転生者「転生したんでヒーロー目指します」   作:セイントス

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大入「…オーケー。投稿の遅くなった言い訳を聞こうか?」
作者「た、誕生日プレゼントに貰ったピ○ミン3(中古)が面白くて…」
大入「ギルティ!!!」
作者「ぎにゃーーーっ!!」


…続きです。




73:それぞれの職場体験

 

「…なんか、思っていたのと違うなぁ」

 

 

雄英高校ヒーロー科1-B学級委員長『拳藤一佳』は、独りごち呟いた。

激動の体育祭を終えて、早5日。待ちに待った職場体験、その初日。

指名を貰った唯一のヒーロー事務所『ウワバミ芸能プロダクション』に赴いて、一番最初のブリーフィングを終えて、直ぐに抱いた感想だった。

 

 

「拳藤さん、どうかなさいましたか?」

 

 

隣に立つ同年代の少女が、彼女に尋ねる。

 

長く艶のある黒髪を邪魔に成らないように後頭部で一纏めにしたポニーテール。整った顔立ちに切れ長な目と長い睫毛。

そして真っ先に目を引くのは、学友に「発育の暴力」とまで言わしめたそのプロポーション。同年代と比較して明らかに平均を超えたバストとヒップ、それでいてウエストはしっかりと絞られている。

そんなワガママボディを惜しげも無く強調するレオタード調の戦闘服(コスチューム)。只でさえボディラインを浮き彫りにしているのにも関わらず、追い打ちを掛けるように細工された首元からヘソに向けて一直線に切り裂かれたスリットが全身を煽情的に纏め上げる。

そんな恰好も、彼女が纏う上流階級の様な深窓の令嬢を思わせる立ち振る舞いが、「疚しい目では見てはいけない」様な自責の念を与えてくる。

 

拳藤が一言で纏める事が出来なかった彼女こそ、雄英高校ヒーロー科1-A学級副委員長『八百万百』であった。

 

 

「何でも無いよ八百万さん。ただちょっとダケ、もっと…こう…ヒーロー的活動を体験したいんだけどな…ってさ」

 

 

スネークヒーロー『ウワバミ』の本日のスケジュールは、午前中に化粧品メーカーのCM撮影及び○○テレビにて番組の打ち合わせ。午後からはダンススクールで社交ダンスのレッスン。夕方はコンサートのスペシャルゲストとしての出演。

正直に申し上げると、それはヒーロー活動ではなく芸能活動では無いだろうかと、拳藤は異議を申し立てたい気持ちで一杯だった。

 

大入から「メディア露出ハンパなさそう」とまで評されていたヒーロー事務所。彼等が拳藤・八百万にオファーをかけた根拠というのが「貴女達可愛いから」と言うヒーロー面の考慮が皆無の内容だったものだから、気持ちが沈むのも仕方ない。

いや、容姿の可憐さ美しさを賞讃されて嬉しくないわけでは無い。ただヒーロー志望の二人としては、ヒーローの素質を評価して欲しかったと言う気持ちを蔑ろには出来ないのだ。

 

 

「いえ!!これもプロ入りすれば避けては通れぬ道ですわ!

それにいいとこ無しだった私を見初めて下さった方ですもの…たんと勉強させて貰いますわ!!!!」

「気張ってんな……」

 

 

隣に立つ八百万を見て、拳藤が少し困ったように笑みを向けた。

拳藤が八百万に対して受けた印象は「空回りしている」だった。彼女に写る表情が、どこか追い詰められたような、焦燥を感じるような顔をしていた。

本人の言動を鑑みるに、雄英体育祭では結果を残せなかったことを大きく引き摺っていたようだ。

 

 

(そんな気負う程では無いけどなぁ…)

 

 

八百万の心情を聞いた上で、拳藤が思った事だ。

 

八百万の体育祭の結果は最終種目一回戦敗退。対戦相手はスピード・リーチ共に凶悪極まりない性能を発揮した常闇だ。相性差と言っても差し支えない選手だった。

そもそもの話、彼女が大した活躍をしていないと認識しているのが見当違いなのだ。

例えば騎馬戦。直接対決を申し込んだ拳藤には分かる。

轟チームが身に纏っていた「ローラースケート」「絶縁体シート」「金属ステッキ」の三種の神器。チームを組んだ飯田・上鳴・轟の“個性”を繋ぎ合わせ、一つの戦力に纏め上げたのは彼女の功績に他ならない。確かに他の者に指示されたと言うのは在るかも知れない。それでも必要なタイミングにドンピシャリと合わせてフォローを入れる彼女の実力は、決して見劣りする物では無かったと考える。

