ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。   作:投稿参謀

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最後のジェダイの公開が近づいてまいりました。
楽しみな反面、不安も大きいです。


そして父になる

 ジャージャー・ビンクスに案内されて……途中、5回ほど道を間違えそうになって後ろからついてきたオビ=ワンに訂正された……辿り着いた部屋には、ヴェイダーの見知った顔が揃っていた。

 

「みんな! アニーが来たヨー!」

 

 陽気なジャージャーの声に対する反応は、それぞれだったが、皆『それ』がアナキン・スカイウォーカーだとは信じられないようだった。

 

 かつての弟子、アソーカ・タノ……ヴェイダーの異様な姿に口元を押さえていた。

 

 副官であるクローン・キャプテン、レックス……メットを外した顔は固く強張っていた。

 

 ジェダイのグランドマスター、ヨーダ……沈痛な面持ちで、顔を伏せていた。

 

 自分が創り出したプロトコル・ドロイドC-3PO

 

 親友でもあったアストロメイク・ドロイド、R2-D2……戸惑いがちに電子音を鳴らしていた。

 

 ベイル・オーガナもいたが、彼についてはあまり知らない。

 

 そんなかつての友人や仲間たちの間を抜け、ヴェイダーは歩く。

 

 部屋の奥のベッドの上に、彼女がいた。

 求めていた……ヴェイダーが傷つけてしまった、パドメ・アミダラが。

 腕に、眠る二人の赤子を抱いて。

 

「パドメ……」

 

 名前を呼んでから、それがもうアナキンの声でないことに気が付いた。

 この姿だって、もはや若きジェダイの面影すらない。

 そもそも、パドメを手にかけたのは自分だ。

 受け入れてもらえるはずがないじゃないか。

 

 不安ばかりが先行して一歩を踏み出せないヴェイダーに、ベッドの上のパドメは弱々しく微笑んだ。

 

「アナキン……来てくれたのね」

「! ぼ、僕だって分かるのかい!?」

「もちろんじゃないの……もう目も見えないし、声もほとんど聞こえないけど……それでも貴方を分からないはずがないわ……」

 

 掠れた声で言う妻に、アナキンは我知らず震える。

 機械の内側で、嬉しさと罪悪感が複雑に混じり合って渦巻いていた。

 

「良かった……最後に、あなたと会えて……」

「最後だなんて、そんな……すまなかったパドメ。僕は……僕、は……」

「いいのよ、アナキン……それよりも、来て」

 

 子供のように震えるアナキンを、パドメは招き寄せる。

 

「見て、あなたの子供たちよ……双子なの……」

「僕の、子供……」

 

 妻の手の中で眠る双子に、アナキンは手を伸ばそうとして……手を引っ込めた。

 独特の呼吸音が早くなり、それに連れて震えも大きくなる。

 

「あ、あ、ああ……!」

 

 自らの腕を掻きむしり、マスクとそれと一体化したヘルメットを引っ掻く。それを無理やりに外そうとしているかのように。

 その異常な様子に一同が固まる中、オビ=ワンはアナキンを止めようとする。

 

「アナキン! 止めるんだ! それを外したら死んでしまう!!」

「外してくれ!! これを外してくれ!! お願いだ!!」

 

 暴れるアナキンを宥めようとするオビ=ワンだが、アナキンは泣き叫ぶ。

 自分の腕で、妻と子供たちに触れたい。

 自分の目で、妻と子供たちを見たい。

 

「アナキン……アナキン、済まない! 済まなかった……!」

 

 弟子のその願いを察し……それが永遠に叶わなくなったことが、自分の責任であることを理解し、オビ=ワンは機械と化した弟子の体を抱きしめる。

 アナキンはもはや暴れることすらせず、すすり泣くだけだった。

 

 しばらくの間、皆が沈黙していたが、やがてヨーダが静かに声を出した。

 

「ふむ、腕はどうしようもないが、直接見ることなら……できるかもしれん。そう、ここにいるジェダイが力を合わせればな」

 

