転生者「転生したんでヒーロー目指します」   作:セイントス

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67:祭りの後

『雄英体育祭』

 

雄英高校が誇る最大規模の祭り。

廃れてしまったオリンピックに台頭したスポーツの祭典。

各々が持てる全てを出し切り、競い合い、シノギを削り合った。

長かった一日も終わりを迎え、感動のフィナーレが始まった。

 

 

『それではこれより!!表彰式に移ります!』

 

 

大役を見事にやり通した主審ミッドナイトの高らかな音頭に合わせて、大量のスモークが焚かれ、地面から表彰台が迫り上がる。

 

 

「うわぁ…」

 

 

本大会に参加した選手・観客・運営の多くからそんな声が漏れる。吐露した感情のままに一同が表彰台を見つめる。

 

三位入賞『轟焦凍』。

激戦の最中、自分の柵みと向き合い、新しい可能性を見つけた。これからのことに思いを馳せ、我此処に在らずと虚空を眺める。

 

二位入賞『大入福朗』。

度重なる激戦、全身に受けた傷、流石に5回目の完全治癒を敢行することは叶わず、最低限の施術の後に全身に隈無く包帯を巻いた木乃伊(ミイラ)と化している。リカバリーガールからはベッドで休む事を勧められたが、本人たっての希望でこの場にいる。多少ふらついているが、しっかりとその二本の足で自立していた。

 

優勝者『爆豪勝己』。

彼は荒れていた。決勝戦で満足できる結果を出す事が出来なかった。

それもその筈だ。

自分のコンディションは最高潮。大した怪我も疲労も無く体が温まり、十全のパフォーマンスを発揮できる状態だった。

一方大入のコンディションは最悪。爆豪との戦い迄に4回の治癒で体力を失い、轟の激戦で武器を全部消耗した状態だった。

そんなハンデを与えられながら勝負は辛勝、しかも判定勝ちだ。こんな勝ち方、当初予定していた完膚無き迄の一位には遠くかけ離れている。

 

その結果に納得のいかない爆豪が授賞式から逃走しようとした所、こうして鎖で繋がれ猿轡を嵌められ、もれなく手の平は移動式牢獄(メイデン)と同じ技術を利用した手錠で“個性”まで封じられている。

荒々しく猛るその姿は、気性の荒い猛獣と化していた。先程まで一体となって彼の応援をしていた観客一同まで引いている。

 

ケダモノとミイラの立つカオスな表彰台。一周回って一緒に立たされる轟の罰ゲームみたいになっていた。

 

 

『メダル授与よ!!今年メダルを贈呈するのはこの人!!』

 

 

彼女の呼びかけに応えるように会場全体に高らかな笑い声が響き渡る。

その声を聞き、観客が喜色に染まる。

 

彼だ!我らが最高のヒーローだ!!

 

 

 

 

「私が……!メダルを持っ『我らがヒーロー!オールマイトォ!!!』

 

 

 

 

見事に被る。何ともしまらない。

オールマイトがミッドナイトを一瞥すると、手を合わせて謝っている。

グダグダ因子の仕業だ。

 

 

 

気を取り直して授与式を進行する。

 

 

 

オールマイトが銅メダルを受け取ると三位の轟へと向かう。

 

 

「轟少年おめでとう」

 

 

轟はそれを静かに受け取る。するとオールマイトは続けて言葉を投げかけた。

 

 

「準決勝…最後の瞬間、左側を収めてしまったのにはワケがあるのかな」

 

 

すると轟はチラリと右を見た。そこには暴れ藻掻く爆豪の先に、大入木乃伊が佇んでいた。

 

 

「この大会でキッカケをもらって…今までの自分に自信が持てなくなってしまいました。自分のしてきたことが正しかったのか…それとも間違っていたのか…」

 

 

轟は少しづつ、言葉を選ぶように紡いでいく。

 

 

