑わしいのがエンドレスであること。そしてその精神干渉系個性と治療系個性は全くの別物であり、猪地恵の肉体にエンドレスと呼ばれる存在が猪地恵の肉体に憑依しているのではないかという推論に辿り着いたということ。

 

 推論の根拠として、俺との精神世界での邂逅時の言動および、さまざまなパターンのある祝福(ハレルヤ)の配合の中でも、特に治癒能力の高いエンドレスは主原料として使われている可能性が高いこと。および猪地恵以前にエンドレスと呼ばれる名医が存在したことと、エンドレスの活動時期、活動範囲と矛盾する治療実績が世界各地で見受けられること。

 

「んー、わかったような。わからないような」

 

 ピクシーボブは首を捻りながらそう呟く。

 

「俺も小僧たちの言わんとすることはなんとなくは理解できた」

「私も理解が不十分かもしれないが、推論に頼る部分が大きいとは言え、矛盾らしき矛盾も見えないように思える。個人的には可能性の一つとしてあるだろうぐらいに思った方が良いのではないかという見解だ」

 

 グラントリノとオールマイトにもおおよそは伝わったらしい。

 

「お母さんの足取りを前々から調べてくれていたこととか、その推論ももっと早く言って欲しかったとか、色々と言いたいことはいっぱいあるけれど、それは後で良いや。私も言いたいことは理解できたよ。確かに突飛だけど、ないとは言い切れないよね。現状それ以上の推論は私からは出てこないよ」

 

 説明が終わったころには、心なしか巡理くんの怪訝な表情が薄れ、いつもの調子に戻ったような気がする。

 

「それでさ、もしその仮説があっているとすれば、その精神干渉能力を逆探知っぽいことをやってみたいってことが天哉たちの提案だよね?」

「その通りだ。実際偶然とは言え兄さんの憑依先の記憶による救出実績もあることだしな」

「ただそれって実際どう実行するの? 心操くん協力案はなしね。多分能力の範囲外だから」 

「その案も厳しいとは思いながらも少し考えていたが、やはり君もそう思うか」

 

 身近にいる精神干渉系の個性持ちは心操くんぐらいしか居なかったから、これで道のりが遠のいてしまった。

 

「そこで実際に動くのは俺の事務所に任せて欲しいと思っている。天哉の案を実行できそうな個性持ちの捜索と、エンデヴァー事務所やその他の事務所を絡めた情報網の確立による祝福(ハレルヤ)の販売、製造ルートの捜索を進めていくつもりだ」

 

 兄さん以外のここに居る3人のプロヒーローは、この街からあまり離れられないためほぼ兄さんに任せきりになるのは仕方ないだろう。

 

「あとここに居るみなさんへのお願いなんですが、敵連合やメビウスとかの動向には注意を払っておいてください。敵連合は言わずもがなですが、メビウスの方もこの前の事件での護衛の死亡や、このセーフティーハウスによる巡理ちゃんの隔離対応によって、何か動き方が変わるかもしれません。それに目下のところ祝福(ハレルヤ)の製造元として一番目をつけられているのがそこですしね」

「おう、それは俺たち3人に任せろ。妙な動きがあれば都度報告する」

 

 それから祝福(ハレルヤ)の捜査網の現状報告などを含めた今後の具体的な活動方針をプロ4人で話し合うこととなり、お役目御免とばかり俺と巡理くんはリビングから放り出され、彼女の部屋に移動することになった。

 

 

 

             ×         ×

 

 

 

「それでどうして俺は正座させられているのだろうか」

「だってこの部屋に椅子が一つしかないし、ベッドに腰かけるのはちょっと……制服のまま座るの嫌だし。それに真剣な話をするから私も正座しているんです!」

 

 だが妙に途中しどろもどろになってた割には、最後は急に圧が強くなったな。

 

「で、天哉。何か私に言うことはない?」

「基本的にはさっき話した通りだぞ。説明が足りないならば、気になる点を言ってくれれば補足するが」

「そっちの説明は、概要わかったからいいや。今度資料とか見せてもらいたいとも思うけどさ」

「ならば今度ノートやコピーなどを渡そう」

「ありがとう。それでさっきの感じだと特に天哉からの大きな話題はないって判断していいね?」

「あぁ」

 

 俺がそう答えると、グッと半歩分ほど前に座る位置をずらしてから彼女は口を開いた。

 

「天哉、これからすっごく喋っていい?」

「勿論だとも」

「多分私からほとんど一方的に、本当にすっごくいっぱい話すよ?」

「やけに念を押すな。問題ないぞ」

「うん、じゃあ……」

 

 そう言って彼女は手の指を3本折る仕草をして間を開けた。

 

「じゃあ、まずはありがとうね」

 

 何を愚痴られるのかと少々身構えていた中、巡理くんから出てきた言葉は少々意外なものだった。

 

「お母さんのこと、前々からたくさん調べてくれて、そして教えてくれてありがとう。あんまり私の過去を漁るような素振りは見せなかったのにね。敢えて避けてくれていると思っていたから、実はちょっと意外だった」

