「めぐりちゃんたち凄かったねぇ、デクくん」
「うん。何かもう、すごいとしか表現できないぐらいだったよね」
勝った猪地さんと八百万さんは隙のない戦術と綿密に練り込んだ戦略が。負けたとは言えども飯田くんと蛙吹さんペアも臨機応変な対応力とトリッキーな運動能力がとても参考になった。あぁ、何で僕はノートを持って来なかったんだろう。ロッカーに置いてきたことに今さら後悔した。
実戦さながらの戦いを初戦から見せられて他の皆も興奮しっぱなしだ。モニタールームはどんどん熱気を帯びていく。
かっちゃんは────いつも以上に鋭い視線をあの4人に、とりわけ猪地さんに向けている。モニターを見ているときもいつになく本気で考え込んでいる顔だった。
ペアになれなかった余り1人に優秀な3人を加えてのエキシビジョンマッチをかっちゃんは見越しているのかもしれない。
少なくとも猪地さんか八百万さんのどちらかが選ばれるのは確実だろうし、その姿勢を僕も見習うべきだろう。何故なら僕こそがその余りの1名なのだから。
そして間違いなくかっちゃんは優秀な3人に選ばれる。かっちゃんが僕のパートナーになるにせよ、敵対するにせよ波乱万丈なのは間違いない。オールマイトやかっちゃんの前で無様を晒さないためにも、選抜されるであろうメンバーを僕はしっかり観察する必要があるのだろう。
「会話内容の解説も一通り終わったことだし、本題の講評の時間といこうか」
飯田くんと蛙吹さんを励ますように肩を叩くオールマイト。ざわついた雰囲気が締まる。
「まず私からだが、今回の演習は勝利した敵チームはもちろん、敗北した英雄チームも非常にレベルが高かった。私の4人とも予想以上だ。入学早々良いものを見せてもらったよ」
オールマイトが豪快な拍手を送る。それに続いてちらほらと何人かも続いた。僕も当然その中に含まれる。
「さて初戦から非常に良い教材となる戦いも見せてもらった訳だが、少々複雑なので交渉に関してとそれ以外の対応に分けて考えてみようか。では4人以外の皆、前半の突入から戦闘までのところで良いところと悪いところを評価してもらおう。では、意見のある人────尾白少年!」
「はい、まず敵側のトラップの張り方が非常に巧妙だったと思います。特にフェイクの使い方が巧妙でした。そして最初に与えられた時間であの1、2階部分を迅速に用意できたことが後の展開を大きく左右したと思います」
「大きく左右って?」
芦戸さんが尾白くんの発言に対して首を傾げる。周りの様子を見れば、彼の言わんとすることを理解していそうな人とそうでない人と半々ぐらいだろうか。
「何の意味もないフェイクも含ませることで、設置側は時間短縮できるのに対し、突入側は発見・判断・処理又は回避の手間が必要になり多大な時間を取られます。そしてフェイクに慣れを生じさせてきたところでの本命の罠の張り方が巧かったです。そして一部を除いた罠のほとんどが時間稼ぎに特化していたところが敵チームの戦略面とマッチしていたと思います。若干、八百万さんの準備にかかる負担が大きかったのは否めないと思いますが敵チームの前半部分について俺が思ったことは以上です」
遅延戦術で時間を確保して核防衛の準備や迎撃の用意を万全にすると思わせつつ、“時間の消費そのもの”が目的だと悟らせなかった意識の誘導術。それがあのペアの巧かった所だ。僕も彼と同じくそう思う。
「うん良い講評だ。尾白少年の言う通り、敵チームは罠というよりも時間の使い方が巧かった。これが大きなポイントだ。それでは英雄チームはどうだろうか?」
「はーい!」
「ではそこの────確か、葉隠少……」
オールマイトが言葉に詰まった。宙に浮いた手袋しか見えていないんだから戸惑うのも仕方がないと思う。
声でしか性別が判断できないし、そもそも入学二日目で21人の見た目と名前を一致させるのも大変だろうな。僕だってまだきちんと挨拶出来ていない人もたくさんいるし。
「飯田くんはあんなにいっぱい罠があったのに、それをちゃんと見つけてビュンビュン避けてたのが凄かったです。二階の人形もすぐ蹴り返して扉も閉めたし、周りを見てすぐに判断できるのが良いところだと私は思います。梅雨ちゃんは飯田くんに息を合わせるのが上手でした。ちょっと滑ったときとか、網を投げられても飯田くんをしっかり投げたり、突入のタイミングがピッタリのところとか冷静でカッコよかったです!」
