転生者「転生したんでヒーロー目指します」   作:セイントス

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56:最終種目 二回戦 1

──「『個性婚』知ってるよな?

“超常”が起きてから第二~第三世代間で問題になった奴だ。自身の“個性”をより強化して継がせる為だけに配偶者を選び結婚を強いる倫理観の欠落した前時代的発想。実績と金だけはある男だ、親父は母の親族を丸め込み、母の“個性”を手に入れた。

俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲求を満たそうってこった。

 

うっとうしい…!

 

そんな屑の道具にはならねえ!!

 

……。

 

記憶の中の母はいつも泣いている…。「おまえの左側が醜い」と母は俺に煮え湯を浴びせた。

俺がおまえにつっかかんのは見返す為だ。クソ親父の“個性”なんざなくたって……いや…。

 

使わずに『一番になる』ことで奴を完全否定する」

 

 

 

 

──「僕は…ずうっと助けられてきた。さっきだってそうだ…僕は…

 

誰かに救けられてここにいる。

 

『オールマイト』…彼のようになりたい…。そのためには1番になるくらい強くなきゃいけない。君に比べたらささいな動機かもしれない…。

でも、僕だって負けらんない。僕を救けてくれた人たちに応える為にも…!

 

さっき受けた宣戦布告。改めて僕からも…

 

僕も君に勝つ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

──「君の活躍、見させてもらった。素晴らしい“個性”だね。指を弾くだけであれ程の風圧……!

パワーだけで言えば『オールマイト』に匹敵する“個性(ちから)”だ。

ウチの焦凍にはオールマイトを超える義務がある。君との試合はテストヘッドとしてとても有益なものとなる。

くれぐれもみっともない試合はしないでくれたまえ…」

 

 

 

 

──「………僕は、オールマイトじゃありません。当たり前の事ですよね…。

轟くんもあなたじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

第二回戦 一戦目

緑谷出久 vs 轟焦凍

 

 

 

吐いた息が白い…。

それ程にステージの気温は下がり、冷気が肌を撫でた。

パキパキッ!…音を鳴らし新たな氷が生まれる。氷が怒濤の勢いで生えてきて、津波となって押し寄せる。

 

指を弾く。

但それだけなのに、信じられ無い程の力の奔流が全身を駆け巡り、弾かれた指先に収束する。

弾いた指先を破壊し、生み出した衝撃波は氷の包囲網を悉く粉砕する。

 

もう、四回目だ。

 

緑谷が己の指を「使い捨ての弾」と割り切って轟の氷による範囲攻撃を相殺した回数だ。緑谷の右手は、その親指以外の四本が痛ましい姿に変わり、拳を握ることさえ躊躇われる酷い状態だった。

 

 

「耐久戦か…すぐ終わらせてやるよ」

 

 

再び轟が氷の津波を生む。しかし、それを壁にして轟自身も前進。

緑谷は氷の攻撃を相殺するために五発目…左手の指から衝撃波を放つ。氷を砕く打撃が走り抜ける先には轟は居ない。

氷の階段を駆け上がり、空に跳躍、緑谷の頭上を捉えた。

咄嗟に緑谷は後方に下がる。轟の追撃は止まない。緑谷の回避を見るや否や、着地と共に地面を氷結、先程よりも至近距離で氷が侵攻する。

 

轟の攻撃が寸分の狂いも無く、緑谷を捉える。

 

 

次の瞬間、先程よりも何倍も強い衝撃波が吹き荒れた。

 

 

「……さっきより、ずいぶん高威力だな。近付くなってか」

 

 

咄嗟に緑谷は左手を使った。調整が間に合わず左腕一本丸々使った打ち消し。

たった五合打ち合っただけで痛感してしまう格の違い。

 

 

(“個性”だけじゃない…。判断力…応用力…機動力…全ての能力が強い──!!)

 

 

「…守って逃げるだけでボロボロじゃねぇか」

 

 

轟が緑谷に語りかける。戦いの最中、そんな余裕を出せるほどに実力が開いていることの証左だった。

 

 

「悪かったな、ありがとう緑谷。おかげで奴の顔が曇った。

その両手じゃもう戦いにならねぇだろ。終わりにしよう」

 

 

轟が決定打となる氷を放つ。緑谷を呑み込まんと、怪物がアギトを開くかのように襲いかかる。

 

 

「どこを見てるんだ…!」

 

 

轟は目を見開いた。

再び衝撃波、右の指は全て壊れ、左は腕ごと使い物にならない。

ならば、どうやって緑谷は氷を打ち消したのか?

