転生者「転生したんでヒーロー目指します」   作:セイントス

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36:突撃!隣の大入君! 3

深い緑に被われた山の中。郊外とは言いながらも目と鼻の先には大きな街も在るのに、ここまで豊かな自然というのは早々お目にかかれないだろう。

危険な猛獣の類も居ないらしく、精々栗鼠や小鳥などの小動物、大きくても狸や狐の類が居るくらいだ。

今がトレーニングの真っ只中で無いなら、のんびりと散歩に耽るのも悪くない。

 

トレーニング中でもなければ。

 

 

 

 

 

         (塩崎さん。まだ続けま

         すか?)

 

 

乱れた呼吸が繰り返される中、塩崎茨の脳内に声が聞こえる。

 

事前に登録した、川瀬琴葉の“個性:チャットルーム”を仲介して送られてくるテレパシー。葛西束の声だ。

 

 

(…いいえ、まだお願

いします)

 

         (あぁ、かれこれ一時間

         になりますよ?

         ウォーミングアップは

         もういいではないです

         か?)

 

 

 

何がウォーミングアップか。

 

 

塩崎は思わず悪態を吐かずにはいられなかった。

「逃げる相手に触れて捕まえる」だけのルールでは在るが、“個性”を使用しているため様式はヒーロー基礎学で行った「屋外逃走劇」と酷似した物だ。要領は心得ていた。

しかし、相手は年下だと油断して掛かると痛い目を見る、と言うよりも見た。あの大入の家族なだけあって“個性”の扱いも卓越している。

 

準備運動とは名ばかりで、これは(・・・)歴とした訓練だ。

 

 

(これは私の腕前を見定

める試験なのでしょう?

でしたら、ここで諦める

ことは出来ません…)

 

 

それがたとえ「塩崎が不得手とする相手」でも。

 

 

 

 

          (…)

 

          (…あぁ、よかった)

 

 

 

「ここで諦めるようでは母さんの稽古には着いていけませんから…」

「…っ!」

 

 

声を聞き、塩崎は咄嗟に前方へと飛び込む。そして間を置かずに、先程まで塩崎が立っていた場所を豪炎(・・)が走り抜ける。

草木が燃えて消し炭に変わる。

葛西からの攻撃だ。

 

回避に成功した塩崎が反撃にと無数の“ツル”を葛西に向けて伸ばす。上下左右に前方、加えて回り込ませたツルで背後まで詰める。僅か数秒間で繰り出された完全包囲の一撃だった。

 

対して葛西はその展開速度と同時制御の精密性に舌を巻きながらも迎撃の態勢を取る。手に持っていた「オイルライター」を前に掲げ、火を灯す。小さな火種は周囲の空気を喰らい、瞬く間に巨大な炎に膨れ上がる。

火柱が巻き起こり、迫り来るツルの尽くを焼き払う。

 

 

「あぁ、お粗末。背中を狙う“ツル”が茂みの音でバレてますよ」

 

 

葛西が両手を前に翳すと火柱は散り、無数の小さな火の玉に変化する。それらが無軌道に入り乱れながら塩崎に放たれる。先程の「一点集中の直線」ではなく「回避の困難な面制圧」。

 

 

「くっ!」

 

 

塩崎はこれに対処できない。先程の完全包囲に全神経を集中していた弊害で、反応がワンテンポ遅れたのだ。

苦し紛れに腕で顔を防ぐ。火の散弾は塩崎の体を撃ち、僅かに肌を焼く。

 

腕を解くと葛西は既に居ない。再び逃走に切り替えたようだ。

 

 

          (「一撃で決まる事なんて

          滅多に無い。

          常に二手三手先まで

          考えろ」

          福兄が母さんに言われて

          いる言葉です)

 

 

塩崎は相手の立ち回りに完全に翻弄されていた。

 

 

『葛西束』

“個性:火炎操作”

大火災から小さなロウソクの火まで、炎を自在に操る。僅かな火種からでも空気や可燃材を喰わせて爆炎に育て上げる。

 

