──遊園地にて───
なぜだ、なぜなのだ……。
俺と僕ロリで立案したABのミニマムコミュニティ結成。一佳へのサプライズのつもりだったのに、今までに無いくらいガチギレされた。
凄く…痛いです…。
「なにやってんですか、おにーさん (*˘ーωー˘*)」
僕ロリこと『東雲黄昏』が上から見下ろしてくる。地面に伏せた俺を見て呆れ果てた様子だ。
「なんか分からんがスンゴイキレられた…今世紀最大級の脅威を垣間見た…」
「幾ら何でも察しが悪いんじゃ無いですかねぇ… (´・ω・`;)」
「何が?」
「あぁ、うん、何でも無いです… (›´A`‹ )」
そう言って踵を返すと僕ロリは一佳へと歩いていく。ご機嫌ナナメな一佳を桃色髪の毛の少女…『芦戸三奈』が宥めているようだが、それの援護に回るようだ。
「はは…なんか災難だったな。ほら、立てるか?」
「ありがとう。…えっと…切島君で良かったっけか?」
「おう、切島鋭児郎だ!よろしくなっ!」
「改めまして、大入福朗だ。仲良くしてね」
タイミングを見計らったように赤髪の角を持つ少年、『切島鋭児郎』が手を貸してくれた。
「…急な誘いで悪かったな。クラスの皆と打ち上げとか有ったんじゃないか?」
「いや、打ち上げは体育祭の後で直ぐやったしな。今日は暇だったからいいぜ」
「そっか…ならよかった」
そう言うとニコッと満面の笑顔を向けてくる。あらやだ、この子天使よ。
服の汚れをパタパタとはたき落とすと、先に行っていた女性陣に合流する。
さり気なく切島君の影に隠れながら、一佳の様子を窺う。
「…福朗」
「…な…何?」
一佳がジロリとこちらを睨みつけてくる。また襲って来る気かっ!
「はぁ…アンタがそういう奴なのは知ってるから仕方ないか…。
さあ、ノッケから悪かった。今日はよろしく」
「よろしく~」
「です~ «٩(*´∀`*)۶»」
どうにか許して貰えたようだ。
そして五名でゾロゾロと入場ゲートを通過する。
「しっかしな~こうやって見ると凄いな…」
「何がです ( ¯∀¯ )?」
いつの間にやら歩調を合わせて隣に戻ってきた僕ロリがこちらを見上げてくる。
「いやさ、ヒーロー科ってAB合わせて42名だろ?その内の5名が千葉県出身者で、しかも3名が体育祭のファイナリストってんだから、俺らは将来有望ってわけだ。千葉最強!千葉最高!…って、あれ?どうしたん…?」
「うぅ…体育祭…」
「ちょいちょい…おにーさん (´ω`;)」
何気なく振った話題に急に沈んだ顔になる少女がいた。芦戸さんだ。
如何したんだろうと首をかしげていると、僕ロリに服の裾を引っ張られた。手招きされたので身を寄せると軽く耳打ちしてくる。
話はこうだ…。
芦戸さんは雄英体育祭の最終種目「ガチバトル」でサポート科の少女…もとい発目さんに惨敗した。その際、彼女のバラ播いた潤滑剤の被害に合った。オマケにスタンガンによる電流攻めで酷い醜態を晒した。
しかし、芦戸さんの不幸は終わらない。昨日何気ない用事で外を出歩いているときの事だ。何やら周囲の目が異様ではないか。
そして、不審に思う彼女にトドメの一撃が振り下ろされた。
──「あーっ!ローションのねぇちゃんだ!!」
無垢な幼い少年の無慈悲な言葉の刃だったそうな…。
「…オウフ」
「ね?酷いでしょ (๑´Д`ก)」
「だな。俺だったら二三日引き籠もる自信有るわ…」
「みーちゃんは傷心中なのです…。このイベントで元気になってくれたらいいのですが (>_<。) 」
元はと言えば、俺のせいと言えなくも無い。
芦戸vs発目の対戦。俺は芦戸さんの能力を発目さんに教え、アドバイスした。その上で発目さんが打ち出した対抗策こそ、あの「中和剤と潤滑剤」だったのだ。ちょっとしたエロ同人誌の様なあられも無い姿が全国放送の電波に乗せられてお茶の間に届けられたのだ。R指定一歩手前である。
けど、よくよく考えたら去年の体育祭でも不祥事有ったよな?確か、二年ステージで男子生徒が全裸になる奴…。あの人どうなったんだろ?
