転生者「転生したんでヒーロー目指します」   作:セイントス

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どうでもいい話。

以前より混乱を招いていた9話を加筆修正しました。
以前と比較してオリ主のB組配属の流れが分かりやすくなったかと…。

あと、タグに「B組進行」を追加いたします。


失礼しました。続きです。




64:最終種目 決勝戦 1

ステージ上を一線の氷柱が走り抜ける。目の前に立つ敵対者を捕らえようと、その牙を剥く。

対する相手は高速で横へと走り抜け、氷結を余裕を持って回避してみせる。

回避した者は桃色の髪を靡かせた少女で、足下を見ると膝・踝・足の裏の三点で固定された高下駄の様な珍妙な靴を履いていた。どうやら発条(バネ)の働きをしているらしく、強力な反発力が全身の強いストライドを実現し、スプリンターの様な走りを可能にしていた。

 

 

『見て下さいっ!この加速!この走りっ!脚部に柔軟なスプリング機構を導入!強力な踏み込みを実現した「ホッパーシューズ」!

最高時速40kmでの走りを可能にしております!!』

 

 

三位決定戦…。

 

発目節は止まらない。全身にレッグパーツ&アームパーツとオートバランサーを装備し、完璧な走りと体幹をキープしつつ、自らのプレゼンを敢行する。

攻撃を鮮やかに躱す彼女の手腕に、観客から大歓声が湧いてくる。中には彼女を応援するファンも出てきたようだ。

サポートアイテムの力で優秀なヒーローの卵と渡り合う一人の少女には別種の期待感が生まれていた。

 

そんな彼女にいいようにされてばかりの対戦相手では無い。

氷結の主…轟は再度氷結を放とうとする。

 

すると、発目がそれを制するために左手を前に出す。

一見籠手に見えるそれもまた異色のサポートアイテムで、親指以外の四指の指輪から配線が飛び出し、手の甲・腕へと繋がった…ある種キーボードの様なサポートアイテムだった。

発目が指先を動かすと、空中に待機していた円盤状の物体達が右へ左へと進路を切り替えながら、轟を包囲しつつ殺到する。

 

 

『「サイクロンチャクラム」!

本来は偵察機のドローンに使う技術ですが、今回はその耐久性と機動性をご覧になって頂きたいので、攻撃装置に組み込みました!20通りのオートパターンを学習しており、こちらの指示で自由自在に動きます!!』

 

 

轟は殺到する円月輪を横に跳んで回避する。

円月輪は幾つかが地面に落下、強く打ち付けられるも、壊れた様子も無く空へ再浮上していく。

 

 

『操作にはこちらの「リモコングローブ」を使用!

事前に入力したプログラムコードを呼び出し、登録したアイテムを簡単に操作できます!!

さあ、お次のアイテムはこちらっ!!』

 

 

発目が肩からストラップを使い、たすき掛けに提げていたグレネードランチャー…にしてはやや小型の銃を持ち出す。

銃口を轟に向けて一発。轟の左側へ向けて二発放つ。

 

 

「…ふん」

 

 

轟は正面からの射撃を難なく躱し、真横(・・)から跳弾してきた弾丸を一歩下がって躱した。

 

 

『「ジャイロシューター」!

砲身に組み込んだパワーモーターの働きで強化ゴム弾を高速回転っ!威力のみならず、この様なトリッキーな跳弾や曲射弾道まで思うがまま撃つことが出来ます』

 

「……」

 

 

轟が無言で氷結を放つ。大入戦で見せた氷の壁の二方向同時展開。走り続ける発目は囲いの中へと閉じ込められた。

 

 

『ひゃー、囲まれてしまいました!逃げ場がありませんっ!

そんなときには…コレっ!』

 

 

そう言いながら発目は腰に下げた、フリスビー程の大きさのベーゴマを地面に投げる。

地面に落下した衝撃で独楽の中の羽根が飛び出し、独楽が自動で回転を始める。ヒュンヒュンと風切り音を鳴らし、周囲の空気を掻き集めて強烈な上昇気流を作り始めた。

それに合わせて、肩に取り付けられたスイッチを押すと、発目の背中に背負った小さな箱から上に竿が伸び、傘を開いた。

しかしコウモリ傘とは違い、子供があそびで裏返した傘の様に上方に逆さまに開いたヘンな形をしており、更には花弁のように何枚かの羽根に分断された奇妙な傘だった。

 

 

『「ストームスピナー」!