 

 

「てめェ…何でそこまで…」

 

 

答えは明白だ。緑谷は壊れた指で、再びあの馬鹿げた力を使ったのだ。己を磨り潰すかのような戦い方、常人には理解不能な狂気が宿っていた。

轟は震えた。それは緑谷に戦慄したからか、それとも…

 

 

「震えてるよ轟くん…。“個性”だって身体機能の一つだ。君自身、冷気に耐えられる限度があるんだろう…!?」

 

 

緑谷は見抜いた。

数々の局面を一撃で瞬殺してきた轟の氷。その弱点を…。

捨て身で氷を破壊し続けたからこそ見つけた突破口。しかし、そんな物は「虚構」である事まで理解していた。

 

 

「で、それって左側の熱を使えば解決出来るもんなんじゃないのか………?」

 

 

不利になると理解していながら、口に出さずにはいられない。

轟の不幸話は聞いた。緑谷には想像も付かず共感する事さえ出来ない壮絶な過去。轟の覚悟は、緑谷が口を挟む権利など無いのかも知れない。

 

 

「……っ!!皆、本気でやってる!

勝って…目標に近付く為に…っ!一番になる為に!

 

半分(・・)の力で勝つ!?

 

まだ僕は傷一つつけられちゃいないぞ!」

 

 

それでも言うのだ。言わなければならない。

 

 

「全力でかかって来い!!」

 

 

緑谷はぐしゃぐしゃになった右の拳を握り締め、そう激昂した。

 

 

「…………何のつもりだ?」

 

 

轟は苛立った。

 

 

「全力…?」

 

 

なぜ、そんな言葉を掛ける?

確かに緑谷の考察は正解で正確で正論だ。

 

左側()を使えば、冷え切った体温は回復する。更には攻撃の手段も増える。

 

しかし、それは轟にしかメリットの無い話だ。緑谷が更なる窮地に追い込まれるだけで、百害あって一利無しだ。

 

 

「クソ親父に金でも握らされたか…?」

 

 

あり得る話だ。クソ親父(エンデヴァー)ならば轟焦凍に左側()を使わせるため手段を選ばないだろう。

 

 

「イラつくな…………!」

 

 

──叩きのめそう。

 

轟はそう考えた。先程有効だった近接へと持ち込む。

それに合わせたように緑谷が懐に飛び込む。轟の右足が浮き、氷結を発動できない一瞬の隙を突いた。

 

緑谷の拳が初めて轟の腹に突き刺さる。

 

一回、二回、三回とバウンドし、轟は地面を転がった。

 

難攻不落の轟の攻め手に初めて風穴を開けた。

 

 

(何で…)

 

 

轟が氷結を展開する。しかし、緑谷はこれを驚くほどにあっさりと躱した。

轟は体に霜が降り、身体機能を低下させ、氷結の出力を著しく削いでいた。

 

 

「何でそこまで…」

 

 

轟焦土は困惑した。

 

何故、緑谷はそこまで戦う。

何故、折れない。

何故、諦めない。

何故、藻掻く。

何故、足掻く。

何故、何故、

何故……。

 

何が緑谷(あいつ)をつき動かす──!

 

 

(彼のようになりたい。その為には、1番になるくらい強くならなきゃいけない。君に比べたらささいな動機かもしれない…)

 

──それでも!

 

「期待に応えたいんだ…!笑って!応えられるような…カッコイイ(ヒーロー)に……なりたいんだ!!!」

 

 

堰を切ったかのような激情。緑谷の口から止めどなく溢れ出した。

緑谷は進む。前に、前に、前に…。

 

 

「君の境遇も!君の決心も!僕なんかに計り知れるもんじゃない………っ!

でも!!全力も出さないで一番になって、完全否定なんてフザけるなって今は思っている!!