雄英体育祭には放送事故を起こすジンクスでもあるのだろうか?
兎に角、こちらも事案の片棒を担いだ身だ。何かしらのフォローを入れるべきだろうか?
そう考えながら芦戸さんの傍に歩み寄る。
そして自分の被っていた帽子を彼女に被せた。
「…わっ!……なにこれ?」
「ささやかながら変装な。目元見えにくいだけで、かなりバレにくくなるよ」
そう言いながら俺はパーカーのフードを被る。実際電車の中でしかバレなかったし、ある程度効果はあるだろう。
しかし、相手は芦戸さんだ。角にピンク髪、パープルピンクの肌に黒い瞳…目立ちまくるパーツが目白押しである。もう少しアイテムも必要だろうか?
「何だったら、もうちょい何か着ける?グラサンとマスク…後は黒髪ストレートでよけりゃウィッグもあるけど?」
「まて福朗、何故そんなもんまで持ってる?」
「変装用。昨日治療の為に出歩いたら滅茶苦茶声かけられまくったからな…」
「あ~わかるわ。俺もそうだったしな」
「僕…そんなことありませんでした… 。゚(゚´ω`゚)゚。」
「まぁ、最終種目まで進んだ三人だしね…。注目されたってことでしょ…?」
そう言いながらマジックでも披露するかのように次々変装アイテムを取り出す。
ソレを見てた芦戸さんは困り顔で帽子を目深に被り直した。結局、変身アイテムは要らないようだ。
ところで、この取り出したアイテムはどうしよう…。
ここでソウビしていくかい?
→はい
いいえ
黒髪ストレートにマスクとグラサンの猫男子が出来上がった!
「ジャーン!!」
「やめい馬鹿っ!」
「あべしっ!?」
「ブフォっ!!」
「ちょっ!ブフッ…おにっ!…おにーさん、何やって… (´゚艸゚)∴ブッ」
一佳のツッコミが後頭部を直撃した。
鮮やかにヅラが飛んだ。
切島君が吹き出した。
僕ロリも吹き出した。
「何やってんだよアンタは…」
「いや、折角出したし、使わないと…勿体ない」
「似合わねぇよっ!」
「ひどいなぁ…」
そう言いながらヅラを拾い、装備し直す。
「しまえよっ!!」
「ひでぶっ!」
「「だっひゃひゃひゃひゃっ (´゚∀゚)・:.・:∵ブハッ」」
再び一佳のツッコミが後頭部を直撃した。
鮮やかにヅラが飛んだ。
切島くんと僕ロリも吹き出した。
まさかの天丼である。
負けじとヅラを拾う。
「…ぷっ…ふふっ…あーはっはっはっ!」
「ははっ…はーっ!…ってあれ?みーちゃん (*´`*)」
「ヘーンなの!はははっ!」
一佳の洗練されたツッコミ技術に大ウケの御様子である。善き哉善き哉…場もそこそこ温まってきた…。
「さあ、この勢いで遊園地楽しもうっ!!」
「「「おーっ ٩(ˊωˋ*)و!!」」」
「ヅラ取れ馬鹿ぁっ!!」
───────────────
「よいしょっ!…アレ?外した?」
「だめだなー!よしっ!ここは俺が手本を…それっ!…あら?」
「なにやってんですか… (๑´Д`ก)」
一行は赤煉瓦色の山々が聳え立ち、木造建築の並び立つ街並みへと足を運んだ。西部劇の世界に迷い込んだかのような風景は、一同を自然と日常とは隔絶された別世界へと誘ってくれる。
周囲の
「取り敢えず山行こうぜっ!山っ!」と言う切島の提案から、皆はこのエリアに足を運んだ。因みに「クマさんの蜂蜜狩り行こうぜっ!」と言う大入の提案は、「お前ハニーポップコーン食いたいだけだろ」と拳藤に却下されたようだ。
当遊園地でも根強い人気を誇るトロッコ型ジェットコースターのファストパスを確保して、時間調整の為に近くのアトラクションで遊ぶことにした。
切島と大入はどちらが西部一のガンマンか競争しているようだ。
「男ってなんでこう勝負事が好きなんだかなぁ…」
「ねー」
