貧乳派団長とリンゴちゃん   作:やーなん

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ついにこの作品も目標にしていた100話目を迎えました。
話を書いて投稿して、と100度繰り返した訳です。これもひとえに読者の皆様のご愛読の賜物です。
これからも続けていく予定なので、どうかよろしくお願いします。




短編連作 イベント編その1

『王者の風格と小国の王』

 

 

 神蟲ナイドホグルの封印完了からおよそひと月。

 おおよその混乱は収束し、人々は前代未聞の事件を受け止めつつも日常を謳歌していた。

 

 その日常を守るべく奮闘していたプロテアも、ナイドホグルの戦後処理と報告に毎日元老院に詰めていた。

 

「ようやく、一段落しました……」

 ここ最近ずっと働き詰めのプロテアの表情には疲労の色が隠せない。

 ようやく元老院が彼女の働きを認めだしたと思えば、厄介ごとだったり面倒な仕事を押し付けだしたりしているのだから以前と大して変わらないようにも見える。

 しかし、彼女が以前と違うのは、彼女自身やりがいを感じていることだった。

 

 こうして元老院の仕事を本格的にやって見ると実感するのは、以前の自分ではどうにもできなかったということだった。

 声だけ大きいくせに仕事をこなす能力は無い、周囲の冷たい対応は当然だったのだと今のプロテアは前向きだった。

 

「おや、プロテアちゃんじゃない。相変わらず働き者ねぇ」

 と、元老院の廊下を歩いていると、ふとそんなふんわりとした声が聞こえた。

 彼女に声を掛けてきた人物を見て、プロテアは内心うっとなった。

 

 元老院内のサロンでくつろいでいる数人の議員の中にその人物は居た。

 それは穏やかな雰囲気の老女だった。

 

 しかし、プロテアは知っていた。

 その老女が穏健派筆頭であり、プロテアにも肯定的な人物だが、元老院の女狐の異名を欲しいままにしている長老に次ぐ大先輩であると。

 

「どうも、お世話になっています」

 なぜ穏健派なのに女狐呼ばわりなのか、プロテアは知らないし知りたくも無かった。

 だから失礼の無いように足を止めて一礼をした。

 

「毎日大変そうねぇ、まあ、若いうちは色々やってみるものよ」

「はい。ところで」

 どうせだから、プロテアは彼女に尋ねてみた。

 

「先輩方は私の活動に肯定的でおられますが、他の方々のように古くからのやり方を尊重すべきとはおっしゃられないのでしょうか」

 穏健派はプロテアの行動には肯定的で、彼女に対して何も言わないが、かといって協力的でもない。

 不気味なほどに。だから聞かずにはいられなかったのだ。

 

 プロテアがそう言うと、その老女はくすくすと笑みをこぼして周囲を見た。

 

「私たちも若い頃はあなたと同じだったのよ。

 あなたは下級貴族も議会に参加できるよう改革しようとしたのだったかしら?」

「やめてください、若気の至りです」

「あなたは既得権益がどうのこうの言ってヒドイ目にあってたわねぇ」

「……あの時、色々取り計らっていただいた御恩は忘れてませんよ」

 おかしそうにそんなことを言いながら周囲の穏健派の方々に目を向けると、彼らはばつの悪そうな表情をして目を逸らしはじめた。

 

「私も、もっとこの国を良くしようと色々やってみたわ」

「そう、だったんですか……」

 それはプロテアにしては意外な反応だった。

 元老院のやり方は全体を重視している為、権力の暴走を防ぎやすい反面、こういった新しいやり方を主張する少数派は肩身が狭い。

 彼女らもどちらかというと全体を優先する派閥なのだ。

 だからこそ、プロテアの新しい行動を肯定するのが不思議だったのだ。

 

「だけどねぇ、こうして歳を取ると、先人たちが守ってきた伝統だとかしきたりだとか、壊すのが怖くなっちゃうものなのよ」

 そう言った老女の言葉には、様々な感情が渦巻いているようにプロテアは見えた。

 

「だからねぇプロテアちゃん、やりたいことは若いうちにやっちゃうと良いわ。

 皆も元老院の評判が上がっているうちは若いからって許してくれるだろうし。

 でも決定的な失敗はしないようにしなさい。今後の発言力に響くわ」

「はい、肝に銘じます」

 先人の忠告に、プロテアは再び敬意を持って頭を下げた。

 

