目の前に、大きな大きな拳がありました。あの拳はあまりに大きすぎて、最初は拳であることさえ分かりませんでした。
その拳が、空から逃げる人々に向けて降り注ぐ光景を見て、僕は恐くなりました。
「駄目です∑(✘Д✘๑ )」
また、死んでしまう。誰かが死んでしまう。僕はそれが怖かったのです。
なんとかしないと、なんとかしないと!
咄嗟に前に出て、僕の“個性”で迎え打とうと思いました。
全力を掛けて打ち出した僕の拳は、余りに呆気なく負けてしまいました。
その事実にショックを受けても時間は待ってくれません。ロボットの拳はもう、目の前でした。
「危ない!!」
「ちぃっ!馬鹿野郎がぁ!」
そこに映りこむ一つの影。さっきまで一緒に戦っていたカクさんでした。カクさんは体を鋼に変え、あの拳を受け止めようとしていました。
それと同時に見えない力で僕は引っ張られます。おそらくスケさんでしょう。透明なスケさんは足も速いらしく、あっという間に僕を運んで行きます。
でも、間に合いませんでした。ロボットの拳は僕達三人を巻き添えにして地面にクレーターを作りました。飛んだ瓦礫の破片が肌を裂いて、とても痛いです。
「お二人共に大丈夫ですか: ( ºΔº ;):!?」
二人からは返事がありません。二人ともボロボロの傷だらけで、動くこともままなりません。
ロボットはそんな僕達に再び拳を振り落としました。
次の瞬間、一人の男の子が飛び出してきました。なんと、その子はロボットの拳を正面から殴り返してしまったのです!しかし、男の子も無事ではすみません。弾き飛ばされて地面をゴロゴロと転がります。
それでも男の子は立ち上がります。叫び声をあげながら彼はロボットに立ち向かいます。その瞬間、横顔を捉える事が出来ました。なんと!一番最初に逢った、おにーさんではないですか!
おにーさんはロボットの攻撃を華麗にかわし、ぴょんぴょんと腕を伝って右肩に上ると、…どうやったのか分かりませんが右腕をもぎ取ってしまいました。同じ要領…なのでしょうか?瞬く間に左腕ももぎ取ります。
しかし、そこまでされて黙っているロボットではありませんでした。せめて一矢報いるとばかりにキャタピラーを全力で動かし爆走を図ります。
おにーさんはそれにも対処しました。一度距離を取って、そこから身体を激しく回転させてからの蹴り。その威力に堪らずロボットは足を止めたようです。
地面を舞う土煙。そこから飛び出したおにーさんは追撃の手を緩めません。そのままお星様が空に昇っていくように繰り出す拳がロボットの顔を殴り飛ばしました。
『終了~!!!』
試験官の『プレゼント・マイク』さんの声が聞こえます。良かった、助かったんだ~。
…あれ?様子がおかしいです。おにーさんが空中でジタバタしています…。まさかっ!
僕は再び“個性”を使いました。射程距離ギリギリ一杯で何とかキャッチするとゆっくり…ゆっくりと地面に降ろします。直ぐさまおにーさんの元に急ぎます。怪我をした足が凄くもどかしいです。
おにーさんはボロボロでした。破れた服からのぞき込む右腕や左足は青黒く打撲しており、それ以外にも全身が生傷だらけでした。
「おにーさんっ!?大丈夫ですかΣ(o'д'o)!!」
大丈夫な訳ありません。僕ならこんなに傷だらけになったら泣きじゃくることが確定的に明らかです。
「最初の僕ロリじゃないか…」
「ボクロリッ ((유∀유|||))ガーン!?」
なんと言うことでしょう。よりにもよっておにーさんは僕を「僕ロリ」と呼びました。なんて人です!僕だって好きでこんな身体してるんじゃ有りません!それに…。
「とりあえず助かった。最後の一撃で“個性”がコントロール出来なくなってたわ。多分あのままなら落ちて死んでたなコレ」
「死っ((((;゚Д゚)))) 何言ってるんですか!?おにーさん!なんでこんな無茶苦茶なことしたんですか٩(ŏ﹏ŏ、)۶!」
憤る僕を余所におにーさんは再び燃料を投下します。僕は問い詰めました。なんで助けに来たのか?なんでここまでボロボロになりながら戦ったのか?…なんでそんなに嬉しいそうなのか?
「『ヒーローは目の前に転がる不幸を無視できない
「目の前に転がる不幸…」
おにーさんの発言に僕は驚きました。おにーさんは、その理念のためにこんな無茶苦茶なことをしたと、のたまうのです。
「まぁ、気にすんな。単なる俺の自己満足だ。…それより」
「それより…(´・ω・`;)?」
「医者?…呼んでくれない?」
そう言い残すと突然、血を吐いて気絶してしまいました。いくら呼び掛けても反応はありません。
「ちょっ!? おにーさぁんっ(இдஇ; )!」
しっかりしてください!しっかりしてください!僕は必死に呼びかけます。
しかし、おにーさんの顔色は、傷口が熱を持った赤色とは対照的に、みるみるうちに青白くなっていきます。
「だれかっ! 誰か助けて下さいっ!