地面を独楽の様に回転するプロペラから強力な上昇気流を作ります!

更にこの「フラッフパラシュート」があればあっという間にイン・ザ・スカーイっ!!』

 

 

傘のパラシュートを使い、上昇気流に乗ると一気に空へと飛んだ。さながら風に乗るタンポポの綿毛の様に発目は軽やかに宙を舞う。

 

 

『持続時間は三分間っ!最高高度は10mまで一気に飛翔します!!』

 

 

フワリと空を漂い、地面に着地すると。また、足を使って疾走しだした。

 

戦況は依然として轟の優勢。しかし、発目は果敢に攻めの姿勢を貫き続けた。

 

 

 

 

だが、待って欲しい。

何故発目が轟相手に善戦しているのか?

開幕に最大凍結を出して終わりでは無いか?

 

 

(………後、5分か)

 

 

轟がちらりと巨大スクリーンに目配せをする。試合開始から5分が経過していた。

 

そんな轟を見て、発目は満足そうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

話は三位決定戦の試合開始前にまで巻き戻る。

 

 

「お前は……」

 

「ああっ、轟焦凍さんですね!初めまして私発目と言います。どうかよろしくお願いします…」

 

 

轟が次の試合、三位決定戦の為に選手控え室に到着すると、その中には発目が居た。

ポットから淹れた焙じ茶をスス…っと飲みながら、随分とリラックスした状態だった。

 

 

「実は私、貴方にお願いが有って来ました」

「……お願い?」

「えぇ、そうですとも」

 

 

湯飲みをテーブルに置くと発目は立ち上がり、轟の傍に歩み寄った。

 

 

「ハッキリと申し上げます、轟さん。次の試合、私では貴方に勝つことは出来ません。

試合開始と同時にあの最大凍結を撃たれれば、為す術も無くやられて、終わりとなりましょう。

しかし、それでは駄目なのです。私には自分の開発したサポートアイテムを披露すると言う役目があるのです」

「……何が言いたい?」

 

 

轟の警戒心が上がる。

先程緑谷達と話していた疑念が頭に浮かぶ。

 

大入黒幕説。

それが真実なら目の前の彼女…発目明もその息が掛かった人物となる。

 

自然と身構えていた。

 

 

「ズバリ、私と茶番(・・)をして頂けませんか?」

「………は?」

 

 

虚を突かれ随分と間抜けな声が漏れた。彼女は轟に八百長を求めてきたのだ。陰謀…いや、確かに陰謀ではあるが、ここで直接交渉というカードを切ると誰が想像出来ただろうか?

 

 

「……俺に次の試合はワザと負けて欲しいって言ってんのか?」

「いえいえっ、そうでは有りませんっ!

轟さんには10分間だけ戦いで手を抜いて頂きたい。その間、私にサポートアイテムをプレゼンテーションする時間を貰いたいのです。

もちろん、想定以上に私が優勢ならば反撃も構いませんが、試合を終わらせない程度に加減して頂きたいのです。

その後は先程の試合の様に自分から場外に出ます。勝ちは貴方が貰って下さい」

 

「冗談じゃ無い……」

 

 

何を巫山戯た事を宣っているのか?轟はそう感じた。

ここはヒーローの卵が上を目指し、しのぎを削り合う「雄英体育祭」だ。その場で手を抜いて戦えと要求してきたのだ。答える訳が無いだろう。

 

 

「さぁ、帰ってくれ…」

 

 

取り付く島もない。轟は控え室のドアを開けて、退室を促した。

しかし、発目は動く様子は無く、口を開いた。

 

 

「本当に?」

「……?」

「…本当に、試合を一瞬で終わらせて…良い(・・)のですか?」

「…は?」

「このままだと、優勝は爆豪さんの不戦勝ですよ?」

「っ!?待て、どういう意味だ…」

 

 

訳が分からない。轟の試合が早く終わってしまうと、そのまま爆豪の優勝が決定することになるのか。

 

 

「子だ…大入さん、まだ目を覚ましていない(・・・・・・・・・)そうです。轟さん(あなた)の攻撃が余程効いたのでしょうね…」

「っ!!」

大入さん(ほんにん)自身が意思を持って棄権したのなら未だしも、目が覚めたら大会が終わってたなんて言ったら可哀想ですよね…。大入さんはまだ諦めてないのに挑む権利すら貰えないかもしれない」