「まあ、あなたはパートナーがしっかりしているから大丈夫だとは思うけれど」

「あはは……」

 自分の政治活動を支えているある男のことを思い浮かべ、はにかんで頬を掻くプロテアだった。

 

「彼はしっかり捕まえておきなさい。

 何の為に私達が彼に貴族の地位を与えたのか、分かっているわよね?」

 やわらかだった視線が細まり、妙な重圧を掛けてくる。

 ああ、とプロテアは理解した。なんでこの人物が女狐なんて呼ばれているのか。

 

「そうそう、これだけは忘れないようにしなさい」

 最後に、狐のように目を細めた老女はこう言った。

 

「あなた以外の若い子は、今の元老院を旧態然としているなんて言うけど、あなたや彼女たちのやり方も百年もすれば旧態然としていると言われるようになるものに過ぎないのだとね」

 それを聞いて、プロテアはいつだか己にベタ惚れしている男が言った言葉を思い出した。

 元老院は脱皮を繰り返して永遠に生きる蛇のようだ、という言葉を。

 

 

 

「わたくしはロテアちゃんが羨ましいですわ」

 と言った内容の会話を、たまたま聞いていたらしいと話題にあげたのは、同じ花騎士にして元老院議員たるアグロステンマだった。

 同年代だけあって、彼女とプロテアには交流があった。

 不運と不幸が重なって元老院議員になったプロテアとは違い、彼女はその地位ゆえに議員になることが決まっていた。

 だから、プロテアの彼女に対する印象はいつも溜息を吐いていたり、退屈そうであった。

 

「わたくしは王族の一員ですから、誰にでも出来る仕事しか任せて貰えませんし。

 誰もわたくしに対して失敗してもいいから、なんて言いませんもの」

「それは、仕方がない事とは言え寂しいですね」

 これはプロテアの印象だが、元老院全体は国家に忠誠を誓っているが、王族に対してそれと同等の敬意を払っているようには見えなかった。

 勿論、暴君が誕生した際に、それを諌め、最悪退任させるのが元老院の重要な役目の一つであることを思えば仕方がないことなのだが。

 

 だが、それを抜きにしても元老院は自分たち同様に王族と言うブランドを守ろうとはしている。

 彼女に大きな事業を任せて失敗でもした日には、元老院と王家と言う二つの看板に傷が付く。

 そしてそんな仕事をさせたのは誰かと言う話になり、無駄な会議に時間を費やす。

 失敗をしても良い相手には面倒事を押し付け、失敗してはならない相手には簡単な仕事をさせる。なるほど、あえて無駄を増やさない賢者の知恵であると言えよう。

 

「わたくしも、ロテアちゃんのように祖国の為に奔走したいものです。

 忙しくても、大変でも、こうして腐っているよりはましですもの」

 そんな彼女の愚痴を聞きながら、プロテアも何とかしてあげられないだろうかと考えていた。

 彼女の悩みは決してプロテアにとって他人事ではなかった。

 

 しかし、どうすればいいのかとも思っていた。

 元老院を新しくしたいという気持ちは大事だが、それは別に昨今の若者たちが最初であったり革新的で偉大な改革者と言うわけではないのだ。

 もし自分たちが改革に成功しても、五十年後にはその成功が自分たちの守るべきモノになり、新たな改革を求める若者たちを煙たがるのだ。

 プロテアには、あの老女が未来の自分に見えてならないのだ。

 

 元老院は老いた巨木だが、巨木には違いない。

 若木が束になった所で、その存在感は薄れはしないのだ。

 そしてその老木を、心血を注いで維持しようとしている人たちの気持ちも、プロテアには分かる。

 

 そう言った二律背反に苛まれながらも、プロテアは提案した。

 

「もしかしたら、団長さんならいい知恵を貸してくれるかもしれません」

 自分たちとは全く違う視点を持つ男なら、彼女の悩みを解決できるのでは、と彼女は思った。

 

「ロテアちゃんの団長さまですの?」

「私もアグロステンマさんの閉塞感やもどかしさはよく分かりますから。

 あの人なら、何か面白い話を聞けるかもしれません」

「なるほど。わたくしも一度、ロテアちゃんが選んだ人物を見定めたいと思っておりましたの」

「私が選んだってのはちょっと違う様な……」

 プロテアはなぜ周りはこうも変に外堀を固めて来るのかよく分からなかった。

 

