転生者「転生したんでヒーロー目指します」   作:セイントス

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55:最終種目 一回戦 3

「おうっ!兄ちゃんレモン味お待ちどうっ!はい、300円ね」

「はい、どうぞ」

「まいどっ!…なあ、兄ちゃん本戦出てる人でしょ?そこの中継映像見てたよ!かーっ、格好いいね~!

ともかく頑張れよっ!ほらシロップ、サービスしといたからさっ!」

「わぁっ!本当ですか?ありがとうございますっ!!」

 

 

芦戸さん対発目さんの試合…もとい事案、そこで起きた大惨事。

結局俺は居たたまれなくなり、逃げるように観客席を後にした。

気分を落ち着かせるために、偶然目に留まったかき氷を食べる事にしたんだが…。

 

 

「おうっ!お嬢ちゃんイチゴ練乳お待ちどうっ!はい、350円ね」

「はい、これで (,,>᎑<,,)」

「まいどっ!…お嬢ちゃん可愛いからシロップと練乳、サービスしといたぜっ!」

「わぁっ!本当ですか?ありがとうございますっ (*´˘`*)」

 

「なぜここに居る、僕ロリ?」

「まぁまぁ、いいじゃあ無いですか~。偶然って奴ですよ (๑>؂<๑)۶

それを言ったらお兄さんこそ何でここに?」

「…かき氷が食べたかったんだ」

「その言葉、僕の目を見て言ってくれます ( •́ㅿ•̀ )?」

 

 

二人並んでかき氷を口に運びながらスタジアムに戻る。道中の中継映像を見るとステージ修繕作業がまだ続いているようだ。

何よりあの大量のローション…あれの処理が大変だ。大量の塩を撒いてローションから水分を抜き取り、やっと除去作業が進んだようだ。

 

二戦目は轟君の大氷塊の除去作業。

三戦目に塩崎さんの蔓の除去作業。

四戦目の俺の作ったクレーターとばらまいた細かい機械部品(散弾)大きな機械部品(防壁用鉄塊)の撤去作業。

そして今回の発目さんのローションの撤去作業。

 

…うん、冷静に考えてもカオスだ。セメントス先生の仕事がストレスでマッハ間違いなし。しかも、八戦目は麗日さんの流星群、九戦目は緑谷君と轟君のビッグバンが待ち構えているという事実。いとカオス。

 

 

「そう言えば芦戸さん大丈夫?…その…形容しがたい状態に見えたけど…」

「あぁ、みーちゃんですか?残念ながら面会謝絶で、まだ合ってません ( ¯−¯٥)

…恐らく医務室の前にシャワールームですかね?あんな大量の化学薬品に曝されましたからね、急いで全身洗浄が必要でしょう…。

けど、大丈夫じゃ無いですかね?先程も液体操作のエキスパートさんが放送で呼ばれてましたし、なんとかなるでしょう (*´﹀`*)」

「おい、いいのかそれで?」

「… (´ーωー)?」

「いや、あんな姿晒したら、お嫁に行けなくなるでしょうよ?」

「きーくんの嫁になれば解決でしょう (๑˘・з・˘)?」

 

 

いや、誰だよ「きーくん」って…。

僕ロリが「何当たり前のことを聞いてるの?バカなの?死ぬの?」見たいな顔で此方を覗く。前を向き直るとかき氷を一掬い、口に運びながら話を続けた。

 

 

「いや~それにしてもみーちゃんは残念でした。同じ中学校だったから応援してたんですがね… ( ー̀дー́ )」

「っ!ちょっと待って?芦戸さんと同じ中学校!?」

「はい!僕とみーちゃん、あときーくんも同じ結田附中学校出身なんです!しかも三人揃ってA組なんですよ!凄いミラクルです ٩(* 'ω' *)و」

 

 

なん…だと…?

 

今の話をまとめると、「芦戸さんはみーちゃん」、芦戸さんは公式で切島君と同じ中学校出身。つまり「切島君はきーくん」となる。さらにこの僕ロリは、切島君・芦戸さんと同じ中学校出身ってことじゃねぇか!

