オリキャララッシュで読みにくいかも知れませんが、それでも良かったらお付き合い下さい。
続きになります。
「さて、さっそく始めましょうか?」
「はいっ!お願いします」
「はっはいっ!よろしくお願い致します」
稽古で滅多打ちにされた大入がペナルティーを消化するべく、家事をしに去ったのを見送ると拳藤と塩崎の指導に取り掛かる。
手荷物を空き部屋に置いて、動きやすい服装に着替えた後。拳藤・塩崎の二人は目の前の女性、大入福朗の師である『
既に何度かの稽古を付けて貰っている拳藤は幾分か余裕のある声で答える。
一方、塩崎は緊張した様子だ。クラスメイトで、しかもクラストップ級の実力を有する大入をその穏やかな表情のまま一撃で沈めた惨劇が頭から離れず、畏れを抱いている。
そんな初々しい反応に訓練を始めた頃の大入や拳藤のことを思い出し、内心ホッコリしている大屋敷である。
しかし、普段からあらあらまあまあうふふのふというご近所の奥様スマイルがデフォルトと化している彼女の顔から感情を読み取るのは非常に困難だ。
その判りにくい表情読み取れるのは寝食を共にする施設の子供達くらいだろう。
ともあれ、そう言った事情だけは理解している拳藤は話の先を促す。
「じゃあ大屋敷さん。最初はウォーミングアップからですか?」
「そうね、何時ものからはじめましょうか」
「いつもの?」
「…お母さん。連れてきたよ」
軽くストレッチをしていると先程のつり目の少年『葛西束』と猫娘『三宅寧々子』。加えてもう二人、一人は『長い髪を一本の三つ編みにした涙ホクロの少女』、もう一人は寧々子より更に幼い『癖毛がやんちゃな印象を与える少年』がいた。
「じゃあ、説明するわね。とその前に…『
「分かった」
大屋敷に促されて一人が塩崎の前に立つ。新しく現れた三つ編みの少女の方だ。
「はじめまして
「はい、初めまして」
「早速で済みませんが、髪の毛を少しくれませんか?」
「えっ!?」
礼儀正しい挨拶から一変、目の前の少女がポケットから鋏を取り出して髪の毛を要求する。驚愕する塩崎だが、すぐに拳藤が事情を説明する。
曰く、ここでのトレーニングには私有地である山の中を使用する。その広大なスペースでは、迷子になることもあるそうだ。
そこで目の前の三つ編み少女『川瀬琴葉』の“個性”が役に立つ。
“チャットルーム”
限定的テレパス。DNAを摂取することでアカウント登録を行い、言葉を電波に変えてリアルタイムでの通信が出来る。送信だけじゃなく受信や中継も出来る優れもの。
通信距離・人数制限はまだまだ発展途上。
つまりは、非常時の為の連絡手段を確保したいとの事だった。
そう言うことならと、塩崎は髪の毛の先を切り取り、川瀬に渡すと…。
彼女はそれを食べた。
それが“個性”に必要なプロセスだと理解していても塩崎は驚いてしまう。
通信テストを済ませるとようやく本題に入った。
「じゃあ改めて説明するわね。ウォーミングアップに「鬼ごっこ」をして貰うわ」
「鬼ごっこですか?」
「そうよ~。ルールは鬼役は一人、フィールドは山全体、“個性”の利用は有りだけど怪我しないように気をつけてね」
「じゃあ鬼役は塩崎さん。逃げ役は
「あぁ、分かりました。よろしく塩崎さん」
「はい、よろしく…あれ?拳藤さんとそちらの子達は?」
「塩崎さんはこの山に土地勘が無いでしょうし、逃げ役は一人で良いわ。拳藤さんにはこっちの二人を相手にして貰うわ」
「「いつかお姉ちゃん頑張るにゃ(よ)!」」
「なるほど…こりゃ大変だ」
拳藤が頬搔いて少し困った顔をする。その表情に疑問を浮かべた塩崎が声を掛けようとするが、それより早く大屋敷が手を叩く。
「はいっ!じゃあ塩崎さんからっ!