加えて言うなら、最終種目に出ただけで凄いことなのだと言う事実を付け加えておく。約220名で競い合った体育祭で最終種目の切符を手にしたのは、一クラスにも満たない僅か16名。

実際に敗退した拳藤もそうだし、八百万と同じく推薦組だった骨抜・柳でさえ篩い落とされたのだ。

 

 

(…自分に自信が無い様な考え方。何とか出来ないかな…?

手っ取り早いのは、何か在ったときに持ち上げてみる事かな?何にせよもっと注意深く観察しないとな…)

 

 

謙遜と言うには少しばかり自身を過小評価しているような振る舞い。

実力は勿論の事、ウワバミが認める程に優れた容姿まで備えているにも関わらず、何故そこまで卑屈なのかと思わず気を揉んでしまう。こういった世話焼き体質な面が拳藤のいいところだった。

 

 

「さぁ貴女達、こっちにいらっしゃい」

 

「あっ、ハイ!」

「只今っ!」

 

「そこの席に座って?」

 

「「……?」」

 

 

促されるままに二人はイスに腰掛ける。すると楽屋に新しく二人の女性が入ってきた。

 

 

「じゃあ、お願いね?」

「「かしこまりましたウワバミお姉様っ!」」

 

「え?えっ!?」

「あっ、あのっ!これって…」

 

 

二人の女性は拳藤と八百万の前に立つと、一緒に持ち込んだメイク道具で彼女達に化粧をしだした。

急な事態に困惑する八百万。拳藤は脳裏に嫌な予感が過ぎっていた。

 

 

「だから言ったでしょ?「これから撮影だから付き合って」…って?」

 

「…えぇ、ですから、それとお化粧に何の関係が…」

「えっ!?ちょっと待って!それって…」

 

 

今一つ状況を掴めていない八百万が小首を傾げて、疑問を投げかける。

一方、拳藤はいち早くウワバミの意図に気付いた。予感が確信に変わり冷や汗を流した。それでも自分の予想が外れることを祈りながらウワバミの反応を待つ。

 

 

「えぇ、そうよ。「一緒に撮影しましょう」って意味だから」

 

「ええぇっ!!?」

(やっはりかーーっ!!?)

 

「はーいじっとする!メイクが上手く出来ないでしょ?」

「可愛いお嬢ちゃんをもっと可愛くしちゃんうんだからっ!」

 

 

動揺する二人を余所に見る見るメイクが進んでいく…。

 

 

職場体験初日。これから数日間、大変な事になると直感した二人だった。

 

 

───────────────

 

 

「…ん~」

 

 

くノ一装束を現代風にアレンジしたヒーローコスチュームの少女『小大唯』は唇に人差し指を当てながら物思いに耽っていた。

本日は快晴、絶好のヒーロー活動日和。彼女の研修先は若手実力派ヒーロー『シンリンカムイ』だ。

彼の人生は波瀾万丈に満ちていて、彼にフォーカスを当てたドキュメンタリー番組から人気に火が付いた期待のヒーロー。“個性(樹木)”を使った捕縛術もさることながら、目を見張るのはその体術。鮮やかに宙を舞い、素早く犯罪者を捕らえるその御業は、一種の芸術の様に華麗だ。

そんな技術を肌で感じ取れば、自分の糧になることは間違いないだろう。

 

そんな彼女の上司であるシンリンカムイは……。

 

 

「何度言ったら分かるんだっ!!街に余計な被害を出すなっ!」

「し、仕方ないじゃ無いっ!敵の抵抗が激しかったのよっ!!」

「そもそも、二車線以上のスペースがないと“個性”が使えないのに、何だって都市部に事務所を構えたんだ!」

「郊外なんて嫌よっ!?ヒーローとして輝けないじゃ無いっ!!」

「ヒーローをなんだと思っているんだ!」

 

「一旦落ち着けよお前ら…」

 

「「うるさいっ!?」」

 

 

彼は『Mt.レディ』と口喧嘩をしていた。

原因は先程治めた事件に在る。近くでコンビニ強盗を働き、逃走する犯人を追跡していたシンリンカムイ、あと一歩と言った所でMt.レディに手柄を横取りされたのだ。

それだけならまだ良かったのだが、彼女はその際勢い余って近くの電柱を二本ほどへし折った。結果電線が断線、一部地域に停電が発生してしまった。十回に一回は確実にやらかす彼女の器物損壊、今回はよりによってインフラの破壊だ。思わずシンリンカムイが腹を立てた。

半ば呆れながらも、二人の言い争いを仲裁しようと間に入る『デステゴロ』。しかし、効果は現れず、取り付く島もない状態だった。

 

それを小大はノンビリと眺めていた。

 

 

(ん~…晩御飯なんだろ?)

