「ほんっと、おいしかったー! すき焼きっ」
「おまえ、すげー食ったなー。あれだけ見事な食いっぷり見せてくれたら、親父も作りがいがあるよ」
肉をおいしそうに頬張り、元気よくご飯のおかわりをしていた翔多の様子を思いだしながら、浩貴は笑った。
「でも、浩貴のお父さんっていいよなー。豪快にすき焼きを作ってくれる父親って、なんかうらやましい。オレの父ちゃんなんか縦のものを横にもしないんだから。まだ伯父さんのほうが、たまに伯母さんの手伝いしたりするからマシだよ」
翔多が柔らかなそうな唇を少しとがらせて、言う。
翔多は目下、母方の伯父夫婦の家に下宿中の身なのである。その下宿先まで二人自転車を押しながら歩く。浩貴の住むマンションから、翔多の下宿先まではゆったりゆっくり歩いても、二十分もかからない。自転車だとあっという間に着いてしまう距離だ。別れるのが寂しいので自転車には乗らない。もう少し二人で他愛のない話を楽しみたいから。
「わー、見てみ、浩貴。空、満天の星だよー」
翔多が左手を思い切り夜空に伸ばしながら言った。
「ほんとだー・・・って、見えねーって。思い切り雲ってますー」
一面雲で覆われた夜空を見上げ、浩貴が苦笑すると、
「浩貴と一緒にいる夜は、オレの心にはいつも満天の星空が広がってるんだもん」
「~~~~~」
「わ、浩貴、真っ赤になっちゃって、かーわーいーい」
翔多はいたずらな仔猫のような顔で笑い返してきた。そして、人差し指で、つん、と浩貴の頬をつつく。
そんな彼が可愛くて、愛しくて、その華奢な体を抱きしめ、キスしたい衝動にかられる。だが、浩貴の溢れそうな想いはストップをかけられた。
目の前には年季の入った和風の二階建て。翔多の下宿先に着いてしまったから。
翔多を送り、帰ってきてから風呂に入って、ベッドにもぐると、まだ微かに翔多の香りがシーツに残っていた。ポカポカした小春日和のお日様みたいな香りは、彼の人柄そのものだ。浩貴は、そっとシーツを撫でた。
男二人で眠るには狭いシングルベッド。でも、翔多と恋人関係になってからは、その狭さは逆に愛しくなった。独りで眠るのが寂しい。
・・・翔多、おやすみ・・・。
恋人の残り香をふわりと感じながら、浩貴は眠りに落ちていった。
浩貴と翔多は、中学生からの同級生で、親友同士だった。高校も同じところに進学したのだが、それは別に意図したわけではない。成績が同程度で、通学するのも自転車で可能という便利さゆえだ。
二人が通っている日向高校は、三年間クラス替えがなく、浩貴と翔多は現在二年二組、同じクラスである。
そして、同じく日向高校二年二組には、浩貴の幼なじみの少女、城上ミヅキもいた。
浩貴とミヅキは、それこそ物心つく前からの付き合いだ。浩貴にとってミヅキは、同い年ながら、妹のような存在だった。
中学校に進んでからは翔多も加わり仲良くなった。家が近いこともあり、放課後や休日には三人で一緒に遊んだ。
このミヅキの存在が、浩貴と翔多の関係を親友から恋人へと変えるきっかけだった。ミヅキは、彼女自身はまったく気がつかないうちに、彼らの恋のキューピッドになっていたのだ。