「ああ、でも、団長さんは今ブロッサムヒルの花見会場での一件で忙しいので今すぐ呼ぶのは難しいかもしれません」

「それにはおよびませんわ、ロテアちゃん」

 にこり、と笑い返すアグロステンマの真意を、この時プロテアは分からなかった。

 まさか護衛も付けずにお忍びで花見会場に行くなど、彼女には思いもしなかったのだから。

 

 

 

 §§§

 

 そしてその日、チューリップ団長は花見会場を盛り上げる為に外部から出店している売店などの管理をしていた。

 会場全体の警備などはナズナ団長やハナモモ団長に任せ、商人たちのルール違反が無いか見回りしていた。

 信用のある店を優先的にこういったイベントに出店させるよう取り計らったり、問題を起こした店をブラックリストに入れたりと、やってることは騎士団長と言うより商人の元締めそのものだったが。

 

「ふむふむ、アズキちゃんは実家の宣伝を兼ねて同僚たちにお菓子を配っている、と。

 お金取るようなら注意するけど、そうじゃないなら大目に見てあげて」

「分かりました」

 と言った風に、団長は行商などの個人販売もしっかり監視していた。

 

「あのー、チューリップ団長さまでいらっしゃいますか?」

 そんな彼の仕事を遠目に見ていたアグロステンマは、気を見計らって彼に声を掛けてみた。

 

「あなたは?」

「ええと、わたくしはロテアちゃんの同僚でして」

 と言いながら、彼女はプロテアからの紹介状を彼に渡した。

 紹介状の内容は、彼女も知っている。

 

 要するに、彼女の相談に乗ってほしいという内容だ。

 そして彼が委縮するだろうと言うことで、プロテアの同僚と言うことだけを書いて、王族であるということは書いていなかった。

 

「なるほど、それで相談と言うのは?」

「これはわたくしの友人の話なのですけれど」

 と言う前置きをしたのは、目の前に当人が居ると話しにくいかもしれないと言う配慮だった。

 まさかそれらの配慮がこれから起きる悲劇に繋がるとは誰も思わなかったのだった。

 

「王族で、元老院議員で、仕事が退屈で、ふさわしい仕事をさせてあげたい、と」

「はい、元老院の人間なのに簡単な仕事ばかり回されておられて、わたくしもどうにかしてあげられたら、と」

「なるほど」

 チューリップ団長は、すぐにこう返した。

 

「なら、河川の治水工事でもやらせれば良いんじゃないでしょうか?」

「治水工事ですか?」

 アグロステンマはオウム返しに問い返した。

 リリィウッドは湖上の町であり、いくつもの支流が各地に伸びている。

 その中には大雨の時に氾濫しやすい川も多く、歴代の王家を悩ませてきたのを彼女は知っていた。

 

「俺の故郷では、河川の氾濫は竜に例えられてきました。

 俺の故郷は地形の関係で川がよく氾濫する土地でしたので、それだけ河川の氾濫というのは恐れられてきたわけです。

 それを鎮めるのは権力者の義務であり、偉業でした。

 もしその王族の方が治水工事を成功させれば、その人に口を挟む人間は誰も居なくなるでしょう」

「ですが、それは」

「ええ、逆にそれが出来ない権力者は往々にして人々からの求心力を失ってきました。

 その方がどんな人物かは知りませんがね、失敗する覚悟が無いのなら出しゃばるなって言ってやったらどうです?」

 団長は黙り込んだアグロステンマの様子に気づかず、刺々しい言葉を口に出し始めた。

 

「王族を支持する貴族なんて幾らでも居るでしょうに。

 コネが有るならやり様なんて幾らでもある。その人が本当に有能ならね。

 そもそもコネでこの国で最も栄誉ある職業で就いておきながら、仕事が退屈だの人々の為になる仕事がしたいだのって、王族らしい傲慢で庶民をバカにした発想だと思いません?

 故郷で就職活動に難儀した身としては、仕事が有るのがどれだけ恵まれているのか言ってやりたいですね。

 誰でもできる仕事だぁ? その誰でもできる仕事をさせて貰えない人間がどれだけ居るのかって話ですよ。

 あなたもそんな下らない相談事を俺まで持ってくるなんて大変ですよね」

「ええ、まあ……」

 アグロステンマの表情は引きつっているが、つい数年前まで万年ボッチだった彼に他人の機微など理解できるはずもなく。

 

「その人、別に王位継承権の上位者じゃないんでしょう?