凄ぇな、ヒロアカ二次創作なら主人公補正レベルの幸運じゃねぇか。いいな~、是非俺もそっちに………はいいや、一佳と会えなくなるのは辛い。

んでもって切芦はあったのか…。じゃない、そっちじゃない。

 

 

「…?どうしました、お兄さん ( ˘•ω•˘ )?」

「いや、なんでもないよ。それより結田附中学校出身なんだよな?じゃあ、植蘭中学校知ってるか?俺の出身校なんだけど…」

「はっ!?植蘭っ!内陸の方の!?僕ら同県の出身だったんですか!?マッカン好きならもしかしたらとは思いましたが… Σ(º ロ º๑)」

「まぁ、結田附中学校は沿岸部の方だからな…面識無いのも仕方ないだろ。しかしまぁ、天下の雄英ヒーロー科に千葉から五名って凄い偶然だな…」

「ねぇねぇ今度皆で遊びに行きましょうよ!舞浜とかどうですかっ «٩(*´∀`*)۶»!」

「っ!?いいなっ!それっ!是非行こう!」

 

 

やったぜ!切島君と芦戸さんとの遊園地フラグが立ったぜ!余りの良き働きに、僕ロリGJと言いたい。

それでは早速…と僕ロリの連絡先を交換していると、中継映像では常闇君対八百万さんの試合が始まろうとしていた。

 

 

「次の試合が始まるな」

「ふみーくんとヤオモモちゃんですね (*,,ÒㅅÓ,,)」

「…さっきから独創的なニックネームが続いてるな」

「へへん、可愛いでしょ ( ´罒`*)✧」

「そんで?常闇君と八百万さん…勝つとしたらどっちだと思う?」

「ん~どうでしょう?ヤオモモちゃんがふみーくんの弱点に気付いていれば勝機はあるんですが… (´>_<`)」

 

 

そういいながら僕ロリは、かき氷のスプーンの形をしたストローをクルクルと玩びながら考えるような仕草をする。

意外な事に僕ロリは常闇君の弱点に気が付いているらしい。それが合っているのか確認するべく話を促す。

 

 

「弱点?」

「あぁ、光ですよ光。ふみーくんの黒影(ダークシャドウ)ちゃんは光に弱いんです ( ¯∀¯ )」

「っ!知ってたのか?」

「やっぱりお兄さんは知ってたんですか?…となると騎馬戦で説明受けたんですね ( •̀∀•́ )✧」

「僕ロリも騎馬戦の時か?」

「はい、僕の攻撃を嫌がったんで、もしかしたら…って位ですが。

それに、以前救助訓練したときに黒影(ダークシャドウ)ちゃんが態度変わった時があるんですよ… (>︿<。)」

「説明受けたんだが…黒影(ダークシャドウ)は闇が深いほど力と凶暴性が増すらしい。そう考えると、常闇君の“個性”は安定性に欠けるんだな」

 

 

何気なくそう呟きながら、かき氷をかき混ぜて一掬い口に運ぶ。うん旨い。

しかしかき氷のシロップって、イチゴとレモンとメロンとブルーハワイって着色料とフレーバーが違うだけで、味は全く同じなんだってな。色彩と香りで脳が錯覚して、それぞれ別の味を勝手に思い込んでしまうらしい。人体っておもしろいな。

 

 

「同じ欠点がある僕としても同情します ( T ^ T )」

「欠点?」

「…まぁ、お兄さんになら言ってもいいかな?僕の“個性”って黒影(ダークシャドウ)ちゃんと反対なんですよね。

全身に光を蓄積させて、それをエネルギーにして光る掌を出してるんですよ。出力を上げればエネルギー消費も上がるので、大量の日光を浴びる必要があるんですよ ( ー̀εー́ )」

「なんだか光合成みたいだな…」

「そう!それ!それです (*´∀`)ノ」

「…なるほど。常闇君の真逆を行く“個性”なのか。けど屋内とか夜間致命的じゃないか?」

「電灯でも一応チャージは出来るんですが、エネルギー効率は太陽光がダントツですね ( ¯ω¯ )」

 

 

そんな雑談をしている間に試合は終わっていた。常闇君の速攻が八百万さんの初動を完全に封殺していた。八百万さんが出してるのは…盾と剣だな。残念ながら弱点には気付いていなかったようだ。

 

「瞬殺だな…」

「…ですね (>_<。) 」

「さて、戻るか。次の試合はすぐ始まりそうだしな」

「あっ、僕寄るとこあるので失礼しますね (ノ*>∀<)ノ」

 

 