おにーさんが、おにーさんが死んでしまいますっ(;+⊿+;)!?」
僕は助けを呼びました。おかしいですよね?人を助けるはずのヒーロー志望が、今だけは他の人に必死に助けを求めています。
自分の事ながら情けない、悔しくて涙が止まりません。
「大丈夫!?しっかりしてっ!」
近くでスケさんの慌てる声が聞こえます。
「今医療班が来るから頑張って!」
「おいっ!こっちだって!早くしろっ!」
遠くでカクさんの怒鳴りつける声が聞こえます。
すぐに小さな救護用ロボットがやってきました。
ロボットは「アイノウ」と応えるとおにーさんを救護施設まで運んで行きました。
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「…ん?……ど…?…ちゃん?……ちょっと?聞いてる?黄昏ちゃん?」
「はぅあっΣ(๑0ω0๑) ちょっと!驚かさないで下さい!みーちゃんヾ(*`Д´*)ノ」
「ははは、ゴメンって」
「…にしても凄かったな、雄英の試験!まさかっ!市街地一つが丸々一つの会場だったじゃねぇか!しかも、それが何会場も!どんだけって感じだよ!」
「本当にそうだよね!アタシもびっくりしちゃったよ!オマケにあのロボットの数!?あの量が各会場に居たってことでしょ?想像出来ないよ~」
「だよな!だよな!しかも、あのロボット達強いのなんのって…」
「けど、切島なら正面からボコボコにしてやったんでしょ?」
「あったりめーよ!その方が漢らしいからな!」
「あははっ!いっつもそれだね、やっぱり切島らしいじゃん!」
「…(´•_•`)」
みーちゃんときーくんが実技試験の話で盛り上がります。仕方ない事です、もし凄い“個性”を持っていたとしても、法律によりその使用を禁止されています。それを「自由に使って良い」ともなれば、普段抑えているストレスを発散するように、乱用することにも頷けます。
現に試験が終了した後も熱は抜けず、会話に花を咲かせているのです。
しかし、僕の心は晴れません。最後の戦い。僕は、何も出来ませんでした。他の皆さんを守れない所か、一緒に戦ってくれたスケさん、カクさんにまで怪我を負わせてしまいました。考えるだけでも嫌になります。
「やっぱりどうかしたの?黄昏ちゃん」
「ん~(´×ω×`) 試験の時なんですけども…。僕、あの0p
「ええっ!」
「マジかよ!?大丈夫だったのかっ東雲!」
「ええ、僕は平気でした(´•_•`) 幸いにも他の受験者が助けてくれました…。でも、その人は身体がボロボロになるまで頑張って、頑張って…倒れてしまったんです( ;∀;)」
「…ん?ちょっと待て!っつーことはそいつはあのデカブツと戦ったのか?」
「…(´・ω・`;)? はい、そうですけど…」
「「ええぇぇぇっ!?」」
「嘘!?あんなのに立ち向かったって言うの?」
「はい、でも僕は何も出来なかったんです。あのロボットの暴挙を止めることも、他の人達を守ることも…(;_;) けど、あの人は…おにーさんは何度も立ち向かって、僕たちを助けてくれました」
「「…」」
「僕たちは同じくヒーローを目指す者でした。けど、あのロボットに挑んだのはおにーさんだけだったんです( ´;ω;` ) おにーさんは…おにーさんだけはそれこそ身をなげうつ覚悟だったんではないでしょうか?
僕は怖いのです。何も出来ないまま人が傷付くのが…何も…出来ない…のが?」
『ヒーローは目の前に転がる不幸を無視できない
あのおにーさんの言葉が蘇ってきました。
おにーさんは無茶苦茶な行動をしました。ヒーローを目指すおにーさんがあんなことをしたということは、そこに無視できない程の不幸が転がっていたから…それってつまり…。
僕と同じ?
確かに僕は何も出来ませんでした。けれど、何もしなかったわけではありません。
僕はあのままだと危ない目に遭う人が居ると思い行動しました。おにーさんは僕たちが危ない目に遭うと思ったから行動したのではないでしょうか?
違いがあるのは、結果を残したかどうか…。
「おい…どうしたんだ?東雲?」
「みーちゃん!きーくん!僕決めました(≧◇≦) 僕もっと強くなります!強くなって立派なヒーローになります!」
そうです。きっと選んでいる道は間違っていないんです!ただ、道半ばで未熟だから悔しい思いをするんです。
僕…『
みーちゃんときーくん…一体何者なんだ(すっとぼけ)