ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。 作:投稿参謀
※ご指摘を受けて、少し修正。
手足の感覚がない。
身体の内も外も激痛が走り続け、目は色を映さず耳に聞こえる音はまるで途切れない悲鳴のようだ。
(これが、ヴェイダーの見ている世界なのか……)
もはや麻酔も意味を為さない激痛に覆われた肉体の内側では、悲しみと憎しみがマグマのように煮え滾り、それが大きく膨らんで、他の思い出や感情を覆い尽くしていく。
母の温もりも、師と笑い合った日々も、弟子と駆け抜けた時間も、絶望に塗り潰されて消えていく……。
(ああ、この感覚は憶えている……)
大切な者の喪失。
信じていた世界の崩壊。
抱えきれない罪の意識。
生きながらに魂が死んでいく感覚……。
幼馴染の少女が、人ならざる物に成り果てた時。
実の父親を、その手にかけた時。
母と慕った人を、犠牲にした時。
衛宮切嗣は、これと同じことを感じた。
医療ドロイドたちが忙しなく動き回り、手術台に固定されたアナキン・スカイウォーカーの体に機械を接続していく。
機能を失った内蔵や感覚器官の役割を果たす機具の数々。
切断された四肢に装着される義肢。
焼け焦げた肌を覆う黒い装甲。
それはもはや生身の体を機械に置き換えると言うよりは、機械の中に有機物を埋め込んでいるような状態だ。
最後に髑髏のようなマスクが被せられ、アナキン・スカイウォーカーは機械の中に埋没した。
ダース・ヴェイダーという機械の中に。
「アナキン……いや、ヴェイダー卿よ。余が分かるか?」
かけられた声はしわがれた老人の……パルパティーンの声だった。
聞かなければならないことがある。
「はい、マスター。……パドメは無事なのですか?」
口から漏れた声は、変声機を通されており、アナキン本来の声に比べて重く低い物になっていた。
「……………彼女は生きておる」
「ッ! 本当ですか?」
「辛うじて、だが。……お前のフォースが、彼女の命を危険にさらしたのだ」
冷厳とした声に言われて自覚する。
ああ、あれは悪夢などではなかったのだ。
嫉妬と怒りから、自分は愛する妻を手にかけたのだ。
「今なら、間に合うかもしれん。……船は用意した。行くがよい」
「感謝致します。この御恩は必ず……」
「早く行け!!」
半ば怒鳴るようにして、パルパティーンはヴェイダーを焚き付ける。
その黄色い目には、怒りとも悲しみとも……そして期待とも付かない、複雑な感情が浮かんでいた。
* * *
小惑星ポリス・マサの医療施設。
砕けた惑星の欠片の、その一室では、オビ=ワン・ケノービとヨーダ、ベイル・オーガナ議員が話し合っていた。
黒い短髪を撫でつけたベイル・オーガナは惑星オルデランの王配であり、パドメやヨーダとも親しい元老院議員でもある。
「それでは……アナキンは虐殺などしていないと?」
「そうじゃ……全ては儂の、いや儂たちのミスじゃ。メイスにも、話しておくべきじゃった」
「そんな……そんなことが……私はなんということを……」
ヨーダの言葉に、オビ=ワンは絶望のあまり両手で顔を覆う。
苦痛を背負って、弟のように思っていた弟子を手にかけたのに、それがメイス・ウィンドウの暴走から連なる……誤解だったとは。
こんな悪い冗談が、この世にあるだろうか?