「イエス。概ねその通りだ。あれだけの数の罠を短時間で潜り抜けた注意力と判断力、ショートカットなどの思い切り、そしてこれは両チームに言えることだが細やかな意思疎通と僅かなミスを埋める様な連携。これが前半部分においての良い点だろう。多少罠にかかったりもしたが、悪手らしい悪手はなかったと私は思う」
飯田くんの方をちらりと見ると、オールマイトにフォローされて険しかった顔が少しマシになったような気がする。
「それではここからが核心部分だ。敵チームが持ちだしたあの戦闘とその後の交渉だ。ああいった理不尽な状況は非常に現実的な展開だ。訓練と違って敵は本気だ。命を賭けているかどうかは場合によるが、少なくとも彼らの人生がその一戦に掛かっているわけだからな。人質を始め、無茶な要求や理不尽を持ち出して来るのが前提だと考えてもいい」
オールマイトの言葉が胸に響く。幾多もの理不尽の壁を打ち壊して来た本物の英雄が放つその言葉には重みがあった。誰かがゴクリと固唾を吞む音がした。
「それを君たちヒーローは打開しなければいけない訳だが、実際に君たち英雄チームならどう対応したか。どうだ爆豪少年、君の意見を聞かせてくれ」
挙手したわけでもないかっちゃんを指名するオールマイト。かっちゃんだったらどうするのか。かっちゃんを超えるためにも僕はそれを知らなくちゃいけない。
「敵の要求なんか無視してぶっ飛ばす……って言いたいところだが、そもそも交渉以前にだ。最初に部屋へ突入した時点で電源ぶっ壊して、んで柵ぶち壊せば済む話だろうが。躊躇ったのがあいつらの落ち度。ビビって勝機を棒に振りやがったとしか俺には見えねぇ」
相変わらずの物言いだ。うわぁ、凄い顔で飯田くんがかっちゃんを睨んでるよ。かっちゃんの言い分は確かに一理あると思う。相手は頭脳派敵ならば時間を与えない速攻と奇襲がセオリーだ。でも────
「イヤイヤ爆豪、お前や砂藤、オールマイトみたいに破壊力ある個性ならともかく、あの二人は少々キツイだろ。あとは俺みたいに電気が効かない奴なら別だけど」
「だが無理ではない。八百万の武器を奪って利用するという手もあった。それに怪我の一つや二つで確保できるなら安いとは考えられないか。リカバリーガールも居る訓練でなら尚のことだ」
金髪でメッシュを入れている方が上鳴くんで鳥の頭をしているのが常闇くんで合ってたかな。確かに飯田くんの脚力を考えれば怪我を前提にすればあの有刺鉄線の電気柵を突破できたはずだ。
常闇くんがかっちゃんの策を後押しするのもわからなくもない。そしてかっちゃんがイライラを一切隠さないまま言葉を続ける。
「本来なら英雄チームは核の確保か敵の捕獲か常に判断を迫られる。なのに敵は戦闘一本に絞りこんだ。ってことはよっぽど戦闘に自信があるか、それまでの罠の性質からしてもっと意地汚ねぇのを張ってるかだ。残り時間を考慮しないのは論外だが時間をアイツらに与えんのは最悪に近けぇ。そもそもパートナー含めて互いの戦闘能力が把握できちゃいねぇんだ。英雄チームが戦闘に絶対の自信がない限り、速攻で核を狙うのがベターだろうが。自信満々な罠が見えてるんだ。あの時点での敵は破られることは考慮していないはずだ。そこを突かずに勝ち目があると勘違いした時点で負けて当然だ。小型爆弾の設置まで仕掛けていやがったが、言い出させる前に終わらせれば問題がなかった。違うか、オールマイト?」
「ま、まぁ爆豪少年の言うとおり速攻案も正解の一つだな」
かっちゃんの容赦ない批判に皆が圧倒されている。極端な案だけど凄く正論だ。
オールマイトもかっちゃんに色々言葉を取られてしまったかのようで、一瞬間をおいて考えてから口を開いた。
「様々な倫理や法に縛られている英雄と違って敵が取れる手段の数は圧倒的に幅広い。だからこそ相手の選択肢を如何に潰すかも重要になってくる。時間を与えないという視点は重要だ。相澤くんが良く言う言葉だが時間は有限だということを忘れないように」
「爆豪お前って頭すっげぇ回るんだな。キレてばっかだから意外だ」
「あ!? てめぇら頭使わなさすぎなんだよ。脳みそ筋肉やろうが! 眼鏡と蛙もだ。場面場面での対処はそれなりだったかもしれねぇが、後手に回り過ぎだ。先手を取るって発想がそもそもねぇ。だから負けんだよ」
かっちゃんのボディーブロウが効いた様で、頭を抱える砂藤くん。そして飯田くんも胸を押さえている。彼も意外と喜怒哀楽激しいよね。猪地さんが背中をさすってるけれど大丈夫かな。
「戦術ではどっちも競っていたが、戦略面においては差が顕著に出たって感じか」
「あー確かに」
うなずく常闇くんと切島くん。
「では他に皆ならどうする?」