「……」

「私はですね轟さん、要は「時間稼ぎ」がしたいんですよ。彼が目を覚まして、自分で選択出来るように…。

だから、もし良かったら検討して下さいね?」

 

 

そう言うと発目は轟の横を通り抜け、廊下へと出る。一度振り返り、最後の言葉を口にすると、そのまま控え室を後にした。

 

 

「…おい、待て……」

 

 

後を追うように轟も廊下に飛び出し、発目を引き留めた。

それに発目は足を止めて、轟を振り向いた。

 

 

発目(おまえ)大入(あいつ)…どういう関係だ?」

 

 

先程までの発目の試合を観察していて受けた第一印象は「商魂逞しく、自己中心的な性格」だった。戦闘などそっちのけでサポートアイテムを売り込み、更には戦闘放棄までするような人間だ。

恐らく利害関係というか効率重視というかシステマティックに話を構築する方が好みなのだろう。今回の交渉には大入を引き合いに出し、それの原因を作った轟の持つ少々の後ろめたさを利用した。

 

しかしだ。大入の事を話す発目の顔が僅かに曇った。

発目と大入…二人の関係に少し興味が湧いた。発目にとって大入はどんな人物なのか?

 

 

「大入さんはですね…いい人なんですよ」

 

 

発目はゆっくりと話し出す。

 

 

「私の研究に積極的に協力してくれます…応援もしてくれます…。

正直な話、この大会の三位決定戦まで来れたのは、彼の助言があったからこそです。お陰で満足いくくらいにサポートアイテムのお披露目も出来ました。

しかし、私は彼にお返しをしてないのです。だから、ここで返したいと思いました」

 

「……」

 

「私はですね。興味が無いことには割と無頓着なんです。

小学校の友達のことも、中学校の恩師や先輩のことも、覚えるのに随分と苦労しました。

でも、大入さんの事は不思議と直ぐに覚えたんです。私の作ったアイテムを子供のように嬉しそうに使ってくれる…そんな彼のことが…。

だから、私は彼のことがきっと好ましいんだと思います。

だから、私も彼の手助けしたいのです……」

 

 

 

 

 

 

 

 

結局轟は発目の茶番に乗ることにした。

 

そもそもの話、轟は大入黒幕説をそれ程信じていない。

直接戦ったからこそわかる、彼の信条と覚悟。黒幕説が本当なら、わざわざ轟の炎を引き摺りだす必要は無く、試合後のアドバイスも必要ない。

あれらの行為…どういう意図が有るかはサッパリだが、轟に向けて贈られたものであることだけは確実だった。

 

それに、自分に勝った相手にそのまま優勝して貰いたいと思うのは自然な事だ。轟もそう思ったのだ。

何よりこのままスンナリ爆豪が優勝するのは…何というか…癪だ。

 

 

(これで本当に大入が再起してれば良いんだがな…)

 

 

10分の茶番劇。発目が提示した時間は一試合の三分の二の時間だ。タイムアウトすればそのまま判定に持ち込まれる。

故に発目にとって10分が譲歩できる時間なのだろう。

しかし10分、されど10分。

その僅かな時間と次の試合へのインターバルの時間で、大入が復帰する保証は何処にも無い。

 

 

それでも発目は信じている。大入は必ず戻ってくると…。

 

 

『さぁさぁノって(・・・)きましたね、轟さんっ!張り切って次のサポートアイテムのご紹介に参りましょう!!

お次は…………』

 

 

だから発目は笑顔で戦うのだ。

 

 

_______________

 

 

 

──「アンタはヒーローになれるよ…」

 

 

──「少なくとも私はアンタがいなかったら、ここにはいなかった」

 

 

──「救われたんだ…」

 

 

──「だからさ…」

 

 

──「ほら!胸を張れっ!大入福朗っ!」

 

 

 

 

──…あぁ、違う…。違うんだよ…。

 

 

 

 

──俺は『偽物』なんだよ…。

 

 

 

 

──だから『本物』に変えないと…。

 

 

 

 

 

 

「……あぁ、知ってる。『知らない天井』って奴だ」

 

 

嘘です。知ってます。いや、どっちだよ。

今日だけで既に三回…四回目か、になるリカバリーの出張医務室だ。

記憶を振り返ると轟君にティロ・フィナーレされたお返しに〈シェルブリット〉を放った辺りから記憶が無い。試合はどうなったんだろう?

