物間君wちょwおまw
煽んなやw集中線やめーやw
続きです。
『塩崎茨』
“個性:ツル”
彼女の頭髪が植物の「蔓」になっていて、伸縮自在なそれを巧みに操作する“個性”。
水と日光、後植物に必要な養分さえ有れば幾らでも再生可能。更には蔓から分化した「根」を使えば、地面からでも養分を確保できるという半永久機関のような大変馬鹿げたリソースを所持している。
基本戦術はその圧倒的物量に物を言わせた「包囲戦術」になる。丁度、セメントスの様に相手の逃げ場を殺しつつ、動きを封じていくのだ。
突破口となるのは「蔓の強度」だろうか?蔓植物は繁殖能力こそ高い物の、それら一本一本の強度は脆弱だ。植物の強度を決める「細胞壁」、それが蔓は強くある必要が無い、何せ蔓は樹木等を「支柱」に絡み付く様にして上に伸びるのだ。自身を支える細胞壁を作る為のエネルギーを存分に生長に使えるからこその繁殖能力なのだ。
つまりは、蔓による拘束にはそれなりの量の蔓が必要なのだ。
以上の点を踏まえた上で塩崎さんへの対抗策を立てるなら。塩崎さんの蔓が少ない内に場外に叩き出すか、蔓が少ない内にパワーで引き千切るか。どちらにせよ耐久戦・持久戦は論外である。
しかし、最近になって塩崎さんは新技を開発した。それは蔓同士を絡み合わせる技術だ。糸を紡いで縄を編む様に、機織りで布を作るように。少ない蔓でも、その強度を何倍にも跳ね上げる技だった。
この技術を使い、より迅速な拘束を塩崎さんは狙うに違いないっ!
と思っていた時期が私にもありましたっ!
「うおおおぉぉっ!!」
俺は落下地点から全力離脱する。駄目押しに跳び込むようにヘッドスライディング。射程圏から離れた瞬間に攻撃が来た。
ドゴォ!!と言う轟音を響かせて、落下地点が陥没する。ステージにクレーターをこさえた巨塊が、再度空に戻る。
『なんと大入!手も足も出なぁい!!逃げる一方っ!!』
「ちくしょー…B組のラスボスなんて言うんじゃ無かったーっ!!あっちの方がラスボスだーっ!?」
そう言って俺は上を向いて叫んだ。そう、「遥か上に居る塩崎さん」に向かってだ。
〈
空を見上げればそこに佇むは、悠然と立つ「荊のぬいぐるみ」。…全体的に丸みを帯びたテディベアを思わせるような形状は、かなりユルい物を感じさせるが、その強さはかなり緩くない。
試合開始から僅か数分間。塩崎さんが保てる最高速度で蔓を生長し続け、肥大化させた巨人。今では高さ約15メートルと割とシャレにならないサイズになっていた。驚け、ビル4~5階分だ。
当の塩崎さんはぬいぐるみの頭と思しき部分の天辺で蔓の操作に全神経を注ぐべく、チョコンと女の子座りで鎮座していた。
いちいちかわいい座り方してんな!ちくしょーっ!!
「隙は与えませんっ!!」
「わっ!わっ!わーーっ!!?」
塩崎さんが再度攻勢に出る。俺に向けて、丸でモグラたたきをするかのように〈荊の拳〉の乱打の雨を降らせる。
俺はそれを右へ左へと回避していく。
防戦一方。しかし、こちとら以前に0p敵『エグゼキューター』とやり合っているんだ。それなりに心得はある。
「くっ!見えませんっ!」
「へへっ!足元がお留守ですよ~!」
俺は猛攻を潜り抜けて、ぬいぐるみの股下に滑り込む。塩崎さんのあの位置なら、ここは完全に死角だ、そのまま背後に回る。
指を鳴らして、本大会の心強い相棒である「試作型伸縮式足狩槍鎌『レッドキャップ』」を取り出す。それを思いっ切り縦に振るのに合わせて槍鎌の柄を一気に最大距離まで伸ばす。鎌がぬいぐるみの腰に刺さったのを確認すると同時に槍鎌を縮める。その力を使って俺は一気に上に登る。再度槍鎌を伸ばし直して、同じ要領で肩まで駆け上がる。そこから指を鳴らして、風の爆発で跳躍。塩崎さんの頭上を捉えた。
『なんと大入!巨人の股下を潜り抜けて背後に回るっ!!そこから一気にエレベーターっ!!さァ来たぜ、アタックチャンスだっ!!』
「爆砕!重落下!!」
塩崎さんの頭上を捉えた俺は、槍鎌を格納すると同時に、再び指を鳴らして両足に〈揺らぎの風〉を纏う。そこから直滑降で無防備を晒した塩崎さんの背中を狙う。
