「…武器の補充に協力してくれてありがとう。さて、ここからどうしようか?」
「そうだね…氷の拘束は不味い。一先ず上鳴くん側から…」
「待て緑谷、轟相手に攻めではこちらが不利だ」
「それは…最初に言った性質の事?」
「あぁ…」
「ちょい待ち、俺に説明プリーズ」
万能の働きを続けていた常闇と
実は
それに加えて『上鳴電気』だ。彼が発する「雷光」が
此処まで二段構えで戦ってきた大入と
「そうか雷光っ…」
「奴の放電が続く限り、攻めでは相性最悪だ」
「…
「恐らくな。この秘密を知っているのは口田だけ…奴は無口だ」
「どうする?氷から攻略するか、雷から攻略するか…」
「いや、残り時間も少ない。知られていないなら牽制にはなる…!このまま、1000万を持ち続ける!」
「…防御に回るってことか?」
「うん」
「……そうか、仕方ないな」
『大入チーム!今までの攻勢から一転!防御姿勢だっ!なんだなんだ!逃げきりかぁっ!!』
(決め手が足りねぇ…)
轟焦凍は考える。先程まで、トリッキーな戦術が多く見られた緑谷…大入チームが急に逃げの姿勢に変わった。
しかも、その立ち回りは非常に巧い。距離を置き、轟チームの左舷をキープする位置取りは、前騎馬飯田が邪魔になり、轟の氷結の攻め手をワンテンポ遅らせている。
守りが甘くなる左舷をカバーするための上鳴だが、それも芳しくない。
既に何度か空振りさせられ、上鳴の使用容量は限界間近。その予兆として、思考力が低下し、呂律が回らなくなり始めている。
残り時間も1分と少ししかない。
(一体如何する…?)
「…皆。残り1分弱…この後俺は使えなくなる頼んだぞ」
「飯田?」
突然轟チームの前騎馬飯田が仲間に対して語りかける。この状況を打開するために今までの温存した裏技を使う決心をした。
「
──〈レシプロバースト !〉
次の瞬間、轟は三度驚愕することになる。
一度目は飯田の存在。彼が繰り出した超加速。トルクと回転数を無理矢理上げて爆発力を生んだ高速移動は一瞬にして全てを置き去りにするほどだった。
そんな中、刹那の間、轟は動いた。右手を伸ばし、大入のハチマキ─1000万を狙う。
極限の最中で遂に手にした。
二度目に大入チームの存在。高速移動による一瞬の時間。その僅かな時間で「大入が騎馬の上から姿を消した」。大入の消失に緑谷達自体が驚愕していた。
三度目に大入の存在。彼は…
轟のすぐ近くにいた…。
右手に持つ1000万のハチマキ。それにぴったりと追随するように。
そして気付いた。
ハチマキと大入の頭を繋ぐ「紫色の毛玉」の存在に…。
大入は騎馬戦中に峰田に接触することを目標に設定していた。大入がこれまでに手に入れた「武器」に不足している「非殺傷系の拘束武器」を求めて。
大入の“
八百万と同様の「生物以外の有機物」と言う線引きがこれまた面白いもので…。例えばスーパーマーケットで買い物をしたとき、菓子も精肉も切り身の魚も乳製品も“個性”に格納できるのに、唯一
長々くだらない話をしたが…本題に入る。
峰田の“
大入は飯田がレシプロバーストを繰り出すのを狙っていた。転生者である彼は、攻防の均衡が崩れるこの一瞬だけが、全方向死角の無い轟チームに対して付け入る隙になると分かっていたからだ。
1000万点から“
「ジャッ!」
轟が大入の存在に気付いた瞬間。大入の眼光が鋭く光る。気合いの入った掛け声と共に右手を伸ばす。
突然の不意打ち、大入の気迫の籠もった攻撃。
混乱し、焦燥した轟は咄嗟に…。
──
「ギャッ!」
(…っ!?左っ!俺は…何をっ!!)