 

 

「福朗っ…目が覚めた!?私っ、分かる!?」

「…い…つか?」

 

 

声のする方を見ると一佳が居た。身を乗り出しているらしく視界一杯に彼女の顔が映る。あぁ、やっぱり綺麗な顔だな…と独りごちる。

視線を下げると、彼女の両手が俺の右手を握っていた。ずっと握っていたのかな?手のひらから伝う温度が熱かった。

 

 

「はぁ…よかった…」

 

 

そう安堵して一佳は息を吐く。

 

それを見届けると、俺は少しだけ重さの残る体を起こす。すると、一佳が慌てて背中を支えて介助してくれた。ははっ、介護されるおじいちゃんかよ。

 

 

「…試合は?」

「あぁ、アンタの勝ちだったよ…今は三位決定戦中…」

「そうか…よいっしょっ!」

 

 

俺はベッドから降りて立ち上がる。体を軽く解し、調子を確かめる。全身に倦怠感があるが痛みは特になし、流石はリカバリーガール、治癒凄いなぁと感心した。

 

 

「ちょっと、福朗!」

「平気、問題ナッシング」

 

 

大きく背伸びをして、その後に屈伸運動。

体に違和感は感じない。体力は相当削られたらしく疲れは残っている。

 

でも、動けないほどでは無い。

 

 

「おや、もう起きたのかい?」

 

 

騒ぎを聞きつけたらしいリカバリーガールが戻ってきた。

 

 

「リカバリーガール…先程は病室を抜け出してすみませんでした」

「自分で出て行くくらい元気だったんだ。文句は言わないよ」

「ありがとうございます。…それで、次の試合出ても大丈夫ですか?」

 

「っ!?待ってよ福朗っ!!」

 

 

俺の問い掛けに一佳が割り込んでくる。ビックリした表情だ。まぁ、そうなるな。さっき死にかけた奴がまた戦いに行くんだから。

 

 

「なぁ、一佳?…1-A爆豪勝己はまだ残ってるんだろ?」

「っ!」

「だろうな…。だったらまだ終われないよ。伏線回収してないからな…」

 

 

──爆豪(こいつ)を倒して俺達が1位になる。

 

 

障害物競走ではデク君が押さえた。

騎馬戦ではデク君・常闇君・麗日さんそして俺(俺たち)が押さえた。

此処までは順調だった。

 

しかし、最終種目。

麗日さんでは止められない。

切島君では止められない。

常闇君では止められない。

轟君では止められない。

鉄哲さんでも止められない。

発目さんでも止められない。

結局自分が最後の砦となってしまった訳だ。

 

 

「…自分の状態を分かって言っているんだよねぇ?」

「もちろんです。体力は問題ありません」

 

 

我ながら阿呆みたいな目標を掲げてしまったもんだ。こんな状態で、あの二回目人気投票1位のかっちゃんを倒さなきゃならんとか…。

 

 

「じゃあ一佳…行ってくる」

 

 

俺は脇に畳まれていた新品のジャージの上着を拾い上げて、袖を通す。…って数々の激戦に、このジャージが既に三代目になってしまっているんだが、これって後から請求来るのかな?と思考を遊ばせていた。

すると突如手のひらを掴まれる。その先を見ると一佳が手を握っていた。顔を伏せていてその表情は読めない。

 

 

「ねぇ…なんで?」

「……」

「答えてよ、福朗?」

「……」

「福朗…いつも言ってるよね?『ヒーローとは目の前に転がる不幸を無視できない存在である』って。

でも、今は何も無いよ?誰も苦しんでいない、困ってる人もいない…。寧ろ苦しんでるのはアンタだけだ。

ねえ…。

 

なんで、立ち上がるの…?

なんで、前に進むの…?」

 

 

 

 

……。

 

 

 

 

「別にさ…大したことじゃあ無いんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『存在証明』…ただそれだけだよ…」

 

 

それだけ言うと医務室を後にした。

 

 

_______________

 

 

静かになった医務室。大入が去り、拳藤も去り、生徒は誰一人居なくなった。

 

 

「やれやれ、なんて面倒な子なんだい…」

 

 

保険医リカバリーガールは嘆息した。

大入福朗の残した言葉…『存在証明』。彼の戦う理由。あまりに酷だ。

 

 

(『AVENGER計画』…完全にあの子の()になってるじゃないか)

 

 

AVENGER計画第一被験体『大入福朗』。

 

そうあくまで第一被験体なのだ。第二・第三の被験体が当然居る。

 

それは誰か?

