40:前の祭り 1
…ひとまずその後の顛末を順を追って説明しようと思う。
「ヴィラン連合襲撃」の情報を流した後、俺は授業に戻った。
クラスメイトからは体調を心配されたが、実質仮病を使って授業を抜け出していたため、少々後ろめたい気持ちに苛まれながらも平気な事を告げた。
授業に復帰して10分程度たった頃だろうか?一人の教員が特別教室に入ってきた。教壇に立つ先生と一言二言言葉を交わすと、先生は急遽「授業を自習」にして退室していった。
恐らくは、先生達が「ヴィラン連合」を察知し、自体の鎮静に向かったのだろう。これが果たして早いのか遅いのかは判断できない。
程なくして、先生が戻ってくると「今日は諸事情により臨時休校になる。君たちには悪いが帰る準備をしてくれ」と通達された。生徒達は常識では考えられない突然の休校に疑問を抱き、説明を要求した。
先生は「少し大きめのトラブルがあった」「事実確認をしている最中で、生徒達にはまだ説明出来ない」「改めて連絡はするから」と説得を受け、その日は下校する事になった。
翌日、学校は全学年全学科が休校となった。前日の夜に担任であるブラドキング先生から連絡を受けたのだが、その際に「学級委員長と副委員長を召集した緊急集会」をすると連絡され、俺と一佳は学校に赴いた。
集会の議題は案の定「昨日USJにて授業を行っていた1年A組に
事件の詳細を聞くため面識のある飯田君に声を掛けようと思ったが、教師達に呼ばれて先に退室してしまっていた。
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「オイっ、大入っ!A組行こうぜ!」
帰りのホームルームを終えて、鞄に筆記用具やら教科書やらを詰め込んでいると鉄哲さんが声を掛けてきた。
「やっぱりアレかい?」
「オウっ「ヴィラン連合襲撃事件」!やっぱ直に話を聞きてぇしな!お前だって興味あんだろ?」
結局の所、ヴィラン連合襲撃事件は全校生徒に通達されることになった。事実を知ったB組の生徒達は驚愕していた。自分たちと年も変わらない子供が犯罪者の襲撃を凌ぎきったのだ、興味を抱いて当然だ。
「…そうだね。A組には知り合いも居るし、顔出したいや」
「そう来なくちゃな!」
そして、俺たちは教室を出た。隣のA組に向かうため…。
すると、廊下には人集りが出来ていた。
「な、なんだぁっ!」
「多分俺達と同じだな、事件を乗り越えたA組に皆が注目してるんだよ」
「あぁ、なるほどな…」
「加えて
「意味ねェからどけ モブ共」
「知らない人の事とりあえずモブって言うのやめなよ!!」
「「っ!!」」
突如廊下に鳴り響いた常識を疑うような言動。周囲の生徒達が騒然としだし、教室のドアで何やら言い合いが起きているようだ。
うん、間違いなくかっちゃんである。
「なぁ、今のって…」
「十中八九A組の生徒だろうな。とんだじゃじゃ馬がいるらしい」
「…だな、オレちょっと文句言ってくらぁ」
「ちょ、鉄哲っ!」
そう言うと鉄哲さんも人混みを掻き分けてズンズン奥へと進む。俺は慌ててその後を追った。
「オウ!オウ!オウっ!!
隣のB組のモンだけどよぅ!!
エラく調子づいちゃってんなオイ!!!」
(((また不敵な人キタ!!)))
鉄哲さんの物言いにすっかり萎縮してしまう周囲の人達、こういう時の鉄哲さんって本当にチンピラだからな…。
「本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」
「はーい、ストップっ!」
「いでっ!」
「「「「「!!?」」」」」
「ヤッホー、飯田君昨日ぶり!緑谷君と麗日さんは久しぶり」
「あぁ、昨日ぶりだな」
「大入クン久しぶり…」
「あっ!激甘コーヒーの人っ!」
一触即発とした空気に慌てて俺は水を差す。鉄哲さんの頭をスナップを効かせた平手打ちで景気良く叩く。ド突き漫才の様な「スパンっ!」と言う気持ちいい音が鳴り響き、鉄哲さんの頭がカクンと下がる。
そのまま横を通り過ぎるとかっちゃんの横をすり抜け、後ろに控えていたお茶漬けトリオに挨拶をする。
「この間大変だったんだってな…。大丈夫?怪我してない?」
「う、うん。『リカバリーガール』のお陰でもう平気だよ」
改めて緑谷君の手足をペタペタ触って確認してみるが…大事には至って居ないようだ。『リカバリーガール』のお墨付きなら尚更だろう。
「そうそう、その襲撃事件の話聞きたいんだよ!
ねぇ、この後時間ある?食堂辺りでお茶しながら話したいんだけど…」
「おいぃぃっ!大入ぃぃっ!!いきなり人ん頭ぶっ叩くとか何考えてんだっ!?」
「何考えてんだってのはこっちの台詞だよ。初対面の相手にそこまで喧嘩腰になるなよ。事実、
…まぁ、初対面の人への態度が成ってないのはそっちもだな。なぁ『毬栗頭』君?」
「あ″ぁん″!!誰だてめェ!!」
(((こっちも不敵な人だったー!!)))
怒るだろうなぁ…とは分かっていたが、見ず知らずの人間からの辻説教に露骨な不快感を示すかっちゃん。
いや、案外『毬栗頭』と呼ばれたのに反応しているのだろうか。仕方ないよね、まだ自己紹介してないんだから。
「彼と同じくB組の生徒だよ。
それでさ。別に愛想良くしろなんて言わないけど、最低限度の礼儀位は弁えるべきだと思うよ?悪戯にヘイトを稼いでそんなに楽しい?」
「はんっ!関係ねぇよ。上に上がっちまえば関係ねぇ」
そう吐き捨てるとかっちゃんは去っていった。「退けェっ!」と辺りに睨みを効かせると、余りのチンピラオーラに人混みがモーゼの海の如く割れる。
『
しかし、哀しいかな。彼は余りに優秀過ぎるのだ。
物事を習えば瞬く間にコツを学び、あっという間に周囲を追い越してしまう。彼には親しい友人は居ても、彼の隣に並び立てる者は未だに誰も居ないのだ。
天才故の孤独、
天才故のジレンマ、
天才故の悩み。
平凡たる俺には何とも共感出来ない悩みだ。
「周りなんてアウトオブ眼中…ってか。随分と豪毅で剛胆だな、天上天下唯我独尊を征くとは正にこの事…」
何気なしにそう呟く。彼が真の意味で周りを認めるのはまだまだ先の話だ…。
「…あっ!それで、この後話出来る?ジュース奢るよ?」
「「「切り替え早っ!!」」」
一区切りついた所で本来の目的に戻る。先ほど迄の緊迫した空気がまるで無かったかのように話を戻す俺に、お茶漬けトリオから総ツッコミが入る。
「野良犬に咬まれた様なもんだろ、アレ。気にしたって意味ないっての」
「あのかっちゃんを野良犬扱い…」
「それにあの手の奴は力を示さないと視界にも入れないタイプだからな、今は話すだけ無駄だ」
「無駄て…」
「…まぁ、近々目を離せなくしてやるわ」