転生者「転生したんでヒーロー目指します」   作:セイントス

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75:交渉・契約・迷走

 

 

「…………ハァ……殺し損ねた」

 

 

一人の男がビルの屋上から眼下を見下ろす。視線の先では、一人のヒーローが救急車に運び込まれ、病院へと向け、走りだした。

 

男の名は『ステイン』。

「ヒーロー殺し」の異名で世間に知れ渡り、これまで17名のヒーローを殺害、23名ものヒーローを再起不能にした。重軽傷の被害者を加えたならば、更に多くの人々が彼の犠牲になった。

神出鬼没に様々な街を渡り、これまで7ヶ所の街で脅威を振りまいてきた。

 

 

「腕の立つ奴が居るようだな…」

 

 

彼がこれまでに成した悪行の数々。当然それ程に名も知られた。

 

──ステインがこの街に現れた。

 

その情報だけでヒーロー達の動きは早く、周辺警備は強化され、ステインを捕らえようと多くのヒーローが行動を始めた。

 

そんな中で見つけたターゲットの一人、慎重に事を運んで、絶好の機会を見つけたと思った。

しかし、姿の見えないヒーローに横やりを入れられ、トドメを刺すこと叶わずに、撤退を余儀なくされた。

 

 

「苦しくなるな…」

 

 

恐ろしい程に遠隔操作に優れた相手だった。

火力は大した事は無い、喰らっても精々軽い火傷程度だ。しかし、本当に恐いのはその手数と精密性だった。

入り組んだ路地裏を縫うように無数の火炎球が殺到し、正確にこちらを追尾していた。十中八九「認識している」動きだった。彼の予想であるが、あの時点で既に援軍も呼ばれていただろう。

あの場で標的のヒーローを仕留める事は出来た。だが、あれで深手を負ってしまえば彼の悲願を叶えられなくなる。

 

 

「…ハァ…しかしまだだ。まだ、この街には犠牲が要る…」

 

 

彼は快楽のために殺人を犯しているわけでも、金のために罪を犯しているわけではない。

彼が殺人を犯すのは矜持のため…。

 

 

──『英雄回帰』

 

 

“英雄”は偉業を成し遂げたものに与えられる“称号”であるべきだ。

その信念の基に彼はヒーローを殺す。贋物のヒーローを殺し、真正のヒーローを選定する。世間に警鐘を鳴らし、ボンクラ共の目を醒まさせる。

 

東京都保須市。この街をターゲットにしたのは、ここに拠点を構えるヒーロー達のレベルの低さ故である。

安全平和な治安の良い街。裏を返せば、「ぬるま湯の環境」。英雄を騙り、(たる)んだ働きしか出来ない無能共の溜まり場だ。

 

 

「お久しぶりです。ステイン」

 

「……ハァ、また貴様か」

 

 

「また面倒な奴が来た」と内心悪態をついて、ステインは声の主を一瞥する。

そこに居たのはバーテンダー姿の男。全身を濃厚な漆黒の靄が覆い、その眼は蝋燭の明かりの様にユラユラと揺れていた。

その男の名を『黒霧(くろぎり)』と言う。

 

 

「再度、参りました。どうか今回こそ、お話を聞いては頂けないでしょうか?」

 

 

この黒霧と言う男。一月程前、世間を揺るがした『ヴィラン連合』に属する者らしい。

ステインが保須市にて活動を始めた当初から、数回、同じように勧誘を受けていた。

 

 

「失せろ。そんな気は無い」

 

 

ステインは黒霧の嘆願を一蹴する。彼の願いと連合は一切関係ないのだ。そんなものに構ってる暇は無い。

 

 

「……ですが、そちら(・・・)は如何しますか?」

 

 

そう言って黒霧が指差したのは、宙へ浮かぶ不気味な鬼火だった。

取り敢えずといった様子でステインは、ナイフを一本鬼火に向かって投げる。炎の中心を射抜くものの、ユラリと揺れるだけで意味を成さなかった。

そして、先程彼を襲った火炎球と火の色が異なることに気付く。恐らくマーキング用の鬼火なのだろう。

 