「はーい、説得だよ説得! ドラマでよくあるじゃん故郷の家族が心配しているぞとか、今なら罪は軽くなるぞとか、なんかこう熱意で!」
「あのときは時間が足りなかったような……」
「でも本当にあれが核という前提なら爆発させられるよりマシかも」
オールマイトの問いにノリノリで答える芦戸さんに皆がコメントを加えていく。あの男子二人、名前なんだっけ。早く覚えないとなぁ。
「あとは仲間割れとか裏切らせるとか。疑心暗鬼にさせる感じとか猪地ならやりそうじゃね?」
「うん、狙えそうなネタが見つかれば狙うね。ただ余程相手の情報を持っているか、ボロを見せてないと無理だけど。だから私は爆豪の言った策を取ると思ってた」
「発電機はフェイクで私の分の捕獲テープが発射されるように仕込んでいましたけれどね」
「うわぁ」
「お、おう……」
軽い気持ちで言ったであろう上鳴くんの言葉に対し、それ以上の事をあっけらかんと言い放つ二人に再びドン引く皆。思わず僕も言葉が漏れ出てしまった。聞けば聞くほど飯田くんたちが不憫でならない。
オールマイトもなんだか額に冷や汗が見えるけど、ここまでやられるとはきっと思ってなかったんだろうなぁ。先生って大変だ。
「無理無理。あんなのオールマイトでもなけりゃ無理だろ」
「だよねぇ」
誰かが諦めたように言う。でも本当にそうかな。あれが訓練じゃなくて本当の現場だったら。手に負えないレベルの頭脳犯が相手だったら。“今の僕たち”には無理でも────
「峰田少年、君は別の意見があるようだね」
「へ?」
オールマイトに呼ばれたのは意外にも性欲の権化みたいな峰田くん。彼自身も知らず知らずのうちに手を上げていたみたいだ。
「オイラだったら、もしあれが本当の敵で人質をどうしても助けられないような状況だったら……逆に時間を稼いで援軍を待つことしかできないと思う」
「おいおい、時間稼ぎって飯田の二の舞じゃんか」
「負けるつもりかよ」
萎んだ声で自信なさ気に話す峰田くん。個性、基礎体力、戦闘技術、そして戦術眼の高さをあれだけ二人に見せつけられたのだ。そんな風に言うのも仕方がないと思う。
ため息交じりで峰田くんを批判する声が上がり、誰かが同調する。
でも僕は峰田くんの言葉は間違いじゃないと思った。見せかけの勝ち負け以上に重視するべきことはあるんだ。
「僕は峰田くんの言うことにも一理あると思うよ。オールマイト、今回のように明確な実力差と一般人が負うリスク高かった場合、僕も会話や遅延戦闘で援軍を待つのも一案だと思います。これだけの市街地という設定ならヒーロー事務所もいっぱいあるはずなので」
「てめぇは口を閉じてろ。糞ナードが!」
「理屈わかるけどよ、漢としてそりゃどうなんだ?」
切島くんが残念そうな目で見るのも、かっちゃんがいつも以上の語気で罵倒するのも仕方ない。僕だって本当はこんな後ろ向きで情けない発言はしたくない。ヒーローを目指す者として、オールマイトを目指す者としては自力での解決を諦めたくはない。
けれど、僕の決断一つで皆の命が左右されるなら、一か八かとも呼べない無謀な選択よりは無難な選択をするべき場面がきっとあるんだと思う。あの日の僕や飯田くんは知っている。いや、知ってしまったんだ。僕らが天秤にかけているのは決して自分の命だけじゃないってことに。そして安易な行動が何を犠牲にするのかを。
確かにあの日の僕は命がけの行動で猪地さんと麗日さんを助けることができた。でもそのせいで僕を助けるために飯田くんも命をかける羽目になり、そして結果的に猪地さんのプライバシーを無茶苦茶にしてしまった。
あれは僕の罪。一生消えない心の傷を、更に追い討ちをかけてしまった。
退院直前のお見舞いの時、慌てて週刊誌を隠して取りつくろっていたけれど、頬に残っていた涙の跡を忘れることなんてできやしない。
勢いだけでも、考えるだけでも守れない。自分の非力さを、浅はかさを、怠慢を、僕はもっと自覚しておくべきだった。だからこれから僕はもっと強く、もっと確実に。そして僕はできるだけ早くオールマイトみたいに完璧なヒーローにならなくちゃいけないんだと思う。でも今の僕が考える最善はさっきの発言の通りだ。
オールマイトは僕のこの発言をどう捉えるのか。一番合理的な答えを出したつもりだけど、やっぱりがっかりされるんだろうか。
「よく閃いた。ナイスアイディアだ峰田少年、緑谷少年。頼りになる援軍のあてがある場合に限られるが、自分の手には余るという判断を下した場合はそれも一つの策だな。切島少年の言うようにヒーローとしては少々格好つかないかもしれないが、事態を悪化させないことに注力するというのは良い着眼点だ。そして付け加えるならば、君たちのような経験が浅い者ほどその判断が推奨されてしかるべきだろう」