 

塩崎のツルを封殺する最悪の相性だった。

 

 

「何か…何か突破口はっ」

 

 

塩崎が葛西の“個性”を見てあることを思った。

 

それはNo.2ヒーロー『エンデヴァー』。火炎・爆炎系統の中でも最強クラスの“個性:ヘルファイア”を持ち、その圧倒的な攻撃力で数多くの敵を倒し、捕縛してきた実力者。

その仮想敵とも言える相手と彼女は対面している。

もちろん塩崎の中学時代の学校にも火炎系統の“個性”を持つ者は当然居た。しかし、ここまで強力で変幻自在な物は中々お目にはかかれない。

 

 

あらゆる手を尽くした。

物量に物を言わせた正面からの力押しは火力を集中した高熱で焼かれた。

全方向からの襲撃は今しがた躱された。

岩などの燃えない物質で仕掛けると近くの巨木を斬り倒して盾にされる。

 

 

「あっ」

 

 

塩崎はこの時、あることを思い出す。それは雄英高校入学初日、それもヒーロー情報学の授業。

 

今から約一年ほど前、突発的に発生した事件、通称「ヘドロ事件」。

静岡県にて、“流動体で生物を取り込む個性”を持つ敵が中学生を人質に取る。中学生は自らの“爆発する個性”で抵抗を試み、周囲を巻き込む大事件に発展した。

少年が叩き出した被害に、相性の良かったヒーロー『バックドラフト』は被害を抑える作業に掛かりきりになり、その場に居合わせた『シンリンカムイ』『デステゴロ』『Mt.レディ』及び大多数のヒーローは二重三重の悪条件に手が付けられず、二の足を踏む膠着状況となった。

その事態を終息させたのは、あの『オールマイト』。拳圧でヘドロを引き剥がし、敵を沈黙させるという離れ業をやってのけたそうだ。

 

塩崎はここに解決の糸口を見出した。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、今度はもう追い着きましたか…」

 

 

今日だけでもう何度目かになる対峙。塩崎は攻勢に出る。自らの“ツル”を相手に向け伸ばす。

 

 

「あぁ、またそれ………っ!」

 

 

葛西が同じように焼き切ろうと手元にストックした火種から火の玉を放つ。しかし、どういう訳かツルは焼けること無く進行を続ける。 

 

 

「ツルが焼けない…編み込まれてるっ!」

 

 

ツルは先端部分がきめ細かく編み込まれていた。さながらロープの様に編まれたツルはその密度を高め、空気の入り込む余地を減らした。そうすることで炎の侵入を防ぎ、表面を炙るのみで、芯を保つことが出来たのだ。

 

葛西は慌てて次の攻撃のため、火種となるライターに手を伸ばす。しかし、それを阻む様に塩崎の強化された“ツル”が絡み付いた。

それを確認した塩崎は駆け出す。最後の条件「タッチする」ためである。

 

これを葛西は読んでいた。今までの攻防で塩崎が、この程度の工夫を凝らすのは想定の範囲内だ。

これならまだ逃げられる。次の手を打つ。

 

 

しかし、それは叶わなかった。

 

 

塩崎が素早く次の手を打つ。自らの背中に隠した“ツル”の束を取り出す。それを広げると「1枚の巨大な織物」の様になっていた。

塩崎はツルで作った反物を団扇のように勢い良く振るう。周囲に強風が吹き、「葛西が周辺に隠した火種」まで全てを搔き消したのだ。

最後の反撃の芽を摘み取り、塩崎は葛西に跳びかかった。

 

 

 

 

「…何で分かりましたか?」

 

 

組み敷かれたまま葛西は、上から組み伏せる塩崎を見据えて尋ねる。

葛西は捕まった。塩崎の勝利だ。

 

 

「貴方が言ったんですよ。「一撃で決まる事なんて滅多に無い。常に二手三手先まで考えろ」…と言う風にです。

つまり、貴方も手元の火種以外に保険を用意して居るはず…と」

 