だから……僕が勝つ!!君を超えてっ!!」

 

 

緑谷の拳が轟の腹部を捉える。凄まじい拳打に轟が吹き飛ぶ。

重い打撃に轟の意識が混濁する。心の中を針金でグチャグチャに掻き混ぜられるような感覚。思い出したくも無いのに嫌な記憶が呼び起こされる。

 

 

齢五つ、ヒーローとしての教育が始まった。何度体を殴打され、吐瀉物を撒き散らした。庇ってくれた母が殴られた。

 

 

「うるせえ…」

 

 

余りの過酷さに、母に泣き付いた。優しく頭を撫でてくれた母はいったいどんな顔をしていただろうか。

 

 

「うるせえ…」

 

 

手を引かれ、修練所に連れて行かれる。「兄弟達とは違う世界の人間だ」と隔絶された。

 

 

「うるせえっ!」

 

 

夜中、急に目が覚めた。水を飲もうと台所に行くと、母が居た。

聞いた…聞いてしまった。

焦凍(あの子)が日に日に似てくると。左側がエンデヴァー(あの人)に似てくると。とても醜くく思えると。

もう駄目だと、育てられないと。

思わず声を掛けた。今の言葉を否定したくて、信じられなくて…。

振り向いた母の顔。憔悴した母の顔。その目…。

叫び声が聞こえた。自分の声であることに数秒要した。

熱い、アツい…。

煮えたぎる熱湯が顔に降りかかっていた。顔を焼いた。

 

 

「うるせえっ!!」

 

 

その日から母は居なくなった…。

 

 

「うるせえええぇぇぇぇっ!!!」

 

 

…憎い。

 

過酷な鍛錬を課し続けた親父が憎い。

母をいじめる親父が憎い。

兄弟達とは違う物としてみた親父が憎い。

母を奪った親父が憎い。

 

…憎い。

 

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いっ!!!

 

 

「嗚呼ああああああっ!!!」

 

「っ!!?」

 

 

次の瞬間轟から冷気が噴き出した。とうに限界は超えて、氷の一塊さえ満足に作れない状態で。血肉を絞るような絶叫と共に氷を吐き出した。 

 

 

『此処に来て駄目押しの大・氷・結っ!?緑谷捕まったああぁっ!!』

 

 

霞み始めた視界に緑谷を捉える。手足を凍らされ、身動き出来なくなっていた。

体が凍え、意識が飛びそうになるのを親父への復讐心で繋ぎ止めた。

 

 

「俺は…俺はっ!左側を見る度にアイツの影がちらつくっ!!憎いんだこの左側()がっ!俺から大切なものを奪ったこの血がっ!

だから否定するっ!俺は認めねぇ!認める訳にはいかないんだっ!!」

 

 

もはや、自身が何を言っているのかさえハッキリとしない。轟はそれ程までに追い詰められていた。

 

 

「…それでも…君のっ!!」

 

 

緑谷を絡め捕った氷にピシリ…ピシリと亀裂が入る。そして氷が力の爆発と共に砕け散った。

 

 

「力じゃないか!!」

 

 

緑谷は使った。右腕一本。それが氷の牢獄を破るのに払った代償。既に戦える体ではない。

 

それでも緑谷は前に進む。両腕を失い、戦う術も無い。それでもだ…。

 

一歩、また一歩。三歩目を踏み出した所で力を失い、倒れた。

 

 

『…ドクターストップよ。緑谷くんのこれ以上の戦闘を認める訳にはいかないわ。緑谷くんを戦闘不能と見なして轟くんの勝利とします!』

 

 

主審『ミッドナイト』から告げられた試合中止の指示。

 

地に伏せた緑谷を見下ろした轟は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 

 

_________________

 

 

「…ろう?…ねぇ、福朗!」

「っ!?…なんだ、一佳?」

「なんだ?…じゃ、ないよ。どうしたんだ?大丈夫か?」

 

 

ステージを食い入る様に眺め、思考を繰り返す大入。隣に座った拳藤の呼びかけで、はっと我に返った。

 

 

「ずいぶん余裕だね、大入?準決勝の相手の考察も大事だけど、目先の相手も忘れてないよね?なんせ相手は塩崎さんだよ」

「…あぁ、そうだな。悪かった」

「……おいおい、本当に平気かい?」

「大丈夫…大丈夫だから…」

 

 

物間の皮肉の効いた忠告にも素直に答える。しかし、その表情は沈んでいて、物間が思わず素で心配する位に影が差していた。

 

 

「すまん、ちょっと寄るところがあるから先に行くわ…」

 

 

 

