さて、続きです。
『…取蔭、そっちはどうだ?』
「…う~ん、五階に人の気配は無し。現在四階調査中だけど多分ここにも居ないか~」
『了解した。…でも、警戒はしてくれ。隠れるのが上手いのかも知れない…』
「はいは~い!了解だよ鎌切っち」
『俺達も進もう。さっさと核の位置を特定しないと』
『了解だ…泡瀬』
ヒーローチーム3名は数の利を活かして核兵器の位置を割り出す作業を行っていた。
そもそもこの対人戦闘訓練は核兵器の眼前での戦いになりやすい。
初めての戦いでは、相手の“個性”の情報が少ないため手の内が分からないことが非常に多い。どんな状況でも互いにカバー出来るように遊撃を出さない事が多い。
遊撃を一人送り出す場合、遊撃者には相手チーム二人をたった一人で相手にしなければならないリスクを背負うことになる。
そのリスクを背負えるとしたら「二人相手でも渡り合える程の高い戦闘力を持つ」か「奇襲・逃走を成立させる程の高い索敵・隠蔽能力を持つ」者でなければならないだろう。
『取蔭切奈』は後者のタイプである。
“個性:とかげのしっぽ切り”
所謂「トカゲの自切行動が出来る」“個性”であるが、ここでは“個性”の
彼女は自切行動以外にも、トカゲの生態も僅かに引き継いでいるのだ。
まずはその隠密行動力。彼女はトカゲの仲間「やもり」と同様に壁に張り付いて自在に動ける。しかも、トカゲの敏捷を合わせ持つため、音も無く素速い移動が可能だ。彼女は“
加えて彼女は時折、舌を出したり閉まったりしている。
『ヤコプソン器官』またの名を『鋤鼻器』と言われる嗅覚器官の一種だが、爬虫類の“個性”の血を引く彼女にも備わっている。
彼女は空中に漂う「残り香」から「そこに人が居たかどうか」を判断できる。
高い索敵能力と隠蔽能力を併せ持つ彼女の役割は「敵の位置の特定」である。
他のメンバーが到着するのに時間が掛かる上の階層、残りのメンバーが下の階層、この両方をローラー作戦で探索をし、一気にアジトの踏破を試みる。
もし仮に取蔭が敵を発見した場合。速やかに後退し、仲間と合流。その後に一気に叩けば良い。
最悪捕まってしまっても、「捕まった」と言う事実から敵の情報が落ちる算段で有る。ある意味、訓練のルールを逆手に取った戦法とも言える。
作戦は見事にはまり、敵地の空白は次々埋められていく。決戦は近い。
_______________
泡瀬・鎌切の2名はアジトを下の階層から探索。二階へと到達した。
「…来るっ!」
「っ!?」
突如通路に流れる風。そして、微かに聞こえる叫び声。戦いの時は来た。
「いいぃぃっやっほおぉぅぅぅっっ!!」
通路から出て来たのは大入。仮面の下から覗く瞳は狂気に染まり、見る者に少なくない恐怖を与える。全身に風を纏い、爆進する狂乱の道化師が手に持つのは、刃渡り60センチを遥かに凌ぐ「蛮刀」。
「んなっ!?」
余りの速度に狭い通路を曲がり切れず、速力を活かして強引に
「模擬刀の先制攻撃だべぇっ!!!」
速度・重量の乗った浴びせ斬りを咄嗟に鎌切は両腕を交差して受け止める。
刃物を持った相手なら、「それは自分の領分だ」と感じたからで有る。
“個性:刃鋭”
身体を自在に、時には刃物のように、時には槍のように、鎌のように、斧のように、ありとあらゆる刃物へと変える。
両腕を「刀」にした鎌切は、大入の不意打ちを全力でガードする。余りの衝撃の重さに身体が沈みそうになるのを必死に耐え、何とか踏みとどまる。
しかし、大入は既に連撃に走っている。攻撃を凌ぐと判断した大入は姿勢を低くし、水平蹴りで鎌切の足元を薙ぎ払う。上方正面からの攻撃に意識を集中した鎌切の反応は遅れ、見事にすっころぶ。
泡瀬は慌てて、大入の迎撃のため拳を繰り出す。大入はその攻撃を蛮刀の腹で受け止め、お返しとばかりに逆立ちから跳ね起きるするかのように顔面への両脚キックを繰り出す。