 

「……あぁ、お見事」

 

 

そう言うと葛西は観念したように四肢を投げ出した。

 

 

 

________________

 

 

「大変お世話になりました…」

 

 

葛西との試験を突破し、見事に合格を貰った塩崎は、土日の二日間を拳藤と共に泊まりがけで訓練に費やした。

濃密だった時間も終わり、明日からの通学のため、家に帰る事になった。

 

千葉のとある駅のホーム。家路へと向かう塩崎を大入と拳藤は見送り来ていた…のだが…。

 

 

「…えっと、塩崎さん本当に一人で大丈夫?送っていこうか?」

「大丈夫ですよ大入さん」

「けどな茨?女の子を一人で帰らせるって言うのも心配だしな…」

「ほ、本当に大丈夫ですからっ!」

 

 

塩崎の事を心配する大入と拳藤を慌てて押し退ける。

 

 

「それに皆さんのおかげで体力も残ってますのでっ!」

 

 

大入の普段行っているトレーニングはハードだった。

朝は基礎体力向上の為、山の中に作られたランニングコースを回り、その後に筋トレ。

“個性”の精密性を上げるために、能力限界ギリギリの状態まで訓練をした。

 

塩崎が今まで知らなかった練習内容を学べたのは大きな収穫だ。特に「“個性”は使い込む程、基本性能が向上する」と言うのは目からウロコだった。

 

 

そんなハードなトレーニングを受けておりながら、その影響を塩崎は殆ど受けていない。実は回復系の“個性”の子が施設の中に居て、その子から体力を回復して貰ったのだ。全快とは行かなくとも、家に帰るくらいなら充分な程だ。

 

 

アナウンスが鳴り響き、電車が出発を告げる。

 

 

「じゃあね茨。また明日」

「今日はゆっくり休みなよ」

「はい、ありがとう御座います!二人も気を付けて帰って下さい」

「ありがとうね」

「おう」

 

 

電車のドアが閉まり、ゆっくりと走り出す。タタン…タタン…と音を響かせて電車は駅から遠ざかる。ものの数分で遠くの景色に融けて見えなくなった。

 

 

「…行ったな」

「そうだね…」

「ちび達よく懐いてたな…」

「そうだね…。良かったね」

「あぁ、あんなに優しく接して貰えて嬉しかった」

「アンタの可愛い兄妹だもんな」

「おう…」

 

 

大入と消え去った電車の方を見つめながらポツリと呟く。その名残惜しい様な、安堵したような言葉に拳藤は同調するように返事をする。

 

『児童養護施設』と言うのは経済的養育困難・家庭環境問題、又は親族の死別で身寄りが無いなど様々な理由で幼い子供が預けられる。共通しているのは「親の愛情を受けられない子供達」と言うことだ。

 

「当たり前のように居るはずの父親も母親も居ない」と言うのは、幼い子供にとって目に見えない格差を生む。幼い子供と言うのは残酷なもので、ちょっとした違いだけで相手を無意識に異物として扱ってしまう。

結果としてイジメに発展するケースと言うのも少なくない。それは『超人社会』と呼ばれる昨今でも払拭出来る物では無い。

だからこそ、この様な施設の子供にはメンタルケアをするように優しく接する事が求められた。

 

今回、大入福朗が塩崎茨を住居に招いたのは極めて異例のことだった。

先に話した理由から遊びに来る友人は数少なく、況してや「知り合って1週間そこらの人間が招待されることはまず無い」。大入の事情を知る拳藤からしたら気が気では無かった、もし「塩崎茨の心無い失言で心の傷を広げてしまったら」と思うと居ても立っても居られなかった。

 

蓋を開けたらそんな物はただの杞憂でしか無かった。塩崎は施設の子供達を「親に愛されなかった不幸な子達」と「同情」するでも無く、「親に捨てられた不幸な子達」と「侮蔑」するでも無く、「不幸な境遇でも前を向いて幸せに生きる」ことに感銘し、「尊敬の念」を抱いたまま優しく接してくれたのだ。