「勝負の最後…大入から言葉を貰ったんです…」

「ほぅ、なんて?」

「「『優しさ』を忘れるな…。『大切な物』を思い出せ…。……そうすれば君は戻って来れるから…。」

だそうです…」

「それは…」

 

 

オールマイトは驚いた。轟…彼の事をよく知らない筈なのに、大入は轟が必要になるであろう事の一端を掴み取っていた。

不思議な少年だと思った。

 

 

「俺…向き合って見ようと思います。今まで見てなかったモノ、自分がしたいコト…。

全てを清算出来たなら、きっと何かが変わるから…」

「………顔が以前と全然違う。

深くは聞くまいよ。今の君ならきっと清算できる」

 

 

そう言葉を締めて、オールマイトは轟を抱きしめた。

 

 

 

次に銀メダルを受け取ると二位の大入へと向かった。

 

 

「お疲れ様!大入少年!惜しかったね…」

「オールマイト…選手宣誓守れませんでした。最後の最後で、『勝利の女神』にフラれてしまいました…残念です」

「HAHAHA!随分とロマンチックな台詞を言うじゃあないか!」

 

 

少し、元気の無い声で大入は応える。

死に体のミイラに見える彼も、軽口を叩く位には元気そうだ。

大入の首にメダルを提げると、オールマイトは少し逡巡し、口を開いた。

 

 

「…大入少年、君はどうしてボロボロに(そう)なるまで戦うんだい?」

 

 

一瞬大入の瞳が揺れた。しかし、直ぐに平静を取り戻し、答える。

 

 

「求める物のために戦ってるんですよ。

それでボロボロになるのは、単に実力が伴っていない証拠です。嫌な手(・・・)使った(・・・)のに届かなかった…俺は弱いですね」

「違うんだよな~そうじゃないんだよな~」

 

 

そう困ったように頬を掻く。オールマイトが求めるのは、更にその先の答えだ。

身を滅ぼしかねない「妄執」。彼が選んだ緑谷を思い出す。

 

 

「君の知恵も力も心もお見事だった…。間違いなく君は強いよ!胸を張りたまえっ!」

「……」

 

 

そう言うと大入の頭を優しく撫でた。ハグは体に障ると思ったからだ。

時間も押している。

オールマイトは最後のメダルを受け取りに壇上から降りた。

 

 

「……それだけじゃあ意味が無いじゃないか…」

 

 

大入の一言は誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

最後の金メダルを携え、オールマイトは眼前で睨みつける少年、爆豪と向き合っていた。

対峙する猛獣爆豪は口を封じられていて、何を言っているかは分からない。しかし、この結末に納得していないことだけは明確だった。

 

 

「さて、爆豪少年!!っと、こりゃあんまりだ…今外してあげるからな…っと。

伏線回収見事だったな!」

 

 

そう笑いながらオールマイトは爆豪の猿轡を外す。

黙らされていた爆豪は直ぐさま抗議の声を上げる。三日月型の三百眼は目くじらが爆発的に吊り上がり、牙を剥き出しにして唸り声を出す。

 

 

「オールマイトォ、こんな1番…なんの価値もねぇんだよ…。

世間が認めても俺が認めなきゃゴミなんだよ!!」

 

(顔すげえ…)

 

 

余りの爆豪の剣幕にオールマイトが軽くビビる。そんな様子をおくびにも出さずに、言葉を紡いだ。

 

 

「うむ!相対評価に晒され続けるこの世界で不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない。

それでもだ!受け取っとけよ!“傷”として!忘れぬよう!」

 

「要らねっつってんだろが!!」

 

 

そう言葉を贈りメダルを渡すために歩み寄る。

爆豪は体を仰け反らせ、抵抗する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だったら金メダル(それ)、俺にちょーだい?」

 

 

会場全体に澄み渡る声、一石を投じる言葉、ピシリと空気が凍りついた。

爆豪・轟がポカンと呆けて、オールマイトとミッドナイトの笑顔が引き攣る。

 

大入福朗の暴挙(テロ)だ。

 

 

「金メダル要らないんだろう?だったら俺にくれ。

俺は体の半分しか場外に出てないから、「半分は俺の勝ち」だろう?