 

 

 

 

 

 アナキンを囲んだヨーダ、オビ=ワン、アソーカの三人は、全員でフォースを操作し一種のフィールドを作る。

 この中でなら、生命が活性化され一時の間だがアナキンはマスクを外すことが出来た。

 R2とレックスに手伝ってもらってマスクを脱ぐと、火傷に覆われた顔が露わになる。

 その悲惨な姿に、皆が息を飲んだ。

 

「……アナキン」

「パ、ドメ」

「アナキン、さあこの子たちを抱っこしてあげて」

 

 妻の声に、今度は自分の声で答えることができた。

 そして恐る恐る子供を受け取る。

 機械の腕は温もりを伝えてはくれなかったが、重みははっきりと伝わった。

 

「これが……これが、僕の子供……!」

「ええ、そうよ。男の子は、ルーク……。女の子は、レイヤ……」

「ルーク、レイヤ……」

 

 ヴェイダーの手の中でスヤスヤと眠っていた双子は、突然目を覚ました。

 ビクリと体を震わせるヴェイダーだが、子供たちはヴェイダーの顔を見て幼い顔に笑みを浮かべ、小さな手を伸ばす。

 

「あらあら……やっぱり、お父さんだって分かるのね……」

「あああ……!」

 

 アナキンは堪え切れずに涙を流しながら子供たちに頬ずりする。

 まだ死んでいない僅かな感覚が、微かにその温もりと柔らかさを教えてくれた。

 もう見えていない目でも、それを感じ取ったのかパドメは笑みを少しだけ大きくすると、目を瞑る。

 

「良かった……」

「パドメ……!? パドメ! そんな、嫌だ、嫌だ……! お願い、いかないで! 僕を一人にしないで……」

「ねえアナキン、貴方は一人じゃないわ……」

 

 泣きながら訴えるアナキンに、パドメは消えそうな声でいう。

 振り返ると、皆がいた。

 

「ねえ、アナキン。私はもう、軍にもジェダイにも戻ることは出来ないと思う……それでも、あなたの友達よ」

 

 アソーカ・タノ。

 自分以上に勝気で考えなしのお調子者。

 彼女はいつだって、自慢の弟子だった。

 

「オーダー66のことを知った今、自分の中で共和国……帝国への忠誠は揺らいでいます。しかし、スカイウォーカー将軍への忠誠は失われていません!」

 

 レックス。

 彼はいくつもの戦場を共に駆け抜けてきた最高の戦友だ。

 

「アニー……ミー、バカだから、分かんないこと多いヨ。でも、分かることもあるネ。……それはミーとアニー、友達ってことよ」

 

 ジャージャー・ビンクス。

 彼をグズと、嫌われ者と罵る者は多い。

 だが、そんなことはアナキンの友達でいてくれたという事実の万分の一の価値もない。

 

「アナキン様……わたくしの造物主様。これからも、あなたにお仕え致します。……R2もそう言ってます」

 

 C-3PO。

 アナキンが組み上げたプロトコル・ドロイドは、いつだって主人を気付かってくれた。

 R2-D2。

 戦友であり、親友であるアストロメイク・ドロイドは、静かに電子音を鳴らした。

 

「アナキン、済まなかった。……いたらない師だな、私は」

 

 そしてオビ=ワン・ケノービ。

 一度は殺し合った師を、アナキンはもう憎んではいなかった。

 

 手の中で双子が小さくもがく。

 命の息吹を、アナキンは強く感じた。

 幼くとも力強いフォース。

 

(ああ、そうだ。何を勘違いしていたんだろう。僕はずっと、一人なんかじゃなかったのに)

 

 自らの傲慢さと独りよがりな思い込みで、その全てを失う所だった。

 

「アナキン、愛しているわ……その子たちを……お願いね……」

 

 そう言って、パドメは眠るように息を引き取った。

 安らかな、最期だった。

 

 ……それが、衛宮切嗣が見た最後のアナキンの記憶だった。

 