 

最も、転生者として塩崎茨の人柄をある程度知っている大入はそこまで心配しては居なかったのだが…。それでも僅かに緊張居ていたのだろう。だからこそ塩崎が帰った今、うっかりは心中を吐露してしまった。

 

 

「ん~っと!さて、晩御飯の買い出しでもして帰るかね。ちび達に美味い晩御飯の作らないとな」

「おっ、いいね。じゃあ唐揚げリクエストするよ。生姜醤油のガツンとした奴な」

「え?なに?晩御飯も食べてくの?」

「実はウチの両親、夫婦水入らずで温泉旅行中なんだ。だから御相伴預からせて貰うとありがたい」

「またかっ!相変わらず仲良いな!羨ましいっ」

「ふふん。良いだろう~?ウチは適度な息抜きが夫婦円満の秘訣なのさ」

「きーっ!妬ましーっ!(棒読み)」

「おい、それわざとだろ。…で?どうなの?」

「…まぁ、いいよ。独りぼっちは寂しいもんな」

「やった」

 

 

大入が感慨に耽ていた恥ずかしさを誤魔化す様に、この後の予定を話すと、拳藤はそれに便乗して来る。

拳藤は施設の子供達にも気に入られているので喜ばれるから良いのだが…。

 

 

「けど、良いのか?曲がりなりにも年頃の女の子が同年代の男の家に入り浸って。親御さん心配するんじゃ無いの?」

「おい「曲がりなりにも」ってどういう意味だ?

…良いんだよ、福朗なら大丈夫ってウチの親から太鼓判貰ってるし、行き先がはっきりしてるから逆に安全だし、帰り道だって福朗が送ってくれるしな」

「でもな…」

 

 

「それとも何か?福朗は間違い(・・・)を起こすのか?」

 

 

「………。どうだろうな、曲がりなりにも年頃の男の子だしな」

「はぁ、そういう所はからかい甲斐が無いんだよな…」

 

 

拳藤の意地の悪い笑顔で出してきた質問に、大入ははぐらかすかの様に答える。

二人はじゃれ合う様に会話しながら商店街に向けて歩き出した。

 

________________

 

 

充実しました…堪能しました…。

 

 

電車のシートに座り、この二日間の事を振り返ります。

 

 

初めての一人での遠出。

今までに無いくらいの強敵との練習試合。

全力を振り絞って訓練する心地よい疲れ。

会って間もない友人とのお泊まり。

耳には聞いていても、初めて目にした孤児。

血の繋がらない兄妹。

そんな中で幸せそうに笑う子供達。

 

 

その一つ一つを思い出すと未だに夢の中に居るかの様な浮遊感と情熱がこみ上げてきます。

 

 

なるほど敵わない訳です。

 

 

あのような境遇から大入さんは努力を重ねてきたのでしょう。周囲の偏見や視線に晒されながら、それでも腐ること無く誠実に実直にここまで育ったのです。

その精神性たるや推して計るべしと言った所です。

 

その一方で一人で物事に取り組んでしまう独断性にも納得がいきました。あれは、独りにならざるを得ないからこその物だったのです。

もし、彼が困っていたら力になりたいと思いました。

 

 

それにしても不思議です。あの施設の子供達…。

 

 

“個性”とは玉石混交。世界人口の二割は“無個性”では在りますが、残りの八割の“個性”持ちが勝ち組というわけではありません。

 

汎用性が高く、絶大な効力を発揮する“強い個性”。

条件が厳しく、効果も乏しい“弱い個性”。

 

“個性”にも格差があるのです。

それなのにあの施設の子供達は全て“強い個性”。それこそ、研鑚を積み重ねればヒーローに成ることも夢ではない力を持つ子供ばかりでした。

 

 

偶然…なのでしょうか?何だか私には、何処か意図的(・・・)に集められたような………

 

 

 

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