最強のヒーローが僕の発言を肯定したのが皆にとっても意外だったらしい。明らかに不満気な顔をしている人が半分は見てとれる。
「もう皆はわかっているだろうが、今回の対策には正解と呼べるものは存在しない。実際の戦闘であってもだ。勝利を得る前提ためには爆豪少年の、リスクを減らすなら緑谷少年の案が今回出た中では良い選択だろう。逆に説得など情に働きかけるのは非常に難易度が高い。そういうことに適した個性を持つか、卓越した話術を持たない限り上手くいくことはほとんどない。だがそれがもっとも平和的な解決策だ。だからこそ皆も説得を試みるという手段は決して忘れないでいて欲しい。時と場合にはよるがな」
「流石、ナンバー1ヒーローが言うと言葉の重みが違うな」
「だね!」
誰もがオールマイトの言葉に聞き入っていた。敵だって人間だ。多少なりとも同情する部分がある事件だって多いし、そもそも事件じゃなくてただの個性の暴発などによる事故だったり、誤解だったり、そういったケースだって少なくはない。穏便に事態を収拾できるならその方がいいに決まっている。
猪地さんのご両親のことだってあれから色々ネットで調べてみたけれど、僕にはエンドレスの行動の何もかもを否定しようだなんて到底思わない。エンドレスと言えば大物敵御用達の闇医者ってイメージが先行しているけれど、実際に助けられた人のほとんどは一般人だということはちょっと検索するだけですぐわかる。テレビでは絶対に放送されないけれど。
エンドレスはリカバリーガールに引けを取らないほどの世界最高峰の医者の一人。彼女が起こした奇跡と呼ばれる偉業は数え切れないほど。崇拝者たちが
結局、明確な悪なんてものはマスコミを通して得る情報ぐらいしか接する機会が殆どないんだ。だからこそ、まだ本当の悪を知らない僕たちに敵の事を知るという選択を猪地さんと八百万さんはこの初戦で提示しようとしてオールマイトはそれを認めた。
ずる賢いんじゃなくて、あの二人はどこまでも優等生だからこんなことを考えたのだろう。オールマイトの講評で皆がそれを少しずつでも理解してくれるきっかけになったと信じたいけれど、二人の――特に猪地さんのイメージが少なからず“怖い”というのはあまり良くなかったかもしれない。
猪地さんはどこまで考えて、どこまで覚悟してあんな策や演技をしたんだろう。
「力づくの解決だけがヒーローの仕事ではない。だが力づくの解決が必要になる場合も多い。だから重要なのは広い視野と判断力。今後君たちがヒーローになった後も、それは心に留めて置いて欲しい。そしていざという時に無理を押し通せるだけの力をこれからの三年間で身につけて貰うつもりだ」
「脳筋ってのも大事なんだな」
説得力がありすぎる。そうだよ、オールマイトぐらい振り切った脳筋なら、何の悩みも要らないんだ。
「ねぇ、飯田くんはラスト直前どう考えてた? 何やら二人でアイコンタクトしてたけど」
「時間限定の超加速を温存していたからな。俺が味方を拘束する振りで油断を誘い、直接二人を捕獲するつもりだったのだが……」
「実力行使派だったかぁ。あの戦闘以上の速度出されたら私も多分お手上げだったかな。時間切れ直前だと気付いても動揺してなかったら私たちが負けてたかもね」
猪地さんが今にも吐きそうな表情の飯田くんへ問いかけ、そして自らの敗北の可能性を示唆した。しおれた真夏のヒマワリがジョウロいっぱいに水を貰った様に、飯田くんの表情がみるみる内に生気を取り戻していく。
「そう言えば猪地くん、あのタックルのときの俺の視界から消えたように見えた技は、体術と個性どっちだったんだ?」
「どっちもだよ。私から漏れ出している波長、分かり易く言うなら気配みたいなのを一気に押し留めるのと、その直前に視線と重心で誘導かけてたんだよ。まぁ、私は大柄だから完全に視界の外に回れないから小細工をね」
タックルのとき、飯田くんからはそんな風に見えていたのか。僕にはあっさりと飯田くんがフェイントに惑わされただけに見えていた。
「なるほどな。戦闘でも俺はまだまだということか。精進しなければな」
「次はリベンジしましょうね。飯田ちゃん」
「あぁ梅雨ちゃん」
お堅いイメージの飯田くんがちゃん付けって珍しいな。この一戦で随分と二人の距離が縮まったみたいだ────って凄い、猪地さん見てる。すごく見てるよ飯田くん!?