 

……大入の『家族』。彼が可愛がる弟妹(きょうだい)達だ。

 

 

 

大入は怪盗のヴィラン二世。

ある少年は放火魔のヴィラン二世。

ある少女はイカサマ師のヴィラン二世。

ある少女は闇医者のヴィラン二世。

ある少年は喧嘩屋のヴィラン二世。

ある少女は殺人鬼のヴィラン二世。

 

 

 

大入の住む孤児院は、謂わば計画の為の『実験場』でもあるのだ。

実験…そうまだ実験段階なのだ。子供が成人するまで長い時間を要する。

しかし、その実験が「終了」してしまったらどうなる。施設は?弟妹達は?その後どうなってしまうかなど、想像も付かない。

バラバラに離散して里子に出され、万が一出生の秘密が漏れたら…。たちまちヴィラン二世問題の被害者になってしまう。今この生活がもたらされているのは、実験…国の庇護下に在るからこそなのだ。

 

実験終了を防ぐには…?

 

大入は出来る限りの『最高の結果』を叩き出す必要があると考えた。計画の優位性を示し続ければ、少なくとも計画は続行されると考えた。

だから大入福朗はヒーローを目指すのだ。「犯罪者の子供が正しく育ち、逆境に負けずヒーローになる」それが実現すれば計画の必要性を誇示出来るから…。

だから大入は止まらない。自分の後ろに続く、愛する弟妹の為に道を作らなければならないのだ。

 

 

『人柱』、そう呼ぶに相応しい。既に大入福朗は大入福朗の為の人生を歩んでいない。常に「誰かのために生き続けている」のだ。

『存在証明』。大入がこよなく愛するヴィラン二世(かぞく)の為の『存在証明』なのだ。

 

 

「それを出来てしまうってのが不幸な話さね」

 

 

大入にはそれを一人で実行に移すだけの潜在能力があった。知識・技術・身体能力・精神力に至るまで、高い水準を内包していたからこそ、今日まで大入は進み続けて来れたのだ。

特に身体能力。保険医の立場としては目を見張る物があった。

 

 

「それにしても…。

かなり強い治癒をかけたはずなんだが…どうなっているのかねぇ?」

 

 

大入の全身火傷。その症状は酷い状態だった。全身の約40パーセントが火傷被害に合い、その中の半分程が深度2以上に該当する物だった。

ザックリと説明すると、火傷被害は火傷面積と火傷の深さ(体のどの程度奥まで焼けたか)で決まる。火傷の深度は1~3で分類されており、深度3が一番重い。深度2では火傷が全身の約30パーセント、深度3なら全身の約10パーセントを占めていれば重傷に分類される。もし、これの倍の火傷面積があったなら死亡確率は約50パーセントになると言われている。

大入の全身火傷は重傷に分類される状態だった。

 

故にリカバリーガールは全力の治癒をかけた。それこそ「死なない程度に」だ。

既に大入福朗はリカバリーガールの治癒を3回受けていた。その上で4回目の治癒を施したのだ。リカバリーガールの“個性(治癒)”には体力を使う。

大入は大会が終わるまで目を覚まさない…はずだった。

 

しかし、不思議なことが起こった。

 

戦闘に支障を来さないレベルまで回復しても体力が残ったのだ。自然治癒力の活性化を促すリカバリーガールの“個性”は、その細胞分裂の回転数を上げるためにエネルギーロスが多い。それが大入には「一切無かった」のだ。

しかもだ、大入が休眠状態に入ると急速に代謝機能が自発的に加速し、自前で体力の回復を始めだした。

大入の重傷にバイタルサインをモニタリングするため電子機器を取り付けて、初めて気付いた情報だった。最初は見間違いかと思ったが、苦しそうな顔が穏やかなものに変わり、静かな寝息を立て始めたことから事実なのだと認めざるを得なくなった。

「回復馴れし過ぎている」。常識外れの回復力、喩えるなら全身が回復を促すために最適化されたかのような状態だった。

“増強型個性”でも無いのに…。

 

 

「まるで体力オバケだねぇ…」

 

 

