今回は以前消化不良になったあの話をいい機会なのでバッサリとやってみます。
そして、最後は二次創作でしかできない冒険をしてみます。
『麗しの刃の君 第二幕ダイジェスト版』
これは去年の九月ぐらいの話である。
「来年一月、毎年恒例花騎士総選挙がウィンターローズで始まることが決まったんだけれど」
団長たちの会議の席で、催しごと担当のチューリップ団長が切り出した。
「ふーん、今年はどんな祭りに乗っかるんだ?
つうかどうせアネモネちゃんは入賞するんだろ? もうあの子殿堂入りさせとけばいいんじゃないの?
入賞した時の衣装の数だけアクアシャドウが出てきても驚かんぞ俺は」
「たしか、精華祭だとか」
「うん? ……ああ、あのくそつまんない祭りか!!
ドマイナーすぎるから一瞬俺も何の祭りか思い出せなかったわ」
祖国の祭りだと言うのにリンゴ団長の言いぐさはまさに他人事だった。
「それって一体どんなお祭りなんですか?」
「祭りって言うより小規模のコミュニティ単位の行事レベルで、俺が祭りって認識できないくらいだぜ。
騎士学校の文化祭を思い浮かべてみ。それで大体あってる」
「はぁ……本当にマイナーなんですね」
詳細を尋ねたハナモモ団長も、それを聞いてわざわざそれを盛り立てる理由が分からなくなった。
「じゃあ、なぜそんなお祭りをいつもの人気投票に絡めようと?」
「女王陛下の発案だそうだ。俺にも協力を願うお手紙を頂いたんだ」
「またあの女王様の思いつきか」
疑問を口にしたハナモモ団長に答えたチューリップ団長の言葉を聞き、リンゴ団長は呆れ顔になった。
「ノイちゃんめ、相変わらずあの方を甘やかしてやがるのか。
もういっそ、ナイドホグルを引っ張り出して観光名所にしちまった方が我が祖国も盛り上がるんじゃなかろうか。
時期も少しずらせばナイドホグル再封印記念のお祭りとでも出来るだろうに」
辛辣な態度を隠そうとしないリンゴ団長を、まあまあ、とナズナ団長が宥めた。
「青き花は極寒の地に咲く希望の象徴。
それはその地を表し、神秘の輝きとなるのだろう」
「あの方のあの行動力が魅力だって言いたいのか?」
「左様」
キンギョソウ団長の言葉に、理解できん、と彼は肩を竦めた。
「はいはい脱線脱線。話を戻そうね。
いつも通りもっとも華やかな花騎士を決めようって主旨なんだけれどさ」
話しの内容が逸れ始めた面々を軌道修正しつつ、チューリップ団長が話を続ける。
「それで、うちの騎士団も出し物をしてほしいって言われてさ。
それが『お姫さま』をテーマにした短いお芝居を幾つかと……」
そして彼は非常に言いにくそうにこう続けた。
「去年、ロータスレイクの開国した時にやったあれ、やってほしいんだって」
それを聞いた四人の団長たちは、いずれも「はぁ?」という表情になった。
「祭りの趣旨に合わぬではないか、あれは悲劇だぞ。
それも飛びきりにぶっ飛んだ内容だぞ」
キンギョソウ団長も目を見開いて信じられないとでも言うように首を振った。
「あれ、内容が酷……凄くて午後の第二幕目を一回目しか上演させてもらえなかったじゃないですか。
その上、賛否両論で国の偉い人からお叱りを受けたって聞きましたよ」
「そりゃあお姫様は出るぜ? だが台本を見たキンギョソウちゃんに、「団長さん大丈夫? 頭の中に寄生型害虫とか居ない?」って真顔で心配されたぞ」
ハナモモ団長や脚本を書いた本人であるリンゴ団長さえも困惑気味だった。
ナズナ団長も、あれは擁護できない、と腕を組んでいた。
「だからそこは内容を若干マイルドにして、公序良俗に則った講演にしてくださいってことで」
「俺たちに拒否権は?」
「自国の女王様のお願いですよ? リンゴ団長」
当のチューリップ団長が諦念の境地におり、がくり、とリンゴ団長は項垂れるのだった。
§§§
「あたし、もう一度あのお芝居するの嫌ですわ」
「まあまあ、そんなこと言わずにね?」
ハナモモ団長は、自身の補佐官に強く言えなかった。
それはもう、彼女の演じる役はヒドイのだ。役そのものにリンゴ団長の悪意を感じるほどに。
「カルセオラリアさんが脚本を手直ししてくれてさ、大分マイルドになったから」
と言って彼は改訂版の脚本を渡した。
ハナモモはそれを受け取ると、後半の自分の演じる姫役が出てくるページまで捲った。
「…………確かに、お姫様の最期がだいぶ変更されてますわね。
ですけど、これじゃあその後の場面からの主人公の印象もがらりと変わるのではありません?」
「でもまあリンゴ団長もこのアレンジを了承しているし。
それにほら、ウィンターローズは悲劇のお話も有り触れてるし、皆もハナモモちゃんの役柄に感銘して票を入れてくれるかもだし!!」
「それってただの同情じゃありませんの!?