× ×
僕以外のメンバーの訓練と講評が終わった。いよいよ僕というオマケを加えたエキシビジョンマッチ。間違いなく一番の激戦になるはずだ。鬼が出るか、蛇が出るか。高まる鼓動が首を締めつける。
「まずは防衛側のベストメンバーとしてHコンビから一人選出したいが、消耗を加味するとなれば……」
「百ちゃんはこれ以上創造するの大変だし私かな?」
「ですわね。今回はお譲りします」
まずは順当に猪地さん、誰もが納得の展開だ。
「それから先生、猪地さんの対抗馬は機動力、戦闘力、判断力を兼ね備えた爆豪さんが適任だと思います。轟さんも凄いですが、このクラス全員の個性の相性と屋内戦ということを鑑みると轟さんだと釣り合わせるべき相手が見つかりません」
「確かにその通りね。あの凍結を真っ当な方法で防げるのって爆豪ちゃんぐらいだもの」
続けて喋る八百万さんがかっちゃんを推薦する。その推薦理由も、あえて轟くんを推薦しなかった理由も至極真っ当だ。
かっちゃんが敵でも味方でもちょっと嫌だな。そんな考えが自然とよぎる。でもこれはかっちゃんに追いつくための良い機会なのかもしれないと思い直した。
「確かに。轟少年の活躍は見事だったが、お手本ということを考えると防衛ではHコンビの両者、潜入側として爆豪少年が適任だと私も思っていたところだ。残るもう1人の選定だが、一度皆の個性も見たことだしある程度バランスを取りたいのだが……」
「ではまず猪地くんと爆豪くんを分け、どちらに緑谷くんが付くかを決めた後に、残る組に適任のメンバーを選ぶのはどうでしょうか?」
「うむ、ナイスアイディアだ飯田少年。ではボールは……緑谷少年は爆豪少年とだな」
「げっ?!」
「はぁっ!? なんで俺がデクなんかと!!?」
睨まないで、睨まないでかっちゃん!!
「チッ、デクが敵だったら手加減なしで殴れたのに」
「となればもう1人は瀬呂少年を指名しようか」
殺気が、殺気がいつにも増してすごいよ。
絶対アレだ。轟くんより格下扱いされたからだ。八つ当たりオーラが全開だ。もう始める前から不穏な予感しかしない。でも……
「今は頑張れって感じのデクなんだ」
君の隣に立てるんだって、認めさせてやる。
ヒロインの現時点での設定公開。
■パーソナルデータ
名前:
出身:九州の様々な中学を転々
Birthday:7月7日
Height:176cm
出身地:熊本県
血液型:O型
好きなもの:新鮮な果物
戦闘スタイル:後方支援・近接格闘
■ヒーローズステータス
パワー:B
スピード:B
テクニック:B
知力:S
協調性:A
■個性:
自らの体力を触れた相手(服越しも可)に渡せる。
離れたところの生命反応の探知や、近くに居る人物の体調診断も可能。
各器官に直接体力を送り込むことでその部位の体調を整えることができる。
ただしリカバリーガールのように怪我の回復速度を短期的に上げるのは不可能。
デメリットは自らの体力を譲り渡すため、新鮮な果物や生野菜による生命力の摂取が必要となること。
摂取量と貯蓄量が消費量に追いつかなかった場合、自身の昏倒や最悪の場合死亡も有り得る。
この個性についてまだ本人が明かしていない部分も多い。
【挿絵表示】