だったら、俺が貰っても問題ないはずだ」

「んなワケあるかっ!!テメェ頭沸いてんのか!?」

 

 

大入の暴論に爆豪から脊髄反射レベルの反発の声が上がる。

 

 

「世間が認めてもお前は認めないんだろ?

それ則ち認めるわけだ!「爆豪勝己は敗北し、大入福朗こそ真なる勝者」であるとな!」

「テメェ…巫山戯た事、抜かしてんじゃネェぞ…もう一片殺すぞオラァ!」

「ちょ!?大入少年!?」

「ハッ!威勢が良いなッ!…なんなら今から「仕切り直す」か?その枷、俺の“個性”で格納(解放)してやろうか?」

「上等ダァ!」

「え!?」

「よく言ったァ!ルールは無制限(バーリトゥード)!最後に立ってた奴が勝者だ!」

「上等ダァ!!」

「えぇ!?」

「メダルは勝者の総取りっ!金銀銅までもれなくだっ!!」

「上等ダァ!!!」

「えぇっ!?」

「まあ嘘だけどなっ!」

「はぁぁぁぁっ!!?」

 

 

大入の狂言に見事に引っかかる爆豪。鮮やかにヘイトを掻っ攫い、コントロールに掛かる。

 

 

「あのなぁ…これ見ろ。見事なミイラボディよ?どうせこんな俺をぶっ殺したって、お前は満足する気無いだろ?」

「ぅ…」

「でも「仕切り直し」は本当だ!!互いに万全の状態で白黒ハッキリさせようじゃねぇか!!

いいかっ!その金メダルは俺にとっての「理由」だ!俺が!お前に!「再挑戦」するためのだ!それが金メダルに付けてやる「価値」だ!!

それでも要らないってんなら「俺からしっぽ巻いて逃げた」って事になるからな!!」

 

 

爆豪から青筋が浮き立つ。今にも爆発しそうな勢いだ。オールマイトが冷や汗をダラダラ流す中、爆豪が口を開いた。

 

 

「…は?…俺が?…逃げる?…テメエから?…」

「ば、爆豪少年?」

 

「 大 概 に し ろ よ テ メ エ !!!」

 

「……」

「テメエ見てぇな雑魚相手に逃げる?んなわけねえだろうが!!

いいぜ!殺ってやる!今度こそ完膚無き迄にぶっ飛ばしてやる!!

オイっ!オールマイトォ!メダルをよこせっ!!」

「おっ…おうっ!……ごほん!オーケー!青春してるなぁ!」

 

 

大入の露骨な挑発に爆豪が乗せられる。オールマイトが爆豪にメダルを渡そうとすると、爆豪はメダルの首紐に噛み付き、強引に奪い取った。

それを見てオールマイトは困ったように苦笑した。横の大入がコッソリと安堵の息を漏らしたのを見て、目論見を理解した。

 

 

「さァ!!今回は彼らだった!!しかし、皆さん!

この場の誰にもここに立つ可能性はあった!!ご覧いただいた通りだ!

競い!高め合い!さらに先へと登っていくその姿!!

次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!!」

 

 

オールマイトが高らかに声を張り上げる。全力を尽くして挑んだ選手を讃え、惜しみない賞讃の言葉を贈る。

 

 

「てな感じで最後に一言!!」

 

 

好敵手と書いて“とも”と読む。

 

 

 

 

「皆さん、ご唱和下さい!!

せーの……」

 

 

 

 

「「「「プルス

「 お つ か れ さ ま で し た !!!」

       ウルトラ…え?」」」」」

 

 

 

 

歯の浮くようなこそばゆい言葉。

それを実感した日となった。

 

 

_______________

 

 

「お前達、今日はお疲れ様!