大入の短い悲鳴が上がる。炎を纏った左手に触れた為、大入の右手が火傷をしたのだ。
大入の悲鳴を聞き、轟はハッと我に返る。
それこそが致命的な隙だった。大入は指を鳴らした後、左手で1000万点を掴み、右手に轟の…首元のハチマキを三枚の内二枚、乱暴に掴む。
直後、〈揺らぎ〉から生まれた空気の爆発により、大入は轟チームから引き剝がれた。
『なっ、何が起こったーーっ!!!?飯田の超加速が1000万を奪ったと思ったら大入がハチマキを取り返しているぅぅっ!しかも、追加で轟からハチマキを奪っていく始末!!!』
グルグルと空中を転がる大入。咄嗟に動いた
そして、沈黙を破る。
「ちょっと緑谷君!?何あれ!?炎使ってくるなんて聞いてないんだけど!!ちょっと!これぇ!?火傷したんだけどっ!!」
「待って!待って!?何しれっとハチマキ奪って来てるの!って言うか“
「ルール上問題無しっ!“個性”有りの残虐ファイトなんだからっ!!というかどっちが残虐だよ!?アイツら亜音速で俺の
「とんだ言い掛かりっ!!」
大入が言った通りこれは反則ではない。極めて反則染みたグレーゾーンではあるが…。
この騎馬戦のルールは
・“個性”の使用有り
・騎馬が崩壊しても、組み直して再起可能
・ハチマキを奪われても戦闘継続可能
・悪質な崩し目的の攻撃はNG
だけである。
大入が中盤で吐き出したロボの軍勢は逃走目的なので、「悪質では有る」が「崩し目的」ではない。まぁ、余波で騎馬に攻撃する事もあるだろうが、「攻撃される条件は皆同じだし、そもそも三番煎じのロボ風情に後れを取るなんてヒーローとしてどうなの?」と言い切るつもりだった。
今回のハチマキの場合は、一見「絶対に奪れないハチマキ」の様に見えるが、そんなことは無い。大入自身が今し方公言した様に「髪の毛ごと引き千切れば」良い。
その調節が「奪りにくいハチマキ」に匙加減を設定しているのだ。
現にそれらを理解している主審『ミッドナイト』から物言いは無い。凄い顔で睨んではいるが…。折角の美人が台無しである。
ワーワーギャーギャーと言い合いを繰り広げる大入チーム。急に話をやめて、呆然とする轟チームに向き直る。
そして火傷した右手とそれに握られた二本のハチマキを突きつける。
「…でも、まぁ、返して貰ったぞ。
大入の手には240Pと135Pの二つのハチマキ。二つ合わせても轟の頭の650Pにさえ届かない点数だが、大入にとって値千金の価値が有った。
「
『爆豪再来ぃぃぃっ!?果たして二度あることは三度あるのか!三度目の正直になるかぁぁぁっ!!』
氷の砦を穿ち、氷片を爆熱で溶かして爆豪が乱入する。
大入は咄嗟に手を鳴らし、空中に飛翔する。
「クソコラっ!まだ逃げやがんのかっ!!」
「っ!!大入くん!?」
「捕らえろ
「アイヨ」
「邪魔すんじゃねぇぇぇっ!!」
爆豪は
大入は絶対に爆豪と戦わない。勝てないからだ。
大入にとって飛翔すると言うことは初めての体験だ。上手く誤魔化しているが、爆豪相手には通じない。次第に攻めが巧くなる。
大入に勝ち目が有るのは麗日の補助を受けた滞空性能のみ。機動力と操作性・精密性は爆豪に軍配が上がる。勝負にならないのだ。
だからこそ逃げる。
大入と爆豪の最後の勝負が始まる。
『残り30秒っ!!』
「済まないっ!俺が軽率な行動をしたばかりにっ!」
飯田はショックを受けていた。形勢逆転を狙った一手。完全に読まれた…いやあり得ない。彼の必殺技は誰も知らない物だ。
なのに覆された…。
大入が仕掛けた保険。それが見事に飯田を封殺した。
彼は不甲斐なさで押し潰されそうになっていた。
「……れるか」
「轟くん?」
しかし、ショックを受けていたのは一人ではない。
「こ の ま ま 終 わ れ る か っ !!!」
地獄から怨嗟の声を呻らせる轟。
轟は大入に使わされたのだ。
あの憎き親父の、あの憎き
大入は何も知りもしない癖に、轟の
「八百万っ!!伝導っ!早くっ!!!」
「はっ、はいっ!!」
轟に指示された八百万は慌てて「鉄のステッキ」を創造する。素早くそれを受け取ると轟は力一杯地面にそれを突き立てる。
次の瞬間、地面が
「
現在轟がやっているのはそれだ。しかし、そのスケールはまるで違う。
それは氷の大樹だった。
『なんと轟チームまだ諦めていないっ!まだまだチャンスはあるぞっ!!』
尋常ならざる速度で成長したそれは、大入と爆豪の高度を軽々超えていく。
それだけではない。轟が攻撃を加える。
氷の大樹から伸びる枝のような無数の氷柱が大入と爆豪を狙う。恐らく触れたら最後、氷結に絡め捕られるだろう。
『そろそろ時間だ!カウントいくぜ!エヴィバディセイヘイ!』
氷の枝を大入は擦り抜けるように回避し、爆豪は氷柱を爆砕しながら追撃する。
『10』
『9』
『8』
「っ!轟さんなにをっ!!」
「やめないか轟くんっ!!」
「ウェイ!?」
最高高度に達した轟は自分の騎馬と氷の大樹から
目下を飛行する大入目掛けて、命投げ棄てたひも無しバンジージャンプ。
ハチマキさえ奪ってしまえば、後は地面に落ちる前にタイムアップだ。
これで
『7』
『6』
『5』
下から狙う爆豪、上から狙う轟。大入は二人を迎撃するために指を鳴らし、武器を取り出す。
『4』
『3』
『2』
出てきたのは二つの「地雷」。それを見た爆豪と轟は何かを察知して、顔面が蒼白に染まった。
『1』
大入は今日一番の悪辣な笑みを浮かべていた。そして、地雷を眼前で叩き合わせて…起爆する。
『T I M E U P ! 』
空に盛大な汚ぇ花火が咲き、大入・爆豪・轟が爆発した。