そんな様子を拳藤と芦戸は邪魔にならないように少し離れた場所から眺めていた。
「…そう言えばさ?」
「んー?」
「二人ってどういう関係なの?」
「………ただの幼馴染み」
「なに、今の間はっ?」
そう言いながら芦戸は拳藤の顔を覗き込む。「私、気になります!」と表情で語り、熱意を向けると、自然と拳藤が視線をそらした。
「あやしい…」
「あやしくなんてないよ」
「でもでも!二人ってさ、「タダならぬカンケイ」って感じじゃん?」
「…そう見える?」
「見える見える!」
「ふむ…」
そう言われて、拳藤は大入を見た。するとこっちに気づいたらしく、手を振っている。その動きを見た切島と東雲も同様に手を振ってくる。
拳藤はそれに手を振り返して、物思いに耽る。
(そう言えば、私と福朗の関係ってなんだろう…)
「幼少の頃からの幼馴染み」と一言で片付ける事は容易だ。
しかし、大入と現在の様に深く関わる関係になったのは中学校に上がった時の話だ。それより以前は「同じ学校の同じクラス」でしか無かった。
何故、縁も無いような二人がここまで交流するようになったかと言われたなら、やはり「あの事件」が原因だろう。
そして、知った。彼が『孤独』であるということを…。
(…だから、私は…)
「…?一佳ちゃん?」
「ん?あぁ、ゴメンゴメン。ちょっと考え事をさ…」
「考え事?」
「いや、改めて私とアイツの関係ってなんだろうなって」
「っ!ソレでソレでっ!?一佳ちゃん的にはアリなの?」
「…アリ?」
「にぶちんだなーっ!様は一佳ちゃんは大入くんの事を「恋人として見れるか?」って話だよ!」
「………っ!!?~~っ!?」
「ほほぅ…これはこれは…」
普段なら柳に風吹く様にすんなりと流している、拳藤の余裕が崩れた。
昨日一日中ずっと彼の事で悩み続けた上に、今日はもしやデートかと淡い期待を裏切られた。上げて落とすやり方に、いつもの調子を保てていなかった。
頬が熱を持ち、赤く染まり、瞳が揺れた。
そんな彼女の珍しいボロに、芦戸は顎に手を当てしたり顔である。
拳藤一佳は察した。
(こいつ
「さぁさぁ、さっさと
「ま、まって…私そんなんじゃ…」
手をワキワキさせながらにじり寄ってくる芦戸。その動きに思わず後ずさる。
「何を
拳藤が後ろを振り向くと先程まで遊んでいた大入達が歩み寄ってくる。
僕ロリ事東雲の胸に光る金のバッチから察するに、西部一のガンマンは彼女に決定したようだ。
不思議そうに問いかける大入の顔を見た拳藤は、目を白黒させたかと思うと、顔を真っ赤にした。
「うっ、うるさいな!アンタにはカンケイないだろっ!」
「ぬおっ!?いきなりキレるとは何事かっ!?」
「喧しいっ!!」
「いと、ヒドす…」
少々混乱したままの拳藤の暴言に、大入が芝居掛かった所作で煽るように戯けて答える。
何でこんな奴のために一喜一憂し無ければならないのかと拳藤は無性に腹が立った。
「ほらっ!そろそろファストパスの時間だろっ!とっとと行こうっ!」
「ちょい、一佳っ!そんなグイグイ引くなっ!転ぶっ!転ぶからぁっ!?」
この場の空気に耐えきれなくなった拳藤が次のアトラクションを口実に撤退を決め込む。何故か大入を拉致しながら…。
その様子を首を傾げて見つめる切島。
「なんだ…ありゃあ…?」
「いやぁ…青春ですなぁ…」
「む~… ( ・᷄ὢ・᷅ )」
「いや、サッパリ意味分かんねぇよ…」
「分かってないですね~きーくん (´-ω-`)」
「はぁ…これだからお子ちゃまは…」
恋心の何たるかを丸で理解していない切島の反応に女性たちが微妙な顔をする。
「なんなんだよおい…」
切島を置いてきぼりにして移動する一同。切島は頭をガシガシ掻いて、後を追った。