 

(自由に泳がされている…)

 

 

恐らくは隠れ家が判明したならば、真っ先にそこを押さえるつもりなのだろう。このまま帰るわけにはいかなかった。

 

 

「もし宜しかったら、そちらを振り切るお手伝いを致しましょうか?」

 

 

見かねた黒霧はある提案をし、ステインの反応を待った。

黒霧の“個性”は全身の黒い靄を使い、空間と空間を繋ぎ合わせて、長距離を一瞬で移動する希少価値の非常に高い“ワープゲート”の能力だった。

 

 

「……その代わりに話を聞け…と、そう言うことか…」

「えぇ、仰る通りです」

 

 

ここでステインは一度考える。

 

自力でこの追跡を振り切る事は可能か?

有効射程がどれ程か不明。

包囲網がどれ程形成されたかは不明。

 

…いっそ、一度街の外まで出てしまうのも有りか?

 

 

「……ハァ、分かった。…話は聞こう。だが、こちらからも条件がある」

「何でしょう?」

「俺も補給が要る。…少し寄り道をさせてもらう」

 

 

やり手が居るならば、念には念を入れるべきだ。持ち込んだ食料も少なくなってきているし、装備も傷み出している。いずれにしても彼には補給が必要だった。

 

 

「えぇ、お安い御用です。差し当たって、この街を一度出ましょうか?」

「それでいい」

 

 

ステインの返答に満足そうに頷くと、黒霧は全身の靄を拡大し、ゲートを開いた。

 

 

「………ハァ…待っていろよ。直ぐに戻ってきてやるからな」

 

 

保須市のヒーロー達に向け静かに宣告すると、英雄殺しステインは靄の奥へと消えていった……。

 

 

───────────────

 

 

「…………撒かれましたか…」

「…?レイスさん、どうかしましたか?」

「ん?いいえ、何でもありませんよ」

 

 

あの後、被害に合った女性ヒーローは到着した救急車で搬送された。

チジュさんはそのまま病院に付き添い。レイスさんから聞いた話だが、彼女医師免許も取得しているらしい。前世が軍医なんだとか。

幸い、到着が早かったことと、想定より多かった救急道具が功を奏したらしく、「何とかなりそうだ」とのこと。

 

「今度は生理食塩水も用意しときなさい。最悪、輸血の代用品として使えるわ」と去り際に助言してくれた彼女の言葉には、自分の不甲斐なさを痛感させられた。

 

「君は良くやってますよ…。寧ろ、頑張りました」とレイスさんは慰めてくれた。

しかし、あれは道具を託しただけだ。俺自身は何も出来なかった。

…それよりレイスさん、頭ポンポンなでなでは男同士でやるモンじゃ無いです。

 

 

「さてっ!じゃあ、情報交換といこうか!…って言っても、こちらから尋ねるのが主なんだけどね?」

 

 

タハハ…と困ったような笑顔で語りかけてくる青いタイツスーツ姿のヒーロー。ノーマルヒーロー『マニュアル』さん。

突出した能力は持たないものの、そのコミュニケーション能力の高さと連携の巧さ、どんな相手とでもチームワークを発揮できるバランスの良さが売り。

大規模戦闘などではアシストに回ることが多いせいか、功績は少なく、弱小事務所ではあるものの、人柄も良く隠れファンも多いヒーローである。(デク君調べ)

 

 

「…初めまして。雄英高校ヒーロー科1年『飯田天哉』。ヒーロー名……『テンヤ』…です」

 

 

歯切れの悪い自己紹介をしたのは1-A委員長の飯田君。

白を基調にしたF1のレースカーの様なデザインのアーマータイプコスチュームは、彼自身の四角張った印象も良く表している。

 

 

「親切にありがとうございます。『ネイチャーカンパニー』所属の相棒『レイステイカー』です」

「雄英高校ヒーロー科『大入福朗』。コードネーム『ジャックサッカー』です」

「…あぁっ!体育祭のっ!?見てたよっ、凄く強かったね君!」

「まぁ、飯田君とは直に殴り合った仲でもありますしね」

 

 