それで人気を得るのは嫌ですわ!!」
「リンゴ団長からも、あの役をやるのはハナモモちゃん以外考えられないって太鼓判押されているからさ、ね?」
「それはちっともあたしのこと褒めてませんわよね!?」
そのように説得を続けるハナモモ団長は、以前ロータスレイクでのお芝居を思い返していた。
『麗しの刃の君』と題されたお芝居の第一幕目はこうだ。
主人公たる無頼漢の傭兵崩れは騎士を夢見ていたが、町で住人達を脅かしながら過ごしていた。
ある日、彼は麗しい流浪の女剣士の太刀筋に魅了され、彼女の従者となって付き従い、盗賊を退治したり悪い貴族の悪事を暴いたりした。
その結果、二人は騎士として召し抱えられようとなったが、女剣士はそれを断り、男もそれに倣おうとした。
夢にまで見た騎士の地位より男は彼女に付き従うことを選んだ。
しかし、「するべきことがあるから」と彼女は男を突き放す。
そして「いつか自分にふさわしい人間になれたらまた会える」と言い残し、男はそれに応えると誓い、二人は別れた。
勿論、決して再会など有り得ないと、女剣士は分かっていたのだった。
――――ああ、どうしてああなった、と悲惨な結末をナレーターが匂わせ、第一幕目は幕を閉じる。
ここまでは王道の騎士物語だった。
と言うか、第二幕目まで全体を通して王道を決して外していなかった。
そもそも第一幕目は起承転結の“起”でしかない。
この物語が王道を外れるのは、――狂気を帯びるのは、“転”からだった。
『麗しの刃の君』の第二幕目。
物語は第一幕目の十年後から始まる。
騎士となった男はかつて自分が悪事を暴いた貴族の後釜の有能な貴族の右腕となり、代官として任されるまでとなった。
町の人たちは第一幕目とは一転して彼を称え、彼の栄達と改心を喜んでいた。
見事立身出世を果たした彼だったが、彼の心の内は暗澹としていた。
ただ彼女に会いたい、そう独白する騎士を演じるリンゴ団長はなかなかに堂に入っていた。
もう何もかも放り出して探しに行けばいいのに、とランタナ扮する悪魔が彼の耳元でささやく。
それはダメだ、俺は待つと決めたのだ!! と男は内なる誘惑と恐怖を振り払う。
彼女との再会の約束が果たされることは無いと、心の底では分かっていたからだ。
場面は変わる。
すっかり清廉な騎士の代官として通るようになった一途な彼だったが、全く女っ気が無いわけでは無かった。
彼は領主に連れられ、ちょくちょくと王城で開かれるパーティに招かれる。
そこで彼を待ち受けているのは、ハナモモが演じるお姫さまだった。
男は彼女を苦笑しながら笑顔で出迎える彼女に跪く。
ここから、男とこのお姫様の交流が主眼に置かれ語られる。
男と姫との出会いは五年前、初めて領主にパーティに連れられた時だった。
男はテラスで一人寂しく佇んでいる彼女に声を掛け、それから二人の交流が始まる。
見た目相応で無垢で無邪気で可愛らしいお姫さまの言動は主人公だけでなく観客たちも顔がほころんでいたのをハナモモ団長は覚えている。
場面はまた変わる。
領主と、王様の会話だ。
十年前に終わった隣国との戦争が再開されそうになったこと。
王様は隣国は世界花の加護が有り、我が国との豊かさや戦力差は歴然であると語る。
そして戦争を防ぐために、王様はお姫様を隣国との政略結婚に利用することを決めたというのだ。