そう言って騒がしい僕ロリは去って行った。俺はかき氷を一口食べて、それを見送る。

そして、会場に足を向けた。

 

 

_________________

 

 

「ただいまー」

「福朗おかえりーってまた食ってる…」

「かき氷冷たくて旨いぞ。そんで、鉄哲はどう?勝ってる?」

「見ての通りさ…」

 

 

大入が観客席に戻ると先程の熱も治まり、今度はちゃんと迎えてくれたようだ。

 

そして、試合は既に始まっていた。

 

 

一回戦 第七戦目

切島 vs 鉄哲

 

別名“個性”だだ被り組

 

両者共に肉体の防御力を向上させる“個性”の持ち主で、その頑強さを武器に近接格闘を好む二人だ。

『健全な精神は健全な肉体に宿る』という奴か、己の肉体一本で戦う彼らは非常に熱血漢で、その性格も何処か似通っている。

 

何処までも『だだ被り』なのだ。

 

そんな二人の戦いがやることは決まっている…。

 

 

 

──正面からの殴り合い。

 

 

 

自分の硬さを矛にした、真っ向勝負の殴り合い。

 

自分の硬さを盾にした、真っ向勝負の殴り合い。

 

自分の硬さこそ上だと、真っ向勝負の殴り合い。

 

自分の硬さ(誇り)を前に出す、真っ向勝負の殴り合い。

 

 

「相手の裏を掻くなんて思考が頭から抜け落ちているんじゃないか?」って思うほどに不器用で…清々しい戦い。

 

 

互いに互いの肉体を、

叩き、耐え、潰し、防ぎ、穿ち、弾き、

削り、圧し、殴り、堪え、歪み、阻む、

一歩も譲らない攻防戦。

 

拳が掠め、火花が散る。

蹴りが刺さり、鈍重な音が響く。

頭がぶつかり、甲高い音を鳴らす。

肘が鼻っ柱に当たり、鮮血が飛ぶ。

 

 

「拮抗…いや、鉄哲が押されてるな」

 

 

切島が息の詰まるような連打で鉄哲の体を押す。対して鉄哲は、腕を盾にして押し返す。

切島が息継ぎをした瞬間に、鉄哲が反撃の拳を振るう。

切島はそれを躱し、無防備を曝した鉄哲の顔面に拳を叩き込む。

 

 

「いや、拮抗であってる」

 

 

それを堪えた鉄哲が切島の脳天に拳を振り下ろし、怯んだ所に追加で飛び膝蹴りを突き刺す。

蹴りが鳩尾に入ると、切島の体がくの字に折れ曲がり、後ろに数歩下がる。

追撃するべく後を追う鉄哲。腕を横薙ぎに振るうと、切島がそれを伏せて躱し、そのまま足払い。

鉄哲が体勢を立て直す間に、切島が組み付いてに頭突き。

それに鉄哲は怯むどころか反撃。逃げられないように切島の両肩を掴み頭突きをお見舞いする。

 

 

「…なるほど、鉄哲が脳筋だって事が分かった」

「言い方酷いな!

…確かに鉄哲の方が体格が恵まれている。相手攻撃に怯みも少ないから、力任せに重い一撃をブッ刺してる」

「反対に切島君は手数だね。甘い攻撃は防御と回避。弱い攻撃を挟んで、隙を作ったとこに重い一撃を叩き込んでいる」

「要は鉄哲がパワー&タフネス…」

「で切島君がスピード&テクニック…て感じかな?って言っても誤差範囲だな。元々二人して硬さの御陰で、相手の攻撃は無視して叩きのめしてきてたから、今一回避に慣れてない。どっちのガッツが残るかの体力勝負だな…」

 

 

両者の連打が交錯する。スタジアムに硬質な打撃の雨が鳴り響いた。

 

 

_______________

 

 

(クソっ…しぶてぇなぁ…)

 

 

鉄哲は歯を食いしばる。対戦相手切島の攻撃は今まで戦ってきた相手の中でも上位に食い込む強さだった。

当たり前だ。素人がコンクリートの壁を殴れば、壁を壊すどころか拳が怪我をするリスクを孕んでいる。だからこそ、脳が無意識に力をセーブするのだ。しかし、鉄哲も切島もそのリミッターが少々緩い(・・)。“個性”が肉体を保護し、遠慮無く相手を殴る事が出来るのだ。