各自、この大会で可能性や課題を見つけられただろう…。この経験を糧にして、更に自分を磨くように努力してくれ。

だが、まずは疲れた体をシッカリ癒やすことからだっ!…特に大入!お前だからな!」

 

「…名指し止めてくれませんか?」

 

 

帰りのホームルーム。担任のブラドキング先生からの労いの言葉を貰った。

俺にだけ棘があるのは気のせいですかねぇ…。

 

 

「明日と明後日の二日間は休日となる。その後からは、今まで以上に頑張らないとな。

プロヒーローからの指名は休み明けに集計結果を発表する事になる…。

それでは解散っ!」

 

「起立っ!礼っ!」

 

 

一佳の号令でクラスの皆が一糸乱れぬ動きで別れの挨拶をする。

担任が退室すると一同帰り支度を整え始める。

 

 

「…さて」

 

 

俺は机の中から、黒張りされ、綴り紐で束ねられた冊子を一つ取り出す。それの表紙には「学級日誌」と書かれていた。

たまたま日直当番になった俺はさっさと帰るためにペンを走らせる。

しかし、上手く行かない。全身隈無く怪我だらけのミイラな俺の指先にも、包帯がグルリと巻かれていた。指先の感覚が鈍り、字が歪む。

 

 

「くっ…書きにくい…」

「いや、そんな手で頑張るなよ」

 

 

日誌に悪戦苦闘していると、隣から一佳が声を掛けてくる。

 

 

「ほら、それ貸しな」

「あっ、ちょ…」

 

 

一佳が俺から日誌を奪い取るとサラサラと今日の内容を記していく。

それ、俺の仕事なのですが…。

 

 

「今のアンタに任せたら何時までも帰れないだろ。だから、手伝う」

「ごめん…ありがとう…」

「…ん」

 

 

何故かは分からないが一佳が機嫌の良さそうな顔をした。まぁ折角のご厚意だ、甘えよう…。

 

 

 

 

 

 

 

「それどころじゃ無いんだよ!ふたり共!?」

「ぅぉっ!!?」

 

 

視界にいきなり取蔭さんがドアップで割り込んでくる。思わずビックリして仰け反った。

 

 

「なにさ取蔭さん!?」

 

「ナニもカニも無いんだよ!さァ!チャキチャキ吐いて貰おうかっ!」

「ん!」

「That right!」

 

「囲まれてるっ!?」

 

 

突如現れた小大さんと角取さんまで合わさった包囲網。前方左右を封じられ、オマケに背後は壁。逃げ場が無かった。

 

 

「吐く…って何を?血反吐なら散々吐いたよ。それも二回」

 

「シラカバくれないでクダサイ!大入サン!」

「…ん?」

 

「惜しいっ!…「しらばっくれる」な。知らないフリをする事。「白を切る」でも同じ意味」

「…アレ?」

「はは…まだ難しい言葉は苦手かい?」

「う~ハズカシイデス…」

「大丈夫だよ。皆で教えるからさ、ドンドン使って馴れよう」

「ん!」

「ハイ!アリガトゥございマス!」

 

「誤魔化しちゃ駄目なんだよ大入っち!教えて貰うし、準決勝前の秘密をっ!!」

 

 

思わず目玉と心臓が飛び出るかと思った。取蔭さんが食いつきそうな内容と言えばアレしかない。

 

 

「…何の事かな?」

 

 

平静を粧って、何食わぬ顔で聞き返す。アレは取蔭さんにバレたらヤバイ。

 

 

「ほ~?そう言う態度取るんだ?

でも残念!ナニかがあったのは確か!それは一佳っちがボロを出したよ!」

 

 

反射的に一佳に視線を投げかけた。

流れるように逸らされた。

オイ、お前…。

 

 

「答えて大入っち?何で一佳っちに大入っちの匂いが付いてたの?ナニがあったし?」

 

 

確定した、準決勝前の一佳のハグの事だ。それにしても凄いな取蔭さん。匂いだけでそんなことが分かるのか…油断ならん。

 

…さて、どうしようか?