「あぁ、では私もそろそろ参りますね」

 

 

そう言って大入は観客席を後にする。しかし、その表情は焦っている様に感じられた。

そんな大入の後を追うように塩崎も席を立つ。彼を心配してか、彼女は駆け足で追いかけていった。

 

 

「あぁ…塩崎さんが行ってしまった…」

「君はどんなキャラ押していきたいんだよ」

 

 

さり気なく塩崎の隣をキープしていた回原。しかし、彼女が居なくなったことで酷く落胆していた。

そんな彼を尻目に話題は先程の対戦の考察に移る。

 

 

「にしてもエグいな…あの氷」

「あぁ、あれ推薦合格者だもんなチートだチート」

「オレ騎馬戦の時、ガチガチに凍らされたべ」

「本当に一瞬だったよなアレ…」

「あーわかるわかる。思い出しただけで寒気がするし」

 

「…」

「…けっ」

 

 

先程の試合、緑谷が終盤巻き返していたものの、全体的には轟の一方的な戦いだったと言わざる得ない。

同じ推薦組で有りながらここまでの力の差を見せつけられては、柳も骨抜も面白くは無い。

 

 

「流石は『エンデヴァーJr.(ジュニア)』…アレで半分の力だってさ。あーやだやだ、あんなんどうしろってんだよ」

 

 

ビッグネーム…No.2ヒーロー『エンデヴァー』…その息子が雄英に入学した。

 

No.1ヒーロー『オールマイト』が雄英教師として招き入れられる大ニュースに完全に喰われてしまったが、それでも人の口に戸は立てられないもので、一部ではかなりの噂になっていた。右側の氷を主力にしているため、気付くのに遅れた者は多いが、vs瀬呂との一戦で左側の高熱を使った事からそれも明るみに出始めていた。彼こそが英雄の血を引く者であると。

障害物競争・騎馬戦と他の選手においしい所を持っていかれてばかりだが、その実力は本物だ。大規模で有りながらコントロールまでしっかりと熟す『氷』。範囲攻撃に拘束、氷壁による防御に足場を自在に生成する機動力、本人自身の判断力・応用力・戦闘力も相俟って周囲から頭一つ抜き出ていた。加えて右の『炎』という隠し球を考えれば、対峙者にとって悪夢と言うほか無い。これまでの汚名だって、「障害物競走1位の大物喰らい『緑谷出久』」「騎馬戦1位の立役者『大入福朗』」「入試実技1位の絶対強者『爆豪勝己』」を撃破して「優勝」してしまえば、充分に濯がれるだろう。

 

 

「けど、一先ずは二人の試合だ。あのアシメ頭と当たるのはどちらになるのか?」

「しかしなぁ…大入と塩崎かぁ。どっちが勝つと思う?」

「サシで真面にやり合ったのは、屋外逃走劇以来か…。その時は大入の辛勝だったな」

「じゃーよー?勝つのは大入か?」

 

「いや、どうだろうな…」

 

 

珍しい事に拳藤が異を唱えた。常日頃大入と行動を共にする事も多く、彼の味方である彼女が否定的な反応をした。

クラスメイトの数名が意外そうな反応をする。

 

 

「福朗は強い…でも、それは他人の何倍もの装備を自在に操る事で引き出している結果だ。限られた装備では限界がある」

「それでもアイツのメインの〈突風〉は問題なしだろ?」

「んな訳あるか。肉弾戦ならそれで充分だが、氷や蔓の大規模の攻撃にはそれなりの下準備が必要だ。福朗は今回、どこまで仕掛けを作ってるのやら…。

それに、茨もメキメキ力を付けてる。福朗にとっては辛い戦いになるはずだ…」

 

 

_________________

 

 

──「塩崎さん雄英合格おめでとうっ!」

──「ウチから雄英合格者なんて我が校初めての快挙だ!担任としても鼻が高いよ」

──「大丈夫っ!塩崎なら立派なヒーローになれるよ」

──「そうそう何たってウチらの期待の星だもんね!」

──「茨ちゃんおめでとうっ!お母さん応援するわねっ!」

──「けど、無理はしないでくれよ?心配しない訳じゃ無いんだからな?」

 

 

──「はいっ!皆さんの期待に応えられるように精一杯頑張りますっ!!」

 

 