大人気のジェットコースター他数種類のアトラクションを堪能した所でお昼時、お腹の虫が鳴き出す頃になった。
そのまま、食事を摂れる場所に足を運んだ。
西部劇の世界から直ぐ隣の、アメリカの密林奥の河川を彷彿させるエリアに隣接したキャンプハウス風のテラス。ワッフルをパンやバンズの代わりにした独特なサンドイッチを扱うお店で、外の河を進んでいくクルージングアトラクションを眺めながらキャンプ気分でゆっくり食べられる場所だ。
「あぁ、明日からまた学校か…もうちょい休んでたいなぁ…」
「あっ!わかるわかる!毎日が日曜日なら良いのにねっ!そしたら遊び放題っ!」
「アカン芦戸さん。それニートって奴や…」
大入が休みが終わる事に憂鬱な気分になっていると、芦戸がその話に食い付き肯定してきた。思わず先程の言葉を翻して、大入が芦戸を制止する。
「けどさ、反面楽しみでも有るよな!明日にはわかんだろ?ドラフトの指名っ!」
サイドメニューの骨付き肉に齧り付きながら切島がそう励ました。
先日の雄英体育祭。あれにはヒーロー科のカリキュラムに置いても重要な意味がある。
「ドラフトの指名」はこの後に予定されている「職場体験」に関係している。職場体験の研修先はは、ヒーロー科を目指す少年少女達なのだから当然ヒーローの現場である。
体育祭を視聴した現役ヒーロー達が、自ら事務所に気に入った生徒を指名して、実際にヒーローの仕事ぶりを体験学習をして貰う機会が設けられている。受け入れ先の事務所からしたら、有望株な生徒に卒業前からアプローチができる絶好の機会だ。反対に生徒側から見ても、プロヒーローとのコネクションを確立できるため、互いにメリットの有るカリキュラムだ。
「特に大入は総合2位だしな!指名も多いんじゃねえか?」
「どうだろ?度ごとにボロ雑巾にされてたからな…案外伸びないかも…」
飯田戦はともかく、塩崎・轟・爆豪との戦いぶりを思い出すとろくでもないなと大入は感じた。総じて全身に重症を負った記憶しか残っていない。
勝つ度にあんな風にボロボロになってる奴に果たして需要があるだろうか?大入はその様に思った。
「そうだよね…アタシなんかあんなに恥ずかしい姿になっちゃったもんね…アタシの方こそ指名来ないかも…」
「あぁっ悪かったって!ホラっ!俺のチュロス分けてやるから元気だせって!!」
体育祭の失態に、今一度気分が沈みそうな芦戸を慌てて切島が慰める。肩を軽く叩き、その後にチュロスを半分に割って分け与えていた。
「きーくんとみーちゃんはまだいいですよ…。僕は最終種目にすら出てないから、プロヒーローの目に留まってないかも知れません (´._.`)」
「そうだね。最終種目に出ただけで充分目立ったはずだ…。心配すること無いよ」
「…うんありがと」
援護するように最終種目に出ることが出来なかった東雲と拳藤が励ましの言葉を送る。それを見て芦戸は元気を取り戻して笑った。
ドラフトの指名はテレビにどれだけ映ったかも関係している。レクリエーションにより活躍さえ出来れば、残された二人でも指名のチャンスはあるのだ。
「…そう言えばなんだがよう…。大入、その手袋はなんだ?」
「ん?これか?」
気まずい雰囲気から逃れるために、切島が大入を指差す。大入が外出の際に身に着けている革手袋。食事中の今は利き手の右手だけを脱いで、フライドポテトを抓んでいた。
「ん~…。例えばの話なんだが、「俺の“個性”で犯罪行為」を働くとしたら、どんなことが出来ると思う?」
「…は?」
返答の代わりに突き付けられた議題に思わず驚く。
呆気にとられる切島をよそに大入は手を伸ばし、切島のジュースの入ったコップを手に取る。そして、一気に格納した。
