こちらは轟によって分断されたもう一つの戦場。ポイントは既に物間チームと鉄哲チームしか残っていない。
「さぁさぁ行くぜ、お三方っ!舌ぁ噛まないように食いしばりなぁっ!」
物間チームの騎馬回原が“
ギャリ…ギャリ…っ
地面を踵が抉る音を鳴らしながら右へ左へと旋回。騎馬とは思えない動きを絡める。
旋回による特殊機動は鮮やかに、敵騎馬の間をすり抜ける様にフェイントをかけて移動する。
「あれを押さえろっ!」
どのチームのどの選手の声か分からない怒号。それに反応して物間チームに攻撃が殺到する。
しかし、近づけない。
物間チームは戦場をダンスホールに見立て、蝶のように舞い蜂のように舞う。敵の目前をすり抜けて撹乱する。
ならば遠距離はどうか?
「A A A A っ ! F I R E E E E E E ! ! ! 」
「とりゃーっ ( º言º)!!」
角取の閃光、東雲の光の拳が三方向からの同時攻撃。
「…無駄だ。単一のエネルギー攻撃が通る物かっ!」
黒色が“個性”を使う。光を「黒く染め上げ」て“個性”は攻撃を瞬く間に霧散する。
「あっそ。じゃあ、実体の有る攻撃ならどう?」
「ケロっ!」
耳郎のイヤホンプラグ、蛙吹の舌が狙いをつける。
「それも対策済みさ…円場っ!」
「おーっ!」
これを円場と物間が“
あらゆる角度から飛んでくる攻撃をあらゆるカードを持って迎撃する。
(なにこれっ、やっばっ、きっつ…!)
物間の額に汗が滲む。目まぐるしく変化する状況、但ひたすらに求められる最適解。
(これが大入が戦った世界っ…!)
一対多…いや、騎馬の数が減少している上に、すぐそばで仲間がフォローしているからまだ易しい方かもしれない。
一呼吸する間も無いかと思う程の猛攻。いつ足を踏み外すかも分からない綱渡り。
「大丈夫か!?皆!?」
「無論っ…」「平気だっ…」
「もう駄目だって物間ー!囲まれてるーっ!」
黒色が高機動に目を回し、回原が“個性”の負荷で疲労困憊。一周回って円場が一番元気なくらいだ。
(このまま行けばタイムアップ前に捕まるっ!)
残り時間──5分。
余りに短く…長すぎる時間。
物間は賭に出る。
「皆っ!勝負に出るっ!上手く合わせてくれっ!」
「えっ?…ちょ!!??物間ぁ!!」
「ぐっ!」
次の瞬間、物間は……
原因は物間がコピーした“
しかし、完全ではない。姿勢制御を失い、空中で回転する。
(くそっ!なんてピーキーなんだっ!!)
物間の“
しかし、ただそれだけだ…。
物間が過去にコピーしてきた数多の“個性”達…。それらを操ってきた「経験」は初見の“個性”を実践投入出来るレベルに引っ張り上げる。
物間は“
「何っ!」「What ! !」
物間は横を
「ファイヤーっ!」
空を薙ぐ一筋の閃光。横一線…と地面に高熱のメスを走らせる。他の騎馬の足を止めさせるには充分な牽制だった。
直ぐさま“
肺から吐き出した空気で作ったのは野球ボール大の小さな塊。
それを取っ手にしてぶら下がる。すかさず“
峰田チームは迎撃態勢を取る。
「今だっ!!抑えてっ!」
「やれぇぇっ!円場ぁ!」
「ぐっ!」「ひっ!」「きゃっ (๑*д*๑)!」「ケロッ!?」
ここに物間チームの騎馬からアシストが入る。
相手を空気の牢獄に閉じ込める。円場の十八番である盾を応用した拘束技だ。
そして物間は峰田チームの全員に
仕上げだ…。
物間は“
そして“
──〈物間式! GRAPE RUSH!!〉
『
“個性:もぎもぎ”
頭髪から引き千切られる粘着球。超くっつく。
上空から降り注ぐ毛玉の雨。騎馬で機動力を低下させた今の皆には回避の術は無かった。
葉隠チーム、峰田チーム、角取チームの三チームをその強力な粘着球で雁字搦めにすることに成功した。
物間の“
しかし、物間は一段階、
“
──〈
物間の必殺技…その雛形が産声を上げた瞬間だった。
物間は“
『おおぉぉっと!なんだなんだ!物間チーム!葉隠チーム、峰田チーム、角取チームを一網打尽!!!盛り上げてくれるなぁエンターテイナーぁ!!』
「んなああー!なんじゃありゃ!?だだ被り祭りじゃねぇか!?」
「違ーよ切島っ!コピーだ!あいつ“個性”をコピーしやがった!」
「何あれずっるーい!」
「…」
物間チームの大快挙に浮き足立つ爆豪騎馬チーム。未だに爆豪は沈黙を保ったままだ。
「来なよ…」
物間が爆豪チームに向き直り、手招きをする。
「此処で選手宣誓を果たしてあげるよ…」
──