 だったら継承権を返上するなりして、元老院の人間としてしっかり活動するとかすればいいのに。

 話しによれば花騎士をやれるほど才能あるし時間もあるんでしょう?

 プロテアさんじゃないですけど、二足のわらじを履いて中途半端にどっちつかずの人間に誰が仕事を任せたいって思うんですか。

 信用が無いから、こいつはこれくらい難しい仕事は任せられないなってなるんですよ。

 プロテアさんがその信用を得る為にどれだけ苦労していたか、あなたも彼女の同僚なら知っているでしょう」

「……はい、私も彼女に対して何もできませんでしたから」

「だから元老院の人たちは花騎士の兼任を嫌がっているのに。

 仕事って言うのは、その王族がいう所の誰でもできる仕事を十年二十年続けて信頼を得るものですし。

 自分は特別な出自で才気ある人間だからそれにふさわしい仕事をするべきだって、その人は王族だからって仕事舐めてますよ。

 一番大事なのは任された仕事を最後までやり遂げることなのに。

 それを王族だからって不満をたらたらと、不満の無い理想の職場なんてこの世にどこにもあるはずないのに」

 この悲劇は、チューリップ団長がわざわざプロテアが紹介してきた同僚ということで、彼女がプロテアの理解者という勘違いの元に起きていた。

 だから彼はぺらぺらとこんな当人の人格や悩みなど無視した嫌味を垂れ流しているのである。

 そう、彼の中で勝手に「仕事を舐めてる王族」という想像を僅かな伝聞だけで作り上げていたのである。

 

「だから、一回河川の治水工事でもさせて、挫折でもさせてやれば良いんですよ。

 少なくとも、最後まで仕事をやり切る大事さぐらいは学べるでしょうし」

 団長は、挫折を知らないからそんな舐め腐ったことを言えるんだ、という結論で締めくくった。

 

「確かに、団長さまの仰る通りでしょうね……」

 辛辣すぎる物言いだったが、アグロステンマは真摯に受け止めていた。裏表のない評価は望むところだったのだから。

 挫折を知らないと言うのもそうであるし、仕事と言うものに理想を持っていたのも事実だった。

 元老院の仕事に嫌気が差して花騎士になったが、王族として育った彼女に戦いとは自分の腕を生かせる職場ではあったが決して不満の無い仕事ではなかった。

 他人から見れば生まれから育ちまで順風満帆な人生で、自分の仕事に不満が有るなんてふざけているのかと思われるのかもしれない。

 

「とても参考になりましたわ。後はわたくしの方で何とかしてみます」

「はい、あなたはこれからが大変でしょうが、頑張ってください」

 面倒な王族の相手を頑張って、というニュアンスの言葉にアグロステンマが苦笑していると。

 

「あのぉ、団長さん」

 恐る恐る、と言った様子で彼の部下が彼の背後から声を掛けてきた。

 

「どうしたの?」

「いえ、あの、本国から連絡が有りまして、元老院所属の王族の方がお忍びでこちらにいらすようでして、元老院から直々に護衛をと」

「うわぁ、噂をすれば影ってことかな。

 どうせだからプロテアさんに面倒掛けたそいつの顔を見ておくかな。

 で、いつ到着するの? もてなしの準備しないと」

「それが、もう到着していてもおかしくない、と。

 それから、伝令には容姿について詳細が有ったのですが」

 彼の部下は、ゆっくりとアグロステンマに目を向ける。

 

「恐らく、この方かと」

「えッ」

 団長の表情が凍りつく。

 

「元老院直々になんて、ゴンちゃん様からかしら。大げさですわよね」

 と、彼女は柔らかく微笑んだ。

 

 その直後だった。

 ばたん、と団長が真っ青な表情のまま真後ろに倒れたのは。

 

「きゃー!? 団長さま、団長さま!? 誰か、誰かいませんかー!!」

 あまりにも唐突に倒れたので悲鳴を上げるアグロステンマ。

 勿論周囲に人は沢山居たので、大騒ぎになったのだった。

 

 後日、リリィウッドでは公衆の面前で彼女に土下座をするチューリップ団長の姿が記事になったとかなんとか。

 