「こんな風にスリ・万引き・強盗と「盗む」事において、これ程有効な能力は無いよね。何せ、格納すれば痕跡が残らない…」
そう言いながら指を鳴らすと〈揺らぎ〉が生まれて、元の位置にコップが戻された。
「俺の“個性”は素手で触る事が格納条件なんだ。…丁度A組の麗日さんと同じな。
つまりは俺の手袋は無闇に“個性”を使わないって言う意思表示でも有るんだわ」
そう言葉を締めて、更にフライドポテトを一抓み口に運んだ。
「おう…苦労してんだな…」
「そんなこと無いでしょ?
もし悪いことするなら、切島君や一佳なら直接手段に出れば良いだけだし、芦戸さんの酸なら金庫だろうが牢屋だろうが大概の物を溶解できる。僕ロリだったら掌を足場に逃げたり、太陽光熱で小火騒ぎくらい出せるだろ?
様は使い手のモラル次第だし、優秀な
そう言って自分のジュースを口に含んだ。
「おにーさん、おにーさん (๑´>᎑<)」
「んー?どした、僕ロリ?」
寛いでいる大入に東雲が声を掛ける。何やらモジモジと恥ずかしそうにしている。
「そのポテトを分けて下さいなっ (๑•̀ㅂ•́)و✧」
「…だから単品じゃなくセットで買えって言ったんだよ」
「し、仕方ないじゃ無いですかっ!思ったより少なかったんです (。•́ - •̀。)」
「しょうが無いな…ほらっ」
「…お、おにーさん Σ(///Δ///)」
東雲は大入が購入したフライドポテトに集る気の様だ。高校生の限られたお小遣いを有効に使うため食事を減らし、浮いたお金でお土産を買う戦略だったようだ。
しかし、小さい体躯でも育ち盛りの高校生。サンドイッチのみでは足りなかった様だ。
仕方なしにと大入は自分のフライドポテトを分けることにした。容器からポテトを1つ取り出して東雲の口元に差し出した。
この行動には東雲が困惑し、切島が度肝を抜かれた。芦戸は興奮した様子で熱い眼差しを向け、拳藤は危うく手に持つフライドポテトを落としそうになった。
大入のこの行為、端的に言って「はい、あーん」である。
「……?…あぁ、すまん、妹にやる癖で…」
6人兄弟姉妹の大入ファミリー。特に末っ子の寧々子は甘えん坊で兄姉に抱きついていつも一緒に遊んでいる。おやつの時には大入の膝の上に座り、食べさせて貰うこともしばしばある。
僕っ娘、ロリっ娘、元気っ娘のおねだりがうっかり大入の兄属性を引き出してしまったのだ。
これは余りに調子が乗りすぎた。自らの失態に大入はバツが悪そうに、伸ばした手を引っ込めようとすると、東雲が大入の手にパクリと齧りついた。
「あむっ (﹡ˆ﹀ˆ﹡)」
「ちょ!?」「キャーッ!」
「…ペロリ…美味しく頂きました (๑><๑)۶」
「…そりゃどうも」
大入のポテトを奪い取るため、その指ごと口に含む東雲。ポテトの塩の一粒まで堪能するかのように、指先を丁寧に舐め取り、最後にチュポンと音を鳴らして大入の指を解放した。
東雲の行為に切島が驚愕し、芦戸が黄色い声を上げた。拳藤は落雷が直撃したかのような衝撃を受け、手に持ったフライドポテトを下に落とした。
東雲はイタズラっぽい笑みを溢しながら礼を言った。対する大入は一度顰めっ面をし、紙ナプキンで手を拭いた。
はわはわと興奮した様子の芦戸に、初めて見る東雲の意外な一面に驚く切島。その神妙な空気を裂くように拳藤が割り込む。
「ふ、福朗ぅ…」
「…な、何?一佳?」
何やらモジモジと恥ずかしそうに大入に呼びかける。いつもの竹を割った様なサッパリとした性格の彼女の意外な仕草に無意識に緊張が走った。
「その…私にもポテト…分けてくれないか?」
「あれ?一佳のポテトは?」
「いや、さっきのでビックリしちゃって…落とした」
「お、おう…」
