今回は2回目の登場!
『ことり、時々曇り。』などを書かれているグリッチさんです!そういえば最初の方はグリルチーズさんでしたね。byシベリア
言うことは特にないです。
後編、お楽しみください。
「ただいまーっと……ん?」
自分のコーラと、絵里に買ってきたカフェオレを持った彼は、ベンチに絵里がいないことに気が付く。
「絵里ー?どこに隠れてんだよー、こんな場所でかくれんぼだなんて中々やりますなぁ~」
彼が呼びかけても、返事はない。だがカバンは置いてある。
トイレにでも行ったのだろうかと考えたが、わざわざカバンを置いていく理由は?
あまりいい気はしなかったが、カバンをちらりと覗いたところ、財布は入っていた。要するに、貴重品を放置してこの場を去ったというわけだ。
――――――何故……?いくら絵里が抜けている部分があるとはいえ、こんな馬鹿な真似をするか?
そのときだった。彼の携帯電話が着信の合図を出した。
「誰からの着信……って、絵里か。……もしもしー?絵里今どこにいるの?」
聞こえたものは。
『香川ナオキで合っているな?』
ナオキの目つきが変わる。まったく聞き覚えのない男の声。
だが、彼は冷静に対処する。
「ああ、そうだが……誰だお前。なんで絵里の携帯をお前が持っている?」
問いへの、答えは。
『絢瀬絵里を誘拐した。香川ナオキ、お前に要求することは特に何もない。
ただ、一つだけ言っておいてやろう。
絢瀬絵里を殺害する。以上だ』
香川ナオキという男は、たとえどのような状況下でも絢瀬絵里を最優先する。
故に。前後の見境がなくなるほど怒るのは当然なことであった。
「テメェ………そんなことして何がしてぇんだよ!!絵里は今どこにいる!?」
『今は移動中だ。旧日立航空機立川工場変電所で、16時00分、定刻通り殺害する。では』
「あ、テメェおい!!………くそッ!切りやがった!!」
彼の眼差しは、底の見えない壺に広がる空洞かのように闇へ落ちた。不安が過る。
当たり前だ。一度は耐えられない怒りが心臓で唸ったとしても、すぐに行動できる人はそうそういないだろう。
だが。
香川ナオキは"普通"ではない。それはいい意味で、だ。
たとえ、一度は深い闇の空間へ閉じ込められたとしても、それさえをも自力で抉じ開ける。
( こんなところで何をしている……?道に迷った犬みたいに怯えてる場合じゃないだろうがッ!!
あのときのことを忘れちまったのかよ!?
裏切られて絶望して、虚無になったおれを救ったのは誰だ!
おれは誰に救われたんだ!!
絵里だろうが!!!自分の幼馴染み、彼女、婚約者、守らなければならない存在じゃねぇのかよッ!!!!
動けよ、香川ナオキ………このまま彼女が殺されて、いいわけがねぇことぐらいわかってんだろうがよォ!!!!!!)
己を鼓舞した少年は、すぐに行動を起こす。
全ては、絵里を救うため。彼は、電話帳からある人物を探し出し、コールをかける。
「もしもし、真姫か!?」
『そうだけど……なによ、そんなに焦って。私は勉強で忙し』
「んなこと言ってる場合じゃないんだよ!!絵里が誘拐されたんだ!!!」
『アンタ何言って……?は?』
「信じられねぇのはおれもだっての!協力してくれ!!
お前の家から、車を出してほしいんだ!!行先は旧日立航空機立川工場変電所、16:00までには行かなきゃならねぇ!!電車で行こうとしたが、それじゃ間に合わない!
急な願いで、無礼なことは百も承知だ………だが頼む!!」
真姫は状況を呑み込めずにいた。そりゃそうだ、なぜなら唐突に知り合いの男から電話がかかってきたと思えば、自分の彼女が誘拐されたとなど……わけがわからないにもほどがある。
そもそも、こっちの事情も考えてほしいものである。彼女は仮にも目指すは医学部、普段はスクールアイドルとしての活動で忙しい以上、一日中暇な休日はできるだけ勉強に時間をあてたいのだ。
それに。
(まったく、こっちの気も知らないで……)
『――…アンタ、今どこよ』
「へ?何て―――」
『車出すって言ってるのよ!!アンタの場所わからなきゃ迎えに行けないでしょ!?』
彼は僅かに笑いを浮かべ、そして続ける。
「……ありがとう、真姫。恩に着る。おれのいるところはこの前10人で行った遊園地だ」
『わかったわ。今すぐ向かう』
「サンキューな!」
電話を切り、視線は画面の時計へ。時間は14:43の3が、4にちょうど変わったところ。
(ったく、こんなときに4が重なるなんて……『死』でも連想してんのか)
憤懣を感じないではいられなかったが、そんなことをしている暇はない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
なぜ、私がこんな目に遭わなければならないの?