「甘いですっ!!そこは死角ではありませんっ!!」
「んなっ!?ぐあっ!!」
塩崎さんの両脇に控えていた「耳のパーツ」が突如伸びる。そしてそれが「荊の壁」となり、俺の攻撃を防いだ。そのまま壁に俺は激突して、無防備にも空中に投げ出される。
そして、塩崎さんは攻め手を緩めない。
空中の俺を蠅でも叩き落とすかのように、〈荊の拳〉を振り抜いてきた。
「うおぉぉっ!!撃滅のセカンドブリットぉぉっ!!!」
俺は慌てて指を鳴らして、全身に〈揺らぎの風〉を纏直す。姿勢を制御して迎撃、自慢の拳を振り抜いた。
直後、直撃。俺の拳なんぞ焼け石に水と言わんばかりに、〈荊の拳〉が俺の全身を叩く。何とか拳の軌道を逸らして俺は真下に墜落、
塩崎さんは下に落ちた俺を踏みつぶそうと〈荊の足〉を踏み出す。俺は指を鳴らして空気を爆発させて横に緊急離脱する。
「ちくしょー…つれぇー…塩崎ェ…」
「休む暇は与えませんっ!!」
「わっ!ちょ!ひーーっ!!!」
『さァさァ、モグラたたきの続行だ!このまま塩崎のワンサイドゲームなるかぁ!?』
乱打の雨が地面を叩く。為す術も無く逃げ回る俺は、今一度天高く悲鳴を上げた。
「ぎゃああぁぁぁぁっ!!!」
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「巨人が…進撃…してる…」
『柳さん!それ言っちゃダメな奴だーッ!?』
塩崎 vs 大入
戦況をシンプルにまとめた言葉に、謎電波を受信した吹出のツッコミが炸裂する。
「茨め…質量で来たな。悪くない選択だ」
大入は自身の“個性”と数多の「サポートアイテム」を併用し、近・中・遠距離をバランス良くこなす全距離タイプだ。
しかも、相手の特性に合わせて戦法を自在に変化させる臨機応変スタイルだ。
大入は微に入り細に入る様に相手の弱点を穿ち、そこからジワジワと傷口を広げていく。もし、弱点が判らなければ、自身の持つ無尽蔵に思えるような手札を次々と切り替えて相手の隙をこじ開け、弱点を探っていく。
一言でまとめると「小細工が巧い」のだ。
そんな大入が苦手とするタイプは「自分の弱点をしっかりとカバーしている相手」や「能力自体に弱点が少なく、シンプルにまとまっている相手」だ。
“発動型個性”にカテゴリーされる大入は、小細工の介入出来ない力比べに持ち込まれると、“増強型個性”“異形型個性”相手に勝ち目が無くなるのだ。
現に拳藤と大入が屋内に限定した模擬戦をすれば、約六割拳藤に軍配が上がっていた。
塩崎の選択は「“個性”の並行制御による隙を無くし」「自分の“個性”を純粋な一つの力」にまとめ上げる事で、大入の細工の介入する余地を潰す策略だった。
「普段は全方向からの完全包囲に使う蔓を一纏めにする事で、より頑強に仕上げているのか」
「しかも体と同じように動かせるから、例えコントロールが大雑把になっても一括で稼動させているせいか、いつもよりスムーズだ」
荊のぬいぐるみ。ああ見えて意外に強い。
一撃一撃が怪物化・巨大化に匹敵する破壊力を持ち、動きも柔軟で機敏。本体を護る防御機能も付加され、死角は無し。
「問題点を挙げるなら蔓の生成量。普段の塩崎ならば地面から養分を補填しているが、コンクリートの地面ではそうも行くまい。恐らくは全て自前のエネルギーを使っているだろう」
「となると…あの量って相当だよね?茨っちこれに勝てばまだ試合があるんだよ?大丈夫なのかな?」
「考えて無いのだろう?」
「…は?」
「返答だ取蔭。塩崎は「試合の後の事など考えていない」。ここで大入を打倒するためには出し惜しみなんてしている余裕が無いのだ。それ程に大入は強い…」
「まってよ黒色っち。だ…だって茨っち、大入っちをあんなに圧倒してるんだよ!そ、それに大入っちはいつものサポートアイテム無しじゃ「茨っち対策」だって…」
「それでも構築してくるから怖いんだよ。大入は…」
あきれた様子で物間はそう口にした。
「見てなよ…僕は彼ほど凄い奴を知らないよ」
_______________
(…動きが…変わった?)