 

 

しかし、小大は全く意に介さない。思考は既に眼前の一悶着を離れ、夜の献立へと思いを馳せる。彼女の宿泊先で出される食事はそれ程に美味なのだ。

 

 

「なぁオイ、あれ止めなくても良いのかよ?」

「ん?」

 

 

そんな小大の様子を知ってか知らずか、隣の少年が声を掛ける。

身長僅か1m程度の小柄な体型。頭に毬藻の様な紫色の球体を付けた葡萄頭の少年『峰田実』だ。彼は1-A所属、彼女とは同期に当たる。

この度、彼はMt.レディの下で職場体験を行っていた。

 

 

「あーいいっていいって」

 

 

そう言って静観を促したのは一人の少女。

 

バサリと切ったおかっぱ頭。目元に三角のフェイスペイント。指向性スピーカー内蔵のブーツに、革素材のジャケットとパンツでロックにコーディネートされた出で立ち。しかし、内側に着たピンクのインナーシャツが年相応の愛らしい少女であることを主張する。

更に目を引くのは彼女の“個性”でもある、一見大きめのピアスにも見えるイヤホンジャックだった。

 

 

「いつものことだし、放っときゃ収まる…」

 

 

そう語るのは同じヒーロー科1-Aの『耳郎響香』だ。

静岡県出身で地元住民である彼女が言うには、Mt.レディとシンリンカムイは事務所を近くに構えているらしく、こうして同じ現場に居合わせる事が多いらしい。

それでいて、この様に小さな諍いの度に口喧嘩をしているそうだ。大概はMt.レディに非が在る案件が多いため、結局の所、彼女が(しょ)げて帰ることで事態は終息する。

こんなことが何度も起きているため、一周回って町の風物詩として定着してしまった。尚、地元住民の一部からは夫婦漫才と揶揄されているが、両者はこれを全力否定しているそうだ。

 

 

「ん」

「いいのかよっ!?」

「そういや小大さん、晩御飯何にする?」

「ん~…ポトフ」

「オッケー、伝えとく」

「聞けよぅ!?」

 

 

現在、小大は耳郎の実家にお世話になっている。…と言うのもちょっとした事情があるためだ。

実は、シンリンカムイのヒーロー事務所は非常に特殊だ。何しろフリーのヒーローとして活動している彼は、自宅を事務所と兼用している。

故に事務所に来客用の宿泊室を用意しているわけも無く、流石に年頃のお嬢さんを独身男性の家に放り込むのは色々問題があった。

研修期間中、ホテルアパートメントを借りる案も在ったが、親の仕送りで島根から上京している彼女の台所事情の面から芳しくない。

そこでB組担任のブラドキングは耳郎の実家を頼ることを思いついた。丁度、耳郎響香はデステゴロ事務所に研修先を決めていたため、実家からの出動を希望していた。

それに便乗する形で小大の宿泊を頼み込んだのだ。先生の働きかけもあり、こうして小大は耳郎と仲良くヒーロー研修に勤しむという、睦まじい関係を築き始めていた。

 

 

「にしても女の子二人で寝泊まりかぁ…。羨ましいぜ」

「ん!」

「ウチの母さんも小大さんの事、気に入ったらしいし、楽しくやれてるよ」

「オイラ、事務所に寝泊まりだぜ?流石に当直の人が居るから寂しくはねえけど、メシはコンビニ弁当だから、なんか物足りねえんだよな…美人の手料理が食いてぇよ」

 

 

殺伐といがみ合うプロヒーローの面々を余所に、学生達は終始和やかなムードで平和的な空気を醸し出していた。

 

 

「だいいち何よ!『先制必縛ウルシ鎖牢』って!?最近全然必縛できてないんですけどー?」

「なんだとぅ!?」

「だってそうじゃなぁい?先月の『ヘッドギア事件』の時もそうだし、何だか落ち目じゃなぁい?