 

 

 

『リンゴ団長、発狂する』

 

 

「わわぁっと!?」

 ペポの飛び乗った船の残骸が脆くも崩れ去る。

 

「ペポさん、大丈夫!?」

「な、何とか……」

 かろうじてホーリーがペポを引っ張り上げたが、危うく海に落ちるところだった。

 

「おーい、そっちは大丈夫かー!!」

「うん、大丈夫ですよー!!」

「こっちのルートはダメだねー」

 別ルートから進んでいるチューベローズやホシクジャク、ナズナ団長が心配そうに声を掛けてきたが、ペポは大声で無事を告げた。

 しかし、ホーリーが言うようにこのルートは使え無さそうだった。

 

 

 五人が居るのは、船の墓場と呼ばれるコダイバナ周辺の海域だった。

 幽霊船騒ぎを聞きつけ、休暇であるのにスイギョク達海賊と共に調査に出た彼女らは嵐に見舞われ、海に投げ出されるとこんな危険地帯へと流れ着いていた。

 

 現在、落ち着ける場所を探して探索の最中だった。

 

「どうしたの? ちょっとボーっとしてたみたいだったけど」

 心配になったのか、ホーリーがペポに尋ねた。

 

「ええと、今日はナズナ団長さんたちだけじゃなく、私たちの部隊も休暇でもうそろそろ到着する頃だと思うんですけど」

 ペポは不安げにこう言った。

 

「団長さん、私のこと心配しておかしくなってないかなって。

 もし私が死んだって勘違いしたら、身投げしてもおかしくないですし」

「あんなやつ、身投げでも何でもすればいいのよ!!

 本当ならポインセチアをあいつに任せたくなかったし!!」

 と、ホーリーは憤慨しながらそうペポにそう述べた。

 

「仕方ありませんよ、任務の関係でしたし」

 今回ペポがナズナ団長側に居るのは、彼が任務で人手を求めたからだった。

 リンゴ団長側も、ポインセチアやナズナ団長の部下を拾ってから現地で合流する手筈になっていたのである。

 こういった人員の出張はどの騎士団では珍しいことではないのだ。

 

「あいつも、私が死んだって思ったらポインセチアに何するか分からないし、何とかして早く帰らないと!!」

「そうですね、ランタナちゃんや皆も心配してるでしょうし、早く戻りましょう」

 そんな感じで、二人にはまだまだ希望の灯が胸に燃え盛っていた。

 これから不思議な冒険をこの五人をするわけだが、それは諸兄の皆様も知る所である。

 

 

 

 §§§

 

 

 さて、我らがリンゴ団長はと言うと。

 

「うぼあああああああああああああああっぁぁぁぁぁぁ!!!」

 海に向かって跪き、泣き叫んでいた。

 

「べぼ~~~!! べっぼ~~~!!!」

 海に向かって嘆き悲しんでいた。

 

「いぐ~~、おれもすぐいぐ~~~!!」

 そして這いながら自ら海へと向かって行こうとしていた。

 

「団長さん、気持ちは分かりますけど落ち着いて!!」

「そうだぜ、まだ死んだと決まったわけじゃない!!」

 左右から団長とリンゴとスイギョクが押さえつける。

 

「はなぜ~、はなぜぇ~」

 顔から出せる体液を全部流しながらもがく団長を、しかし誰も笑うことはできなかった。

 

「一時間前はペポの水着を楽しみにしてたのに……」

「まさか遭難してるなんて……」

 いかに彼がペポに惚れ込んでいたか知っているランタナとサクラは痛ましい物を見るように団長を見ていた。

 皆で休暇に来ようと思ったら、好きな相手が海で遭難した。

 これぐらい取り乱しても当然の反応だった。

 

「それで」

 悲しみからか僅か瞼を下げていたクロユリが、話を進めようと口を開く。

 

「いつまでこの男をこうさせておくつもりだ?」

「クロユリ、流石にそれは……」

「それは、とはなんだ? 死神の鎌は人を選ぶとでも思っているのか?」

 そう言われて、サクラも表情を引き締めた。

 

 サクラとクロユリは未だ暴れる団長を岩場の影に引っ張り込んだ。

 そして、ぱしん、ぱしん、と言った全身に響くような音に皆が体を竦ませ、少しすると三人は戻ってきた。

 