 

“個性”は使えない。逃げる体力は無い。そもそも一佳に学級日誌(人質)を取られている。冷静に考えたら一佳が俺を逃がさない為に施した策だったのか。

 

かつて無いピンチ!誰か助けて!

 

 

 

 

「わ~た~し~が~っ……」

 

 

「ん?」

 

 

「B組に来たぁぁぁ!!!」

 

「「「「「オールマイトっ!!?」」」」」

 

 

いきなり教室の扉がスパンっ!と威勢の良い音を鳴らして開かれる。そこには堂々たる佇まいのオールマイトが居た。

しばし教室を見渡し、目的の相手に声を掛けた。目が合った。

 

 

「あぁ、居た居たっ!大入少年、ちょっといいかな?」

「私ですか?」

「そうさ、お疲れの所悪いが、場所を変えて話がしたい」

「分かりました少々お待ちください」

 

 

ここでまさかの呼び出し、チャンス!この場から逃げられる!

俺は手早く荷物をまとめると教室を後にする。

 

 

「それじゃお先に!皆、休み明けに会おう!アディオス!」

 

「ちょ!大入っち!」

 

「さァ、オールマイト!何処に行きますか?進路指導室ですか?生活指導室?仮眠室に応接室?」

「お…おぅ。では仮眠室に行こうか」

「分かりました!」

 

 

いくら取蔭さんでもNo.1ヒーローは止められない。

ラッキーな俺は上手くもこの場を凌ぐことに成功した。

 

 

 

 

「…行っちゃった」

「ん、残念」

「Yes…」

 

「仕方ない。当初の予定通りに一佳っちに…って、え?」

「んんー!?」

「一佳サンが居まセン!?」

「逃げられたし!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「急に呼び出して悪かったね…。友達と談笑してただろ?」

「いえ、タイミングがよかったと言いますか…寧ろ助かったと言いますか…」

「ん?」

「あっ!こっちの話です!」

 

 

そんな他愛ない世間話をしながらオールマイトがお茶を振る舞う。

大きな体躯で小さな茶器を扱う…何というかシュールな光景。お茶汲みするNo.1ヒーローと言うレアな体験をしながらも、今更になって呼び出された理由について考える。

おっ、茶柱…。

 

 

「さて!大入少年も疲れているだろう?手短に済ませよう!」

 

 

改まって話を切り出すオールマイト。

 

 

「…正直意外ですね。何度か授業を見て頂いては居ますが、てっきり先生は「A組」を可愛がっていらっしゃるのかと…」

「うっ………」

 

 

オールマイトの受け持つ授業数は非常に少ない。

 

何せマッスルフォームの活動時間は3時間。ヘドロ事件にヴィラン連合襲撃事件を経て活動時間は更に短くなった。ぶっちゃけ授業を二枠受け持つことさえ厳しい。「急な欠勤による代役」…と言う機会も多かった。

それでいて(愛弟子のために)A組の授業は頑張ってこなしているのを見ると、B組の嫉妬も…まぁ、分からなくも無い。

今だから言うが、そういった「依怙贔屓」もB組の対抗意識を掻き立てた原因では無かろうか?

多分俺がB組に居たからこそ、知る事実だ。

 

 

「“似た個性”の子が居て、つい気に掛けてしまう気持ちは分かりますが、生徒には分け隔てなく接する事をお勧めしますよ?

羨望の眼差しは時に嫉妬になります…」

「あ…あぁ、すまない…。肝に銘じておくよ…」

「冗談ですよ…半分だけ…」

「そ、そうか…ハンブンダケ…」

「えぇ、半分だけ」

 

 

自覚があるのかオールマイトがばつの悪そうな顔をする。画風は違うままだ。

 

 

「話の腰を折ってすみませんでした。それで、私に話とは何ですか?」

「あぁ、表彰台での続きだ!」

「続き…?」

「…大入少年、君の「戦い方」についてだ…」

「戦い方?」

 

 

何だろ?なんか悪い癖でもあったかな?確かに色々な戦法をぶっ付け本番でぶっ込むから粗が目立つのかも知らん。

 

 

「大入少年…君は見境がなさ過ぎだ」

「…は?」

「今思えば…君は戦う度に怪我を負っているな?」

「……それは、自分が弱いから…」

「いや、違うね。君は目的の為なら「何でも捨てる覚悟」を決めてるよね?」

「……」

 

「君の戦いは自損に躊躇いが無いね。

例えば、塩崎少女との戦い。君は右腕が壊れても構わないと思ってただろう?