領主は小さなころから知っている可憐な姫さまの笑顔が曇るのを悟り、嘆くのだった。
一方その頃、姫さまは男と二人きりで会っていた。
浮かない表情の姫に、その男は尋ねる。
彼女の口から語られる、政略結婚の話。
それに驚きつつも、婚礼を祝う言葉を礼儀で口にする男。
姫はそれに悲しみ、男にこの城から連れ出すように願った。
男はその要請に更に驚き、そんなことはできない、と慌てて拒否した。
そしてあなたが居なくなればこの国は戦火に包まれると、説得するのだが。
「そう、ならばわたくしは独りでもこの城を出ます。
明日の夜、秘密の抜け道からこの城から抜け出しますわ。
止めるにしろ、一緒に来てくれるにしろ、この事をあなたに伝えておきます」
と、姫は決意を男に示すのだった。
男は悩み苦しんだ。
姫と一緒に行けば、彼は約束を破ることになる。
彼女を見逃せば、この国は戦火に包まれなくなってしまう。
だがいつも一人ぼっちだった姫に情が移っていたのも本当だった。
姫さまへの忠義とかつての約束の間に揺れ動きながら、答えを出せずままに翌日の約束の時を迎える。
男は良心のままに、かつて教えて貰った秘密の抜け道の出口で姫を待ち受け、なんとか城へ戻るように説得をした。
その姿に姫は悲しみ、悲嘆に暮れた彼女は己がずっと城で政略結婚の為の道具として冷たく扱われていたのか、男の優しさに救われてたのかを語る。
貴方を愛しているのに、と姫は口にする。
私には心に決めた人が居る、と男は彼女の淡く幼い恋心を否定した。
貴方が好きになる人とは一体どんな人なのだろうか、と問う姫に男は答えた。
本名も、素性も、出自も知らない、しかしその美しい刃の冴えだけは昔の記憶が薄れつつある中で鮮明である、と。
その答えに、姫は淡く笑ってこう言った。
わたくしが貴方の代わりにその女性を探してあげましょう、と。
驚く男に、彼女はこう続ける。
「これから先、隣国に嫁いだ後も、あなたの心を奪うその女を探しましょう。
そして必ず見つけ出して、わたくしの目の前で殺して差し上げるわ」
彼女の瞳には、憎悪と狂気の色が宿っていた。
呆然とする男に、いつの間にか背後に寄りかかっていた悪魔が背中を押した。
男は湧き出た名前の無い感情を発露させ、お姫様を感情のままに斬り殺してしまうのだ。
これがハナモモが嫌がるお姫様役の末路である。
突発的な衝動で姫を斬り殺してしまった男は、自身の行いを嘆き、顔を伏せって嘆き悲しむ。
その嘆きの声が、徐々に狂気を帯びた哄笑に変わる様子は、まさに見る者全ての背筋が凍るようだった。
リンゴ団長の怪演というか、いつも通りというか、そんな名場面を終えた後の彼の演じる男の行動は狂気に満ちていた。
姫の死を嘆く王様に、自らの犯行を明るみにさせずに言いくるめ、隣国と戦う先鋒として抜擢される。
隣国との戦争が始まり、先鋒を任され戦力を得た彼はしかし真正面から戦わず、奇策を用いて隣国の王都に侵入。
城を制圧して、王族や貴族を皆殺しにし、血まみれの玉座に座り、こう言った。
今日からこの国の王は俺だ、と。
それから一か月経過し、故郷の軍勢と隣国の諸侯たちに包囲された男の占領した王都では、彼の部下たちがどうやって降伏するか話し合っていた。
ここで問題のシーン。リンゴ団長の頭のおかしいところ。
「お前たち、この国はどうしてこんなにも豊かで、戦争をしてでも奪い返したいと思っているのか分かるか?