だからこそ切島の拳は重い。鉄哲の体の芯まで突き刺さり、揺さぶる。

 

 

「ったく!しつけぇなぁ…いい加減倒れろや!!」

「るせぇ!まだまだ余裕だっての!そっちこそフラフラしてんじゃねぇか!!」

「んなワケあるかっ!!ぶっ飛ばすぞオラぁ!!」

「やんのかコラぁ!!」

「上等だテメエ!!!」

「「打っ潰すっ!!!」」

 

 

売り言葉に買い言葉。喧嘩上等。殴り合いが再開される。

再び鉄哲の顔面に拳が刺さる。切島が執拗に顔を攻撃する。脳を揺さぶり、ノックダウン…「脳振盪」を狙って居るんだろう。お返しとばかりにアッパーカットを叩きこむ。拳が空を切る。

距離に微妙なズレがある。切島の攻撃が功を奏し、鉄哲に疲れが見え始める。呼吸が乱れ、焦点が合わなくなる。

切島が突っ込んでくる。鉄哲はただ我武者羅に拳を振るい、近づけさせないようにする。偶然一発が切島に入り、蹌踉けた所を蹴り飛ばす。

 

 

(庄田みてぇに弾き飛ばす打撃じゃねぇ)

 

 

拳が交錯するクロスカウンター。二つの拳が互いの顔面を捉える。重い衝撃に体が揺れる。内側に入り込んだ切島の打撃の方が強い。それを鉄哲は腕力に物を言わせて上から叩き伏せた。

 

 

(宍田みてぇに巻き込む打撃じゃねぇ)

 

 

鉄哲が全身を使ったタックル。切島が正面から受け止め、ガップリ組み合う。

互いに互いの首を押さえて、腹に顔面に膝蹴りを叩き合う。喧嘩囃子が木魂する、互いに引かない首相撲。

 

 

(鱗みてぇに緩んだ所を狙い撃つ打撃じゃねぇ)

 

 

鉄哲がローキックを連打する。膝を狙い、足を潰す。それを嫌った切島が離れる、空いた距離に鉄哲の拳が伸びる。空を切る。

 

 

(拳藤みてぇに全身まとめて叩き潰す打撃じゃねぇ)

 

 

鉄哲は思わず、共に切磋琢磨してきたクラスメイトの事を考えていた。注意力が散漫になって来ているのだろう。

しかし、攻撃が納まる様子は無い。ひたすら相手を叩き伏せる乱打の嵐。

 

 

(殴られたとこをゴッソリぶち抜いてくるような重い打撃…)

 

 

同じ能力、同じ力量、同じ性格、同じ闘い方。何処までも同じな相手。強いシンパシーを感じた。

 

 

(そして、大入は…)

 

 

その瞬間、鉄哲の頭に何かが降りてきた。

 

切島の拳が迫る。顔面を狙ったテレフォンパンチ。

 

鉄哲は思わず、その腕を掴んだ。

 

 

 

 

「は?…どわぁ!」

 

 

鉄哲はその手を思い切り、引き寄せる。

 

切島の体勢が崩れて、前につんのめる。

 

切島の腕を捕らえたまま、クルリと背中に回る。

 

後ろの足を払い、覆い被さる様に倒れる。

 

一瞬の出来事。それに見取れ、観客が静まり返る。

 

 

 

 

「んぎゃああーーっ!!!」

 

 

停止した空間が、切島の悲鳴で再動した。

気が付けば、背後を取られた切島が地面に組み伏せられ、右腕は関節を極める様に背中に回されて抑え込まれている。

 

 

「こうするんだったよなぁ!大入ぃ!!」

 

 

大入は鉄哲と格闘するときは殴ったりしない。必ず、投げるか、極めるか、締めていた。殴るよりも、殴られないようにする対策。

 

鉄哲は大入の「硬い相手への対応策」を見様見真似でやって見せたのだ。

 

 

「くそっ!放せっての!」

「バカが!ダレが放すかっ!…オラぁ!!!」

「んぎゃああーーっ!!!」

 

 

切島が力の限り暴れる。事実切島は身柄を拘束されている。ミッドナイトの判断次第では「鉄哲が切島を制圧したもの」とみなして試合を終了してしまうかも知れない。

その前に全力で脱出を試みる。

 

対する鉄哲は肉体の鋼化に集中する。鋼の密度が上がり、強度と重量が更に増す。

力任せに切島を押し潰す。

 

 

『地味!!此処に来てまさかの押さえ込みっ!しかし、思いの外効いてんぞ!!