  *  *  *

 

「…………ッ!」

 

 目を覚ませば、切嗣は変わらずアインツベルンの城の一室で椅子に腰かけていた。

 どれだけ眠っていたのだろうか。窓からは夕日が差し込んでいる。

 酷く、気分が悪い。

 目に手をやると、涙が流れていることに気が付いた。

 

「…………」

 

 あれは、ただの夢などではない。

 何かの偶然で自分はヴェイダーの過去を垣間見たのだ。

 

 結果感じたことは……アナキンは、結局いつだって愛する者のために動いていたということだ。

 それがどれだけ独善的で自分勝手でも、アナキンは愛する者を守ろうとしていた。

 

 ……では、自分はどうだろうか?

 

 世界から争いを無くそうとするのは、誰のためだ?

 

 アイリスフィールやイリヤスフィールのため……否。

 妻を犠牲にし、娘から母を奪う行為が彼女たちのためなはずがない。

 

 舞弥のため……否。久宇舞弥は、消費される道具でしかない。

 そんな扱いが彼女のためなはずがない。

 

 シャーレイや父、ナタリア、死んでいった多くの人々のため……否。

 彼ら彼女らはそんなこと望んではいなかった。

 

 この世界のため……否。

 切嗣は、そんな殊勝な男ではない。

 

 ……ああ、そうだ。

 自分のためだ。

 自分だけのためだ。

 自分が罪の意識から逃れるためだ。

 

 分かり切っていたはずなのに、当に自覚していたはずなのに、アナキンの生き方を見て、そのことをどうしようもなく突き付けられた気分だった。

 

「だからって、だからって……! 今更どうしろっていうんだ……!」

「キリツグ」

 

 その時、声がした。

 誰の声かは分かっていた。

 

 顔を上げれば、部屋の隅に闇に溶け込むようにしてダース・ヴェイダー……アナキン・スカイウォーカーが立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は随分と遡る。

 

 惑星ナブーでパドメ・アミダラの葬儀が行われているころ、惑星コルサントはジェダイ・テンプルの一室で、二人の老人が対面していた。

 一人は、火にかけた鍋をかき回す緑色の小人……ヨーダ。

 一人は、椅子に泰然と腰かけたローブの老人……パルパティーン。

 

「さて……これで未来は失われたワケかな?」

 

 パルパティーンは、死人のようになった顔に亀裂のような笑みを浮かべた。

 

「我が弟子、ダース・ヴェイダーは体と共に多くのフォースを失った。これでもはや、前人未到のフォースの高みに至ることはできまい……普通ならな」

「しかし、高みへの道は一つではない」

 

 反対に、ヨーダの顔は苦しげだった。

 パルパティーンは笑いを堪えきれぬという様子で続ける。

 

「そう、道は一つではない。いずれヴェイダーは出会うだろう。己の運命(フェイト)にな……その日まで、ゆるり待てばいい。我らシスは待つことには慣れておる。数年ほどどうということはない」

 

 余裕に満ちた態度のパルパティーンにヨーダは息を吐きながら、鍋の中のドロドロとした液体を柄杓で掬い、器に注ぐ。

 この液体はヨーダの好物であるお茶だが、どうにも他の種族にはかなり不味い物らしい。

 オビ=ワンはこれを半分ほど飲んでダウンし、アナキンは一口含んで吐き出した。メイス・ウィンドウですら、一杯飲み干して以降は決して飲もうとしなかった。

 

 だから、これはほんの小さな嫌がらせだ。

 

 オーダーも何もかも失った老人なりの、せめてもの意趣返し。

 

「お茶を淹れた。飲むといい」

「いただこう」

 

 そしてパルパティーンはお茶を一口含み……。

 

「おお、これは旨い!」

 

 こうして、ジェダイマスターとシスの暗黒卿は茶飲み友達になった。

 




ずっと前から決めていた、この回のタイトルとオチ。

本当は、もうちょっと書きたいこともあったけど、間延びするんで、スルッと現代へ。

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