私は…自分で言うのも恥ずかしい話では有りますが「優等生」でしたと思います。

豊かな家庭で両親から愛情一杯に育てて貰い、とても健やかに育ちました。

体は強く、運動もしっかり熟せる、正に健康体。頭も良く、成績は上位で一部からは才女と言われるほどでした。

友人にも恵まれました。私が困っているときには手を差しのべて貰い、反対に相手が困っているときには手を差しのべる。助け助けられる美しい関係です。

 

特に助けた時に貰う「感謝の言葉」。それが私には堪らなく愛おしく、尊い物に感じたのです。

だからでしょう…私がヒーローを目指したのは。

 

幸いにも、勉強も運動も出来ました。強い“個性”にも恵まれました。両親に応援され、担任に応援され、クラスメイトに応援され…私は皆のお陰でこの雄英の門戸を叩く事が叶ったのです。

 

 

しかし、現実は過酷です。

 

 

対人戦闘訓練。骨抜さんと希乃子さんの計略に為す術も無く敗北しました。

 

屋外逃走劇。圧倒的な此方の優位的状況をたった一人で覆した『大入福朗』さん。特に彼は凄かった。

 

目を閉じれば、あの光景が鮮明に蘇ります。

 

ビルや道路、街灯から標識看板に至るまで私が絡めた蔓に埋まる街並み。その所々が火炎で焼き払われてしまった。

刀剣を片手に信号機の上に佇み、此方を見下ろした彼。その瞳は爛々と輝く炎、ヒーローと言うよりは戦士の眼…だったと思います。

私はこれ程に強く、恐ろしく、美しい人を見たことがありませんでした。

 

 

しかし、話して見ると何とも優しい方でした。彼は戦闘の時に見せる姿とは裏腹に、日常生活では明朗快活、面目躍如、茶目っ気のある性格も相俟ってクラスメイトの大半とも友好的な関係を築いていました。

率先して手伝いをして頂く事も多く、正に「絵に描いたような」優等生でした。

 

 

もっと彼を知りたい。いつの間にかそう思うようになっていました。だからこそ、彼の家に行く許しを求めたのです。

彼の取り巻く環境は私の想像を超えるものでした。彼は天涯孤独で有りながら、今日まで生きてきたのです。その苦労たるや「全て恵まれて育ってきた私」と「全て自ら勝ち取ってきた彼」では天と地程の差があったのです。

これこそが「私に欠けている物」では無いかと思いました。言い換えるなら「困難を乗り越える力」と言うものです。

 

 

その日から彼は目標になりました。もし彼を超える事が出来たら。きっと私は立派なヒーローになれるでしょう…。

 

_________________

 

 

ちょっと待て待て待て待て待てって!!

おかしいっ!何かがおかしいっ!

 

どういう事だ!説明しろ苗木っ!?

 

 

先程の試合。緑谷君を倒して轟君が勝ち上がった。そこは原作通りだ。

問題は轟君が「炎を使わなかった」事だ!

 

原作では緑谷君がここで真の意味での轟君の本気を引きずり出し、因縁との決別。そして、自分を見つめ直して正しいヒーローへと転身して行くはず…だった。一体何が起きている?

 

…いや、思い当たる節はある。「原作乖離」だ。

 

俺と言う原作には居ない存在。「ヴィラン連合襲撃事件」「雄英体育祭騎馬戦」で俺は明確に原作メンバーに介入と接触をしている。細かい原因までは分からないが、もしかして俺の干渉によって幾つかの切っ掛けを逃してしまったのかも知れない…。

 

不味い事態になった。

 

轟君がここで炎を解放しないと、この先も氷のみで戦う事になる。戦力的に大問題だ。

いや、それ以前に「ヒーロー殺し」だ。このままエンデヴァーを否定し続ける轟君では、エンデヴァー事務所に研修に行くわけ無いから、路地裏組が成立しなくなる。万が一、それをクリアしても真なる英雄を求めるステ様が復讐者(今の轟君)を見たら高確率で粛清対象ではなかろうか?

仮にステ様を捕獲し、難を逃れても問題はまだある。ステ様捕獲の偽装工作は、ステ様の全身火傷をエンデヴァーが行った物と関連付ける事で成立したのだ。下手をしたらヒーローになる資格自体の剥奪になりかねない。

 

 

……あれ?これってもしかして人生詰んだ(デスティニーツムツム)

 

 

ヤバイヤバイヤバイヤバイっ!このままじゃヤバイって!?