改めて自己紹介すると、ハッと思い出したように驚くマニュアルさん。

恐るべし全国区。俺の存在が、名乗れば思い出すレベルを保持しているらしい。

 

 

「レイステイカーさん、質問宜しいでしょうか?」

「何ですか、テンヤさん?」

「ヒーロー殺し…どうして、犯人がステインだと?」

 

 

飯田君が待っていられないとばかりに、真剣な表情で問いかけた。

彼にとっては犯人がステインかどうかは非常に重要な内容だった。

 

 

「それはですね…私の追跡が振り切られた。この事実自体が、犯人が相当の手練れであると言う事を証明しているからです」

 

 

レイスさんの“個性”はパトロール中に軽く説明を受けたが、転生者らしく中々にヤバイ能力だった。

 

操霊ヒーロー『レイステイカー』

“個性:ゴースト”

幽霊っぽい火の玉を操る。鬼火による射撃能力、火を結び合わせる事で作られる結界、活力を感知する索敵性能、憑依による妨害工作…と攻防に索敵・阻害と使用幅のかなり広い力。

 

あの時レイスさんは、800m先の入り組んだ路地裏で起きた惨劇に割り込むだけの長射程・操作性能を秘めている、と暗に言っている。

 

 

「途中までは追尾出来ていたのですが…。急に反応が消えてしまいました。追跡では負けない自信が有ったんですが、悔しいです」

「そっか…じゃあ、現場周辺は如何だった?」

 

 

そう言ってマニュアルさんは犯行現場の路地裏に視線を向ける。現在路地裏の入り口には黄色いテープが張られ、侵入禁止になっていた。救急車に合わせて警察官も到着し、手早い動きで現場を封鎖したためだ。

 

ヒーローの職務は多岐に渡る。日頃の治安維持に犯人逮捕、状況次第では先立っての救命活動に応急処置など。更に、感知能力に優れたヒーローは警察側からの要請に応じて捜査協力をする場合もある。

 

 

「それならジャックくんの方が…。彼はチジュと一緒に処置に当たった第一発見者ですから」

 

 

しかし、この場に居合わせた大入と飯田はヒーローの見習いであり、学生であり、一般人だ。当然ヒーロー資格を持たないため、捜査に参加することは認められなかった。更に言うならヒーローに原則、逮捕権や捜査権は無い。警察側から要請を受けて初めて参加できるのだ。

 

しかし、仮にヒーローであろうと一般人の義務と変わらない部分もある。この後、俺達は警察からの事情聴取に応じることになる。

二名のヒーローは彼らの研修先の責任者に当たるため、付き添いすることになる。

 

 

「大入くん!君は犯人を…ヒーロー殺しを見たのかね!?」

「いや、残念ながら…。

俺に分かるのは、争った形跡が殆ど無い事と、傷口が刃物の様な物による斬擊って事だけ…。恐らくヒーローの方は、不意打ちから一方的にやられたんだろう」

「…そうか……」

 

 

警察が現場検証すれば分かることだが、現場周辺な痕跡は、レイスさんによるモノと思われる周囲の小さな焦げ痕だけだった。

被害者の女性ヒーローの怪我は腕に小さな切り傷と、腹部に大きな横一線の切り傷、で傷口は「引き裂く」と言うよりは「斬る」と表現した方が適した切断面…のように思われた。

 

 

「……お待たせしました。署まで同行をお願い出来ますか?」

 

 

そうして話していると一人の警官がこちらに声を掛けてくる。車の手配が済んだらしい。

 

 

「わかりました。ほら、ジャックくん行きましょう」

「はい」

 

 

レイスさんに促されて、俺たちはパトカーへと乗り込む。

 

ふと、後ろを振り向くとマニュアルさんが飯田君を呼び止めて、何かを話しているようだった。

 

 

────────────────

 

 

警察側からの取り調べが終わり、拠点となるネイチャーカンパニーへと帰る頃には、すっかり日も暮れていた。

社内に設けられたシャワールームで体の汚れを落とし、社員食堂で軽い食事を済ませる。今日はこのまま社内に設けられた仮眠室を間借りして宿泊することになる。

…それにしても、なんで東京には自動販売機にマックスコーヒーが無いんだ、ちくしょー。頑張った自分への一杯が…。持ち込んだ1ダースじゃ足りなかったか?