その点、ウチに来たこの子、『グレープジュース』は凄いわよ~?強力なトリモチで相手を絶対に逃がさないんだから!」

 

「ふぁっ!?」

 

 

突如、峰田は全身に浮遊感を感じたと思ったら、目の前にシンリンカムイの顔が映った。どうやら、Mt.レディが峰田を捕獲して彼の目の前に突き出したらしく、峰田を引き合いに彼の能力を貶し始めた。

急な事態に峰田は体をびくりと震わせ、揺れる瞳で眼前の彼を見ていた。

 

 

「それを言うなら、こちらに来た『S to L(ストール)』だって負けちゃあいないぞ!

小型化・巨大化の両方に変化可能な上、柔軟に大きさも変更可能だ!

只最大サイズになるだけの「不器用さ」ではこの先、勤まらんぞ!」

 

「んっ!?」

 

「私の“個性(巨大化)”は仕様よっ!!」

 

 

何故か対抗意識を燃やしたシンリンカムイが、しまいには小大を引き合いに出して張り合う。哀れヒーローの卵二名、下らない大人の喧嘩に巻き込まれていった。

 

 

「いい加減にしろ!馬鹿野郎共っ!」

 

「「あでっ!?」」

 

 

痺れを切らしたデステゴロがプロヒーロー二人の頭に拳骨を振り下ろした。ゴチン!と鈍い音が鳴り響き、二人の視界にチカチカと星が瞬いた。

 

 

「いい大人が餓鬼見てぇな喧嘩してんじゃねぇよ。将来の後輩の前で恥ずかしくねえのか!」

 

「「はい、すみませんでした……」」

 

「ブフォッ!?」

 

 

喧嘩両成敗。みっともない大人たちにお灸を据えて一件落着。

頭に出来たタンコブを撫でながら、シンクロした動きで頭を下げるヒーロー二名。

そのシュールすぎる光景に耳郎は盛大に噴き出して笑った。

 

 

───────────────

 

 

「おーっす。元気にしてるかー?田中のばーさん」

 

 

上質な黒のスーツを着込んだ強面の大柄な男がとある一軒家を訪ねる。

すると家の奥から御高齢の女性が杖をつきながら出て来た。

 

 

「おやおや、カインドの坊ちゃん。いつも済まないねえ」

「坊ちゃんは止めて下さいよ、ばーさん」

「何言ってんだい!坊ちゃんはワシの可愛い坊ちゃんよぅ」

「…敵わねぇなぁ。そだ、今日はウチにベンキョーしに来てる見習いが居るんだ。

お前らも挨拶しなっ!」

 

「「うっす!おはよーごさいます!!」」

 

「おーおー、元気が良いねえ」

 

「「うっす!ありがとーごさいます!!」」

 

 

強面の男…任侠ヒーロー『フォースカインド』。

彼が紹介すると、後ろに控えていた二人の学生が威勢の良い声で挨拶をかました。上半身裸で如何にも肉体派な体付きに、それぞれ赤と銀の髪の毛が映える少年達は1-Aの『切島鋭児郎』と1-Bの『鉄哲鐵轍』だ。

 

 

「それじゃあよろしくお願いするねぇ…」

「おう、邪魔させて貰うよ。お前らも着いてきな」

「うっす!」

「…あのっ!カインドさん、俺達は何をしにここへ?」

「マァ、来れば分かるさ」

 

 

ゆっくりと前を歩くお婆ちゃんの後をゾロゾロと歩く、厳つい男三人。辿り着いたのはその家の台所だった。

 

 

「…これは?」

「ゴミだな」

 

 

二人が目にしたのはゴミの詰まった大量の袋だった。

 

 

「ばーさん、コレで全部か?」

「そうだよぅ」

「うっし!じゃ、テキパキやるか!お前ら出番だぞ!」

 

 

そう言うと、フォースカインドは自信の誇りでも在る四本の腕にゴミを一つづつ持つとそれを切島と鉄哲に渡した。

 

 

「さぁ、表の車の荷台に積みな!」

「あの?これは…」

「さっさとしねぇかっ!」

「は、はいぃぃっ!?ほら!切島っ!やるぞっ!」

「お、おう…」

 

 