 

 

………

 

 

……

 

 

 

 

…俺がやるしか無いのか?

 

 

 

「大入さ~ん!」

 

「む?」

 

 

思考が決断に至った所で後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。

後ろを振り向くと塩崎さんが駆け寄ってくる。あぁ、そんな走ると…。

 

 

「みゃうっ!?」

 

 

ほらね、盛大にコケる。

 

塩崎さんとクラスを共にして分かったが、彼女は天然でドジっ娘だ。偶にネタにマジレスするし、考え事に集中すると周りが見えなくなり、何も無いところで躓いたり、柱にぶつかり頭を下げていたりする。

単に生真面目で一極集中型で視野が少し狭いの人間って訳だが…あれ、これって意外と飯田君に似てる?

ともかくそんなアホな思考は余所に捨て、塩崎さんを助け起こす。

 

 

「ありがとうございます」

「塩崎さん、廊下は走ったら危ないでしょ?」

「すみません。どうしても大入さんの事が心配でしたので…」

 

 

そう言ってはにかむ塩崎さん。あら、やだ、この娘天使よ…いや聖母(マリア)だったわ。うむ、回原君がベタ惚れするのも仕方ない。

 

 

「心配?」

「えぇ、何かをとても思い詰めていらっしゃる様でしたので…」

「…あー…」

 

 

そっか、そんな険しい顔していたか…。轟君のピンチだからな、張り詰めていたかも知れん。とりあえず、誤魔化すようにほっぺたをムニムニ引っ張った。オッケー。

 

 

「ごめんごめん、さっきの試合見てたら緊張してさ…」

「そうですね…私達のどちらかがあの人と戦う事になるんですよね…」

「だな、ぶっちゃけ規格外だわな~あんなの…」

「……大入さん。大入さんはあの人に勝てますか?」

「ん~わからん。対抗策のプランが三つか四つ出てるけど、さてさて何処まで通用するか…」

「…凄いですね。私にはあの人に勝つ活路が見つけられません」

 

 

そう言って塩崎さんは悔しそうに下を向く。

そうだよな、轟君はこおり・ほのおタイプだもんな。くさタイプの塩崎さんじゃダメージ2倍だもんな。ちくしょー、地形がジャングルか地面が腐葉土ならまだワンチャンあるのにステージがコンクリ張りって辛いわ。

 

 

(凄いです大入さん。大入さんはあの強敵にも既に勝ち筋を探し始めている。

それに比べて私は、「勝てない」って一瞬頭を過ぎってしまいました。

こんな僅かな違いでさえ、差を感じてしまう。私の目標はまだ遠い…)

 

 

いかん、何か分からないが塩崎さんがスンゴイ落ち込んでいる。これは励ました方が良いのか?

 

そう思って俺は塩崎さんのほっぺたを抓った。

 

 

「えいっ!」

「みゅっ!?」

「うわ~ほっぺた柔っこい。ほれ、うりうり~」

「いはい、いはいでふ大入さん。…急にどうしたんですかっ!」

「下手な考え休むに似たりさ。

今は俺を見ろっ!塩崎茨っ!今倒すべきはこの俺っ!B組のラスボス、大入福朗だろ!」

 

 

そう茶化して言い放つ。すると、俺を見て唖然とする塩崎さん。…もう少し、後一押しだな。

 

 

「不謹慎な物言いだけど、折角(あつら)えて貰った大舞台だ。俺とお前で遠慮無く戦える大舞台だ。だったら思いっ切り戦おう。全力で戦おう。

…でも、簡単に準決勝(さき)に進めると思うなよ?知っての通り、俺は強いぞ?」

 

 

そう言って俺は不敵に笑う。そして、塩崎さんの前に拳を突き出す。

すると、先程までの沈んだ顔も戻り、いつもの優しい温かな笑顔に戻った。

 

 

「…そうでした。私約束(・・)したことがあったんでした」

「約束?」

「泡瀬さんと骨抜さん、そして鉄哲さんとです。必ず大入さんをギャフンと言わせる事です!」

 

 

ギャフンと来たか…。

 

そんな風に思っていると塩崎さんが俺が出した拳に応えるように、拳を握り締めコツンとぶつけてきた。

 

 

「覚悟して下さい大入さん。私、貴方を殴りますねっ!」

「うぇっ!?」

「それではお先に失礼しますね!」

 

 

唖然とする俺を置き去りにして塩崎さんが去っていく。

…えっ?殴る?塩崎さんが?俺、殴られるのん?