「敢えて避けていたのは間違いないさ。だがそうするべきかどうかはまず情報がないと判断ができないしな。ただ君は誰かに詮索されるのを好まないことは君と付き合ううちにわかって来たからこそ、必要だと思うときまで話題にしなかっただけだ」

「そういう判断する人だよね君は。だからこそ二つ目を言うんだけどさ。さっきも言った通り私はそれをもっと早く言って欲しかったな」

「そうか、それはすまなかった」

「善意と配慮からの判断だって私にはわかるから、そんなことで謝らなくていいよ。私は実際のところ、はりぼてだらけの豆腐メンタルって自覚はあるもん。多分、ふとした拍子に逆ギレとかしちゃうかもって未来も自分でも安易に予想着くよ」

 

 そう自嘲しながら彼女は首を横に振って告げた。

 

「ただね、知り合った直後とかならともかく、色々あって君とはそれなりの信頼関係を築いたつもりだったんだ。だから多分さっきの私はちょっと寂しくて変な顔していたのかもしれない」

 

 その言葉は俺にとって意外だった。全然俺の受け取り方とは違っていた。

 

「天哉、私と話すとき、明るい話じゃないときとか特にね。最近ちょっと話し方が変わってる自覚ある? ────ストップ、ほら。いま口開こうとしてたけどさ、一拍ぐらい他の人と話すときより間を開けてるでしょ」

「確かに、言われてみればそうかもしれないな」

「全然悪いことじゃないんだけどね、なんか天哉に無理な気遣いさせて、出かかっているはずの本当の言葉を飲み込んでしまっているように見えてさ、本当はどう考えているのかなって、偶にねちょっとだけ不安になるときがある」

 

 強い巡理くんと、弱い巡理くん。どちらも同じ彼女だけれどもそのバランスが酷く危ういのを知ってしまったからこそ、腫れ物に触るような彼女への対応を時折してしまっていたのは事実だ。

 

 良かれとやっていた俺の行動が逆に彼女を不安にさせていたことに、俺は少なからずのショックを感じていた。

 

「そう君は思っていたんだな。言葉にされて初めて気づいたよ」

「そうだね。言葉にしないとお互いわかんないよね。祝福(ハレルヤ)使ったんじゃないんだから」

「酷いブラックジョークだな」

「ジョークのつもりじゃなかったんだけど。まぁいいや。天哉がね、私のご機嫌伺いみたいな対応を偶にするのは、ふとしたことで私がイライラぶつけて、天哉を困らせたりするからだって反省もしてるよ。そういうの良くないってわかってる」

 

 パン、と彼女は胸の前で両手を合わせた。

 

「そこで提案です。まずはお互いね、もっと言葉をドンドン出していこうよ。天哉って、根本的には自分の正しさを中々曲げれないタイプだしさ。さっきも言った通り、最近は一拍押し留めてくれてるのは感じてるけど、モヤモヤを感じてるとき、すごく顔に出てるよ。それでそんな顔見た私も一緒にモヤモヤするの。なんかこれって非生産的じゃない?」

「確かに君の言う通りだ。もう少し俺たちは口喧嘩するぐらいで話すべきなのかもしれないな」

「そうだね。傍から自分たちのことよく見たらさ。たまに、たまーにだよ。私が爆豪で天哉が緑谷くんみたいな関係に、ほんのちょっとだけど、なりかけている気がするんだ」

「極端な例かもしれないが、そうなるのは少し寂しいな」

「でしょ?」

 

 反面教師としてあんまりな例だとは思うが、いまだに関係改善を見せない彼らのすれ違いはいつも見ていて心苦しい。二人とも互いの本音を出せずにいるのは第三者の俺からだってわかるというのに。

 

「言い方悪いけど、あの二人と私たちはまだ違う。色々考え方が違ったってさ、根っこにはお互いのこと思って言ってるのはわかってるんだもん。だから今言ってたみたいに、口喧嘩にたまになってもいいやくらいで居てくれると私は嬉しいんだけど、天哉はどう?」

「俺も同感だ」

「よかった」

 

 彼女はこの部屋に来てやっと初めての笑みを見せた。

 

「それで、それでさ。3個目、ちょっと話がまた飛躍するけどいい?」

「どう飛躍するんだい?」

 

 また半歩分ほど前に座りなおして彼女は言った。今の言葉の勢いと、本音で話そうという先ほどの約束を鑑みるに、きっとここまでが前置きで、ここからが本題なのだろう。

 

「将来のこと」

 

 そう一言だけ口にすると、一つ深呼吸をした彼女はさらに言葉を続けた。

 

「この前ステインに色々言われたこと、あの場ではガンガンに言い返してやったけど、結局色々後で気になってさ」

「英雄回帰か」

「うん。私ね。薄々とはわかってたけど今回はっきりと気付かされたんだ。『誰かを救いたい』じゃなくてね『誰でもいいから救わなくちゃいけない』ってずっと思ってたんだって。緑谷くんみたいに心の底から誰かを救いたいって衝動もなければ、天哉みたいに強い憧憬を抱いているわけでもない。峰田や上鳴くんに結構強くあたりがちだけどさ、きっと私がヒーローになりたい理由なんて彼らと全然変わんないんだ」