簡単だ、世界花が有るからだよ。俺の国で反旗を翻すバカどもと、祖国のアホどもに伝えろ。
さっさと包囲を解かないと、この大いなる世界花を叩き斬って燃やしてやる、とな」
まさに神も恐れぬ悪魔の所業に、リンゴ団長のイカレた発想に、彼の部下たちは震えあがった。
そしてこのシーンにリリィウッドの世界花を描いたパネルを使用したのがお偉い方にお叱りを貰った理由だった。
そして最終局面。
男の檄文に、戦々恐々となる包囲軍たち。
彼が支配する王都の人々は恐怖に震えあがり、子供は泣き出す。ついでに観客の子供たちも泣き出す。
そんな王都に、颯爽と現れるクロユリの姿を最後に、お芝居は最後の場面に移る。
男は玉座の中で、報告を受ける。
さる遠方から世界花に選ばれし王家の巫女が現れたというのだ。
そしてその巫女が、真正面から城に侵入し圧倒的な強さでここに迫っている、と伝令が話す。
それを聞いた男はただ一言、「大いなる世界花よ、感謝します」と。
その直後、玉座の前にクロユリが演じる十年後の女剣士が現れる。
「ああ、ようやく会えた」
その台詞を最後に、男は女剣士の更なる冴えを見せる一刀の元に切り伏せられ、絶命する。
クロユリはたった一言のセリフも無く、一番良いところで魅せる役目だった。
と言うか彼女に演技とか無理そうだからこうした、とリンゴ団長は語っていた。
こうして舞台は幕を閉じる。
お芝居の内容は賛否両論。
世界花を雑に扱うなとか、子供に見せるものじゃない、とか。
人間の醜さと愚かさや悪意がよく表現できている、とキンギョソウ団長とかの一部の人間は評価されていた。
むしろ、この後リンゴ団長が書かされた女剣士の視点の脚本の方がクロユリが演じる必要がなかったので評価は良かった。と言うかスウィートウィリアムが演じて結構人気になった。
そうして来年のウィンターローズでの公演に関してカルセオラリアに相談したところ、実はすでに彼女がアレンジした改訂版というかマイルド版というのがリンゴ団長の了承の元に出来上がって結構前から上演されているらしかった。
元々のシナリオは王道を踏まえていたので、こちらは普通に人気になったらしい。
なお、それを知ったリンゴ団長は不服そうだった。
そしてマイルド版では、最大の変更点としてお姫さまは主人公に斬り殺されるのではなく、己の行く末を嘆いた末の自殺に変わっていた。
ハナモモが言ったのは、このあと主人公が王様を丸め込んで戦力を引き出すシーンの彼の印象ががらりと変わるという所だった。
姫を殺した狂気に満ちたサイコパスじみた主人公の行動が、親愛なる姫君を目の前で失いおかしくなった悲劇の男に変わっていた。
ついでにお姫様の嫉妬に満ちた発言もカットされるので、清廉で可憐なイメージのまま死ぬ。
どうすれば大衆受けするか知り尽くしているカルセオラリアらしい改変だった。
問題の世界花も架空のモノを使用したり、そもそもの問題発言を世界花から別のものに置き換えたり、と全体的に主人公の狂気度合も抑えられていた。
「だからって、結局死ぬのには変わりありませんわよね!!」
「まあまあ」
これを説得するのは大変そうだなぁ、と団長は思いながら苦笑するのだった。
『宣戦布告』
「さて、まずはどう攻める?」
リリィウッドの森の中、大きなキノコをテーブルのように使い、その上に地図を敷きリンゴ団長は問うた。
「我なら、ここから攻める」
「ここは……警備が厳重じゃないか?」
「その代り、戦力の流入口としては申し分ない。戦力の補充も容易だ」
キンギョソウ団長が地図の一か所を示し、答えた。
「なるほど。だが真正面から戦うのが戦いではないぞ」
「では水中に戦力を隠しましょうよ。
水中からここしばらく敵は攻めて来てないんで盲点でしょうし」
「ほう、それは面白いな。どこを突けば効果的か考えておこうぜ」
チューリップ団長の進言に、リンゴ団長はにやりと笑う。