「悪いな皆、見苦しい姿を見せた」

 頬を真っ赤に腫らした団長が、二人を引き連れ皆の前に姿を現した。

 

「サクラが来てから、長らく欠員が出ることが無かったから忘れていたよ。

 この悲しみは俺の友人だったと言うことにな。

 しばらく疎遠だったが、寂しくなって久々にやってきたようだ。

 思わぬ要因で死人が出るなど、よくあることだ」

 ふぅ、と彼は深いため息を吐いた。

 

「よくあることなんだ」

 そのよくあるに、一体何十人分の命の重みが籠っているのか、誰もわかり得ないのほど重かった。

 

「海難救助部隊の詰所が近くにあったな、連中に連絡は?」

「勿論、もうしてある。

 突然の嵐だったとはいえ、私の船の上での出来事は私の責任だ。

 捜索は私たちも手伝うぜ、リンゴの旦那。今、シーマニアたちに船のメンテを急ピッチでさせてる、それが終わり次第出発するさ」

 スイギョクも責任を感じているのか、いつもの明るさは鳴りを潜め団長にそう答えた。

 

「当てはあるのか?」

「あのあたりの海流からすれば、流されても船の墓場周辺の行きつく可能性が高い。

 生きてるならあのあたりにいるだろうさ」

「俺たちに出来ることは待つことだけか」

 団長の感じている歯痒さを、誰もが感じていた。

 

 

「団長さん、元気だして、ね?」

 海のことになると専門家に任せるほかなく、団長たちやナズナ団長の部下達も悶々とした時間を過ごす羽目になった。

 今更遊べる空気でもなく、多くが砂浜近くで体を休めていると、ポインセチアが陰気に項垂れて座っている団長の元にやってきて、よしよしと頭を撫でて慰めていた。

 

「みんなきっと生きてるよ、ホーリーちゃんも」

「ホーリー? ああ、あいつか」

 ぼんやりと虚空を眺めながら、団長は呟く。

 

「あいつはきっと、海の底だろう。

 このスプリングガーデンに害ある存在を取り除く魔法を発動させようとして後ろからぐさーってやられたに違いない」

「団長さん、大丈夫?」

 ついにそんな妄言を垂れ流すくらい参っている団長に、ポインセチアも心底心配そうな表情になった。

 

「団長さん、しっかりしてくださいよー」

「ごめんなさい、リンゴちゃん。俺、団長になれませんでした」

「ダメです、自分を見失ってる……」

 リンゴだってショックなのに、団長がこの調子では気が滅入る。

 

「仕方が有りません、今日の私は毒リンゴちゃんになりましょう!!

 ねぇねぇ団長さん団長さん、ちょっとお耳を拝借」

 ごにょごにょ、と団長の耳元でリンゴが何事かを囁いた。

 

「……」

 すると、団長はスッと立ち上がった。

 

「おい、お前ら、体動かすぞ、付き合え」

 そして剣を抜くと、部下たちに声を掛けて訓練を始めてしまった。

 

「ねぇリンゴちゃん、一体何を言ったの?」

「いやぁほら、もし生きてたら生命の危機に生存本能が高まったりするじゃないですか?

 もう助からないって思ったら、することはひとつなんじゃないかなぁって」

 すっかり団長の悪影響を受けてそんなことを言い出すリンゴちゃん。

 まさに男を戦いに追い立てる毒婦の所業、毒リンゴちゃんであった。

 

「それは流石にヒドイと思うなぁ。

 でも、団長さんが元気出たみたいだし、いっか!!」

 とりあえず陰気な様子から脱却できたようなので、ポインセチアは良しとするのだった。

 

 

「うおらぁ!! てめぇらそれでも花騎士かぁ!!