大入の体を調べたら、学会で発表出来るんじゃ無いか?と冗談を交えて悪戯っぽく笑った。

 

 

「けど、それじゃあ駄目だねえ…」

 

 

総てがハイスペックにまとまった大入福朗。彼は間違いなく強者だ。

本人は卑下するだろうが、大会のこの場に登りつめる総合力は、間違いなく異質にして異常。

 

 

「このままじゃあ、壊れちまうよ…」

 

 

彼は孤独だ。

苦境に身を置き、過酷に身を置き、激闘に身を置き、一人歩く。

そんな修羅道を前だけ見て歩いているのだ。いつかその身を焦がす日が来る。

 

彼には必要なのだ。

心を満たす理解者が、隣を歩く実力者が。

 

 

_______________

 

 

自惚れてしまったな…。

 

俺は『大入福朗』なのに、つい私情に流されてしまった。

女の子に優しくされただけで、コロっとイってしまう自分のチョロさが恨めしいぜ…。

 

 

──「でも、今は何も無いよ?誰も苦しんでいない、困ってる人もいない…。寧ろ苦しんでるのはアンタだけだ」

 

 

一佳を悲しませてしまったな…。

俺がもっと強かったら、悲しまなかったのかな…?

 

 

──「ねえ…なんで、立ち上がるの…?なんで、前に進むの…?」

 

 

本当になんでだろうな。

諦めたら楽なのに。

逃げたら救われるのに。

 

けどさ、俺は『大入福朗』なんだよ。

『大入福朗』じゃなきゃいけないんだよ。

じゃなきゃなんで俺は……

 

 

 

 

『大入福朗』になったんだ?

 

 

 

 

なんで?

 

 

 

なんで?

 

 

 

なん…………

 

 

 

「っ!?」

 

 

咄嗟に近くの柱に渾身のヘッドバットを叩き付けた。

鈍い痛みがジワリと頭に浸透して、霧散する。

 

 

いけないいけない、ナーバスになってる。危うくバットトリップしかけたわっ!

まだ試合も残ってんのに何やってんだ、俺はっ!

 

 

『そこまでっ!発目さん場外っ!轟くんの勝利です!』

 

『YEAH!!ナイスファイトだったぜ二人ともっ!三位の座は轟焦凍が手にした!

サァ今から10分間の小休止だっ!それが終われば?

…とうとう…とうとう、リスナー待望の決勝戦だっ!首を長くして待ってなっ!?シィーユーネクストバトル!!』

 

 

近くのスピーカーから試合終了の合図が聞こえた。両者を讃える喧騒をマイクが拾い、こちらにまでその様子が感じられた。

決勝戦も間もなく始まりそうだ。気を引き締めないと…。

 

 

「…よしっ!」

 

 

顔を叩いて活を入れた。おっけー。

 

 

さて、さっさと控え室に行って精神統一と作戦タイムだ。なんせ相手はあのかっちゃん。一筋縄ではいかない。

 

そして、俺は控え室のドアを開けた。

 

 

「…………はい?」

 

 

目と目が合った。

 

赤い瞳に三日月型の三白眼。

爆発したようなトゲトゲヘッドの少年。

 

 

「……は?」

 

 

そこには次の対戦相手のかっちゃんがいた。

 

 




余談:
発目明のサポートアイテム(ベイビー)コレクション


「ワイヤーアロー」
発目が障害物競走で使用したアイテム(原作と同じなので描写省略)。ワイヤーアンカーを打ち出し、巻き取る事でワイヤーアクションを実現する。

「ホバーソール」
靴底のブロアーから強風を出し、体を浮かせる。

「ジェットパック」
強力なジェット噴射で空を飛ぶ。

「リボルバーバズーカ」
六連装リボルバーシリンダー採用の小型バズーカ。野球ボール程のカプセルを発射し攻撃する。複数の特殊弾を使用して様々な戦術を構築する。(現在、ゴム弾・トリモチ弾・薬剤散布弾・煙幕弾の四タイプ)
元ネタは六連装グレネードランチャーMGL-140。