なぜ、私の日常がいとも容易く壊れていくの?
なぜ、私が逆恨みされなければいけないの?
手足を縛られ、冷たい床に座らさせられてから少しの時間が経った。現在の時刻はわからないが、いずれ
でも来てはダメ。さっきから、首を絞めるためのロープと、鋸を片手に持ったこの人の本当の目的は……ナオキ、あなたを殺すこと。
そんなことは許せない。私の好きで、大好きで、愛する人が目の前で殺されるところなんて見たくない。私はあなたを守りたい。
でも、今にも気が動転してしまいそうで、自分を抑えることで精一杯な私がそんなこと言う権利なんてない。最低な人間ね……私。何もできないくせに心だけは出しゃばって………
なら、いっそ私が死ねばいい。何もできずにあなたの死を見届けるくらいなら、私が死んであなたが生き延びた方がいいに決まってる!!
「なんだ、その眼は。オレに抗おうとでもしてるような眼じゃないか」
「……………して」
「は?」
「殺しなさいよッ!!それでナオキが救われるならそれでいい!!私を殺して!!」
「……ほう。そりゃあ面白いねぇ、いいだろう。どちらかが死んで、どちらかの心を壊せればオレには十分だからな」
―――ああ、これでいい。ナオキ、ごめんね。
あ……ふと目に入った指輪、『誓いの石』………無駄になっちゃったな………
「さあ、どんな殺し方にしようかなぁ?斬殺?絞殺?好きな方を選ばせてやるよ、クソ女」
「……どっちでもいいわ。さっさと殺しなさい」
「じゃあ………絞殺かなぁ!?」
男が私の首を絞めにかかろうとした瞬間だった。
「絵里ッ!!」
慣れつつあった暗闇に、光、そして音が刺さる。
「ナオキ………」
ダメ……来ちゃダメ……こっちに来たら、あなたが……!
「……やっと来たかよ、待ちくたびれたぜ。香川くん」
「そこの野郎さんよ。そこの金髪美人の左手の薬指を見てみろ。
そいつは、おれのあげた婚約指輪なんだわ。真ん中にある小さい石は『誓いの石』って言うんだよ。
この石の意味は『永遠の愛を君に誓う』、だ」
「はぁ?お前何が言いてぇんだよ。ゴチャゴチャしてるとテメェの彼女をぶっ殺すぜ?」
「こっちだよ、『はぁ?』って言いたいのは。
ここまで話してもわかんないみたいだから教えてあげるよ。
――――――
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「……お前、随分と勇ましいなぁ。自分の彼女を救いにきて、ヒーロー気取りかぁ?
はン、自己満足の塊もいいところだねぇ」
「なんとでも言えよ……絵里を返せよ。人を攫って、行動不可能な状態にしてから殺すとかいう狡いことをして、何が楽しい……?そんなこと、許されるとでも思ってるのかよ」
20m先に見える、癇癪で歪みを見せる彼の表情は、今までに絵里が見たことのなかった顔だった。
当然だ。自分の彼女が殺されようとするところを、目の前で見たのだから。
男は、彼の感情を汲んだ上でさらにそれを撫で下ろす。
「何がしたいってぇ?ははっ、君はオレのことを覚えてないみたいだから、教えてあげよう。
オレは君たち2人と同じ小学校、そして絢瀬さんとは中学時代まで一緒だった、
そして、中学3年の修学旅行で、オレは絢瀬さんに告白した。手紙でな。
そうしたらなんて返ってきたかわかるかぁ?君にはわからないよなぁ?ただ幼馴染みだったが故に絢瀬さんと近づけて、婚約とかいうクッサい約束まで結んじまってるお前にはなぁ!!
……ああ、肝心の返事の内容について述べてなかったねぇ。何も返ってこなかったんだよ、何も!オレが想いを綴った手紙を書いたのにも関わらず!!
お前が呑気に絢瀬さんとスクールアイドルをやってるときも、何度も何度も手紙を送ったのに、一度も返ってくることはなかった!!!
だからさぁ、ぶっ壊したくなったんだよぉ。絢瀬絵里の身近な存在で、失えば彼女の精神にもっとも異常をきたす人物―――それがお前なんだよ……
お前を殺して、何もかもボロボロにしてやろうと思ったんだよぉ!!!!!」
聞くだけで腹立たしい語りは、絵里に再び怒りを思い起こす。
しかし、自分に責任も感じる部分もあるわけである。自分がきちんと返事をしていれば、こうなることはなかったのかもしれない。
物事にifはない。だが、それでも後悔の念は湧いてくる。
そんな彼女を他所に。
下を向き、表情の見えないヒーローは、一つ溜息をつき、そして吐き捨てた。
「―――小物だな」
「あ?」
「返事が来なかった?お前はその状況を改善しようとしたのかよ。違うよな、何度も何度も同じことしかしてねぇじゃねぇか!!そして、自分は悪くないと勝手に思い込んで、絵里に責任を押し付けた。ストーカーまがいのことしておいて、相手にされないのは当然だろ!!