「旋風!回転拳っ!!」
荊の巨人を大入が殴る。〈揺らぎの風〉がドリルの様にうねり、貫通力を纏う拳がその肉厚な巨体に突き刺さる。
しかし、あの図体に小さな穴一つ空いた位でどうこうなる物ではない。
「旋風!回転拳っ!!」「旋風!回転拳っ!!」「旋風!回転拳っ!!」「旋風!回転拳っ!!」「旋風!回転拳っ!!」「旋風!回転拳っ!!」「旋風!回転拳っ!!」「旋風!回転拳っ!!」「旋風!回転拳っ!!」「旋風!回転拳っ!!」
『なんと大入っ!ここに来て猛反撃っ!!荊の巨人を穴ボコにしていく!!』
(…これはっ!?)
しかし、風穴が十ならどうだろうか?百なら?千なら?
大入の狙いはそれだ。
「削ぎ落とす気っ!?」
大入は槍鎌を自在に使い、巨人の体を右へ左へ、肩から膝へ腰へと動き回る。そしてその要所で体の付け根に攻撃を集中させる。
塩崎は巨人の体を揺さぶり、体に張り付いた大入を払い落とし、落下した大入に追撃を加える。しかし、揺さぶりの兆候を見て、大入が自ら地面に降り、素早く体勢を整えて直ぐさま張り付く。
塩崎は大入にそのサイズ差を好いように利用されていた。
そして、限界が来た。
「っ!?」
『あぁーっと!!巨人がっ!』
「貰ったっ!腕一本っ!!」
巨人の右腕が肩からメキメキと音を立て剥がれ落ちる。支柱となる蔓が抉り取られ、自重を支えることさえ出来なくなったのだ。
入試実技試験でやった事と本質は同じだ。只管相手の戦力を削り潰す作戦。
大入は更に攻撃を加える。
「これ以上はやらせませんっ!」
塩崎は出し惜しみしていた裏技を使った。巨人の体表の蔓で出来た皮を、ベラリと剥ぎ落としたのだ。
実はこの巨人。装甲を厚くするために「茨の布」を何層にも重ねた構造を取っている。表面を削がれても、一層…また一層と欠けても、巨体の駆動の保持を可能にする仕組みだ。大入であれば、転生知識に因んで「タマネギ装甲」と呼ぶことだろう。
「なにっ!?うわっ!!」
一番外側の茨の布が落ちるのに巻き込まれて大入が落下した。急ぎ絡まった茨から這い出して、状況を確認した大入は絶望した。
「嘘だろおいっ!!!」
上を見れば、空を覆い尽くす黒い影。荊の巨人が跳んだ。その全身の圧倒的な面積と重量を使ったフライングボディプレス。既に大入を捉えていた。
大入は走り出す。あの攻撃から逃れるため、指を鳴らし、風を纏い、走る。
しかし、足りない。
(速く、速く、速く、はや…)
巨体が落下して轟音が響き渡り、土煙が舞い上がった。
──あれ…死んだんじゃ無いか…?
誰も彼もが同じ事を考えた。
地面を覆い尽くすように横たわる荊の巨人。そこに大入の姿は見えない。恐らくはあの図体の下敷きになってしまった。
観客一同が固唾を呑み込みステージの上を注視する。
巨人がその体をゆっくりと起こす。すると、巨人が傷付けた痕の他に、地面に不自然に掘られた大きな窪みを見つけた。セメントスだ、彼の“個性”だ。
セメントスは手に触れたコンクリートを自由自在に操る力を持つ。その力を使って落とし穴…もとい「塹壕」を造ったのだ。
彼の機転により生み出された安全地帯が大入の命を繋いだ。
そこに、大入が入ればの話だが。
倒れた巨人の真下。塹壕の中は愚か、巨人の下の何処にも大入の痕跡は無かった。
──大入は何処だ?
皆の疑問に答えるかのように、土煙が晴れた。
『な、な、なぁぁあんとぉっ!!大入避けたっ!避けてたっ!!流石に死んだと思ったぞオイ!?』
「嘘っ!?何故っ!?完全に捉えたはずだったのに!?」
巨人の位置とは対角線になるように大入は立っていた。呼吸は乱れ、冷や汗をダラリと流し、一杯一杯といった様子ではあるが、それでも生きている。
予想外な無傷の生還に観客から歓声が湧き起こる。
(何が…起こったっ!?)