って言うか…。

 

 

「あーしまったー…」

 

 

塩崎さんが落ち込んだままの方が、俺楽に勝てたやん。

 

 

________________

 

 

『そろそろいってみようかァ!二回戦二組目はコイツらだァ!』

 

 

ステージの修繕も終わり。次の試合が始まる。試合の度にステージが崩壊する大迫力のバトルに観客の熱は上がりっぱなしだ。しかし試合が再開されれば、その熱は更に上がる。まるで天井知らずの盛り上がりだ。

 

 

『本大会では珍しいB組同士のマッチングだ!選手入場っ!個人的にはこっちにBETするぜっ!』

『私情丸出しじゃねぇか』

『上鳴戦では圧倒的な包囲網を見せ付けてくれた!!今回も圧倒か!?塩崎茨!!』

 

 

塩崎はステージの上に佇む。

目を閉じ、手を胸の前で握り合わせ、祈る。

彼女が自分のパフォーマンスを上げるためにいつも行う習慣(ルーティーン)。捧げているのは、祈りか、感謝か。

 

 

『対するはっ!あらゆる仕掛けで相手を翻弄するっ!知恵と勇気の策士っ!アレだな孔明の罠だなァ!!大入福朗!!…ってブフォっ!!』

 

 

今回は普通に手を振りながら入場してくる大入。

何故かジャージの上は着ておらず、インナーのTシャツ姿で気合い充分だ。

但し問題はそのTシャツ。白無地のシャツ、背中には『必勝!!』とプリントアウトされていた。絶妙なダサさが笑いを誘う、所謂ネタシャツだ。

 

 

『いちいち楽しませてくれるなっ!シュールっ!!』

『あれ、分かっててやってるんだろうな…』

 

 

ステージに上がった大入は四方の観客に両手を振って応える。と同時に、背中の『必勝!!』を反対側の観客に、これでもかとアピールしてくる。

 

 

「大入さん、先程はありがとう御座いました。この勝負、胸を借りるつもりで全力で行かせていただきます」

 

 

そう告げると塩崎は拳を握り、構えた。

 

 

(…格闘技の構え?)

 

 

確かに塩崎は格闘技を使える。ヒーロー基礎学には対人の徒手空拳もカリキュラムに組み込まれているため最低限の技術は仕込まれる。

しかし、本格的に格闘技をやっているメンバーと比べたら雲泥の差だ。少なくとも大入に取る選択肢では無い。

 

 

(…罠…か?)

 

 

『S T A R T !』

 

──パチン!

 

「衝撃のファーストブリットぉぉっ!!」

 

 

大入は速攻を選択した。

塩崎の蔓の脅威は一言で言えば「包囲力」がポイントだ。時間を掛ければ、その分包囲網は完成し、苦境に立たされる。反対に短時間ならば、包囲も甘く、力技で抜けられると考えた。

大入は指を鳴らし、一瞬で右腕に〈揺らぎ〉を纏う。右肩から大量の空気が噴き出して、大入の体を前に押し出す。

 

一回転。

 

繊細かつ大胆に自慢の拳を振り抜いた。

 

 

「んなっ!?」

 

 

そして塩崎は大入の拳をしっかりと受け止めた。

蔓を丹念に編み込んで作った「茨の布」。それを盾に大入の速攻を防いだのだ。

「茨の布」はかつて大入宅に修行に行った際編み出した技術で、少ない蔓をより強力に使う必殺技だった。

 

 

──〈手編み(ハンドニッチング)! 羽衣(フェザリング)!〉

 

 

「貴方のおかげです大入さん…。貴方おかげで私は以前の私より強くなりました。

だから、見て下さいっ!これが今の私の全力(・・)ですっ!」

 

 

そして塩崎は蔓を全力で放出する。夥しい量の蔓が伸びて、「対大入用」に開発していた必殺技を繰り出した。

 

 

「…マジ?」

 

 

大入は塩崎の姿を見て、呆然としていた。

そして塩崎の必殺技が牙を剥く。

 

 

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