次に轟少年との戦い。あの全身火傷、本来なら動いていい状態じゃ無いよね?

極めつけは爆豪少年との戦い。手のひらは限界まで焼ききるし、右腕を何度も盾にしただろ?

「自己犠牲」と「捨て身」は違うんだよ大入少年…」

 

「それは…当たり…前…です」

 

「その上、君は自分の立場まで投げ捨てるね。選手宣誓で敵を作り、騎馬戦でクラスから離反し、決勝戦では悪役になりすまして観客すら切り捨てた」

 

「…」

 

「…なぁ、大入少年?君は「自分に存在価値が無い」って本気で考えているタイプだろう?」

「…っ」

「「ヴィラン二世」…そんな自分は嫌われて当然だと。だから「嫌な役割」を買って出るんだ」

 

 

「……そう、かも…知れませんね…」

 

 

オールマイトが沈黙を保った。

多分俺の言葉を待ってるんだろう。

 

 

「…今までの俺に居場所なんて無いと思ってました。

ヴィラン二世…嫌われて当然の存在だって。正直、今だって自分がどうなろうと誰も悲しまないと思ってます。

オマケに私は代替品ですから…」

「…そんなことないぞ」

 

 

あぁ…駄目だ…。感情的になってる。

止めないと…。

 

 

「でも私は『大入福朗』であるために、手を抜く訳にはいかないんです。大入福朗(じぶん)が望んだ物を守らないといけないんです。

けど、痛感しました。大入福朗(じふん)に期待してくれる人が居たんだと、この大会で知りました。私はそれに応えたい…。

…でも、まだまだ未熟です」

 

 

俺は席を立つ。一刻も早くこの場を去りたかった。

 

 

「強くならないと…大入福朗(じふん)の為にも、大入福朗(じふん)を思う人のためにも…。私は弱い…」

 

 

一度深く呼吸をした。体の空気と共に意識を切り替える。

 

 

「失礼しました!ヒヨッコにすらなってない卵が何生意気言ってんだって話ですね!

日々是れ精進、怠る事無かれ!もっと自分の大切なモノを守れるように、強くなるよう頑張ります!」

「……」

 

 

今一度自分に力を入れる。両手を握りしめ、体に活を入れた。

 

 

「さて!いい加減戻らないと、友達も待ちくたびれてしまいます。それではお暇しますね」

 

 

そう言って席を立つ。オールマイトに一礼してドアに手を掛ける。

 

 

「……大入少年!」

 

 

するとオールマイトが俺を呼び止める。振り向くとオールマイトは真剣な顔をしていた。

 

 

「もっと自分を大事にしなさい…!

君だって…誰かを救った分だけ、救われていいんだからな!」

 

「…はぁ、よく分かりませんが…分かりました」

 

「HAHAHA!!そうかっ、分からないかっ!

では宿題だ!今言った言葉を良く考えてみるんだな!」

 

 

 

 

 

 

誰も居ない廊下。何時もよりもゆっくりとした足取りで歩く。

校外の喧噪は遠くからここまで響き、祭りの熱は未だ引いていない。雄英体育祭は終わったものの、観客達がさっきまでの戦いについて熱く語り合う。その中にはプロヒーローが多く見られた。