よーい、どん! と掛け声を言うとつり目の少年葛西が森へと駆けていく。一分間という短いようで長い時間の後、塩崎は急いで追跡を始めた。
「…随分意地悪な組み合わせですね」
「あら、拳藤さん?二対一は不公平?」
「違いますよ。私の方じゃ無く茨の方です。よりにもよって…
「うふふっ、ちょっとした力試しよ。彼女が何処までやれるか見ておかないと…。それより拳藤さんも準備して?すぐに始めるわよ」
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「~♪~♪」
洗濯機の奏でる弱々しい振動音に耳を傾けながら、デッキブラシを手に取る。
じゃっ、じゃっ…という心地良い手触りと音を楽しみながら鼻歌を歌う。この間教育番組で流れていた歌だ。
大入は師匠との約束を果たすべく、最初に風呂掃除から取り掛かった。
雄英高校は通学に距離があるため、家に居る時間は極めて少ない。したがって、以前は頻繁に行っていた手伝いは殆ど出来なくなっていた。
久しぶりに手伝う家事は、何処か懐かしい気持ちになる。
元々、独り暮らし経験(転生前だが…)もある大入にとって、家事は苦にはならない。ちび達の分もあるから量こそ多いものの、反対に言えばそれくらいしか問題は無い。
それすらも普段は出来ない親孝行の代わりと思えば些細な事だ。
大入と師である大屋敷との付き合いは、大入が4才の時からである。“個性”を得たばかりの幼い児童が身寄りも無く、この施設にやってきて、大屋敷とは10年もの歳月を共にした。
大入にとって彼女は「母親」と言っても差し支えない。
ヒーローを目指すと決めたときに背中を押して、ここまで鍛え上げてくれた彼女には一生頭が上がらない事だろう。
「福兄。洗濯機空いたよ」
「おっ、すまんな
いつの間にか洗濯機が停まり。洗い物を取り出した女の子が大入に声を掛ける。
洗濯物篭を抱えて去っていったのを確認すると。空いた洗濯機に男物の衣服を放り込み、洗剤を入れてタイマーをセットする。
洗濯槽に水が注ぎ込まれ、再び心地良い振動音が響き渡る。
問題が無いのを確認すると、ブラシを手に取り中断した風呂掃除に戻る。
「惜しかったんだけどな~」
大入は先程の組み手の反省に耽る。
以前より練習していた「〈揺らぎ〉を直接防具として転用する方法」がある程度形になったので、今回は実践に組み込んでみることにした。
勿論、大入が前世に見ていたアニメの知識を再現した物であるが、その完成度は「足下にも及ばない」。何せ本家は竜巻を飛ばしたり、電撃を放ったり、挙げ句の果てには時間まで止め出すのだから大入では再現しようが無い。
しかし、ある程度の強度が得られたのは重畳。暫く鍛え上げる事に決めた。
水道の蛇口を捻り、ホースから水を出す。その水でお風呂の洗剤を洗い流しながら、思考を次に切り替える。
(塩崎さん大丈夫かな~?まぁ、一佳は何回か師匠の指導を受けてるし、問題ないだろうけど…。師匠ってば突拍子もなくトンデモナイ訓練したりするしな)
彼女の訓練は基本的に実践形式だ。月に数回の模擬試合を行い、そこから課題を探して鍛錬する。そのため条件を付けて模擬試合が行われる事が多い。
例えば、普通に乱取り稽古のようにそのまま闘う事もあれば、足場の悪い河川で闘う事もあるし、光源が無い新月の夜にサバイバルバトルを強いられる事もあった。
闘う環境のみならず、例えば蹴りのみに限定する、武器一つだけ使用する、“個性”のみで闘う、など闘い方も制限を盛り込まれていた。