 

 

「お疲れ様です…なにやら大変だったご様子ですね (。•́ - •̀。)」

「…あぁ、全くだ」

 

 

ヒーロー課ラウンジにあるテーブルに、僕ロリと対面するように座る。

今日起きた事件の経緯を説明すると、僕ロリは心配そうな面持ちで様子を窺ってきた。

 

 

「でも、まあ、被害者も無事だったらしいし、万事安心って感じかな?」

 

 

取り調べが終わる頃には、あの女性ヒーローの施術も完了した。迅速な応急処置が幸いして、重症ではあるものの命に別状も無く、リハビリが必要ではあるものの後遺症のリスクも無さそうだ…との見立てらしい。

職場体験が終了する前に一度お見舞いくらいした方が良いだろうか?明日、レイスさんに相談してみよう…。

 

 

「わっ、それは良いことです (•́ε•̀;ก) 」

「不幸中の幸いと言う外無いけど…確かにそうだわな」

 

 

そう言いながら先程購入してきた普通の缶コーヒーを口にする。…やっぱり甘みが足りない。

 

ヒーローの仕事は常に危険がつきまとう。

自然災害、事故、敵との戦闘…それらの命を落とすリスクを孕んだ現場に身を置いているためだ。当然のように、年に数名のヒーローが重症、または殉職する過酷な職業でもある。

それでもヒーローへの憧れは凄まじく、ヒーロー人口は年々緩やかに増加している。

 

 

「ひとまず、こっちはそんな感じだ。

…それで?そっちの修業はどうだった?」

 

 

僕ロリはあの後もみっちりと波紋の修得に向けてトレーニングをしたらしい。

 

 

「最低限、波紋を生み出すことに成功しましたっ!…って言ってもまだまだ微弱なものですが (*˘ーωー˘*)」

「本当なら月単位の修業を積んで初めて出来る物なんだから充分凄いだろ」

「む~…僕の能力の筈なのに、何故かおにーさんの方が詳しい口振りです ( ー̀ωー́ )」

「それはジョジョを聖典(バイブル)にしなかったせいだな。あの独特な世界観は見ていて飽きない物語だったのに」

「ば…ばいぶる… (´⊙ω⊙`)」

 

 

懐かしいなぁ。もう読めないんだよなぁ…。

 

ふと、哀愁を感じた。

これまでの人生を思い返すと嫌なことも当たり前のように多かったが、その中にも楽しい思い出だって残っている。

前世で読んだ漫画1つの事でさえ、酷く懐かしく思えた。

 

 

「…そう言えば…おにーさんも『転生者』なんですよね (๑-﹏-๑)?」

「………まぁ…な…。にしても、お前もなんて驚いたわ」

「ムッ!その言葉、そっくりお返ししますっ

(๑ơ˘᎔ ơ)」

 

 

職場体験初日、あまりにも飛ばしすぎた。

 

この世界に連れてきた神との再会。

身近にいた同じ境遇の者。

殺人鬼の痕跡との遭遇。

 

ぶっちゃけお腹一杯です…。このまま寝てしまいたい。

 

 

「…ねぇ、聞いてもいい?」

「何?」

「貴方はこの世界を知っているのよね?…その…原作知識(・・・・)として…」

「っ!!」

 

 

思わず息を呑んでしまった。

 

チジュさんは原作知識持ちの存在はレアケースと言っていた。つまり、この後の展開を知るのは俺一人しか居ない…筈と考えていた。

しかし、僕ロリはその予想を裏切って一足飛びに核心に触れてきた。

 

 

「…その反応…。その通りなのね」

「……何で知って……って、ショタ神か。言うとしたらアレしかないか」

 

 

考えるまでも無い情報の発信源に頭を掻く。無闇に話すなと忠告しときながらネタバレしてんじゃねぇか…。

 

 

「…ねえ、教えて。飯田くんは大丈夫なの?