大入は困惑していた。何故自分は回避出来ているのかと。
あの瞬間、塩崎の攻撃は間違いなく大入を捉えていた。反撃不可、防御不可の完全な一撃。せめて望みのある全力疾走による回避も到底間に合う物では無い。それでも回避したのだ。
しかも、ギリギリなどでは無い。塩崎と大入の距離は既に十メートル以上離れている。大入の身体能力では絶対に移動しきれる長さでは無いのだ。
(何だか分からんが…助かってるなら…動くっ!!仕掛けは出来てるんだ!後は畳み掛けるっ!!)
大入は指を鳴らし新しいアイテムを取り出す。
取り出したのは「先端に布の巻き付いた棍棒」。鉄パイプのような棒に、青い布がワイヤーで固定するように巻き付けられ、そこから柄の方に導線の通った奇妙な武器だ。
「着火っ!」
大入がトリガーを引くと小型バッテリーから電気が流れ、先端に取り付けた電気雷管から火花が散り、火薬玉が発火。小規模な火は布に燃え移り、炎になった。
大入の武器は、火を出せる魔法のステッキ「自動松明」だった。
大入は武器を手に入れた。
大入は再び指を鳴らして〈揺らぎ〉を生む。そして、その中に松明をねじ込んだ。
「〈
大入が必殺技を宣言した瞬間、〈揺らぎ〉の中の炎が膨れあがり、荊の巨人を呑み込んだ。
「火吹き芸」と言うものをバラエティー番組で誰もが見たことがあるのでは無いだろうか?口に含んだ可燃性の液体燃料を霧状に噴き出し、松明等の火種に引火させ、人が火を吐いているかの様に演出するパフォーマンスである。
大入のやった事は正にコレである。この炎で荊の巨人を火達磨に変えたのだ。
余談であるが、松明も液体燃料も全てロボットに搭載された銃火器や燃料タンクから取り出したルール上問題の無い物で有り、松明に巻いた布に至っては「大入が脱いだジャージ」である。
「…パージしても消えないっ!?…っ!やってくれましたね…っ!!」
塩崎も火炎放射に対して警戒も対策もしていた。荊の巨人の体は何層にも重ねた複層装甲になっている。そもそもこの装甲の目的は、もし大入が火炎攻撃をしてきた場合、表面の装甲を剥離し、火の手から遠ざけることで飛び火による被害拡大を抑制するためのギミックだった。
しかしどうだろう。塩崎が装甲を剥がしたところから次々と引火、火の手が全身を駆け巡った。
ここにも大入の細工は及んでいた。先程の連続攻撃、巨人の全身を穴ボコに変えた大入の拳。大入は拳が巨人の中に入った瞬間に「液体燃料」を流し込んでいた。細かく縫われた人形の肉体は液体をスポンジの様に吸い上げ、体の様々な所に浸透していた。
塩崎は選択を迫られる。このまま火が無くなるまで剥離を繰り返して、戦う余力が巨人に残るかどうか?
(…だったら、いっそっ!!)