切島っ!全く動けない!!』

 

「オラぁ!!!」

「んぎゃああーーっ!!!」

 

 

_______________

 

 

鉄哲さんの拳は基本鈍器だ。しかも、金属バットのような比較的軽い物では無い。

イメージとか例え話になるのだが、中身までタップリ金属の鉄哲さんの拳は鉄骨に潰されるか、鉄アレイを投げつけられるかの様に強く重い。

はっきり言うと間違っても肉体強化の無い人間が喰らって良い物では無い。アレを受け止めてピンピンしてる切島君が異常なのだ。

 

だからこそ、俺は合気道の様に相手の力を受け流して投げ、威力を抑えるために関節を封じ、暴れないようにロープでふん縛っていた。

鉄哲さんとまともに殴り合える奴は少ない。庄田君も、宍田君も、鱗君も、そして一佳も、鉄哲さんの拳には回避かパリィを選択する。

 

鉄哲さんと切島君に差が付いたとすれば、それは高校に入ってからの環境の差だろうか?

 

切島君の純近接格闘について行けるのは、パワー型の個性の砂藤君か格闘技経験者の尾白君。緑谷君は基本デカいの一発カウンターになるし、飯田君は高機動のヒット&アウェイ、かっちゃんはまだ対応するが爆破を絡めるので純近接格闘とは少し違う。

 

一方で鉄哲さんは。庄田くんからボクシングとキックボクシングを、宍田くんからは肉体強化のスピード&パワーの喧嘩殺法を、鱗君からは中国拳法を、そして俺と一佳からは空手に柔道に初歩的な部分だけだが合気道まで完備している。

近接格闘の対戦相手が実に豊富なのだ。

 

 

「これは…決まったな」

「あぁ…」

 

 

一佳の言葉に上の空で答える。わざとじゃない。ただ、考察に夢中なだけだ。

 

このまま行けば鉄哲は勝つ、確実にだ。

 

鉄哲の体格と重量で本気で押さえ込まれたら詰みだ。抜けようにもあの様に片腕を封じられては、満足に力は入らない。

藻掻いて暴れても、スタミナを悪戯に消費し、ガス欠へのカウントダウンが進む。

仮に拘束を逃れても、体力の落ちた切島君では鉄哲さんの反撃を凌ぐのは困難を極める。

 

しかし、何でだ?

 

原作では両者相討ちのダブルノックアウト。復帰後に簡単な競技で再試合。再試合の折、鉄哲さんは体内の鉄分残量が不足して敢え無く敗退した。

延長戦は体力面だけで無く、鉄分量と言う別要素を持った鉄哲さんが不利になるのはごく自然な事だ。

 

間違いなく今回も、鉄哲さんと切島君の実力は均衡していた。あのまま殴り合っていたら相討ちか、ほんの偶然でどちらかに勝利が転がり落ちて居ただろう。

 

でも、そうはならなかった。鉄哲さんが今までに使った事の無い、関節技を使ったのだ。漢は拳で語るタイプの彼なのにだ。

一体何があったのか、何がそうさせたのか…。

 

 

『そこまでよ!切島くんを完全に捕縛し行動不能にしたと見なし、鉄哲くんの勝利とします!!』

 

 

ぱたりと思考が中断される。判定が下り、会場が歓声に包まれると、鉄哲さんが切島君の拘束を解く。すると、切島君は悔しそうに拳を地面に叩き付けた。余りの力に地面に亀裂が走る。

鉄哲さんが切島君に手を差しのべる。きっと「いい勝負だった…」とかそんな事を言ってるはずだ。切島君が涙を拭った後に手を取り立ち上がる。

胸いっぱいの歓声と拍手を浴びて両者がステージから降りる。その前に鉄哲さんがこちらを見てニヤリと不敵な笑みを見せた。

 

──「待ってろよ…大入!」

 

自意識過剰でなければ、そんな意味の込められた顔に感じられ、本能的にビビった。

 

 

_______________

 

 

一回戦 第八試合

爆豪勝己 vs 麗日お茶子

 

 

今回一番不穏なマッチング。

 