ずっと気に掛かっていたわ。彼の兄さんが(ヴィラン)にやられてから、時折張り詰めた様な空気を纏うようになった。

この保須市…あの(ヴィラン)、ヒーロー殺しが現れた場所。もしや、彼は犯人を追ってきたんじゃないかって…」

 

 

やはり、見る人が見れば飯田君の状態に気付いてしまう。それ程までに彼は追い詰められていた。

元々彼は融通の効く性格では無い。だからこそ、自身の考えから抜け出し他者の意見を受け入れる事が苦手である。

 

今回はそれが悪い方向に働いていた。

 

 

「……分かった。正直に話す」

「いいのかしら?」

「元々バラしたショタ神が悪い、知らん。でも、覚悟しなよ…」

「……はい」

「今日から三日後の夜。飯田天哉はヒーロー殺し『ステイン』と相対する」

「っ!!」

「しかし、敢え無く返り討ち。

トドメが刺されるその瞬間、そこに奇跡的に緑谷出久が乱入する」

「ちょ、ちょっと待ってっ!緑谷くん!?何でよ!?」

「……偶然なんだよ。彼の研修先、山梨甲府から遠征で東京渋谷へと向かう最中、中継の保須市に辿り着いたタイミングで大規模なテロが発生したんだ。

幸い、ステイン捕縛のためにNo.2ヒーローのエンデヴァーと轟焦凍もこの街に来るため、無事に事態は終息する…」

 

 

席を立つと、飲み干した空き缶をゴミ箱に放り投げる。

 

 

「そう…。それじゃあ一安心ね…」

 

 

僕ロリは俺の話を聞いて胸をなで下ろした。

けど…

 

 

「それはどうだろう?」

 

 

俺はそれを否定する。

 

 

「…え?」

「この世界ではまだ未来の話だ。今話した筋書きと同じになるとは限らない」

「…どうして?」

「この世界には大入福朗(おれ)東雲黄昏(おまえ)が居る。俺の知る物語には存在しない登場人物だ」

 

 

俺の存在は確実に物語に影響を与えている。

 

 

「なぁ、僕ロリ…俺からも聞いて良いか?」

「な…何…」

「ヴィラン連合襲撃事件…。僕ロリは何をしていた?」

「どうしてまた?」

「いいから」

「………まぁ、いいわ…。

えっと、最初全員でUSJのゲートに集合したの。その時の授業…三人体制の予定だったのだけれど、オールマイト先生が遅れてくることになって、急遽二人の先生で進行することになったわ」

「そこに連合が襲撃してきたんだな?」

「…知ってるんじゃない。

ええ、そうです。『13号』先生の説明が終わった直後、正面のパークエリアに黒い靄が出てきて、中からぞろぞろと敵が現れたの。

そして、黒い靄はこっちに来て…皆を散り散りに分散したわ」

「僕ロリは何処に飛ばされたんだ?」

「土砂災害ゾーン。危うく氷結を開幕ぶっぱした轟くんに巻き込まれるところだったわ」

「…それは災難。その後は皆で中央に戻ってきたのか?」

「いえ、直ぐには…。轟くんが尋問してたので時間が掛かったの。

その後、パークエリアに辿り着くと遅れてきたオールマイト先生が黒くてデッカイ改人…『脳無』と戦っていたの」

「…戦い?殴り合ってたのか?」

「えぇ、それこそ『オラオラっ!?』…って感じでね。最後にはオールマイト先生が脳無を星にして終わりよ。

でも、その一瞬の隙を突いて黒い靄がオールマイト先生に奇襲を掛けてきたの。オールマイト先生の死角に繋いだワープゲートから手がいっぱい着いた人物…主犯格ね。ともかくそれが飛び出してきて…それを緑谷くんが間一髪で防いで見せたの」

「……」

「その後、直ぐに他の先生達がやって来て、首謀者達は逃げていった」

「……実はさ。その先生達が駆けつけたのって俺が理由なんだよな」

「っ!?どういうことっ!?」

「午後の授業の直後に俺はオールマイトと校長先生の所に行って、注意を促したんだよ。

内容は伏せさせて貰うけど、それの甲斐あって先生達の動きは原作より前倒しになっている」

「じゃあ、介入に寄っては事態が好転する?」

「…かも知れないって事だな。反対に悪化する可能性だって有る」

 