 もっと気合入れろ!! そんなんで害虫ぶっ殺せるのかぁ!!」

「おいおい旦那、待つのが苦痛なのは分かるがな、落ち着こうぜ」

 十数人連続で稽古を付け、女性陣がへとへとになる中で団長はまだまだ元気だった。

 見かねたスイギョクが諌めるくらいである。

 

「そうだ、流された連中の中にな、旦那の好きそうなオンナが居たぜ」

「なに? 本当か?」

「ああ、オンナっていうよりガキだったが」

 ロリに反応している当たり、ようやく団長も彼らしくなってきた。

 

「ガキ、ガキかぁ、小さいのは良い事だが、小さすぎるのもなぁ。

 こう、個人的には人差し指を曲げたくらいの下乳があるのが好みなんだが」

「そんなこと言って、こういうのも案外悪くないなぁとか言ってたくせに」

「何のことかな?」

 稽古でへばってたランタナがによによ笑いながらそう言った。

 

「これはこれで悪くないなぁって言ってたの誰かなぁ、ぷぷぷ」

「知らんな」

「普段ランタナに欲情しないとか言ってるくせに、何だかんだでいざとなったら思いっきりたのしんでたじゃん」

「俺じゃないですー、秘書が、補佐官がやりましたー!!」

「ええッ!? なんで私に飛び火するんです!?」

 悪徳政治家みたいなことを言いだした団長に、しかしリンゴはハッとなった。

 

「そうです、私がやりました!!」

「ええ!? なんでリンゴちゃんが庇うの!?」

「わかりませんか、ランタナちゃん。

 こうして既成事実を作ることにより、逆説的にリンゴちゃんはランタナちゃんに色々できるわけです」

「なんてこった、これが因果律の逆転、投げれば必ず当たる必中の槍か!?」

「それって何だかんだで外れそうですよね」

「よっしゃ、リンゴちゃん、このロリガキにオシオキしてやれ」

「合点承知です!!」

「ぎゃー!! 私に酷い事するつもりでしょ!! ペポみたいに!!」

 団長に羽交い絞めにされたランタナは、手をわきわきさせて近づいてくるリンゴちゃんに恐れをなしてじたばたし始めた。

 

「団長さん、調子取り戻したみたいで良かったです」

「あれが普段通りってのがひどいよなぁー」

 砂浜に座って稽古を見ていたプルメリアとエピデンドラムがそんなことを呟くのだった。

 

「うん? おい、あれを見ろ!!」

 そうして団長たちが文字通り乳繰り合っていると、スイギョクが海の方を指差した。

 それに釣られて、皆が彼女の指さす方を見た。

 

 そこには、船の残骸らしき物体にしがみついて流されてくる、遭難した五人の姿だった。

 全員気を失っているようだが、少なくとも生死に関わるような傷は見当たらなかった。

 

「おい、誰か毛布とか持って来い!!

 船から海に落ちた人間は溺死より体温を奪われて死ぬことが多い、体を温める物もだ!!」

 スイギョクがそんな風に指示を飛ばしながら、お湯などを持ってこさせた。

 そんな感じで的確な処置を施し、医術の心得のある者が命に別状はないと判断し、全員がホッと胸を撫で下ろすのだった。

 

 

「団長さん、なにやってるんですか?」

 そんなこんなで生還したペポ達五人は不思議なことにすぐに動けるくらいに回復したのだが、ペポは自分に惚れ込んでる団長が顔を見せなかったのを変に思い、周囲を探すと簡単に発見できた。

 

「おう、ペポ、災難だったな」

 なぜか団長は砂浜に横になっており、首から下が全部砂を掛けられ埋もれていた。

 これでは身動きできまい。

 

「本当なら熱い抱擁でもしてやりたいんだが、見ての通りでな」

「いやいや、何してるんです?」

「いやな、お前らの処置が終わるまで暇だったんで、せっかくだから遊んでたんだ」

 遭難した面々が無事だと分かった途端に遊び始める同僚たちに苦笑しながらも、心配かけてなんだか申し訳なくなるペポだった。

 

「心配かけてごめんなさい、団長さん」

「良いんだ、お前が生きていれば。それだけで俺は何もいらない」

 字面だけなら感動的なシーンだが、傍目から見れば首以外砂に埋もれている男に話しかけているペポというシュールな図だった。

 

「えーとこれくらいかなぁ」

 そこで、おもむろにランタナがやって来て、砂に埋もれている団長の股間辺りに砂を掛けて盛り上げると、棒状に砂を掻き分け始めた。

 

「ランタナちゃん、下品だよ」

「あれれー? ペポは団長棒で何を想像したのかなぁ?」

「想像も何もド直球じゃない」

 ペポが相変わらずなランタナの突飛な行動に呆れていると。

 