訳も分からぬままに二人はせっせと車にゴミを運び込む。

 

 

「じゃあ、ばーさん。今日はちとばかし短いが、お暇させて貰うぞ」

「おや?折角来てくれたんだ、茶の一杯でも飲んで行きなよぅ」

「そうしたいのはヤマヤマなんだがなぁ…。こいつらに少しでも多くの体験をさせてやりてぇんだ。茶は今度来たときにゆっくり呑ませてくれや」

「そうかい…残念だねぇ」

「そう、寂しがるなよ。近々、ウチの若い者に顔出させるから、それで大目に見てくれ」

「あぁ、待っておくれ。行く前にホレ、アメちゃん持って行き…」

「ありがとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あの、フォースカインドさん、質問イイっすか?」

「なんだ?」

「これって但のゴミ収集ですよね?」

 

 

最初の家以降、ヒーロー業務として二人はフォースカインドの後を付いて回り、同様に何軒かのお宅を訪問し、溜め込まれていたゴミを回収していた。

既にフォースカインドが運転する中型車の荷台はゴミが山を作り始めている。

 

 

「なんというか…ヒーローらしくねぇな」

「だな、どちらかと言えばゴミ収集業者みてぇだよな」

 

 

都市部での凶悪犯罪、荒事を経験するだろうと予想していた二人は現実とのギャップに困惑していた。

午前中は事務所の清掃と御茶汲み、礼節と作法を学び。午後からはこの清掃業務。

不満が洩れるのも仕方ないことだった。

 

 

「確かにお前らが想像したようなヒーロー活動とは違うだろうさ。しかし、これもウチのヒーロー業務の一環さ」

「…これのどこがですか?」

 

 

そんな学生達の反応にフォースカインドは苦笑交じりに答える。しかし、自分達のやっている行いは、立派なヒーロー活動として自信を持っていた。

 

 

「まず一点、「パトロールの一環」だな。こうしてゴミ収集をしながら住宅区を回ることは空き巣や引ったくりなどの抑止効果に繋がる。流石に犯罪者も白昼堂々ヒーローの目の前で悪事は働けんだろう。

もう一点は「ゴミ出し難民」の救済だな」

「ゴミ出し難民…?」

「あぁ、お前らにはあまり縁の無い話だろうな。今の言葉とさっきまで回った家々で何か気付いた事は有るか?」

「……皆、じーさんばーさんの家って事か?」

「独り暮らしの高齢者の家、だな。

数キロのゴミ一つ出すのだって、足腰弱いお年寄りにゃあ重労働だ。

同じ理由で買い物に不自由する「買い物難民」ってモンもあるが、こっちは外食やデリバリーサービス、コンビニエンスストアの浸透で幾らかマシではある。

メシっていう生命維持に直結する買い物に関しては、多少割高だろうが利用されてるが、ゴミ出しは今一つ浸透していない。極端な話、家がゴミ屋敷だろうが、早々に人は死にはしないからな。

そう言った事情もあって、独り暮らしの高齢者の家がゴミ屋敷化する事が社会問題にもなっている。不衛生な住宅環境は病気を起こす原因になるし、何より精神的な倦怠感や鬱を発症する。それが孤独死の原因にもなるんだ」

「………」

「後は…そうだな。顔を利かせる事でヒーローを頼りやすい環境を整えるって意味も有るな。『遠くの親戚より近くの他人』って言うように、何かあった際の相談窓口として立ち位置を確立していれば詐欺被害からも退けやすくなる」

「…俺、ばーちゃん大切にしようって思いました」

「是非そうしてやってくれ。

ヒーロー活動の根幹は社会奉仕だ。国民一人一人が健全に生きられるように俺達も努めないとな」

 

 

そう言ってフォースカインドは話を締めくくる。

ヒーローの仕事は実に多種多様である。花形である犯罪者との戦いや、メディアでの広告塔など、輝かしく目の眩むような華やかな舞台。その裏には地道な努力を重ねるヒーロー活動と言うのも存在するのだ。

 

 

「…さて、事務所に帰ったら道場開けるか…。お前らもバッチリしごいてやるよ!プロヒーローの実力ってのもしっかり肌で感じてくれ」

 

「「うっす!お願いしますっ!!」」

 

 

車は事務所へと帰る。

 

今まで知らなかったヒーローの一面を知り、又一つヒーローの在り方を考える学生達だった。

 