 

現に雄英体育祭で轟にイレギュラーが発生していた。

恐らく、オールマイトが早く登場したせいで轟君がオールマイトを助ける場面が省略。結果としてデクくんと轟君の確執の定義付けが甘くなったのだ。

だからこそ、緑谷vs轟で同じ筋書きをなぞりながらも最後の最後にズレた。

 

本当なら、介入しない方が良いのかも知れない。だって何もしなければデクくんは高い確率で原作の道筋を辿って、そのまま最高のヒーローになる。

 

しかし…。

 

 

「…俺は助けに行くつもりだよ。

知り合って、言葉を交わし、仲良くなった人が危ない目に遭っていると知って、黙っていられるわけが無いじゃ無いか」

 

 

少なくともこのままだと飯田君が死にかける。間違いが起きれば死ぬ。そんなの嫌だ、怖い。

 

 

「だから協力してくれないか?」

「協力?」

「緑谷君がステインと相対すると救援信号として、GPSの位置情報を一斉に送信してくる。流石に俺もそこまで暗記してなかったからな…その位置情報を教えてくれればいい。後は俺がやるから」

 

 

少なくとも俺が参戦して、デク君の復帰が間に合えば即時撤退・援軍要請が可能だ。最悪ステ様を取り逃がすかも知れないが…、元々のステ様の信念はヴィラン連合と合致しない。ステ様がヴィラン連合に残り続けるならばステ様信奉者による内部分裂も見込める。メリットとデメリットはトントンだろう。

 

 

「………分った。でも、条件があるわ。私も連れて行きなさい」

「…え」

「私だって飯田くんや緑谷くんのお友達。私だって助けたいもの」

「念押しに言うけどステインは凶悪な殺人鬼だ。死傷者40人出した極悪人の思想家だ。………それでも来る?」

「もちろん」

 

 

僕ロリの目を見る。真剣な眼差し。梃子でも動かないと言った様子だった。

 

 

「……はぁ…わかった。でもこれだけは約束して。戦闘は絶対回避。僕ロリは怪我人の運搬役だ。僕ロリの“個性”なら二三人まとめて運べるだろう?

殿は俺が務める」

「っ!?それ大丈夫なのっ!相手は凶悪犯罪者よ!プロが何人も殺されているわっ!!」

「大丈夫、絶対にステインは引き止める。後は追わせない、絶対にだ。秘策だって有る」

「……わかったわ。そこまで言うならそれでいい」

「決まりだな…それじゃあ、よろしく」

 

 

そう言って俺は僕ロリに手を伸ばす。それを見た彼女は俺の手を握り返した。

 

 

「よろしくお願いするわ」

 

 

「…うっし!差し当たっては俺たちのパワーアップからだな!ショタ神がお膳立てしてんだ。思いっ切り乗っかってやろう!」

「……そだ!おにーさん!いいですか (*´˘`*)?」

「なんだ?」

「ジョジョについて詳しく教えて下さい ☆٩(。•ω<。)و」

「お安い御用だ、というか寧ろ早く修得しろ。“波紋法”は冗談抜きで捗るから」

 

 

ここに転生者チームが秘かに結成された。この縁は後に控える大災害に備える心強い味方になるだろう。釈然としないがショタ神には感謝しないとな……本当に釈然としないが。

 

しかし、ひとまずは修業だ。この“もう一つの個性”は俺に足りない力を補える…筈。

 

残り時間も少ない。詰めるだけ詰めなければ…。

 

 

──────────────

 

 

「…いやーごめんね、すっかり夜遅くなっちゃって。やっぱり警察の取り調べは時間が掛かっちゃうよね…」

「いえ、警察に協力するのはヒーローの勤めですから」

 

 