「ちょっくら借りてくよ~!!」
「うおおぉぉっっ!」
予想外な攻撃を思わず無理な体勢で回避した泡瀬。その隙を逃すなんて馬鹿なことはしない。大入は隙だらけになった泡瀬の首根っこを掴み、再び風を纏って逃走。鎌切を置いてけぼりにして泡瀬を拉致しながら一階へと逃げる。
「くそっ!待ちやがれっ!」
「お生憎様。残念だけれど、僕の相手をして貰えないかな?」
「何っ!!」
全く予期していなかった戦法に鎌切は急いで泡瀬の救助に向かう。しかし、無防備を曝したその背中に、隠れていた物間の跳び蹴りが炸裂する。ヒーローチームは早くもヴィランチームのペースに呑まれていく…。
「さて“個性”を君で試させて貰うよ…」
「お前っ!」
皮肉たっぷりの物間の笑顔に鎌切の感情は怒りに染まっていく。
________________
「泡瀬君を隣のお部屋にシュウゥーッ!!」
「ぐあっ!!」
「超!!エキサイティング!!!」
アジト一階。首尾よく泡瀬を拉致した大入は、このフロアの一番広い部屋へと放り込んだ。どこぞの
泡瀬は相手の策に嵌った事を悟った。ヴィランチームの目的は「不意打ち」からの「戦力分断」、そして「各個撃破」だ。その証拠に、入ってきた扉にはいつの間にかドラム缶が積まれ、完全に閉じこめられた。
「さて…と。改めて自己紹介しとおこうか『チーム・サンジェルマンの大入福朗だ、我らの根城へようこそ。歓迎しよう、盛大にな!』」
泡瀬は速やかに大入を捕らえにかかる。ここで彼を捕縛すれば残るは物間のみ、最悪足止めさえ出来れば、残りのメンバーが救援ないし核兵器の確保に迎えると判断した。
泡瀬は自らの装備を取り出す。
手に持つのは二振りの小さなハンマー。柄の部分にはロープを結びつけており、それがハンマー同士をつなぎ合わせている。
そのロープの中心を持ち、ロープをグルグルと回転させる。ぶら下げたハンマーはブンブンと空を切る。泡瀬は充分に遠心力を得たそれを大入に向けて投げ飛ばす。
東南アジアで開発された「ボーラ」。
琉球古武術に見られる暗器「スルチン」。
忍者が用いる「分銅鎖」。
…まぁ、名前や流派はどうでも良いが、泡瀬の放った武器はそれらに類似したものだ。
ハンマーに腕を絡め取られた大入は大きく体勢を崩し、壁際へと追い遣られる。泡瀬は追撃の手を緩めてはいない。続け様に投げられたのは数本の「ドライバー」。
投げナイフの要領で投げられたそれは、大入の戦闘服の端々を貫き、昆虫標本でも作るかのように壁へと縫い付ける。
大入はドライバーを抜き取り、脱出を試みるが、浅く刺さっているはずのドライバーは想像を遥かに凌ぐ強度で突き刺さり、抜くことが敵わない。
理由は泡瀬の“個性”に隠された裏技に有る。
『泡瀬洋雪』
“個性:溶接”
手に触れた物を分子レベルで繋ぎ合わせる。但し、結合したいモノとモノに触れていないと発動しない。
実は「結合したいモノとモノに触れていないと発動しない」と言う一文が曲者で、説明の頭に「予め」という言葉が付く。泡瀬の手のひらから流れる「接合エネルギー」は過剰に流し込むことで、僅か数秒ながら「モノの中に蓄積させる」事も出来る。これにより「接合エネルギー」を帯びたドライバーを壁に当てる。
ここに更なる裏技が加わる。
泡瀬は自分の位置に近い壁に手を当て「接合エネルギー」を全力で流し込む、許容量最大で流し込まれたエネルギーは壁全体に伝播し「何処でも溶接可能な状態」にした。
〈遠隔溶接〉
どちらの裏技も大量の体力を消耗するし、接合レベルも非常にお粗末なモノで有るが、「ジョーカーボールにより情報がバレている以上、相手の予想の上を行く必要がある」泡瀬はこの非効率的な用法を使わざるを得なかった。
必勝の型が決まり、完全に動きを封じた泡瀬は自分の勝利を核心した。仕上げのため、泡瀬はトドメの一撃を繰り出すべく、磔の道化師へと接近する。
「この勝負!貰ったぁぁっ!!」