 

 彼女の言葉に俺は否定も、肯定もできない。ただ次の言葉を待った。

 

「でも一旦、割り切ろうって思った。完全には吹っ切れていないけれど、気負わないことに決めたんだ」

 

 じっと瞬きも少なに話す彼女の瞳の奥に、あの日の病院の屋上の情景がなぜか映ったような気がした。

 

「貧乏になりたくないからお金を稼ぎたい。お母さんのしがらみから少しでも離れられる強い立場が欲しい。私の手持ちのカードでさ、最大限目指せるのがヒーローってポジションなんだもん」

「その在り方について俺は全肯定はできないが、結果として人を救えるのであれば、間違っているとも言い切れないな。嫌悪とは言わないが俺個人としてはあまり好ましいとは思わないかもしれない」

「うん、そのくらいきっぱり言ってくれて私は嬉しいよ。昔私を救けてくれた人との約束でねヒーローになるって決めたのも、今回の件で色々思い出しちゃったのもあるからステインの言う偽物100%でもないんだけどね。でも、考えれば考えるほど逆にね、この前までの強迫観念よりは、借り物の将来像50%、偽物50%くらいの気持ちで居た方が健全な気がしてきた。そう思ってなくてもそう思おうて決めたの」

「少し君も肩の力が抜けたみたいだな」

「そうだね。出来事的にはもっとグワーッて意固地になるところだった気もするんだけど、なんか一周回って力抜かないと不味いなって思っちゃった。たまにはウェーイなノリでもいいじゃんって」

「上鳴くんみたいにか?」

「そ。ちょっとだけね。それでね。なんていうのかな。職場体験もあったしさ、その先のことと言うか将来像についても真剣に考えてみたんだよ。みんなからも色々聞けたしね。それでここからが本題中の本題なんだけど」

 

 そう言って彼女は右手を俺の前に差し出した。

 

「ヒーローになったらさ。私と事務所を立ち上げて欲しいんだ」

「俺と君でか?」

「うん。実際はもう一人二人は声かけることになるとは思ってるけどね。特にお茶子ちゃんと梅雨ちゃんあたりとかが候補なんだけど、プッシーキャッツみたいなチームを組みたいって考えてる」

「能力的にも、人格的にも君が私には必要だと思ったから、一番に声をかけたんだ」

「俺のことを買ってくれて声を掛けてもらったことは素直に嬉しいが、流石に時期尚早じゃないか? まだ知り合ってたった2、3ヶ月の積み重ねしかないんだぞ。もう少し慎重になるべきじゃないか? プッシーキャッツのメンバーも在学中に結成を決めたとは決めたとは聞いたがここまで早かったわけではないだろう」

「早いとは思うけれど、早く決断しなくちゃって思ったんだもん。誰にも取られたくないって思ったしね。所謂青田買いだよ」

 

 俺の諫める言葉に頭を振って、躊躇いもなく彼女は言い切った。

 

「魅力的な提案だとも思っている。だがやはり君の未来を今の時点から縛りつけるのは、どうかと思うんだ」

「私のことじゃなくて、君の未来のことを考えて話して」

「俺自身の未来か」

 

 実際プッシーキャッツの職場を選んだ理由にもそう言ったチームを立ち上げる際の知見を得るためというのもあったのだ。

 

「嘘偽りなく言おう。君の提案は素直に嬉しい。だがこれは本当に君は俺でよかったのか?」

「うん、根拠は特にないけれどさ。きっと天哉とならうまくやっていけるって思ってる。いや、ちょっと違うかも」

 

 数秒、目を伏せて考え込んだ彼女は再び口を開いた。

 

「天哉とうまく行くようにやって行きたいと。そう思う心を私は信じることにする」

 

 巡理くんは前に進んだ。決意を固めて、立ち止まっていた場所から歩き始めようとしている。

 俺の口にした懸念は大した問題じゃない。

 ぶつかることが幾度あろうとも、彼女とならばきっとうまくいくと俺だって根拠もなく感じている。

 

 だからこれはきっと『今、俺が選択できるのか否か』ただそれだけの問題でしかないのだ。 

 持ち帰って検討してくれというならば、彼女なら最初からそう言葉を発するはずなのに、多少強引でも今押し切ろうとしてる姿勢が見え隠れしている。

 

「これから先、ずっと私と組んで欲しい。だから天哉、これが一生で一番のお願い。ここで、私の手を取って」

 

 彼女の真摯なその言葉を受け、差し出された手を俺は────────

 

 




ラブロマンスはないのです……
飯田くん特攻ヒロインを書いているはずなのに
まだはないのです……

ちょっとずつ、ちょっとずつ進めて居ますが
堅物主人公は恋愛シーンを色々と書いていて心苦しいです

過去作のヤンデレ黒桜のノリが懐かしい


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