理由としては、「より実践に近づけるため、どんな状況でも闘えるようにし、使える手札から戦いを工夫することを忘れないように」とのことだ。
今回の場合は「20手以内に必殺の一撃を当てる」という制限を付けられた。
それにしても、何でこんなメチャクチャな練習方法なのかと疑問を感じるが、実際に結果は出ているのだから強くは言えない。
(…うん、時間作って覗きに行こ、そうしよ。
となれば、ちび達のおやつの準備とお昼も近いからそれの仕込みもして、お茶でも入れようか)
次の仕事の整理を終えた大入は、掃除用具を片付けてキッチンへと向うことにした。
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「…お母さん、戻ってきたよ」
「あら、早かったわね拳藤さん」
鬼ごっこに拳藤・塩崎を送り出して早30分。
大屋敷と川瀬に加えて大入に『紡』と呼ばれた少女が合流し、3人で洗濯物を干しながら時間を潰していた。
すると、山の中から拳藤が二人の子供を連れて戻ってきた。両手を繋いで仲良く歩いている。
「…只今戻りました。やっぱり時間掛かっちゃいますね」
「あら~、それでも充分合格ラインよ。さすがトレーニングは欠かしていないようね」
「一佳お姉ちゃんはとっても速かったにゃ。
「うん!いつかねーちゃんすごかった!」
「ありがと~う、嬉しいこというね」
「「きゃー!」」
「あらあら…」
小さい子供二人からの尊敬の眼差しに、拳藤は一回り巨大化した“大拳”で応える。
その大きな手の平で頭をワシャワシャと撫でると子供達は幸せそうに喜ぶのだ。
「おっ!一佳戻ってきたのか?早いな」
家の中から大入がひょっこりと顔を出す。手には山盛りのお茶菓子とピッチャーに入った飲み物を持ってきた。
「「おやつだーっ!!」」
「はいストーップ。ちゃんと手洗って来な」
「「はーい!」」
「琴葉も紡もお疲れ。一緒におやつどうだ?」
「食べるよ。これ終わったらね」
「んー。私はいいや」
「そっか」
大入の指示に従って子供達が家に駆け込んでいく。そして、川瀬・紡は洗濯物を干す作業に戻った。
「…あれ?塩崎さんは?」
「茨はたばねと「鬼ごっこ」だ」
「あぁ、なるほど…はあぁっ!?」
塩崎と葛西の組み合わせを聞いた途端、その事実に大入は素っ頓狂な声を上げる。その声量に思わず一佳は顔を顰める。
大入はそのまま大屋敷に詰め寄り、苦言を呈した。
「ちょっと師匠!いきなりその組み合わせは反則でしょう!?」
「あら?貴方から事前に聞いた“個性”を鑑みると、束が一番
「確かにそうかも知れませんが、相性最悪じゃないですか!?」
「だからこそよ。あの子の“個性”は優秀だけどそれだけでは駄目。弱点にも通用するように鍛えないとね」
「だったらせめてアドバイスくらい…」
「福朗」
大入の抗議に大屋敷は制止を掛ける。フワリとした雰囲気がガラリと変わり、空気が鉛のようにズンと重くなる。
そして、一息入れてからこう返した。
「…そう言った事は自分で気付かないと意味がないの。貴方にも常々教えているでしょう?」
「…っ!し、失礼しました」
「分かれば良いのよ。さあ、お昼も近いのだから支度してきなさい」
「そうですね…では戻ります」
塩崎に同情するも、大入の主張は通らず。仕方ないからと家事の続きに入った。
それを見届けた大屋敷はため息を一つ漏らす。気分を整えた後、拳藤に向き合い稽古を促した。
「じゃあ、身体も温まった様だし始めましょうか?」
「はいっ!お願いしますっ!」
それに拳藤は威勢のよい返事をして、大屋敷の後を着いていく。
戦いに意識を切り替える前に、拳藤は塩崎を案じた。
塩崎が