その勝負は麗日の先制から始まった。爆豪がこれを夥しい爆発で迎撃。麗日は再度、立ち篭める煙幕から奇襲をするも圧倒的な反応速度で返させる。

絶望的な実力差、しかし心は折れない。無謀とも思える突撃を繰り返す麗日、爆豪は轟爆の瀑布で正面から叩き伏せる。

余りに凄惨な光景。素人にはか弱い少女を男が嬲っているようにしか見えないのだ。痺れを切らした観客からブーイングが湧き起こる。

しかし、爆豪の目にはあの麗日が自分の首を取るために息を潜め、牙を研ぐ獣染みた執念のような物を感じた。

 

目の前の獣は勝負にでる。

 

麗日は両手を合わせて“個性”を解除した。全ては布石なのだ。麗日は爆豪の爆破を誘うため突撃を繰り返した。煙幕をまき散らし、視界を塞ぐ。姿勢を低く保ち、地面を撫でるように迫る。視点を下に固定し、意識をそらした。

空一面には麗日が軽くし、爆豪が巻き上げた瓦礫の数々。それらがステージを叩き潰すかの様に降り注いだ。轟焦凍にも塩崎茨にも発目明にも決して劣らない大規模攻撃。

 

しかし、現実は非情だ。

 

爆豪は手を掲げる。自身の持つ最大限の出力の爆破を天に放つ。轟音と衝撃と赤熱が瓦礫を飲み込み、粉砕する。鎧袖一触の一撃でこれまでの計略を叩き潰した。

爆豪の首筋に冷や汗が流れた。完全に虚を突かれ、使う予定の無い大技を引き出された。代償となった手の痛みが頭に叱咤をあびせてくるようだった。

 

爆豪は初めて麗日を「名前で呼んだ」。彼が名前を呼ぶのは、隠れた特別な証。有象無象から一個人として認めた証なのだ。

だか、その事に気付く余裕が彼女には無い。残念ながらこれまで積み上げた作戦を、瞬く間に制してしまった爆豪。麗日の精神的支柱は悲鳴を上げた。

 

しかし、麗日は食い下がる。

 

全ては憧れに近づくため。

 

──(私もデクくんみたいに…っ!)

 

 

 

 

思えば、入学試験の時になるだろうか。試験最大のギミック『エグゼキューター』。その窮地から逃げ遅れたのが彼女だった。「このままじゃ死ぬ」そんな危機的状況を助けたのが一人の少年だった。

『緑谷出久』。手入れの殆どしてない無造作な緑の縮れ髪。幼さの残る顔立ちにソバカス。そして、何よりも強く輝く大きな瞳が印象的だった。

 

拳を一振り。

 

絶望を払い除けた正義の一振り。今まで漠然と描いてきた『ヒーロー』と言う印象を鮮烈に、網膜に、脳髄に、心に焼き付けた。

 

あの時、彼は彼女の憧れになった。

 

同時に支えたいと思った。

 

『エグゼキューター』を下した彼。その後の彼の姿は痛ましいものだった。手足は折れてドス黒く変色し、瞳は輝きを失い、今にも消えてしまうのではと恐怖した。

目を離した隙に居なくなってしまうのではと思うほどの儚さ、夢から現実に叩き落とされたかのような衝撃的な落差。彼女は守りたいと思った、憧れを、希望を、脳裏に焼き付いたこの『強くて弱いヒーロー』を…。

 

 

 

 

麗日お茶子は諦めない。少しでも憧れの背中に追いつくために。

 

Plus Ultra(更に向こうへ) … 脚を一歩前に進める。ほら、体はまだ動くじゃ無いか。

 

Plus Ultra (更に向こうへ)… 視線の先を見つめる。ほら、敵はまだ居るじゃ無いか。

 

Plus Ultra (更に向こうへ)… 力いっぱい拳を握る。ほら、私はまだやれるじゃ無いか。

 

 

 

 

Plus(更に)Ultra(向こうへ) ……

 

 

 

 

そこで麗日の意識は途絶えた。沈み征く意識の中、口にした言葉は何だっただろうか…。

 

 

目の前で倒れた少女を見て。勝者『爆豪勝己』は呆然としていた。

 

 

 

 

激闘の八連戦。勝者と敗者が決まった。勝者は更なる激闘に身を投じる。

 

 

 

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