「すぐにアナキンを助けに……」
「アナキンは、パルパティーンが回収した。動けるようになり次第、こちらにやってくるだろう」
踵を返そうとするオビ=ワンを、ヨーダは制した。
「お主はいてやれ、彼女の傍に……」
「……はい」
ガックリと項垂れ、オビ=ワンは頭を抱える。
その顔は、何十年分も歳を取ったように見えた。
「パドメは大丈夫でしょうか?」
「分からん。フォースがどんどん弱くなってゆくのを感じる」
「オビ=ワン!!」
その時、部屋の中に女性が入ってきた。
赤い肌に顔の上下を覆う白地に青い縞模様のある器官が特徴的な、トグルーダの少女だ。
その少女に、オビ=ワンは見覚えがあった。
苦い思い出と共に、決して忘れることのできない相手として。
「アソーカ? 何故ここに……」
「儂が呼んだのじゃ。アソーカは、アミダラ議員の友人じゃからの」
オビ=ワンの疑問に答えたのは、元弟子のそのまた元弟子である少女ではなく、緑色のグランドマスターだった。
それを、アソーカ・タノ本人が補足する。
「たまたまコルサントにきてて、そしたら共和国が終わるとかオーダーが解散するとか……もう、ワケが分からくなっていたところに、マスター・ヨーダから連絡が入ったんです……彼経由で」
アソーカの視線の先には、白地に青のアーマーを着込み髪を刈り上げたクローンが立っていた。
「レックス?」
「お久しぶりです」
敬礼するクローン・キャプテンを、オビ=ワンは何処か疑わしげな視線で見た。
それも当然で、発動しなかったとはいえ、彼らの脳にはジェダイ抹殺の指令が刷り込まれていると言う。
レックスは、戦友の視線の意味を理解し、少し悲しそうな顔になる。
「警戒されるのも分かります。しかし……」
後ろを向き、自分の後頭部にある手術跡を指差すレックス。
「この通り、埋め込まれていたバイオチップは取り除きました。……それでも自分がおかしくなったら、すぐに斬ってください」
「レックス、そんなこと言わないで」
アソーカはそんなクローンを諌める。
彼女にとって、クローンに命令が刷り込まれているという事実よりも、彼が共に戦場を駆けた友人であるということの方が、遥かに重要なのだ。
そこでアソーカはより重要なことに話題を変える。
「それで……アミダラ議員の容体は?」
「あまり良くない。……どんどん弱っている」
オビ=ワンの答えに、アソーカやレックスの顔が曇る。
「そんな、どうして……」
「私のせいだ。私が……もっと賢かったなら!」
「いいや、儂の責任じゃ。アソーカの時に続き、儂はまたしても間違った……」
己の愚かさにオビ=ワンもヨーダも嘆く。
「唯一の救いは、あの双子か……」
「双子って? どういうことですか?」
ヨーダの呟きに、アソーカが反応する。
「パドメの子じゃ……スカイウォーカーとの間の」
『子供!?』
その答えに、アソーカやレックスは目を剥く。
アナキンのフォース・グリップによって致命傷を負ったパドメだが、ポリス・マサの治療施設の優秀さもあって何とか出産することが出来た。
オビ=ワンはその時のことを思い出す。
『オビ=ワン。あの人にはまだ良い心が残っています』
『どうか……アニーを助けてあげてください』
そう、今にも力尽きそうなか細い声で彼女は言った。
しかし……あの時、ムスタファーで対峙した時、アナキンは完全に闇に堕ちているように見えた。
だからこそ、オビ=ワンも全力で戦わざるをえなかった……いやそれは言い訳だ。
あの時、自分もまたアナキンを恐れていたのだ。
負けたのはシスの暗黒卿にではない。己の中の恐怖にだ。
そんな時……。
「あーお! ごめん、ミー遅れたかな? 道を聞いてもここの人たちの言うこと、さっぱりで……」
急に、喧しい声が聞こえた。
その声に、オビ=ワンは嫌な予感を抑えることが出来なかった。
何とか首を巡らしてみれば、案の定、両生類系のエイリアン、ナブー原住のグンガンが立っていた。
「ジャージャー? ……ジャージャー・ビンクス?」
「あー……その、見つかちゃって。どうしても付いてくるって聞かなくて」
困ったような表情になるアソーカ。
どうやら、彼女に引っ付いてきたらしい。
オビ=ワンは額に手をやる。