「電気銃(テーザーガン)」
実際に存在するスタンガンの一種。銃口からワイヤーを射出し、強力な電流を流す。

「ホイールブーツ」
高出力の小型モーターをコンピュータ制御し、圧力センサーで加速をコントロールする。
元ネタは『エアギア』の「エアトレック」。

「オートバランサー」
三十二軸ジャイロセンサーを組み込み姿勢を制御し、完璧な体幹を保持する。

「レッグパーツ&アームパーツ」
手足の動きをスムーズにアシストする。原作では足パーツのみだったのを腕にも採用しアップグレードしたもの。

「トレーサーサーチライト」
動体センサーを内蔵したサーチライト。プロペラの付いた飛行タイプと車輪の付いた走行タイプの二種類。

「暴動鎮圧用オートカノンガントレット」
左籠手型の機関銃。銃身が短い(ほぼ無い)ため射撃性能は低く、バラ播き弾の牽制目的で使う。装填数は30発。
元ネタは『スーパーロボット大戦OG』の「三連マシンキャノン」。

「クーラントコート」
白色の全身一色のコート。耐熱・耐衝撃素材をふんだんに使い、内部に冷却装置を積んだ。

「閃光手榴弾(スタングレネード)」
強力な閃光で目潰しする爆弾。音響効果は無いのでフラッシュ・バンが近い。

「パイルガントレット」
右籠手型の杭撃ち機。拳骨部分の鉄板が炸薬の威力で飛び出す仕組み。装填数は3発。
元ネタは『装甲騎兵ボトムズ』の「アームパンチ」。

「携行ラウンドシールド」
折りたたみ式の円盾。複層構造になっていて衝撃をバランスよく分散する。

「エレクトロシューズ」
電磁誘導を利用して反発による跳躍を可能にする。本作では「反転して吸着する機構を追加」して強化された。

「消火弾」
説明不要。

「消火器」
背中のボンベと直結した銃。大容量の消火液をばらまけるように改良された。
イメージは『Splatoon』のインク銃「プロモデラーシリーズ」。

「対敵用捕縛銃」
カートリッジ式で捕縛ネットを発射する銃。あんなに小さいのにスゴイ。

「ペイントボール」
実在する撃退道具。落ちにくい染料と強烈な匂いを撒き散らす。
因みに小型のナノマシンが混ざっていて、発信機の役割をしているという裏ネタがあった。

「アルミ粉カプセル」
リボルバーバズーカの薬剤散布カプセルにアルミ粉を詰めただけ。
飛散したこれに引火すると一気に燃え、粉じん爆発を引き起こす。

「自動巻取りワイヤー」
ワイヤーアローの試作段階のアイテム。「トラップに使える」と地面に打ちつけるアンカー機構を追加して再利用。

「痴漢撃退用クラッカー」
クラッカーを人に向けて打ってはいけません。

「痴漢撃退用催涙スプレー」
劇物です。素早く目を洗いましょう。

「携帯ネズミ取り」
ペイントボールの発信機を受信して自動で識別反応する地味にハイテクなアイテム。

「ホッパーシューズ」
靴底がバネ仕掛けになっており強力なストライドを発揮。最高速は時速40kmを叩き出す。
元ネタは「バイオニックシューズ」「カンガルージャンプ」。

「サイクロンチャクラム」
UFOの様な自動飛行円月輪。AIによる自律制御と簡略化されたプログラムコードを利用して数パターンのアタックモーションで攻撃する。
早い話がファング。
本来はドローン等の偵察機に仕込む技術だが、耐久性・機動性をアピールするべく武器用にバッドチューンした。 

「リモコングローブ」
左籠手型の入力媒体。左指の動きと左手首の簡易キーボードでプログラムを操作する。複雑は入力は出来ず、幾つかの自動ミッションコードを入力し、それをセミオートで走らせる仕組み。
元ネタは『装甲騎兵ボトムズ』の「ミッションディスク」と近未来的デバイス「gest」。

「ジャイロシューター」
野球のピッチングマシンを小型改良した銃。24個の小型ハイパワーモーターで最高時速100kmのピンポン球サイズの強化ゴム弾を打ち出す。上下左右のモーターの回転数を変化させて、野球の変化球の様な曲射弾道や、バウンドによる横跳ねまで実現する。

「ストームスピナー」
地面に独楽型のプロペラを設置し、上昇気流を作る。よくゲームで有る、ジャンプパネルを作るアイテム、保持時間は3分、最高高度は10m。

「フラッフパラシュート」
背中からタンポポの綿毛の様な落下傘が飛び出す。上昇気流を受け止めやすい構造になっている。


以上30点。








油圧式アタッチメントバー
「なぁ、おれのでばんは…………?」


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