地方から遠路はるばる足を運んできたプロヒーロー等にとっては、多数のプロが一堂に会する事から、「情報交換の場」として本大会は大変重宝されている。

大会中の目星を付けた生徒の話や、近頃確認された新しい犯行手口、果てにはヒーロー事務所の新規起業に伴う相棒(サイドキック)の引き抜き等、話の内容は実に様々である。

それに目を付けた経営科や屋台組が軽食や飲み物を売り、学校の許可を得て確保したスペースに所狭しとテーブルや椅子を並べて、ちょっとしたビアガーデンと化す。

流石にアルコール飲料は無く、あってもノンアルビール程度だが、祭りの熱に酔い痴れた彼らには酒など不要だ。

祭囃子に誘われて、チラホラと制服姿で屋台へと駆けていくカップルの姿が見えた。……死ねばいいのに。

 

遠くでイチャつくカップルに流れるように悪態を吐いた後、先ほどの話を思い出す。

 

 

──「誰かを救った分だけ、救われていい」

 

 

字面を見れば、相互介助とでも言うのだろうか?

助け合い、協力し合えと言う事だろう。つまるところ、「自分の力には限界がある。だからこそ、他人に助力を求めろ」って事かな?

…でも、チームプレイ苦手なんだよなぁ、自分自身が割とアドリブで動くせいなんだが…。アシストの立ち回り、誰かに教われないかなあ。となると候補は黒色君、円場君、小森さん、骨抜君、後は柳さんか?A組にコネが有れば麗日さん、梅雨ちゃん、八百万さん辺りも観察したいんだが…

 

 

…トントン…

 

 

「ん?」

 

 

突如肩を叩かれる。何事かと振り向くと、ブニュっとほっぺたが潰れた。何事か!?

 

 

「や~い、引っかかった~」

いや(にゃ)何やってんの(にゃににゃってんの?)?一佳?」

 

 

肩に乗せた一佳の手のひら。その人差し指が突き出されていた。

振り向くとほっぺたを刺されると言うお約束のイタズラだ。

 

 

「アンタを待ってたんだよ」

「イタズラするために?」

「ははっ、違うって。そんなボロボロの状態で一人帰すわけにいかないだろ?今日は私が送ってやる!あぁ後、日誌も出しといたよ」

「そっか…ありがとう。お言葉に甘えるよ」

「ん?やけに素直だな」

「今日くらいはね…」

「今日くらいはか?」

「そうだ」

「そうか」

 

 

少しだけ二人ではにかむ。よく分からないが心が温かくなった。

そして、どちらからともなく二人で歩き出す。

 

 

「ありがとう…」

「んー?」

「俺のこと心配してくれて。今日はなんかずっと一佳に助けられっぱなしだな…」

「そうか?大した事してないだろ?」

「いや、一佳のアレは効いた」

「…~っ!?」

 

 

準決勝前の抱擁。暗にアレを指すと一佳はこちらを睨みつけてきた。赤みがかった頬が夕日に照らされて更に赤くなった。

まぁ、気持ちは分かる。俺だって口にするのも恥ずかしい、西日のせいか体が熱くなる。思わず口を手のひらで覆った。

 

 

「自分で言って恥ずかしがるんなら言うな!馬鹿!」

「…だね、やっぱコレ恥かしい。

けど、アレが俺に力をくれたから…やっぱりお礼言いたかった」

「もういいから!分かったからっ!」

 

 

怒ったようにズンズンと一佳は前に進んで行く。俺はその背中を、ユラユラ揺れる髪の毛を眺めながら後を追った。

 

数々の激闘。一佳との和解。本当に色々な事があった。それを思い出すと全身に疲れが押し寄せてくる。

今日は流石に何も無いだろうから明日はゆっくりと体を休めよう。そうしよう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにこの後、取蔭・小大・角取のカシマシガールズに見つかり、逃走劇を繰り広げることになった。

 

 

 




長い間ありがとうございます。これにて体育祭編は終了となります。
随分長く掛かってしまいました。大入の生い立ち、秘密、強さ、考え方。そういった部分に触れて頂けたら幸いです。

次回、日常パートを挟んで次は職場体験へと突入します。

更なる大入君の英雄記を楽しんで頂けたらと思います。

蛇足失礼しました。
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