『あぁっと塩崎っ!荊の巨人改め炎の巨人で果敢に攻める!!』
「アツっ!?」
塩崎は炎を無視して攻勢にでる。巨人が走る度に火の粉が舞い、拳が地面を叩く度に火の粉が飛び散る。熱風が吹き荒れ、息が詰まる。
大入は素肌を火の粉でチリチリと焼かれながらも回避を続け、追加の火炎放射をお見舞いし、応戦する。
勝負は急速に傾いていった。
『とうとう…っ!!とうとうっ、巨人が倒れるぞぉっ!!』
巨人の膝がブチリと千切れ、体が揺らぐ。そのまま体勢を引き戻すことさえ叶わずにゆっくりと倒れた。
「んなっ!?ぐあっ!!!」
巨人が倒れる瞬間、塩崎は巨人の上から飛び降りた。そのまま着地、続け様に強烈な踏み込みで地面を踏み砕き加速、一瞬で大入との距離を詰めて、塩崎は拳を握り全力で振り抜いた。
塩崎の身体能力を完全に凌駕した拳打。対塩崎戦にて近接格闘を想定していなかった大入は反応が遅れた。塩崎の拳が大入の腹部を殴り、盛大に吹き飛ばした。胃袋が攪拌され吐瀉物をはき出した。
「…ぐほっ!げほっ!!」
「…やはり、まだ立ちますか。流石です大入さん。出来れば
口元を拭い、大入は立ち上がる。胃に強打を喰らい、“個性”が変調したのを感じた。
塩崎は追撃をせずにそれを徒手空拳の構えのまま見守る。これが私の奥の手だと自信を持って告げる。
そんな彼女を見て大入は思った。
(くそっ、
〈
塩崎の姿は雄英指定のジャージ姿では無い。ジャージの上から、全身を司祭が身に纏う修道服を模した「荊の鎧」で完全に武装していた。熱風に煽られ靡く「荊のマント」が炎の色を受けて朱く揺れている。
その姿は魔王か勇者の様だった。
「大入さん御覚悟を…では、参りますっ!」
「くっ!!」
塩崎は再び急加速。大入が動くよりも速く近接格闘に持ち込む。そして散弾銃の様に拳を振るった。
大入は防御をする。塩崎の拳の軌道を読み切り、側面に掌底・裏拳を当て、ラッシュの雨を掻い潜る。拳に巻かれた荊の刺が大入の手のひらを裂き、見る見る内に血塗れに変えていく。
「しゃっ!!」
頭を狙ったハイキックが大入の鼻先を掠める。大入は後ろに跳び後退、先程落とした松明を拾い上げる。
指を鳴らして〈揺らぎ〉を作り、再び火炎放射を浴びせた。
「無駄ですっ!」
塩崎の「荊のマント」がザワリと動く。それが巨大な扇となって風を巻き上げる。旋風により、炎は呆気なく散った。
「運良く効けば御の字」くらいの軽い気持ちで繰り出した火炎放射。その軽率な行動のツケを大入は身をもって知る。
塩崎の「荊のマント」の形状が変化した。ギリリと雑巾でも絞るかの様に捻れ、
「
かつてイエス・キリストの腹部を貫いた伝説の槍は、その再現するかのように大入の腹部を抉る。
槍の螺旋運動と刃の表面を彩った棘が、大入の服を破り、脇腹を裂き散らして、鮮血を滴らせた。
「ぎぃっ!?」
「これを避けますかっ!」
大入の短い悲鳴が上がる。
先程の塩崎の死突は、大入が火炎放射を放って無防備になった瞬間を狙われた。大入は体を捩り、松明の柄を荊の槍に宛てがい、軌道をそらして、ギリギリの所で凌いだのだ。
しかし、大入の受けた傷は深い。
「…塩崎さんは強いな」
「…ありがとうございます」
大入が自分の着ていたシャツをビリビリと引き裂く。塩崎を警戒しながらも裂いた布を包帯代わりに腹部の傷にキツく巻きつける。
塩崎は構えを解く事無く大入を警戒する。大入への追撃は無い。騎士道精神にも似た塩崎の慈悲が大入の応急手当を赦したのだ。不意打ちでもしようものなら全力で返り討ちにあっているだろう。
「最初の戦いはこっちの辛勝。今回はこっちの窮地だ。しかも、今回は新しく必殺技を三つも引っ提げて来た…。逢う度に塩崎さんは強くなる」
「貴方のおかげです大入さん。貴方が私の前に居てくれたから、私は貴方の背中を目標に走る事が出来るのです」
「ははっ、嬉しい事を言ってくれる…。でも、
「っ!?気付いてましたか…」
「わからいでか。そんな
塩崎の必殺技である「荊の鎧」はパワードスーツと同じ考えである。全身纏った鎧は装甲としてのみならず、蔓の一本一本が筋繊維と同じ働きをし、塩崎の身体能力を爆発的に引き上げていた。
しかし、それだけでは足りないと塩崎は想定していた。だからこそ、奥の手をもう一つ重ねた。
〈
塩崎の蔓は「地面に根を張る」事で、蔓の生長に必要な養分を吸収する事が出来る。
しかし、地面に根を張ると蔓の位置が固定され、満足に身動きが出来なくなってしまう。
それを塩崎は「自身の体に根を張る」事で、蔓の生長を加速させた。これなら塩崎の移動を阻害すること無く、養分の吸収量を上げることが出来る。しかし、自身の身を削り“
「どうしてそこまで勝ちに拘る?いや拘るなとは言わないが、身を削ってまでする事じゃ無いだろう?塩崎さんの身に何かあったら如何するんだ?