 

───────────────

 

 

右足が急速に冷却され、床が氷結していく。氷は先へ先へと伸びていき、1本の道が作られる。

左手を後ろに翳すと、そこから炎が噴き出す。高熱・高火力に噴き出した炎の熱風は推進力になり、体を前に押し出す。すると、氷のレールをなぞるように肉体は移動を始めた。

高火力の炎を保持しながら、次々と氷を生成する。その道は単なる直線では無く、時に大きく曲がり、時に縦に大きな弧を描き宙を一回転する。

 

そうやって慣らし運転をしていると、機械の電子音が鳴り、突如空間の至る所に円形の標的が発生した。

機動力を保持したまま、迎撃に入る。右の掌に拳大の氷の礫を形成し、それを弾丸に見立て投擲する。球は的を穿ち叩き割る。

前方上下左右、不意打ちのように背後に現れる的を時には直接素手で叩き割り、咄嗟の判断で氷塊の弾丸と火炎の放熱による射撃で破壊する。

 

 

『…テスト終了。ターゲット破壊率72%、タイム3:23、ランクC』

 

 

全ての的を破壊する前に、時間制限を超えて標的が消えた。

電子アナウンスがトレーニングコースのリザルトを告げるのを聞くと、氷の橋を渡り空中を滑走していた彼は、近くの壁に寄り、壁面に取り付くと素早く氷を生成する。

氷が丁度、ボルダリングをするためのホールドの役割を果たし、休むための足場を作る。

彼はテストの緊張から解放され、息を吐くと、頬を伝う汗を拭った。

 

 

「…ご苦労だったな。物間くん」

「う~ん残念…御子息様には負けてしまいました。まぁ、これ程扱いにくい“個性”でこれなら上々ですね」

「アレはいずれ、俺以上のヒーローになるべく生まれてきた男だ。これぐらい熟して貰わないと困る」

「…御子息様にも厳しい御仁のようで……」

 

 

『エンデヴァー事務所』。それに併設されたトレーニングジムの一室で行われていたのは「小手調べ」だった。

これは実際にこの事務所に内定した者が受ける実力テストで、機動力・攻撃精度・状況判断力等の能力を確認するための物だった。

それを『物間寧人』は無事それを合格したようだった。しかしこの結果は、後方支援系のサポート職のプロが出すレベルという、かなり低い合格ラインであった。

そんな彼に事務所の主、『エンデヴァー』は労いの言葉を掛けた。

 

 

「して、一つ質問してもいいか?」

「どうぞ?」

「扱いにくいとはどういう意味かね?」

 

 

下に降りてきた物間に、エンデヴァーは質問を投げかける。彼の愚息、『轟焦凍』の“個性”についてだ。

物間が“コピー”していたのは“半冷半燃”。一つの“個性”で氷と炎の二つの性質を併せ持つ規格外の性能だった。

 

 

「氷と炎…その性質が違いすぎるんですよ。正反対と言っても良い…」

「…ほう?」

「氷と炎の作動へのアプローチ…。

“放熱”“湯気”“吸熱”“気化冷凍”“自然発火”“水蒸気”“霜”“保温”“擦過”“炎焦”“蛍火”“霰”“対気流”“冬眠”“蒸留”“火鉢”“間欠泉”“過冷却”…。僕がかつて経験した“個性”…その中でも「体温のコントロールに関連する物」に類似しています…。

でもって“半冷半燃”の場合、氷は体温を下げる、炎は体温を上げる…といったイメージを伴います。実の体温とは関係なくです。

同じ“個性”でありながら、その挙動は正に反対。これを並列運用するのは、右手と左手で全く違う絵を書けと言われているような物です。しかも実践戦闘ともなれば、移動に咄嗟の判断、防御に攻撃選択、被害者の把握…と現場の目まぐるしい状況変化に対応するには複雑過ぎる“個性”です。使い熟すには相当な修練が必要でしょうね…」

 

 

物間の“個性(コピー)”は“個性”を取得しても、その使用方法と熟練度は一切取得できない。

たった5分。それが物間に許される修練時間。実践を想定するなら、その時間は更に短くなる。

 

その欠点を埋めるために物間が積み上げたものは経験だった。ひたすら他者の“個性”を借り、それの練習。そして反芻。

繰り返し、繰り返し、ありとあらゆる“個性”を研究し続けた。その中で気付いたとあるヒント、類似した性質の“個性”は、ある程度までなら応用が利く。つまり初見の“個性”であっても、性質が分かれば最低限の動作だけなら出来た。

