とりあえず続きです。
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オールマイトわずか一時間で三件の事件を解決!
○月○日 7:30頃 ○○県○○市の○○商店街通りで凶悪犯罪者『僧帽ヘッドギア(本名:○○○○)』が近隣の金融機関を襲撃し、逃走の際に一家族(三十代男性、三十代女性、九歳少女の三名)を人質に取る。
すぐに巡回していたヒーロー数名が現場に駆け付けるも、人質を盾に逃げる犯人にヒーロー達は苦戦を強いられた。
事態は現場に急行した『オールマイト』により犯人の身柄は拘束され、警察へと引き渡されました。なお、人質となった家族は軽症のみで、大きな怪我はなかった。
また、凶悪犯罪者『僧帽ヘッドギア』は過去に同様の手口で数件の強盗殺人事件を起こした調べが付いていることから、事情聴取の後、裁判に掛けられる模様。
同日 同時刻 同場所で交通事故が発生。
犯人の二十代男性は現場から逃走するものの傍に居た『オールマイト』により、800メートル離れた場所で身柄を拘束されました。現在犯人は警察署にて事情聴取を受けているとのこと。
なお、被害者の六十代女性は病院に運び込まれ、意識は回復しているとのこと。
同日 同時刻 ○○県○○市にある○○デパートにて、立て篭もり事件が発生。
犯人グループはデパートのスタッフ十名を人質に取り、警察に逃走用の車を要求。
現場到着した『オールマイト』は先に到着したヒーロー数名の協力により、犯人グループを制圧した。また、スタッフ数名が重・軽症を負ったものの命には別状ありませんでした。
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鬱だ…死のう…
ちょっとアンニュイになるお昼時。机に突っ伏して物思いに耽る。片手に握られた携帯電話のディスプレイを眺め、再び溜息を吐く。
もう一度言おう。鬱だ…死のう…
今日はヴィラン連合による初めての襲撃の日。携帯電話のニュースサイトの記事からも判別出来ている。
原作通りに事が運ぶなら。此処こそが、新しい英雄『デク』と敵の代名詞『
正直「出来れば来て欲しくなかった」と言うどうしようも無い虚無感がある。そりゃそうだ。
結果として怪我人は居ないものの、見知った顔の者が危険な目に遭うのだ。居ても立っても居られないのに蚊帳の外の俺には手出しも出来ない。非常にもどかしい。
反対に「待ちに待った」と言う淡い期待感もある。まぁ、分からなくも無い。
元々の原作通りの展開だし、何よりこの山を超えたA組の生徒達は、これをきっかけに原作でも将来目覚ましい躍進を遂げるのだ。心が躍る。
二律背反の感情がグルグルと綯い交ぜになってカフェオレの様に溶け合う…非常に言葉にしにくい気持ちだ。…おっ、何だか今のはとってもポエミー…。
「どうした~大入?浮かない顔して?」
前の席の泡瀬君が声を掛けてくる。実は隣接した席なのと、泡瀬君のフレンドリーな性格から結構話をする仲だったりする。
手元は携帯電話のソーシャルゲームに夢中の様であるが、気に掛けて貰える辺り泡瀬君は優しいな。
「ん~?今日はちと調子が悪くてな…なんか気怠いんだよ…」
「そいつは何だか意外だな。お前って普段から溌剌としているイメージだったわ」
「前向きな好印象に感謝するけど、所詮俺も人の子なのさ…。具合の悪いときくらいある」
「へ~?」
「A組の授業にヴィラン連合が乱入するのですが、どうなるのか心配なんです」なんて言えるはず無い。とりあえず頭の医者の診察を勧められてしまうだろう。なにそれ辛い。
仮に信じられても内通者疑惑で酷い目に遭う未来しか見えない。なにそれ笑えない。
そんな理由で泡瀬君の話をやんわり逸らしておく。
「けど、本当にしんどいなら無理せず保健室行けよ?」
「ありがとう…。本当に駄目ならそうする」
しかし、如何したものか?
少なくとも今からA組の授業にこっそり着いていって動向を見守るのは論外。ピンポイントで見張るなら兎も角、空間転移の“個性”によってバラバラに分断された生徒達全員なんてカバーできない。
そもそも、見つかろう物ならば『内通者』の濡れ衣を着せられること請け合いだろう。俺なら尚更だ。
う~ん。今一つ良い作戦が出て来ない。
結局の所、皆の無事を祈って待つのが安定なのだろうか…。これまた随分と保身的ではあるが…。
「大入?次、移動教室だけど…平気か?」
「…ごめん、ちょっと保健室行くわ。悪いけど先生には欠席伝えてくれ…」
「お、おい本気で大丈夫か?保健委員呼ぶか?」
「平気、平気。そんな心配しなくてもいいから…一人で大丈夫だから」
そう言って教室を出る。そして、目的地に向かう。
見て見ぬ振りなんて出来ないよな…やっぱり…
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雄英高校の一角にある『仮眠室』。疲労に悩む教員が一時の休憩に費やすときのみならず、非常時の応接室や生徒指導・進路相談など、実に多目的な用途で利用される。
そんな場所でNo.1ヒーロー『オールマイト』は辟易としていた。…いや、辟易と言うのは少し語弊がある。
彼は今日も可愛い生徒達に教鞭を振るうべく朝早くから雄英高校に赴…こうとしていた。そんな彼の目の前で次々と事件が発生。犯罪者を見過ごせない性分の彼は現場に急行、解決に協力していた。
だが、そんな彼はある問題を抱えている。ズバリ、「活動限界」である。
実は五年前とある事件で、彼は致命的な重傷を負っていた。一命は取り留めたものの、度重なる手術、重い後遺症、寄る年波も相まって力は衰退の一途を辿る。
今となっては「一日三時間」程度しかその力を振るうことは叶わないのだ。
そのような事情を抱える彼が、己の無理を押して事件の渦中に身を投じるのをそう簡単に容認出来ようか?
少なくとも、もう一人の彼には出来ない。雄英高校校長『根津』には…。
根津は学校における最高責任者。形式的には、オールマイトも彼の管理下となる。そんな部下が身勝手な行動をしたなら説教の一つでもしなければならないのが上司の務めと言う物だ。
最もオールマイトの「活動限界」を心配し、「世間と事件から距離を置き」「自らの継承者の選定させ」「後進のヒーローの育成に助力する」と理由を並び立て、雄英高校へと引き入れたのは単に優しさもあっての事だ。
ここで一度、最初に立ち返る。
オールマイトは根津校長の
コンコン…
二人だけの空間に鳴り響くノックの音。
はて、一体誰だろか?首をかしげては見たものの確認する他ない。
根津校長が「どうぞ」と入室を促す。
「失礼します」と礼儀正しく返事が聞こえ扉が開く。
入ってきたのは一人の生徒。ツンツンと尖った短めの髪、やや小柄に見える体はよく鍛え上げられている事が分かるほどに、立ち姿が整っている。扉を閉める手を見ると大小様々な傷跡が訓練の名残として刻み込まれている。
扉を開き、二人の教員を見た瞬間に僅かに揺れた瞳は、入室して一礼した後には「覚悟を決めた」目に変わった。
「1年B組、大入福朗です。失礼を承知で校長先生にご相談があって参りました」