何でよりにもよって、こんな時にトラブルメイカーの中のトラブルメイカーが現れるのか。
「ワーオ! オビー、会いたかったよ!」
「あ、ああ……どうも、ジャージャー」
「パドメが大変なことになったって聞いたネ! もうミー心配で心配で……」
手を握りブンブンと振るジャージャーに、オビ=ワンはまあいいとしておく。
心配してくれるのは確かだし、一応このグンガンはパドメと友人同士ではあるのだ。
「皆様! 皆様! 大変でございます!!」
そこへ、C-3POが両手を上げ慌てた様子で……このプロトコル・ドロイドが慌てるのはよくあることだが……部屋に入ってきた。
「アナキン様が、アナキン様がいらっしゃいました!!」
その言葉に一同の表情が強張るのだった。
* * *
オビ=ワンは他の者を残してアナキンを出迎えるべく発着場に向かった。
何故彼一人かと言えば……何が起こるか分からないからだ。
少なくとも、自分はアナキンに憎まれているだろう。
『あんたが憎い!!』
そう叫んだ、弟子の顔が脳裏から消えない。
発着場では、共和国……今は帝国で広く使用されているシャトルが着陸するところだった。
シャトルのタラップが降りると、ゆっくりと誰かが降りてくる。
それはもちろん、アナキン・スカイウォーカー……そのはずだった。
身を包むのは闇のように黒い装甲服とマント。
胸や腰周りには何かの機械が明滅している。
そして顔には髑髏のようなマスク。
あまりに異様な、その姿。
「…………妻に会いに来た。退け」
声も、機械的に変声されたのだろう重低音だ。
これが……これがアナキンだというのか? これではまるで、機械ではないか。
「退け」
衝撃のあまり声も出ないかつての師をどう思ったのか、そのアナキンらしき人物……ダース・ヴェイダーは、もう一度強く言うと、腰のライトセイバーに手をかける。
オビ=ワンは、思わず自分もライトセイバーに手を伸ばそうとして……。
「もうオビーなにやってるのヨー!」
急に聞こえた呑気ですらある声に脱力した。
チラリと見れば、やはりグンガンが大慌てで走ってくる。
「パドメが大変なのに、なにしてんの……オーウ! そこの真っ黒いヒトは誰ネ!? なに、ワルモノ!?」
「…………ジャージャー・ビンクス? 何故ここに?」
警戒して良く分からない戦闘態勢(意味は無い)を取るジャージャーに、ヴェイダーは驚く。
「オウ、どうしてミーのこと知ってるネ!? ミーってば有名人?」
「…………パドメに会いに来た。僕の妻だ、会うことに何の問題がある?」
百面相しながらビックリしているジャージャーを半ば無視して、ヴェイダーは話を進めようとする。
だがそれに反応したのはやっぱりジャージャーだった。
「パドメが奥さん? 違うヨ、パドメはアニーの奥さんネ。ミーも最初聞いた時はビックリしたけど、思えばお似合いで……」
「だから! 僕がそのアナキンだ!!」
要領を得ないジャージャーに、ついにヴェイダーは怒鳴り声を上げる。
ビクリと体を震わせたジャージャーだが、すぐに訝しげな間抜け面になる。
「アニー……? ユーは、ホントにアニーなの?」
「……ああ」
答えるヴェイダーだが、少し自信なさげだった。
彼自身、もう自分がアナキン・スカイウォーカーなのか、その残骸なのか、分からなくありつつあった。
「なら早く行くネ、アニー! パドメが大変ヨ!!」
「あ、ああ……」
ジャージャーはそんなアナキンの葛藤にも構わず、彼の手を引っ張っていく。
もう、その奇異な姿は気にしていないらしかった。
二人の背を見ながらオビ=ワンは思う。
ジャージャー・ビンクスは、誰もが認める愚か者だ。
余計なことしかせず、皆の足を引っ張る。
しかし、この場においては……。
オビ=ワンはグンガンに引かれていく黒衣の男の背を見ながら、初めてジャージャー・ビンクスがいてくれて良かったと心から感じたのだった。
カッコいい雁夜おじさんがいる、綺麗な慎二君もいる。
黒くない桜ちゃんだっている、壊れてない士郎君すらいる。
ならば、役に立つジャージャー・ビンクスがいてもいい。それが二次創作だ(暴論)
……つまり筆者は、ジャージャーが嫌いじゃないんですよ。
次回こそ……次回こそ! 過去編終了!!