加えるならこの状況もだ。なんで応急手当を赦している。この隙を突く方が明らかに楽だろう?」
「…共感してしまったんです」
「何?」
「先程の試合…。轟さんも凄いとは思いましたが、それ以上に私は緑谷さんの言葉に衝撃を受けたのです…」
──「皆、本気でやってる!勝って…目標に近付く為に…っ!一番になる為に!半分の力で勝つ!?まだ僕は傷一つつけられちゃいないぞ!」
──「期待に応えたいんだ…!笑って!応えられるような…カッコイイ
緑谷が轟に向けて放った言葉。自身の感情と願望が剥き出しになった言葉。絶対的な強者相手に一歩も怯むこと無く、己の身を削りながらも尚、戦うその姿。塩崎には今まで感じた事の無い衝撃だった。
自分の中にあれ程の決意はあるだろうか?それ程の事を実行に移す勇気はあるだろうか?
だから、試してみたくなった。超えてみたくなった。己の限界を。己の目標を。
塩崎も必死なのだ。自分が一歩先に進む為に…。
「…はぁ、“
最後に布をキツく固結びした大入は指を鳴らして全身に〈揺らぎの風〉を纏い、加えて新たな武器を取り出す。長い柄の先に鉄の塊、所謂ハンマーだった。形状は大振り目のスレッジハンマーだが、片側がお椀を付けたような奇妙な形のハンマーだった。
大入はハンマーを三度振り回して、調子を確かめた後に、それを構える。
「だったら連れてってやるよ。死に物狂いで着いて来なっ!」
「…はいっ!!」
塩崎の決意に大入が乗り、大入の誘いに塩崎が乗った。
B組最強の大入。B組の最優秀の塩崎。互いが互いを認め合った良き好敵手。だからこそ同時に「最高の状態で戦いたい」「こいつには負けたくない」と感じてしまうのだ。
両者共に消耗は激しい、これが最後の打ち合いになるだろう。
「
突如大入のハンマーが火を噴いた。大入が風の力で塩崎に一気に詰め寄る。轟々と音を立てたハンマーがジェットの様な噴射に後押しされて、力強く横薙ぎに振るわれる。
塩崎は半歩後ろに下がり、ハンマーをやり過ごす。空いた距離を一歩で詰め寄り、渾身の右を放つ。
大入は塩崎の拳を見切り、首を捻り拳を避ける。頬を裂き、血が飛び散る。斬って返す様にハンマーは軌道を変え、縦一閃と脳天目掛け振り下ろす。
塩崎は追撃を止めて後ろに飛んだ。
ハンマーが地面を叩く。ガギリと金属音を鳴らし、ハンマーに取り付けた地雷が炸裂、地面が爆発した。
「っ!?」
「試作型噴射式発破戦鎚『コダマネズミ』っ!
土煙を突破し大入が肉薄する。手には新たに取り出した…先程と同じハンマーが二本。両手にそれぞれ一本づつ持ち体ごと一回転、両手をそろえて体を捻る。遠心力の乗ったハンマーが塩崎を捉える。
塩崎は荊のマントを二振りのハンマーの間に割り込ませる。ハンマーの重い二擊が体の骨の髄に響いた瞬間、ガギリと金属音を鳴らして爆発した。爆風に身を焼かれながら塩崎は大きく弾き飛ばされる。両足を踏ん張り、地面を削りながら減速する。
塩崎が前を向き直すと大入は必殺の構えに入っていた。
「抹殺のおおぉぉぉっ!」
大入が〈揺らぎの風〉を最大噴射する。一気に最高速度に乗った大入は一回、二回、三回と大回転し、自慢の拳を繰り出した。
これに対して塩崎は迎撃を選択した。今の自分が出せる最高の一撃を繰り出した。
「
荊のドリルが螺旋を描き、大入目掛けて振り抜く。
大入は眉一つ動かさずに、真っ正面から拳を振り抜く。
「ラストブリットおおぉぉっ!!!」
拳とドリルが真っ正面からぶつかり合う。力が拮抗し、ドリルが大入の拳を削らんとガリガリと音を立てる。
「もっと…もっとっ!もっと輝けえぇぇぇっ!!!」
「!?」
大入が気合と共に風速を更に上げる。ドリルの軌道が曲がり、上に弾き上がる。その際、大入の右の拳、肘、肩に至るまで皮膚の表面を抉り抜いた。
そして大入の拳は塩崎の左胸…「心臓」へと叩き込まれた。
その瞬間、塩崎の意識は暗転した。