「あのう、方針が決まったのならさっさと攻め込みましょうよ」
そう述べたのはハナモモ団長だった。
「まだだ、まずは誰が最初に行くのか決める」
「然り、順番は大事だ。堂々と名乗りを上げ、敵と相対するのが貴族の戦いだ」
「俺はその辺はノーコメントで」
非合理的なことを言う先輩二人にチューリップ団長は苦笑した。
「あのぉ、全員で行くってのはいけないんですか?」
団長たちの話を見守っていたナズナが顔を顰めてそう言った。
「ハナモモ団長でよかろう、血気盛んなようだし、小手調べぐらい勤めてもらおうぞ」
「そうだな、その後はノリで行く感じで。
じゃあ次、名乗り口上な」
団長たちはナズナを無視して話を進める。
当然ナズナは怒りを示そうとしたが。
「あのー、僕が先鋒って決まったのならさっさと行かせてもらいますよ」
「おう、なんなら俺たちも付いてってやろうか?」
「遠慮しておきますよ、僕は皆さんと違って“まとも”なので」
ハナモモ団長はそう吐き捨てると、一人その場を去って行った。
「その一番“まとも”なのが一番若い奴ってのは皮肉なのかねぇ」
「それは、侮辱ですか?」
横目でナズナに睨まれ、まさか、とリンゴ団長は肩を竦める。
「人選を間違えたんじゃないかってことじゃない?」
にやにや、とチューリップ団長は意地悪そうにそう言った。
「であるな。花騎士たちも個性は強いが、我らもそれにもまして我が強い!!」
キンギョソウ団長が手を叩いて笑う。
ばちゃん、とナズナがキノコテーブルに腕を振りおろし、その笑い声も止まる。
「とにかく、私が監視役である以上、勝手な真似はさせませんからね!!」
「分かってるよ、仕事ぐらいはちゃんと果たすさ。なあ?」
リンゴ団長が残りの団長たちに話を振ると、二人は静かに頷いた。
「まあ、俺みたいに出来損ないで良ければ」
「我も自分がどこまでできるか試してみたくはあるしな」
それを聞いて、ナズナはため息を吐いた。
「さて、それじゃあ“まとも”君のかませっぷりを見に行こうじゃないか」
そしてリンゴ団長がいやらしく笑う。
彼らが去った後には、水たまりだけが残っていた。
§§§
その日、リリィウッドは害虫襲来の報が全ての花騎士の部隊に響き渡った。
害虫が出現したのは、エダ商業地区の害虫被害により封鎖された街道からだった。
この封鎖された街道は害虫が出現を警戒されている場所であり、警備はそれなりに厳重だったが駐在の花騎士たちが悲鳴を上げるような量の害虫が現れたと言うのだ。
「大変なことになってるなぁ、商業地区の周辺の住民の皆さんは退避してもらわなきゃ」
ハナモモ団長もいい加減慣れたもので、衛兵たちと協力体制を敷いて住民を避難させていく。
「おい団長!! 害虫だ!! あっちに害虫が出たぞ!!」
「ええッ、そっちは市街地じゃなか!?」
知り合いの衛兵に呼ばれ、彼は驚愕した。
いつの間にか、害虫たちは懐近くまで入り込んでいた。
しかもピンポイントに警備が薄いところを狙って。
「とにかく、僕の部隊を割いて付けるので案内お願いします!!」
「すまん、恩に着る!!」
衛兵は花騎士を数名連れて、対処に向かって行った。
「おいおい、不味いぞ、どういうわけかこっちの警備状況を分かってやがるみたいに的確に害虫がきやがる」
団長とも気心が知れた衛兵長が悪態づく。
「指揮官型でしょうか。旧街道の大戦力は陽動の可能性が」
「だったら、そいつを前線に伝えてくれ。後は任せろ」
「はい!!」
団長は衛兵長に後を任せ、ハナモモと共に前線の指揮所に向かった。
「団長さん、危ないですわ!!」
「えッ」
物陰から飛び出してきた小型害虫を、ハナモモは瞬時に対処した。
「こんなところまで害虫が入り込んでる……急がなきゃ!!」
彼女に感謝する暇も無いくらい、事態は急を要していた。
「た、大変です!!」