問題に対して回避的で、たかだか惚れた女から告白の答えがもらえないだけで、逆上して悲劇のヒロインを気取ってるだけだ、今も!!!
そして挙句の果てには自己満足のためにおれたちの日常にまで介入し、殺人まで犯そうとしている……自己満足の塊は、むしろお前のことじゃないのかよッ!!」
「生意気な口聞きやがって……オレの気持ちもわからないでさぁ!!」
「ナオキッ!!避けてッ!!!」
ナオキの言葉に激情を駆られた速見は、右手の鋸を握り絞め、彼目掛けて正面から斬り付けにかかる。
しかし、婚約者の叫び声を聞いてもなお、彼は動く気配を見せない。
(……避ける気がないのか?それなら好都合だ、まずは首を貰っていこうかァ!!)
が。
斬首の一撃は、目的に届くことなかった。
「こいつ、腕で止め………!?」
「お前の気持ちなんてわかるわけないだろうが……人の気持ちも考えたことのないやつの気持ちなんてわかるわけないだろうがッ!!」
ナオキは首の真横から来たギザギザと歯を立てているモノに、左腕を差し出した。
痛いわけがない。水が飛び散るように血が出ている。しかし、全ては思惑通り。
自分の攻撃が想定外の方法で止められたことに呆気を取られている瞬間を、彼は見逃さなかった。
「――――痛みを知れ、クソ野郎。速見馨、テメェの腐った神経を叩き直してやるよ」
負傷した左腕は動かないが、まだ右腕が残っている。
まだ鋸が刺さったままの左腕などお構いなしに、疾風の如く敏速にしゃがみ、奴の顎関節が外れるような一撃が炸裂する。
冷たい床が体を受け止める音が響き渡った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ああー……いってぇ、マジでめちゃくちゃいってぇ」
「止血しても止まらないくらいの傷だったんだから、すぐによくはならないわよ」
「あはは……真姫にも同じこと言われたよ」
「あそこで真姫がいてくれなかったら、針縫うだけじゃ済まなかったと思うわ」
「お前はどっか行ってろって言ったのになぁ……まったくあいつときたら」
あれから2日。まだ、西木野総合病院の一室の前には「香川ナオキ」と書かれた札があるままだった。
あのとき、真姫はナオキを自家用車で送った後、彼に「お前はここから離れろ」と言われその通りにはしたが、結局心配で戻ってきたのだ。で、そうしたら左腕から流血しているナオキを目撃して、現在に至る。
しかし、あえて自分から大怪我負って、それでも動じない姿を見せて相手の隙を作ろうとするなんて頭おかしい。もっと別の方法あっただろとツッコミを入れておく。
「……ナオキ、ごめんね。私のせいで、あんなことに……」
まだ、絵里の自責心は消えることはない。事件の後もずっと考えた。あの日の夜は寝ることすらできなかった。自分の一番大切な人を傷つけてしまった重みが心を蝕む。
だが、肝心の本人はそんなことを気にする様子も見せなかった。いや、見せないのではなく本当に気にしていないのだ。
「別に絵里が悪いなんて思ってないしなー。……まあ、こう言っても、おれにはどうにもできないかもしれない。だけど、自分で自分を痛めつけても楽しくはないんじゃないか?」
そう言うと、俯いている彼女の顔を強引に手繰り寄せ、ナオキは唇を合わせる。
「え……な、ナオキ……?」
「悪いことを忘れるおまじないだよ。絵里の暗い顔なんて、おれは見たくないからさ」
窓から射した日の光が、彼の優しく、朗らかな微笑みを照らす。
「……そうね!もう、自分がやってたことが馬鹿らしくなっちゃったじゃない」
――――真っ白な背景を背にした無邪気な笑顔は、彼らの日常の立ち戻りを意味しているようだった。
普段後書きを書かない人なので、ここも簡潔に。
閲覧ありがとうございました。いかがでしたでしょうか?
私の小説は、『主人公・ナオキ』を色濃く出せるような作品を目標にしていまして。後編は急展開だらけで駆け抜けた感じでしたが。
サブタイトルは今回は凄くつけるのが難しかったです。私はよく花の名前を使うのですが、今回は方向性を少し変えてみました。
主催者のシベリアさんには、このような企画を起ててくださったことに感謝しています。単純に楽しかったのと、『ラブライブ! ~1人の男の歩む道~』をさらに深く読み込むいい機会になりました。本当にありがとうございました。
それでは、私はこの辺で。残る作家さんはあと3人、乞うご期待ください!!