それに気付いてからは早かった。獲得した“個性”の挙動を確認してからは、調整、調整、調整。お陰で実践でも遜色ないレベルの運用を実現させることに成功した。

物間が蓄積させてきた“個性”の研究情報。それこそが物間の強味でも在る。

 

が、しかし、ここにきて、それは新たな一面を見せる。

 

 

『他者への“個性”の教与』

誰よりも“個性”を学び・調べ・体感する“個性”。

他者よりも他者の“個性”を知る“個性”。

誰よりも他者の“個性”に寄り添う“個性”。

“個性”の扱いを教える先生としては、この上なく貴重な“個性(ちから)”だった。

 

 

(これは…予想以上だ…)

 

 

“個性”の使い方を正しく導けると言うのは、新しい可能性を広げる事になる。

 

 

『“個性”コンプレックス』

“個性”が日常に浸透した超人社会。自然と他の問題も生まれる。“強個性”“弱個性”“無個性”…“個性”の有無は愚か、その強弱、果てには凶悪な“個性”故に迫害を受けるケースさえ存在する。

 

そんな“個性”に悩む人々に寄り添う事が出来るのが、物間寧人と言う少年だった。

 

 

「しかし、それも僕が1時間程使うだけで最低限の操作が掌握出来てしまう物ですね。

むしろ御子息様は自分の“個性”なのに操作が点で駄目ですね。出力ばかりに目が行って、操作性がお粗末の一言に尽きます。自分の“個性”の筈なのにおかしいなぁ?今まで何をやって来たんでしょう?

事情がどうあれ、左を今まで使ってこなかったのは痛手としか言いようがありません。氷の操作に引き摺られすぎて、炎が丸でコントロール出来てない。

父親としてキッチリ教育するべきでは無かったのでしょうか?」

 

「…………」

 

 

しかし、その可能性を物間のアレの性格が駄目にする。こんな彼を悩む人々の前に出そう物なら、ボロクソにこき下ろして泣かすか怒らせる未来しか見えない。

 

それでも物間の言い分は強ち間違いでは無い。事実、轟は物間に劣っている面が有る。

先の実力テストで轟は氷によるゴリ押しで見事にB+の判定をもぎ取った。

対して物間の氷と炎の最大出力は、彼自身が耐冷耐熱性能で劣るために、轟の半分にも満たない。そこで二つの性質を並列運用し、現段階で彼が叩き出せる“半冷半燃”のフルスペックで得た結果だったのだ。

 

 

「…チッ」

 

 

“個性”の操作能力と言う点に関して言えば物間は轟に劣ることは無い。寧ろ炎の操作能力を加味すれば、上回る可能性だってある。

こうも“半冷半燃(自分の力)”を他人に巧く扱われては面白くない。轟は軽く舌打ちをして、テストルームから出て行った。

 

 

「…あらあら、ヘソを曲げてしまった」

「いや、アレはあのままでいいんだ」

「…?」

 

 

()と向き合い始めた轟焦凍であれば、自分より自分の“個性”を巧みに操る存在は、良い刺激になる。

対抗意識が芽生え、“個性”の訓練に更なる磨きが掛かることだろう。

 

 

「しかし、時間も限られている。物間くん、君も準備をしたまえ」

「準備…とは?」

「俺達はこれから保須へと向かう」

「保須…?東京の保須市?どうしてまた…」

 

 

用件のみを伝えて仕事に戻ろうとしたエンデヴァーを物間は呼び止める。すると彼は物間を見て不敵に笑ってこう告げた。

 

 

「現在保須にはあの『英雄殺し』が潜伏している。今までの調査から、必ず彼は同じエリアで複数回の事件を起こす…」

「…それじゃあ」

「あぁ、『英雄殺し』を捕まえる。物間くん、是非トップヒーローの仕事をその目に焼き付けてくれ」

 

 

そう言うと今度こそエンデヴァーはこの場を去って行った。

 

 

「………とんでもない所に来ちゃったな」

 

 

物間は自分の頬を掻きながらそう呟いた。

 

傍目に判るほどの親子の不仲。

加えて、事件の渦中への遠征。

 

今更になって大入の忠告の意味を知り、少しだけ後悔した。

 

 

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