ハナモモ団長は転がり込む様に架設された指揮所に入り込んだ。
中にはやはりと言うべきか、貴族系のこの国の団長たちがむっつりとした表情のまま顔を突き合わせていた。
そして、いつもこういう時は居るはずのキンギョソウ団長が居なかった。
「市街地に害虫がッ」
「拘束しろ」
しかし、貴族団長の一人がそう指示すると、周囲に控えていた花騎士たちが申し訳なさそうに武器を突き付けた。
「ちょっと!! これはどういうことですの!!」
「知らないのか? まあ今は極秘情報だ、無理はない」
いきなり武器を突き付けられ、抗議するハナモモの声はしかし誰にも聞き届けられなかった。
「至急、城に連絡を入れろ。ロータスレイクの例のモノを取ってこさせろ」
「了解です!!」
貴族団長たちの指示に、伝令役がすっ飛んで行く。
「あの、せめて事情を説明してくれませんか?」
若くとももう結構な場数を踏んでいるハナモモ団長は、彼らに冷静に問うた。
「すぐに分かるし、話も聞いてやる。バブルロータスの中でな」
「バブルロータス?」
なぜそんなものが必要なのかと、彼が首を傾げた時だった。
彼の疑問は貴族団長たちの意図しない方法で解消された。
「大変です、防衛線を突破されました!!
害虫たちがもう目の前に!!」
指揮所に駆け込んで危機を伝える花騎士の言葉が全員に届いた直後だった。
ずがん、と指揮所の屋根が吹き飛んだ。
屋根だけでなく、急造の壁やテーブルなども余さず吹っ飛ぶ。
団長たちは花騎士たちが庇った為なんとか無傷だった。
「おやおや、まさかこんなところで出会うとはね。
お前のことだからもっと奥の方で引きこもってるものだと思ったんだけど」
指揮所を吹き飛ばした大型害虫は、なんと言葉を発したのだ。
しかし、それを驚いているのはハナモモ団長と彼の補佐官だけだった。
そして、カマキリ型の大型害虫の巨体の影から、ゆっくりと顔を出す者がいた。
その姿は。
「ぼ、僕!?」
「団長さん!?」
そう、ハナモモ団長の瓜二つだった。
その体が水のように透き通っていることを除けば。
「あ、アクアシャドウ!?」
「そう驚くことじゃないだろ?
水影の騎士なんだから、花騎士限定って思う方が固定観念に囚われているんだ」
偽ハナモモ団長は悪意に満ちた笑みを浮かべた。
「固定観念うんぬんより、騎士団長をアクアシャドウにする利点が無い、つまり!!」
「害虫の支配に特化した個体だ!!」
よりにもよって本物の偽物の登場に、ハナモモ団長の拘束は解かれる。
そう指示した貴族団長たちに、目の前の敵がどういう存在なのか彼は教えられた。
「そうさ。ねえもう一人の僕、どっちの指揮が優れているか勝負しようよ」
くすくす、と本物が浮かべたことが無いような邪悪な笑みで偽ハナモモ団長は言った。
「どうしよう、偽物が僕だけなんて絶対に有り得ない……。
偽物のリンゴ団長とかが来たらとんでもないことになる……」
「聞けよ!! 一人じゃ何もできないくせに」
目の前の自分の偽物に全く意識が行ってないことに偽団長は憤るが、すぐに彼は気を取り直して鼻を鳴らす。
「まあどうせすぐに僕から目を離せなくなるよ。
全部、全部全部、メチャクチャにしてやるからさ!!」
偽団長が乗る大型害虫が叫び声をあげる。
ある意味、ここ数十年でリリィウッド最大の危機が訪れようとしていた。
団長たちのアクアシャドウとか、二次創作でしかできないことですよね。
最近はマンネリ気味だったので、久しぶりにこんな変化球を投じたくなる作者でした。
お芝居の第二幕は前々からこんな感じで内容は変わってないです。
ダイジェストでこれだけ掛かるので、通してやったら前後編まで行きそうです。私にお芝居を表現する技量が無かったとはいえ、これはこれで正解な気がします。
ちゃんとした奴をご所望だったひとは御免ね!!
それではまた、次回。『勇者の末裔+α VS 偽団長軍団』をお待ちください!!