ノーマルヒーロー『マニュアル』のヒーロー事務所。そこの事務所に、主たるマニュアルと研修生の飯田は居た。

警察の事情聴取を受けた後、やり残していたパトロールを完遂し。大分遅れた時間に、彼等の拠点となる事務所に返ってきた。

腰を下ろして休む飯田にマニュアルが茶を出すと、今度は自分のデスクに戻り、パソコンを立ち上げ、今日のパトロールのレポートを作成していく。同時に今日見つけた広告塔の老朽化を報告書にまとめて用意している。

 

 

「ねぇ、聞きにくいんだけどさ……」

 

 

突然マニュアルが作業の手を止めて話し掛けてくる。

そして核心に切り込む。

 

 

「君、ヒーロー殺しを追ってるんだろ?」

 

 

その言葉を聞いた瞬間に飯田の目の色が変わった。

その様子を見たマニュアルは内心やっぱりかと得心がいったようだった。

 

 

「それは…」

「最初はインゲンニウムの弟さんが来るなんて意外だと思ったんだ。

正直、他の有名事務所からもオファーが有っただろうし、半ばダメ元って気持ちもあったんだ…。

あっ、いや、勿論、職場体験にウチを選んでくれたら嬉しいなって気持ちもあったんだぜ?真面目そうな雰囲気の子だったし、良いヒーローになれると思ったんだ」

 

 

うっかりと滑らせた失言に、慌てて弁明をする。

飯田はその様子を但じっと見ていた。

無言の圧力にたじろぎそうになるものの、グッとこらえた。

 

 

「たださ、やっぱりウチに来た理由ってのが思い付かなくてさ…。そんな時に昼間のアレだろ?」

 

 

ヒーロー殺しの犯行現場の目撃。幸か不幸かステインは去った後だった。しかし、あの場にまだステインが居たらどうなっていただろうか。

 

 

「だだ…ヒーローとして、これだけは言っておかなきゃならない」

 

 

席を立つとマニュアルは飯田のそばに歩み寄る。そして真剣な表情を作り、言い聞かせるように話し出した。

 

 

「私怨で動くのはやめた方がいいよ」

「…」

「我々ヒーローに逮捕や刑罰を行使する権限はない。

“個性”の規制化を進めていった中で、“個性”使用を許されるわけだからヒーロー活動が私刑となってはいけない。もし、そう捉えられればソレはとても重い罪となる」

 

 

実際に過激な思想を持ったヒーローが免許剥奪されるケースと言う物が、ごく僅かだが確かに存在する。

ヒーローは傷つける者では無く、守る者なのだ。

 

 

「確かにヒーロー殺しに罪が無いわけじゃ無い。…むしろ大量の人を手に掛けているんだ。絶対に裁かれるべきだ。

でも、君真面目そうだからさ…。その視野がこう…ガーッとなっちゃってそうで…案じた」

 

 

 

「……ご忠告感謝します」

 

 

 

「……そっか、ならいいんだ。

…よし!ちゃっちゃと仕事終わらせて晩飯にしようかっ!」

 

 

話を終えるとマニュアルは肩の凝りを解してデスクワークに向かう。二人だけのオフィスに静かにキーボードのタイピングをするカタカタとした音が流れた。

この忠告が飯田へのブレーキになることを願って仕事に専念する。

 

 

(マニュアルさんの言うことは正しい。ヒーローは治安を守るためにあるべきだ。“個性”は危険であるからこそ、正しく使うべきだ…)

 

 

ふと、脳裏を過ぎる…。

 

病院の集中治療室。消毒液の香り。様々な医療機器や生命維持装置の稼動音。

 

手術台に横たわる一人の男性。彼の兄。虚ろな瞳。溜め込み、こぼれ落ちた涙。

 

耳に入り込む声。彼の声。無力感、悲愴、嘆き、無念。それらの篭もった謝罪の言葉。

 

胸を抉る。尊敬する兄の想像も出来なかった光景。憧れを踏みにじられるようだった。

 

 

(しかし…じゃあ、しかし……!!)

 

 

頭では分かっている。

しかし、心の問題なのだ。

理性以上に、本能が訴えているのだ。

 

 

(この気持ちを──!どうしたらいい!?)

 

 

彼の心は、今も尚、グラグラと煮えたぎっていた。

 

 

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