「今の僕は最高に絶好調だからさぁっ!!」
_______________
「ちくしょー…酷ぇ事しやがる…」
「大入くん」
「分かってる。勝手に飛び出したりしないから…」
大入は不快感を隠しもせずに相手を睨んでいた。
口の中一杯に頬張った苦虫をゆっくりと噛みつぶし、辛酸で咽を潤すかのような。苦悶の表情だった。
大入はチラリと横に目をやる。
氷漬けにされた拳藤チームと鱗チームがいた。
拳藤チームの脱落から均衡は一瞬の内に崩れた。柳の統制を離れたロボットが鱗チームまで攻撃。対処に追われた鱗チームを横合いから轟チームが雷撃。動きを止めた後に氷による拘束。
二チームのハチマキは全て轟チームが手にした。
改めて対峙する大入チームと轟チーム。
騎馬戦の決戦は近い。
「…皆、お願いが有るんだけど…
…………
いけるか?」
「…分かった。行けるよね、常闇くん?」
「問題ない…牽制するっ!行けっ、
「アイヨ」
常闇の指示を受け
「八百万!」
轟の指示を受け、八百万が鉄板を創造し、盾として
「一体くらい残したかったけど…在庫処分かな?ほら、行ってこい!」
『目標発見ブッ殺ス』
大入がなけなしの1pロボット…最後の一体を吐き出して轟チームへと
「なっ!?まだ隠し持っていたのか!?」
「問題ない今更一体出てきた所で意味も無い」
如何と言うことは無いと、轟がロボットを氷のオブジェに作り替える。
しかし、問題は無い。作戦は既に完了している。
ロボットを嗾けた。時間を稼ぐため。
大入チームの向かった先は…
大入は第二種目中に武器の収集をしていない。
当然だ、彼が“
騎手が地面に落ちた物を拾うには地面に手足を着ける必要があるし、騎馬だとしてもそもそも手が空いていない。
結論として大入が武器を収集することは出来ず、第一種目で拾った武器を最大活用するしか道は無い。
果たしてそんなこと誰が決めた?
だったら
大入チームが向かう先は…拳藤チームの近く…轟が投げ捨てた「絶縁体シート」。
「…おい、あれ…」
「んん♪流石は
「やられましたわ。こちらの手を逆手に取って来るとは…」
「駄目だよ~?持ち物にはちゃんと名前を書かないと…交番に届けて貰えないぞ!」
黒影は落ちていた「絶縁体シート」を大入に渡す。それを大入は〈揺らぎ〉の中へ格納する。
「…でないと俺みたいな悪い奴に拾われちゃうからね!よい子の皆!約束だよ!」
そう言いながら大入は
『なぁんと!大入チーム!ここに来て、落ちてる残骸を回収し始めるっ!敵を目の前に、ずいぶん余裕だなぁっオイ!』
『…大入にとって、拾って来た武器ってのは生命線だ。“個性”から取り出したサポートアイテムや数々の武装で相手の隙をこじ開けるアイツの戦闘スタイルからしたら「道具が無い」って言う現在の状態は、弱体化していると言っても間違いじゃあ無いからな』
『アレで弱体化って何の悪夢だよっ!こいつぁシヴィーーーっ!!!』
「おいおいおいおいっ!不味いんじゃねぇのあれ!」
「…妨害する」
轟チームは妨害に出る。しかし、選択肢は限られる。
上鳴の放電?
飯田の機動力で急接近?
どちらも駄目だ、大入チームは柳が地面に刺しまくった「装甲板」達の内側にいる。
どちらも防がれる。
残る選択肢は…氷による面制圧。夥しい量の氷の波が大入チームの足元を狙う。
「…麗日さん準備はいい?」
「うん!バッチリ!」
「じゃあ…飛ぶよ!」
大入が今一度、合掌するように手を叩く。次の瞬間、〈揺らぎ〉は騎馬全体を包み、騎馬ごと後方へ飛んだ。
「んなっ!?」
『なっなっなんとスカイハぁぁイっ!ここに来て大入チーム騎馬ごとの大ジャンプ!!』
「…やっぱり人一人は重い。高度出ないな」
「ちょっと大入くん!?女の子に重いとかデリカシーなさ過ぎるっ!」
「着地を狙うぞっ!進め飯田!」
「あぁ!」
「っ!今だ常闇くん、やっちゃって!!」
「薙ぎ払えっ!黒影っ!」
「アイヨ」
「「っ!」」
大入チームが空へと離脱した直後。黒影は先程までいた装甲板の戦陣を一手に薙ぎ払う。
実はこの装甲板、大入と
しかし、鉄板は地面に突き刺さっている間は浮くことは無い。轟チームは黒影が鉄板を弾いて初めて、それが砲弾だと気が付いた。
──〈彗星ホームラン 改 !〉
轟チームは慌てて足を止める。
大入チームと轟チームの間を分断する軌道で放たれた流星群。
着地の隙を埋めるには充分だった。態勢を整えて向かい合う両チーム。
これから最後の駆け引きが始まろうとしていた。