「なにしてるの、あんた」

「うん? なんだホーリーか。てっきり背中からざっくりされたりしてるもんだと」

「勝手に殺すな!!」

「安心しろ、俺はエア〇ス派だ。他の団長どもはティ〇ァ派ばかりで肩身が狭いけどな」

「知るか!!」

 そんな感じで旧知の二人はいつものように言い合いをしていたのだが。

 ふと、ホーリーがにやりと笑った。

 

「あ、おい、何するお前って、ぎゃーー!!」

 ホーリーは無言で団長棒を蹴り飛ばした。

 特に本体にダメージが有るわけではないのだが、精神的なダメージが団長に入った。

 

「ねぇねぇ、もう一回作って」

「あいあいさー!!」

 そうしてランタナな団長の股間に団長棒を作る。

 ホーリーが団長棒を蹴り飛ばす。

 

「やめろ、やめてくれー!!」

 そんな風に遊んでる三人を見て、ペポは何だか戻って来たんだと言う安心感でくすりと笑うのだった。

 

 

 

 さて、今回のオチ。

 

「おーい、ナズナ団長ー」

 一通り、部下たちに泣き付かれたナズナ団長は、唐突にリンゴ団長に声を掛けられ振り返った。

 

「スイカ割りやろうぜ、お前スイカな!!」

 彼は僅かな殺気を感じて、咄嗟に転がるようにして砂浜を転がった。

 顔を上げると、リンゴ団長が楽しそうに笑いながら木刀を振り下ろしていた。

 それを避けられたのは、ナズナ団長が既に歴戦の団長だったからだろう。

 

「流石に避けるか、まあいい、ほれ」

 彼はもう一本持っていた木刀を彼の前に放った。

 

 これは何の真似なのかと、ナズナ団長は木刀を拾いながら問うた。

 

「いやな、遭難したりすると生存本能が刺激されて、子孫を残そうって思うらしいじゃないか。

 別に疑ってるわけじゃないんだがな? お前が万が一ペポに手を出してたって思うとな、何と言うか物凄く興奮するんだな、これは」

 それはどちらかと言うと、彼の難儀な性癖によるものではなく、怒りとかそっち方面の興奮だった。

 

「まあ、そう言うわけだ。

 喰らえ、原作ブレイクスラッシュ!!」

 殺す気だ、とナズナ団長は彼の木刀による一撃を受け止めながらそう確信した。

 

「俺が気が済むまで付き合えやおらぁああああ!!」

 こうして、謂れのないとばっちりを受けるナズナ団長だった。

 周囲は男同士の真剣勝負に湧きあがっていたが、主にペポはリンゴ団長の行動に呆れていたという。

 

 そんな感じで、彼らは残りの休暇を楽しんだのだった。

 男二人は全身痣だらけで帰る羽目になったが。

 

 

 

 




ついに七夕リンゴちゃん開花が来ましたね!!
開花キャラクエのリンゴちゃん滅茶苦茶可愛くてによによしました。
早速団長がマルメロさんを使いこなしてて草生えました。リンゴちゃんの最後の台詞の「そうだ」が特に可愛かったです。
いかにここのリンゴちゃんが団長の悪影響を受けてるか分かるってもんですねww

今回の監獄島イベ、予告でイベント名が来た時には、あッ(察し ってなりましたよ。
メインストーリーの最後も気になる感じでしたし、春庭に地下世界が有るって展開でも驚きませんよ、作者は。
そう言えば100と言えば副団長百人まで選べるようになり、団長名も改名できるようになったとか。
私、リンゴ団長に改名したほうがよろしいでしょうかねww
うちの副団長は勿論、ランタナ、虹ランタナ、ペポ、水着ペポ、七夕リンゴちゃんです。


それと、重要なお知らせ。
来月から更新速度が今までより落ちると思います。
今まで時間が余っていたフリーター生活の合間の執筆でしたが、この度ちゃんとした地元の企業で試験雇用みたいなのが決まりました。
2週間ほど働いて、やる気が有るなら正式に就職させてもらえるそうです。
それだけキツイ仕事なのですが、今どきちゃんとした職を持っていた方がいいので、私も覚悟を決めた次第です。
そう言うわけで、来月からの更新は今まで以上に不定期になるでしょう。

ですがそういう時期に百話という節目を迎えられたのは良い事だったと思います。
これからもちょくちょく執筆し、更新できたらと考える次第であります。

それでは、長くなりましたが今後ともよろしくお願いします!!
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