恥ずかしそうに事情を説明する拳藤。彼女にしては珍しい失態、さっきの光景に驚くなんて案外初なんだな、などと感心する一方、気まずい事を聞いてしまったなと自分を戒めた。
「そう言うことなら…はいっ!」
先程までの微妙な空気を払拭するように、声の調子を上げて答える。
そして、反省を活かしてフライドポテトの容器ごと拳藤に差し向けた。
しかし、それを見た拳藤の表情が微妙なものに変化した。それを見てアチャーと顔を覆う芦戸。しかしそれに気付くことは無く、様子のおかしい拳藤に大入は首を傾げていた。
「…?」
「そぉい!!」
「ああっ!?」
拳藤は“個性”で掌を巨大化し、大入の手から半分程残っていたフライドポテトをすべて奪い取った。
驚いた大入が制止する間もなく、拳藤はポテトを口に放り込む。そして二三度咀嚼すると、残っていたドリンクで流し込んだ。
「…んく…ぷふぁ…ん、ごちそうさま」
「…俺のポテト…」
「旨かったよ」
「…ぽてと……」
大入はしょんぼりと空になった容器の中を覗き込んでいた。
そして、そっぽを向いた拳藤。呆れる芦戸。ニヨニヨする東雲。四者四様の反応にオロオロする切島が残った。
「…うむ流石はハニーポップコーン。安定の旨さだ」
「です~ (*´ω`*)」
西部エリア、密林エリアを抜けてファンタジーエリアへと移動した所でトラブルが発生した。
ファンタジーエリアのアトラクション「幽霊屋敷」で運悪く前後のグループで分断されてしまったのだ。仕方ないので次のアトラクション「クマさんの蜂蜜狩り」で合流する事を約束して、大入と東雲は残りのメンバーを置いて先に進むことにした。
一足先に到着した二人は、大入お目当てのハニーポップコーンを手に入れてベンチに腰掛け、ポップコーンのモキュモキュという食感を堪能していた。幸せそうな笑みでポップコーンを頬張る二人は、端から見たら仲の良い兄妹のようだった。
「今日はありがとうな、僕ロリ…」
「いえ、おにーさんが協力してくれて、よかったです (*´˘`*)」
「あぁ、芦戸さんも元気になったみたいで良かった」
何気なしに大入は礼を言う。今日のイベントを企画したのは、他ならぬこの東雲だった。
雄英体育祭での遊びの約束に、気落ちした芦戸を元気付ける計画をし、大入がそれに乗っかった。
結果は上々。元気にはしゃぐ彼女を思い出すと、今回の作戦は大成功と言えたのでは無いだろうか。
「いえいえ~おにーさんがバカやってくれるおかげですよ (*´罒`*)」
「さらっと辛辣な物言いだな」
にっしっしとイタズラっぽく笑って返す東雲。思わず大入がその笑顔を引き吊らせた。
大入がボケて拳藤がツッコむ。夫婦漫才さながらの連係プレーで終始馬鹿騒ぎをしていた大入。流石は自ら道化を騙るだけはあるらしく、元よりノリの良い芦戸はその流れにアッサリ乗せられた。
ただ問題があるとすれば、大入の行動の何処までか素なのか、サッパリ分からないと言うことだ。
「でもでも、助かったのは本当です (,,>᎑<,,)
何かお礼をしないと…」
「お礼とは律義だな……そだ、仲良くなったついでに僕ロリに聞きたい事が有るんだけど…いいか?」
「なんだぁ水臭いですよおにーさん (๑><๑)۶
僕とおにーさんの中じゃ無いですか~ドンと聞いて下さいなっ ☆٩(。•ω<。)و
何が聞きたいですか?好きなお菓子?好きな料理?気になる番組に最近のマイブーム!…スリーサイズは恥ずかしいですが、好みの男性のタイプであれば… (*//艸//)♡
さぁ!何なりと聞いて下さいっ! ٩(๑>∀<๑)۶」
「じゃ…遠慮無く…。
どうしてそんな
「…………は?」
「こういうのを「猫かぶり」って言うのかな?
僕ロリってさぁ、普段からオーバーリアクションで動いてるだろ?ぶっちゃけ、喋ってるときと、ジッとしてるときの温度差…と言うかスイッチのオンオフが激しすぎる。何だか「これが東雲黄昏」を取り繕ってる様な見せつける様な印象だな…」
「………そ、そんなわけ…」
「あぁ、でも俺にイタズラ仕掛けてきたときは凄い生き生きしてたな?僕ロリって案外、小悪魔タイプなんだな」
「……やめてください」
「僕ロリはさ、仮面なんて着けずにもっと自由にするべきだ。そんなに無理して、笑って、大変じゃ無い?それより、いっそ…」
「やめてって言ってるでしょうっ!!」
大入が視線を東雲に向けると、東雲は大入を睨み返した。先程までのクリクリとした丸い四白眼は、鋭い三白眼に変わり、小さな口元を目一杯歪ませて、不快感を露わにした。
大入は少なからず驚いた。彼女のリアクションの端々に説明しにくい違和感が前からあった。彼女に無理をして愛想笑いをして貰いたくないと考えもあって言ってみては見たものの、適当にはぐらかされるのがオチだと思っていた。
それがどうだ?先程とは丸で別人に成ったかのような彼女に、大入は言葉を止めることしか出来なかった。
「…初めて見せてくれたな、その顔」
「一つ聞いてもいいかしら?」
「何?」
「どうして気が付いたの?」
「…ただ何となく。強いて言うなら「同族」の臭いがしたからだな」
「冗談を言わないでっ!貴方に何が分かるの?なんでもかんでもすべて見透かした様に偉そうな事を言わないで。
それに「無理をするな、自分をさらけ出せ」って?簡単に言わないで。
たった出会って数回…、時間にして数日にも満たない貴方に言われても、何の説得力も無いし、それに私はこれでもずっと考えて…それでもこれで行くって決めてるの。今さら他人に言われたくらいで変えられる物では無いわ」
ベンチから立ち上がり、東雲は大入の前に立つ。そして座ったままの大入を見下ろした。「これ以上、余計なことは言うな」と目が語っていた。
しかし、そんな物で黙るような大入では無かった。
「…だったらさぁ。何で今、そんな辛そうな顔してんのさ?」
「っ!?」
その一言で東雲の瞳が揺れた。口を開こうとして、少し開くと、そのままギリリと噛み締めた。
そのまま視線を交錯させる二人に、静寂が支配していた。
「おーいっ!黄昏ちゃーん!」
「あっ!みーちゃん! (*´`*)」
後から遅れてやって来たメンバーを代表して芦戸が手を振って呼びかける。
先程までの空気なんてまるで無かったかのように愛想を振りまいて手を振り返した。そのまま東雲は駆け寄ろうと逡巡し、今一度大入に顔を近づけた。
「…さっきの話、皆には内緒ですよ? (*´ー`*人)」
東雲は大入の前で合掌するように手を合わせ、可愛らしくお願いをした。
先程外した仮面は、綺麗に填め直された様だ。
「……余計なことするんじゃ無かったかな?」
大入は頬を掻くとベンチから腰を上げ、皆に合流した。
その後、何度か東雲と二人きりなったが、仮面を外すことは無かった。